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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

稼働率~独立採算のための命綱


▼ 展示場は季節商品

展示場の経営にとって“稼働率”は、きわめて重要な要素である。
主催者団体からは、「稼働率のことばかり言わないで、少しは新しい展示会を育てることを考えたらどうか」とよく言われる。 しかし、東京ビッグサイトは「独立採算」が課せられているから、どうしても稼働率を高めなくてはならない。

展示場にも稼働しない曜日がある。基本的には土曜と日曜は稼働しない。ビジネスマン相手の商売だからだ。
月・火で準備をし、水木金の3日間開催する。そして、金曜日の深夜までには更地に戻る。それが一般的な展示会のサイクルだ。
そうなると、稼働率は7分の5(準備期間を含む)、これだけで71%に落ちる。

展示場にシーズンというものがある。
晴海で言うならば、1月は正月なので上中旬は動かない。3月末から4月上旬は年度替わりなので動かない。 5月の上旬は連休があって、子ども向けのイベントでも入らないかぎり動かない。 7月下旬から9月上旬までは、夏で暑いし、夏休みやお盆時期なので動かない。 12月は師走なんで動かない。以上、足し上げると約4か月は動かないことになる。
これを先の計算に加えると、稼働率は47%まで落ちる。これをどこまで上げるかが営業力だ。
ちなみに、一般的には展示会場の稼働率は70%が限界と言われている。

閑散期の8月とか12月とかに開催してくれるコミックマーケットなどは、たいへんありがたいお客様ということになる。
すでに40年近い歴史があるコミケだが、かつては幕張に移ったことがある。 ところが、「教育上よろしくない」といったクレームがついて、急遽中止を余儀なくされた。そのピンチを晴海の見本市会場が救った。 有明に移った後もずっと東京ビッグサイトで開催されている。
ちなみに、東京ビッグサイトを全館利用するとホール10館の利用料金だけで、1日3,300万円、3日間で1億円。年2回で2億円。これだけの売上を千葉県は失ったことになる。
コミケはコスプレばかりが有名になっているが、主体となっているのは同人誌という自主制作の漫画本を売りに来る人たちだ。 完全に統制が取れていて、私には、年2回巡礼に来る修道僧のように見える。
恐ろしいほど指揮命令が行き届いているので、「ゆりかもめは混むから、りんかい線を使え」と指示がでると、皆、りんかい線でやってくる。 開業当時、りんかい線関係者は「コミックの方に足を向けて寝られない」と感激していた。
同じように、年末になると会員向けの即売会などが入る。これは展示会のスケジュール表には出てこない。だが貴重な存在だ。

▼ 独立採算のレシピ

話を当時に戻すが、独立採算を実現させるために、私たちは次のような計算をした。
まず、稼働率を想定する。
そして、その稼働率に対応する費用を積算する。もちろんオープン前だから不確定要素は多いし、算入漏れもあり得る。
光熱水費はもとより、警備費用もかかる。メンテナンス費用も織り込む。 技術スタッフは、ありとあらゆる可能性を必死に掘り起こした。
費用がはじき出されると、これを捻出するために必要な最低限の売上高が決まる。
その稼働率と売上高から、展示場の貸出単価を逆算する。
平米単価×ホール面積×稼働率=費用
同じ計算を、稼働率を変えて行う。そんなことを繰り返して、稼働率ごとの採算を想定していく。
また、貸出単価が上下したら、どのくらい収支に影響するかなども、計算していく。

その結果、私たちは東京ビッグサイトが独立採算になる最低水準の稼働率を、取りあえずのターゲットとして「55%」に置いた (実のところ、あれこれ想定外の費用がかかるので、もう少し高くないといけないと思うが・・・)。

▼ 腹の探り合いが続く中、大問題発生!

主催者団体は、貸出料金をちょっとでも安くしてほしい。当たり前だ。
当然、両者の腹の探り合いになる。
実際に開業してみて稼働率がどのレベルになるのか、どちらにもわからない。
稼働率が想定より低ければ、主催者側は「使ってやるから料金を下げろ」と言ってくる。
稼働率が想定より高ければ、会場側は「何だったら幕張を予約してやってもいいんだぜ」と強気になる。
そういう世界なんだ、展示場というのは。

展示場の料金は平米単価で示される。1日あたり1㎡あたりの貸出単価を決め、それにホールの面積を掛けると1ホールあたりの料金になる。
1996年時点での料金だと、晴海は314円/㎡(晴海は館ごとに金額が違った。その平均)、幕張メッセ319円/㎡、パシフィコ横浜327円/㎡となっていた (「東京ビッグサイト5年のあゆみ」による)
主催者も、これだけの施設だから晴海より高くなることを覚悟している。だが、ちょっとでも安くしたい。真剣なやり取りで火花が散っていた。

そんな中で突然のアクシデントが起こった。「世界都市博中止」である。
当然、主催者団体は勢いづく。「ウソつきな東京都に譲歩させろ」

最悪のタイミングだ・・・。



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