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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

自腹のパソコンで過労死を回避


▼ 「たらずまい」はダメ

急な前倒し開業で、予定の稼働率が大きく下がる見込みとなった。
当然、本来入るべき収入が入らない。
都庁に援助を求めたが、「本来入るべき収入が入らなかったことに対する補助はできない」と拒否された。
こういう補助金を“足らず前補助”といい、東京都としては認めない方針だという。

先般、「徳島の阿波踊りを開催してきた観光協会が赤字で破綻した」というニュースがあったが、どうも「赤字が出れば地元が補償する」という補助が続いてきていたらしい。 それが、止められた。団体の体質はゆるいままだから、急には事業を縮小できない。当然、破綻する。
東京都はそういう損害賠償的な補助金は認めない。賢明である。
だけど、なぜそうなったのか、よく考えてほしい。原因は東京都にある。 なのに、外郭団体に対しては、責任をとろうとか、謝ろうとかもしなかった。 「やぁ、困りましたねぇ」と他人事のように言ったり、「青島知事がやったこと」と責任回避したりするのが、役人の常道だ。

▼ 使えなくなった新品ビデオ

さて、都市博が無くなってしまって急遽前倒し開業。当然のことながら、「展示場」としての広告を打たなければならない。
しかし、その経費がなかった。「どうせ世界都市博でバンバンPRされるから、PR経費なんか必要ないでしょ」というノリで、削られてしまっていた。

実は、建設工事に入る前に作った、東京国際展示場のPRビデオがあった。当時だからVHSのテープである。
建物がまだ影も形もない頃なので、CGで編集された。これに、外国人のエキストラを合成し、4カ国語(日、英、仏、中だったと思う)のナレーションがついていた。
当時のCGはものすご~く高い。(株)キャドセンターという会社が臨海部の地域のデータを持っているということで、そこに委託した。 1億5千万円もしたが、それでも「格安」だと言われた。
開業直前になると、現実に東京ビッグサイトが立ち上がり、そろそろ実写版のビデオも欲しい、という話になった。
空撮も入れたから、数百万はかかったと思う。 ところが、このビデオ、「東京ビッグサイトは世界都市博のメイン会場になります」と、胸を張って宣伝していた。しかも、4カ国語で。 だから、都市博中止で、全部使えなくなった。
「ナレーションだけ入れ替えて、作り直そうか」という話もあったが、この頃になると多忙で、それより前にやることがたくさんあったのでそのままとなってしまった。
都の予算で作ったビデオなので損害額には計上されていないが、都市博中止はそういうところにも見えないダメージを与えていた。
都市博のテーマソングを歌う新人歌手もデビューして、テレビCMも始まっていたが、その後、どうなったことだろうか・・・。

▼ うれしいけど、それでは死ぬ~

ともかくも、予算を流してもらわなければ、始まらない。
私たちは、東京都にかけ合って、PR用経費の追加をお願いした。都としても、そういう名目ならば何とかしよう、ということになった。
そして、あれこれまとめて、追加予算5億円が来た。うわぁ!
東京都からの補助金の取りまとめをしていたのは私である。
前年は2億円規模だった。
「PR用ボールペン1本100円、〇ダース注文」というのを足し上げて、2億円にする。毎晩、残業だった。
その頃は交通手段はゆりかもめしかない。しかも、走る本数が少なかった。
夕食を抜いて働き、9時45分国際展示場発新橋行きに乗ると、自宅のある阿佐ヶ谷に着くのは11時前になる。それから焼き鳥屋に入って鳥雑炊を食べる。そんな毎日だった。
「とり盛」という名のこの店は、阿佐ヶ谷から離れた今でも、行きつけになっている。

自分たちで要求していることだし、ありがたいことだが、急に予算が2倍以上になった。
「これは死ぬな」と思った。
2億円のときは、ワープロ(オアシス)の「カルク」という計算機能を使って、毎日、計算していた。しかし、遅い。
時間がかかってしょうがないので、秋葉原に行きパソコンを買った。100万円、自腹。でも、過労死するよりは100万円の方が安い。
しかし、このパソコン、Windows3.1で95に上がる直前のマシンだったが、ダメダメだった。 秋葉原の店員は、「これくらいのレベルなら、95に上げても大丈夫ですよ」と言った。でも、95にしたら、ソフトが急に重くなって使えない。
私が困り果てていると、技術スタッフのところに出入りしていたウチダエスコ(株)の技術屋さんが直してくれた。 私物なんで、ホントはそんなこと頼んではいけないのだが、背に腹はかえられない。 「神様のような会社」だと感謝した。
そんなだったので、このマシンには余計なソフトをインストールせず、ロータス123のみを使った。使い方を覚えている暇もなかったし。
仕事のために自腹100万は痛い。が、残業代もそこそこ出たし、給料を使っている時間すらなかったので、何とかなった。

▼ 平日役人、週末スパイ

このパソコンで稼働率計算も行った。
都市博中止で稼働率が下がる。だから、都庁が心配してしょっちゅう「今どんなだ」と聞いてくる。
ところが、予約状況は営業担当が握っていて、私たち都庁からの派遣組は警戒されているので、見せてもらえない。
しかし、最新の情報がどこに保管されているかは、知っていた。
だから私は、毎週土日に出勤して、その資料を盗み見した。そして、最新の稼働率を算出した。
ただし、予約状況といっても、「確定したもの」「予約段階だがほぼ固まっているもの」「引き合いがあるが保留中のもの」など、いろいろである。
この3種類をパソコンに入力し、確定、ほぼ確実、最大これくらい、の3種類の稼働率を計算し、「絶対確実な数字だけ」を都庁に報告した。 私も、都庁の人間を信じていなかった。あまり安心させると、良くない。
「だいぶ上がりましたが、採算まではもう一歩です」と報告を入れたときには、すでに採算見込みの55%を越えていた。

都庁がさかんに稼働率を気にしてくる理由は私にもわかる。「都市博中止の逆風はあったものの、予定の稼働率を達成した」というプレス発表がしたいからだ。
現場にいる私たちは、営業担当が、日々地道な努力を重ねて、その結果としてようやく実績が上がっていることを知っている。 そのために、西新宿が汗一つ流していないことも知っているのだ。
だから、そうそう簡単に達成したなんで、現場としては言ってほしくない。

▼ コマーシャルはハリウッド製

追加予算は5億円も付いたが、とても使い切れるものではない。 ともかくも、予算のあてができてからは、もう、パンフレットなどもどんどん印刷した。前倒し開業のために、何から何まで時間が足りない。
主催者団体も急いでいた。 そこで、見本市協会の事務所に主催者のトラックを待たせておいて、協会に納品に来た印刷屋のトラックから、主催者のトラックに直接パンフレットの束を載せ替えたりした。
ずいぶんな校正ミスもあったけど、修正なんかやってられなかった(青海が青梅になっていたりして・・・(^_^;))。

PRをテレビスポットに流すという話も出た。
東京ビッグサイトの象徴は会議棟だ。「ピラミッドを逆さにしたような」と形容された。 そこでコマーシャルフィルムは、エジプトのピラミッドがドーンと打ち上がって、地面に着地すると東京ビッグサイトになっている、という作品に決まった。
放送枠は、ビジネスマンがよく視聴する時間帯ということで、朝出勤前と夜11時頃、そして土曜と日曜。この時間帯を「ロの字」と呼ぶことを初めて知った。
そして、CGによるコマーシャルフィルムは、広告代理店を通してハリウッドで制作された。
「日本の会社に作らせれば、もっと安くできますよ」と言ってきた業者もいたが、その段取りを行うだけの時間もなかった。
また、これとは別に実写で会場を紹介するコマーシャルも作った。

ちからワザの連続だったな。連続出勤は100日を越えた。どう見ても労働基準法違反だ。


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