理想の展示場を作ろう
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用心すべきこと

展示場の開設準備担当の経験から、同じ担当を経験するかもしれない方々へ、注意しなければならないことを、申し添えておきましょう。

建物の構造上の問題点は、設計会社も建築会社も教えてくれない

今、あなたが管理しようとしている建物に、設計上の問題点があるとしましょう。

それは、どうしても補修しなくてはならないというほどのものではないかもしれません。

しかし多くの場合、建物が立ち上がった後に、関係者から指摘された場合には、それはあなたの責任で改修させられることになります。

こういった欠陥を、建設サイドは気が付いていなかったのかと問えば、たいがい「それは、見方の問題です」とか「何重にもチェックしました」とか「施主からも了解を得てやったことです」とかいう回答しかきません。

ですが、設計業者を、無責任だと非難するのは、いささか酷です。

もし、設計業者が途中でそれに気づき、「ここのところは直しましょう」といったなら、設計ミスを自ら認めたということになります。当然、改修のための費用は、業者持ちになります。
もし、問題点の指摘が運営側からだったとするならば、費用負担をどちらが分担するかについては、交渉すべき課題となります。

だから、こういった改修部位は、費用発生が最小限ですむうちに、運営側で指摘しなければならないのです。

例えば、今回の理想の展示場では、ホールを俯瞰できる位置に通路を造りましたが、ここから何か落ちるとたいへん危険です。
手すりの足元に隙間があって、道具が転がり落ちないか、確認しましょう。

人が乗り出したとき、胸のポケットから携帯電話が落ちるかもしれません。
防護ネットは用意されているでしょうか?

アトリウムに段差などがある場合、ここにつまずいてケガをする人が出るかもしれません。

ガラス面には、「ここにガラスがあるぞ」と主張するためにシール等を貼る必要があります。

非常通路のドアは、パニック状況の人でもすぐ開けられるような仕組みになっているでしょうか。非常口のサインは、よく見える位置に設置されていますか。

などなど、運営側がよくチェックしなければならない部分です。

ビッグサイトの場合に大きな手戻り工事となったのは、会議棟屋上の取り扱いでした。
設計では、屋上は危険なので、来場者は出られないようになっていました。
しかし、視察の際に屋上に上がって、私たちは、その景観のすばらしさに心打たれました。
このため、会議棟屋上は、風のないとき(風速10m以下)には、一般の来場者にも開放しています。
そのために、手すり等を設け、警備も立てました。
ずいぶん費用が余分に生じたことになります。

でも、屋上に上がって、「東京都海外」と宣伝されたお台場の景色を、ガラス越しでなく(しかもタダで)堪能している人たちの笑顔を見るにつけ、私たちは、決して無駄な費用を使ったのではないと、実感しています。


利害のからむ業者の親切に乗ってはいけない

大きな建設物の開設準備はめちゃくちゃ忙しいです。

というのも、決めなくてはならないことが山ほどあるにもかかわらず、自分たちは必要とされる知識を十分持ち合わせていないからです。

そんなとき、業者の方は、「手弁当でお手伝いさせてください」といってきます。

ほんとうは、涙が出るほど、ありがたい言葉なんですよね。
でも、冷たく断らなければなりません。

備品類の取扱業者に、備品管理業務を手伝ってもらったのでは、購入予定価格など、バレてしまいます。

でも、思わず助けを求めたくなってしまうのですよ。

当局のみなさん、お願いです。大きな箱ものの開設準備のためには、十分な数の要員をつけてください。

そのほか、業者の方々からの甘いお誘いもたくさんあります。
後々になって、どうのこうのといわれないよう、毅然とした対処が必要です。


飛び込みの売り込みが多すぎて、仕事にならない

「お話だけでも、聞いて下さい」といって、飛び込みで売り込みに来る業者もたくさんいます。
さすがに、顔も見せずに追い返すのでは気が引けます。

しかし、ほんとうに数が多いんですよね。
対応していては、とても仕事になりません。でも、「10分でいいですから」と懇願されると、思わず30分くらい対応してしまう場合が多いです。

できるだけ早いうちに、お帰りいただくよう努力しましょう。
1回でも対応すれば、さっしの悪いセールスマンはまた来ます。「私は業者決定に何ら関与できません」と説明しても、「それでもいいですから、是非、お話を」といいます。

でも、契約業者が決まるまで毎日のように熱心にセールスに来ていた業者でも、選に漏れたあとで「残念でしたが、またお願いします」とあいさつに来る会社は、まれです。

結果が出ると、あっさりしたものなんです。
業者があなたを口説くのは、あなたの顔が福沢諭吉に見えている間だけです。


見学がとても、とても、とても多い

これについては、もう話すことさえ、したくありません。

私たちは、見学案内のために、人を雇ってしのぎました。それでも、だんだんと、こなしきれなくなってしまいます。

さすがに、VIPクラスになると、当方で対応せざるをえません。でも、それで2〜3時間は仕事ができません。日に2件もあれば、もう、その日の昼間はほとんど事務ができないということです。

にもかかわらす、処理しなければならない仕事は山ほどあります。

そのうち、縁もゆかりもない観光会社から、次から次へと電話がかかってくるようになりました。
私たちが見学者の案内をしている姿を見られているからです。
偉い人の見学だからしかたがないかと思って対応すると、どうも陰で、観光会社があおっている雰囲気もあります。
ひどい観光会社は、アポなしで会場駐車場に乗り付けてきました。要注意です。

あまりにも見学希望者が多いので、私たちは基準を設けました。
(1)実際に会場を利用してもらえそうな団体だったら、営業担当が案内する。
(2)絶対に断れないようなVIPだったら、二つ返事でOKする。
(3)それ以外は、とにかく断る。

だんだんと私の仕事は、開設準備から、見学対応へ、さらに見学おことわり窓口へと変遷するはめとなりました。ほんとうにいいのかなと思われるような人も、取りあえずは断りました。一人受ければ、次には、その人の名前を使って、案内を求めてくるからです。

でも、冷たく断った方々の中にも、将来の顧客が含まれていたかもしれないと思うと、気がとがめます。


コマーシャルの撮影でやりたい放題

日本の公共施設は、映画の撮影などに協力的でないと、よくいわれます。
私もかねてから、それではいけないと思っていました。

ともかく、少しでも建物がどこかに露出すれば、それだけPRになるのですから、撮影に使われたくないとはじめから思っている運営担当はいません。
実際、ゴジラに破壊されたときは、「ようやっとこれで日本を代表する建設物になるな」と思い、うれしかったです。

でも、その他もろもろの撮影隊の行動は、ひどすぎます。
あれでは、原則的には断ろうという気持ちになって、無理ありません。

撮影側が、施設を貸してもらいたいときには、たいがいの場合、最初に口説き落としの名人がやってきます。

実にうまいです。
ご迷惑をかけません、私が付いています、クレジットを流します、「撮影場所:東京ビッグサイト」と入れます、1日分の撮影を、何回も放送の中で使います、などなど。

ところが、実際の撮影となると、監督は別の人です。
この人は、はっきりいって芸術家であり、感性の人です。
あれを取りたい、といったら、たちまちそこが撮影会場です。

ガラスのテーブルの上にモデルを立たせたり、エスカレーター上を逆に走らせたり、芸術作品の上に登ったりしてグラビアとるくらい朝飯前です。
また、きちっとした撮影隊でないと、スタッフも、その辺の挙動不審団体と変わりません。そんな人たちがわがもの顔で会場を歩き回ります。実際、警備員に捕まった例もありました。

そして、最初に撮影許可を求めてきた人は、監督には頭が上がりません。ただひたすら、あやまりまくります。そうすると、こっちもしょうがないかな、という気分になります。

実にうまいです。
そして、その映像を見たとき、「誰があんなことを許可した」と怒鳴られるのは、こちらです。
しかも、クレジットなしで、会場もどこだかわからないようにカットされてしまいます。単なる場所貸しです。ひどいです。

もう二度と貸してやらないぞ、と決心してはじめて、もう二度と使わない撮影スタッフだということに気づきます。
映画の撮影隊は、あちこちで断られているので、それなりに神経を使います。しかし、テレビやCMのスタッフは、一回こっきりの寄せ集めメンバーです。

そんなことがあると、今度は心配で、撮影の最中、ずっと会場側関係者が同行するようになります。
朝から晩まで・・・、仕事になりません。

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