本格的な商業・サービス業向け補助金を作る  

最後は、やはり人間性だと思います。

/私が考えた対応策〜(l)企業家精神を確認するための最終審査
とは言いまして、社会貢献事業・経営力向上事業の最後の面談審査には、大きな意味があります。
確認する必要があるのは、
一つ目は、誰かに騙されて、または、うまくおだてられて補助金申請してはいないか、です。
二つ目は、補助対象事業を行うだけの体力が会社にはないのに、切羽詰まって補助金にすがっていないか、です。

私はかつて、労働相談の窓口で、たくさんの人たちの話を聞き、人の感情には次の2つの傾向があることに気づきました。
(1) 人は、自分が信じたいと思うことを、信じようとする傾向がある。
(2) 人は、大きな不安を抱えているとき、それを小さな不安で紛らわそうとする傾向がある。

この感情の偏りが、重要な経営判断を誤らせるのかもしれない、ということです。
つまり、この補助金に採択されさえすれば、
(1) 会社は大きく成長するはずだ。
(2) 行き詰まった経営危機を打開できるはずだ。
そういう思いで補助事業に向かっているとすれば、進むべき道を誤る危険があります。
わずかな補助金をもらって、長い時間かけて事業をやっても、そうそううまくいくはずはありません。
補助金はあくまでも、「企業経営を別角度から検討する機会を与える誘因」にしか過ぎないのです。
そのくらいの気持ちで、チャレンジすることが肝要かと思います。

そこで次に、面接審査の質問項目を説明します。

(面接審査 審査員の皆さまへ)
以下の項目について、申請者からの説明事項になかった場合、質問するようにしてください。

(1) なぜ、この事業をやろうと思ったか(通常は申請者の説明の中で触れられているはず)
(2) この補助金について、誰かから教えてもらったのか。どこで知ったのか。
(3) 多くの支援事業がある中で、どうして今回の補助金に応募したのか。別の補助金の利用などは考えなかったのか。
(4) 応募に先だって、誰かに相談したか、専門家派遣などを活用したか。あるいは公的な相談窓口に相談に行ったか。
(5) 事業に必要な許認可関係について知っているか(該当する場合)。
(6) 採択されなかった場合でも、事業は実施するのか。


解説します。

(1)事業開始理由について、明確な答がない場合

不採択です。そもそも基本的な経営哲学がないようでは、事業は成功しません。
「お金がもらえるから」という回答なので明確に答えないとすれば、どこかで「割返し(通常より高額で外部委託をし、何らかの形で経費が環流する循環取引)」などの不正が組み込まれている可能性があります。補助事業に採択されても、自己負担は発生します。

(2)補助金を知った経路について、明確な答がない場合

「誰かが持ちかけている可能性がある」かもしれません。「こんな補助金があるから、申請してみるといいよ・・・」ってな具合に。
それ自体は、悪いことではありません。支援団体の相談員が情報を提供していることもあります。
ですが、市井には、こういった補助金申請書を代筆することを生業にしているコンサルタントが少なからずいます。そういう輩は、申請企業の経営云々には、まったく興味がありません。「合格したら、〇〇万円の報酬が来る」という約束で、手助けしているだけです。ですが、そういう人たちほど「どのように書いたら行政側の評価が高まるか」ということを熟知しています。だから、見ばえのいい申請書に仕上がるということは、否定しません。
「〇〇で、地域興しをします」「〇〇で、困っている人たちを援助します」という説明に、審査員は反論できません。しかし、採択されてしまった後になって、申請企業は代筆代を請求され、そして、補助事業に伴う自己負担もします。
私たちは、申請企業の経営向上のために補助金を出しています。代筆屋さんのために補助金を出しているのではありません。

(3)本補助金を選んだ理由について、明確な答がない場合

相手かまわず補助金申請する「補助金ゲッター」である可能性があります。
それぞれの補助金には、それなりの目的があり、個性を持っています。「どこでもいいから通ればいい」ってノリで応募しているとすれば、申請者がそういうやり方で企業経営の舵取りをしている可能性があります。
補助金だけなら問題は生じませんが、経営全般をそんな調子でやっているとすれば、企業の先行きは暗いです。

(4)事前相談の有無について、明確な答がない場合

(2)(3)と同じ可能性があります。「もう、たくさん補助金をもらっているので、勘所は心得ています」というような補助金活用ベテランの企業であれば、今回はご遠慮いただいていいと思います。たぶん、その申請書類はかなり出来のいいものだと思います。
落とせるのは面接審査の審査員の心情だけです。

(5)許認可について、明確な答がない場合

事業実施を再考してもらいます。もう一度事業構築から始めるべきです。「やってみたら、意外と大変だったので中止する」という事例は、少なくありません。
また、補助金の経済的恩恵ではなく、「公的機関に認めてもらった」ということからくる“社会的信用”をゲットしたくて、応募してくる企業もいます。それ自体は悪くはありませんが、こういう企業は、得てして許認可面で弱点を抱えていたりします。あるいは、営業方法に多少強引なところがあるかもしれません。世に言う「ブラック企業」なのかもしれません。
そういう会社でないことを、よくよく確かめなくてはいけないと思います。

(6)不採択の場合の事業実施については、

ほとんどに企業が「やります」と答えます。
「補助金がもらえないようなら、あきらめます」という申請者に出会ったなら、「そういうことになった場合は、もう少し、内容を詰めて、もう一度チャレンジしてみてください」と、力づけてやってください。
申請者はかなり経済的に逼迫していると想定できます。そういう状況の企業に、補助金申請させるのは危険すぎます。
しかし、志まで否定したくはありません。

昨今は、やたらと「補助事業」が増えて、「申し込まなけりゃソン」という風潮が広がってしまいました。
そして、若い経営者の中には、申請のテクニックばかりに走る人もいるように思われます。

たとえば、同じ人が複数の企業を立ち上げることも、形式的には可能です。それぞれの創業に対して補助金をもらえれば、経費の負担を少なく抑えて、企業を持つことができます。
そんでもって、モノになった企業は継続させ、ダメそうな企業は、早々にポイすれば、損害は軽微です。
そういうゲーム感覚で、「補助金ゲットだぜ」っていうこともできるのが今の風潮です。

ですので、私としては、予め警鐘を鳴らしておきたいと思うんです。
「あんた、会社経営をなめすぎてるんじゃない!」と。


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