実践! 経営革新入門 都南空調サービス社長、経営革新に乗り出す
●(株)都南空調サービスの概要

(株)都南空調サービスは、もともと部品加工を生業としていた中小企業であった。
代表取締役の都南次郎は二代目社長である。
住宅地での騒音問題などが批判されるようになった昭和40年代に、工場部分を他県に移転し、東京には本社機能のみを残した。

その後、バブル時に負債を抱えて、事業縮小にやむなきに至る。
また、折からのグローバリゼーションの進展によって、大手取引先が中国に主力生産地を移した。このため、部品加工分野から全面的に撤退し、もっぱら製品のメンテナンスを行う事業分野に特化した。得意とするのは、家庭向けの空調冷暖房設備のメンテである。

従業員は10名。東京の下町に位置する。経営状況は良くないが、かと言って危機的状況ではない。ぼちぼちというところである。ただし、経常利益は近年逓減傾向が続いている。ライバル会社の事業進出についても危惧されるところだ。



●環境ビジネスの検討

社長の都南には、最近気がかりなことがあった。
都南の息子、小太郎は今年小学生になった。
しかし、小太郎の遊び方を見ていると、いつもゲームやビデオばかり。野外で思い切り走り回ることがない。
東京生まれで二代目社長の都南だったが、子供の頃はまだ自然が残っていて、公園に行ってトリモチでトンボを捕ったり、スルメでザリガニを釣ったりした経験があった。
今の子供は、そういった遊びを知らない。
都南は、子供が親しむ自然環境を作ってやりたかった。それが、ビジネスになれば、渡りに船である。

都南は自然環境を人工的に室内に作り、入館料で維持管理するすることを企画した。
そして、それに「エコキューブプロジェクト」と名付けた。
施設の中に人工の自然環境を作る。
小川が流れるようにし、タニシや蛍の幼虫もそこで育つようにする。
大きな庭をつくり、子供が思いっきり走り回れるようにする。
ちょっとした丘に里山のミニ版を作る。
屋内の体育館も、自然を取り込んだデザインにする。学習コーナーを設けて、ビデオ学習もできるようにする。
これまでも仕事で「きれいな空気をつくる」をテーマに取り組んできたから、その延長で事業化は可能だと踏んだ。

しかし、そういう大規模な施設を作るには資金が必要だった。



●挫折

都南は、そのための資金援助を金融機関に相談した。
しかし、担当者の返答は冷たかった。

[金融機関]: 確かにすばらしいプランだと思います。
ですが、それで、どうやって収益を上げるのですか。入場料をたくさん取ったら、誰も利用しませんよ。でも、ただで開放したら、投資回収は望めません。専門家にでも、相談してみてはいかがでしょうか?
・・・・・
言われてみて、「痛いところを突かれたな」と感じた。
自分は熱心に事業計画を説明したつもりだったが、それは、単なる夢を表現したに過ぎないと悟った。
都南自身、これが事業化できたとしても、実際に施設を作るにはどうしたらいいのか、疑似的な自然環境を維持するにはどんな技術が必要なのか、維持管理のための経費はいくらかかるか、そういったことを相談する相手も、まったく見当がつかなかったのだ。



 
 <補足説明>
「経営革新計画を作ろう」と最初に思い立ったときの動機は大切です。最初に意図したプランがダメであっても、ここでのアイデアや検討経過はまた役に立つことあります。その内容は、記録に残しておくようにしましょう。



 
 <補足説明> こんな動機で事業計画を立てるときは、注意が必要!
事業計画を作ることは、とても大切なことです。しかし、計画作りが一人歩きすると、もっと大切な“事業”そのものを見失いがちになります。
と言うのも、計画作成に没頭し始めると、「計画を作ること自体」が自己目的化してしまって、「何のためにやっているのか」が見失われがちになるからです。
本業がピンチだと「新しい計画」に望みをかけたくなりますが、健全経営あっての新事業プランであることを忘れてはなりません。

1.民間のセミナーでこの計画のことを知った。自分でも作れると思った 
  セミナーで勉強すると、誰でも簡単に「経営革新計画書」が書けるように思いがちです。実際、体裁の良い計画書ができあがったりもします。図やグラフ、写真やチャートなどで説明すると、いかにもその計画の実現可能性が高いように思われます。
しかし、見栄えの良さと実際の事業計画としての確実性は異なります。計画書に説得力を持たせるための創意工夫は大切なことですが、あくまでも目標は事業を実現することです。本当に計画書の内容が、事業化に沿ったものなのかどうか、客観的に見直してみる必要があります。
2.金融機関に融資の相談に行ったら、経営革新計画を勧められた
  経営革新計画が認められれば、融資等が受けやすくなることもあると思います。しかし、必ず融資が受けられるわけではありません。金融機関の窓口担当者が、事業計画の具体性に疑問を感じているために、「経営革新計画を作ってみたらどうか?」とアドバイスしている場合もあるのです。
もちろん計画作成は大切なことですので、トライしてみる価値はあります。ただし、融資が約束されているのではないことは、忘れてはなりません。
3.知人が計画承認を受けた。それくらいなら自分でも計画を作れると思う 
  業種も異なり、社会・経済状況も刻々と変化していきます。審査のタイミングによって評価も変わります。
「コロンブスの卵」の例えもあるように、実演してもらえばさも簡単に見えても、最初に考え出した才覚はなかなか他人にまねできるものではないのです。いざ、自社独自の計画を考えたつもりなのに他人の模倣になってしまっていたり、逆に具体性を欠く計画になってしまったりするのではないでしょうか。
4.世の中で○○が流行っているので、自社もやってみようと思った 
  あまり感心できない動機です。
たしかに社会情勢を汲み取って計画に盛り込むことは大切ですが、あなたが考えていることは、別の人も考えているに違いありません。計画承認を受けた頃にはすでに他社に先を越されていたということだって、ありえるのです。計画書作成に注ぎ込むパワーを、今すぐ全て本業に注ぎ込んだ方が経営改善に繋がるかもしれません。

しかし、こういった考えは大切です。

5.中小企業はいつも新しいものにチャレンジしていないと、生き残れない
  その意気込みを評価します。
「いつも何か新しいことを考え続けること」――それこそが、中小企業の持ち味です。
その理由一つだけでも、経営革新計画作りにチャレンジしてみる価値は十分あります。





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