実践! 経営革新入門 社内からアイデアが出はじめた
●昔はこういう景色をよく見たんだのだが・・・

プロジェクトチームといっても、下町の零細企業のことだから、従業員同士の飲み会になる。
しかし、社長の都南には、何かと言っちゃ一杯やりながら議論を交わした昔に戻ったような感慨があった。
学生時代は政治の話、会社に入ってからは仕事の話、ときには議論が沸騰し気色ばむこともあったが、そんな機会が失われてもうずいぶんになることに、今さらながら気づかされたのだ。

[都南社長]: ところで専務、最近の当社の経営状況はどうかね。私としては、会社に体力があるなら、ここらで新しい分野の事業も考えてみたいんだが。

[大垣(専務)]: 仕事は確保できています。当社は一般家庭内の空調・水回りのメンテ業です。最近はどんどんマンションも増えていますので、需要も期待できます。あわてて新事業に取り組む必要はありません。
とはいえ、元請からの単価引下げの要望が強くて、泣く泣く1回当たりの代金を減らしました。その結果、経常利益は出ているものの、利幅は年々薄くなっています。
ですけど、経営的には何とかなっています。新事業展開で先代の残した会社を危うくさせることがあってはなりません。慎重な対応が必要です。

[都南社長]: そうは言っても、新しいことへ挑戦するのを止めたら、中小企業はそれまでだ。
実現するかどうかは別として、アイデアが欲しい。

[篤志(若手)]: 以前に工場だった別棟がありますよね。今じゃ倉庫にして使っていますけど、不良在庫置き場になってます。あそこを何とか有効活用できないかな。

[相馬(中堅社員)]: 子供たちにもの作りの楽しさを教えるような教室を作ったらどうかな。
当社はうまい具合に住宅地の中にあるし、そうしたことをきっかけに、当社のサービスを利用するお客さまが増えるかもしれない。宅内サービスというのは、やはり顧客の信頼を得るのが大切だ。こうした機会に社員の顔を売るっていうのもいいんじゃないかな。

[番野(古参社員)]: 定年退職した先輩でまだまだ元気な人がたくさんいる。ウチの会社が製造現場だった頃からの人たちだから、あれこれもの作りの知識も豊富だ。

[都南社長]: この際、できるだけたくさんの人たちの協力を得て、新事業を立ち上げてみようじゃないか。私も社の敷地内に自宅を構えているが、近所のマンションに引っ越してもいいと考えている。このことは、家族も了解済みだ。その敷地も有効に活用してもらいたい。

最初は乗り気でなかった社員もいたが、久々に新しいことをやるとなると、積極的になってきた。
都南は内心、「昔はこんな景色をよく見たのだが・・・」と、懐かしい思いでつぶやくのだった。

これに気をよくして、都南はコンサルタントの坂井に、再び相談を持ちかけた。



 
 <補足説明>
物的・人的資産を棚卸してみましょう。これまで培ってきた実績の中で利用できるものが眠っているかもしれません。



 
 <補足説明> 他企業の情報を集めよう
あなたのプランが優れたものであっても、すでに別の企業に実現されている場合もあります。
経営革新計画においては、既に他社において採用されている技術・方式を活用する場合も、原則として承認対象となります。しかし、既に相当程度普及している技術・方式等は対象となりません。
また、すでに他企業で開発されている新技術であれば、当然、特許等の規制を受けます。特許権侵害に当たらないかどうかの確認も必要です。特許庁のホームページで検索できますし、東京都の知財センターでもご相談をお受けしています。
逆に、同一分野での事業を企画している企業と業務提携することで、双方の独自性を持ち寄り、より強力な事業展開を図ることが可能になることもあり得ます。

既存の取組事例が見当たらない場合も、もう一度再考してみる
すでに取り組んでいる企業が見当たらない場合であっても、あれこれ調べてみる価値はあります。
すでに大手企業が研究開発に乗り出していて、中小企業がこれから着手するのでは、到底太刀打ちできないなどの事情があって、どの企業も事業化を断念しているという可能性もあるからです。
また、研究開発に膨大な費用がかかる、十分な市場性がない、などの理由が隠れている場合もあります。
もちろん、そうであっても計画を作成するには、それなりの意義はあるのですが・・・。


社会全体の流れも把握する
業界だけではなく、社会全体の大きな動向を把握しておくことも、計画策定にとって重要です。
少子高齢化、グローバリゼーション、環境問題などが、この先も注目されていくことになります。当然、そうした動きとからめて事業展開を図っている企業も、たくさんあります。
例えば、少子高齢化にともなって、おもちゃ業界では大人をターゲットとした商品開発を進めていますし、国際面ではアジア地域へ生産拠点を移す企業が増えています。環境問題から省エネルギー、ゴミの再利用などのビジネスチャンスも生まれます。
ただし、トレンドに乗ることは、当然、競争相手もたくさんいることになります。あえてこうした分野を避け、企業競争の少ない「すき間」分野を事業展開の場に選ぶこともありえるところです。
このような大きな流れの中で自社をどのように位置づけるかも、事業計画作成にあたっては、大切なことです。



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