実践! 経営革新入門 分析から実践へ
●分析はあくまで手段

[坂井(コンサル)]: 御社の現状分析ができました。次は、この分析結果をどう生かすかです。 ここでもう一度、最初に戻ってみましょう。御社が事業分析をした「動機」は、どんなものだったのでしょうか?

[都南社長]: 事業分析にばかり目を奪われていて、何のためにやっているのか、すっかり忘れていました。
新事業です。子供に、もの作りの楽しさを教えるような教室を作ってみようというところから始まったことです。

[坂井(コンサル)]: ということは、子供のもの作り教育を事業化する。その事業のために、立地条件の良さを生かす。オールラウンドな従業員の能力を活用して、少ない資金で収益が上がる事業を展開する、ということでしょう。それが評判になれば、いい従業員が採用できます。そのためには、近隣の住民の良き相談相手になる。それで、大手の建設会社よりも良いサービスを提供できることを、強く打ち出す、ってことになります。

[都南社長]: そんなうまい具合に行きますでしょうか。

[坂井(コンサル)]: すべてが実現するのは困難でしょうが、事業の方向付けをそういうふうにもっていく、ということを忘れないことですね。まずは立地条件を生かして、住民の相談相手になるということを念頭に置きつつ、事業を設計することだと思います。

[都南社長]: 近所には、当社を卒業されたOBもいらっしゃいますから、まず、そうした重鎮に相談してみることにします。

[坂井(コンサル)]: お年寄りは話し好きです。昔話で終わってしまわないように気をつける必要がありますよ。その人に紹介してもらって、若いお母さんたちの意見も聞いてみてはいかがでしょうか。



●マーケット調査も大切

都南社長は、関係者のコネクションを利用して、小さな子供をもつ若い母親の意見を聞いて回りました。後になって振り返ると、このことが、事業のテイクオフにはたいへん役立ったことになります。

まず、「もの作り教育」に対する母親たちの意見はおおむね肯定的だったのですが、問題は費用です。子育てで一杯一杯の世代にとって、余分な費用は出せません。それでも、子供が欲しがるテレビゲームも買ってやらなくてはならない。したがって、大きな費用負担はできない、というのが大勢の見解でした。
都南社長は、新事業展開を前にして、いかにしてコストを削減するかという課題の解決を迫られてしまってわけです。

また同時に、こうしたヒヤリングから、顧客先として期待できる地域について、手応えを感じることができました。徒歩5分のところにあるマンションでは、共働きではない家族が多く、母親が同一地域内で何か社会とのつながりをもっていたいと考えていること、などが把握できたのです。

[都南社長]: 何とか安く教材を手に入れることはできないかな。

[番野(古参社員)]: 会社のOBに大下さんという人がいます。その息子さんが、有名な学習教材の会社に勤めているらしいです。さっそく連絡をとってみることにしましょう。



●提携先を探す

 こうした経過から、会社先輩の息子さん(鶴鷹興産勤務)との連絡が取れました。

[大下(社OBの息子、営業マン)]: 当鶴鷹興産は、昭和30年代、40年代の親御さんを主な対象として、当時の工作教材を売っています。いい話なので、是非、協力させてください。講師の手配、費用は当社で負担します。教材は実費を負担していただければ結構です。教材が余れば引き取ります。

[都南社長]: いい条件ですし、是非ともご協力いただきたいところです。

[大下(社OBの息子、営業マン)]: ただし、一つだけ条件を受け入れていただきたい。

[都南社長]: と、申しますと?

[大下(社OBの息子、営業マン)]: この学習教室で使う教材については当社の教材に限定させていただきたいのです。

[都南社長]: それはできません。お願いに来てこういうことを言うのは失礼ですが、当方としては、提供する学習教材を限定したくないのです。
代わりに、教材の売上に対して一定のマージンを支払うという条件では、いかがでしょうか。

[大下(社OBの息子、営業マン)]: しかたありませんね。御社の基本スタンスはよく理解しております。本社に持ち帰って、話を進めることにしましょう。

後日、大下氏から応諾の返事がありました。
他社製品も教材として使用することとの引き替えに、募集にかかる経費については都南空調サービスの全額負担にする、との条件がつきました。
都南社長は、教材のバラエティをできるだけ盛りだくさんにしたいと考えていたので、その条件で譲歩しました。



 
 <補足説明>
なぜこの経営革新事業に着手したのか、ときどき思い出してみることも大切です。事業計画を策定することは、あくまで“手段”にすぎません。手段が“目的”にすり替わってしまわないように、注意しましょう。
また、他社の製品を売るだけでは、経営革新計画にはなりません。あくまで自社の計画としての主体性を失わないことが必要です。




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