実践! 経営革新入門 予想できなかった落とし穴
●基幹業務の危機

都南社長は、思わぬ問題に直面していました。

このところ数ヶ月、新しい教室の立ち上げに奔走していて、すっかり本業がおろそかになっていたのです。
社長の気持ちは従業員にも伝染していて、主要メンバーも土日返上で倉庫の模様替えに汗を流していました。

ところが気がつくと、その間に、ライバル会社が得意先にどんどん販売攻勢をかけていたのです。
もともと本来業務の営業環境の厳しさから、新規事業へ関心が向いたくらいですから、本業から力が抜けたところへ同業他社の攻勢を受けたら、一気に押し込まれます。

懇意にしていた昔なじみの社長から「このところ、おたくの会社は評判が悪いよ・・・」と聞かされて、都南は、冷水を浴びせられた気持ちでした。

[都南社長]: どうもはしゃぎすぎたようだ。

今まで自分がやってきたことが、会社の危機を招く結果となった・・・。 と、ひどく落ち込む都南でした。
従業員もその様子に気づき、学習教室は一時棚上げして、本業の強化に方向転換です。
慌てて営業担当が調べると、自社の守備範囲と思っていた地域の3分の1に同業他社が進出しており、先代からの得意先までもが他社のサービス利用を決めた地域すらあることが判明しました。
都南は悩みました。

[都南社長]: せっかく作った『まちなかのモノづくり教室』だ。ここで止めたのでは、これまでの努力はムダになる。しかし、そうは言っても、従業員の全力を本業に向けさせなければ、会社自体がダメになる。どうすればいいのか・・・。

思い余って、コンサルタントにまたまた、相談することになります。




[都南社長]: こんな状態では、教室など開けませんよ。

[坂井(コンサル)]: ご心配はもっともです。

[都南社長]: そんな人ごとのようなことを言われても・・・。あなたのアドバイスも入れて、始めた事業なんですよ。

[坂井(コンサル)]: 会社がひとつの船ならば、あくまでも船長は都南社長さんです。社長の采配ひとつで、乗組員の運命が決まります。そうした覚悟が、経営者には必要なのです。
今回も、私に相談にいらっしゃいました。コンサルタントとしては、頼りにしていただけるお客さまがいることは、たいへんありがたいことです。しかし、最終的な責任を負うのは社長さんです。私たちは、その選択をする際の手助けをするのが、精一杯のところなんです。

[都南社長]: そう言われても、どうしていいかわかりません。

[坂井(コンサル)]: まずは、現状を分析してみましょう。この間、力を入れていなかった本業に、全力投球しなければならならい、ということですね。

[都南社長]: そうてす。

[坂井(コンサル)]: それでしたら、当然、本業重視です。

[都南社長]: でもそれだと、モノづくり教室が立ち上がりません。従業員も楽しみにしているのです。

[坂井(コンサル)]: この際だから、そこは、思い切って別の会社にまかせましょう。学習塾などをやっている人に、運営を委託してみてはどうでしょうか。

[都南社長]: せっかく手作りでやろうと思っている教室です。自分たちの力だけで、何とかなりませんか。

[坂井(コンサル)]: 素人が試行錯誤しながらやるより、信頼できる他人に任せることも大切ですよ。お知り合いで、どなたかいませんか。

[都南社長]: 妻の弟が近所の学習塾に勤めています。彼と相談してみることにします。

[坂井(コンサル)]: それと、本業の失地回復と平行して、新しい『モノづくり教室』のPRもしたらどうでしょうか。<地域に密着した仕事をしている会社だ>ということを宣伝文句にすれば、一石二鳥と言うところです。

[都南社長]: それはいいアイデアですね。さっそく検討を始めます。




 
 <補足説明>
本業が振るわないことが新事業展開の動機となっている場合、本業のケアを怠ってはいけません。また、不慣れな新事業を展開する場合には、経験のある専門家の助力が必要な場合も多々あります。




   元に戻る