実践! 経営革新入門 図や表を使うと、わかりやすい計画書になる
●図や表を使うと、わかりやすい計画書になる

[都庁担当者]: 具体的に実施した準備についてお伺いします。

[都南社長]: まず、会社の敷地内で眠っていた倉庫をきれいに整理しました。ここを改装して、「まちなかの、モノづくり教室」にリニューアルしました。

[都庁担当者]: 費用を節約しながら、新事業の場を作ったということですね。
ところで、教室というからには耐震などの配慮が必要だと思いますが。
[都南社長]: その点は、近隣の建設会社に頼んで、十分な強度が得られるようにしてあります。もう、外観は出来上がっています。

[都庁担当者]: 敷地の図面や見取り図のようなものがあると、審査会で説明しやすいです。
もうだいぶ計画も進んでいると思いますし・・・。

[都南社長]: 用意いたします。
 


 
●経費面での整合性を保つ

下書きができた申請書を持って、社長と担当の相馬は再び、都庁を訪れた。

[相馬(中堅社員)]: 計画がだいぶ出来てきたので、またご相談に来ました。

[都庁担当者]: だいぶしっかりした計画書になりましたね。

[相馬(中堅社員)]: 社長から、別紙1−2に記載する「計画をどのように実施するのか」を考えるよう言われていますが、どういう風に書けばいいのかわかりません。

[都庁担当者]: ここは実施スケジュールが書くところです。別表2に実施計画と実績を書くことになっています。この内容を少し詳細に書けばいいでしょう。

[相馬(中堅社員)]: 別表2とどう違うのですか。

[都庁担当者]: 別表2だと、書ききれない部分があります。それを補うことになります。また、計画が実現するためには、やはり手順をきっちりと押さえておく必要があります。やるべき内容が漏れなく網羅されていることで、計画の信頼性が高まります。
すでに実施済みの部分は、かなり詳しく書けると思いますが、これから行う部分をどこまで具体化できるかがポイントです。

(別表1−2)
経営革新計画の具体的内容
参加企業者名  (株)都南空調サービス   .

(経営革新計画の具体的内容と新しい取り組み方法を記入して下さい)

4 計画の実施「新事業をどのように実施するのか」
(1)当社の敷地内には、かつての製造工場が倉庫として存在しているが、実際は、ほとんど機能していない。
この倉庫を改装し、「モノづくり教室&新生活開発所」(以下「教室」)として整備する。
倉庫内に眠っている古い機材については、すでにインターネットのオークションを活用して、その大半を処分した。

施設の配置と内装は以下のとおり。本事業実施を契機として、経営者は転居する。

<配置図>
旧社屋 新計画

下町の住宅地域内に位置するという当社の立地条件は、生徒募集にあたっても有利である。

(2) マーケット調査
 当社では平成〇年〇月〜〇月にかけて、周辺地域住民への聴き取り調査を行った。
その結果以下の状況が判明し、潜在的ニーズが存在しているとの確信を得た。

・・・・・・・

(3) 教室の運営委託先

 教室での学童等の指導については、虹の橋学習社に委託する。虹の橋学習社は、授業を統括し、企画設計・生徒募集について都南空調サービスをサポートする。
 虹の橋学習社の代表取締役は、当社社長の縁者であり、また、当地域においてはすでに学習塾や学童保育施設の運営実績を積んでいる。その状況は以下のとおり。

・・・・・・

(4) 教材の購入先
 本事業に必要な教材については、株式会社鶴鷹興産から購入する。
 すでに、販売単価等については、以下の内諾を得ている。なお、事業が軌道に乗った後には、同社以外の仕入先も開拓する。このことについては、鶴鷹興産側も了解済みである。

・・・・・・

(5) 事業PR
 都南空調サービスは、教室の運営全般・全体の費用負担を行う。インターネット及び地域ミニコミ誌によるPRを行う。今後の事業展開において、インターネットの有効利用を重視している。その布石として、本計画と合い呼応して、社のホームページを立ち上げる。

(6) 事業の展開

第一段階:テスト的に小規模な教室を開いて、顧客の反応を見る。また、本格実施に向けたアンケート調査を行う。地域のミニコミ誌等を通じて受講者を募集し、テスト開業を行う。そこで得た情報やアンケートの実施結果から、参加者の意向を把握し、本格実施に向けた調整を行う。
 本格実施に向けて、教室のホームページを立ち上げる。

第二段階:高齢者向け生活講座・教養講座の開業

第三段階:一般向けの教養講座の開業。一般向け講座に独自企画を開発する。

第四段階:第二教室構想の研究を開始する。



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<参考> 東京都産業労働局の記載要領に例示されている、計画の実施「新事業をどのように実施するのか」

 項目 内容 
研究開発 開発人員・場所等(委託や共同開発の有無)
製造・設備 既存設備の利用、新規設備投資の必要性、委託の有無
販路開拓(体制) 販売先、販売先への売込み状況、新規ルートの場合の開拓方法等
事業許認可 許認可機関との調整、許認可への課題と見通し
 ・・・  ・・・
※本欄記述に当たっては、別表2(2)実施項目と内容を一致させてください。
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※技術・商品等の図面、機器のカタログ等、内容のわかる資料を添付して下さい。


(別表1−2)
経営革新計画の具体的内容
参加企業者名  (株)都南空調サービス   .

(経営革新計画の具体的内容と新しい取り組み方法を記入して下さい)

5 計画を実施した結果(効果)はどのようになるのか

<教室開催時のイメージ>



今回の計画は当社社屋の一部を利用したものであり、現在の事業運営に支障をきたさない範囲内に収める予定である。 しかしながら、この規模では、当社の目的とする「モノづくりの心」を社会に広げるには、まだまだ不十分であると言わざるを得ない。

また、当社としては本事業の対象を幼児や学童に限定するつもりはない。
今後の収益状況の推移と、市場調査の結果を見ながら、その対象を広く地域住民に広げていく。
とりわけ、地域に在住する高齢者は将来のターゲットとして有力であると考える。

当社としては、第二、第三の教室設立を視野に置いている。現在の空調サービスの拠点は、住宅地内にあることから、むしろ住民サービスの拠点とする方が有効利用が図れるため、コミュニティーサービスへと業務範囲を拡大する計画である。
さらに市場ニーズが拡大可能な場合は、近隣商店街の空き店舗等を利用して、新たなサービス施設を開設する。

こうした事業展開により、地域住民の交流は一層深まるものと考えられる。また、あわせて当社の本業である空調サービスの顧客拡大にも繋がるものと確信している。

なお、その際、空調サービスのサービスセンターについては、近隣地区に移転を行う。







※技術・商品等の図面、機器のカタログ等、内容のわかる資料を添付して下さい。


[都南社長]: さて、本題ですが・・・。当社の計画案は、ほんとうに革新計画の対象となるのでしょうか?

[都庁担当者]: 私は判断する立場にいませんが、経営革新計画の審査対象となる要件は充たしていると思います。会社として、新しい試みですし、社会的にもありふれた事業ではありません。特段、法律に触れているとも思えませんし。

[都南社長]: そう聞いて安心しました。

[都庁担当者]: 安心するのは、しばしお待ち下さい。革新計画として対象になるというだけで、それが承認されたわけではありません。
この先、資金計画書も作っていかなければなりません。事業計画本体と比べると地味ですが、資金計画がしっかりしているかどうかは、計画そのものの成否を左右します。承認されたからといって、融資が約束されたわけでもありません。事業として成り立つとは限りません。そのためにもしっかりした資金計画が必要なのです。

[都南社長]: 当社としては、これで収益を確保しようとは考えていません。本業の傍らで社会奉仕が出来ればという気持ちで、考えた事業です。

[都庁担当者]: それでは、制度の主旨とはずれます。あくまでも経営体としての企業強化のための「経営革新」なのです。慈善事業は立派なことですが、この制度の趣旨とは異なっています。

[都南社長]: 企業が事業として実施する以上、真剣に取り組まなければならないということなのですね。

[都庁担当者]: 申しあげたように、経営者は会社や従業員に対して責任を負っています。結果を出さなければ、責を問われます。



 
 <補足説明>
事業効率もよく検討してみてください。外部と提携した方が効率的な場合は、企業連携を進めるのも一案です。なお、経営革新計画は、複数企業で共同して申請することも可能です。



  
 
<補足説明>
 新鮮で、なおかつ、手堅くて・・・?

既存事業の単なる強化は、経営革新計画の対象とはなりません(もちろん、それはそれで大切なことですが)。
リース会社がリース品目を増やすとか、製造工場がラインのスピードを上げて生産数を増やすとか、商店が不良在庫を減らすとかいうのだけでは、“新規性”があるとまでは言えないのです。しかし、「何が新規か」となると、その区分けは簡単ではありません。

例えばまんじゅう屋さんを例にとってみましょう。
「当店では、これまで白いまんじゅうだけを売ってきたが、これからは赤いまんじゅうを作って紅白でセットで売るようにする」という提案があったとします。
しかしながら、それはさほど珍しいものではありません。ですから、新規性があるとは認められないことになります(何百年か前に最初にやったお店なら、まさしくそれは革新的ですが・・・)。

これと似たようなケースとして、インターネットオークションで販売する、電子取引で受注するという申請があります。
それだけでは新規性の決め手となりません。数年前なら新規性が認められたものが、あっという間に当たり前の対応になってしまうのです。

ところで、最近は健康ブームです。
「当店のまんじゅうも、納豆まん、モロヘイヤまん、ショウガまんなど、健康食品をラインナップする」というのならどうでしょうか。
たしかに、社会の流れを取り込んだ革新的な計画といえなくもありません。しかし、今度は、「本当にそれが売れるのか?」という疑問が生じます。
すなわち、“事業性”の問題です。

このように“新規性”と“事業性”は、お互いに相反する性格を持っています。
その双方を同時に実現させるのは、なかなか簡単ではありません。とはいっても、経営革新計画として承認してもらうためには、「新鮮であり堅実である」と認めてもらわなければなりません。
そのために、計画内容を精緻にしていくことになります。





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