実践! 経営革新入門 詳細な計画作りは退屈だが、重要
[都庁担当者]:別表2、別表3というのもあります。これは、事業計画の順番、事業計画で予定されている収入支出の推移ををシュミレーションしたものです。

(別表2)
実施計画と実績(実績欄は申請段階では記載する必要はない。)
@
番号
計    画 実    績
A実 施 項 目 B



C



D



実施
状況
効果 対策
計画の構想 コンサル・金融機関の反  2回 1-1       
2  社内PTの立ち上げ PT報告書 月2回  1-2      
3
旧倉庫の整理  不要機材の販売実績 1回  1-2       
4
提携先企業の決定            
5
カリキュラム作成、受講料決定、募集方法検討 検討結果 2回  1-3       
6
試行的な教室開業 顧客の応募状況  1回 1-4       
6-2
アンケート調査の実施  アンケート結果  1回  1-4      
7 本格開業(子供・高齢者対象)            
7-1 高齢者向け無料教室の開業 顧客の応募状況 1年 2-1      
7-2 高齢者向け有料教室の開業  顧客の応募状況 1年 2-2      
7-3 子供向けモノづくり教室の開業  顧客の応募状況 1年 2-2      
8 一般対象教室の開業            
8-1 一般向け無料教室の開業  顧客の応募状況 1年 2-3      
8-2 一般向け有料教室の開業  顧客の応募状況 1年 2-4      
9 一般向け新規講座の開始  顧客の応募状況 1年 2-4      
10 第二教室構想の研究着手     3-1      




[相馬(中堅社員)]: 別表3の「資金計画」も、作るのも、とても手間がかかります。

[都庁担当者]: その前に、もう一つ必要な資料があります。別表3の裏付けになる中期経営計画書です。別表3の根拠となる「中期経営計画書」を先に固めないと、なかなか別表3は作れませんよ。

[相馬(中堅社員)]: もっと詳しく基礎数字を固めておく必要があるのですね。

[都庁担当者]: そのとおりです。それと、中期経営計画書では、既存事業と新規事業の売上額が別々にわかるようにお願いしています。

[相馬(中堅社員)]: 新規事業の根拠は、単価いくらで、いくつ売れて・・・といった具合に作らねばならないってことですね。でも、なかなか大変で、途方に暮れているんです。

[都庁担当者]: 別に表計算ソフトで既存事業を含めた表を作っておいて、その結果数字を別表3落とし込むという方法がいいと思いますね。申請書を作るには、バックデータがいろいろ必要だということです。


(別表3) 注)中期経営計画(3〜5年)及び資金計画の算出根拠を添付して下さい。
参加中小企業名 都南空調サービス (単位 千円)
2年前
(23年3月期)
1年前
(24年3月期)
直近期末
(25年3
月期)
1年後
(27年3月期)
2年後
(28年3月期)
3年後
(29年3月期)
4年後
(30年3月期)
5年後
(31年3月期)
@売上高 185,423 169,847 164,511 166,171 176,896 184,935    
A売上原価 41,254 41,024 43,215 46,875 53,955 55,255    
B売上総利益
(@−A)
144,169 128,823 121,296 119,296 122,941 129,680    
C販売費及び
 一般管理費
145,658 127,255 119,454 140,122 120,989 125,420    
D営業利益 ▲1,489 1,568 1,842 ▲20,826 1,952 4,260    
E営業外費用 101 152 140 581 645 725    
F経常利益
(D−E)
▲1,590 1,416 1,702 ▲21,407 1,307 3,535    
G人件費 125,404 92,458 84,561 89,561 89,789 91,954    
H設備投資額 -  -  -  47,820 0 0    
I運転資金 -  -  -  3,660 10,220 12,040    
普通償却額 271 254 450 540 580 650    
特別償却額  0  0  0  0  0  0    
J減価償却費 271 254 450 540 580 650    
K付加価値額
(D+G+J)
124,186 94,280 86,853 69,275 92,321 96,864    
L従業員数 12 11 10 10.5 10.5 10.5    
M一人当たりの付加価値額
(K÷L)
10,349 8,571 8,685 6,598 8,792 9,225    
N


調


(H

I)
政府系金融機関借入 478,20        
民間金融機関借入 3,660 10,220 12,040    
自己資金 −           
その他          
 合  計 51,480 10,220 12,040    
(各種指標の算出式)
「経常利益」:営業利益−営業外費用(支払利息、新株発行費等) 注)営業外収益は加算しません。営業外費用は全額を計上して下さい。
「付加価値額」:営業利益+人件費+減価償却費         
「一人当たりの付加価値額」:付加価値額÷従業員数
「営業利益」:売上総利益(売上高−売上原価)−販売費及び一般管理費

(付加価値額等の算出方法) 注)下記については該当があれば原則算入して下さい。
人数、人件費に短時間労働者、派遣労働者に対する費用を参入しましたか。    はい   いいえ
減価償却費にリース費用を参入しましたか。   はい   いいえ
従業員数について就業時間による調整を行いましたか。   はい   いいえ
 
 [都庁担当者]: それとこの表で気をつけなければならないのは、営業外収益を加算しないこと。しがたって、決算表と異なることがあります。

[相馬(中堅社員)]: あと間違えやすいところは・・・?

[都庁担当者]: 人件費のとらえ方ですね。人件費には、給与・役員報酬や法定福利費はもとより、福利厚生費、退職金なども含まれます。製造業の場合は、製造原価のところにも人件費が出てくることが多いです。

[相馬(中堅社員)]: 脚注にある、「はい・いいえ」というのは。

[都庁担当者]: 「忘れないでくださいね」という意味も込めて書かれています。リース費用は減価償却費に入れることになっています。派遣労働者の経費なども忘れがちです。

[相馬(中堅社員)]: 短時間のパートを雇っている場合は、一般従業員の勤務時間との比率を出して、従業員数などに加算するということですね。

[都庁担当者]: そのとおりです。

[相馬(中堅社員)]: 今、計算しているところでは、一人当たりの付加価値があまり増加しないようなのですが・・・。予定の増加率に達しないと、それのために計画が認められないのではないでしょうか・・・。

[都庁担当者]: 付加価値全体か1人当たりの付加価値額のいずれかが、3年計画の目標9%をクリアしていればかまいません。そうでないと、仕事の拡大に応じて従業員数を増やした会社が不利になってしまいます。
どうしても両方の数字が目標以下になるようだったら、計画期間を延ばしてみてはどうでしょうか。
新事業の効果が出るのに時間を要することもありますから。

 


  
 <補足説明>
別表3を作るためには、その根拠となる数字を固めなければなりません。
売上高や必要経費がきちんと出るように、別途、表計算ソフトなどを使った根拠データを整備しておくことが、必要になります。
なお、上記の例はあくまで私の個人的な想像から作ったものですので、専門家が見たら、「ここんところはオカシイ」と思う点も多々あろうかと思います。




[都庁担当者]: また、申請書と提出してもらう書類として、直近とその1年前の決算書、税務署に提出した書類の写し一式というのがあります。私たちはこれと照らし合わせて、別表3に記載された直近及び1年前の数字が正しいか判断するのです。

[都南社長]: その数字は、コンサルと相談して確認してあります。

(経営革新計画の具体的内容と新しい取り組み方法を記入して下さい)

(別表3−2) 中期系家計画(3〜5年)及び資金計画の算出根拠資料

1 既存計画と新規計画 (千円)
直近期末 1年後 2年後 3年後
売上高 164,511 166,171 176,896 184,935
既存事業 164,511 164,511 166,156 169,479
新規事業 0 1,660 10,740 15,456
売上原価 43,215 46,875 53,955 55,255
既存事業 43,215 43,215 43,735 43,215
新規事業 0 3,660 10,220 12,040
売上総利益 121,296 119,296 122,941 129,680
既存事業 121,296 110,000 110,000 110,000
新規事業 0 9,296 12,941 19,680
販売費及び一般管理費 119,454 140,122 120,989 125,420
既存事業 119,454 110,000 110,000 110,000
新規事業 0 30,112 10,989 15,420
営業利益 1,842 ▲20,826 1,952 4,260
既存事業 1,842 ▲21,8366 ▲48 ▲740
新規事業 0 1,000 2,000 5,000
営業外費用 140 581 645 725
既存事業 140 140 140 140
新規事業 0 441 505 585
経常利益 1,702 ▲21,407 1,307 3,535
既存事業 1,702 ▲21,966 ▲188 ▲880
新規事業 0 559 1,495 4,415
人件費
84,561 89,561 89,561 91,954
既存事業 84,561 76,105 76,105 71,877
新規事業 0 13,456 13,456 17,684
設備投資額
 0 47,820 0 0
既存事業 -
新規事業 0 47,820 0 0
運転資金
 0 3,660 10,220 12,040
既存事業 -
新規事業  0 3,660 10,220 12,040
減価償却費
450 540 580 650
既存事業 450 450 450 450
新規事業 0 90 130 200
付加価値額
86,853 69,275 92,321 96,864
既存事業 86,853 54,729 76,507 71,587
新規事業 0 14,546 15,586 22,884
従業員数
10 10.5 10.5 10.5
既存事業 10 9.5 9.5 8.5
新規事業 0 1.5 1.5 2
一人当たりの付加価値額
8,685 6,598 8,792 9,225
既存事業 8,685 6,081 8,501 8,422
新規事業 0 9,697 10,391 11,442

2.新規事業(新商品)売上高計画の内訳
<1年目>〜テスト実施
収入
低学年向け @3,000×10人×2コマ×年間30日/5日=360,000
高学年向け @5,000×10人×2コマ×年間30日/5日=600,000
高齢者向け @5,000×10人×2コマ×年間30日/5日=600,000
一般向け  @5,000×10人×1コマ×年間10日/5日=100,000
                        (収入合計) 1,660,000
※教材費は別途本人負担となる。

支出
講師謝礼
低学年向け @5,000×2コマ×年間30日=300,000
高学年向け @8,000×2コマ×年間30日=480,000
高齢者向け @8,000×2コマ×年間30日=480,000
一般向け  @10,000×1コマ×年間10日=100,000
                    (小計) 1,360,000
ウェブサイトの立上げ     800,000 
その他、諸経費    年間 1,500,000
           (支出合計) 3,660,000

<2年目>〜本格実施
収入
低学年向け @3,000×10人×2コマ×年間70日/5日=840,000
高学年向け @5,000×10人×2コマ×年間70日/5日=1,400,000
高齢者向け @5,000×10人×2コマ×年間350日/5日=7,000,000
一般向け  @5,000×10人×1コマ×年間150日/5日=1,500,000
                (収入合計)   10,740,000
※教材費は別途本人負担となる。

支出
講師謝礼
低学年向け @5,000×2コマ×年間70日=700,000
高学年向け @8,000×2コマ×年間70日=1,120,000
高齢者向け @8,000×2コマ×年間350日=5,600,000
一般向け  @10,000×1コマ×年間150日=1,500,000
                   (小計)   8,920,000
ウェブサイトの運営費 年間  300,000
その他、諸経費    年間 1,000,000
           (支出合計) 10,220,000

<3年目>
収入
低学年向け @3,000×12人×2コマ×年間90日/5日=1,296,000
高学年向け @5,000×12人×2コマ×年間90日/5日=2,160,000
高齢者向け @5,000×12人×2コマ×年間400日/5日=9,600,000
一般向け  @5,000×12人×1コマ×年間200日/5日=2,400,000
                        (収入合計) 15,456,000
※教材費は別途本人負担となる。

支出
講師謝礼
低学年向け @5,000×2コマ×年間90日=900,000
高学年向け @8,000×2コマ×年間90日=1,440,000
高齢者向け @8,000×2コマ×年間400日=6,400,000
一般向け  @10,000×1コマ×年間200日=2,000,000
                   (小計)   10,740,000
ウェブサイトの運営費 年間  300,000
その他、諸経費    年間 1,000,000
           (支出合計) 12,040,000



[都庁担当者]: 確かに、これと比べることによって、直近の実勢は確認できます。しかし、新規事業が実際のところ会社の収入アップにどれだけ貢献するか、別表3からはわかりません。そこで、既存事業と新規事業を分けた、将来の決算見込みが必要となるのです。

[都南社長]: ですが、これはあくまで想定です。

[都庁担当者]: 想定とはいえ、事業計画の裏付けとなる数字ですから、その根拠は必要なのです。新規事業を手がけることで、何が何個売れて、どれだけ収益が増えるという資料が必要です。都では、ひな形を用意していますが、必ずこれを使う必要はありません。各企業独自の様式でかまわないのですが、別表3の収益増を説明する資料でなければなりません。
私たちとしては、既存事業と新規事業の売上予測がはっきりと区別できること、また、新規事業の売上根拠が分かりやすく書かれていることを、お願いしています。

[都南社長]: 当社の計画に不足部分があるとすれば、どこでしょうか。早く教えてください。

[都庁担当者]: 将来の収益を決めるためには、詳細な収支プランが必要です。この計画書のモノづくり教室は、どういったところから収益が増えるのか、わかりません。その根拠を示す必要があります。

[都南社長]: まず、どれくらいのカリキュラムを組めるかですが、1回1時間半の授業を1日3コマと見込んでいます。1つのテーマを終了するのに5回くらいかかるとすると、月あたりのセット数は4セットくらいです。講座の単価×3コマ×4セットが月あたりの収入と考えています。月12講座、年間で144講座になります。

[都庁担当者]: かかる費用としては、どれくらいを見込んでいますか?

[都南社長]: まず、会場は当社内ですから、あらためて会場使用料はかかりません。教材費は、一人当たり3,000円です。
1教室には20人入れますが、安全策をとって12人の受講生と仮定するならば、月の教材費は3,000×12人×3コマ×4セット=432,000円です。

[都庁担当者]; 教える内容によって教材は変わりますよね。とすれば教材費もコースごとに違うはずです。募集段階であらかじめ教えておくことは大切ですが、一律で決めるというのはリスクが大きいのではないでしょうか。

[都南社長]: 確かにそうです。コースごとに実費徴収という方が現実的ですね。

[都庁担当者]: 講師謝礼は当然必要になります。いくらくらいを見込んでいるのですか?

[都南社長]: 講師謝金は、1コース5日、1コマの単価が10,000円で、1コース(5日間)あたり50,000円が平均だと考えています。ひと月の講師謝金は、600,000円です。

[都庁担当者]: その額で引き受けてくれる人がいますか。

[都南社長]: 小さい子供相手の学習会なら、子育ての終わった地元の奥さんたちが、安い見返りでも協力してくれると言っています。

[都庁担当者]: これに対する収入はどうですか。

[都南社長]: 月あたりの収入は、仮に受講料が1講座1万円とするとひと月の収入は、10,000円×12人×3コマ×4セット=1,440,000円になります。150万円程度もあればいいと思います。諸経費を抜いて、約25万円くらいが月あたりの当社の収益となる。それが現在の想定です。

[都庁担当者]: PRのための経費なども、できるだけ詳細に織り込んでおく必要があります。
予想されていなかった出費というのもありますし、収益が思うように上がらないこともあります。
同じような講座を開いている他社の状況も調べておくといいでしょう。



 
 <補足説明>
経営革新の申請書はあくまで机上の計画ですが、実際の事業化には、さまざまな障害が発生します。したがって、単なる紙面上のフィクションだと考えず、実際の事業化を想定し、具体的かつ詳細な計画を練ることが望まれます。




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