tsudax99
「気づき」と「見える化」と「仮説」と・・・経営改善指導への一提言


(1) はじめに

経営力って何?

  東京都は、中小企業の経営力向上プロジェクトに着手した。
しかし、これまで中小企業の支援のためのメニューがなかったわけではない。いや、むしろ、有り余るほどの支援策を実施してきた。
にもかかわらず、なぜ、あらためて「仕切り直す」ような形で、このようなプロジェクトを立ち上げたのは、理由がある。
世界的な金融市場の混乱で今や経済界は危機的状況に陥っている。
このため多くの人はすっかり忘れてしまっているが、その直前には“いざなぎ越え”とも呼ばれる、たらたらとした景気回復が続いていた。
しかし、その最中においても、中小企業の経営者からは「景気回復って世間では言っているが、少しも実感がわかない」という感想が多数寄せられていた。
実は、この景気上昇局面において、大企業と中小企業との収益率にはかなりの差が開いていたのだ。そこへ来ての原材料費の高騰、さらに追い打ちをかけるような金融不安で、中小企業は大きなダメージを受けた。
  これまでの中小企業政策は、どちらかというと弱者救済にウエイトがかけられていた。マル経などの融資を呼び水として、経営指導員が小規模企業との関係を深めて、経営改善に取り組んできた。
同時に、商店街での廃業の多発、いわゆる「シャッター商店街」の発生が社会問題となった。
こうしたことから、支援対象は、町の小規模商店にウエイトにウエイトがかかっていた。
また、製造業分野では、大手企業の海外生産が進む一方、2007年問題と呼ばれるベビーブーマーの引退などもあり、小零細製造分野での「ものづくりの継承」の必要性が叫ばれていた。
だが、今回の景気後退で深刻な打撃を受けたのは、大手製造業の下請で、いわゆる「優良企業」と呼ばれていた中堅どころである。そして、ここから多くの不安定雇用者が押し出された。
仕事はあっても運転資金が乏しい企業なら、融資の拡大で救済できる。しかし、仕事自体がなくなっている企業に融資を受けさせれば、かえって逆効果になることも多い。
結局のところ肝心なのは、対症療法ではなく、企業の体力そのものを強めることになる。
  このような状況を背景として、東京都としては、従来の緊急対策をいっそう強化する一方、支援対象を中堅規模の製造業まで広げ、中小企業の経営そのものの強化を図っていくこととなった。
それが「中小企業経営力向上TOKYOプロジェクト」だ。 
  そして、この4月から、私の係がその推進母体となることとなった。
上記プロジェクトは、東京都と都内の各支援機関(中小企業振興公社、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、中小企業診断士協会東京支部)が総がかりで行う。
この中心軸となって事務局を担っているのが東京商工会議所であり、私の係は、都における商工会議所・商工会の対応部門となっている。
  もとより商工会議所や商工会は、企業の経営相談に応じてきた組織である。
また、前述のように、これまでの経営改善事業は、「融資」を主要ツールとし、融資の前処理として経営の隘路を打開させるという方法が取られるていた。
経営者は、融資の必要性を自覚している。当然、経営上にも課題を抱えているという認識もある。したがって、、きちんとした方針を示してあげられれば、進むべき方向は定まる。
むしろ問題は、相談を受けたときには事態がかなり進行しており、打てる対策も限られてくるという点にあった。
  今回の「経営力向上」のミソは、問題が起こるもっと手前で経営体質を強化しようということにある。そういう段階で、経営者はまず、相談には来ない。
ゴールは同じだが、これまでの手法では、効果的な対応は困難である。
こうしたことから、「気づき」がキーワードとされた。
  この事業を担当するにあたり、関係者の意見を聞くと、そのほとんどは「いい仕事だから、是非やりなさい」と言ってくれる。
しかし、この事業が実際に可能か否かを聞けば、多くの人は首を横に振る。
そもそも「経営力って何?」と聞かれても、明確な定義はない。商工会議所や商工会の経営指導員においても、不安なのは同じだ。
そこで、本稿においては、私なりの「経営力向上」方式について、いくつかアイデアを示してみたいと、思っている。
ただし、私は経営指導員でもないし、中小企業診断士の免許もない。企業経営の経験もない。一介の公務員に過ぎない。強いて言えば「風変わりなところもあるが、常識人である」というのがせいぜいのところ。本稿は自分の考えを整理するための、ノートでもある。申し訳ないが、内容には責任を負えない。
とはいっても、これまで巷ではいろいろ経営力向上に言及されていることも多く、それをうまくまとめれば、経営指導に従事する皆さんの参考程度にはなろうかと、考えている。
本稿では、「気づき」に加え、「見える化」「仮説」をテーマとして加えた。この3つのキーワードを使って、経営力とは何か、その向上とは何か、について検討してみることにしたい。


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