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ベテランの相談担当は、「答えは相談者が持っている」という比喩をよく使う。
こういう言葉をさらりと言える窓口担当者は、かなり場数を積んだ熟練者だと思ってよい。 |
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誰も赤の他人に自分の弱みをさらけ出したりしたくはない。
それでも経営者が相談に来たということは、内情はかなり切迫しているということだ。
相談者としての本音は、「かなり危ない、が、ひょっとすれば、打開策があるかもしれない」というあたりにある。
しかし、発言内容は、「厳しいが、何とかなると思う。ただし、具体的な方策がわからないので、教えてほしい」ということになる。
そんな経営者に対して、「そうは言っても、現実は・・・」などと、反駁してはいけない。
まずは、その物言いを受け止めよう。それも「上辺だけ」であってはならない。経営者の立ち位置に実際に立っているということを前提として、方策を考えてみる。
でも、簡単には打開の手立ては思い浮かばない。・・・それでいい。その不安な気持ちを経営者と共有して初めて、相談のスタートラインに立ったといえる。 |
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そのうえで、経営者の運んできた「答え」を、話してもらう。
事前準備や、これまでのやり取りで、経営指導員のあなたは、もう十分に経営者の信頼を得たはずである。だから、簡単な誘導で、経営者の持っている「答え」を引き出すこともできるはずだ。
ストレートに「それで、あなたはどうお考えなんですか」と聞くこともあるし、
「お話ぶりからすると、もう、結論はお出しになっているようですね」とカーブを投げることもある。
「先日、同じような悩みを抱えた経営者さんが、こうおっしゃっていましたが、あなたもそう思いますか」とスライダーで様子を見ることもできるし、「私は、○○と思うのですが、たぶん、あなたとは違う意見だと思います」と、思い切ってフォークボールを投げることもある。
このときの真実は、大概、経営者本人にとって認めたくない内容だ。
信頼関係がない段階で「やっぱりそうでしたか・・・」と言うと、「こいつ、最初から俺を疑っていたのか」という受け止め方をされる。
しかし、信頼関係が成立していると、「この先生は何でもお見通しなんだな」となって、ぐぐっと距離が縮まる。
この辺のところが、人と人との関係の機微だ。 |
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経営者の本音を聞くと、唖然としてしまうこともある。
「どうして、そんなになるまで放って置いたんですか」と言いたくなる。それはこらえよう。
多くの場合、状況は困難で、経営指導員として経験を積んできたあなたにも、明確な回答は見つからない。
そこまで迷っているとすれば、とりあえず「経営者本人の判断に同意する」というのがベストな選択だ。 |
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「私にも、どうすればいいのが、正直なところわからない」と、まずは素直に認めよう。
そのうえで、「最終的に経営の責任をとるのはあなたなんですから、自分の気持ちに正直に従ったらどうでしょうか。」と言ってみる。
この後に及んでも「でも・・・」と言うような優柔不断な経営者の場合、専門家による相談を予約するとか、家族に相談してみたらとアドバイスするとか、ベクトルを別方向に向ける方法もある。
時間の余裕がなければ、いくつかの選択肢を提示して、本人に選ばせる。
この際、コピーの反故紙の裏面などをメモ代わりにして表を作り、「選択肢Aだと、メリットはこれ、デメリットはこれ」、といった具合に状況を整理していく。
「どうです。だったら、選択肢はAでしょう」というぐらいに示して、本人の判断を待つが、それでも決断できない相談者はいる。
そういう人は、そもそも経営者には不向きな人なのだ。「私がアドバイスできるのは、ここまでです」とキッパリ言って突き放すことが、最善の選択肢になること多い。 |
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ついでながら、相談者への対応手法のバリエーションについて付記する(※専門家でない者の我流の判断であることに注意)
- コーチング
「あなたの目標とするのは、○○だ。私もいっしょに頑張るから、二人で○○を目指そう」
- アドバイス
「○○してみたらどうでしょう。□□という方法もあります。△△もいいですよ。××は止めておきましょうね。」
- コンサルタント
「これまでの話を整理すると、あなたの取るべき道は、(1)○○、(2)□□、(3)△△、(4)××です。決断するのは、あなたです。さぁ、この中からひとつだけ選んでみましょう」
- カウンセリング
「なるほど、○○ですか。□□も気になるのですね。△△や××はそれに比べると、あまり乗り気ではない・・・。ということは、○○を選びたいとお考えなんじゃないでしょうか」
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このうち、責任を負う危険をみると、1.→4.の順になる。コーチングだと、「あなたの意見に従ったら、こんな結果になった」と批判されがちだ。
逆に、相談相手の主体性を強化するという点で最も優れているのは4.になる。だが、簡単にはこんな対応はできない。
多くの相談において、3.は標準的な対応方式となっている。
「あなたは、こうすべきですよ」という、格好の良い回答を出すのは簡単だが、歯切れは悪くとも、最終決定権は経営者にあることを忘れてはならない。 |