tsudax99
「気づき」と「見える化」と「仮説」と・・・経営改善指導への一提言


(9) 仮説: シナリオ作成能力が求められる

わかりやすく説明するには、ストーリー仕立てが便利。

  さて次は、かかる状況に際して、経営指導員はどう対処するか、ということになる。
目指すところは、経営者の気づきと、現場の自律性の向上と、人材の育成だ。
  経営者に気づきを与えるためには、問題点・改善計画・解決手法・到達目標を、いかにして分かりやすく説明できるかにかかっている。
これが実現できるかどうかは、指導員の作るシナリオの良し悪しによって、大きく左右される。
  試しに経営指導のシナリオを書いてみよう。
【起】商工会の経営指導員が来所。東京都の新事業の体験を要請され、了解。後日、経営指導員と中小企業診断士が来所。経営者から当社の抱える課題について説明。診断士から○○の必要性について、助言。指導員に適切な対応策の選定を依頼。
【承】経営指導員から助言を受ける。イノベーション計画を策定し、現場に提示。現場からの反発。
【転】現場の意見を踏まえ、経営指導員と調整しながら、当初の計画を再検討する。
【結】経営力向上計画が策定される。経営者は、この計画に基づき、事業運営の改革に乗り出す。現場もこれを受け入れる。
  これが標準的なシナリオになるだろう。
経営指導員は、最初から仰々しい事業計画書作成を要求してはならない。
経営者が気軽に作成する、簡単な事業改善プランを作るという気持ちで、経営者と接してほしい。
双方の関係がうまくいけば、かなり踏み込んだところまで改善策が作成できるだろう。
上っ面な関係で終われば、資料を渡して「がんばってくださいね」との声掛けをして、終わりになる。それでは、経営者に手間をかけさせただけである。
  そこで「仮説」を作るという心構えが必要になる。仮説を立てるためには、「なぜ」「なぜ」と繰り返し、その原因を考えていく。
経営者の悩みの多くは「資金繰り」に関するものだ。原因は、(1)既存事業の収益低下、(2)新規分野への参入であるが、(2)についてもその背景に(1)があることが多い。
収益低下について分析する場合は、かつて事業収益が良かった頃と今を比較して、何がどう変わったのか検討してみる。
例えば、保育園収益が減→園児が減った→子どもの数が減った、という絵柄が描ける。
とすれば、(1)利用料金を上げる、(2)従業員を減らして経費を浮かせる、(3)子ども関連のビジネスを新展開させるといったものから、思い切って園を廃止するというところまで対策が出され、各々その是非が検討できる(※余談だが、以前、多くの人たちは少子化で保育施設は構造不況になると考えていた。しかし、現実には、働かざるを得ない母親が増え、ニーズは上がった。社会はそう単純なものではない)
  逆の見方をするのも面白い。
経営環境の波は今までも何度かあり、多くの企業が姿を消していった。しかし、目の前の中小企業はその荒波を乗り切ってきたのである。とすれば、そこに企業の「強み」がある。それは何なのか? 強みが分かれば、それを伸ばすところに活路が見つかるかもしれない。
例えば、エーワン精密という会社があり、社長が「町工場強さの理由」という本を出している。この会社の強みは短納期だ。社内には、常時遊んでいる工作機械があり、仕事をしていない技術者がおり、原材料の在庫にもゆとりがある。考えてみれば、トヨタのカンバン方式のまったく逆のことをしている。しかし、だからこそ短納期が実現できる。
他の製造業が同じ手法を使っても、おそらくうまくいかない。エーワンが短納期で成功しているのは、取扱いが工作機械の治具(チャックとカム)に特化しており、その故障時の緊急対応において他社の追随を許さないからだ。顧客のニーズと自社の体制がぴったりマッチしている。そこが肝心なのである。
  製品の良さで勝負するのではなく、顧客の欲しがるものを作る、カッコイイ表現を使うなら「プロダクトアウトではなく、マーケットイン」ということになる。その観点で、事業内容を見直してみる、というのも仮説設定の道具立てのひとつになる。
というのも、自社製品へのこだわりがあまりにも強いと、こうした観点が見えてこなくなるからである。
「いいものを作っているのに売れない」という場合、顧客側に状況変化がないか、あらためて考えてみることが必要である。
  変化の早さも要注意だ。「今流行の・・・」という事業に乗り出すと、事業が立ち上がったときには「すでに流行遅れ」になっている危険性もある。
健康ビジネスというのがある。古くはぶら下がり健康器から、紅茶キノコ、ココア、納豆、バナナ、室内ランニング用機器、エクササイズDVDなどなど、はたしてどれだけのものが現役で稼働しているものだろうか。次々と流行は移り変わっていくので、それが過去のものになっていることにすら消費者は気づかない。そこでまた、新しいものに手を出す。
しかし、生産者側はそうはいかない。大量の不良在庫を抱えれば、大きなダメージを被る。だから、先へ先へと市場動向を読んでいく必要がある。
これだけ流行廃りがある健康ビジネスだが、ひとつだけ変わらないものがある。それは、人々の「健康」に対する欲求だ。これだけはいつの時代も変わらないし、この先もそうだろう。
猛烈なスピードで変化する社会の中にも変わらないものはある。それはそれで、また、面白い。


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