月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第02話 1937年 『血の契約』

 赤レンガの住人たち

 マル3計画 (艦艇建造予算8億0654万9千円 + 航空隊整備予算7526万7千円)

 戦艦 大和、武蔵 (1億0793万3075円×2) → 廃止

 「空母2隻、強襲母艦2隻、駆逐艦14隻、潜水艦13隻、ほか、40隻」

 「航空隊24隊か」

 「旧式艦艇の廃艦と、戦艦の建造をやめるだけで海軍航空部隊創設を倍にできるとはな」

 「陸軍予算の追加で強襲母艦2隻は、良いような、悪いような・・・」

 「上陸作戦兼用だからね」

 「シグマ・キャリアは、大丈夫なんだろうな?」

 「成果を上げていたから、戦艦の建造をやめたんだろう」

 「夜中に高度1500mから爆弾を落として、それを艦艇に命中させたら列強に疑われないか?」

 「だから・・・あれだ。なにか、ほら、電波で位置を測定できたことにすればいいのでは」

 「んん・・・そういえば、そういうのが、あったような・・・」

 「ああ・・・たしか・・・や・・・八木・・・」

 「それ採用!」

 「しかし、まだ海の物とも山の物ともしれんぞ」

 「なんでもいいや、予算注ぎ込んで形にしてシグマ・キャリアの戦果を誤魔化してしまえ」

 「だけど、戦艦の建造をやめると予算上は、余裕だな」

 「艦載母艦は?」

 「水雷艇、甲標的、水上機の夜戦部隊か」

 「これまた、シグマ・キャリアを前提にしないとあり得ん艦艇だな」

神州型強襲母艦
排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速度 航続距離 武装 艦載機 艦載艇
25675t 257.5m×29.0m×8.87m 80000 28kt 18kt/97000 120mm×4 25mm×40 〜36 〜40
神州、鳳州

 「シグマ・キャリアが陸軍管轄なのがむかつく」

 「しかし、瑞鶴型クラスの強襲母艦を2隻とは、陸軍も随分、思い切ったね」

 「陸軍の予算が足されなければ作れなかったかな」

 「艦載機格納庫は一層だけど、下層は、魚雷艇、甲標的、水上機を搭載できる」

 「大発を載せて、上陸作戦にも使える多目的艦だよ」

 「純粋に瑞鶴型空母の方が良くなかったか?」

 「陸軍のお金が使われてるから」

 「それに機関を半分に減らすと建造費が8パーセント浮く」

 「相変わらず。複雑なモノは苦手だな」

 「しかし、特殊能力者の組織を作ると、列強に感付かれるのではないのか?」

 「忍者の生き残りを徴兵した事にしたらどうだろう」

 「つまり、日本古来の特殊部隊にするのか?」

 「じゃ 訓練課程は、政府も軍も与り知らぬということかな」

 「元々 存在していて生き残った連中なら特異な戦果があっても、列強は見逃してくれるかもしれない」

 「それで忍者部隊は、どうするの?」

 「なんでもいいや、適当に見繕って、そいつらの鍛錬の賜物にしてしまおう」

 「風魔は名前が、かっこいいぞ」

 「それにしよう。首領の名前は、風魔法遍」

 「「「あははは・・・」」」

 「そんなの裏を取られたら一発でばれるだろう」

 「「「・・・・」」」 ため息

 

 

 呉

Sボート
重量 全長×全幅×吃水 馬力 速度 航続力 武装 機雷 乗員
100t 32.76m×5.06m×1.47m 3960hp 43.8kt 30kt/800海里 20mm×2 533mm×4 6 30

 隊列を組んだSボートが湾内を疾走していた。

 一糸乱れぬ回頭は、人々の視線を集める。

 「きっもちいい〜」

 艇長は突風に近い風を受けながら面白がった。

 「か、甲斐艇長。遊んでないで・・・」

 「あらよぉ」

 「て、艇長!!」

 1隻が隊形から離脱し、長門へ近付いて行く、

 長門の巨大な舷側が見る見るうちに迫り、

 巨艦の原則とSボートの隙間は1メートルを切り、

 「「「「・・・・」」」」 ごっくん!

 十数メートルの海水を吹き飛ばしながら長門舷側を掠め・・・

 「「「「・・・・」」」」 真っ青

 旋回していく、

 「「「「・・・・」」」」 ほぉ〜

 「艇長〜〜」

 「アメリカのPTボートとどっちが強いかな」

 「Sボートは100t級。PTボートは50t級です。簡単には負けませんよ」

 「まぁ 相手は戦艦だけどさぁ♪」

 「外洋に出ると、時化で性能が落ちるはずですよ」

 「こっちの方が大きいんだから、PTボートより落ちないよ」

 「それに強襲母艦に乗れば、遠くまで行けるさ」

 「強襲母艦は、陸軍の管理ですから基本的に大発です」

 「Sボートが載せられるとは限りませんよ」

 「果報は寝て待てかな」

 「寝てたらクビになります!」

 「あはははは」

 

 

 戦艦 長門

 「使えない簪なんかいるか! 邪魔なんだよ」

 バンッ!

 うるさ型の士官が机を叩き、

 将校は奥歯にモノが挟まったような、答弁を繰り返す。

 「まぁ 長期的な視野に立った投資だよ」

 「あのな、天井の上にある簪モドキの性能を見て言ってんだ」

 軍艦にとって重心は、重要な案件であり、

 陸上と違って無駄な装備は載せられない。

 そして、一騎当千の将兵が選りすぐられ乗艦する。

 それが海軍を強くする方法であり、

 海軍の査定の中心でもあった。

 「あんなものは、無駄だ!」

 「あ・・我々にとっては無駄かもしれない」

 「しかし、列強はどうだろう」

 「あれを見て、日本艦隊はレーダーを装備している。強いかもしれない」

 「そう思わせられるじゃないか」

 「張ったりで国防をするつもりか」

 「き、君ぃ 揶揄な言い方をするとだな」

 「国防なんてものは、ハッタリとこけおどしが半分みたいなものだよ」

 「し、失礼します!」

 士官は呆れたように出て行く、

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 「人事で怒っとるな」

 「Sボートの人事に後輩を割り込ませるから〜」

 「そりゃ シグマ・キャリアは機密で言えませんし」

 「B型優位なんて、ふざけた決定は、公表できませんからねぇ」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 

 

 スペイン内戦

 

 

 満州帝国

 平然と麻薬が売り買いされていた。

 麻薬は、満州国の専売で、税収であり合法だった。

 漢民族が侵入するほど、騙し、殺し、奪うの犯罪が多発し、世相が悪化していく、

 虐げられ奪われた者たちは、生き地獄の中で苦しみもがき、

 手段を選ばなくなっていく、

 それでも満州国の犯罪は、中国大陸より少なく、日本より多かった。

 ハルピンの喫茶店

 某関係者たち

 「まったく、満州は、匪賊の巣窟だな」

 「華北なんて無視して、国境を閉鎖して漢民族を締め出せばいいのに馬鹿が」

 「軍の功名心だろう」

 「大本営といっても門閥だからな、傲慢が軍服を着てるようなものだ」

 「お偉方は、徴兵された農民息子の命なんて虫けらにしか考えていない」

 「どうせ、手柄を立てて自分の派閥を作って、楽な余生を過ごしたいんだろう」

 「赤紙は一銭五厘だから虫けらより価値があるよ」

 「しかし、このまま軍縮できなければ日本の国家財政は破綻するだろう」

 「それでも軍上層部で一度甘い汁と吸うとやめられないよ」

 「軍上層部だけだろう」

 「中堅は潰しのきかない連中ばかりだし」

 「下っ端はがっちり押さえられて捨て鉢になってるし」

 「クーデター紛いの事をしたくなる気持ちもわかるな」

 「あれも、軍上層部の意を汲んで起こしたようなものだろう」

 「ヤクザの心境だな」

 「どこが得をしたかで、だいたい見当がつくね」

 「しかし、軍隊も綺麗ごと言ってりゃいいんだから楽でいいよ」

 「ふっ いまさら師団を解体して農作業なんてしたくないだろう」

 「コツコツ農家やっても国に収入を奪われるからな」

 「世の中、コネ、実力、能力がないと社会で働いても使い捨てだからね」

 「日本は貧しいからな」

 「男は軍人で女は女郎。こんな国に誰がしたってやつかな」

 「その方が都合の良い連中が日本をそっちへ追いやってんじゃないか」

 「しかし、戦艦の建造を見送ったというし、妙な空気はある」

 「逆に陸軍が海軍整備に金を出した節もあるけど」

 「強襲母艦だっけ」

 「陸軍が海軍艦艇に防疫給水区画を作らせる代わりに建造したの」

 「なんか、日本も妙な軍隊になったな。海軍は抵抗してないみたいだし」

 「むしろ、陸軍が防疫給水部の悪口言ってないか?」

 「どうせ、頭悪いから、医者を妬んでんだろう」

 

 

 石井(731)機関

 丸太たちが集められ、研究が進められていく、

 臨床が進み、安全性が増すにつれ、

 日本軍将兵の中からB型血液者が選択され、石井(731)機関に集められる。

 日本人の血液型はA型39%。O型29%。B型22。AB型10%

 単純計算で艦長、指揮官の78パーセントが人事異動させられるか、

 また、昇格・降格にも繋がってしまう。

 そして、残るB型22パーセントも・・・・

 暴れる海軍将校が研究員たちに羽交い絞めされていた。

 「大佐。ご決断を・・・」

 「・・ちょっ ちょっと、待て、石井中将」

 「大佐。チクッ! とするだけですから」

 「少し痛いのは、愛国心で我慢していただいて・・・」 にや〜

 「は、離せ」

 「そ、そんな臨床もまともにできていないモノを打てるか!」

 「自分は、私心はないし、私利私欲もないと言ってたじゃないですか」

 「ば、馬鹿野郎! あんなのはウソに決まってるだろう」

 「またまたぁ 天命に誓って、身命を国家に捧げていることに嘘偽りはない、とも・・・」

 「威勢よく大義名分をいうのが軍隊の処世術なんだよ!」

 「予算を増やせば海軍は安泰。俺たちもいい思いができるだろうが!」

 「もう、やだな、冗談ばっかし」

 「恥ずかしいからって照れないで下さいよ」

 「人の話しを聞けよ!」

 「大丈夫ですよ。大佐の気持ちは、わかってますから」

 「わかってねぇえよ!」

 すぅ〜

 「うっ 打つなら、まず、お前が打て!」

 「わたしは、B型ではありませんし、艦の指揮官でもありませんし・・・」

 赤い血液の入った注射器が大佐の目の前に・・・

 ごくんっ!

 「だっ 断固、拒否する!」

 「ろくすっぽ指揮もできないような馬鹿な若造があなたの上官になるだけですよ」

 「それこそ、海軍は大打撃。戦う前に負けじゃないですか」

 「ふ、ふざんけんな!」

 「その通り、大佐ぁ あなたは、艦長で、いたいはずだ・・・」

 「こ、こんな・・や、やめ・・・ぅ・・・わ・・・わぁあああああああああああ〜!!!!」 涙目

 「」

 「」

 

 軍医たち

 「B型か、まったく、日本軍には碌な将校がいないな」

 「A型なら選択肢も増えるんだけどな」

 「適性もないのに出世させると、人間関係を壊しそうな連中ばかりだ」

 「だいたい権威と年功序列を無視したら滅茶苦茶になるだろう」

 「相変わらず、日本陸海軍は硬直してんな」

 「馬鹿でも年上でキャリアなら諦めてオベッカを使うさ」

 「優秀なら年下で馬の骨でも我慢するさ」

 「しかし、例え、特殊能力があったとしてもだ」

 「年下で馬鹿な奴の下に付けるか」

 「だから、個人技を生かせる航空機とSボートの兵装に予算が流れているのだろう」

 「元々 B型血液の艦長は良いがね・・・ああも、暴れられちゃ・・・」

 「今度は、後ろから殴って気絶させた後、注射するか」

 「睡眠薬入りの食事を取らせてからでは?」

 「人権無視はヤバい気がするけどな」

 「大丈夫だよ。自称、滅私奉公で崇高な精神な将校ばかりだ」

 「・・中将。巡洋艦、青葉の艦長が到着しました」

 「そうか、通してくれ」

 「はい」

 「」

 「」

 

 会議室

 「輸血された血液は同じでも、輸血された彼らの個体といいますか、個性といいますか」

 「融合した反応は、指紋のような個性のある脳波を出しているようです」

 「パーソナル化?」

 「生体に反応しやすい者」

 「個体に対し反応しやすい者」

 「液体に対し反応しやすい者」

 「気体に反応しやすい者に分かれてきている事でしょうか」

 「なるほど、脳というか、個体というか、身体の個性で出てきたわけか」

 「戦争じゃ 個人用のパーソナルデーターなんて役に立たんがな」

 「それが・・・」

 「ん?」

 「副作用を恐れて適量輸血をしたのですが、能力的に低くなるわけです」

 「それは仕方がないだろう」

 「シグマ・キャリアは日本国民であり、日本国の軍人なのだから」

 「それで、研究を続けた結果、反応しやすいだけでなく、反応させやすい物質も検出されたわけです」

 「ほ、本当に?」

 「はい、血と反応しやすい物質と溶かした結果・・・」

 書類が上司に渡される。

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「え、遠隔操作できるのか?」

 「2〜6℃で21日間ですが・・・」

 「2〜6℃って、血を冷却しておく必要があるのか」

 「はい」

 「まるで、血の契約。魔術の世界だな」

 「しかし、反応が弱過ぎるな」

 「ですが、真空管をオンオフさせる程度なら・・・」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「もっとデーターを集めてくれ、大本営に行って来る」

$B!!BB

 

 

 ナチス・ドイツ空軍がゲルニカを空襲

 

 

 ニューヨーク

 “・・・大変です!”

 “ヒンデンブルクが突然火を噴きました!”

 “本当です!これはどうしたことでしょう!”

 “上空150メートルの所で燃えています”

 “どんどん火の手が大きくなっています”

 “船体が地面に激突しました”

 “ちょっと、前の人どいて下さい”

 “どいて、どいて!”

 “ああ、なんと、見たこともない恐ろしい光景だ”

 “最悪の事態だ!”

 “もう、言葉になりません、とても実況などできません・・・・」

 空に浮かぶヒンデンブルク号が炎に包まれ落ち崩れていく、

 

 

 

 イギリス スピットヘッド沖

 エドワード8世に代わり、新国王となったジョージ6世の戴冠式を記念し、国際観艦式が行われ、

 イギリス海軍艦艇145隻、外国艦艇18隻が参列していた。

 ダンケルク型戦艦ダンケルク (フランス)

 ニューヨーク型戦艦ニューヨーク (アメリカ)

 ガングート型戦艦マラート (ロシア)

 リバダビア型戦艦モレノ (アルゼンチン)

 ポケット戦艦 アドミラル・グラーフ・シュペー (ドイツ)

 スヴァリイェ型海防戦艦ドロットニング・ヴィクトリア (スウェーデン)

 イルマリネン型海防戦艦ヴァイナモイネン (フィンランド)

 ニールス・ユール型海防戦艦ニールス・ユール (デンマーク)

 装甲巡洋艦イェロギオフ・アヴェロフ (ギリシャ)

 ジャワ型軽巡洋艦ジャワ (オランダ)

 キューバ型軽巡洋艦キューバ (キューバ)

 リゲーレ・フェルディナント型駆逐艦レジナ・マリア (ルーマニア)

 チュルカ型駆逐艦シスカル (スペイン)

 ウィッチャー型駆逐艦バーザ (ポーランド)

 コカテーペ型駆逐艦コカテーペ (オスマントルコ)

 スループ艦バーソロミュー・ディアス (ポルトガル)

 カレフ型潜水艦カレフ (エストニア)

 そして、妙高型重巡洋艦 足柄 艦橋

 B型血液の艦長が外を眺めていた。

 突出した指揮能力もなく、期も若い、

 後ろ盾は、推薦した陸軍の石井(731)機関だけだった。

 鬱陶しい事に防疫給水部は艦内の一角を占有しており、

 艦内の武器弾薬にまで、口出ししていたのだった。

 一方、補佐は年上の先任将校でベテランであり、

 実力、人望、指揮、能力の多くが上だった。

 なぜこのような出鱈目な人事が行われたのか、

 日本海軍始まって以来の現象で、周りは納得しない、

 とはいえ、参謀本部も状況を理解しているのか、副長の給与が多く、

 艦長も基本的に副長の指揮に任せていた。

 「ジョージ6世の戴冠式か、豪勢なものだ」

 「イギリスは、世界最大の海軍国ですからね」

 「斜陽だけどね」

 「艦長。陸軍の防疫部が砲弾と魚雷を管理するのは、如何なものかと」

 「んん・・・参謀本部が決めたことでもあるし、わたしからは、なにも言えんよ」

 「艦長は、石井機関の推薦だとか。何か、コツでもあるのですかな」

 「い、いや、何か、身体的な耐性だそうだ。詳しくは、わからんのだが・・・」

 「次の戦いで、化学兵器や細菌兵器が使われる可能性があるのですか?」

 「き、君の言いたいことは分かるよ」

 「平常は君に任せるよ。ただ有事の戦場では、わたしの指揮が優先する」

 「・・・分かりました」

 

 艦内の防疫室

 表向き、対BC兵器対策用の最高機密で、一般将兵は出入り禁止だった。

 そして、この空間を作るため、兵装も減らされてもいた。

 艦長は、冷却材の中の血が混ざった溶剤に意識を向ける、

 真空管が反応するとベアリングが回り、舵らしきモノが動いた。

 「艦長。魚雷の舵は、誘導が楽かもしれませんが」

 「砲弾に仕込んだベアリング。一種の地球ゴマですが微調整にとどまります」

 「わかっている。しかし、きちんと爆発するのだろうな」

 「はい、冷却材と誘導する溶剤、制御装置は、最高機密です」

 「普通、見られても無用な装置と思われるな」

 「いえ、不発で調査されたら間違いなく疑われますよ」

 「まぁ 信じられないでしょうが」

 「問題は、視野に入っていなくても思い通りの精密誘導ができるかだな」

 「巡洋艦に爆雷投射基を装備したのだって、シグマ・キャリアの力を信じてのことですよ」

 「最近、副官と乗員の視線が辛いのだが?」

 「イザとなったら、超長距離から魚雷を標的に命中させてやれば、大人しくなりますよ」

 「いまやりたい気分だ」

 「それは駄目でしょう。人の口に鍵は掛けられませんからね」

 「俺は村八分なんだぞ」

 「まさか、状況が許されたら、さらにシグマ・キャリアを乗せられますし」

 「もうしばらく、我慢してください」

 「Sボートの艇長の方が楽だな」

 「しょうがありませんよ」

 「いくら軍がどんぶり勘定でも、血税で建造した巡洋艦を簡単に沈められたくないでしょう」

 

 

 パリ万国博覧会開幕(Γ渦咳胸11月25日)

 

 

 

 スターリンの赤軍大粛清始まる

 

 

 

 満州国の南に中国領の山海関があり、

 そこから南の100kmの地域は、上海停戦協定で非武装地帯となっていた。

 しかし、中国は、保安部隊を配置し、抗日軍事支配を強めていく、

 日本側は、中国に抗議したものの、

 中国は、国民革命軍第29軍を中立地帯に前進させようとしていた。

 日中両軍は、極度な緊張状態となり、

 時折、散発的な銃撃戦が行われていた。

 日本軍将校たち

 「中国軍は、戦う気があるような気がするな」

 「ああ、北京に近過ぎた」

 「というより、日本人が中国歴代夷狄(いてき)王朝の手法を取らなかった」

 「つまり、官僚から賄賂をとって、匪賊と組んで中国民衆を支配するのか?」

 「いけないか? 世の中、弱肉強食だろう」

 「日本人は建前が好きなんだよ。つまり、自己正当化と自己満足な偽善・・・」

 「アホが・・・」

 「しかし、なんか、ヤバい雰囲気だな」

 「「「「・・・・」」」」

 天空を大陸の星々が瞬いていた。

 

 

 満州国 ハルピン

 石井(731)機関

 電話中

 「・・・はぁ 前線だから忙しいだとぉ」

 「いい加減にしろ!」

 「次は、お前らの部隊だろうが」

 「・・・ああ・・・・ああ・・・分かったよ。だがいつまでも待たんからな」

 がちゃん!

 「・・・けっ 海軍を先にやらせるとは、陸軍も、とんだ臆病者だよ」

 「さてと、関東軍から先にやっていくか」

 「なんか、演習とか、言ってたっけ・・・」

 「どいつもこいつも、怖気づいて後ろに回りたがりやがって、人間のクズだな」

 「まあ 銃口の前で虚勢を脹れても、注射器を前に虚勢を張れるやつはいないさ」

 電話が鳴り響く、

 「もしもし・・・・・はあ・・・盧溝橋で中国軍と交戦状態になった〜!」

 前線で一人の日本人が行方不明となり、

 その事が発端となり日本国と中華民国間で日中戦争が勃発する。

 

 

 日本政府、華北へ出兵することを発表。

 盧溝橋事件現地協定成立

 

 日本軍、華北で総攻撃を開始

 

 

 冀東防共自治政府保安隊(中国人部隊)約3000人が、

 日本軍留守部隊約110名と、婦女子を含む日本人居留民約420名を襲撃し、

 約230名が虐殺される通州事件が起こった。

 

 日本軍が天津を爆撃

 

 上海

 乗用車が日本の紡績工場の検査に向かっていた。

 「ん?」

 「中尉。中国保安隊です」

 !?

 「・・全速で突破しろ!」

 「し、しかし・・・」

 「急げ! 轢き殺しても構わん!」

 突如 車は、速度を上げ、

 止めようとした中国保安兵士を次々と薙ぎ倒し、

 ハチの巣になりながらも銃撃の中を突っ切っていく、

 「中国保安隊が隠れてました」

 「そのまま、突っ切れ!」

 上海郊外で、大山海軍中尉と斎藤水兵が襲撃される(大山事件)

 二人は無事に窮地を脱したものの、

 日中間の緊張状態は、さらに高まっていた。

 

 

 ハルピン 石井(731)機関

 新聞が届けられ・・・

 「一体どうなってるんだ」

 「中国の反日運動は、一向に収まらんじゃないか」

 「石井中将。参謀本部から夜間部隊を出して欲しいそうです」

 「直接、中国軍の指揮所を爆撃するつもりか?」

 「そのようです」

 「風魔部隊は、訓練中だし、決戦部隊だぞ」

 「参謀本部は、決戦に至る前に事態を終息させたいのでは?」

 「しかし、まだ訓練課程中だろう」

 

 

 

 大本営会議

 「まだ戦うべきではないと思われますが」

 「向こうが仕掛けてきたのだ!」

 「山海関を押さえているのでしたら、中国軍が押し寄せようとも撃退できる」

 「いったん退いて、永久堡塁を構築し、満州帝国を守るべきでは?」

 「満州帝国側に漢民族が流れ込んでいる。挟撃されるかもしれない」

 「だから長城を永久堡塁として伸ばして漢民族を排斥し」

 「日本人によって満州帝国を運営するのです」

 「しかし、中国軍が先に攻撃してきたのだ、華北まで押さえるべきであろう」

 「華北を押さえれば次は中原。中原を押さえれば揚子江」

 「揚子江を押さえれば・・・それでは切りがありません!」

 「大陸全て、制圧すればよかろう」

 「そんな国力が日本にあると思いか?」

 「このまま、推移すれば列強に介入され、日本はますます孤立化していくのでは?」

 「だから、押していくべきだ!!」

 「しかし・・・」

 「風魔部隊は、順調なのではないのか?」

 「訓練中ですが甲種査定と全く違う、査定ですし、数が足りませんね」

 「・・・・」

 「と、とにかく、シグマ・キャリアなら勝てる!」

 「無茶言わんで下さい」

 「シグマ・キャリアは有利でも、それは、同兵力。同水準の兵器と戦っている間です」

 「一騎当千なのだろう」

 「帝国の精鋭軍を大陸の犬畜生相手に無駄死にさせる気ですか!」

 「ぐ、軍医の出る幕ではないわ!」

 「「「「・・・・」」」」 むっすぅううう〜

 

 

 

 上海

 海軍陸戦隊と中国軍が交戦開始(第二次上海事変)

 上海派遣を閣議決定

 

 日本政府が国民政府の断固膺懲を声明し全面戦争開始

 

 日本海軍機が南京に対して初の渡洋爆撃

 

 中華民国が対日抗戦総動員令を発令

 

 米国政府が上海の居留民保護のため陸戦隊1200名の派遣を決定

 

 中ソ不可侵条約調印

 

 ローマ法王庁がスペインのフランコ政権を承認

 

 

 上海 呉淞港

 中国軍用機が外仮泊中の米国汽船フーバー号を日本運送船と誤認し爆撃。

 

 駐米中国大使がフーバー号事件を米政府に陳謝

 

 日本軍が上海に入城

 リベットのほとんどない95式戦車がマイバッハ製ガソリンエンジン2基を響かせ、

 次々と荷揚げされていく、

95式軽戦車
重量 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続力 武装 乗員
7.4t  4.30m×2.07m×2.28m 57hp×2 40km/h 300km/h 37口径37mm×1 7.7mm×2 3

 ガソリンエンジンは、ディーゼルエンジンより燃料を食うものの

 比較的ましな稼働率を発揮し、冬場では特に顕著となった。

 「悪くないじゃないか」

 「ドイツ製工作機械を買ったからだろう」

 「海軍と取引したんだろう。溶接は海軍の技術だよ」

 「最大の利益は、マイバッハ製の稼働率かな。大したものだ」

 「いま、140馬力のマイバッハエンジンをライセンス生産しているらしい」

 「またマイバッハエンジン2基載せるのかな」

 「そうだな。次は、15tらしいから、2基載せないと辛いかもしれないな」

 「しかし、ガソリンエンジンは、静かなのが良いよ」

 「ディーゼルエンジンは煩かったからな」

 「どうせなら、トラックか、ブルドーザーを製造すれば良いのに」

 「上は頭堅い上に偉ぶりたいだけだからね」

 「俺たちに余計な土方をさせたくしょうがないんだよ」

 

 

 

 

 

 上海の英仏両軍は、中国軍の租界侵入には武力で対抗する旨決定

 

 国民政府が日本軍の行為を国際連盟に提訴

 

 

 

 

 国際連盟、

 諮問委員会で日本の軍事行動を九カ国条約・不戦条約違反とする決議採択

 (翌10月6日、総会でも決議)。

 

 

 米国のフランクリン・ルーズベルト大統領、シカゴで侵略国を批判する隔離演説

 

 日独伊防共協定成立(イタリアが日独防共協定に加入)

 

 

 日本軍、上海を占領

 

 日本軍が南京城を陥落

 

 

 

 東京の某キリスト教会

 白人の神父が壇上で説教していた。

 カトリックはプロテスタントより教条的であり形式ばっていた。

 日本人の信者は、特高の影に脅え、

 街の人々の白い目に晒されながら教会に集まり、

 神父の話しを真摯に耳を傾けていた。

 “・・・我々は、偶像を拝むべきではありません”

 “神の子たる、わたしたちは、軍艦、戦車、飛行機を拝むべきではないのです”

 “我々人間は、それらよりはるかに勝る素材なのです”

 “人の手が作る軍艦に投資すべきですか?”

 “軍艦は、我々の様な人間を作り出すことができますか?”

 “軍艦を作ることができる人に投資すべきですか?”

 “考え違いをしてはなりません”

 “わたしたちは、自らの価値を高めるため、自らに投資すべきなのです”

 “軍艦にわたしたちの未来を作れますか?”

 “わたしたち、一人一人が未来を築き上げる力があるのであって”

 “軍艦も飛行機も人の未来を助ける道具に過ぎないのです”

 “日本国を豊かにし、大いなる国にしたいのであれば”

 “目先の野望や利権に囚われず、未来に希望を託すべきなのです”

 “政府は日本国民に投資し、日本民族の価値を高めるべきなのです”

 “そうなれば、一人の偉人が数十倍もの成果を上げ、日本国に福音をもたらすでしょう”

 “支配者の戯言に惑わされ”

 “口で話すこともできず、目で見ることもできず、耳で聞くこともできない”

 “そのような偶像に迷わされてはならないのです・・・”

 神父の説教が終わると人々は歓談し、

 三々五々引き揚げていく、

 カトリックの礼拝堂には、小さな告解室があり、

 神父と壁を挟んで会話ができる場所があった。

 そして、歴史的に数々の密談も告解室で行われる。

 「神父。日本の状況は、どうなってるかね?」

 父親はフランス人、母親はイタリア人、祖父はドイツ人、祖母はポーランド人・・・

 欧州の血脈は、あれこれ入り混ざってよくわからない事も少なくなく、

 ルーツを遡れば、エジプト人に至る経歴の持ち主が聞いた。

 「軍部は経済破綻後も拡大し続け暴走し、大陸支配に向かうはずです」

 「では、こちらの計算通りか」

 「日本の非主戦派層に動きはあるかね?」

 「日本人は保守的で自我が育っておらず、小心で事勿れです」

 「非主戦派は対抗勢力になってませんね」

 「それは助かるよ」

 「しかし、君の話しを真に受けて、日本が正気に傾くことになったら困るな」

 「モンロー主義の強いアメリカは強権を発動できない」

 「ふっ 日本人が、まともな国際バランスを持つか」

 「あるいは体制から自立した価値観を持っていたら、ここまで事態を悪化させませんよ」

 「日本民族は、このまま、事勿れに流されていくはず」

 「ほどほどにしてくれよ。神父さん」

 「大丈夫ですって、保証しますよ」

 「本当に?」

 「“平和を作りだす人は幸いである彼らは神の子と呼ばれる”」

 「そういうわけで、わたしは一生懸命やるだけですし、どちらでも構いませんが」

 「けっ 偽善者が」

 「そうそう、非公式ですが、我々とパイプを作りたがってる人物と接触しました」

 「書生ですが、財界と繋がりがあるようです」

 「・・・なるほど、まぁ 個別にパイプを作ることには反対しない」

 「外交ルートは用意しておこう」

 「お互い、どこに至るルートかわからずにですか?」

 「ふっ 日本帝国に裏があるように、アメリカ合衆国にも裏があるからな・・・」

 軍靴の足音が威圧するように教会の脇を横切っていく、

 窓から見える日本の風景は、殺伐とした空気で張り詰め、軍事色が濃くなっていた。

 

 

 

 大阪工廠

97式中戦車
重量 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続力 武装 乗員
15t  5.55m×2.33m×2.23m 140hp×2 50/h 300km/h 18.5口径57mm×1 7.7mm×3 4

 日本陸軍将校たち

 「ほう、リベットがないとスッキリするじゃないか」

 「ガソリンエンジン2基は燃料を食うな」

 「だけどマイバッハガソリンエンジンはディーゼルエンジンより静かだし、稼働率高いよ」

 「国産主義者が怒ってたぞ」

 「いいよ。シグマ・キャリアが乗るなら数より稼働率だ」

 「本当に夜間砲撃で命中させられるんだろうな」

 「さぁ それは、やってみないと」

 「しかし、微妙な性能だな」

 「15t枠に収めようとするとこうなるんだよ」

 「もう、コンクリートで道路を作れよ」

 「軍事費減らしてか?」

 「「「「・・・・」」」」 むっすぅ〜

 

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 赤い液体の入った注射なんて、正直、瀕死の輸血でもなければ嫌です (笑

 

 戦車野郎の夢は、乗って安心のマイバッハエンジンでしょうか、

 7.5t級95式軽戦車には、5.4t級1号戦車の57馬力エンジンを2基。

 15t級97式中戦車には、8.9t級2号戦車の140馬力エンジンを2基。

 品質が増し、稼働率と機動力が増し、

 溶接を採用していますが火力と防弾はあまり変わらない。

 少なくともDB601の劣化コピーと違って止まっても落ちない利点がありそうです、

 さて、どうなるでしょう。

 シグマ・キャリアは、史実よりチョットましな戦車で勝てるのでしょうか。

 血の契約の遠隔操作で誘導魚雷が・・・

 未来はファンネル化でしょうか (笑

 

 

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第01話 1936年 『創設 石井(731)機関』

第02話 1937年 『血の契約』

第03話 1938年 『覚醒の兆候』