月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第03話 1938年 『覚醒の兆候』

 日本は、日清、日露、第一次と続いた戦争で領域を拡大していた。

 軍事組織と戦力は国家防衛において必要不可欠であり、

 軍部は、軍需産業と結び付くことで勢力を増大させ、

 組織を肥大化させてしまう、

 軍属は、仮想敵国を想定し、愛国という名の錦の旗を掲げ、我田引水に政策を誘導、

 美辞麗句利益に酔わせ、

 反対勢力を非国民。

 あるいは売国奴。

 あるいは共産主義者として糾弾し、ことごとく捻り潰してしまう。

 歯止めを失った軍事費は、国民の財産と社会資本を削ぎ、

 産業を偏らせ、職業選択を狭めていく、

 軍縮と地位削減を恐れた軍部は、クーデター紛いの事件で国権を掌握、

 日本の国力で維持し得る軍事力の分水量を超えてしまう。

 この状況が続くなら日本国は、じり貧のまま、衰弱死を免れなかった。

 しかし、誰もが命を捨ててまで “軍縮し、国家運営の立て直しを図るべし” と言い出せず、

 長いモノに巻かれ事勿れ、悪戯に物資が浪費され、時間が流れていく、

 日本の国勢は、軍事力に偏り、

 軍部は存在感を証明するため大陸へ進出、

 社会基盤を支える産業は軍部の勢力拡大に反比例するかのように衰退していく。

 日本の経済破綻は確実であり、没落を免れ得ない国情へと転落していた。

 愛国心を鼓舞するはず日本軍軍官僚が、己が保身と派閥と利権に自縛され、

 相反する国益のジレンマに苛まれ、

 遂に国家的な強盗殺人を画策するまで追い詰められていた。

 

 大本営の会議室

 シグマ・キャリアの覚醒は、血の覚醒だった。

 彼らは、大なり小なり勘に優れ、五感を超えた第六感を知覚した。

 熟練のベテラン兵士を即席で作りだせる軍事的優位性は図り知れず。

 大本営は、DNA731を第一級軍事機密としてしまう。

 参謀本部会議

 派閥力学と年功序列を狂わせる人事は、海軍大綱だけでなく、軍全体の昇格と降格にも及ぶ。

 新たな人事査定は、これまでの派閥工作と権謀術数を台無しにするため

 会議は荒れ・・・

 石井機関が報告した成果によって新たな人事査定が渋々と認められ、

 激論が終息していく、

 「これ以上は堂々巡りだ。この辺でいいだろう」

 「人事の問題はさて置き・・・」

 席上の者たちは “さて置けるか!” という表情のまま、気力なく黙り込む、

 「問題は、DNA731の輸血対象がB型に限られていることだな」

 「子供は、どうなのでしょう?」

 「丸太で試してるが結果は、まだ先になるよ」

 「それに、こればっかりは、親の承諾がないとな」

 「丸太の様子は?」

 「男女とも同じで第6感が極度に高まる」

 「確かにDNA731で得られる資質は大きい。戦場でも期待できるだろう」

 「しかし、パイロットに求められる資質は、第6感だけではないだろう」

 「精神の安定度、判断力、決断力、視力、機転、知力、体力、経験など総合的なものだ」

 「んん・・・B型血液に限定すると戦力が心もとないし、歪な人事になるな」

 「むしろ、2割の比率だから押し切られたというべきかな」

 「A型血液なら無視されただろうし」

 「それO型、AB型以下なら人事査定に影響するようなこともなかった」

 「「「「・・・・・」」」」

 「臨床は?」

 「大規模人体実験をさせてくれるなら早いと思うけど」

 「そ、それは・・・駄目だろう」

 「そうそう、事は人道上の問題だし、ばれた時、困る」

 「取り敢えず、特異な能力を発揮した時は、風魔忍者の末裔を徴兵した事にして・・・」

 「隣の小作の五作が何で忍者なんだ、ってなるさ」

 「方便だよ。国民の大多数は、どこかの小作の五作なんか知らないだろう」

 「例の誘導装置は?」

 「視野に収めてなくても命中させられる者」

 「視野に収めてないと命中させられない者」

 「疲れやすい者、ムラの多い者など能力に差がある」

 「それと、反応させやすい溶剤も様々だ」

 「個人用の武器誘導装置か・・・軍隊とは思えんな」

 「敵戦艦に魚雷をぶち当てられるのなら我慢すべきだろう」

 「それで97式艦上攻撃機の出来は?」

 「性能は、悪くはないが防弾に占める配分が大きくないか?」

 「シグマ・キャリアは貴重だ。無駄死にさせられん」

 「わかった」

 「もう少し、国防大綱をシグマ・キャリアの特性を生かせる航空機と小型艦を中心に練り直そう」

 「しかし、シグマ・キャリアは、それほどの戦果を上げられるだろうか」

 「まだ、未確認だが、昨夜、徐州の中国軍司令部に夜間爆撃を成功させたそうだ」

 「「「「・・・・」」」」

 「部隊は前進している。数日中には、正確な報告が届くはずだ」

 「夜間爆撃で命中させられるのなら、航空機は、もっと頑丈に作ってもいいのでは?」

 「ものには限度があるだろう」

 「日本製のエンジンは故障が多く、国産車は敬遠されている」

 「ただでさえ、墜落が怖いのに機体を重くしてどうする」

 「それに夜間に爆弾や魚雷を命中させられるからって、パイロットとしての資質は別問題だ」

 「あと、パイロット一人を育てるのに最低でも300時間だ」

 「1人、何ガロンの燃料がいると思ってる」

 「才能がなければさらに数倍は消費してしまうぞ」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「あと、狙撃兵の夜間射撃の戦果を誤魔化す電探だが、それだけでは足りない」

 「というより、対人用の電探なんて的外れだ」

 「個人の兵に電探を携帯させるわけにはいかないからな」

 「なにか、戦果を誤魔化す方法はないのか?」

 「赤外線は、直進性がいいらしいが」

 「それは使えるのか」

 「わからんね。聞きかじっただけだし」

 「開発させてみてくれないか」

 「赤外線照準器の試作でもないとな。疑われてDNA731に気付かれたら事だ」

 「事どころか、アメリカ経由で、DNA731の情報が日本国民に漏れたら俺たちは終わりだぞ」

 「数千人規模で、人体実験してるんだからな」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「ところで、アメリカの日本への締め付けが強くなってきてるが、対策は?」

 「中国侵攻を急がせるべきでは?」

 「いい考えだ」

 「それで、誰が陛下に泥棒したいというのだ?」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 日本軍将校たちが己の所属する集団と立ち位置だけしか考えられなかったこと、

 そのことが日本の災いする。

 

 

 ナチス・ドイツがオーストリアを併合(アンシュルス)

 

 メキシコが国内にある外国所有下の石油資源をすべて国有化

 

 日本、国家総動員法公布

 

 

 

 華北平原は、世界有数の大平原(31万ku)だった。

 徐州は、平原の東南に位置し、

 東シナ海から内陸200kmほど入った丘陵地に囲まれた要衝だった。

 中国史では天下を左右する攻防の焦点として記載されることもたびたびだった。

 日本軍は、上海事件後、西進を続け、その戦略上の要衝に達しつつあった。

 前年の盧溝橋事件で日本と中国は戦端が開かれており、

 上陸していた日本軍将兵は、中国大陸の広大な国土と膨大な人口に圧倒される、

 そして、戦局を打開しなければ人民の海に押し潰される、

 といった強迫観念に日本軍将兵は囚われ、

 恐怖心は集団になることで増し加わる。

 日本軍の居留日本人の保護を名目とし、

 日本の利権の拡大から始まった大陸進出は、漢民族の反発と攻撃を受けた。

 現地の敵意と悪意は、日本軍将兵にとっても脅威であり、

 もっとも愛国心が求められ、

 鉄の規律に支配されるべき日本軍将兵の倫理観を歪めていく、

 「師団長。政府は、不拡大とのことです」

 規律を保とうとする内なる葛藤と

 生存圏を確保せんとするせめぎ合いと軋轢は、過剰な反応として崩れ・・・

 「・・・いや、進撃せねば、やられる」

 「しかし」

 「攻撃するぞ」

 「はっ!」

 日本軍24万は、徐州に進撃し、

 軍編成と規律で劣り、戦意の高まらない中国軍60万は退していく、

 日本軍は徐州を占領しつつあり、

 烏合の衆に過ぎない中国国民軍は、黄河と南中国を守ろるための決断を迫られていた。

 日本軍の隊列が行進していた。

 1人の将校の横に軍医が張り付いていた。

 将校が疎ましいと思っても直属の隷下のため逆らえない。

 『中尉。向こうに行けば、中国人との折衝になりますよ』

 『心配するな』

 『中尉。分かってるでしょうね』

 『わかってるって、軍機は絶対にばれないようにするって』

 『なんか、あなたが一番不安だ』

 『なにを言う心外な。これでも帝国軍人将校だ。軍機を漏らしたりするものか』

 『・・・・』 じー

 伝令の兵士が走ってくる。

 「中尉。御里から手紙です」 敬礼

 「おっ 済まんな、ありがとう」 答礼

 「そういえば、中尉は、上海で中国軍に銃撃されそうになったそうですね」

 「ああ、危なかったよ。あれは九死に一生だな」

 「中国軍に囲まれてたんでしょう。よく無事でしたね」

 「んん・・・あれはな」

 「・・・」 じろっ!

 「チ、チョット・・・夕日に銃剣が光った気がしてな」

 「注意深く見ると、怪しげな人影が幾つか見えたんだ」

 「な、なるほど・・・」

 「帝国陸軍将校たるもの沈着冷静な洞察力」

 「そして、優れた判断力と経験だな」

 「本当ですか。上官は、みな精神論者ばかりと思っていました」

 「馬鹿を言うな。帝国陸軍は合理的である」

 「特に私は、緻密な計算と現実的な状況把握が信条だ」

 「直感やつまらん妄想に左右されるようなことはない」

 「まさに帝国陸軍将校の鏡ですね」

 「そうと・・・」

 !?

 「・・だ、駄目だ」

 「ん? 中尉?」

 「前へ進んじゃ駄目だ」

 「中尉・・・?」

 「水と人の渦が、と、溶けていく。あ、あれは憎しみの水だ」

 中国国民党は、黄河の堤防を爆破、

 氾濫により数十万の住民が濁流(黄河決壊事件)に呑み込まれ水死する。

 

 

 

 

 緑の原野を川が流れていた。

 暖かくなれば雪を溶かし、花々を咲かせ、動物を徘徊させる、

 日が高く昇れば、実りを育み、

 日が低く昇れば、紅葉を作り、

 寒風は葉を散らし、草花を枯らしていく、

 吹き荒ぶ雪は、原野を白銀へ変えてしまう。

 自然の循環は悠久の時を経て繰り返され、

 動植物は日々戦って命を繋いでいく、

 変哲のない原野を人々の思いは、違った印象に変えてしまう。

 横たわる豆満江(521km)は、日本領の満州・朝鮮とソビエト領の間を流れ、

 歪な河川は、国境不明地を幾つも作っていた。

 豆満江とソビエト側のハサン湖を挟む土地は、戦略上の焦点であり、

 日ソ間の緊張を高めていた。

 日本陸軍 朝鮮第19師団 国境警備隊は、国境不明の地を監視していた。

 監視所に交替の士官が着任する。

 「大隊本部に95式戦車が配備されてたよ」

 「やれやれ、コンクリートのトーチカーと大砲が広くて暖かくていいんだがな」

 「虎頭要塞を建設しているらしいけど、こっちにも要塞が欲しいね」

 「こんな川と湖に挟まれた土地のために命がけか」

 「この辺の川は、日本最大の信濃川(367km)より長いし、水量も多い」

 「対ソビエトの橋頭堡になるからね」

 「川があれば防衛も楽だし、開発もしやすくなるよ」

 「本土要塞の大砲を持ってくりゃいいものを・・・」

 「大本営の権威付けだろう。威張り散らかしている癖に怖がりなんだよ」

 「・・・少尉。対岸にソビエト軍です」

 「なに?」

 ソビエト軍は、張鼓峯山頂に基地を建設し始めていた。

 張鼓峰事件勃発(7月〜8月10日)

 朝鮮第19師団は、越境してきたソビエト軍に独断で攻撃を仕掛けたものの、

 日本は大陸で中国軍と交戦中であり、戦域の拡大を望まず陣営へと後退、

 しかし、ソビエト軍は、日本軍へ攻勢を加え、

 日本軍は、守勢を保ちつつ反撃する。

 夜間

 日本軍陣地から銃声が響くと、潜んでいたソビエト軍将校が倒れる。

 日本軍陣地

 38式狙撃銃を構えた男が微笑む。

 「・・・少尉。当たったのか?」

 「たぶん」

 「風魔の生き残りというのは、本当なのか?」

 「噂でしょう」

 「独立731部隊。コード名、風魔か。妙な部隊を作りやがって」

 「「「・・・・」」」

 「大本営め、なにを考えてる」

 「指揮権から外れているのが気に入らん」

 「憲兵を兼ねてないだろうな」

 「まさか」

 軍は、指揮官を殺せば停止する。

 独立731部隊は、ソビエト軍に連携した作戦を困難にさせ、

 チグハグな前進は、各個撃破の対象となり、攻勢力を喪失させていく、

 対する日本軍の組織的な攻勢はソビエト軍に大打撃を与えた。

 

 

 ナチス・ドイツがチェコスロバキアからズデーテン地方を割譲

 

 

 

 広東

 代わり映えしない山河は、いつ果てることもなく続いていた。

 やや淡い光と影が山がちな稜線を浮き立たせ、緑の大地を萌え出で立たせていた。

 雲間から光の束が差し込んで汗と湿気で滲んだ軍服を温める、

 戦場の衣食住は不自由なことこの上なく、

 無理な行軍は将兵の心を苛立たせ不快にさせた。

 いつ撃たれるともしれない戦場にあっては自然を見ても気休めにもならず、

 軍隊ほど強制的に人の意思が踏み躙られ、希望が砕かれやすい組織はなかった。

 不快指数に比例するかのように不届き者を増加させ、

 忠誠の維持と組織崩壊を防ぐため、

 不祥事が起きても “見ざる” “言わざる” “聞かざる” といった事も行われる。

 大本営で地図を見て、作戦を立てているような若い参謀が

 汗まみれになりながら温度と湿度を計り、

 将兵の忠誠心と士気との関連性を記録していく、

 古参の将兵は、そんなモノ上官と兵士の関係でどうにでもなると呟くものの

 “気温30度、湿度50パーセントを超えている、影響は大であろう”

 と若い参謀も意見を変えない、

 いつの頃からか、軍医系の軍官僚が作戦に口を出すようになり、

 直属の部隊まで持ち始めていた。

 そして、強面の参謀たちは、ごねつつ不承不承に軍医に聞き従う。

 軍医と叩き上げ将校の力関係の逆転は、以前なかったことであり、

 軍隊内の力関係の異変は、将兵の間でも話題になった。

 とはいえ、行軍中は、押し黙ったまま体力を温存する、

 将兵が携帯する水食料・武器弾薬は、人が容易に持てる重量に制限されている。

 しかし、距離に比例し、背嚢と38$B<0>.=F$,8*$K?)$$9~$s$G$$$/!"

 将兵は、疲労を最小限に抑えるため考えることをやめ、

 前を歩く背を盲目的に追うばかりになった。

 道の中央をマイバッハの軽快なエンジンとキャタピラの混ざった音が追い越していく、

 兵士にとって、頼りになる盾であり、

 妬みの対象でもあった。

 戦車よりトラックを買ってくれる方が補給が増え、

 戦闘以外で楽ができて嬉しいのだ。

95式軽戦車
重量 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続力 武装 乗員
7.4t  4.30m×2.07m×2.28m 57hp×2 40km/h 300km/h 37口径37mm×1 7.7mm×2 3

 その羨望の95式軽戦車も角度と当たり所が悪ければ小銃弾すら防ぎ切れない。

 とはいえ、銃弾飛び交う戦場で、角度と当たり所がいいことなど稀なことで、

 角度が悪ければ跳弾するのだから、それが、どうした、という論拠も成り立つ。

 戦車中隊は、小隊(3両)3個編成と補給部隊で成り立ち、

 95式軽戦車9両が縦列並んでいた。

 先頭は主砲を正面に向け、

 後ろの車両は、順番に交互に左右に主砲を向け、

 最後の車両は、後ろに向けて警戒する。

 とはいえ、整備士たちが調整してるだけで、

 戦車兵たちは木蔭に入って、西日の暑さを凌いでいた。

 「燃料の補給は?」

 「終わりました」

 「主砲の試射は昼の間にやったし、作戦の根回しも済んだ」

 「後は、時間だな」

 「戦車部隊の先行は、少し不安ですね」

 「一度、力量を見せろってことだろう」

 「隊長。ですが夜中に進撃しなくても・・・」

 「中国軍は多いから、寝込みを襲うのがいいんだよ」

 「待ち伏せされたら不利では?」

 「待ち伏せか・・・」

 「“匪賊に町をあげるから協力してくれ作戦” を連隊長に掛け合ってくれたんですか?」

 「連隊長曰く “大日本帝国軍人たるもの”」

 「“そのような卑劣漢と組んで大陸を支配するような手段を執るわけにはいかん” だそうだ」

 「その建前で、命の危険に晒されるのは、こっちなんですよ」

 「まぁ いいじゃないの、負ける気がしないし」

 「“漢民族同士殺し合わせる” 元、清もそうしてきたのに?」

 「そろそろ行こう」

 「全軍出撃!」

 暗闇の中、

 日本軍の戦車中隊は、機動力を生かして山野を抜けていく、

 砲兵部隊の支援の砲声が戦車部隊の音を誤魔化しつつ、

 中国軍の中に突っ込んでしまう。

 歩哨の中国軍将兵は、暗闇の中突撃してくる戦車に小銃を撃ち。

 味方を起こすものの、

 寝起きの中国軍将兵は日本軍の夜襲に反撃することより、

 我が身大事と安全な場所を探し惑い・・・

 「隊長。ここは、敵中です!」

 !?

 「2時だ。2時に突っ込め」

 小さな95式軽戦車は、軽快なエンジン音とともに

 夜営中の中国軍陣地を蹂躙し、

 しかし、寡兵での突入であることから混乱は終息し、

 大勢を立て直した中国軍の人海戦術に押し潰されそうになった時、

 「そのまま・・そのまま・・・全車停止!」

 「正面、800。てぇ〜!」

 37口径37mm砲9発が中国軍の指揮所を精確に狙い撃ちした。

 「よし、そのまま・・・!?」

 隊長は、狭い車内で体の位置をずらすと、

 ちゅーん!

 わっ!

 小銃弾が飛び込み、

 狭い車内で、乗員が頭を抱えてしゃがむ

 銃弾は数度跳弾して、砲弾と砲弾の隙間で止まり、

 「・・・急いで、離れるぞ。全速後退!」

 指揮系統を失った中国軍は、バラバラになって四散し、

 戦車中隊は、銃痕でボロボロになりながらも全車が後退し、

 主力部隊と合流する。

 「!?・・・おい、伍長。銃を貸せ」

 「中尉」

 中尉は、兵卒から38小銃を借りると、銃を闇の中に向けて構え、

 撃った。

 銃声が響き、周りの将兵は、何事かと警戒する。

 「・・・よし、行こう」

 「何かあったのですか?」

 「なんとなくな」

 広東占領

 

 

 

 夜の武漢上空を日本の単発爆撃機が飛び、

 時折、爆弾を投下し、

 低空に降りると銃撃する。

 “日本軍は、爆弾と砲撃を精確に司令部に命中させる”

 そういう風評が中国軍に流れ、

 中国軍歩哨の位置は、司令部からやや外側へと広がっていく、

 そして、闇夜の空を爆音が横切り、

 司令部の方向に立ち昇る爆炎を見て、不安を覚え、

 多くの中国将兵は、小銃を片手に、うたた寝しつつ、夜を明かしていく、

 揚子江

 大発の大群が揚子江を遡る。

 排水量9.5 t 全長14.8m×全幅3.3m マイバッハエンジン57馬力

 乗員数 完全武装兵員70名、又は、物資11t(トラック4台分の輸送力を持つ)

 速度 9ノット(16 km/h・空) 8ノット(14 km/h・満載時) 航続距離170海里

 戦艦の建造中止で余剰になった資本と器機材と資材が流用され、

 安直な上陸用舟艇が大量に建造されていた。

 大発動艇

 「やっぱり、マイバッハは、いいねぇ」

 「ずいぶん、たくさん、ドイツから買ったんだな」

 「戦場で使うなら、ちゃんと動くやつじゃないとな」

 !?

 不意に士官数人がしゃがみ、

 岸辺からの銃声が響き、銃弾が頭上を掠めていく、

 「あの薮だ。撃ち返せ!」

 銃撃され、瞬時に敵の位置を把握できる将兵は少ない、

 92式重機関銃の弾幕が舟艇から撃ち出され、

 薮の中に潜む中国軍を怖気づけさせた。

 そして、地の利と数で有利なはずの中国軍の襲撃を挫き、退けさせてしまう、

 日本軍上陸軍35万と中国軍本隊110万は近付くにつれ、砲声が増え、

 爆発が大地を震わせ、銃弾が行き交う。

 両軍兵士は、敵兵士を照準器に収め、分隊長の命令とともに引き金を引く、

 そう、恨みのない人を殺す事を躊躇する将兵は少なく、

 軍組織は、将兵の自責の念を逸らし、責任転嫁の道を作っていた。

 自分の意思で引き金を引いたのでなく、命令で引き金を引いた。

 上官は、撃てと命令しただけで、自分が殺したわけではない・・・

 上陸用舟艇は11t相当を積載し、あるいは将兵70人を乗せていた。

 敵前、上陸の前に握り飯とお茶が配られ、

 食後、配給された煙草に火を付け、

 “人を殺す” 気構えを奮い立たせ、

 あるいは “末期(まつご)の酒” 代わりに煙を味わった。

 一緒に煙草を吸ったことで一体感も高められていく、

 「・・・隊長。いよいよですね」

 「ほら・・・」

 一回だけ吸われた煙草が副長に渡される。

 「隊長。いいんですか? 煙草貰って」

 「軍医に止められていてな」

 「どうしてですか?」

 「健康に良くないんだと」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 将兵たちの間に笑いが広がっていく、

 「全車、始動!」

 上陸用舟艇が着岸し、

 95式軽戦車を先頭に日本軍の上陸が始まる。

 対する中国軍は指揮系統が寸断され、

 日本軍の前進に合わせて、後退していくばかりだった。

 武漢

 占領したばかりの滑走路に日本軍の戦闘機が降りてくる。

 610馬力 自重1150kg/全備重1790kg  全長7.53m×全幅11.31m×全高3.25m

 速度460km/h 航続距離627km 7.7mm×4

 97式戦闘機は機銃が倍になり、その分だけ機動性が低下していた。

 戦場は、完全に終息しておらずピリピリした緊張感が漂っていた。

 機体から降りたパイロットたちは小休止に入っていく、

 「急いで、離陸の準備をしてくれ、陸軍からの支援要請は?」

 「はい、南西20kmに中国軍部隊が展開中だそうです」

 「そうか」

 「夜襲で攻撃するなら7.7mm4丁装備は、正解だったかもしれないな」

 「本当に夜間出撃されるのですか?」

 「まぁ・・・ただの脅しだよ」

 「そ、そうですか」

 「しかし、中国軍の反撃は、ほとんどないですね」

 「どうしたんだろうね」

 

 

 漢陽兵工廠

 日本は、武漢にある中国軍の工場を強襲し占領する。

 ドイツは、1935〜1936年にかけて最新設備の工廠を建設し、中国に協力していたのだった。

 それは、中国の希少資源とドイツの工業の交換であり、必然といえる取引だった。

 日本軍は、漢陽兵工廠を接取し、

 中国大陸の日本の工廠にしてしまう。

 

 

 

 帝都東京 総理官邸

 「東亜新秩序を発表を中止しろだと?」

 「現場の報告によれば、声明は敵を増やし利すだけだそうです」

 「日本国の提案は、大東亜全体を繁栄させるものだ」

 「日本の国力で、それが可能でない事は目に見えています」

 「そして、中国人は裏切られた時の反動が恐ろしく」

 「中国人に期待させるべきではないかと」

 「東亜新秩序を声明として伝え、期待させねば、支持されないではないか」

 「中国人は、どちらに利があり、どちらが勝つか、だけで大言壮語は信用しません」

 「重慶の汪兆銘を離反させる工作も進んでいる」

 「蒋介石にとっての獅子身中の虫なら、そのままにしておくべきでは?」

 「し、しかし・・・」

 「軍は勝てます」

 「説得力がないぞ」

 「我が軍の士気は高く、重慶も落とせます」

 「・・・しかし、に、日本の国内事情もあるのだ」

 「政府は国家目標も示さずして、いつまでも中国大陸に大軍を置けない」

 「何より、皇軍を勝手に動かして、陛下に何といえばいいのだ」

 「本当にそうなので?」

 「・・・・」

 「日本人も収入が増えれば・・・」

 「君!」

 「大義名分が必要なのは政府だけでは?」

 「・・・・民主主義は綺麗ごとで作られているのだよ」

 「幸い、帝国議会は軍の思いのままではないですか」

 「軍医殿は、開き直り過ぎる」

 「理詰めで考えましょうよ。浪花節なんて煩わしいだけです」

 「人の心は、理詰めでは動かん!」

 「「・・・・」」 むっすぅうう〜

 

 

 呉

 陸軍の強襲母艦は、大型舟艇搭載可能な大型艦艇で、Sボートも積載可能だった。

 そして、日本海軍艦艇で、Sボートを載せられない大型艦艇は、

 小型魚雷艇の搭載が検討されていた。

 それほど、シグマ・キャリアのポテンシャルは高く、成果を見せていた。

 一号型魚雷艇

 排水量20.0t 全長18.30m×全幅4.30m×吃水0.65m

 1800馬力 速力42kt 航続距離30kt/210海里

 乗員7名 兵装 45cm魚雷落射機2基  7.7mm機銃2挺

 「貴重なアルミを二重船殻構造で、こんなもの建造しやがって」

 「航空機を何機製造できると思ってる」

 「参謀本部は、魚雷艇と雷撃機を合わせたような強襲雷撃艇を検討してるようです」

 「飛ばない重雷撃機か」

 「計画の中には、水中翼魚雷艇もあるようです」

 「シグマ・キャリアは、本当に砲弾を避けられるんだろうな?」

 「ええ・・・血の誘導も確かです」

 「真っ暗な海を走って、5000mの距離から標的に魚雷を命中させましたよ」

 「艦を新参のシグマ・キャリアに仕切られるのが嫌なら、魚雷艇を載せるしかないでしょう」

 「艦隊決戦からますます遠ざかるな」

 「ええ」

 「魚雷艇。もっと小さく建造すれば、たくさん載せられるんだ」

 「中口径砲の至近弾で引っくり返るのは嫌でしょう」

 「まぁ いやだがね」

 

 

 長門の改装が進んでいた。

 DNA731の発見と

 シグマ・キャリアの直観力と遠隔操作能力の出現は、小型機、魚雷艇の可能性を飛躍させ、

 軍隊内の派閥バランスをも一変させていた。

 派閥バランスの変化は、海軍基本戦略の変化に繋がり、

 海軍綱領として具現化する、

 それは、新型戦艦を建造中止に追い込み、

 旧式艦艇の改装項目も変更させてしまう。

 日本海軍将校たち

 「大本営は何を考えているんだ」

 「長門型、伊勢型、扶桑型の全長を無駄に伸ばしたがるし」

 「艦載機どころか、艦砲外して、艦尾格納庫に魚雷艇を載せたがるし」

 「さぁな、上層部の考えることはわからんよ。最近は特に若らん」

 「金剛型は、艦尾の砲塔2基」

 「伊勢型と扶桑型は、艦尾と中央の砲塔4基を減らされて、艦隊戦で不利だろう」

 「将兵の大半は、区画を広く使えるようになって喜んでるよ」

 「ったくぅ 砲科系の下士官以下は出世の道が狭められて、殿中モノだな」

 「別に軍艦を建造すればいいものを」

 「大型艦じゃないと、艦載機や魚雷艇を積載できないだろう」

 「かといって、大型艦を別に建造すると、他がΓ憶宛技れるからな」

 「やれやれ・・・」

 

 長門型戦艦  長門、陸奥

  排水量40120t 全長240m×全幅34m×吃水9.5m

  82000馬力 速力24.35kt 航続距離16kt/8650海里

  45口径410m連装砲4基 40口径127mm連装砲24基 25mm連装機銃12基

  水上機5機。

  一号型魚雷艇4隻 or 甲標的8隻

 

 

 扶桑・伊勢型戦艦  伊勢、日向、扶桑、山城、

  排水量42000t 全長240m(飛行甲板124)×全幅33m×吃水9.03m

  100000馬力 速度30kt 航続距離16kt/12500海里

  45口径356mm連装砲2基  40口径127mm連装砲8基 25mm3連装機銃31基、

  上部格納庫 水上機60機 or 双発水上機10機

  下部格納庫 Sボート10隻 or 甲標的40隻

 

 金剛型戦艦  金剛、比叡、榛名、霧島、

  排水量34000t 全長240m×全幅33m×吃水9.03m

  120000馬力 速度30kt 航続距離16kt/12500海里

  45口径356mm連装砲2基  40口径127mm連装砲8基 25mm3連装機銃31基、

  水上機4機

  上部格納庫 水上機60機 or 双発水上機10機

  下部格納庫 Sボート10隻 or 甲標的40隻

 

 改装は1隻ずつ順番に行われ、全て完成するまで数年を要した。

 関係者たちは、海の獰猛から砲塔が剥ぎ取られていく光景に失望し・・・・

 「この戦艦が・・・もう戦艦とは言えないな」

 「だが、その分、艦載機と艦載艇を搭載できる」

 「その気になれば、艦載機を着艦させることもできるだろう」

 「大発と戦車もだ。陸軍の横やりじゃないのか」

 「艦首砲塔2基だけでは、怖くて艦隊戦もできん」

 「これなら、いっそ、全通の飛行甲板にすれば良かっただろう」

 「弾薬庫がない方が怖くないと思うがね」

 「艦尾ドックの魚雷艇用に魚雷を何本かかえてると思う」

 「戦闘が始まれば魚雷艇は出撃してるよ」

 「それでも予備を格納してる」

 「魚雷艇云々は、作戦次第だろう」

 「戦艦で上陸作戦なんかしたくないね」

 「ともあれ、全長の延長と球状艦首で航続距離も伸びた」

 「艦載機と艦載艇が増えてるし、作戦能力は高い方がいいよ」

 「シグマキャリアが本当に活躍できるのならな」

 

 

 

 ドイツでユダヤ人迫害開始(水晶の夜)

 

 

 

 人口50万の都市が燃えていた。

 国民軍によって四方から放火された火災は、三日三晩続き、

 長沙の住民数万名を焼死させてしまう。

 「よく燃えてるな」

 「自分たちで街に火を付けたんだな」

 「よくやるよ」

 「日本も都市が占領されそうになったら、同じことするのかな」

 「まさか」

 数台のトラックが近付き、補給物資が配られていく、

 そして、風魔部隊直属の上官が現れ、

 「みんな、新装備だ」

 懐中電灯に赤い布を巻いたモノが配られる。

 「これは?」

 「赤外線照準器だ」

 かちっ! かちっ!

 「なんか、赤く、ぼぅ〜と広がってるだけなんだけど」

 「ていうか、赤外線ってなに?」

 「と、とにかく、赤外線照準器だと思って使え」

 「つかえって・・・夜中に明かりなんかつけたら攻撃されるだろう」

 「お前らなら先制狙撃できる」

 「そ、そんな無茶な」

 「それが風魔の末裔部隊だ」

 「だから、橋場村の農家の三男坊で石川五作だって」

 「五月蠅い、風魔の末裔の五作だと信じろ!」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 

 

 日本軍 斥候部隊

 「なんで街を燃やしたんだろう」

 「日本軍に長沙を奪われたくなかったんじゃないの」

 「しかし、街なら新しく作ればいいし」

 「国民党の放火なら蒋介石への不信も高まる、好都合な気もするね」

 「ふっ 中国人は、政府なんて最初から信用してないよ」

 「利益構造さえ構築すれば、それに馴染んでしまう」

 「ふっ だけど、なんで中国人と殺し合わないといけないんだろうね」

 「田舎で地主の米さえ作っていたら食べて行けたのに?」

 「地主の息子にお前の娘が乱暴されたら?」

 「・・・」

 「よくある理不尽じゃないか」

 「・・・」

 

 日本軍、重慶爆撃開始

 

 

 満州帝国

 97式中戦車、95式軽戦車の数は徐々に増えていた。

 マイバッハエンジンは、燃料消費を増大させたものの、

 戦車の稼働率を高め、作戦能力を大幅に向上させていた。

 そして、DNA731を輸血された将兵は、優れた第6感を発揮し、兵士としての価値を高めた。

 そして、より高品質で高価な軍服の開発と製造にまで及んでいく、

 石井(731)機関

 地球上で最も栄養価の高い食事がエウェンクに配膳されていく、

 適度な運動が強制され、顔色も良く、

 日本語も少しずつ覚えていた。

 研究員たちが窓越しに立って

 新しいDNA731が保存器の中に入れられていく様を見ていた。

 「エウェンクの体調は?」

 「すこぶるいいね」

 「運動量をもう少し増やした方が血の質も良くなりそうだ」

 「肉を増やすと血の量が多くなるが」

 「海藻類を増やした方が結果が良かったがな」

 「んん、血の質と血の量のどちらを取るかだな」

 「前線は、シグマキャリアをもっと欲しがってるぞ」

 「シグマキャリアを消耗品にされては困るよ」

 「もっと安全な軍服はないのかね」

 「研究チームが増設されましたがね」

 「鉄板は断片対策にいいけど、重くなるそうです」

 「もっと薄くすれば?」

 「薄いと貫通されやすくなり、肉体の損傷を大きくするかもしれないそうです」

 「いや、聞いた話では断片の跳弾効果を狙ったものだよ」

 「薄くてもないよりましな気がするがね」

 「むしろ、衛生隊を増やすべきでは?」

 「外国の医療品がどれくらい高価だと思ってるんだ」

 「アメリカ軍並みに揃えようとしたら、それだけで軍予算が破綻する」

 「衛生隊も断片対策と同じで、風魔部隊だけでいいだろう」

 「だけど、731機関の評判悪いよ」

 「装備の格差は仕方がないとしても待遇の格差を広げ過ぎるとヤバいだろう」

 「だよねぇ 戦果確認がされてなかったら干されてたね」

 「ヤッカミか。味方のヤッカミは見殺しにされるし、敵より怖いからな」

 「既に4部隊が見殺しからギリギリ生還ですからね」

 「まったく、馬鹿どもが」

 「ヤッカミで勝てる駒を潰されちゃな」

 「上層部は?」

 「組織は、コネと成績順で年功序列を保つのが一番楽だからね」

 「風魔部隊を割り込ませることができても、特別扱いは限界があるな」

 「ちっ クズどもが」

 「ばらしてしまえばもう少し緩和できるかもしれないがね」

 「甘いな、気味悪がれるだけで、状況は変わらんよ」

 「それに最高機密をばらせるわけがない・・・」

 ドアが開けられ、

 士官が日にちの経った日本の新聞をまとめてテーブルに載せる。

 研究員は、気晴らしに紙面をめくり、

 軍部に媚びた記事を割引、正確な情報を読み取っていく、

 「・・・ちっ なんで、戦域を広げたがるかな」

 「日本が中国と戦争中だから、ソビエトがちょっかいを掛けたんだろう」

 「いやだねぇ 華北なんて放って、満州帝国を守るだけでいいのに」

 「中国は大国だし、市場がないと日本の産業を大きくできないだろう」

 「だからって、押し込み強盗な真似をしてもな」

 「中国が先に撃ってきたんだろう」

 「そんなの分かってたことだろう。中国人は野蛮な連中なんだよ」

 「匪賊と組んで中国を支配すればいいだろう」

 「法整備ができなくなるから、嫌なんだろう」

 「中国は徳治政治だろう」

 「中国は、人間の欲望を利用して治める腐治政治だ」

 「それは日本じゃなくなる」

 「日本人だって、理念より大勢に従うじゃないか」

 「島国の国民性だし、しょうがないよ」

 「しかし、本気で中国大陸を支配する気なら、郷に入れば郷に従えだ」

 

 

 アメリカ合衆国 ワシントン

 白い家

 「日本で目立った変化があったと聞いたが?」

 「キャリアシステムに特別枠が作られた模様です」

 「特別枠?」

 「国家試験などの一般枠からではなく、民間まで開かれた猟官制のようです」

 「んん、採用基準は?」

 「まだ、調査中ですが防疫関連組織の推薦枠のようです」

 「日本は、化学・細菌兵器の運用を前提に戦略を立てているのかね」

 「まだ、わかりません、防疫研究で何らかの進展があったかと思われます」

 「戦争拡大の前に特権層。怠け者の聖域を作ったんじゃないのかね」

 「つまり、戦わず、高給取りの部署だ。医療関係なら文句を言いにくい」

 「上層部の顔触れと採用方法から、それはないかと」

 「日本の医療関連は我が国より劣っているはず」

 「日本に何か新薬を開発したのなら、我が国の医療品目に変化が現れるはずだが?」

 「いえ、今のところはないようです」

 「ま、年功序列と派閥で膠着した日本の人事から異常ではないが・・・引き続き、調査をしてくれ」

 「はっ」

 

 

 某航空機工場

 陸海軍将校たち

 「まず航空エンジンが確実なことだな。金に糸目はつけない」

 「へぇ〜 急に気前がよくなったな」

 「パイロットの価値でも上がったのか」

 「まぁ そんなところか、防弾も重視してくれ」

 「機体下部は、6mm厚の防弾鋼板だよ」

 「もっと厚くてもいいくらいだ」

 「これ以上、厚みを増やすと機体性能が低下する。増やすわけにいかない」

 「夜間に低空を飛ぶよ」

 「それなら尚更だよ。重たい機体を低空で飛ばすのは難しいはずだ」

 「まして、夜間に飛ぶなんて・・・」

 「当てがある」

 「馬鹿言うな! パイロットを殺す気か!」

 「だから当てがあるって言ってんだよ」

 「夜間飛行だぞ!」

 「飛行時間1000時間以上のパイロットを養育するのにどのくらいの燃料を使うと思ってる」

 「量産機でそんなことができるわけないだろう」

 「だから・・・」

 「だいたい、夜間飛行可能でも、離陸と着陸するだけで精一杯だ」

 「精密爆撃したり、銃撃できるわけがなかろう」

 「つまり夜間飛行できたからって戦局に大きな影響はないよ」

 「「「・・・・」」」

 「まさか・・・おまえ・・・馬鹿軍人の仲間入りしてないだろうな」

 「あははは・・・まさか・・・とにかく、当てがあるんだよ」

 「当てねぇ〜」

 

 

 

 

 日本民族は、単一民族であり、

 異民族に支配されたことがない。

 そのため、異民族支配は、苦手とするところだった。

 元と清の漢民族支配は、文書として伝えられ、

 ノウハウの一端は垣間見えていた。

 しかし、文書外のことは想像するよりなく、

 異民族と対峙した時、初めて発揮される交渉術もあった。

 幸運なことに中国戦線の熟練将校は少なくなく、

 大陸の日本人居留民が水先案内人代わりに徴兵され、司令部付となっていた。

 彼らがもたらしたノウハウが軍上層部へ伝えられ、

 日本軍から建前が失われ、本音が現れていく、

 日本軍占領下の上海

 上海の歴史上、これほど腐敗が一掃されたことはなく、

 中国人官僚が、これほど不自由を感じたことはない、

 昼の表通りは、謀略が練られる日常の光景が広がり、

 夜になると銃声が聞こえ、縄張りを賭けた暴力が横行する。

 中華料理店

 日本軍将校が集まっていた。

 「中将。交渉は、正直に率直に」

 「漢民族に遠回しな言いよう。根回しは通用しません」

 「選択は二者択一」

 「腹芸も暗黙の了解もありませんから提案があるなら理路整然に」

 「曖昧な表現は相手を怒らせるだけです」

 「わかってるよ。しかし、匪賊の頭目と組むのは気が乗らないな」

 「中国大陸で治安を求めるのはやめるべきですよ」

 「権力を欲する匪賊の搾取を認めるべきでしょう」

 「中国領民をヤクザにくれてやるみたいで頭が痛いな」

 「ご決断を・・・」

 「・・・」

 「他には?」

 「中国の諺では、1人は龍。2人は猫、3人以上は烏合の衆と言うのがあるそうです」

 「少数の日本人が付け込めるとしたらそこしかないでしょう」

 「中国人が1人の時は?」

 「1対1にはならないように、3対1以上が望ましいです」

 「現実は、7800万対5億なのだが」

 「それでは、好都合」

 「1対3以上が最良です。彼らは、互いに牽制し合ってなにもできなくなる」

 「「「「・・・・」」」」

 そこに不逞の輩な中国人たちが現れた。

 「村をもらえると聞いたある」

 「保障しよう」

 「ただし、清国と同じ条件でだ」

 「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 「辮髪は強制しないよ」

 「「「「「「・・・・・・」」」」」」  にまぁ〜

 

 

 不逞の中国人たち

 「奏大人。いいあるか、日本軍と組んでも?」

 「いまの日本人は正直でわかりやすく組み易いある」

 「それに日本人は自分の意思を持たない大勢順応型ある」

 「群れないとなにもできない小心で腰抜けどもばかりある」

 「いくら戦争で勝てても1対1の交渉になれば楽勝だ」

 「1対1の戦いでも勝てるし、点と線で好きなだけ支配ごっこをさせればいいある」

 「人海に潜み、地の利のある面を支配し、夜に勢力を伸ばすのは我々 漢民族ある」

 「500年もすれば、中国人が日本を呑み込むある」

 そこに子分が走ってくる。

 「奏大人。順華がやられました」

 「何だと。この区域で一番の殺し屋だぞ」

 「相手の日本人は何人だ?」

 「そ、それが・・・1人・・・」

 「奏大人・・・」

 「「「「・・・・・・」」」」

 「例外的な日本人もいるようだな・・・」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 少し、表現の解説を

 シグマ・キャリアは、注射された者の地位を現し、

 いわゆるキャリア組の一角の意味になります。

 風魔部隊は、シグマ・キャリアが配属される独立部隊です。

 石井機関、いわゆる731部隊の別称で、今大戦の黒子的な存在に浮上してます。

 DNA731は、エウェンクの血清番号で機関の隠語でも使われます。

 特殊能力者の顕現により、潜水艦と機動力のある小型艦、航空機、戦車が注目され、

 大和型戦艦の建造中止など、一点豪華主義が失われていきます。

 

 

 そうそう、今回の戦記の主題は “日本は大陸支配できるでしょうか” です。

 

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

 
第02話 1937年 『血の契約』

第03話 1938年 『覚醒の兆候』

第04話 1939年 『嘘と、こけおどしと・・・』