月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第04話 1939年 『嘘と、こけおどしと・・・』

 四季が巡る。

 豊作と不作。豊漁と不漁は、様々な自然の条件が重なった結果だった。

 産業革命以降の生産品は、自然に加え、人為的な影響が大きくなっていく、

 資本家は、囲い込みで土地を買収し、

 森と大地を削り、川を浚渫し、浜を埋め立て、人工構造物で大地を埋めていく、

 産業は、工業品の大量生産で利益を追求し、

 大量消費できる市場を求めた。

 物資が不足すれば価格は高騰し、物資が余れば価格は暴落する。

 巨大な需要が富を生み、

 人々は、地位と資本を巡って様々な戦いを繰り広げる、

 貨幣経済は、土地無し農民と女工を作り産業を増大させ、

 人々は、権力者、官僚、資本家、労働者、農民へ分かれていく、

 値札の付いた数々の商品は、人の欲望を掻き立て

 富への渇望は、貧困という名の恐怖を作りだした。

 人々の物欲と功名心は、抗いたいほど大きくなって格差を求め、

 平等を求める大多数の弱者の呻きも広がっていく、

 富が集約するほど、貧富の格差が広がり、

 物価が上がるほど貧乏人が増えて淘汰が進んでいく、

 弱者は合法的に財を奪われ、労働生産力と化していく、

 企業は、新しい市場を求めて争い、少数の勝者と多数の敗者を作った。

 生産品が行き渡れば商品が余って市場が滞り、

 重要と供給のバランスは崩れ、資本の流通が淀み不況となった。

 物が豊かであるにもかかわらず、利益が得られず生活を困窮させてしまう。

 世界恐慌は、過剰な投資と溢れる商品が購買能力を超えたことで起きた。

 それが作為的に起こされたものであれ、

 必然的に起こされたものであれ、

 ニューヨーク発の大恐慌は、人々の生活を破綻させながら世界中を巡り、

 自分さえよければ、

 自国さえよければ、といった風潮を作り出していく、

 とはいえ、人々の戦いは奪い合うことから、押し売るへことへ移行し、

 国家間の戦いも敵国の生産力を殺すか、利権を勝ち取る戦いへと移行しつつあった。

 国家は、国内産業の衰退を恐れ、

 資本家は、富の散財を恐れた。

 国家の総意は、国家体制の違いはあれ、

 大多数の国民の声より、あくなき権力欲と、地位の保障を望む。

 そして、それが得られぬ夢となった時、

 国家の総意は、他国の国境を侵略し、他国の産業を滅ぼして国内産業を守ろうとする。

 世界恐慌から10年、停滞する世界経済は己が国益と権益を守るために排他的になり、

 力ある中堅国家群は、貧富と格差と地域の軋轢を解消を求め、

 戦争を辞さない構えを見せ始めていた。

 

 

 東京

 人々は凍えながら滑らないよう路地を行き来していた。

 「さむい〜」

 口を開くと息が白くなって消えていく、

 「近所で何人も結核で死んでる」

 「食い物も服もないからな」

 「冬服を買いたいな」

 「下着二枚重ねても足りねぇ」

 呉服屋のガラスの向こうに衣服が陳列されていた。

 「買えねぇ〜」

 「来年、国民服を作るらしいよ」

 「全体主義の救済か」

 「来年は国粋主義から社会主義まで取り込んだ大政翼賛会も作られるらしい」

 「大正デモクラシーは殺されたわけか。短い自由だったな」

 「ふっ いまじゃ 腰抜けどもが挙国一致で軍部のいいなりだ」

 「なにも考えず、なにも見ないで、口を噤んで、耳を塞ぐか」

 「社会資本を吸い上げ過ぎだな」

 「もう格差を崩さないと国民全員が着る服も作れなくなったんだな」

 「今度は、普通の服を着るのが後ろめたくなるな」

 「軍事費の取り過ぎだ」

 「誰も彼も村八分が怖くて本当のことさえ、言えねぇ こんな腐った国にしやがって」

 「臆病で事勿れな国民だな」

 「でも貧富の格差が広がり過ぎるより、公平な配給の方が・・・」

 「工業力を強くするには貧富の格差を広げないと駄目だからね」

 「しかし、結核対策で予防接種なんて、そんなものに金を使ってどうするんだろうな」

 「なんか、赤い予防接種らしいぞ」

 「なんだそりゃ いやだぜ。変なの注射されるのは」

 「いや、甲種だけみたいだけど」

 「甲種ねぇ 徴兵逃れられないかな」

 「「「うんうん」」」

 「それから金属の強制買い上げと回収がされるらしい」

 「ふざけんなよ。政府に何の権利があるってんだ」

 「もう鉄がないんだろ」

 「旧式艦を廃艦にしない限り、応じねぇ」

 「ふっ 古くても一応、ポストだからな」

 「もう、馬鹿軍人は死ねばいいのに」

 「なんか呉服屋に睨まれてるぜ」

 「ちっ 泥棒扱いしやがって」

 「行こう」

 「ああ・・・」

 病院の前に行列が作られ、

 予防接種の注射が打たれていた。

 

 

 

 横浜港

 7860t級ドイツ商船アトランティス

 日本向けの工作機械とエンジンを降ろしていた。

 ドイツ船員たち

 「日本も随分と気前良く買ったな」

 「戦艦の建造をやめて工作機械とエンジンを買ったというのが真相らしいね」

 「ふ〜ん、トラックと戦車と・・・魚雷艇でも建造するのだろうな」

 「それと、ドイツ商船に工作機械を載せて日本に派遣して欲しいらしいな」

 「その商船を日本海軍が工作艦代わりに使いたがってる?」

 「さぁね。フルカン社は外貨収益になりそうだから、一隻、派遣するらしいけど」

 「よく、そんな、許可が出たものだ」

 「ドイツ参謀本部が日本防疫機関の異変に気付いて、ヒットラーが疑惑に思ったらしいけど」

 「そんなことでか」

 「ま、一応、同盟候補だし、気まぐれで、その気になったのだろう」

 「まったく、足を引っ張る同盟国だな」

 

 

 

 

 呉

 大小の魚雷艇が疾走していた。

 最大は100t級Sボートで、最小は20t級一号魚雷艇だった。

 整備士たち

 「工場はなんて?」

 「エンジンは半分以上、複製を作れないそうだ」

 「やれやれ・・・」

 「航空機エンジンじゃなくて良かったな」

 「小型艇や自動車用なら墜落しないだろう」

 「慰めになってないよ」

 「しかし、本当に役に立つのか?」

 「夜襲なら高速を生かして一撃離脱できる」

 「感心しないね。夜襲とはいえ、小型艇で突撃なんて」

 「夜襲の成功率が上がっているらしい」

 「信じられんね」

 「いくら夜目が利くからって、日本民族を特別扱いするのは正気を失っているよ」

 「まさか、軍内派閥で内輪争いしてないだろうな」

 「そんな、まさか」

 「神風だとかいって、サイコロの目を誤魔化して図上演習してるんだろう」

 「いや、なんか、赤ちょうちんで、将校が風魔がどうとか言ってたぞ」

 「「「・・・・」」」

 「神風より、縁起悪ぃ」

 「「「・・・・」」」 ほっ

 「ところで、なんで、防疫給水部が出てくるんだ?」

 「まぁ その辺は・・・機密だ」

 「まさか、BC兵器を使わないだろうな?」

 「そんな、よ、予防だよ」

 「胡散癖ぇ」

 「「「・・・・」」」 ため息

 

 

 

 石井(731)機関への予算増加は、様々な余波を陸海軍にもたらしていた。

 高価な個人用の規格モノが特別な工場で作られ、細々と製造されなければならず、

 そちらの予算で他の予算が削られ、正面装備まで窮地に陥る。

 そして、取捨選択の結果、陸海軍の兵器と武器弾薬は、規格統合となった。

 それは、氷山の隠れた部分の出来事でしかなく、

 表面的に生産量が上がることはなかった。

 97式戦闘機の開発後、96式戦闘機の製造は打ち切られ、

 97式戦闘機へと切り替えられていく、

 そして、陸海軍は、新たに零式戦闘機の開発を進めていた。

 零戦

 瑞星エンジン940馬力、自重2000kg/全備重2600kg

 全長9.05m×全幅12m×全高3.53m 翼面積22.44u

 速度500km/h 航続距離2000km 7.7mm×6丁 (増槽330l or 爆弾250kg)

 陸海軍将校たちが仕様書を見ていた。

 「なんか、重くなった分だけ、中途半端な機体になったな」

 「しょうがないだろう。シグマ・キャリアのパイロットは貴重なんだよ」

 「風魔は夜戦。通常部隊は昼戦。間を取るとこうなるのかね」

 「しかし、赤外線電灯も電探もこけおどしのブラフ。将兵に何と説明すれば?」

 「欧米を必要以上に警戒させるためとでもいえばいいさ」

 「「「「・・・・」」」」

 「夜間戦闘機なんていらないだろう。爆撃機だけでいいと思うね」

 「夜戦だけじゃない。風魔は雲の中でも空中戦ができる」

 「別途に製造すればいいだろう。なんで予算が風魔に引っ張られるんだ?」

 「風魔の数が少しずつ増えているからだろう」

 「それに機体は消耗品だ。多い方が良いに決まってる」

 「不時着でシグマ・キャリアを失うのは困るからね」

 「シグマ・キャリアを可愛がり過ぎだ」

 「将兵を大切にするのは悪くないさ」

 「航続距離が少ない」

 「翼タンクをやめるとそうなるんだよ」

 「もっと全長を伸ばす方がいいな」

 「防弾をもっと増やすべきじゃないのか?」

 「そんなの戦闘機じゃないよ」

 「言っとくけど、総力戦じゃアメリカ、ソビエトに勝てん」

 「中国相手でも困難だ」

 「奇襲効果は、初戦の一度が限度だ」

 「大国と事を構えるには、シグマ・キャリアを中心に戦力を再編成するしかない」

 「ああー 分かった。分かった。何度も同じことを言うな」

 「だったら、少しは、わかれよ」

 「わかってるから、これだけ妥協したんじゃないか」

 「高い材質ばかり要求しやがって」

 「勝ちたいんだろう」

 「そうだよ!」

 「保身で、ポスト争いしてるんじゃないだろうな」

 「し、私心はない!」

 

 

 厚木飛行場

 97式重爆撃機が滑走路を離陸して上昇していくと、

 無人の複葉九六式艦上爆撃機が追いかけて離陸し上昇していく、

 「妨害電波は?」

 「発信しています」

 「じゃ 妨害電波に関係なく飛んでるのか」

 「はい」

 「シグマ・キャリア。血の力か・・・器用なものだ」

 「血と混ぜる溶剤が一人一人違いますし、操作の媒体も少しずつ異なります」

 「個人用兵器か・・・軍隊と思えん、トラウマになりそうだ」

 「ですが、その気になれば爆弾を搭載して敵艦に・・・」

 「さっさっと洋上に出して体当たり試験をしてしまえ」

 「街に落ちたら、処罰対象だからな」

 「はい」

 

 

 

 スペイン

 フランコ軍がバルセロナを占領

 

 

 チェコスロバキア

 スロバキアがドイツの保護国として独立、カルパト・ウクライナ共和国も独立

 

 ドイツ軍がチェコスロバキアのボヘミアを占領

 ドイツがボヘミア・モラヴィアの保護領化を宣言しチェコスロバキア全土を併合する

 

 フランコ軍がマドリードを占領しスペインの内戦が終結

 

 

 イタリアがアルバニア王国に侵攻

 

 ハンガリーが国際連盟を脱退

 

 スペインが国際連盟を脱退

 

 

 満州国・モンゴル国境にノモンハンと呼ばれる一帯があった。

 砂漠と草原に過ぎない場所は、誰もが血を流す価値がない土地と考える。

 しかし、国家の威信は、その地を見たこともない者が地図を見て判断し、国家の宣言を発し、

 両国の国境が重複したのちは係争地となった。

 そこは、民間人に迷惑が及ばない場所で、戦争するにはいい場所と言えなくもなく、

 日・ソ蒙軍の将兵は、いささか、死に甲斐のない土地と言えなくもなかった。

 重複する係争地は、重複する国境であり、双方とも越境戦争となった。

 最初は数千単位の衝突が次第に大きくなり、

 最終的には、日本軍将兵30000〜90000 蒙・ソビエト軍将兵57000となった。

 日本軍は、97式戦車38両と95式軽戦車35両の73両を投入し、

 ソビエト軍は550両以上の戦車を投入していた。

 ソビエト軍は輸送距離が長かったとはいえ、輸送能力に長け、

 標高の高い側に陣を構え、戦力的に大きかった。

 日本軍は輸送距離が短かったものの、輸送能力が乏しく、

 標高の低い側に陣取るよりなく、終始、守勢で戦う、

 日本の航空戦力がソビエトの航空戦力を駆逐していなければ戦況はさらに悪化し、

 夜の反撃で辛うじて戦線を維持していた。

 軍司令部

 「動けば、ソビエト将兵に丸見えだ」

 「政府も戦線の拡大は望まない」

 「夜襲で勝ってるではないか」

 「風魔部隊が敵の指揮系統を破壊しているからだろう」

 「だからここは、畳み掛けて日本軍の威信を保つべきだ」

 「ふざけんな、こんな不毛な戦場で帝国軍人を消耗させていいはずがなかろう」

 「ここで退けばソビエトは必ず押してくる」

 「ソビエトとはそういう国だ」

 「しかし、風魔部隊が敵の手に落ちれば、日本軍は、終わりだぞ」

 「・・・・」

 「こっちからは、前進するな」

 「・・・・」 ぶっすぅうう〜

 

 

 星のほとんど見えない雲の下、

 ソビエト軍陣地

 日本軍陣地から銃声が響いていた。

 ソビエト軍将兵たちは、稜線に隠れ、

 口を押さえ、首から上が消えた上官を見据える、

 「おい、ど、どうした! なにがあったんだ?」

 異変に気付いた将校が頭を低めながら現れる。

 !?

 「ひ、酷いな・・・」

 「それが中尉が日本軍陣地を覗こうとした途端・・・」

 「馬鹿な。日本軍陣地まで3500mはあるぞ」

 「これは、20mm口径以上じゃないか」

 「夜間射撃で20mm口径か・・・無駄な使い方だが・・・・」

 「大佐! 大変です!」

 「日本軍陣地を監視していた第22塹壕と第37塹壕の小隊長が大口径のライフルに撃ち抜かれました」

 「何だと・・・バカな・・・」

 「大佐・・・」

 爆音が低空でソビエト軍陣地上空に侵入し、

 97式戦闘機の機銃掃射と97式軽爆撃機の爆撃がはじまる、

 ソビエト連隊指揮所のあった場所に爆炎が立ち昇り、数両の戦車が吹き飛んだ。

 「大佐。大変です!」

 「後方の空軍基地が夜間爆撃で40機を失ったそうです」

 「「「・・・・」」」

 「いかなる犠牲を払っても、日本軍の夜間狙撃の秘密を手に入れる」

 「尉官以上の日本将校は可能な限り殺さず、捕虜にするよう、全軍に徹底させろ!」

 「これは、第一級の作戦事項だ」

 

 

 日本軍陣地

 参謀たちが見守る中、

 少尉が97式自動砲を構え、

 銃口を闇の地平線に向けていた。

   口径 20mm×124  装弾数7発(箱型弾倉)

   重量59.10kg 銃身長1200mm/全長2000mm

   銃口初速 750m/秒  発射速度20発/分

   有効射程 最大5000m

 深夜の沈黙の両陣営で、銃声が地平に鳴り響く、

 「・・・狭間少尉。本当に当たってるんだろうな」

 「まぁ」

 「見えねぇだろうが!」

 「あははは・・・朝になったら見に行ったらどうです」

 「「「・・・・」」」 疑心暗鬼

 そして、エンジンと金属の擦り合う音とともにBT戦車が前進してくる。

 「おっ 来た来た」

 「なに喜んでるんだ。味方の戦車は、数キロ後方だぞ!」

 狭間少尉が97式自動砲を構えて撃つと、

 BT戦車の砲身が筒内爆発を起こし、

 次々と吹き飛び、停止しまう。

 「「「・・・・・・」」」 ごっくん!

 参謀たちはみるみる青ざめ、総毛立っていく、

 「ば、馬鹿! な、なにをしてる!」

 「さっさと、あの戦車部隊を制圧しろ」

 「戦車兵を生かすな。証拠は全て隠滅する」

 「いかなる損害を出しても、筒内爆発を起こした戦車を回収するんだ」

 昼間はソビエト軍が押し、夜は日本軍が押し返した。

 そして、双方とも大損害のまま消耗していく。

 

 

 

 数日後

 日ソ両軍の上空

 機動性に優れた97式戦闘機と、

 武装と急降下速度に優れたI16戦闘機。

 2機種の戦闘機が幾つもの編隊に分かれ、旋回しながら絡み合う。

 後方についたI16戦闘機がターゲットスコープの軸線に97式戦闘機を入れようとすると、

 ことごとくタイミングを外され、

 横合いから現れた別の97式戦闘機の機銃掃射を受け、墜落していく

 日本軍陣地

 「おい、ほんとにやれるのか?」

 「それは、やってみるしかないでしょう」

 少尉が97式自動砲を斜面に固定させ、銃口を上に向けてI16に狙いを定め・・・

 !?

 撃った。

 「当たったのか?」

 「遠過ぎたかも・・・」

 I16戦闘機は旋回しながら機首をこちらに向けると、

 「げっ! 怒った」

 機銃掃射しようと迫ってくる、

 「に、逃げろ!」

 不意にプロペラが破損したI16戦闘機は、そのまま墜落、

 風魔部隊は、四散したI16戦闘機の周りで転がり、

 「少尉。遮蔽物の少ない場所で、対空砲代わりに使うのは、まずいな」

 「そ、そうだね」

 

 

 砲声と銃声が不毛な大地に広がり、

 銃弾が塹壕の直上を掠めていく、

 ハルピンから来た参謀たちが頭を低く下げ、鼓膜を守りながら現れる。

 「指揮官は?」

 「わたしです」

 「この馬鹿が! 歩兵部隊をソビエトの戦車部隊に突撃させてどうする」

 「ソビエト軍を押し返したからいいようなものの大損害じゃないか」

 「その上、世界中の軍評論家の物笑いの種だ」

 「貴様。懲罰モノだからな」

 「あれです」

 数百メートル後方でBT5戦車20両が捕獲され、

 日本将兵たちが囲んでいた。

 「・・・なんだ・・・筒内爆発じゃないか」

 「砲身に異物でも入ったのか」

 「説明しろ」

 「「「「・・・・」」」」

 「ん? なに?」

 視線が一人に集まっていく、

 「「「「・・・・・」」」」

 「上には報告したよ」 少尉が応える。

 「上は俺だろ・・・お、おまえ、石井機関の?」

 「あははは、いや、偶然・・・」

 「「「「・・・・・」」」」

 風魔部隊の夜間攻撃は、ソビエト軍陣地に大混乱に陥れていた。

 戦力比で日本軍劣勢と思われたノモンハンの戦いは、戦線が停滞し、

 混沌とした攻防戦が続く、

 そして、日本軍は予備兵力を集結させての反撃は、ソビエト軍の反撃を挫かせ、

 遂にノモンハン戦の主導権を握ってしまう。

 日本軍陣地

 十数両のBT戦車が日本軍に鹵獲されていた。

 日本軍将校たち

 「すげぇ ソビエトは戦車かっこいいな」

 「砲塔を変えるだけで、使えそうだな」

 「ええ、戦力にできますね」

 「馬鹿な。風魔部隊は対指揮官狙撃用だ。こんな戦車と交換できるか」

 「風魔部隊は最高機密。最優先で考えろ」

 「おい、風魔部隊。これを持ってろ」 袋が渡される。

 「なんですか、これ?」

 「手裏剣とまきびしだ」

 「使いませんよ。こんな嵩張るもの」

 「とにかく持ってろ」

 「「「「・・・・・」」」」

 「風魔部隊に護衛部隊を付け。秘密に気付いた将兵は、731部隊に転属させろ」

 「はっ!」

 「・・・大本営には、風魔部隊用に97式自動砲の生産を増やすように具申しておこう」

 

 

 深夜

 石井731部隊は、密かに部隊を集結させる。

 「中将。本当にいいのですか?」

 「日本の医療は、欧米に比べ何十年も遅れている」

 「日本国民も大本営も、医療に対し関心を抱くことなく、兵器を中心とした国防に凝り固まっている」

 「国家の医療技術の遅れがどういうことかわかるか?」

 「いえ・・・」

 「日本の権力者層と富裕層の健康がアメリカ医療、ドイツ医療に人質に取られたようなものだ」

 「「「「・・・・」」」」

 「スペイン風邪クラスの流感が日本に蔓延しただけで、外国のいいなりになってみろ」

 「国防どころではない」

 「これは、第一級の救国作戦である」

 「「「「・・・・」」」」

 「流せ」

 731部隊は、密かにドラム缶の中身をハルハ川に流ししていく。

 「風魔部隊には、川の水を飲まないように厳命し、絶えず、水筒を供給する」

 「はっ」

 そして、それまで、あまり大事にならなかった腸チフスが日本軍将兵に蔓延し始める。

 

 

 独伊軍事同盟締結

 

 

 ノモンハン戦線

 日本軍陣地

 日本軍将兵の間に腹痛、発熱、関節痛、頭痛、食欲不振、

 咽頭炎、空咳、鼻血、下痢(水様便)、血便、便秘を訴える者が次々と現れた。

 「これはいったい、どういうことだ」

 「大佐。それが将兵たちが突然・・・」

 「ぐ、軍医は?」

 「すぐに呼びます」

 赤十字の腕章を付けた士官が駆け込む、

 「どうしました?」

 「防疫部隊ですか」

 「はい」

 「ご覧のありさまで・・・」

 軍医は、患者の様子を調べ・・・

 「んん・・・・腸チフスのようですね」

 「不衛生な環境で発症しやすい病気です」

 「な、なんとかなりませんか。このままでは、戦線を維持できない」

 「取り敢えず、水は一度沸騰させて使用すること」

 「それと、衛生に気を使うように将兵に伝えてください」

 「しかし、前線で火を使うのは・・・」

 「防疫本部に問い合わせてみます」

 「よろしくお願いします」

 

 

 国民党軍が中共新四軍を攻撃し幹部を虐殺(平江事件)

 

 

 ノモンハンの戦線に石井式濾過器が到着する。

 「凄い、水を飲んでも腸チフスにならない」

 「まぁ 石井731部隊にかかれば、これくらいのこと、簡単に対処できますよ」

 「ありがたい」

 「ありがとうございます」

 「礼には及ばんよ。医者として当たり前のことをしたまでだ」

 「石井中将。あなたは素晴らしい人だ」

 「いやいや、予算の件、よろしくお願いしますよ」

 「任せてくれ、部隊全員で支持する」

 「よろしく」

 固い握手。

 

 

 日本軍は、天津のイギリス租界を封鎖。

 

 日本国民の男子の長髪及び

 女子のパーマネントを禁止する生活刷新案が閣議決定

 日本の某街路で・・・

 「ふざけんな! もう戦争反対」

 「あれ? お前、主戦派だっただろう」

 「冗談じゃない。髪切らされてまで主戦派でいられるもんか」

 「頭を洗う水を浮かしたいのかな。配給の石鹸も少ないし」

 「アホが!」

 「どこ行くんだよ?」

 「平和団体」

 「・・・おれも・・・」

 

 

 独ソ不可侵条約の調印がなされていた。

 「書記長。上手く行きましたね」

 「ふっ ドイツを対英仏戦。日本を対中戦で疲弊させ、最後にアメリカと戦わせて消耗させればいい」

 「我がソビエトは、荒廃した東西の地域を攫うだけで済む」

 「日本はともかく、ドイツは危険では?」

 「いくらヒットラーでも二正面作戦などするまい」

 「我がソビエトは、高みの見物を決め込むことにしよう」

 

 

 ハインケル社(ドイツ)のHe178が世界初のジェット飛行に成功

 

 

 「欧州情勢は複雑怪奇である」

 日本は、独ソ不可侵条約締結で頼りとしていたドイツの支援が受けられなくなっていた。

 関東軍は、ノモンハン戦で苦戦しており、

 平沼内閣は、日独防共協定が裏切られて総辞職となった。

 日本国民は欧米諸国への不信感を高めつつ、国際的な孤立感を深めていく、

 銀座の喫茶店

 「客、減って来たな」

 「世相が変わったからな。モダンな社会もできなくなるよ」

 「しかし、なんともまぁ ドイツにまで裏切られるとはな」

 「あんな遠い国と組んで益があるのかね」

 「孤立した者同士が手を組むことは少なくないよ」

 「良作とは思えないね。いざという時、軍事支援も受けられない」

 「国の上層部が見てるのは、戦力比じゃないよ」

 「鉄鉱石、石炭と鉄の生産量」

 「そして、戦艦と飛行機を動かす為の石油の量さ」

 「ドイツは資源はそこそこでも、優れた工作機械があるらしいからね」

 「どちらにしても、資源も得られないんじゃな」

 「資源がなければ戦争不可。始まらないということか」

 「しかし、中国侵攻とノモンハン戦か。空気が重いな」

 「もっと大規模な戦争でも始まりそうだな」

 「まさか、いくらなんでもこれ以上血を流していいことなんてなかろう」

 

 

 09/01

 ナチス・ドイツ軍とスロバキア軍は、ポーランドに侵攻し、

 イタリアは中立を表明

 イギリス・フランス・オーストラリアは、ドイツに宣戦布告する。

 

 横浜港 ドイツ商船隊

 ドイツ船6隻は、日本に協力し、

 対価は、スイス銀行へと振り込まれた。

 また、ドイツ通商破壊作戦のインド・太平洋作戦の要ともなっていた。

 ドイツ船員たち

 「やれやれ、日本に居残りか」

 「日本は不参戦だそうだ」

 「独ソ不可侵条約で日本とギクシャクしてしまったからな」

 「日本に船を奪われなかっただけましだろうな」

 「取り敢えず、魚雷艇、航空機、戦車、トラックの補修部品を供給していればいいんだろう」

 「Uボートの補修は?」

 「見つからないようにやってくれだと」

 「ふっ」

 「しかし、中国は、随分、ニッケルが手に入るんだな」

 「ドイツに供給できれば大きいだろうな」

 「日本がノモンハンでソビエト軍と戦ってるから難しいだろうな」

 「停戦する動きがあると聞いたぞ」

 「だといいがね。シベリア鉄道でニッケルをドイツに送れる」

 「いや、ヒットラ総統ーは、日本にソビエトを牽制して欲しいと思ってる」

 「どうなるかわからんね」

 

 

 大本営が関東軍にノモンハン事件の作戦中止を指令

 「なぜ、中止なんだ。勝てる。勝てるんだぞ」

 「前線はそうかもしれんがね。独ソ不可侵条約でドイツ援助は受けられない」

 「さらにいうと欧州で戦争が始まっている」

 「日本は対中戦争に集中したいから巻き込まれたくない」

 「もう一つ言うと、工業用ダイヤと油を買う金がなくてな」

 「これ以上、戦費を増やしたくないそうだ」

 「そ、そんなもの戦争とは関係ないだろう」

 「工業用ダイヤと油がないと、銃器と武器弾薬を作れなくなるじゃないか」

 「補給物資も先細りになるし、武器弾薬の在庫もなくなるね」

 「この際、北樺太とカムチャッカ半島を制圧して後顧の憂いを断つべきだ」

 「おいおい、ノモンハン事件は、表向き、満洲国とモンゴルの国境紛争なんだぞ」

 「そんなことができるか」

 「日本軍が一歩でもソビエト領土に侵攻してみろ。日ソ戦争になるんだぞ」

 「し、しかし、勝ってるんだぞ」

 「もういい、風魔は、決戦兵器だ」

 「こんな局地戦で消耗させていい部隊じゃない」

 「「「・・・・」」」

 

 

 日本、第二次世界大戦への不介入を表明

 

 アメリカ、中立を表明

 

 南アフリカがドイツに宣戦布告

 

 カナダがドイツに宣戦布告

 

 

 モスクワの9月は、東京の11月ほどの寒さにあたる。

 まだ、日本の季節圏内であり、日本人が経験している範疇だった。

 日本は、ノモンハン戦で優位でも中国と戦争中であり、

 ソビエトと戦端を開いての二正面作戦は愚の骨頂でしかなく

 ノモンハンの戦いを終息させる必要があった。

 そして、ソビエトも不可侵条約を結んだドイツの戦力増強が気になるのか・・・・

 モスクワ 迎賓館

 調印後、ヴャチェスラフ・モロトフ外務大臣はロシアンティを入れると、

 東郷茂徳駐ソ特命全権大使に手渡す。

 「ようやく停戦できてうれしいですよ。東郷大使」

 「はい、これで安心して本国に報告できます」

 「良かったですな」

 「・・んん・・・とてもおいしい」

 「グルジア産です。後で、お土産を付けましょう」

 「よかったら定期的に輸出して差し上げられますよ。安値で・・・政府関係で専売するといいでしょう」

 「それはそれは、ありがたいですな」

 「時に・・・」

 モロトフ外務大臣の視線は、東郷大使のロシアンティの液体に注がれ・・・

 「日本軍の夜間攻撃は、特筆ものですな」

 「・・・・」 ごっくん!

 「是非、コツをお教えいただきたいものですよ」

 どきどき

 「特に夜間で司令部に爆弾や砲弾を直撃させる方法とか」

 どきどき どきどき

 「闇の中、3000m先の陣地指揮官を大口径ライフルで狙撃できるコツとか」

 どきどき どきどき どきどき

 「戦車の砲口に銃弾を撃ち込む方法とか」

 びくっ!

 「ま、まさか! そんな。聞いたこともありません!」

 「ほんとうに?」

 「も、もしあったとしても、ぐ、偶然でしょう」

 「偶然?」

 「それより、あのような辺境に戦車500両を投入される貴国の国力に敬意を表しますよ」

 「・・・・」 じー

 「・・・・」 ごっくん!

 「・・・日本とは、戦争したくありませんな」

 「お互いに・・・」

 東郷茂徳大使とモロトフ外相は、ノモンハン事件停戦協定を調印。

 日ソ関係は緊張関係にありながらも正常化していく、

 

 

 ハルピン

 石井(731)機関

 研究者たちは、赤ん坊の健康診断を終えると、一息ついていた。

 母親は慰安婦に志願した日本女性たち、

 $$$o$f$k=w7f$@$C$?!#

 彼女たちは、相手が日本軍将兵でないと知って、一悶着あったものの、

 いまは母親として赤ん坊をあやしている。

 日本帝国軍が人倫道徳の多くを踏み躙っても

 人々の行き、戻り、食べ、寝ての営みは変わらず、

 エウェンクの血筋は最高機密として残される予定だった。

 「遺伝性だったら助かるが、そうでなかったら、失望モノだな」

 「少数民族の研究になるよ」

 「そんなモノは民間に任せればよかろう」

 「民間に金を渡すのか?」

 「「「「・・・・」」」」 憮然

 「しかし、能力が遺伝するならツングースの爆発は、意味があることなのだろうか」

 「むしろ、意味があるとしたら、血統を残す力をエウェンクが持っていることになる」

 「いや、血が生き残るための価値と力を身に付けたことかもしれないな」

 「ツングース型新人類の出現というわけだ」

 「「「「・・・・」」」」

 新聞が届き、研究者たちが目を通し始める。

 「・・・やれやれ、やっと終わったか」

 「後顧の憂いを断ちたかったですがね」

 「退くのは余裕があるからでしょう」

 「余裕がなくなれば退くこともできず戦うよりなくなる」

 「日本は、どの道、中ソ同時に戦争できるだけの国力はないよ」

 「中国、ソビエトなんて、一国でも持て余すよ」

 「しかし、ノモンハンは、優勢だったらしい」

 「ふっ 戦果半分と見るべきだろう」

 「こっちの損害だって少なめにしてる可能性だってある」

 「まさか、いくら軍主導であったとしても、現状で国民の不信を買うような失態はすまいよ」

 「だといいけどね」

 「この戦果も、シグマ・キャリアが夜を支配したおかげでしょう」

 「ノモンハンのソビエト軍を押し返して、BT戦車50両、火砲200門ほど捕獲できたそうですよ」

 「冗談じゃない。シグマ・キャリアを5人も失った。大損害だよ」

 「弾を避け損なったのか」

 「歩兵部隊で戦車部隊に突撃するからだ。バカが!」

 「戦傷比率なら一般兵より少ないよ」

 「シグマ・キャリアといっても勘が良いだけだ。能力もピンからキリまであるし」

 「風魔部隊の価値は、計算しにくい」

 「長時間の戦いでは神経が擦り切れるし、人によって反動もある」

 「馬鹿な上官の下にいたら、どう足掻いても殺されるからな」

 「だいたい、風魔部隊は戦略部隊だよ」

 「あんな局地戦で消耗させていい部隊ではない」

 「しかし、シグマ・キャリアの株を上げることは出来ました」

 「今回のは、礎ということで」

 「シグマ・キャリアは、人の未来のありようかもしれないし」

 「馬鹿軍人の玩具にされていい人間じゃない」

 「階級が上がれば、対応も変わるでしょう」

 「だといいがね」

 

 

 ソ連軍がポーランド東部に侵攻

 

 ワルシャワ陥落

 

 独ソ友好条約調印(ポーランド分割占領を決定)

 

 ソ連軍がフィンランドに侵攻、冬戦争勃発

 

 

 ラプラタ沖海戦

 ポケット戦艦アトミラル・グラーフ・シュペーがモンテビデオ港外で自沈

 

 

 中国戦線 南寧

 チワン族が多数を占める中国南部の要衝だった。

 夜の山岳、それも霧が大地を隠していた。

 山岳で一際大きめの銃声が響き渡り、

 そのたびに中国陣地で騒ぎが起こった。

 中国軍陣地

 「どういうことある? なぜ、暗闇と霧の中で指揮官が狙い撃ちされるある?」

 「あの赤い小さくぼんやりした光が原因ある」

 兵士が高台を指さした。

 「大佐は、あれを見ていたある」

 「んん・・・あそこに向けて、一斉射撃ある」

 「それが小銃の射程に近付く前に指揮官が次々・・・」

 「標高500m。距離は3000mほどあるな・・・」

 中国軍に派遣されたドイツ軍将校が呟いた。

 「人海戦術で突っ込むしかないが、狭い山岳では、待ち伏せされて、不利だ」

 「ドイツ人将校。なんとかするある」

 「大口径砲で狙い撃ちするよりないな」

 「そんなもないある・・・」

 銃声が響き、

 血吹雪が飛び散って、ドイツ軍将校が倒れ、

 赤い血が点々と付いた中国軍将校が呟く、

 「後退ある」

 

 

 高台の日本軍陣地

 日本軍将校たち

 「暑い・・・」

 「こんな雨と霧ばかりの土地いらん」

 「だよな」

 「上が欲しいのは資源と市場だけなんだろう」

 「俺たち下々は、いつまでたっても下々さ」

 「だけどチワン族と組んで、独立行政組織とチワン軍編成らしいよ」

 「はぁ 俺は、銃口を大本営に向けたくなってきたよ」

 「「「あははははは・・・・」」」

 

 

 

 上海

 暗闇の路地裏で耳音を立て、

 不意に黒い人影が交錯する。

 背後を取られ、首を斬られた中国人の殺し屋が倒れた。

 特高たち

 「これで、黄大人の手駒は消えたな」

 「少しは大人しくなって、内陸側の鉄道施設が進むだろう」

 「輸送力が大きくなれば中国を押さえやすくなりますからね」

 「しかし、中国側が闇社会から昼社会へ比重を移していく節があるようだ」

 「合法的な正攻法で来られると妥協せざるを得ませんね」

 「それは仕方がないさ」

 「こっちは、暗闇が戦いやすいですからね」

 「あ、こいつ、ベレッタM1934持ってやがる。いいなぁ」

 「南部拳銃じゃ不利だからな」

 「ふっ お前使ったら」

 「よし、貰った」

 「だけど、サイレンサーは自分で買えよ」

 「こっちは、非合法だし。軍や地元警察と揉めると面倒だ」

 「うぅ・・・」

 「だけど、闇社会の暴力を支配する者が中国を支配するからな」

 「こういう仕事もしょうがないよ」

 闇の世界を制した二人は、こそこそとその場を立ち去っていく、

 ヤクザ上がりのシグマキャリアは、特高として、上海に出向き、

 青幇(ちんぱん)と紅幇(ほんぱん)との抗争に参戦。

 勘の良さで地の利と人脈ネットワークに勝る組織の殺し屋を相手に一騎当千の戦いぶりを見せ、

 闇社会を押さえていく。

 中国の地元盟主は、手足をもぎ取られ、裏社会で劣勢になると日本と妥協するよりなく、

 日本は上海の治安を回復させていく、

 

 

 

 東京 赤坂

 在日アメリカ大使館

 グルー大使は、執務室で日本の情報に目を通していた。

 彼の対日姿勢は比較的温厚なためか、

 アメリカ政府は、グルーの頭越しで対日強行政策を進めていた。

 とはいえ、日本の情報収集は、グルーを通す事が多く・・・・

 部屋の明かりが消され、赤い光がぼんやりと部屋を照らした。

 「中佐。これは、何だね?」

 アメリカ本国から上海経由で帰国した中佐が応えた。

 「日本の赤外線照準器だそうです」

 「懐中電灯に赤いガラスをつけたようなものにしか見えないが?」

 「はい、その通りです」

 「別の工場で作られているのではないか?」

 「輸送途中で抜きましたので・・・」

 「これをアメリカ本国に送ったら、わたしは間違いなくクビだよ」

 「わたしもそう思います」

 「だったら特高のフェイクに騙されず。仕事をしたまえ」

 「・・・我々が日本の特高に後れを取るようなことは、かって、一度もありませんでしたよ」

 「最近は、路地裏の攻防で特高に負けてると聞いてるぞ」

 「大使。こちらからも要請していますが。開戦前に工作員の増員をお願いします」

 「ルーズベルト大統領は本気なのかね?」

 「日本が挑発に乗ってくるなら、開戦は望むところだそうです」

 「やれやれ、事を荒立てなくてもアメリカ合衆国は困らんのにな・・・」

 「・・・・」

 「それで、気になる風魔部隊の正体を探れか・・・」

 「はい」

 「風魔が忍者の末裔というのは?」

 「嘘です」

 「だろうな。規模が大き過ぎる」

 「それに日本の艦艇改装は、異常な方向に進んで、それと風魔部隊が関連している」

 「日本軍は、風魔部隊を急速に人員を増し、中国戦線を支配しつつあるようです」

 「長長距離狙撃か」

 「97式自動砲は入手しました」

 「本国で審査したところ、対人狙撃に使えるとは思えない、そうです」

 「はぁ〜 それで再度調査の催促か」

 「未知の不安材料は、消すに限りますからね」

 「日本の科学技術レベルは低過ぎる」

 「挙国一致で強制的な滅私奉公を押し付けている」

 「日本国民は国家の権威に屈し、媚び諂っているだけだ」

 「自らの矜持と価値観を持つこともできない哀れな人形でしかないし」

 「大勢に従う虎の威を借ることを美学と思い込みながら歩いてる様にしか見えないね」

 「一見、統制が執れ、総量が増えていいように思えてもだ」

 「逆に言うなら被創造的で受け身な労働しか得られない」

 「企業間の切磋琢磨と競争がなくなり、品質も効率性も自発性を失ってる」

 「資源量も工業レベルも軍需偏重で見かけ倒し」

 「産業に至っては、イタリアより少しましか、低いくらいだ」

 「なにを恐れる必要がある」

 「医療関連はどうです?」

 「お話にならんくらい低いね。人体実験の臨床が少な過ぎるのだろう」

 「蓄積された医療技術もノウハウもまだ三流だよ」

 「だといいのですが・・・」

 「気になる事でも?」

 「人員増加後、調査してみます」

 「わかった。こちらから増員を要請してみよう」

 中佐は敬礼すると去り、

 グルーは、薄暗い部屋で赤外線照準器のスイッチを入れたり消したり・・・

 

 

 零式戦闘機の試作機が厚木飛行場の上空を飛ぶ

 開発の優先順位は、速度、防弾、火力となった。

 瑞星エンジン940馬力、自重2000kg/全備重2600kg

 全長9.05m×全幅12m×全高3.53m 翼面積22.44u

 速度500km/h 航続距離2000km 7.7mm×6丁 (増槽330l or 爆弾250kg)

 日本軍将校たち

 「また、微妙な性能になったな」

 「視界が広くなる栄エンジンが良かったとパイロットがごねてるぞ」

 「稼働率第一だそうだ。故障で墜落したくないだろう」

 「防弾もそれなりだな」

 「対地攻撃もするからね」

 「この戦闘機で欧米の戦闘機に勝てるのか?」

 「上は、パイロットの質に期待したいらしい」

 「パイロットは、風魔部隊だけじゃないんだぞ」

 「夜間戦闘をこなせるなら、お釣りがくる性能だよ」

 「この赤いライトと、簪も?」

 「ふっ 戦果を誤魔化すためだろう」

 「こんな飾り、機体を調べられたらすぐばれるだろう」

 「機体が捕獲されないような作戦を練るしかないな」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 飛行場に並ぶ99式艦爆と97式艦攻にも同じ、赤電灯と電探らしい飾りが付いていた。

 

 

 

伊174型潜水艦
  排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速度 航続距離 武装 甲標的 深度
水上 2231t 109.30m×9.10m×5.26m 8000 20.0kt 16kt/14000海里 140mm砲1基 6 120
海中 3583t 4000 9.0kt 4kt/120海里 魚雷×6 26

 呉

 日本海軍将校たち

 「水上機を搭載せず。随分、シンプルになったな」

 「本当に爆雷を避けられるんだろうな」

 「まぁ 艦の性能がいいのは確かだからね」

 「聴音機に耳を澄ませていたら爆雷投下は、大体の見当がつくんじゃないのか」

 「見当がつくとしても、それが、どれだけの経験が必要かなんて、考えたくもないだろう」

 「考えたくもないのは人事の方だ」

 「だよなぁ」

 「「「「・・・・・」」」」 どんより

 「艦長の資質とは別個の先天的な査定があるなんて、口が裂けても言えないからな」

 「B型が2割しかいないのが問題だよ」

 「艦長の資質優先にしたいね」

 「だから、甲標的を建造しろよ」

甲標的
  排水量 全長×全幅 馬力 速度 航続距離 武装 深度
海中 50t 24.9m×1.88m 600 18.5kt 6kt/80分 魚雷×2 2 120

 「シグマ・キャリアを甲標的に載せるのは楽だけどね」

 「母艦の方が大事だし」

 「手柄を取られたら艦長たちは御機嫌斜めだろうな」

 「内輪揉めで戦争に負けるのかよ」

 「各論より総論が優先するなんて、視野の狭い馬鹿はわからんよ」

 「だが新査定採用は、利口な人間が下になる事が多くなるぞ」

 「事情を説明して協力を仰げないのが残念だがな」

 「おかげで、いじけた士官の愚痴を聞かなきゃならん身になってみろ」

 「気張ってくれよ。人事で下手打つと、軍の統率が崩壊するからな」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 大日本帝国陸海軍は、シグマ・キャリアを中核にした再編が可能でしょうか、

 出現した新しい戦力と、古い既得権体質の葛藤。

 もう、外国軍は、敵ではありません。

 身内が勝利基盤最大の敵です。

 

 

 ノモンハンの戦い、

 シグマキャリアのおかげでしょうか。

 超マイナー “97式自動砲(20mm×124)” が戦略兵器になってしまいそうです (笑

 知らない方は、検索で探してください。

 日本軍が戦場に残り、ソビエト・蒙軍が後退します。

 日本側の損害は史実の半分、ソビエトは倍くらいでしょうか。

 それでも戦力比で負けてる (笑

 日本はいつになったら電探と赤外線照準器を開発量産できるでしょう (笑

 

 

 『七三一部隊・石井四郎の野望・元部隊員の証言』 を見て加筆修正しました。

 無知って怖いですね (笑

 

 

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第03話 1938年 『覚醒の兆候』

第04話 1939年 『嘘と、こけおどしと・・・』

第05話 1940年 『越えちゃいけない一線』