月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第06話 1941年 『中華三匪賊の計』

 建物が大きく、高くなるほど、影も大きく濃くなっていく、

 これと同じことが表の社会と裏社会にもいえた。

 表社会のない、裏社会は存在せず、

 表社会が生まれると同時に人間の負の精神が具現化し、裏社会が形成されていく、

 そして、表の社会が大きくなっていくほど影の部分の裏社会も大きくなっていく、

 夜の北京。

 路地で銃声が響く、

 日本の憲兵が駆け付けると、私服の男が一人立ち、

 足元に男たちが倒れていた。

 「何をしている? 手を挙げろ」

 「おっと、手間取り過ぎたか。内務省の者だ」

 「この男たちは?」

 「日本への協力を断った青幇(ちんぱん)たちだ」

 「日本商品の不買運動は困るだろう」

 「「「「・・・・・」」」」

 「2人を一人で?」

 「あと2人、二つ奥の路地裏に倒れてるよ」

 「「「「・・・・・」」」」

 「大陸が漢民族によって統一されると闇組織は縮小する」

 「征服王朝で生まれた闇組織が、それを認めようとしないのだから呆れるよ」

 「取り敢えず、内務省の人。我々憲兵隊の面子を立てて貰おうか」

 「ったくぅ これだから縦割りは・・・」

 「管轄内で人が死んで黙って見過ごせるか」

 「へいへい」

 中国大陸は、和匪賊、国匪賊、共匪賊に分かれ、

 さらに紅幇(ほんぱん)、青幇(ちんぱん)といった闇組織も絡み、

 闇経済を奪い合う様相を極めていた。

 端的に言うならこの指とまれ、であり、

 どの勢力が中国大陸を支配するかでもあった。

 日本軍閥は外戚であり、地の利で不利だったものの、

 満洲・華北と上海から武漢に至る点と線を支配していた。

 そして、日本の大陸支配は、和漢村増加に従い、点と線から面へ広がっていく、

 アメリカは日本の明らかな中国侵略に対し、態度を硬化させていた。

 しかし、蒋介石の国民軍。

 そして、毛沢東の共産軍と交戦しているのは和漢軍であり、

 和漢軍は、地位と権力と所領を安堵された漢民族で匪賊だった。

 シグマキャリアが、中国裏社会の暴力を支配するようになると日本の支配はより強固になっていった。

 

 

 

 合衆国艦隊は、太平洋艦隊・大西洋艦隊・アジア艦隊の3艦隊が編成され、

 アメリカ太平洋艦隊はハワイの真珠湾に、アジア艦隊はフィリピンのマニラに配備され、

 対日包囲を強めていた。

 白い家

 「失業率は?」

 「依然として高いままだ」

 「レンドリースだけでは、景気重要に足りないのでは?」

 「対英戦略でドイツを助けてやったのに期待はずれだな」

 「欧州弱体化と戦争重要で景気回復、一石二鳥だったんだが・・・」

 「ドイツがソビエトに侵攻すれば全体主義を押さえ」

 「共産主義と世界第二位のソビエト産業も潰せて一石三鳥だ」

 「アメリカが一人勝ちするなら、もう少しドイツを助けるべきだったかもしれないな」

 「いや、ドイツは強い。この辺が潮時と思うね」

 「問題は失業率だろう」

 「やはり、直接戦争して、人工需要を作り出さないとまずいな」

 「ドイツは挑発に乗らないのか?」

 「踏み台にされるとわかってるのに? 簡単に乗ると思えんよ」

 「日本を追い詰めては?」

 「アジア艦隊を編成したがね」

 「日本だって馬鹿じゃないだろう」

 「日本はドイツより経済基盤が小さい、経済制裁すれば、暴走するはずだ」

 「我が国の産業も少なからず影響を受けるから、経済制裁も口実がいるけどな」

 「じゃ 日本がフランス領インドシナに手を出した時にでも・・・」

 「うん、適当だね」

 「それで、日本がアメリカに対して狼藉してくれるなら楽だけどな」

 「アジアのアメリカ軍は、負ける程度の配備をしてるんだろうな」

 「日本が攻めやすい程度の兵力だと思うがね」

 「しかし、日本の中国侵略は本気だ」

 「太平洋で耐え、大陸で支配権を確立させるかもしれない」

 「それはまずい。中国市場は我々アメリカ産業の踏み台だ」

 「もう少し、ドイツと日本を挑発してみるか」

 「「「「・・・・」」」」 うんうん

 

 

 

 アメリカは、日本の明らかな大陸支配に態度を硬化させていた。

 横浜港 鎌倉丸

 「野村君。アメリカとの貿易は日本にとって死活問題だ。よろしく頼むよ」

 「了解です」

 野村駐米大使が鎌倉丸でアメリカに向けて出港する。

 

 シベリア鉄道経由、ウラジオストックから横浜に届けられたドイツ製品が荷揚げされていた。

 「これが、マイバッハHL120TRM300馬力エンジンと60口径50mm砲か」

 「本物は芸術的だな」

 「エンジンと大砲は100両分か。ライセンス生産もできるのだろうな」

 「航空機エンジンと違って事故で落ち難いと思うよ」

 「・・・・3号と4号戦車の設計図は?」

 「最新の4号D型の設計図も手に入ったらしい」

 「我が軍の戦車も、ようやく、機関銃に耐えられるようになったわけか。隔世の感だな」

 「拡大改良型も開発中だそうです」

 「本当にエンジンを2基使うのか?」

 「重慶の中国軍を圧倒するだけの防御力と火力が欲しいらしい」

 「夜襲で圧倒してるだろう」

 「どんな軍隊でも指揮系統を崩せれたら烏合の衆だ」

 「だけど、風魔部隊は、そんなにはいないよ」

 「和漢村の日本人要人警護に必要だからね」

 「しかし、まさか本気で大陸支配を考えるとはな」

 「もう賽は投げられた。後には退けんよ」

 「ああ、いいとも、賽を投げた奴を殴りたいだけだ」

 

 

 扶桑・伊勢型戦艦  伊勢、日向、扶桑、山城、

  排水量42000t 全長240m(飛行甲板124)×全幅33m×吃水9.03m

  100000馬力 速度30kt 航続距離16kt/12500海里

  45口径356mm連装砲2基  40口径127mm連装砲8基 25mm3連装機銃31基、

  上部格納庫 水上機60機 or 双発水上機10機

  下部格納庫 Sボート10隻 or 甲標的40隻

 伊勢 艦橋

 「艦長。上海です」

 「陸さんのお使いで、大発と戦車の運び屋にされるとはね」

 「本艦なら、もっと大型の戦車でも揚陸可能ですよ」

 「ドイツのエンジンで大型戦車を製造するのか?」

 「三国同盟で300馬力エンジンをライセンスできるそうです」

 「エンジン2基で600馬力なら40t級大型戦車の製造も可能だと聞いてます」

 「上層部は、走るたびに道と田畑が破壊されることを知ってるのかね」

 「製造してすぐ、重慶侵攻に使うそうですよ」

 「そのエンジンで大型トラックを作れば、資源の採掘が増えると思わんのか」

 「思いたくないというのが、現実でしょうね」

 「どちらにしろ、国民軍は人海戦術。取り囲まれたらお終いという気がするがね」

 「こちらも人海戦術の都合がつくそうです」

 「陸軍は、ついに本性を現したわけか」

 「老後どころか、孫の代までポストの準備してくれるそうですよ」

 「大陸のどこかの市長になれるかもしれませんね」

 「じゃ 中国語を覚えないといかんな」

 

 

 野村駐米大使がルーズベルト大統領と初会談

 ルーズベルトは、車椅子に座り身体障害者であるにもかかわらず、

 眼光は鋭く、見識もあった。

 「日本の大陸侵略は、日米関係を悪化させるだけだ」

 「日本は、民族自決権のために戦っているのです」

 「漢民族の民族自決権は?」

 「和漢軍は、漢民族の民族自決の総意かと・・・」

 「柳条湖事件や上海事変のような自作自演をやらかして、よく云う」

 「あ、あれは、抗日中国人の仕業・・・」

 「おいおい、わたしは、国家主導者だぞ」

 「利権構造のうま味は知ってるし」

 「右翼が利権拡大のため、自作自演で脅威を演出するのが好きなのも知ってるよ」

 「調査すれば確実だし」

 「調査せずとも見え透いた工作など利害関係でばればれだ」

 「し、しかし、漢民族は自らの・・・」

 「しかし、日本軍は、本来守るべき自国民を殺してまで、軍部の利益を追求するとはな」

 「いえ、軍の利益などと・・・全ては、国益を守るため」

 「ふっ 軍益だろう誤魔化しの会談など意味がない」

 「保身と嘘で固めた利権構造など、非創造的で醜悪で見苦しいだけだな」

 「・・・・」

 

 

 在米日本大使館

 野村大使は、ため息ばかり、

 「大統領は、中国大陸から手を退けと一点張りだ」

 「いやだと言ったら」

 「対日経済制裁するかもしれないな」

 「アメリカに経済制裁されたら日本経済は破綻しますよ」

 「それだけは避けたい」

 野村駐米大使とハル国務長官が日米交渉を開始する。

 

 ロンメル将軍率いるドイツ軍が北アフリカ戦線で英軍を撃破

 

 

 ユーゴスラビアがソ連と不可侵条約に調印

 

 ベルリン

 「総統。ユーゴスラビアがソビエトと不可侵条約を結びました」

 「そうか・・・」

 「攻撃しますか?」

 「いや、バルバロッサ作戦を続行する」

 「ユーゴスラビアをそのままにするのですか?」

 「防衛線を構築するだけでいい」

 「ユーゴに攻勢能力などないだろう。東欧の同盟国に包囲させとけばいい」

 「しかし・・・」

 「それにソビエト軍は、弱体化しているはずだ」

 「ソビエトは極東ソビエト軍を引き抜けず。極東からの増援は遅れるはず」

 「「「・・・・」」」

 しかし、ヒットラーの目論見は、日ソ中立条約締結によって、外されてしまう。

 日本は、独ソ不可侵条約によって、対ソ侵攻の標的になることを避けようとし、

 ソビエトと中立条約を結んだのだった。

 

 

 

 Sボートが時化に揉まれながらトラック環礁の外を疾走していた。

 「こりゃまた。転覆しそうな。ヤバい感じだな」

 「戦闘不能ですね」

 「危なくて、隊形を作ることも無理だ」

 「んん・・・2000t級駆逐艦なら砲撃可能でも、100t級Sボートじゃな」

 「しかし、性能の限界だけは、見極めないとな」

 !?

 「おっと!」

 艇長が機首を波濤に向けると、一気に波を飛び越え、

 反対側へでてしまう。

 「・・しかし、癖になりそうだな」

 「それは否定しませんがね」

 「このままだと、蛟竜に予算を取られてしまいますよ」

 「蛟竜だって、この時化じゃ魚雷を撃てんよ」

 「これじゃ 母艦に載せられて外洋にいっても・・・」

 「まぁ 天候が良ければ、活躍して見せるよ」

 「夜戦限定ですがね」

 「待ち伏せた方が有利そうだな」

 「そりゃ そうでしょう」

 「なんか、酔って来た。帰還しよう」

 「ええ」

 

 

 

 独ソ国境の東部方面は、3月末に雪解けが始まり、

 溶けた雪で大地はぬかるみ始めていた。

 4月から少しずつ温かみを増し、大地は固まり、

 水分を含んだ埃が風で舞い上がる。

 その日、メーデーは、平均最低気温9度、平均最高気温15度を示していた。

 バルカン半島を放置したドイツ軍は一斉にソビエト国境を侵し、電撃作戦を開始する。

 ドイツ軍320万がバルト海沿岸から黒海まで1600kmにも及ぶ国境を一斉に突破し、

 ソビエト領へと雪崩れ込んだ。

 ドイツ軍将兵320万。戦車3580両、火砲7184門、車両60万台、航空機1830機。

 ソビエト軍450万。戦車15000両、火砲15000門、航空機6000機。

 

 

 ドイツ軍

  北方軍集団(ヴィルヘルム・フォン・レープ元帥)

    第18軍、第4装甲集団、第16軍

  中央軍集団(フェードア・フォン・ボック元帥)

    第3装甲集団、第9軍、第4軍、第2装甲集団

  南方軍集団(ゲルト・フォン・ルントシュテット元帥)

    第1装甲集団、第11軍、第6軍、第17軍、ルーマニア2個軍

 

 赤軍(260万)

  北部戦線(マルキアン・ポポフ中将)  第7軍、第14軍、第23軍

  北西戦線(フョードル・クズネツォフ大将) 第8軍、第11軍、第27軍

  西部戦線(ドミトリー・パヴロフ上級大将) 第3軍、第4軍、第10軍、第13軍

  南西戦線(ミハイル・キルポノス大将) 第5軍、第6軍、第12軍、第26軍

  第9特別軍 総司令部スタフカ予備 第16軍、第20軍、第21軍、第22軍、第24軍

 

 対するソビエト軍は、まともな対処もできず、

 ドイツの電撃作戦によって、最初の数時間で国境の戦線が突破され、

 広大な領土が無防備に広がるばかりだった。

 各軍管区のソビエト軍は戦線を形成できず、

 次から次へと撃破され包囲殲滅されていく、

 

 

 

 05/20 フィンランドがソ連に対して宣戦布告(継続戦争)

 

 

 機関車は、シベリア鉄道から東清鉄道へ切り替えられ、

 ソビエトの国境を越え、満洲国へ入国する。

 日ソ中立条約に従うなら日本の資産は、日本国へ送られるため、

 開戦前に日本がドイツから購入した物資は、日本資産となり、そのまま日本へと輸出される。

 日本人たち

 「ドイツ製のエンジンか」

 「よく無事でこれたものだな」

 「掛け買いでなくてよかったよ」

 「ドイツ行の資源はソビエトに取られたままか」

 「戦争中なのだから、当然そうだろうな」

 「日本は、ソビエトと戦争にならないだろうな」

 「独ソ不可侵条約でドイツに裏切られているから、わからんね」

 「しかし、これだけのエンジンを供給してきたのだから、参戦を期待してのことだろう」

 「ソビエトのBT戦車は450馬力。供給されたエンジンは300馬力」

 「シグマ・キャリアは、護衛で和漢村に派遣されて、戦線の部隊は、ほとんど増えていない」

 「対ソ戦は、やめるべきだろうな」

 

 

 ドイツ海軍の戦艦ビスマルク沈没

 

 ルーズベルト米大統領が国家非常事態宣言を発令

 

 ドイツが日本に対して対ソ参戦を申入れ

 

 アメリカ軍がアイスランドに駐留

 

 07/29 ドイツ軍がキエフ占領

 

 

 

 上海から揚子江上流に向かって艦船が遡上して戦略物資を輸送し、

 河川沿いに鉄道が伸びて物資が運ばれ、行軍用の拠点が建設されていく。

 この日、即席エンジン装備のジャンク船が群れをなして上流に向かっていた。

 中国戦線は、和漢軍、国民軍、共産軍に分かれ、

 人海戦術同士の衝突が各地で繰り返されていた。

 しかし、前年の日本・和漢軍の宜昌占領により、

 国民軍は、四川盆地(16万kΓ嘘憶兄)へと追い詰められ、

 国民軍は重慶に集結、四川盆地を防衛するため再編成された。

 大陸の匪賊は、日本と主従関係を結び、既得権を得て和漢貴族になることを望み、

 和漢軍は急速に膨れ上がりながら国民軍と共産軍を圧倒していく、

 日本の河川砲艦がジャンク船の脇を抜け、追い越していく、

 河川砲艦 艦橋

 「和漢軍閥に武器を渡せば、中国統一のため戦ってくれそうだな」

 「ああ、近代兵器は、機先を制する切っ掛けに過ぎないし」

 「風魔部隊もいらないかもしれない」

 「人海戦術同士の衝突がメインだな」

 「海軍が予算不足でわめいていたぞ」

 「海軍はいいよ。太平洋側の基地の防衛だけで」

 「そうもいかないだろう。石油がない」

 「艦隊を動かさなければいいだろう」

 「訓練しないと軍艦を機能させられず、戦力半減だそうだ」

 「「「・・・・」」」

 和漢軍は、四川盆地へ向かう山道で国民軍を撃退すると気勢を上げる。

 彼らは、元匪賊集団であり、

 勝てば地位を得ることができることから晴れ晴れとしていた。

 宜昌が四川盆地を囲む外側の要衝だとするなら、

 龍宝鎮は支線盆地の内側を塞ぐ要衝といえた。

 国民軍は、四川盆地防衛のため龍宝鎮へと軍を集結させたものの、

 士気は、上がらない。

 

 

 日本軍将校たち

 土手に滑り落ち引っくり返った95式戦車が人海戦術で元へ返されていく、

 95式戦車は、補修が済めば戦線に復帰できそうだった。

 「まだまだ、先は長そうだな」

 「宜昌から四川盆地の出口まで300kmくらいあるからな」

 「その上、揚子江を挟んで険しい断崖だ」

 「だが、揚子江の両岸を押さえれば、河川輸送が可能になるな」

 「和漢軍で両岸を守らせ、夜間爆撃と戦車部隊の夜襲で戦線を切り開こう」

 「そのあとは、和漢軍の総当たりで押し切る」

 「いけそうか?」

 「地の利は、国民軍側にある」

 「しかし、大勢は決してる」

 「和漢軍閥で大陸を統一できるだろう」

 「問題は、燃料がどの程度持つかだな」

 「揚子江沿いはともかく。残るは、北の回廊と南の回廊だな」

 「北は諸葛亮公明が死んだ。五丈原のあるところだ」

 「南は、桂林と貴陽の山岳ルートか」

 「和漢賊に任せちゃうか」

 「そうだなぁ しかし、敵と通じる可能性も無きにしも非ずだからな」

 日本軍が四川盆地を塞ぐと、

 国民軍は、四川盆地へと押し込められ、

 和漢村によって非和漢村が攻撃され、吸収合併され、

 ドミノ倒しのように大陸全土へと拡大していく、

 これは、封建社会でよくあることであり、

 占領さえしてしまえば、占領した村人の地位が得られ、

 “大人” 呼ばれることもできた。

 宜昌より東の漢民族は、眼の色を変えて和漢軍閥へ帰順し、

 日本の支配は、点と線から面へと広がっていく。

 そして、大陸各地で和漢軍による略奪と暴行が行われていた。

 日本軍将校たち

 「日本軍の略奪、暴行、強姦が、かわいく見えるよ〜」

 「日本軍って、ほとんど処女だな」

 「モラル低下してるぞ」

 「だから中国軍と組むの嫌だって言ったんだ」

 「俺たち、あいつらの仲間入りだぜ」

 「やめさせろよ」

 「無理」

 「が〜ん、最悪だよ」

 「「「「頭いてぇ〜」」」」

 

 

 

 東部戦線

 ソビエト軍は、農民を肉の盾として、ドイツ機甲師団の前に押し出し、

 督戦隊は囚人部隊を要衝に突撃を繰り返させた。

 ドイツ軍は、死体で埋まった丘と血の海を突き進んでいく、

 ドイツ軍将兵たち

 「フェードア・フォン・ボック元帥。総統は、モスクワを占拠せよと」

 「馬鹿を言うな。ソビエト軍の戦力が集中しているモスクワを攻撃できるか」

 「レーニングラードと同様。包囲だ」

 9月、ドイツ軍は、戦線を前進させ、モスクワを半包囲していく、

 ロシアは、秋になると雨が降りだし、大地をぬかるませてしまう。

 精鋭だったドイツ軍も疲労と補給不足で前進する意欲を無くしており、

 次から次へと押し寄せるソビエト軍を撃退しつつ、

 泥沼の中、モスクワを包囲する従深陣地を構築していく、

 スターリンは焦土作戦を決行し、後方のゴーリキへと逃亡し、

 モスクワは爆撃と砲火に晒され、ロシアの建築物は爆炎に包まれ、崩れ落ちていた。

 美しかったモスクワの町並みは、敵と味方双方の攻撃で破壊つくされ、

 ドイツ軍はモスクワを半包囲しつつ、瓦礫の山を進んでいく。

 そして、10月、モスクワを囲むドイツ軍は、早過ぎる雪に震え、

 瓦礫を寄せ集めて築城し、

 街中から衣服を掻き集めて着込み、暖房を取ることになっていく、

 モスクワ周辺部は瓦礫があるため吹雪を凌げて救いがあったものの、

 ほとんどの戦線は、ソビエト軍の攻勢を防ぎつつ、縦深陣地を掘って、極寒を防ぐよりなかった。

 また、エスキモーの如く、ドーム状(イグルー)に土嚢を積み上げ、

 寒さから身を守らなければならなかった。

 即席で作り上げた土嚢のドームは、水を掛けるだけで凍り付き、

 頑強な住居と保温を提供する。

 ドイツ軍陣地

 補給物資を乗せたトラックが雪の上に轍を作り、

 時にタイヤを滑らせながら到着する。

 「交替だ」

 「助かる」

 震える声が雪原に消える。

 ドイツ軍の補給は吹雪と悪路で途絶え、

 戦力の半分を後方に戻すよりなかった。

 モスクワの都市は、砲撃で瓦礫となりつつあったものの遮蔽物が存在し、

 野営しているドイツ軍より益しといえた。

 ソビエト軍は、ゴーリキを首都として、軍を再編成しつつ、逆襲の準備を進めていた。

 ヒットラーは、輸送力の不足に北アフリカ戦線を放棄、

 ロンメル軍団をユーゴ包囲軍へと引き戻してしまう。

 イタリアは、泣きついたものの、

 ヒットラーは、ムッソリーニの泣き言を聞くこともなく、

 打倒ソビエトに戦力を注ぎ込んでいく、

 

 ベルリン

 参謀本部

 「日本の参戦は、ないのか?」

 「独ソ不可侵条約で不信されているようです」

 「・・・東部戦線への輸送は大丈夫だろうな」

 「北アフリカ戦線を捨てたことで、2000台のトラックを東部戦線に向けられます」

 「それでも不足がちですので、戦力の4分の1を後退させることになります」

 「問題は、ソビエトの夏季攻勢だ」

 「残念ながら、ソビエトのT34戦車は、機動力が高く」

 「ドイツ軍より先に電撃戦による反撃が可能になるはずです」

 「雨季で沼地になる前に東部戦線に従深陣地を構築できたのが幸運だった」

 「はい、築城が間に合わなければ、総退却だったはずです」

 「可能な限り冬装備を送り、東部戦線を維持したまえ」

 「はっ」

 「イタリアは、ドイツに対し不信しているようです」

 「そんなに領土が欲しいのならユーゴをくれてやる」

 「連中の力で占領できるのならな」

 「しかし、ソビエト軍は、思ったより手強い・・・」

 「攻めあぐねています」

 「ノモンハンの報告だともっと弱いと聞いていたが」

 「日本軍は、中国戦線でも夜襲で中国軍の指揮系統を破壊し、有利な戦いをを進めているとか」

 「日本は何か隠している可能性があります」

 「夜襲に使える武器でもあるのか?」

 「赤い電灯を多用してると聞いてるので、赤外線を使っている可能性はあります」

 「しかし、確証に至る報告は受けていません」

 「んん・・・何とも不可解な戦果だな」

 「はい」

 

 

 英ソ相互援助協定締結

 

 ワシントン

 アメリカ合衆国の統治者は、地図を見ながら歯ぎしりしていた。

 「ドイツはモスクワの外周。5分の1を占領し」

 「スターリンは、ゴーリキを首都にして反攻作戦を展開する模様です」

 「モスクワが落ちるのかね」

 「ドイツ軍は、冬装備がないため、これ以上の戦闘行動は不可能かと思われます」

 「ソビエト軍もだ」

 「夏季攻勢で、ソビエトの戦力はドイツ軍に勝るはずです」

 「だといいがな」

 「もうひとつの懸念は、日本だ」

 「このままだと、日本は、中国大陸を統一してしまうぞ」

 「匪賊上がりでも身分が保障され、地位を得られるのなら、日本と組むでしょう」

 「一発、逆転の人生ですからね」

 「では、天皇が中国大陸の皇帝になるのか?」

 「そうなるかもしれません」

 「・・・なんとか、蒋介石を助けよ」

 「はっ」

 ルーズベルト米大統領が英中軍事援助を明らかにする。

 

 

 北大西洋 ニューファンドランド島沖

 戦艦、プリンス・オブ・ウェールズ

 大西洋憲章

   合衆国と英国の領土拡大意図の否定

   領土変更における関係国の人民の意思の尊重

   政府形態を選択する人民の権利

   自由貿易の拡大

   経済協力の発展

   恐怖と缺乏からの自由の必要性

   航海の自由の必要性

   一般的安全保障のための仕組みの必要性

 が調印される。

 

 東京 某所

 政府関係者

 「大西洋憲章か。日本とドイツへの当て擦りだな」

 「もっと早く出されてたら、こんな戦争になならずに済んだかもしれないね」

 「戦争になったから挙国一致のため出したんだろう」

 「そうともいう」

 「日本はどうするって?」

 「対抗して、大東亜憲章を出そうかという話しはあるよ」

 「やめとけよ。大陸を支配するんだろう」

 「ふっ 綺麗事言わないとさ、モチベーションを保てないんだよ」

 「世の中にはな。綺麗事言える国と綺麗事言えない国があるんだよ」

 「綺麗事言っても、足元すくわれるだけだ」

 「そうなんだけどね・・・」

 

 

 四川盆地

 日本・和漢連合軍は、揚子江沿いの山岳域を突破し、

 四川盆地へ日本・和漢軍を進めていた。

 そして、宜昌へ軍需物資の集積と、

 ジャンク船の集結が進むと、四川盆地侵攻が開始され、

 四川盆地の内側の門といえる龍宝鎮の戦いが始まる。

 用意周到に待ち伏せる国民軍だったものの、

 風魔部隊の夜間爆撃と長距離狙撃によって指揮系統が寸断され、

 日本軍空挺部隊が後方の通信線を遮断し、

 小さなエンジンを装備したジャンク船の群れは、龍宝鎮に押し寄せ、

 国民軍は浮足立ち、上陸した和漢軍の人海戦術に押し切られていく、

 日本・和漢軍は、四川盆地の足場、龍宝鎮を確保すると、重慶攻略作戦を進める、

 龍宝鎮

 日本軍将兵たちは、航空部隊の進出を見守っていた。

 日本海軍も魚雷装備を外したSボートを遡上させ、

 輸送と警戒任務に当たらせていた。

 和漢軍は、白地に紅玉模様のスカーフを首に任せて、国民軍と区別していた。

 そのため、いつしか、紅珀巾賊とも呼ばれるようになり・・・

 「思ったより上手くいったな」

 「ジャンク船で四川盆地まで遡ることになるとはね」

 「エンジンを付ければ足並みだけは揃うよ」

 「使い終わった後は、匪賊連中の収入になるらしいけど」

 「それはちょっと嫌だな」

 「どうせ、燃料なんてないだろう」

 「日本より、大陸の方が油がとれるよ」

 「まぁ そうだけどね・・・」

 「あとは、重慶か・・・」

 「戦車もトラックもだいぶガタが来てるし、先行き不安だな」

 「外務省によると鉄道の敷設を待つ暇はなさそうだけどな」

 「じゃ 河川輸送だけで重慶を?」

 「んん・・・ちょっと厳しいかな」

 「ま、河川輸送に徹して、和漢軍にやってもらう手もあるよ」

 「悪魔に魂を売ってる気がする」

 「その方が、彼らの自己正当化を味方にできるし」

 「対外的に和漢軍による統一を演出できるし」

 「やらせるべきだろう」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 そして、アメリカは重慶の危機を中国独立の危機と認識し、

 日本の中国侵略を非難、

 対日強硬政策を推し進めていく。

 

 

 

 北アフリカのイタリア軍が撤収、イタリア領リビア降伏

 

 

 日本・和漢軍の四川盆地侵攻は、アメリカ政府を驚かせ、

 先延ばしにしていた決断を迫られる。

 10/15 アメリカが在米対日資産を凍結

 日本は閨閥と門閥によって政官財の権力機構、経済機構が組み上げられている。

 軍人、官僚でありながら財界、政界と姻戚関係にある者も少なくなく、

 財閥でありながら軍人、政治家と姻戚関係も少なくない、

 そういった人脈と金脈で構築された派閥によって社会が成り立つため、

 在米対日資産の凍結が、一族の問題になる者も少なくない、

 一族で軍政財界を占める家の食卓

 「やっぱりアメリカを怒らせてしまったじゃないか」

 「侵略だからな」

 「ところで、大陸侵略の上奏はしてるんだろうな」

 「はぁ? そんなこと言えるわけがなかろう」

 「皇軍なのにそれはまずかろう」

 「陛下の預かり知らない皇軍の暴走ということにして、終わったら腹を斬って収める」

 「はっ だから皇軍じゃなく、国軍にすべきだったのだ」

 「それなら、陛下は責任を負わずに済む」

 「それだと、政府が国家の最高機関になってしまうし、政府統制は軍にとって窮屈だからな」

 「だいたい、政治家どもの党利党略と言ったら・・・」

 「・・・・・」

 「しかし、軍部の国家統制などいつまでも続けていいはずのことではなかろう」

 「それはそうなのだが、大陸の件が片付かない限りは・・・」

 「それで、アメリカ合衆国の機嫌を損ねてしまってはな」

 「やっぱりまずいか?」

 「まずいって、日本の対米輸出品は絹糸なんだぞ」

 「その代価で、石油、工作機械、屑鉄、木材、綿花を買って近代化の礎にしてたのに、それがおじゃんだ」

 「とうぜん、日本の近代化のサイクルが止まる」

 「因みに日本からの絹糸をとめたところでアメリカ経済は痛まないな」

 「そうそう、ナイロン開発が痛かった」

 「ち、中国市場があれば・・・」

 「ふん! 貴様、何様のつもりだ!」

 「日本は小国なんだぞ。そんな無茶ができるものか」

 「無茶とも言えまい、現実に中国社会は押さえつつある」

 「占領と支配は違うよ」

 「それに中国で買えない石油と工作機械があるだろう」

 「だ、だから、ドイツと・・・」

 「いま、戦争中だな」

 「・・・・」

 「産業の役に立たないモノばかり買いやがって、石潰しが・・・」

 「・・・・」

 

 10/18 イギリスが在英日本資産を凍結

 

 極東アメリカ軍をフィリピンに創設(司令官ダグラス・マッカーサー中将)

 

 オランダ領インドネシアが在蘭印日本資産を凍結

 

 

 12/07

 アメリカが対日石油輸出全面禁止を発表

 日本は、年間石油消費600万kl(1ヶ月50万kl)を欲していた。

 しかし、秋田油田などの年間国内生産は45万kl、

 目標人造石油生産70万klは、いまだ25万kl、

 ソビエト(BKL3rB@)輸入分10万kl。

 単純に計算するなら45万+25万+10万で、合計は年間80万klしかなく、

 備蓄分185万klを足したとしても、

 日本経済は1年待たずして破綻する。

 東京 総理官邸

 「総理。日本経済は終わりです」

 「貴様! ベトナムに進駐しなければ、経済制裁はないと言ったではないか?」

 「時間稼ぎくらいにしかなりませんでした」

 「それで済むか!」

 「日本の中国統一と経済破綻とどっちが先になるかな」

 「四川盆地は、和漢合体で押さえられそうです」

 「後は、夜襲と人海戦術で押し切れるかどうかだ」

 「アメリカは、日本に対し戦端を開かないだろうな」

 「こちらが挑発に乗らなければ、大丈夫かと・・・」

 「全軍にアメリカ軍の挑発に乗らないよう徹底してくれ」

 「はい」

 「太平洋の防備は、大丈夫だろうな」

 「金剛型4隻。扶桑・伊勢型4隻から剥した356mm連装砲塔20基を太平洋に配備しました」

 「トラック4基。ポナペ4基。パラオ4基。サイパン4基。マジュロ4基です」

 「それで、太平洋を守れそうなのかね」

 「やはり、シグマ・キャリアが国防の要かと」

 「航空部隊とSボートと蛟竜の3本柱か。世の中も変わったものだな」

 「おかげで、艦隊派は御機嫌斜めのようです」

 「負けないためなら、喜んで御機嫌斜めになってもらうよ」

 「もう旧式艦艇は廃棄だ。軍艦は整備運転だけ、動かすな。訓練もなし」

 「だがじり貧だよ。食糧生産と輸送も含め、産業全般で燃料は必要だからな」

 「当面は、水力発電と石炭と鉄道を中心に経済をやりくりするしかないのでは?」

 「産業の退化だな」

 「むしろ、衰退かと」

 「「「「・・・・」」」」

 「軍事だけでなく、産業全体で統廃合させるしかなかろう」

 「それでは・・・」

 それは、自動車、商船の大半が燃料不足で動かせなくなるということだった。

 「みんなで、野良仕事でもするか」

 「「「「・・・・」」」」

 江戸時代の足音が聞こえ、

 社会主義思考の官僚は、頭の中でミルクから戦闘機までの試算を繰り広げていた。

 

 

 

 呉

 日本海軍の若手将校たちの図上演習

 「おかしいな」

 「夜戦はともかく。昼戦はボロボロじゃないか」

 「アメリカ太平洋艦隊は、40mm機関砲の装備を増やしてるし、夜戦だって怪しいと思うね」

 「というより、碌に訓練もしてないし、これじゃ 射的の的にされてしまうだろうな」

 「上層部がこの確率でやっているとしたら独り善がりの間抜けだよ」

 「しかし、魚雷艇はともかく。航空機は、中国軍相手の夜襲で信憑性があるぞ」

 「数が多いから爆弾を落としたところに中国人がいるだけだ」

 「それで、恐怖心が雪だるま式に伝達され、簡単に総崩れになっていく」

 「だから指揮所を爆撃したことにしてるだけだろう」

 「だいたい、夜間爆撃の成功率も高すぎる」

 「こんないい加減な計算で魚雷艇や艦載機を主力にするのはどうかと思うね」

 「日本海軍の魚雷を全て合わせても、アメリカ艦隊の方が多い」

 「これじゃ 勝ち目なんかないよ」

 若い士官が研究室に駆け込む、

 「おい、大変だ。また予算を陸軍と機帆船建造に取られた」

 「「「「・・・・」」」」

 若手士官にとって軍組織の縮小は将来設計の破綻に繋がり、

 結婚すら覚束なくなるという状況といえた。

 義憤する彼らが日本社会全体がそうなっていると認識できたかは、定かではない。

 

 

 日本海軍

 旗艦艦隊

   長門、陸奥

     一号型魚雷艇4隻 or 甲標的8隻×2

   利根、筑摩

   天津風、時津風、浦風、磯風、浜風、谷風、野分

 

 第01機動部隊 

   瑞鶴、翔鶴、飛龍   艦載機210機

   妙高、那智、足柄、羽黒

   陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、夏潮、初風、雪風、

 

 第02機動部隊

   赤城、加賀、蒼龍  艦載機210機

   高雄、愛宕、摩耶、鳥海

   朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、霰

 

 

 第01強襲艦隊 

   扶桑、山城、伊勢、日向

     水上機60機 or 双発水上機10機×4

     Sボート10隻 or 甲標的40隻×4

   古鷹、加古、青葉、衣笠

   白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風

 

 第02強襲艦隊 

   金剛、比叡、榛名、霧島、

     水上機60機 or 双発水上機10機×4

     Sボート10隻 or 甲標的40隻×4

   最上、三隈、鈴谷、熊野、

   綾波、敷波、朝霧、夕霧、天霧、狭霧、朧、曙、漣、潮

 

 第03強襲艦隊

   長良、五十鈴、名取、由良、鬼怒、阿武隈

     水上機2×6

     一号魚雷艇4隻 or 甲標的6隻×6

   吹雪、白雪、初雪、深雪、叢雲、東雲、薄雲、白雲、磯波、浦波

 

 第04強襲艦隊

   川内、神通、那珂、球磨、多摩、

     水上機2×6

     一号魚雷艇4隻 or 甲標的6隻×5

   睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、

   文月、長月、菊月、三日月、望月、夕月、

 

 第05強襲艦隊

   北上、大井、木曾、

     水上機2×3

     一号魚雷艇4隻 or 甲標的6隻×3

   天龍、龍田、夕張

   神風、朝風、春風、松風、旗風追風、疾風、朝凪、夕凪、

 

 第06強襲艦隊(陸軍主導)

  神州、鳳州、

     水上機40機×2

     Sボート20隻 or 甲標的60隻×2

  龍嬢、鳳翔  艦載機52機

  暁、響、雷、電、初春、子日、若葉、初霜、有明、夕暮、

 

 潜水艦隊

  伊号47隻、ロ号17隻、甲標的・蛟龍120隻

 

 魚雷艇

  Sボート120隻。1号魚雷艇60隻

 

 

 

 アメリカ合衆国 ワシントン

 白い家の住人たち

 将校が地図を前に説明していた。

 「ソビエトは、スターリンがモスクワからゴーリキへ後退する予定です」

 「ソビエトは負けかね?」

 「いえ、モスクワは、半包囲のまま、年内を持ち堪え」

 「来年の冬季開けはレンドリースの軍需物資によって反攻が可能なはずです」

 「イギリスもレンドリースで、戦況を持ち直せるはずです」

 「東アジア情勢は?」

 「現在、フィリピンのアメリカ軍は日本軍を挑発しています」

 「それで、日本軍は、アメリカ軍の挑発に乗らないと?」

 「残念ながら、臥薪嘗胆するつもりのようです」

 「日本軍は燃料がないはずだ」

 「現在、陸軍に燃料をシフトさせ、中国占領に全力を賭ける気のようです」

 「日本は縦割りで、そのシフトが一番難しいのではなかったのか?」

 「どうやら、見込み違いだったようです」

 「悪い方向へ見込み違いだ」

 「日本軍は、傲慢で無知で短慮だから挑発すれば乗るのでは?」

 「中国戦線に戦争資源を注ぎ込んで、その余裕はないかと」

 「陸軍主導か・・・」

 「日本軍は夜戦部隊を投入し、中国戦線で優位に戦っていると聞いています」

 「日本軍将兵は夜目でも聞くのかね?」

 「万全な態勢で不意打ちしようとした国民軍が、日本軍に先制されたとか」

 「極度に緊張状態の続く戦場なら、そういった現象も起こるかもしれない」

 「しかし、特異な例だし。平均値を上回ることはないだろう」

 「それが・・・十中八九、先制攻撃されるようです」

 「調査してるのかね?」

 「はい、日本の八木レーダーは、初期的な性能で、我々より劣っています」

 「ですが、我々ですら困難な夜間作戦を可能としているようです」

 「他の理由があるのかね?」

 「中国軍将兵の裏切りが、もっとも大きいと考えられます」

 「漢民族の愛国心はどうなってるのだ?」

 「漢民族に愛国心があるのなら元王朝と清王朝は、人口比で建国されないはずです」

 「それにしても酷い戦況だな」

 「日本軍が匪賊と手を結んだ結果、大陸情勢の流れが変わったのだと思われます」

 「卑下すべき連中だ」

 「モラルが失われてるはずですし、日本への波及は確実」

 「日本社会は、単一民族の結束で成り立つので大きな痛手を受けるかと」

 「日本社会のモラルはそんなに高かったかな」

 「社会資本の減少と特定産業への傾倒で犯罪が増加してます」

 「ですが犯罪率は、大陸と比べるべくもありません」

 「結局、相対的なものか・・・」

 「現状が進むなら東アジア全般で、社会不信が増大し、大規模組織の崩壊をもたらし」

 「金融が抑制され、非民主化で社会的な停滞を招くと考えられます」

 「ですが、急速な科学技術発展と産業の成長はないものの」

 「石炭燃料を中心とした大陸鉄道経済が進み」

 「東アジアに日華圏が構築される趨勢にあります」

 「しかし、日本に燃料がないことに変わりない」

 「日本産業は石炭中心の経済に移行しつつあるようです」

 「石油燃料を使用できる我々の方が有利だ」

 「しかし、中華思想に毒された旧体制の中国主導の日中一体ならともかく」

 「変革に躊躇しない日本主導の日中一体はまずいよ」

 「日本側が挑発に乗らないのであれば、こちらから先制攻撃するよりないかと」

 「失業者は多くても、モンロー主義は増大している」

 「アメリカ軍から先制攻撃するようなことがあれば、大統領の侵略性が疑われ、退陣」

 「現地軍の独断専行でも、大統領の軍統制力が疑われ、退陣」

 「アメリカ国民の多くは、戦艦を建造することより、学校を作る方を望むからね」

 「軍需産業で失業対策と経済成長を図るのなら、日本軍に先制攻撃してもらうよりない」

 「ふっ そんな間抜けなことをいう奴はおらんよ」

 「失業対策で経済成長したいなら、自動車を製造した方がいいからね」

 「しかし、自動車を作っても売れないのであれば・・・」

 「命を天秤にかけた需要で失業者を解消し、産業を引き上げられる戦争がいいのだがな」

 「というより、戦争なら不換金ドルで金本位制以上の紙幣価値で、貿易できるじゃないか」

 「世界中から金と債権が集まってるぞ」

 「「「「・・・・」」」」 くすっ♪

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 史実のバルバロッサ作戦は1941/06/22、

 この戦記では、対ユーゴ戦を放棄、同盟国に包囲させたまま、05/01の開始、

 53日早いだけです。

 戦況から北アフリカへの輸送は、後回し、

 仏領インドシナに進駐しなかったことから、

 在米日本資産凍結は、史実07/25から10/15

 対日石油輸出禁止は、史実08/01から12/07

 史実よりほぼ4カ月遅れ、

 備蓄分は史実より増えてますが、どう変わるでしょうか、

 どちらにしろ、日本海軍は、陸軍に燃料を取られ、

 訓練もまともにできず、張り子の虎になってしまいました。

 

 

 

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第05話 1940年 『越えちゃいけない一線』

第06話 1941年 『中華三匪賊の計』

第07話 1942年 『毒を食らわば・・・』