月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第07話 1942年 『毒を食らわば・・・』

 モスクワの冬、

 晴れ渡れば輝くような白銀の世界となり、

 雲に覆われると風景は白から灰色に近付き、

 風が吹けばブリザードとなって、暗闇の世界になっていく、

 除雪機関車がブリザードの中を突き進み、前線のドイツ軍へ軍需物資を運び込む、

 駅に降ろされた物資は、トラックに乗せ替えられ、各戦線の将兵たちに供給した。

 モスクワとレーニングラードは、ドイツ軍縦深陣地によって包囲されたまま、雪に包まれていた。

 そして、ドイツ軍縦深陣地のさらに外、

 土嚢を積み上げたドーム(イグルー)の集落が作られ、

 ドイツ軍軍将兵を寒さから守っていた。

 そこから少し離れた場所、ドイツ軍将兵たちは、凍った川に監視小屋を建て、

 氷に穴をあけ釣竿を垂れる。

 「さむいいぃ〜 鼻がもげそうだ」 ガタガタ ガタガタ

 「エスキモーになった気分だよ」

 「・・・おっ 釣れた〜♪」

 釣り上げられた魚が氷の上に乗るとすぐ凍る。

 将兵は、魚を金串に刺し、塩をかけ、

 炭火の上の網に置くと、チリチリと魚が焼け、芳しい匂いが立ち始める。

 ウォッカをチビリチビリ飲んでも寒く、誰しもが震える。

 「あつっっ!」

 あはははは・・・

 「う、美味いな」

 「ああ、美味い」

 「・・・日本軍は強いと聞いてたが、対ソ参戦は見送ってるようだ」

 「対中国戦で忙しいんだろう」

 「せめてイギリスに参戦すればいいのに・・・」

 「燃料がないのさ」

 「人工石油は?」

 「まともな人工石油を作れるのは世界でもドイツだけだよ」

 「手が凍傷になりそうだな」

 「普段はポケットに入れとけよ」

 「銃の届く場所に手がないと不安」

 「指が取れても知らないぞ」

 「笑えねぇ・・・」

 !?

 「お・・釣れた」

 「冬季開け前に増援はあるんだろうな」

 「むしろ、弾薬と補給物資を頼みたいね」

 「新型戦車もだ」

 「残念ながら4号が増えるだけだ」

 「T34戦車を撃破できる5号パンター戦車は未定」

 「6号タイガー戦車は、昨年の8月に生産が始まったばかり」

 「どちらも配備は当分先だな」

 「タイガーは、雪解けまで前線に150両配備できれば良いらしいが」

 「ソビエト軍の方が多いだろう」

 「縦深陣地と4号戦車で頑張るしかないな」

 「厳しいな」

 「ああ・・・」

 

 

 ハルノート

   1、アメリカと日本は、英中日蘭蘇泰米間の包括的な不可侵条約を検討する、

   2、日本の中国大陸からの撤兵、

   3、通商条約再締結のための交渉の開始、

   4、アメリカによる日本の資産の凍結解除、日本によるアメリカ資産の凍結解除、

   5、円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立、

   6、第三国との太平洋地域における平和維持に反する協定の廃棄

 アメリカから簡素で簡潔な提案が出された。

 2、以外は全て飲める提案といえたものの、

 日本側は、引き続き、交渉を続ける、

 

 

 上海

 8000t級のアメリカ商船が現れると

 日本の哨戒艇の警告を無視したまま、揚子江上流に向かって航行する。

 3230t級軽巡 天龍 艦橋

 「くそぉ〜 舐めやがって」

 「艦長。アメリカ艦船への攻撃は禁止と・・・」

 「このままで済ませられるか、全速前進」

 天龍は、アメリカ商船の針路を塞ぐように横切り・・・

 金属がぶつかり、削られ破裂するようなけたたましい大音響を立てた。

 天龍は、商船に衝突させることで、商船の揚子江遡上を防いでしまう。 

 8000t級アメリカ商船 船橋

 「どうやら、国民軍への輸送は断念しなければならないようです」

 「くっそぉ〜 これでは、開戦の口実にならんな」

 「退役軍人ばかり集めて、こんなこと、させるのだからアメリカも焦ってるのでしょうか」

 「ルーズベルトは戦争したくてしょうがないのだろう」

 「船長。日本の将兵が上がってきます」

 「拷問でもかけられるかな」

 「さぁ どうでしょう。日本の対米戦略は、不戦の様ですから」

 「ま、金は貰ってるし、生きて帰れたらいいか」

 

 

 重慶は、中国大陸の都市で最も日照時間が短く、

 大地は雲と霧に覆われることが多く、航空作戦に不都合な都市だった。

 列強の一般的な夜間爆撃は、先行するパスファインダーが標的地点を爆撃し、

 大規模で強引な侵攻で爆撃する。

 しかし、日本の夜襲爆撃部隊は、小さな爆弾を搭載し、

 幾つもの小さな編隊に分かれ、上昇限度一杯に上がると・・・・

 『全機、降下する。エンジンを絞り込め』

 「了解」

 3〜5機の編隊は、エンジンの回転数を限界まで絞り込み、

 国民軍陣地に向かって滑空していく、

 「・・雲の下は真っ暗だな。雲の下は霧が多いし」

 「隊長は、下が見えないのに、よく敵陣地が分かるな」

 「なんとなくだろう」

 「味方の陣地じゃないことを祈るね」

 「爆弾を落としたら、たまたま敵の陣地があるんじゃないのか」

 幾つにも分かれた編隊は、雲の中に入っていく、

 不意に雲海を出ても暗闇が増し、

 比較的近い僚機の小さな灯火だけが見えた。

 パイロットは、高度計と、

 前方を飛ぶ隊長機の紅灯と緑灯に意識を集中し、

 ほぼ無音で大地に近づき・・・

 『投下!』

 爆弾は一斉に暗い大地に投下され、

 爆撃を終えた夜襲部隊は、エンジンを全開にして離脱していく、

 三式指揮連絡機から投下された爆弾は、15kg×4発。

 それぞれが放物線を描いて、国民軍陣地後方司令部周辺に落ちていく、

 

 

 濃霧に覆われた空に爆音が響き、飛行機が低空に降りてくる、

 “見えるはずがない”

 国民軍師団司令部にいる誰しもそう信じ、

 ぼんやりとした赤電灯が近付いてくるのを見ると、誰もがその確信を揺ぐらせた。

 霧の中の飛行機は、機影すら判別できない、

 しかし、狙い澄ましたように師団司令部上空に爆弾を投下し、

 歩哨は司令部の外側に逃げ出し、

 司令部周囲は、爆発に包まれ、将校たちは逃げ惑い、

 日本軍機は暗闇の向こうへ去っていく、

 日本の航空部隊は、夜襲、霧襲を得意とし、

 中国国民軍の指揮系統は常に混乱していた。

 そして、日本軍砲兵隊の砲撃が始まり、

 「敵襲! 和漢軍ある!」

 和漢軍の攻勢に後手をとることになった。

 

 日本軍陣地の砲撃が前衛の国民軍陣地を吹き飛ばし、

 先行する日本軍のBT戦車78両と97式中戦車304両が国民軍の夜営地を強襲、

 国民軍は、指揮系統を混乱させて崩壊し、

 後続の和漢軍の総攻撃を受けると総崩れとなった。

 和漢軍

 漢民族の将校が日本人の将校に詰め寄る。

 「なにやってるあるか、早く命令するある」

 「し、しかし、み、味方だ」

 「早くしないと押し返されるある。向こうはやってるある」

 「し、しかし、お前と同じ、漢民族じゃないか」

 「このままだと機先を奪われるある」

 「し、しかし・・・」

 「もう腰抜けはいいある。わたしが命令するある」

 「あっ ま まった・・・」

 「撃つある!」

 和漢軍は、身動きの取れない味方へ向けて機銃掃射を開始する。

 そう、督戦隊方式は、大陸の常識だった。

 死守命令を出すときは、鎖で足を繋ぐ事さえもする。

 脅えて動けない将兵には後ろから撃ち殺す事も常識だった。

 そして、踏み躙られた人格と人権の発露もまた激しく、

 生き残った和漢軍の苦労と努力の多くは、略奪に費やされ、

 略奪後、和漢軍はのんびり、国民軍を追いかけていく光景が繰り返された。

 日本軍将兵たち

 「もうやだ。日本軍だけでやろうよ」

 「いまさら、無理言うなよ」

 「おれの人生と魂が汚れちゃったよ」

 「おいおい」

 

 

 

 四川盆地上空で爆音が響き渡り、

 幾つもの軌跡が弧を描いて縺れ錯綜しする、

 先制発見した零戦の編隊は、ウォーホークの後方に回り込み、

 7.7mm機銃の掃射で、穴だらけとなったウォーホークが逃げ回る。

 ウォーホークの襲撃は、和漢軍の鉄道施設を妨害するためであり、

 零戦は、鉄道の設営を守るため迎撃する。

  P40ウォーホーク 自量2810kg 翼面積21.92u 時速565km/h

  零戦        自重2000kg 翼面積22.44u 時速500km/h

 スペック上の数字で両機の特性と航空性能の見当がついた。

 零戦は、軽量で翼面積で勝ることから、遠心力に対して深く沈まず内側に回り込んでいく、

 P40ウォーホークは、60km/hの速度差を利用し、強襲を掛け、離脱後、引き離していく、

 日本の航空部隊は、濃霧や夜襲で国民軍に対し痛撃を与え、

 フライングタイガースの航空基地に打撃を与え続けた。

 対する国民軍の航空部隊とフライングタイガースは、昼しか飛ぶことができないでいた。

 国民軍戦闘機とフライングタイガースのウォーホークは、せめて昼の制空権を取ろうと飛び立つ、

 しかし、日本の戦闘機は常に優位な空間を占め、先制発見先制攻撃で戦い、戦果をあげていた。

 大陸の航空戦は、日本機が先に発見し、死角に回り込んで敵編隊を強襲することが多く、

 その逆はほとんどなかった。

 日本人パイロットの視力が良かったとするなら無理があり、

 偶然とするのは不自然な確率であり、

 レーダーは、日本の科学技術力で根拠がなく、

 それらしい施設は、あったものの、工作員の調査で空箱と報告されていた。

 摩訶不思議な幸運とするなら、明らかに神が成した差別といえた。

 ウォーホークが燃えながら国民軍の“人海”に落ちて爆発する。

 零戦隊

 『もっと、あの中に落ちればいいんだ』

 「相変わらず、中国人を嫌ってるな」

 『どっちもろくな連中じゃない。虫唾が走るね』

 「軍もあんな奴と組むなんて正気じゃない」

 『気持ちはわかるがね・・・』

 『4番機、5番機。何してる! 付いて来い』

 「了解!」

 零戦部隊が雲の中に入り、

 出ると目の前にウォーホークの編隊が通過していく、

 「まだウォーホークが生き残っていたのか」

 『夜間爆撃は、そうそう命中するものじゃないだろう』

 「だけど、盗聴した無線で泣きが入ってたよ」

 『平文を信用するのはどうかと思うぜ』

 「よし、右に上昇する回り込め」

 零戦部隊は、常に多対一で強襲し、

 内側に回り込む零戦は、終始、優位に戦い、パイロットは練度を上げていく、

 飛行場

 戦果を上げた日本軍パイロットが表情を輝かせて降りてくる、

 「あの隊長。よく、いつもいつも敵の背後に回り込めると思うよ」

 「まったく、馬鹿で指揮も統率も飛行時間も才能もないのに幸運だけはある」

 「まぁ ウォーホークは、零戦といい勝負の機体だし、先に見つけた方が有利だよ」

 「この先も幸運が続けばいいがね」

 

 

 四川盆地に入った和漢軍50万は道路を整備し、

 線路施設しながら重慶に突き進んでいく、

 重慶侵攻が冬になったのは、比較的、雨と霧が少なく涼しいからであり、

 対する国民軍は、戦意が低く、後退していくばかりだった。

 通過する村々は、和漢軍に恭順しなければ略奪され、強姦され、破壊され、

 恭順を示しても街の破壊を逃れられただけだった。

 !?

 「全速、後進!」

 97式戦車が一気に後退すると、

 砲塔の脇を白煙が抜け、地面に突き刺さった無反動砲弾が炸裂する

 味方の機関銃が襲撃地点に向けて機銃掃射を繰り返し、

 国民軍のゲリラ小隊が壊滅していく、

 アメリカから供給されたバズーカーは、日本軍戦車の優位性を著しく低下させていた。

 また2.7mmブローニング機関銃も、日本戦車の大敵であり、

 容易に装甲を撃ち抜き、穴だらけにしてしまう。

 「危なかったぜ」

 「もっといい戦車じゃないとな。せめて機関銃を弾き返せるくらいの」

 「ふっ」

 

 医学は、知的所有権の尊重と有機的な共有の産物であり、

 研究投資の総額で底上げできるものの、

 あくまで表面的な事象に過ぎない、

 人は過去の人体実験で得た内容を理解し、

 医療活動を繰り返すことで医者の水準に達する、

 そして、新たな人体実験が医療を向上させる、

 アメリカの医療技術は黒人とインディアンの犠牲によって成り立ち、

 ドイツも戦争捕虜と不良人種の犠牲によって医療技術が蓄積され、

 列強の多くも植民地で得た人体実験で医療を押し上げていた。

 日本の医療は、欧米諸国の医療に及ばない、

 それは、人体実験の蓄積の少なさといえた。

 731部隊は、支隊を四川盆地へ移動させていた。

 自作自演で病症者を作って機関内で秘密を守らせるより、

 大量の怪我人がでる戦線で患者を診る方が秘密を守りやすく、

 容易に医療を向上させることができた。

 侵攻作戦で負傷した人間は、敵味方、軍民を問わず、

 731部隊の人体実験の対象となり、

 日本人の医者たちは、生命を失ったモノを見下ろす。

 「駄目だ。失敗した」

 「アメリカとドイツは同じ判例を成功させてる」

 「それも戦前・・・」

 「まだ、医療の蓄積と技術で負けているということでしょう」

 「欧米では、まだ、難しい術式を成功させているというのに」

 「これほどまで差があるとはね」

 「どれほどの規模で人体実験をしたのやら・・・」

 「次の丸太は?」

 「そろそろ届くと思うんだが」

 「また、和漢軍に先を越されてないだろうな」

 「漢民族は、殺した奴の内臓を口に入れて玩具にするからな」

 「バカどもが勿体無いことをしやがって」

 「重傷者は、こっちで回収させろ、無駄死にさせるな」

 「少なくとも検体にこまることはありませんね」

 「ふっ そうだな」

 

 

 マル5計画

 赤レンガの住人たち

 “またもアメリカ軍機の領空侵犯”

 “またもアメリカ海軍による日本商船の臨検”

 新聞の見出しは、陸海軍将校の腰抜けぶりを責めるかのようだった。

 とうぜん、将兵たちのイライラも募り・・・

 「全部、重油石炭混合燃焼の艦艇じゃないか」

 「しょうがないだろう。対日石油輸出全面禁止なんだから」

 「頭いてぇ 何とかしろよ。これじゃ 負けるだろう」

 「だから、機帆船で物資を島礁に運び込んで要塞化」

 「あとは、燃料消費の少ない、小型艦艇と潜水艦と航空機で守るしかない」

 「駄目だこりゃ」

 「シグマキャリア依存は変わらないな」

 「しょうがない・・・」

 「あと、大陸支配で海軍からも人材を出せだと」

 「ふざけんな! これ以上、出せるか!」

 「民間も泣きが入ってるみたいだな」

 「こんなつもりじゃなかったってか」

 「馬鹿どもが、想像力のなさ過ぎだ」

 「事勿れに大勢に従ったツケだろう。俺はもう知らん」

 

 

 北大西洋

 アメリカ駆逐艦エリソンが爆雷を投下していた。

 いまだ対独参戦できないアメリカは、イギリス商船隊を装い、

 近付いてくるUボートに爆雷を投下し、

 反撃を待って参戦の口実にする気でいた。

 エリソン 艦橋

 「7時間か・・・隙を見せてるのだが、なかなか撃ち返してこないな」

 「艦長。Uボートは逃げたのでは?」

 「いや、いるな」

 「艦長。これ以上は、商船の不審を買います」

 「不審か・・・護衛の範疇を越えてしまうと流石にまずいか」

 「商船に追随するように伝えろ。航行を再開する」

 

 

 

 

 フィリピン沖 南シナ海

 天城山丸 船橋

 「船長。停船命令です」

 「アメリカ海軍か、随分と積極的だな」

 「どうしますか?」

 「逃げられるわけもないからな。応じるしかないだろう」

 「機関停止」

 

 

 重巡ヒューストン、

 軽巡ボイス、マーブルヘッド、

 駆逐艦

  ピアリー、アルデン、エドソール、エドワーズ、ホイップル、

  ブルマー、バーカー、スチュワート、パロッロ、ポールジョーンズ、

  フォード、ハトフィールド、ケーン、ブルクス、

  ギルマー、フォックス、プルスベリー、ポープ、

 ヒューストン 艦橋

 「臨検に意味があることかね」

 「のんびり臨検すれば、ボロが出るかもしれませんし」

 「採算効率低下は、船主と積み荷の持ち主の損害になりますからね」

 「この海域では、日本海軍の方が強力なんだぞ」

 「政府が求めてることでは?」

 「もちろん、アメリカ大統領とシビリアンコントロールに従うよ」

 「それがアメリカ海軍だからね」

 「しかし、経済制裁中に・・・」

 「日本は、商船を中継させ、潜水艦で日独連絡を図ってる疑いがあるそうですよ」

 「「「「・・・・・」」」」

 軽巡ボイス、マーブルヘッドが南シナ海で天城山丸を臨検

 

 

 

 ドイツ軍陣地で空襲警報が響き渡ると将校は武器を取って立ち上がる、

 それは、冬の終わりと泥沼の冬季明けの間隙を利用した攻勢だった。

 数百機のシュトルモビク爆撃機が爆弾を投下し、

 ソビエト砲兵隊の砲撃が降り注いだ。

 ドイツ軍陣地は濛々とした爆炎と爆煙に包み込まれていた。

 ソビエト軍将兵が、もう、ほとんど死んでいるだろうと思うほどであり、

 T34戦車とソビエト軍が押し寄せる、

 そして、ソビエト軍の火力とほぼ同規模の砲撃がドイツ軍陣地から撃ち返され、

 T34戦車は次から次へと被弾し、破壊され、

 周囲のソビエト将兵は、機銃掃射によって薙ぎ倒されていく、

 ソビエト軍将兵が躊躇すると、後方の督戦隊士官が銃殺命令を出し、

 ソビエト軍将兵は、ドイツ兵に殺されるか、

 督戦隊に殺されるかの二者選択しか残されなかった。

 ソビエト軍は、戦車数、兵員数、総合火力と武器弾薬量で勝っており、

 先に弾薬が消耗し、予備戦力を使い果たすドイツ軍は、後退するよりなく、

 逆包囲される前に後退していく、

 

 

 

 ハル国務長官が日本側乙案を拒否、

 中国撤兵要求を提議(ハル・ノート )

 東京 総理官邸

 「どうやら、アメリカは、日本軍の大陸からの完全撤退を望んでいるようだ」

 「大陸は犯罪集団だと聞いたぞ」

 「和漢軍で大陸の治安維持は無理だろう」

 「まぁ 日本軍も酷いことしてますし」

 「日本軍の酷いは、中国人の酷いに比べたら子供の遊びだそうだ」

 「国家統一と治安維持は別個に考えるべきでは?」

 「治安維持を優先すれば中国統一は不可能ですし」

 「まず、大陸の統一。その後、治安の回復です」

 「それまで、日本人の行政官が正気を保っていたらいいがね」

 

 

 台湾 高雄

 深夜、空襲警報が鳴り響き、高雄飛行場から零戦が出撃していく、

 ゼロ戦3機から領空侵犯の警告が発せられ、

 B17爆撃機2機は、警告を無視して領空へと押し入ろうとし、

 台湾南沖の上空で日米の編隊が張り合う。

 B17は巨大な機体で日本機を圧倒し、

 零戦の前に機体を滑らせ、撃たせようとしていた。

 ゼロ戦隊

 「ったくぅ〜 あいつら、いつもいつも領空侵犯しやがって・・・」

 “挑発には絶対に乗るな、だそうだ”

 「大陸じゃ陸軍ばかりいい思いさせてるじゃないか?」

 “そういったら、陸軍将校と取っ組み合いになった”

 “それほどいい思いはしてないようだ”

 “それに日本海軍は艦艇を改悪改造してるから戦争になったら負ける”

 『しなきゃいいだろう・・・』

 !?

 「輸送船の方に回り込んだぞ」

 B17爆撃機は低空に降りると、

 高雄に入港する輸送船に嫌がらせし、

 零戦部隊がB17爆撃機を追い散らしていく、

 

 B17爆撃機 コクピット

 「・・・もういいだろう、だいたい確認した。引き揚げるぞ」

 「機長。発砲許可が出ていますよ」

 「アホか。命令書でも貰わん限り、こっちから撃てるか」

 「司令がまたΓ憶宛技れそうですね」

 「だったら、命令書でよこせばいいんだ」

 「口頭で、開戦の引き金なんか引けるか」

 「せめて、日本機が先に撃ってくれたら・・・」

 「そこまで馬鹿じゃないし。撃たないだろうな」

 「ところで、副長。日本機のパイロット。どう思う?」

 「どうと言いますと?」

 「妙に勘のいい動きをしてるじゃないか?」

 「そうですね。昼間のライトニングのパイロットも、そんなことを言ってましたが」

 「そうか・・・じゃ 命令書の方は、確認したわけだ」

 「何の命令書だったんです?」

 「日本機パイロットの夜間戦闘能力だ」

 「あの赤灯が赤外線で、針金のような出っ張りがレーダーですか?」

 「現実に戦闘機を夜間に飛ばしてるのなら本物だろう」

 「しかし、アメリカ軍機でもレーダー搭載の単発夜間戦闘機なんて・・・」

 「ふっ 開戦不可だな」

 日本軍で常識でも、世界で非常識ということはあり、

 うっかりやってしまうこともあった。

 

 


 03/28 英空軍がリューベックを大空襲

 

 04/30 第21回衆議院議員総選挙(翼賛選挙)

 総理官邸

 大政翼賛会の推薦381人(81.8パーセント)と非推薦85人(18.2パーセント)が当選する。

 「これだけ圧力をかけても81パーセントか。日本人も意外と平和好きが多いようだな」

 「投票数だけなら非推薦は35パーセントで上位当選者ばかりだな」

 「気骨のある地域もあるってことだ」

 「反米が高まっているのに対米参戦しないからだ」

 「中国戦線で忙しい。アメリカなんか相手にできるか」

 「・・・中国大陸の乗っ取りだろう」

 「はっきり言わんでくれ」

 「こうなったら日本が経済破綻するのが先か。中国を統一するのが先だな」

 「やっちゃならん事をしていると思うが」

 「いまさら止められるか」

 「民族主義系右翼は離反気味だぞ」

 「伝統を重んじる右翼もな」

 「大陸を抱え込んだら民族主義は維持できなくなるよ」

 「このままだと、大政翼賛会も割れるんじゃないのか」

 「ったく、やるならやるしか無かろう。女々しいんだよ」

 「誰だって、清国や元の二の舞を演じるのは嫌だからな」

 「ところで大陸は “和” か “日” か、決めたのか?」

 「皇位は、秩父宮雍仁親王? 高松宮宣仁親王?」

 「一応、軍が陛下の御心を酌んで軍部の独断専行という形を取ってるが・・・」

 「こればっかりは、裁定がいるよね」

 「陛下の性格からして、あり得ないかも」

 「いや、中国全人民の総意というとして・・・」

 「陛下に断られたらどうするんだよ」

 「そ、そこは、それ、いつものなあなあで・・・」

 『『『『どう、なあなあするんだよ』』』』

 「とりあえず。併合して型だけを作ってだな。入れてしまうことにしよう」

 「それとも誰か軍籍から外して・・・」

 「石原とか?」

 「泣きたくなってきた」

 

 

 東部戦線

 ブリザードが収まると東の雲間からラボーチキン戦闘機とミグ戦闘機の編隊が現れ、

 西の雲間から現れたメッサーシュミット、フォッケウルフの編隊と絡み合う、

 ドイツ軍とソビエト軍陣地上空は、戦闘機同士の空中戦が展開され、

 ソビエト空軍のシュトルモビク爆撃機の大群が航空戦の中に突っ込み、

 数千機規模の空中戦に膨れ上がる、

 そして、シュトルモビク爆撃機の編隊がドイツ軍陣地に押し寄せ、爆弾を投下していく、

 着弾すると音速を超える衝撃波と爆炎が周囲に広がり、

 爆音が戦場全体を包んでいく、

 

 T34戦車群を先頭にソビエト軍の大攻勢が始まる。

 ソビエト軍砲兵部隊の砲撃が放物線を描いて、ドイツ軍陣地を襲い、

 ドイツ軍陣地からも反撃が始まる。

 ソビエト軍陣地の戦線からエンジン音が轟き、

 T34戦車の大群が雪上を突進しドイツ軍縦深陣地に襲いかかった。

 凍った土塁に隠れたタイガー戦車が先頭のT34戦車の装甲を撃ち抜いて撃破し、

 後続のT34戦車の砲撃がタイガー戦車に集まり、ほとんどが弾かれていく、

 後方のドイツ軍陣地に配置された88mm砲が火を噴き、

 押し寄せるT34戦車を撃破していく、

 ドイツ軍陣地に向かってソビエト軍将兵が突入し、

 爆炎に包まれ、誰もいないと思われた陣地から機銃掃射が始まる、

 督戦隊に撃ち殺されるか、ドイツ軍に撃ち殺されるかの囚人部隊は、僅かな生存を夢み、

 ひたすら突撃を繰り返し、次々と倒れていく、

 後続のソビエト軍将兵は、ドイツ軍陣地の数倍の兵力に達しており、

 屍を踏み越えて押し寄せるソビエト軍将兵に従深陣地は踏み躙られつつあった。

 ドイツ軍司令部

 「次から次へと現れやがる」

 「随分、倒してるのに、まだいるんだな」

 「それだけロシア人が多いんだろう」

 「それだけ広いんだ」

 爆発が前線指揮所にまで届いた。

 「ちっ 右翼のタイガーがやられた」

 「右翼に航空部隊と支援砲撃を集中させろ」

 「機関銃部隊と砲兵を後退させる」

 「予備の4号に支援させて、右翼の後退を援護させろ」

 「弾薬の予備は?」

 「まだです」

 「くっそぉ〜 戦線を維持できないぞ」

 「このままでは、モスクワが救出されますよ」

 「こうなったら・・・」

 

 

 

 マジェロ環礁  陸地9.7 ku  礁湖(ラグーン)面積295ku

 356mm連装砲台4基が設置され、

 飛行場が拡張され、航空機60機が配備され、

 水上機12機が堤防に寄せられていた。

 環礁が浚渫され、埋め立てられ、

 ドック(全長230m×全幅25m)が建設されていた。

 前線に軍艦を配備する上でドックの有無は大きな意味があった。

 そして、中国大陸で戦争中にもかかわらず、

 伊号4隻、Sボート12隻、甲標的12隻が配備されていた。

 それは、アメリカを恐れていたからにほかなかった。

 とはいえ、アメリカ太平洋艦隊に比べれば弱兵なことに変わりなく、

 戦力を生かすも殺すもシグマ・キャリアの能力と人数に負うところが大きかった。

 地下 防疫区画

 石井(731)機関の研究員たちが血清を遠心分離器にかけていく、

 シグマ・キャリアの将兵一人に一人以上の医療関係者が付いていた。

 これは、異常なことだったものの、

 相応の戦力強化を維持できると上層部が認めていた。

 「・・・とうとう、石油の輸出が禁止か」

 「日本経済も終わったな」

 「アメリカを怒らせるからだ」

 「内地は、機帆船の建造ラッシュだそうだ」

 「ふっ 船を作れるだけの燃料があるのならいいがね」

 「軍艦は泊っていてさえ燃料を消費するからな」

 「もうすぐ軍艦が走れなくなるな」

 「中国は?」

 「中国統一だけなら和漢軍だけでも難しくないそうだ」

 「意外と人気あるな」

 「日本が匪賊の地位を保障するなら不正腐敗と搾取率の少ない日本に付くよ」

 「結局、立身出世か」

 「匪賊だって、埋もれて死ぬか。表舞台に立って生きるかだから。日本と組むわな」

 「じゃ 汚れ役を引き受ける覚悟さえあれば、日本が中国大陸を統一ということか」

 「そんなところだろうな」

 「しかし、石油がないと困るだろう」

 「北樺太の油田は、輸入できるよ」

 「細々過ぎて足りないだろう」

 「戦争するには足りない」

 「はぁ〜」

 不意に空襲警報が鳴り、

 基地全体がざわつく、

 「またか・・・」

 「アメリカの艦載機か。潜水艦が沖に浮上したんだろう」

 「沈めたくなってきた」

 「中国戦が終わるまで駄目だと」

 「どの道、燃料がないがね」

 

 

 英空軍がケルン大空襲

 

 

 太平洋

 密閉された艦内で赤灯が蒼ざめた顔を照らす、

 爆音が艦内に届くと、次に衝撃が艦体を軋ませた。

 大西洋でお馴染みの光景でも太平洋では初だった。

 違うのは、いつも投げやりな艦長が、不敵な表情を浮かべ、

 何やら遠くを見るような目つきで、速度、方位、深度を口にし、

 そのたびに艦が上下し、左右に傾いた。

 

 1500t級アメリカ駆逐艦マハン、カミングズ、ドレイトン、ラムソンが爆雷を投下し、

 一定の時間が過ぎると海上が盛り上がり、

 海水を吹き上げて爆発し、瀑布を降らせた。

 マハン 艦橋

 「潜水艦はどこに行った?」

 「海底に潜んでいるのではないかと」

 「くっそぉ どうなってるんだ。ことごとく、爆雷を外しやがる」

 「艦長。いいのですか。交戦規定に反しますが」

 「フィリピン行きの商船護衛中に不審な潜水艦を発見」

 「Uボートがイギリス船団と間違えて敵対行為を取ったため」

 「自衛手段を取った。間違っていない」

 「し、しかし・・・」

 「いいのだよ」

 「艦長。カミングズから入電。爆雷はあと、3発なり」

 「こっちの爆雷は?」

 「あと、2発です」

 「ドレイトンとラムソンは?」

 「ドレイトン4発とラムソン5発です」

 「馬鹿な・・・」

 「駆逐艦4隻で56発。内42発使って、たった1隻の伊号を沈められないのか」

 「「「「・・・・・」」」」

 「・・・・Uボートは、退避した模様」

 「このまま航行を継続する」

 「「「「・・・・」」」」

 この戦訓は、アメリカ海軍に伝えられ、

 ソナーの向上と爆雷数の増加が求められた。

 

 

 アメリカ駆逐艦部隊が去った後、3561t級伊16号が浮上する。

 伊16号 最上甲板

 「やれやれ、酷い目に遭った」

 「見事な操艦です。艦長」

 「撃ち返したかったな」

 「「「「・・・・・」」」」

 「明らかにアメリカ海軍の敵対行為です」

 「だよな。しかし “可能な限り戦闘を避けよ” だしね・・・」

 「「「「・・・・・」」」」

 「まぁ どうせ、Uボートと間違えたことになるだろうけどね」

 

 

 

 

 重慶侵攻

 和漢軍が人海戦術で鉄道の施設を強行していた。

 鉄道を早期に建設するため日本本土から路線を剥がして大陸に持ち込まれ、

 河川を進む大発と施設する線路を守るため

 日本軍が戦車を随伴させて両岸沿いを監視する、

 重慶攻略に投入した戦車は、日本陸軍の作戦史上最大規模であり、

 対ソビエト戦で捕獲したBT戦車が投入されるなど、

 日本軍が保有する、ほぼ全ての戦車が投入されていた。

 97式中戦車(15t/280馬力。18.6hp/t)、53口径47mm砲、304両

 95式軽戦車(7.5t/114馬力。15.2hp/t)、46口径37mm砲、612両

 BT戦車(13.8t/450馬力。32.6hp/t)、46口径45mm砲、78両

 4号戦車(25t/300馬力。12hp/t)、48口径75mm砲、95両、

 3式重戦車(40t/600馬力。15hp/t)、53口径75mm砲、12両、

 重慶攻略戦

 「BT戦車78両と97式中戦車304両は、山登りできそうだな」

 「じゃ 95式軽戦車612両、4号戦車95両、3式重戦車12両は大発で重慶近辺に降ろすか」

 「問題は、和漢軍が進んだ後が倫理道徳的に問題ありだと思うことかな・・・」

 「まず中国統一でしょう」

 「良心が咎めるのだが?」

 「それは、見ざる聞かざる言わざるということで・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 

 難所の三峡を超えた和漢軍と日本軍は、四川盆地へ取り付き、

 和漢軍は、目標の重慶から東50km、揚子江沿いの両岸に陣営を建設していた。

 大発の群れが揚子江を遡上し、補給物資を降ろしていく、

 「戦車は?」

 「95式軽戦車612両、4号戦車95両、3式重戦車12両だ」

 「燃料は?」

 「太平洋で戦争するより浮かせられるよ」

 「この作戦で終わりにしてくれ、もう、燃料がない」

 「まぁ これだけ戦車があれば、国民軍を圧倒できるな」

 「いや、空輸で大量の機関銃とバズーカーが重慶に運び込まれているらしい」

 「バズーカの射程は、短いが戦車を撃破できるだろう」

 「そういえば、横流しされたバズーカーが入ってきたな」

 「大丈夫か?」

 「戦車を狙われる前に、狙撃銃で狙い撃ちできればな」

 「国民軍の指揮が混乱したら和漢軍で押し切りだ」

 「バズーカは対人兵器じゃないからね」

 「シグマ・キャリアがもっと必要だな」

 「しかし、これだけの戦車を、よく集められたもんだ」

 「和漢軍のおかげでね」

 「魂を悪魔に売り渡してな」

 重慶の街で行われるであろう悪魔の所業に怒りが込み上げる。

 日本軍将兵も影響を受けつつあったが、それでも匪賊軍ほどでなく、

 軍隊としての対面が保たれていた。

 「あの外道・・・」

 「なんで、あんな人でなしと戦友にならなければならないんだ」

 「昔からの習慣だよ」

 「勝った軍隊が全てを奪い略奪して、資産を再配分できる」

 「あんなクズどもと戦友なんて・・・」

 「このままじゃ 日本軍将兵の綱紀が崩れて軍隊としての統制を失うぞ」

 「大本営に向けて砲撃したくなってきた」

 「それより、このままだと日本軍が野盗化してしまう」

 「綱紀を乱した将兵をみせしめに銃殺する方が先だな」

 「「「「・・・・・」」」」

 

 

 東部戦線

 メッサーシュミットとフォッケウルフが、ミグとラボーチキンと空中戦を展開していた。

 シュトルモビクの大群が次々と爆弾を投下していく、

 ドイツ軍陣地に爆炎が立ち昇り、

 雪解けの泥を吹き上げ、戦場全体に土砂を降らしていく、

 ソビエト軍の冬季開け攻勢と

 雪解けの泥沼の戦いにドイツ軍の縦深陣地は耐えていた。

 モスクワとレーニングラードの包囲は続いており、

 守るドイツ軍と攻勢を続けるソビエト軍は、消耗戦へと移行していた。

 ドイツ軍指揮所の近くに砲撃が落ち、土砂が降り注ぎ、

 到着したばかりの新兵の真新しい軍服が泥で汚れていく、

 将校が無線を前に怒鳴っていた。

 「88mm砲弾が足りない。弾薬はどうした?」

 「まだ、40km手前だ」

 「ロシア人は、弾薬がなくても突っ込んでくるというのに・・・」

 「潮時だな。弾薬が間に合わなければモスクワの進路を空けるしかない」

 「また総統が南方軍に戦力を集めようとしてるんじゃないだろうな」

 「南には資源があるからな」

 「冗談じゃない」

 「ただでさえ、輸送が滞っているというのに南方で攻勢に出られてたまるか」

 「モスクワは、まだ落ちないのか?」

 「まだだ」

 「とういうより、防戦一方でモスクワを攻撃できない」

 「同盟国が頼りになればいいんだがな」

 「ふん、5ヵ国で囲んでもユーゴを落とせないんじゃ 東部戦線でも駄目だろう」

 

 

 

 日本の某工場

 新型木炭車の開発が始まっていた。

   取り扱いや手入れが簡易で、手入れは1日8時間運転して、1日1回以内

   発生炉は保存が容易で、寿命は、毎日使用して2年以上、耐火煉瓦と火床は1年以上

   運転が容易で、ガソリン車とほぼ同等の操作であること

   発生路の着火が容易で、速やかに着火できること

   エンジンの始動及び自動車のスタートが容易であること

     始動は10分以内。休止10分後もすぐに始動

     休止30分乃至1時間後は5分以内に始動

   1回の燃料補充で長距離走行可能なこと(薪消費率1km/kg)

     平地走行、楢木炭、楢薪使用を基準とし以下の通り。

     木炭瓦斯発生路 100キロ以上 薪瓦斯発生路 80キロ以上

   速力

     自動貨車35〜45キロ  乗合自動車35〜45キロ  乗用車50〜70キロ

   登坂能力

     定量貨物と人員を載せ、最低歯車速度(ローギア)で6分の1傾斜を容易に登り得ること

     同登坂路200メートルを1分半以内で登り得ること

   安全性

     発生炉の構造・装置は進行中の振動で破損しないこと

     発生炉より生ずる熱と煙は運転手及び乗客に不快な悪影響を及ぼさないこと

 開発者たち

 「戦闘機並みの開発要綱だな」

 「車体は、アルミを使うしかないな」

 「いや、ハイテン(高張力)鋼だろう」

 「んん・・・」

 「熱に強いのはセラミックだが・・・」

 「嵩張るとまずい気がするな」

 「希少金属を混ぜて、品質を向上させるしかないと思うが」

 「まぁ 希少金属だけなら中国大陸にあるがね」

 政府機関から与えられた目標値は高く、財閥企業でも苦心させられていた。

 

 

 ブラジル リオデジャネイロ港

 愛国丸

 日本政府と財閥の関係者

 「サトウキビを使ったエタノール燃料は?」

 「腐食の問題も出てくるし。大規模にやらない限り難しいだろうな」

 「そうそう、上手くいくわけがないか」

 「船と自動車は石炭で代替できても、飛行機はどうしても燃料を消費するからな」

 「陸軍も海軍も航空戦力抜きでは開戦不可だそうだ」

 「とはいっても、もう、対中戦で艦隊は備蓄分を使わされて、分岐点は超えてしまったし」

 「開戦も不可。石油も無しだからな」

 「いま、アメリカに戦争吹っかけられたら、日本は終わりだな」

 「ソビエトに吹っかけられても終わりだよ」

 戦略物資を満載した10000t級日本商船がスペインへと向かう。

 日本商船は欧州の戦いに参戦しておらず、

 臨検されたとしても中立国との交易は可能だった。

 スペインを経由して戦略物資がドイツへ流れていく、

 

 イギリス重巡コーンウォール 艦橋

 「愛国丸は、進路を変えました」

 「しばらく、追跡しよう」

 「臨検はしないので?」

 「荷揚げの段階で積載した物資は、イギリス情報部に伝わっている」

 「怖いのは待ち伏せしてるかもしれないUボートの方だ」

 「いっそ沈めてやればいい気分なんですがね」

 「10000t級商船2隻が日本、南アメリカ大陸、スペインを往復しているだけに過ぎん」

 「その数百倍のイギリス商船が太平洋とインド洋を航行している」

 「日本が参戦すれば、数十倍のイギリス商船隊が危機に晒されてしまう」

 「お目溢しですか」

 「しょうがあるまい」

 

 

 アメリカの対日石油輸出禁止に対し、

 日本は石炭燃焼の火力発電建設と水力発電建設で対抗し、

 電気自動車の開発と生産が進められていく、

 また、大型機帆船の開発と建造が進められ、

 重油石炭混合燃焼機関の開発も進められていた。

 首相官邸

 「対米開戦は?」

 「挙国一致で大陸支配中だから、開戦は不可能だろう」

 「た、確かにそうだが・・・」

 「君たちも大陸にいってもらうことになるよ」

 「そ、そんな・・・」

 「なにしろ、人材がいくらあっても足りない」

 「「「「・・・・」」」」

 このときの日本は、自業自得、自縄自縛(じじょうじばく)の体といえた。

 そう、石油から石炭への産業の退化だった。

 

 

 

 

 アメリカ合衆国

 白い家で男たちが謀略を練っていた。

 「ドイツは、挑発に乗らない」

 「日本も攻撃してこない」

 「ドイツは挑発に乗らないだけの地力はあるがね」

 「しかし、日本は期待外れだな」

 「ドイツは希少資源がなく」

 「日本は600万必要な燃料に対し、80万分の生産しかない」

 「産業を維持できず、苦しいのではないのか?」

 「日本軍が石油の大半を使ってましたから軍が行動を停止すれば、残りは民間分ですし」

 「それも軍需を縮小するなら民需は、かなり割り引いて考えていいでしょう」

 「80万で足りると?」

 「いえ、足りませんが石炭で代替してるようです」

 「このままでは、ドイツがソビエトを打倒し。日本が中国大陸を統一してしまう」

 「日本が匪賊と組んで中国支配を決めたのがシナリオの躓きの始まり」

 「ドイツがユーゴの離反を放置してソビエトに侵攻したのがケチのつき始めだな」

 「どうする」

 「既に重慶は、和漢軍によって占領されてるし、成都の蒋介石は力を失ってる」

 「参戦の口実がないぞ。口実がなければ、アメリカは参戦できない」

 「もっとも、国民に日本とドイツの非道を伝えるしかない」

 「この前の雑誌で、国民軍と日本軍を逆に載せて失敗したじゃないか」

 「そういえば、ジャネット・ランキン下院議員に突っ込まれたな」

 「あの議員は戦争そのものが嫌いなんだ」

 「しかし、殺戮してた側が日本軍じゃなく、匪賊だったとはな」

 「というより、国民軍だろう」

 「日本と中国人は似たような顔だから、軍服を間違えたらわからんよ」

 「だいたい、和漢軍が白地に赤玉模様のスカーフを巻いてる事を知らなかったのもまずい」

 「日本は工業力を維持できなくなるはずだがな・・・」

 「中国を統一するのに工業力はいらんよ」

 「民衆は、強い側と主従関係を結び、地位と名誉と財産を得られればいいんだからな」

 「因みに石油がないと不便だが、石油量と人の幸福は比例するわけじゃないからね」

 「フライングタイガースは?」

 「ほぼ壊滅しつつある」

 「日本の戦闘機は、それほど強いのかね」

 「夜間爆撃で飛行場ごと爆撃されることが多いようです」

 「無論、空中戦でも苦戦していたと報告を受けてます」

 「中国民衆は、成都の蒋介石から離反しつつあるし、いずれ、陥落するだろう」

 「まずいな。なんとか参戦しないと・・・」

 「あと、日本軍機の夜間戦闘能力ですが、本物の様です」

 「では、日本は、レーダーか、赤外線測定器を開発してるのか?」

 「・・・いえ・・また開発途上で、性能は、我々の2割程度かと」

 「おかしいじゃないか。なぜ、夜間飛べる?」

 「引き続き調査します」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 ユーゴスラビアは、イタリア、ギリシャ、ブルガリア、

 ルーマニア、ハンガリー軍の包囲されていた。

 ユーゴは、孤立していたものの

 山岳地帯である地の利を利用して、5ヵ国の侵攻を防ぐことができていた。

 ドイツは、旧式の武器を同盟国に売却し、対価で資源を得ると新兵器の開発と生産を進め、

 東部戦線へと送り込んでいく、

 観戦中のドイツ軍将校たち

 「なんか、包囲攻撃してる方が屁っ放り腰で、ユーゴ軍の方が粘り強そうだな」

 「こりゃ いつまでたってもユーゴは落ちそうにない」

 「総統はどうするって?」

 「ソビエトの夏季攻勢に全力を備えるそうだ」

 「全力か・・・」

 「対ヴィシーフランスと、同盟国への輸出は、3号、2号、1号戦車でいいだろう」

 「東部戦線は、新型戦車部隊で編成できるだろうか」

 「モスクワとレーニングラードは、冬季開けまで持ち堪えそうだときいてる」

 「大都市だから、備蓄くらいあるだろう」

 「いや、餓死寸前だろう」

 「しかし、フェードア・フォン・ボック元帥も総統に逆らって包囲攻撃だからな勇気がある」

 「結果的によかったよ。都市攻撃に集中していたら戦力を消耗していた」

 「誰だってそう思うよ」

 「総統に逆らって将兵を守れるか。総統に逆らえず将兵を殺してしまうかだ」

 「将兵を守ったのだから大したものだ。危なく解任ものだろうがね」

 「包囲しているのだから、首の皮一枚繋がってるだけだろう」

 「冬季開けは、大丈夫だろうな?」

 「正直、T34戦車は、強力だよ」

 「4号戦車では太刀打ちできないし、泥沼でも平気で走ってくる」

 「どう対処するって?」

 「ドイツ防空部隊から88mm高射砲部隊を引き抜いて、東部戦線に持っていくらしい」

 「本土が爆撃されるだろう」

 「それでも、東部戦線で勝てばいいそうだ」

 「問題はアメリカの参戦だな」

 「日本がアメリカの挑発に引っかからないのなら大丈夫だろう」

 「日本だって、そこまで馬鹿じゃないよ」

 「しかし、日本軍は中国大陸を占領してしまう勢いらしいぞ」

 「ドイツだってソビエトを占領できるだろうよ」

 「だといいがね」

 

 

 イギリス領 香港

 白人たちと中国人

 「日本軍の中国侵略を撃退できないのか?」

 「日本軍は、侵略してないある。中国統一ある」

 「「・・・・」」

 「中国人は、侵略に対抗できても、統一に弱いある」

 「特に匪賊は下剋上で利権を分けられるなら国を売り渡す者、続出ある」

 「民衆も引っくり返らないと命が危ないある」

 「ぶ、武器を供給すれば?」

 「もう、武器は関係ないある」

 「士気と練度の低い国民軍で大きな戦果をあげるか」

 「さもなければ、まともな政策もできないほど大きな権限を民衆側に分けるしかないある」

 「重慶には武器弾薬を空輸してるだろう」

 「和漢軍に横流ししてる者が続出ある」

 「「「「・・・・」」」」

 「和漢党は、国民党より不正腐敗が少ないある」

 「貧困層は、和漢党の味方ある」

 「「「「・・・・」」」」

 「それと、香港の裏社会も日本人に牛耳られたある」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 横浜港に鉄鋼、石炭、希少金属を満載した輸送船が停泊し、物資を降ろしていく、

 しかし、資源があっても近代化できるわけではなかった。

 備蓄していた燃料は乏しくなり、

 機帆船への改造が増え、石炭車と電気自動車が急増しつつあった。

 工場で必要なオイル、工業用ダイヤは、失われ、

 工業力の精度と生産力は低下の一途をたどっていく、

 産業界

 「どうしたものか、油がない」

 「松根油は?」

 「航空機は無理だ。船舶用なら使えるそうだ」

 「使えないよりましか」

 「代替油ならサトウキビ、大豆、パームヤシが期待できそうだが?」

 「日本じゃ土地が狭い」

 「中国大陸ならなんとかなるかもしれないがね」

 「それに植物油はガソリンじゃなくて、アルコールだよ」

 「こうなったら、中国大陸を人海戦術で掘り続けるしかないな」

 「人手だけはあるし、運が良ければ油田を掘り当てられる」

 「あとは、華僑を経由して、油を手に入れるか」

 「そっちは、搦め手で行くしかないだろう」

 「問題は工業用ダイヤだ」

 「いざとなったらルビーとサファイアを・・・」

 「生産効率が落ちる」

 

 

 

 関門鉄道トンネルの旅客営業開始。

 関係者たち

 「せっかく、海底トンネルを建設しても燃料なしだな」

 「ディーゼル機関車なんて元々当てにしてないだろう」

 「発電所から電力を引いて電気機関車を走らせるしかないな」

 「そういえば、走ってる車も木炭車と電気自動車ばかりか」

 「一番悲惨なのが海軍だろうな」

 「マル5から重油石炭混合燃焼機関になるからな」

 「だから、まともな駆逐艦なんて作れないし」

 「島礁防衛を目的にした潜水艦か、Sボートに移行だよ」

 「あははは・・・」

 「大陸の鉄鉱石と石炭と希少金属が救いだけどな」

 「それと航空部隊」

 

 

 

 

 重慶は、日本軍と和漢軍の総攻撃で陥落しつつあった。

 蒋介石、国民軍は成都まで後退していく、

 2式戦車、4号戦車、95式軽戦車が重慶の大通りを行進する中、

 路地裏では、和漢軍による略奪、強姦、暴行が行われていた。

 日本軍将校たち

 「なんか、和漢軍を殲滅したくなってきた」

 「見ざる聞かざる言わざる」

 「日本軍将兵が真似しないように押さえとけよ」

 日本軍将兵がこそこそと路地裏に入っていく、

 「・・・限度がありそうだけどな」

 「最悪でも指揮を崩壊させないでくれ」

 「あと、血液型に関係なく5パーセント程度の確率で遺伝するらしい」

 「日本人慰安婦は不足気味だから、風魔部隊は別枠で確保しておいてくれ」

 「やれやれ・・・」

 「とりあえず、主要な基幹産業と重要施設は全て押さえろ」

 「匪賊の頭領に分配しないとまずいからな」

 「しかし、アメリカとイギリスの武器弾薬は多いな」

 「インドから空輸したものだろう」

 「空輸でこんなに運べるとはな」

 「中国軍に持ち逃げされなかった分がこれだけだろう」

 「武器弾薬は確保しないとまずいな」

 「ああ・・・」

 機関銃とバズーカーが山積みされていた。

 国民軍は指揮系統が破壊されて限られており、

 和漢軍の進撃と同時に半分が反乱をおこし、

 国民軍は戦う以前に崩壊したのだった。

 そして、裏切り者は、武器弾薬を引き渡すことで地位が保障されてしまう。

 

 

 重慶は北のチアリン川と南の揚子江が合流する東西5km、南北1kmの半島だった。

 半島手前の川幅は700mほどに達し、

 内陸奥地でありながら大河としての風格を見せつけていた。

 亜熱帯性気候で雨と霧が多く、

 年平均120日平均気温は7月27℃、1月6.3℃。

 夏の気温が最高40℃なることもある。

 標高160〜355mの丘陵地帯で起伏が激しく、防衛しやすい地形にあった。

 その日、日本の航空機の夜襲が重慶市街地の拠点を爆撃し、

 日本軍砲兵隊の砲撃が重慶の市街地に届いた。

 和漢軍100万がジャンク船で押し寄せ、重慶に上陸すると国民軍100万と激突。

 6日間ほど攻防戦が続いた後、重慶は陥落する。

 蒋介石国民軍は、成都まで後退したものの、

 日本軍による中国統一は、ほぼ確定的となっており、

 漢民族の有力者ほとんどは所定の地位を得ようと和漢軍に靡き、

 主従関係を結んでいく、

 

 

 

 ダウニング街10番地

 イギリスは、バトルオブブリテンに勝利し、

 北アフリカのイタリア領リビアを占領した後も対Uボート潜水艦戦で苦戦していた。

 「重慶が落ちたぞ」

 「中国大陸が落ちれば日本は、イギリスに参戦するのではないのか?」

 「イギリス、ソビエトとドイツ、日本か。ぞっとしない戦いだな」

 「アメリカの参戦がなければイギリスは負けるぞ」

 「せめて日本と、組むべきではなかったのか?」

 「大陸反攻で必要なのは陸軍だよ」

 「いま必要なのは、海軍と空軍だ」

 「日本海軍は、わけのわからない改造で弱体化していたからな」

 「改悪なのか?」

 「魚雷艇や潜水艇は、奇をてらってて面白いだけで、艦隊戦で役に立たない」

 「日本航空部隊は?」

 「日本軍パイロットの夜間戦闘能力は奇異だ。味方で欲しかったがね」

 「対中国戦で忙しいだろう。くれと言っても、くれるはずもなさそうだし」

 「欧州大陸だと、日本陸軍は当てにできそうにない」

 「日本軍は、中国大陸を統一してるじゃないか」

 「香港筋の情報だと、中国大陸を統一してるのは漢民族だ」

 「日本は、漢民族の貧困層。つまり匪賊にチャンスを与えているだけに過ぎないそうだ」

 「日本と主従関係を結べば地位が約束されるからね」

 「それで、漢民族は、祖国を裏切るのか」

 「中国大陸で征服王朝は珍しくないよ。元がそうだし、清もそうだ」

 「異民族に統一されていく状況も酷似している」

 「建前ばかりの日本がそういう方向に行ったのが意外だがね」

 「追い詰められた結果だろう。追い詰めたのは我々だがね」

 「なに言ってる、ブロック経済は、イギリス経済を守るためだ」

 「むしろイギリスも追い詰められた結果だよ」

 「それは否定しない」

 「それに元々世界恐慌の対処に過ぎないし、アメリカが悪いんだ」

 「手詰まりの現状を打開する方法は?」

 「あるとしたらイタリアだな」

 「狙いどころは、シチリア、サルジニアとコルシカの制圧」

 「イタリア軍が集中しているよ。ドイツ軍のいるギリシャより分が悪い」

 「イタリアは、対ユーゴ戦で苦戦してたと思ったが」

 「イタリアは北アフリカ撤退で対独不信だ」

 「ムッソリーニの権力基盤もガタガタだろう」

 「イタリアが、こちら側に寝返れば勝てないか?」

 「アメリカが参戦しない限りなさそうだな」

 「いや、サルジニアか、シチリアを占領できれば、イタリアの戦線離脱もあり得そうだがね」

 「陸軍はインド兵を使えるとしても、そんな船はないだろう」

 「やはり、アメリカの参戦がないと」

 「ドイツは挑発に乗りそうにないし」

 「日本は中国の統一間近だ」

 「ドイツも日本も、アメリカの挑発に乗るものか」

 「それと非公式ですが・・・」

 「日本が専油燃焼機関船と重油・石炭混合燃焼船を1対3トンで交換したいと」

 「・・・旧型3トンと新型1トンか・・・それは得だろう」

 「まぁ 我々も困ってるが船腹勝負というのもあるし、微妙な線だな」

 「しかし、日本に燃料がないのは確かのようだ」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 いよいよ、日本の中国大陸統一です。

 底なし沼に嵌まり込んだような “和” 王朝の始まりです。

 和漢同君王朝でしょうか。

 それとも皇族から分家するのでしょうか。

 油なしで貧血日本です (笑

 日本は、アメリカの嫌がらせに対抗できるか。

 ソビエトは、ノモンハン戦の影響で対日政策は変わるか、

 

 

 

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第06話 1941年 『中華三匪賊の計』

第07話 1942年 『毒を食らわば・・・』

第08話 1943年 『下剋上の大和大陸』