月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第10話 1945年 『大和連邦と新世界秩序』

 日本は、支那大陸支配により、大和連邦(1027万1960ku)となった。

 第一位のソビエト連邦(2240万2200ku)に次ぎ、第三位のカナダ(998万4670ku)より拡大してしまう。

 しかし、国土の拡大が国民の幸福に繋がるわけでもなく、

 言語、文化、宗教、歴史、民族など、様々な問題を国内に抱え込み、不幸の種を撒き散らしている。

 とはいえ、軍部・軍属から移籍した日本人の和漢貴族は、大陸の利権を押さえ、要職を占め、

 安楽な余生を楽しむことができた。

大和連邦   面積(ku)
東京 日本列島 67万5000
ソウル 朝鮮半島
新京 満洲 113万3437
北京 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200
上海 江蘇、安徹、浙江、 34万4000
重慶 湖北、貴州、湖南 57万3800
成都 四川 48万5000
広州 広東、福建、江西、広西、 70万2900
蘭州 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800
大理 昆明 雲南 39万4100
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000
チベット ラサ チベット 122万8400
大和連邦   1027万1960

 上海港

 27000t級客船 出雲丸

 アメリカの対日経済制裁が終わると客船は、白人客でいっぱいになった。

 日本の入国ビザを取得すれば、大和連邦全域を移動できる利益は大きく、

 大和連邦内の商品移動も容易で、商業上の可能性が飛躍的に高まった。

 アメリカ資本の参入でアメリカ商品が流れ込み、

 大和連邦の外資系は急速に膨れ上がっていく、

 同時に漢民族系の反日アウトローがアメリカ資本に雇われ、

 大量の銃が密輸され、犯罪を増加させ、裏社会から大和連邦に揺さ振った。

 日本政府は、通常犯罪を扱う警察と、

 国益を守る特高と、裏社会を支配する影特高に分け、

 外資系アウトローと攻防戦を繰り広げることになった。

 

 外資系の某所

 「日本企業の採掘場を我々に売却させるよう、頼むよ」

 白人の男たちは、漢民族のアウトローに金と武器弾薬を渡す。

 口にはしないが採掘妨害工作で廃坑に追い込む依頼だった。

 「金額は、これでもいい。しかし、この武器では勝てないある」

 「どういうことだ?」

 「日本の特高は、夜目が利くある」

 「同じ人間だろう」

 「この地域で前にいた組織は、最も強い山賊だったある」

 「組織は地の利があって、10倍上の人数だったある」

 「それが、たった4人の特高に夜襲されただけで壊滅したある」

 「「「「・・・・」」」」

 「日本の特高は、夜襲前に電源を落とし、灯りを潰すある」

 「真っ暗で何も見えなかったある」

 「気が付いたら組織は壊滅してたある」

 「日本人は、我々と違うある」

 「確かに戦争中、そういった現象もあったかもしれない」

 「それは裏切り者の内通と聞いてる」

 「裏切り者はたくさんいるある」

 「戦争中、わざと裏切り者を日本軍に送り込んだある」

 「それでも負けたある」

 「日本軍は、裏切り者とまったく関係なく動いてるある」

 「「「「・・・・」」」」

 「君たちの感覚で、そういった日本人は、何人いる?」

 「直に確認したのは4人ある」

 「戦場では、多くて、十数人だと思うある」

 「君らの知ってる範囲でそれなら、千人近くいると仮定するのが合理的か・・・」

 『所長。ペンタゴンの裏付けと一致するのでは?』

 『胡散臭い話しだったからな』

 アメリカ資本は、裏社会から日本の採算効率を押し下げ、

 日本経済を低迷させようとしたものの、多くが失敗し、

 逆に日系裏社会から圧力を掛けられたアメリカ資本は勢力を伸ばせないでいた。

 また、蒸し暑い気候がアメリカ人の好みに合わないらしく、謀略に必要な人員の絶対数を維持できず、

 正攻法の通商へと切り替えられようとしていた。

 

 

 

 欧州戦線

 イギリス本島を出撃したランカスター爆撃機の大編隊は、ドイツ空軍軍と熾烈な空中戦を展開しつつ、

 ドイツの中小都市への夜間爆撃を繰り返していた。

 北大西洋上は、護送船団が通商破壊で混乱していたが、

 護衛空母から発艦したソードフィッシュがUボートを追いかけ回し、航路と戦線の破綻を防いでいた。

 また、イギリス陸軍は、地中海のシチリア島を占領したものの、戦力不足からイタリア半島の上陸作戦を決行できずにいた。

 東部戦線は、ソビエト軍が戦力を盛り返しつつあった。

 しかし、ドイツ軍の後退戦術は巧妙を極め、ソビエト軍は攻勢のたびに出血を強いられ、

 ソビエト連邦が国境線を回復するまで攻撃を続けたなら、数千万の将兵が失われると試算されてしまう。

 

 

 

 中立国スウェーデン

 首都ストックホルムは幾つもの島によって成り立ち、

 水の都とも、北欧のベネチアとも呼ばれていた。

 スタツホルメン島は、都市の中心にあって、ストックホルムの始まりの島とも呼ばれていた。

 その島のファースト・ホテル・ライゼンは、18世紀に建てられ、

 港に面した古き良きホテルといえる風格があった。

 そのホテルに交戦国イギリス、ドイツ、ソビエトの代表が宿泊し、席を同じくしていた。

 敵国人同士が中立国で会食を取ることは珍しいものの、

 起こりえないことではなく、起きても不思議ではない、

 代表者たち

 「我々は、新しい国際情勢に直面している」

 「大和連邦の事なら既に把握してるよ」

 「そうであって欲しいね」

 「だから、こうして集まったのだろう」

 「それなら。大和連邦についての事細かな説明を省けるわけだ」

 「だが、意見が一致してるとは思えないが」

 「大和連邦に対し、過大評価するつもりもなければ、過小評価するつもりもない」

 「日本は、総合的に稚拙で、政治、経済、軍事で、無様な側面を晒している」

 「だが、実戦では、我々が持ち得ない携帯用夜間兵器を保有し、近代化を証明している」

 「無論、歪な技術の突出にしか過ぎないし、砂上の楼閣であることは言うまでもない」

 「それでもだ」

 「日本は、大陸を統合し、大和連邦を成立させ、砂上の楼閣でなくなろうとしている」

 「しかし、数十年後を考えるなら大和連邦は脅威といえよう」

 「きっと、老後の話しになるな」

 「その辺の試算は、それぞれの国で違うだろう」

 「だからと言って、手をこまねいていれば、神が欧州に与えた祝福どころか」

 「神が白人に与えた祝福さえ、奪い去られることになりかねない」

 「おれは、日本に行ったことがある」

 「彼らは物事に対処する事に長けていても、物事を創造し、誘導する能力に欠けてる」

 「日本人に。とういうより権力層に、その戦略があるのか、はなはだ疑問に思うね」

 「中国歴代王朝と同じく、内輪に籠ってしまうのではないか」

 「君が本当にそう信じてるのなら、このホテルに来なかっただろうな」

 ごほんっ!

 「わかった。わかった。言葉遊びをするつもりはない」

 「大和連邦は、未知数だがアメリカ合衆国並みのイニチアチブを発揮する可能性はある」

 「それでだ」

 「我々・・・ イギリス、ドイツ、ソビエトが戦いを継続すると、3カ国は、新世界秩序からドロップアウトするだろう」

 3人は不承不承にうなずく、

 日本(大和連邦)が数十年で脅威になるとは、誰も信じていない、

 しかし、それ以上の年数がたてば、誰もが脅威に思い、対処する必要性に迫られる。

 もっとも、巨大な統一市場が東アジアに生まれたことの方が重要で、

 3カ国とも、大和連邦を足がかりに戦災からの回復を図る必要に迫られていた。

 

 

 

 日本軍の大陸占領と支配は、大和連邦を成立させ、

 

 アメリカ合衆国

 白い家

 「欧州戦争は、膠着状態の模様で。ストックホルムで、3カ国交渉の動きがあるようです」

 「2カ国交渉でなく、3カ国交渉?」

 「本気の終戦工作ということでしょう」

 「大和連邦成立で、意識が変わったか・・・」

 「このまま推移すれば、英独ソとも衰退期に入ると考えられます」

 「だが欧州の軍組織はアメリカ軍より、数十年ほど練熟してしまうな」

 「実戦でしか得られない戦訓もありますからね」

 「アメリカ軍だけ、第一次世界大戦的な運用では・・・」

 「そうはいっても参戦の口実が得られないのでは、どうにもならんだろう」

 「もっと、日本を挑発すればよかったのだ」

 「まぁ いいだろう。次の機会を待てばいい」

 「大和連邦の様子は?」

 「大陸治安維持は、警察と特高を合わせて総勢100万ほど」

 「公職関係者は800万を準備してるようです」

 「あと、日本帝国陸軍は70万、海軍は80万tへ縮小しつつあるようです」

 「大陸権益で毒気が抜けたのだろう」

 「というより、軍部に回す予算、人材、資材を捻出できなくなったかと」

 「大和連邦は、不服従を決め込む5億以上の異民族を抱え込んでる」

 「内政が、やっとだろう」

 「ま、封建社会は、忠誠を誓いない者を淘汰し排斥することだし」

 「大陸の場合は、殺すことだ」

 「西洋の主従関係は忠誠でなく契約ですから、精神的な負担が小さいですな」

 「どちらにせよ。獅子身中を抱えた日本は、覇権を終息させるしかない」

 「気になるのは、我が国の謀略が大陸で上手くいってないことです」

 「成功すれば、日本経済は何をやっても、反日暴動が起きて低迷するはずだったがな」

 「原因は?」

 「裏社会での荒事で漢民族が劣勢なことでしょう」

 「金ならアメリカ資本の方が上だろう」

 「武器も調達できるし、いくらでも漢民族を雇えるはずだ」

 「人材の質の問題だと思われます」

 「日本の特高は、一騎当千で、漢民族は怯えてるようです」

 「では、例の特殊部隊が特高に移籍しているのか」

 「そのようです」

 「もし、開戦していたら、アメリカ軍は、その部隊と戦っていたわけだな」

 「面白いかもしれませんね」

 「我が軍の特殊部隊と、日本の特殊部隊のどっちが上か、確認したい」

 「しかし、大和連邦に対する投機も増えてるし」

 「日本と和解したばかりだ。荒事はまずい」

 「武器を使わなければいいのでは?」

 「・・・まぁ 荒事でなくても日本の特殊部隊の秘密がわかればいいのだが・・・」

 「例の日本軍施設は?」

 「あの暗闇で乱取りしたり、トランプ当てをしたり、座禅を組んだりの建物か?」

 「我が国でも真似はしたがね」

 「夜間爆撃で司令部に直撃させるなんて芸当はできなかったよ」

 「じゃ やはり、あれはフェイクか」

 「しかし、こちらの得た情報では、レーダー装置は空箱に過ぎないし」

 「赤外線照準器は、赤ガラスを張った懐中電灯に過ぎない」

 「それでは日本軍の戦果の裏付けが足りない、おかしいだろう」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 

 赤レンガの住人たちは、大陸運営に予算、人材、資材を奪われ、意気消沈していた。

 また、石油輸出禁止処置により、

 日本の陸海軍どころか、

 産業全般の生殺与奪権がアメリカに握られていることを再認識し、

 重油に頼らない兵装に比重が移されていく、

 「参ったぁ 国境線の長さに対して、戦力の振り分けが足りな過ぎる」

 「国境警備さえ怪しいな」

 「というより、漢民族の協力がなければ、ざるだな」

 「神経質になることないんじゃないか」

 「大陸の国境線防衛なんてそんなものだろう」

 「しかし、これじゃ国防計画が成り立たんよ」

 「大陸運営で行政、警察、特高、学校に人材を持って行かれたからな」

 「あの野郎・・・ 予算持って移籍しやがって、殺す」

 「ていうか、中国人の識字率上げてどうするんだよ」

 「人口比で負けてるんだから、平均的な知識水準で互角になったら、日本は負けだろう」

 「いったい、どこの馬鹿が大陸支配なんて言い出したんだ」

 「んん・・・ その場の空気みたいなものかな」

 「空気が喋るか」

 「あはははは・・・」

 「冗談じゃないよ。軍艦も飛行機も戦車も作れないじゃないか」

 「まさか、こんなことになるとはな・・・」

 「先行きも考えずに・・・ 想像力が欠如してんじゃないのか」

 「まぁ 老後のポストは安泰だけどねぇ」

 「必殺、天下りね」

 「それはいいとして、大和連邦の国防計画が立たないなんて、不味いよ」

 「「「「「・・・・・」」」」」 ため息

 アメリカの石油輸出禁止処置の結果、

 石油の輸入再開がなされた後も、

 石炭と火力・水力発電をエネルギー源とする産業機構再編は継続された。

 その煽りは国防大綱にも及び、

 大和連邦の国防大綱は、装甲列車、航空機、潜水艦を主軸にしていく。

 

 

 

 満洲

 工場で木炭装甲車が開発製造されていた。

 「・・・木炭装甲車というより、木炭バスに機関銃を付けたようなものか」

 「木炭車は、馬力が足りないからな」

 「一応、斜頸装甲なんだぞ」

 「薄過ぎて何の足しにも何ねぇ」

 「治安維持だから・・・」

 「治安維持なら拳銃弾くらいは、弾かないとな」

 「やっぱり、中国人に売却用かな」

 「だよな。資金繰りが付けばもう少し、まともなモノが作れるだろう」

 

 

 大陸市場は、膨大だった。

 政府の後押しがあり、

 生産手段と流通さえ確保できれば、店頭に品物を並べることができた。

 当然、いくら作っても売れ残る可能性は少なく、利益も膨大だった。

 しかし、権力構造上、行政が占めなければならない人口比が

 日本人7500万人+朝鮮人2500万人で、行政職員500万人が必要で、

 新たな中国人4億5000万に対し、行政職員2250万が必要となった。

 日本人が大陸の支配層の半分を占めるなら1125万が必要とされ、

 支配、監視、管理部門に人材を取られると、産業全般が人手不足に陥る。

 製造部門に割く人材は足りなくなり、日本は近代化からずり落ちてしまう、

 仮に近代化が成し遂げられたとしても、

 日本民族全体が異民族に生産を依存した産業構造でしかなく、

 日本民族は、大陸人民の神輿に載せられただけの存在になった。

 それは、日本民族の力だけで成し遂げられた近代化ではなくなってしまう。

 

 

 

 重慶

 三式指揮連絡機が重慶上空を旋回していた。

 日本の大陸支配を象徴する機体として、量産が進み、

 日本最多の機体になりつつあった。

 国務省は、都市に近い山腹を削って難攻不落の台地に砲台と飛行場を建設し、

 十数機の三式指揮連絡機を配備、

 日本の大陸支配を空から印象付けようとし、半分ほど成功していた。

 また、河川砲艦も国務省の管轄へ移籍され、

 揚子江支流も監視を強めていた。

 また中国支配は、人海戦術の恐怖が先に立ち、

 満洲防衛軍のソビエト脅威論を封殺。

 携行小銃の口径は、7.7mm×57から6.5mm×50へ戻り、

 さらに全長が短く、取り回しの良い四四式騎銃が正式化されてしまう。

 また、より多くの弾数を装填できる100式短機関銃の配備も増えていく、

 日本軍将兵たちは、鉄の網目状のモノを見上げる。

 「これが電探か・・・ 本物?」

 「当たり前だ。100km先の編隊を探知できるそうだ」

 「空箱じゃない電探なんて凄いじゃないか」

 「それは軍機だろう」

 「あはははは・・・」

 「アメリカの電探は、3倍の距離を探知できて、精度はもっと良いらしい」

 「単機でも探知できるのだろう」

 「負けてるじゃないか」

 「アメリカの技術に追い抜くのは大変だよ」

 

 

 大陸 商店街の中国人たち

 「す、凄いある。日本のお菓子は、虫と髪の毛が入ってないある」

 「本当ある。どうやって作るある?」

 「わ、わからないある」

 「それに美味しいある」

 「本当ある」

 「日本の食堂も、虫と髪の毛が入ってなかったある」

 「それは奇跡ある」

 

 戦後、公共サービスを中心に和漢貴族の利権構造が作られていた。

 公共地が整備され、街路樹に桜木と銀杏が植えられていく、

 「中国の樹は、銀杏じゃなく、松ある」

 「まぁ 決まっちまったものはしょうがないだろう」

 「桜は仕方ないとしても、銀杏は気に入らないある」

 店頭の販売は、定額方式となり、値切り交渉が減少していた。

 一見、平和な営みが繰り返される日常の裏で、土地収用で泣く者が作られ、

 不満分子を吸収できず、アウトローによる非合法な戦いが繰り返されていた。

 非合法といっても中国も日本と大きく変わらない、

 少数派の麻薬、誘拐を除けば、大半が違法スレスレ、

 土地売買仲介、ミカジメ料、ネズミ商法、

 売春、美人局(つつもたせ)、倒産業が大半を占め、嵌まる人は嵌まってしまう。

 結局のところ、潰しても潰しても犯罪組織は、雨後の筍のごとく現れ、一般人をカモにしていく、

 そして、特高は、その性質上、国体を危うくする反政府勢力未満であるなら御目溢しになった。

 特高の人たち

 本部の一番大きなテーブルに巨大な地図が置かれ、

 和漢マフィアの勢力図が記されていた。

 長官は、元軍人らしく、それらしい作戦を展開し、犯罪をある程度封じていく、

 「出雲丸で入国したアメリカ通商団にCIAが紛れ込んでるそうじゃないか」

 「CIAの凄腕だと聞いてますが、中国人の実力を確認する為のようです」

 「まぁ 白人は、目立つからあまり動けないと思うな」

 「CIAは、日系人も交じってるようなので注意しないと」

 「それもあったな」

 「しかし・・・ 外資を入れさせてるというのに反政府勢力の動きが弱い」

 「ていうか、闇組織を完全に潰してしまうと、特高の存在価値が小さくなって、商売が上がったりです」

 「そうそう、出世と昇給がソコソコだし、どっかの馬鹿が政府転覆で暴れてくれんとな」

 「小説だと次々と巨大な悪が現れるのに、残念です」

 「自作自演したくなるよな」

 「あはははは・・・」

 「軍部もやってたし」

 「石井機関もやってたし」

 「みんなやってるじゃん。自作自演」

 「「「「・・・・」」」」

 「しかし、日本人を犠牲にするのはさすがに・・・」

 「反日日本人でもいればいいのに」

 「あれは? 民間放送をやろうとかいう動き」

 「挙国一致、国家統一なら国営放送だけでいいだろう」

 「し、しかし、国営だけだと、国営一つ押さえるだけでメディア掌握だから・・・」

 「軍事クーデターとか怖いだろう」

 「まぁ そういうのもあるけどね」

 「それに商業放送は、国民の趣向にあった放送を流してくれると思うけどな」

 「民放か、多様な思想が入るし、国民が自堕落になりそうだな」

 「中国人が自堕落になるのは、痛し痒し何だよなこれが」

 「2級国民って?」

 「そういう考えは、中国人の反発を招くだけだと思うけどな」

 「日本の民族主義者は、ブチ切れ気味だよ」

 「なにをいまさら、やっちまった後に言うことか」

 「だよな。地位もあるし、いまさら日本には戻れないよな」

 「「「「うんうん」」」」

 「まぁ 被害に遭う日本人には済まないけどね」

 「「「「うんうん」」」」

 

 

 

 大和連邦国防大綱

 治安維持の国務省予算が増大し、

 国防関係の予算の縮小が続く中、割り当てられた予算内で国防体系が練られていた。

 近代装備の日本軍と歩兵中心の和漢軍の二重構造となり

 質より量が重視され、海軍より陸軍と空軍が重視される。

 中国人将校は、日本と利害が一致する和漢貴族だけで構成され、

 さらに数年ごと異動させ、軍事クーデターの可能性を払拭させていた。

 赤レンガの住人たち

 「駄目だ。戦争不能だ」

 「押さえの日本軍を動かしたら、和漢軍の日本将校は悲惨なことになるかもしれませんね」

 「ま、和漢軍を盾。日本軍を矛で戦うのが基本戦略だろうな」

 「それで、ソビエト機甲師団の突撃を食い止められますかね」

 「まぁ 足錠で戦場に固定しない限り、戦線崩壊だな」

 「そんな誇りもプライドもない戦場では、日本軍将兵の士気が・・・」

 「だから中国なんか、抱え込まなきゃよかったんだ」

 「どこの馬鹿が中国支配なんていい出したんですかね」

 「ポストと予算を欲しがってた連中だろう」

 「あと、大陸資源と市場を欲しがっていた連中・・・」

 「政官財の上層部、ほぼ全員じゃないですか」

 「あははは・・・」

 

 

 

 帝都東京

 日中戦争が終結後、省庁間の対立が表面化し、

 国務省は、大陸支配のため巨大化し、

 陸軍省、海軍省は縮小され、省庁内の力関係が変わる、

 さらに対米開戦の可能性が遠のくと、日本軍による軍政は根拠を失っていく、

 国民から選ばれた議会勢力と

 自らの才覚で伸し上がった官僚勢力の攻防戦の末、

 国民の代表たる帝国議会は、息を吹き返し、立法府としての機能を回復させていた。

 そして、大和連邦の行政の枠組みが固まると、遷都問題が持ち上がる、

 議会勢力でいうなら、民族主義者が隠然と勢力を保ち、

 大陸権益を中心にした国粋系の連邦主義者と対立を強めていた。

 日本の議会は、日本人だけの構成だったものの、

 大陸行政は日本政府の任官が半数と、

 日本についた軍閥の世襲が半数で行政を支配する歪な権力構造となっていた。

 これでは、とても近代国家といえるものでなかった。

 帝国議会

 「連邦首都は、ハルピン、あるいは、北京に置くべきではないだろうか」

 「時期早々である。連邦首都は、主導民族たる日本の帝都東京が好ましい」

 「折衷案として、上海と半島のソウルもあるぞ」

 「あと、しがらみのなさそうな青海省あたり・・・」

 「嫌だって言ってんだろうが」

 「しかし、真の意味で大和連邦となるなら、そういうことは避けられまい」

 「だ、だいたい、大陸は、和漢貴族の合議制だろう。日本といえるか」

 「むしろ、大和連邦の主流は、大陸側だから・・・」

 「断固。反対!」

 「大陸権益から莫大な富を得てる人間が選民主義者でいいのか?」

 「そ、そんなことはない、有能な漢民族がいれば信頼するし仕事は任せる」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 民族主義と大陸利権に酔った老人たちは、醜悪を際立たせていた。

 そして、彼が美辞麗句で日本国民の票を集め、

 大和連邦を第一級日本民族、第二級漢民族の和漢連合国家へ追いやろうとしていた。

 大和連邦の未来は、日本民族の傲慢と、異民族の抑圧、

 そして、漢民族の反乱と大虐殺に向かう分岐点の様にも思われた。

 

 

 

 重慶

 和漢貴族の一日

 身支度し、食事をとり、

 領地から上がる収入に目を通し、

 公共事業の進捗を確認し、幾つかの指示を出したのち、領地の巡回に回る。

 テキパキとした姿勢は、軍艦で身につけたものだ。

 出世も遅れ気味で将来の見通しも立たず、

 中国戦線に予算を執られ、完全に未来を断たれた。

 そして、年齢的に海の上の生活は厳しくなったと思いきや省を越えた人事異動、

 蒸し暑いだけの異国の地で、環境が変わるのは面白くないものの、

 長と肩書の付く役職で余生を過ごせるのなら悪くない。

 「車は?」

 「あと5分、待つある」

 木炭自動車は、発車まで1時間以上必要だった。

 タイミングがずれると、無駄な時間となってしまう。

 領地の巡回といっても、安全そうな場所に限られ、

 危ない場所に行くと殺されたり、誘拐されかねない、

 副総督の奏大人は匪賊の頭目上がり、

 仕事をしない割に業突く張りで油断できない男だった。

 漢民族にとっては国を日本に売り渡した裏切り者で、

 日本の後ろ盾がなければ権力を維持できない。

 木炭車に乗りこむと木炭が焼けた臭いが漂う、

 「町長。今日はどちらある」

 「西区を回ろう」

 「はいある。町長は、飛行機に乗らないあるか」

 「飛行機に乗って巡回するのは市長クラスだろうな」

 「それに日本の飛行機はまだ危ないし。それに小回りが利かない」

 「日本人は、皆、仕事が好きあるか」

 「まぁ 仕事を通して生きてる実感が得られるからな」

 「不思議ある。中国人は快楽で、生きてると実感するある」

 「まぁ そういう生き方もあるな」

 「でも日本の行政はいいある。村同士の水利争いも山賊も減ったある」

 「あと、犯罪も少なくなったある」

 「日本本土は、もう少し犯罪が少ないな」

 「羨ましいある」

 「中国人は、民主化をどう思う?」

 「よくわからないある。今より良くなるあるか?」

 「良くなるとは限らないな」

 「実のところ、日本も民主化しているが、党利党略と利権闘争の組織戦ばかりで、それほどいい政治はしていない」

 「そうあるか」

 「それでも能力を過信した専門職に国が支配されるよりいいし」

 「国民が議員を選んでいるから、議員は票を意識するし、少しは不正を牽制できる」

 「それはいいある」

 「しかし、和漢貴族も命懸けで今の地位を得ている。今のところ、無理そうだな」

 「そうあるか・・・」

 漢民族も直に付き合うと悪い人間というわけではない、

 社会的な位置を守るためなら誠実であろうとし、

 信頼を得るための最小限の自制を持ち、時に協力してくれる。

 犯罪の多くは、貧しさからくるものといえた。

 今の公共工事が成功すれば、町の生活は、もう少し豊かになるだろう。

 例え、日本本国が面白くなかろうと、

 町長としての職務はしなければならないだろう。

 

 

 

 四川盆地に到達した鉄道は、敗残兵側の人海戦術で路線が延ばされていく、

 大陸は、敗者に憐れみなどなかった。

 日本人の新聞記者は、あまりの酷使ぶりに血の四川線路建設と書いて差し止められてしまう、

 その行先は、重慶と、成都で、

 さらに標高3000m級の青海省、チベット、ウィグルに鉄道を伸ばしていく計画だった。

 鉄道関係者たち

 装甲列車(12両編成)

 40口径105mm砲3基、60口径25mm機銃2丁、6.5mm機関砲16丁、

 中口径砲は、比較的低い位置に置かれ、対空砲を兼ね、

 小規模な戦車部隊なら寄せつけない火力だった。

 また、人海戦術には、6.5mm機関砲で対応できると考えられた。

 「八八軌道部隊の予算は?」

 「まだ、予算折衝中ですが、12両編成の装甲列車88部隊は、遠大な計画です」

 「石炭や電力ならアメリカの重油に頼らなくてもいいからな」

 「もっとも、大陸の治安維持であって、対外的な戦力として不足だが・・・」

 「やはり、ソビエトの機甲師団は強力ですか?」

 「とてもじゃないが、満洲は、守れそうにない」

 「ノモンハン戦は、日本が優勢だったと・・・」

 「当時とは全く違うよ。欧州から戻った観戦武官の意見だがね」

 「例の風魔部隊でも?」

 「夜戦部隊か・・・ あれはほとんど内務省へ異動したからな」

 「それに欧州では100個師団以上が対峙して、小賢しいさざ波で止められる規模じゃないな」

 「内務省にもムカつきます」

 「まぁ ポストが増えてるらしいから、俺たちも退役後は御世話になるだろうよ」

 「それは・・・  悪くないですが・・・」

 

 

 

 東部戦線が冬季戦に移行すると、

 11月15日、ストックホルムで英ソ・独伊講和条約が調印される。

 戦線は、そのまま国境線となり、

 ソビエト連邦は、大規模な攻勢を行ったにもかかわらず、

 ドイツ側も決死の防戦でウクライナの3分の1とベラルーシの3分の1を維持してしまう。

 一方、イギリスは、北アフリカ全域と地中海で足場を築いたものの

 インドの独立運動は、とどまるところを知らず、国力が著しく消耗していた。

 そして、英独ソは、膨大な資源と巨大市場を有する大和連邦に通商団を派遣し、貿易を拡大する。

 講和により通商航行の安全が確保されると、

 各国で、大和連邦行きの大型客船が運行されるようになっていた。

 49600t級ドイツ客船オイローパ

 ラウンジに独特の雰囲気を持ったドイツ人たちが集まっていた。

 いわゆる、外見に欠点のないのが欠点というべき、その筋の人たちであり、

 対日工作を担うことになっていた。

 「在日ドイツ諜報部と合流した後、大和連邦の調査を行う」

 「日本は同盟国ではあるが、通商支援のみで、参戦していない」

 「そういう意味では警戒が必要ではある」

 「最優先は、日本軍将兵の夜戦能力の高さを調べることだ」

 「もう一つは、大和連邦の構造的な欠点だな」

 「「「「・・・・」」」」 男たちは頷く、

 

 

 

 ハルピンから南方24kmの平房

 二重に囲われた堀と電流を通した塀の内側、

 ロ号練(石井731機関本部)があった。

 大陸各地から有効利用される生きた身体が集められ、人体実験が繰り返され、

 完全に臨床を終わらせた死体が焼却処分されていく、

 この医学の要塞の中で、健康なのは、医師と監視軍とエウェンクの血族だけだった。

 特にエウェンクの健康管理は、日本でも最高水準で、世界でも例を見ない監視体制にあった。

 医師たち

 「アメリカは、どうだった?」

 「駄目だな。まだ、負けている」

 「これだけ人体実験してるのに負けてるのか・・・」

 「医療器具も、製薬も話しにならんよ」

 「もっと予算を上げて貰うしかないが・・・」

 「内務省に予算を取られたからな」

 「今は内務省だが、いずれは、建設省に金が流れるだろうな」

 「ますます予算が減るのでは?」

 「んん・・・・」

 「やっぱり、経済は、アメリカの様に社会資本を基盤にした民需主導がいいのか」

 「まぁ 民間活力を最大限に生かせるからな、キメ細かいサービスも生まれやすくなるし・・・」

 「そうかな、日本人は保守的で革新的な創作より、改良思考だからね」

 「やっぱり、アメリカの医療技術をライセンスするしかないのかな」

 「それじゃ アメリカに勝てんよ」

 「そっちは?」

 「ああ、中将から、エウェンクの血でペニシリン以上の抗生物質を作れとさ」

 「なんだそりゃ」

 「あの血は、未知覚な空間認識と危機回避の感知器みたいなものだからな」

 「アルファ波のとき、精神的な圧力に反応し」

 「シグマ波のとき、物理的な圧力に反応する」

 「エウェンクの血液に抗生物質的な要素はないな」

 「というより “揺らぎ” に敏感なのかもしれないな」

 「揺らぎ?」

 「ほら、室内の蝋燭の炎が風もなく揺れるだろう」

 「ああいった物理現象に敏感で、異常があると血液に反応するのかもしれない」

 「んん・・・ そういう見方もあるのか・・・」

 「ま、どちらにしろ、中将は、権謀術数と名声ばかりで医者じゃなくなったからな」

 「ふっ まったく」

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 では、大和連邦の構造です。

 いわゆる大陸浪人が大陸上層部の半分を占めることになります (笑

 もちろん、人材が足りませんから日本から軍民合わせて1000万ほど大陸に派遣され、

 そして、和漢軍で成り上った匪賊が合わさった和漢貴族が大陸の要職を占めます。

 日本の就労年齢は4000万くらいなので、

 日本は、就労年齢の4分の1を大陸に奪われます (笑

 その代り、GDP世界6位の日本がGDP世界5位の中国を取り込んだことで、

 大和連邦のGDPは、アメリカ、イギリスに次ぐ、世界第3位となり、

 税収は、凄まじいことになりそうです。

 もっとも、分母は世界最大で、一人当たりのGDPは落ち込みます。

 公共サービスしたら酷い状況に (笑

 因みにGDPの第4位はソビエト、第5位がドイツになりそうです。

 戦争の成り行き次第では、イギリス、ドイツ、ソビエトの順位が変わってしまうので、

 大和連邦が第2に繰り上がる可能性も出てきます。

 因みに大陸支配でいうと、まだ足りないので、

 治安を安定させるため、人員が追加で派遣されます。

 

 

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第09話 1944年 『徳治という名の無法』

第10話 1945年 『大和連邦と新世界秩序』

第11話 1946年 『崑崙・高天原計画』