月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第11話 1946年 『崑崙・高天原計画』

 大和連邦のとある村。

 囲碁盤を挟んで騒動が起きていた。

 中国人たちは、頭を抱えて悔しがり涙した。

 白人たちは得意満面の表情で笑う。

  「では約束通り、墓地を明け渡してもらおうか」

  「そ、そんな、先祖から続く由緒ある墓地ある。大切な墓地ある」

  「おいおい、我々は、100万ドルを賭けたのだ」

  「いまさら無しにするのは虫が良過ぎるであろう」

  「そんなある・・・」 涙

  「なんなら、農地と墓地を賭けて再戦してもいいぞ」 にやにや

  「「「「・・・・」」」」

 白人マフィアは、英才囲碁教育を施した少年ハルゼーとスプルーアンスを押し立て、

 大和連邦の大地に権益を広げていた。

 中国の農村は、2人の白人少年に囲碁で挑戦され、連敗し続け、

 白人資本は、破竹の勢いで権益を延ばしていた。

 

 重慶

 第221和漢中学の山城チハとヤン・ウォンは、囲碁を挟んで遊ぶ囲碁友だった。

  「ヤン。あの人だかりはなにかな?」

  「なんか、大人たちが、泣いてるある」

  「どうしたんだろう」

  「白人の子供たちに囲碁で負けて土地を取られたある」

  「何だって?」

  「これから、毎日、白人に家賃を払うことになったある」

  「そんな・・・」

  「二人とも明日から、おやつのゴマ団子は3個から1個ある」

  「そ、そんな・・・」

 少年たちにとって学校から帰った後のゴマ団子3個は、囲碁の次に生き甲斐だった。

  「許さないぞ。ハルゼー、スプルーアンス」

  「そうある。ゴマ団子3個は命ある。チハ。どうするある」

  「ヤン。あいつらに挑戦して、土地を取り戻す」

  「だけど、僕たち、賭けるモノがないよ」

  「今度、町で囲碁大会がある。賞金が出るから、それを元手に増やしていこう」

  「よし、やろう。ヤン」

  「アイヤー やるある。チハ」

  「ハルゼーとスプルーアンスにぎゃふん! いわせるある」

 いま、少年たちの戦いが始める、

 和漢友好映画 “囲碁友” 近日公開

 観客たち

 「なんで、少年たちが主役なんですかね」

 「子供と動物を使えば、客が見てくれるという小賢しい商法じゃないの?」

 「ノリがよさそうだけど」

 「まぁ 国策映画にしては面白そうかも・・・」

 「それより、48年のオリンピックはどうするって?」

 「日本とイギリスとアメリカのどこからしい」

 「日本は、40年にやるはずだったのにやならないのか」

 「44年はロンドンだったからな」

 「戦争懲罰で日英とも外されて、アメリカの可能性大らしい」

 「ちっ アメリカは参戦できなかっただけじゃないか」

 「まぁ 日本経済は上向き傾向にあるし、もう少し先延ばしでもいいだろうよ」

 

 

 

 大和連邦

 神社仏閣の大陸進出が始まっていた。

 漢民族の支配を神道で強める謀略は、どんな馬鹿な漢民族でも気付く、

 とはいえ、徳川時代から始まった寺請制度は、宗門の戸籍化であり、

 檀家、寺檀とも呼ばれ、

 宗門を固定させ既得権として認めることでキリスト教の排斥に役立ったものの

 対キリスト教政策であり、

 宗教が持つ本来あるべき伝播力、競争力を殺していた。

 日本の神社仏閣は、冠婚葬祭用に形骸化し、

 宗教らしさが失われ、

 その言葉では漢民族どころか、日本人でさえ、引き付けられない、

 ところが形骸化していることが、逆に漢民族に安心感を与えてしまう、

 そして、進出したばかりの寺、あるいは神社に籍を置き、

 生き残ろうとするのも漢民族だった。

 そういった平和的な動きと裏腹に大陸らしいことも行われていた。

 旧国民軍、旧共産軍の反政府勢力は、和漢貴族の暴虐な圧政に苦しめられ、

 和漢貴族は、特高(シグマキャリア)の死の影に脅える、

 そして、裏社会は、特高に太刀打ちできなくなると反和漢、抗日で武器弾薬を放出し、

 麻薬密売の飽和状態を作り出した。

 仮にコントロール不能な無法地帯となる可能性を秘めていたとしても、

 特高は数に忙殺され、

 裏社会の本体(和漢貴族、旧国民軍、旧共軍)は、生き残りやすくなると計算する、

 とはいえ、拳銃は簡単に当たらない、

 元々 当たらない拳銃を素人が撃ってもますます当たらない、

 練習すれば引き金を引いても拳銃を横ブレさせず、

 発射の衝撃と反動も上手く吸収させることができた。

 とはいえ、それほど練習するほどの資金力はなく、

 到底、特高に勝てる戦力になりえなかった。

 和漢貴族たちの集まり

 「武器をわけてやった匪賊連中が特高に襲撃されて全滅したある」

 「武器を匪賊に渡して、内務省に通報して、特高に全滅させる」

 「我々和漢貴族の信頼度は上がり」

 「邪魔な旧反政府勢力は削がれ」

 「特高の力の秘密に一歩近づいたある」

 「それで、新しい事実は?」

 「電灯の下でも特高は強いある」

 「それと、特高の襲撃部隊は、影の部隊で一部でしかないある」

 「元、風魔部隊ある」

 「そんなことは、遠の昔に、わかっていたことだ」

 「もっと、何かないのか。具体的に知りたいのは弱点ある」

 「襲撃中に38式小銃で狙撃したら、避けたある」

 「和漢貴族の子弟と、日本人の婚姻も増えてるある」

 「もう、特高に関わらない方がいいある」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 大和連邦で幾つもの公共事業が計画され、

 旧国民軍、旧共産軍の中国人民が人海戦術で駆り出され、酷死させられてく、

 和漢貴族は将来、逆襲されるかもしれない旧敵の一掃を公共工事の目的としていて、

 己が社会基盤と地位を得るための手段とする日本の公共事業の目的と異にしていた。

 そのため、日本と和漢貴族は、たびたび衝突してしまう。

 とはいうものの、和漢貴族たちは、村々を襲撃しては、次々と人員を補充し、

 予定を上回る速度で公共工事を進めていく、

 その原動原理は、勝者の確立と敗者の弱体化に他ならない、

 その中で、最大の事業は三峡ダムだった。

 日本人の工事関係者たちは、工事の進捗を見守り

 「紡績工場の女工が恵まれた環境と思えるほどの悲惨さ、だな」

 「「「「・・・・」」」」 こくん

 労働環境で目を逸らした。

 

 権力層の傲慢と被支配層の不満、権力構造上の不公平・・・

 エゴと保身によって捻じ曲げられた政策の捌け口と、

 内政の失敗を誤魔化す方法があった。

 一つは、エタ・ヒニンなどの最下層民を人工的に作る方法、

 もう一つは、仮想敵国を作って、国民の敵意を政府、支配層から逸らす方法だった。

 大和連邦の最下層民は、旧国民軍と旧共産軍の反政府勢力であり、

 仮想敵国は、ソビエト連邦だった。

 この二つを想定しなければ大和連邦を安定させられず、

 和漢貴族の総意も安定しない、

 例え非人道的であったとしても、目を瞑るしかないこともあり、

 日本人も、和漢貴族と正面からぶつかる意欲をなくしつつあった。

 「三峡ダム発電所で電力を確保できたら、次は、四川鉄道を延ばして、青海省の開発らしい」

 「随分な辺鄙な場所じゃないか」

 「あそこは人がいないし、標高が高く守りやすいそうだ」

 「日本人を大量に移民させ東西から挟み撃ちで、大陸の造反を防ぎたいそうだ」

 「むしろ、人口の多い中国東岸で優位性を確立した方がいいような気もするが」

 「それは漢民族の集団の中に1人で住むということだよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「まぁ 西域に難攻不落の避難所を建設し、安心感で移民を足す計画でもあるしね」

 「辺境で日本人を孤立させるのはまずくないか?」

 「だから、こうやって、ダムを作ったり、鉄道を伸ばしたりしてるだろう」

 「しかし、和漢貴族は、この工事で、人足を殺す気じゃないのか」

 「俺たちは日本列島に逃げればいいけど」

 「大陸の人間は、復讐されたら一族皆殺しだから、恐慌状態で殺してる感じだな」

 「しかし、復讐の対象は、俺たちに向けられてる気がする」

 「まぁ 大和連邦成立は、俺たちのせいでもあるな」

 「しかし、和漢軍主力が和漢貴族の子弟だけというのも考えものだな」

 「貴族は、命懸けで自分の地位を守るさ」

 

 

大和連邦   面積(ku)
東京 日本列島 67万5000
ソウル 朝鮮半島
新京 満洲 113万3437
北京 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200
上海 江蘇、安徹、浙江、 34万4000
重慶 湖北、貴州、湖南 57万3800
成都 四川 48万5000
広州 広東、福建、江西、広西、 70万2900
蘭州 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800
大理 昆明 雲南 39万4100
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000
チベット ラサ チベット 122万8400
大和連邦   1027万1960

 

 大和連邦 涼・青海省

 四川盆地のさらに西域、

 龍門山脈(全長約500km、幅30kmから70km。標高2000m〜7000m)が広がっていた。

 要害広がる山岳地帯は、人口気薄で中国史でも辺境とされていた。

 日本がこの地域に目を付けたのは、日本列島が東の最果ての列島だからで、

 中国西域が反日造反の発祥になると計算したからだった。

 そして、適当な口実があれば旧反乱分子を抹殺する気の和漢貴族が賛同する。

 4000m級の山岳が連なり、

 渓谷の山道は、2000m級で景勝地としても優れていた。

 日本人たちが山を登りながら実地調査していく。

 「高天原城だってよ」

 1人が、姫路城と江戸城と大阪城を足して割ったような設計図を見つつ、

 ため息をついた。

 「どこまで恥晒しなことをするかね」

 「民族主義者でしょ あいつら、すぐ和華思想を広げようとするから」

 「国粋主義者も拠点を作るのが先決だから折れたらしい」

 「選民主義者は、いい加減、葬りたくなるね」

 「でも、四川盆地の西の山脈が中国大陸のほぼ中央付近だから広過ぎて笑っちまうよ」

 「まったく」

 「日本から高天原に至る揚子江と線路を押さえるとしてだ」

 「大和大陸の天元を押さえるのは悪くないよ」

 「大和大陸ねぇ 日本は、本当に征服王朝になったんだな」

 「なんか、最低の気分だ」

 「やっちまったものはしょうがないだろう」

 「しかし、天守閣付きの城か。星型城郭じゃなくていいのかな」

 「山岳が天然の稜堡を作ってるし、少し造成工事するくらいで難攻不落の牙城になるよ」

 「地震はどうだっけ?」

 「現地で聞いた話しだとあるらしい」

 「じゃ 橋梁計算は日本並みか」

 「鋼材とコンクリートも使っていいんだよな」

 「少し白けるが、木製外板なら問題ないだろう」

 「あと神社仏閣も・・・」

 「本当に路線は確保できるんだろうな。孤立するのは嫌だぜ」

 「大陸支配と大陸西域の日本人を孤立させないための崑崙高天原計画だろう」

 「やれやれ・・・」

 

 

 

 戦艦 伊勢

 艦尾ハッチが開くと大発が次々と現れ、

 海岸へと向かっていく、

 僚艦の日向の艦尾ハッチからSボートが出撃し、

 上陸作戦艦隊の周囲を警戒する。

 海岸方向から空砲が撃たれ、

 上陸作戦艦隊と守備隊の損害が試算されていく、

 艦橋

 「久しぶりの演習が上陸作戦とはね」

 「どちらにしろ、この艦で艦隊戦なんか、怖くてできんがな」

 「ちっ どいつもこいつも動きが悪い、なまってやがる・・・」

 「3年ぶりですからね」

 「もう少し、予算を演習分に回してもらわないと・・・」

 「石油禁止処置が終わっても重油備蓄優先だからだろう」

 「軍は政治の犠牲か・・・」

 「軍が政治を犠牲にするよりいいんだと」

 「おかげで、対米戦力比は低下する一方」

 「満洲も欧州戦争が終わって風前の灯らしい」

 「風魔部隊もほとんど内務省に取られたからな」

 「風魔部隊が、そんなに必要なのかね」

 「だから、日本人の権益と安全を守る為」

 「華僑・中国人の暴力装置を削ぐ必要性があるんじゃないの」

 「軍を縮小させてか。日本が占領されて同じことを言える奴がいるかな」

 「欧米諸国も欧州戦争が終わって軍縮中らしいよ」

 「日本のようにドツボにハマって軍縮じゃないだろう」

 「ふっ しかし、和漢軍との共同訓練とはな」

 「和漢軍第一海兵連隊はどうだい?」

 「和漢貴族の子飼いか・・・」

 「というより和漢貴族の私兵軍だろう」

 「彼らは自分たちの地位が日本と日本軍によって保たれていることを知ってる」

 「自分の命と家族と財産を守るために戦うだろうよ」

 「言語の違いは、しようもないが、悪くはない」

 「いざ戦争が始まったら実子が急病で、庶子を出す噂があるが?」

 「それは、日本の富裕層だって、やってたからな。規模は違うが・・・」

 「しかし、大陸権益で日本人の富裕層は増えるよ。たぶん、5倍に膨れ上がる」

 「そんなにか?」

 「むしろ控えめな数字で言ったんだが」

 「「「「・・・・」」」」

 「まぁ 中国語を覚えられるか、でもあるがね」

 「お、俺も豊かな老後を目指して、がんばろう」

 「日本人の中国化は止まらんな」

 「ふっ そのうち、中国人に日本人が買われるようになるな」

 「国益を優先すると、そういうことが起きることをわからんのだ」

 「しかし、日本人と漢民族に差を作り過ぎるのは連邦全体が弱体化するのでは?」

 「支配なんかせず、利権だけでよかったのだ。それを馬鹿どもが」

 「それだと、天下り先が・・・」

 「馬鹿どもが・・・・」

 

 

 大和連邦防衛戦略研究所

 職員たち

 「日本列島に7000円/7000人を置き、大陸に14000円/50000人を置く」

 「一人当たりの資本は日本人が大きい」

 「しかしだ。もし、人口0.5パーセントが資本の8割が握るとどうなるか」

 「日本列島は、5600円/350人となり、大陸は11200円/2500人となる」

 「これから大陸開発が進むほど、この格差は縮まり、逆転する」

 「大陸の半分は、日本人の資本になるのでは?」

 「その大陸の日本人の社会基盤はどこにあるか、だな」

 「日本人が大陸の味方をすると?」

 「まぁ 利権基盤や生活基盤を守ろうとする意志は、誰にでもあるし」

 「日本の横暴がいつまで続くか・・」

 「それどころか資本力の逆転で、日本資産が乗っ取られることにならないか」

 「まぁ 金には変わらないし、金の誘惑に太刀打ちできる人間も少なくないからな」

 「軍事ばかりで考えるわけにもいかないか」

 「軍の方は?」

 「シグマキャリアの直観力を中心に戦略構想を考えるなら」

 「高速機動兵器と長射程狙撃銃の開発になる」

 「しかし、1人分の採血量でシグマキャリアの有効期間は半年だからな」

 「シグマキャリアの質と量を考えるなら、常時、500人分がいいそうだ」

 「無理をすれば2000人くらいはいけるがエウェンクの負担も大きくなる」

 「エウェンクの血族は?」

 「生まれつきのシグマキャリアではある」

 「しかし、輸血による被験者の活性率は小さいらしい」

 「自己の血族優先か・・・」

 「血液が生き残る為の能力を身につけるとは不思議だな」

 「考えることは、人間も血も同じということか」

 「まぁ いいさ」

 「日本は対米戦回避で外交戦略上、最大の危機を乗り切ったと考えていいだろう」

 「そう考えるなら、シグマキャリアの役目は終わったと考えてもいい」

 「彼の血族を軍と内務省で分けるか」

 「ほとんど、内務省に取られそうだな」

 「こうなったら、日本人慰安婦を・・・」

 「おまえ、外道だな」

 「大陸支配のためだろう」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 Sボートの後継艇が検討され、

 水中翼船とホーバークラフトの検証が始まる、

 海外情報で詳細が得られていないものの

 設計の青写真だけなら描くことができ、特性も推測できた。

 「シグマキャリアの能力を前提に考えるなら」

 「小型高機動兵器で敵に肉薄するか」

 「超長射程からの誘導と狙撃だが・・・」

 「水中翼艇は、悪くないと思う」

 「ホーバークラフトは陸上でも移動できるし、上陸作戦に転用できるのでは?」

 「だが、ホーバークラフトは操船が難しいと思うな」

 「たぶん、シグマキャリアの能力を生かしにくい」

 「高機動兵器による肉薄という点で微妙だよ」

 「それに比べ、水中翼艇は舵が海中を滑るから機敏に反応できるだろう」

 「しかし、予算からすると開発は冒険だな」

 「むしろ、上層部は、夜間雷撃機と水上雷撃機による肉薄を期待してるからな」

 「いや、洋上作戦能力が高いのは、作戦能力上の特典があるよ」

 「しかし、アメリカ艦艇はレーダー射撃が可能だと聞くぞ」

 「だから、夜襲の上に妨害電波と煙幕とチャフを撒くんだろう」

 「航空機より、その手の防衛手段は多くとれる」

 「んん・・・・」

 「アメリカ軍の日本上陸に対し、和漢軍の逆上陸は?」

 「それだとホーバークラフトは、有効な気がする」

 「それで勝つくらいなら、むしろ、負けた方が国民にとっていいような気もするが」

 「あははは・・・」

 「和漢軍は孤児を中心に日本語教育を仕込んで精鋭化させるのでは?」

 「遠大な計画で先の話しになるよ」

 「同化政策が進むなら、逆上陸に和漢軍を考えてもいいような気がする」

 「和漢族の誕生か・・・」

 「孤児に生きる目的を与え、食事と教育を施すだけだけどね」

 「将来的には、期待できるらしいよ」

 「いいのかね」

 「親のいない、孤児だから・・・」

 「予算がそっちに流れるのが嫌だが、しょうがない気もするね」

 「師団と艦隊は、シグマキャリアを特殊機動部隊として編入させたいらしい」

 「直轄の手駒にしたいわけか」

 「石井機関は、シグマキャリアは、まだ、臨床段階で時期早々と抵抗している」

 「シグマキャリアの特性を考えると軍医の隷下が一番いいのは確かだけどね」

 「ま、何とも言えないが、シグマキャリアを内務省に取られ過ぎてるからな」

 「それが最大の問題だよ」

 「兵装を準備するとしても、人員を固定させられないのが辛い」

 

 

 大陸 

 中国の戦争孤児は教育を受けられず、

 生きるか死ぬかの瀬戸際でたくましく生き残っていく、

 日本が予算を割き、戦争孤児に教育を施したのは愛情からではない、

 日本人と一緒に教育し、大陸に和漢族を作る為だった。

 和漢学校は養護教育から宿舎を含めた総合学校となり、大陸全土に増え続けた。

 そして、親のいる中国人すら子供の成功を思い、

 和漢学校に入学させようとさえしていた。

 大和連邦第112和漢学校

 政府関係者たちの視察

 「頭は日本人で、体は漢民族か。いいのか悪いのか」

 「軍は潰しの利く将兵を欲しがってるし、民間も使い捨て出来る労働者を喜んでる」

 「日本乗っ取りの漢民族の先兵な気がするよ」

 「ま、数が多いからね」

 「大陸に日本人と共感できる人間が増えるのは悪くないよ」

 「それは大陸を支配してるからだろう」

 「わかっちゃいるけどやめられないってやつかな」

 「日本人の総売国奴化としか思えんね」

 「だって、大陸利権だけだったら日本の貧困層は、どうにもならなかったと思うよ」

 「けっ 特権に目が眩みやがって、俺は日本から侍がいなくなったと気付いたね」

 「あはははは・・・侍が特権階級だろう。みんななりたいんだよ侍に・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 和漢族は孤児を中心にネズミ算式に増えていく趨勢にあった。

 

 

 ソビエトの陸軍主力は、戦後も対ドイツに向けられていた。

 しかし、極東にも戦力の移動が少なからず始まり、

 満洲を包囲するような形で、T34戦車の配備が進められる。

 満洲国境

 一方、日本は、大陸支配後、各国と関係を修復し、交易量を増やしていた。

 特にニッケルなどの希少金属をドイツに輸出すると、代価が入ってくる。

 その対価は、工作機械、建設機械のほか、兵器も含まれていた。

 そして、その日、満洲の日本陸軍師団にパンター戦車が届けられた。

   重量44.8t

   全長8.66m(車体長6.87m)×全幅3.27m×全高2.85m

   馬力700hp 行動距離250km  速度55km/h(整地) 33km/h(不整地)

   70口径75mm砲(79発)  6.5mm機銃2丁  乗員5名

 

 日本軍将兵たちは茫然と見上げる

 「「「「「・・・・・」」」」」

 日本軍将兵は、97式戦車、95式戦車、ソビエトの捕獲戦車しか見たことがなく、

 「これが配備されるの?」

 「良くわからんけど、ニッケル売って買ったんだと」

 「資源が取れるから贅沢できるわけだ」

 「取り敢えず、試験的に運用してみろってことらしい」

 「そんなの運用するまでもなく “良し” に決まってるだろう」

 「「「「・・・・」」」」 うんうん

 

 

 ハルピン 大和ホテル

 ラウンジのドイツ人たちは、満洲の地ビールを検分する。

 「我が国のビール製造器具一式買っていっただけはあるか。悪くないな」

 「まぁ もう少し、キレが欲しい」

 「それはそうと、日本の様子は?」

 「大陸支配が始まってから、経済が活性化しつつあるようだ」

 「元々 潰しの利く低賃金労働者を抱えていた全体主義国家だからね」

 「資源があれば、どうにかなるレベルの国だ」

 「ふっ 石油産業から石炭産業に退化してもやっていける国だからな」

 「あと、麻薬の非合法化と取り締まりも始まっている」

 「本当に?」

 「麻薬で中国社会をボロボロにしないとヤバいんじゃないのか」

 「もう利権だけじゃないし。大陸を支配するようになると面子があるからね」

 「別の方法を考えるんじゃないのか」

 「いまは、旧反政府勢力一掃で済ませるのだろう」

 「しかし、最大の問題は、特高の中国裏社会の支配だろうな」

 「そんなことができるのか?」

 「原動力は、4人一組による白色テロだ」

 「少なくとも大陸全土で800人。200組が動いてる」

 「そんな程度で中国大陸の裏社会を押さえられるわけがないだろう」

 「いや、実力は相当なものだ」

 「労使交渉中だった馬賊200人の頭目と幹部をやられて、バラバラにされた」

 「「「「・・・・」」」」

 「そして、妙なこと風魔部隊全員が石井731機関の隷下にある」

 「遺伝子操作か!」

 「まさか、日本にそんな医療技術があるわけがない」

 「それに風魔部隊の推定人数が2000人以下らしいのも気になる」

 「何か数を制限させる条件があるのか?」

 「わからんね」

 「日本軍は中国人で人体実験をしていると聞いたぞ」

 「日本医療がドイツ医療に追い付いてきていると考えていいのでは?」

 「まさか。蓄積している医療技術のノウハウと、基礎になる医者の数が違う」

 「それに我々が行った人体実験は、731部隊より多いはずだ」

 「日本医療に追い付かれるはずがない」

 「どちらにしろ、石井731部隊の調査は必要だよ」

 「んん・・・風魔部隊か。我が国のジーンリッチとどっちが上かな」

 「ふっ 黄色人の世界で白人が動けば目立つよ」

 「まぁ わかってはいるがね」

 「しかし、日独定期船は運行されてるから白人観光客も増える」

 「上手く紛れて調査するしかないな・・・」

 そこに日本人数人が現れる、

 「あのハンス社長。ビールの製造ノウハウを売っていただけるとか」

 「ええ、あとウィンナーの製造技術もつけますよ」

 「本当ですか。助かります」

 「いやいや、ホップ畑と牧畜運営の方は、大丈夫ですかな」

 「これだけ広大な土地だ。良ければ、伝手があるので紹介できますよ」

 「ほ、本当ですか」

 「ええ、お互い、戦争を乗り切った仲ですしね」

 「え、ええ・・・」

 

 

 四川盆地は周囲を山脈に囲まれているせいか、歴史的に独立独歩の気風が強く、

 中央権力に抵抗することが多かった。

 気候の良い成都は、政治の中心を担うことが多かったものの、

 経済の中心は、揚子江と支流チリアン川が合流する重慶だった。

 重慶の中心は、東西5km、南北1.5kmのくびれた半島で  

 半島中央の小高い丘は標高300mほどで天然の防壁を作っていた。

 市長

 「なんで普通に搾取して強制労働させないあるか」

 「民にサービスするなんて狂った行政ある」

 「だから、公共サービスという大義名分で税収と積極的な労働が得られるんじゃないか」

 「今時、鞭持って働かせるなんて・・・」

 「中国じゃ それが常識ある」

 「いや、しかし、税収が入ってくるのは同じだから」

 「そんなの変ある」

 「変でも役職が増えるし、それで、安定収入なの」

 「結局、仕事を増やして苦労することに変わりないある」

 「少しは働けよ」

 「それより間引きある」

 「間引きって・・・」

 「億単位は間引きしないと駄目ある」

 「そんなの毛沢東でもできないよ」

 「毛なんて、ヘタレのビビりの腰抜けある」

 「歴代中国王朝なら人口の3分の1を生き埋めある、多い時は人口の半分殺すある」

 「征服王朝でも人口の6分の1は生き埋めが常識ある」

 「「「「・・・・」」」」

 紆余曲折があっても、日本支配が始まると四川盆地の資源開発と区画整理が進み、

 和漢貴族の所領が分配されていく、

 和漢貴族は、率先して、労働力を日本の開発計画に動員させ、

 円札を求めた。

 資源の採掘が始まり、

 火力発電所と水力発電所が建設され、

 四川鉄道が大動脈として機能すると、経済が活性化していく、

 電灯が街を照らして重慶市の近代化が郊外へと広がっていく、

 港湾が整備され、四川産の資源が集積され、船に載せられていく、

 取引量は急速に増え、

 日本人の姿が増え、

 欧米諸国の代理人も市場と資源を求めて集まっていた。

 重慶市の看板は、日本語と中国語の併用になり、

 外国人居留地を中心に英語、ドイツ語表記も増えていた。

 とはいえ、重慶の蒸し暑さ、雨と濃霧は、支配層と富裕層の不快指数を押し上げ、

 白人は長居したがらず、

 日本人も現地民とのいざこざを避けたいのか、

 重慶の東、揚子江を渡った標高400〜600mの高原に別荘を建て、

 あるいは、居住地を定めることが多かった。

 そして、内務省、特別高等飛行警察の飛行場も見晴らしの良い高原域に建設されていた。

 食堂、

 職員は、麻婆豆腐、担担麺、回鍋肉、青椒肉絲、

 麻婆茄子、棒棒鶏、乾焼蝦仁など思い思いに皿に載せ、

 唐辛子、花椒を利かせた四川料理を頬張った。

 日本食の人気があるものの、郷に入れば郷に従えで、

 高温多湿の気候は、汗を出さなければ健康に悪いと四川料理の割合が増えていく、

 「和漢貴族の乱暴狼藉は、相変わらずらしい」

 「いつになったら収まるのかね」

 「公共工事にかこつけて、旧反政府勢力を根絶やしにするつもりらしいけど」

 「和漢貴族は、子飼いの派閥で盤石な聖域を作りたいのだろう」

 「封建社会ってやつだ」

 「しかし、あそこまで徹底されるとな」

 「一度、権力構造が崩れると中国人は徹底的にやるし」

 「庶民の反発は、和漢貴族を日本寄りにする」

 「歴代王朝が変わるたびにやってることだし」

 「おかげで揚子江の河川経済が安定するし。釜山と上海行きの新幹線も建設が進む」

 「ポストの半分は日本人だし。あまり口出ししない方がいいと思うな」

 「見て見ぬ振りをするしかないだろう」

 「むしろ、日本人も狙われ易い状況を作ってる気がするね」

 「そういえば二日前、日本の商人が殺されたらしい」

 「まぁ 売春の斡旋をしてたし、日本人被害者ばかり悪いとは言えなかったけどね」

 「はぁ ただでさえ蒸し暑いというのに不快なことばかりだ」

 「重慶より、成都が涼しいらしいよ」

 「成都は、重慶より北側だし、龍門山脈からの吹き下ろしのせいじゃないかな」

 「成都攻略は、和漢軍が主だったから重慶より酷いことに・・・」

 「それで寒気がするって?」

 「あははは・・・」

 「そういえば目に見えて人口が減ったといってたな」

 「空いた農地に日本人に入植して欲しいとも」

 「ふっ 入植が一番多いのは朝鮮人じゃないかな」

 「日本人に威張れなくても、漢民族には威張れるからな」

 「朝鮮人か。例の調子でやられると日本民族の不評が強まりそうだな」

 「日本人も調子に乗って反感買ってるバカがいるけどな・・・」

 「自業自得で半殺しに合うならいいけど、弱い方が狙われるからな」

 「これじゃ 日本人が怖がって入植も遅れるだろう」

 「まぁ いくら裏社会を押さえても、チンピラレベルじゃ 手を出しにくいしな」

 「和漢貴族に言わせると、100倍にして殺せだそうだ」

 「そういうのは、和漢貴族に任せたいね」

 「だから喜んでやってるだろう」

 「口実さえあれば、なんでもいいんだ」

 「「「「「・・・・」」」」」 ため息

 

 

 日本の大陸支配の要は、特権階級を保障した和漢貴族の忠誠心、

 そして、裏社会を支配する内務省のシグマキャリア部隊だった。

 軍事的には、装甲列車、三式指揮連絡機、河川砲艦が担っており、

 装甲砲艦と呼ばれる艦種が誕生する。

  200t級河川装甲艇(全長50m×全幅8m)

  75mm砲、25mm機銃2丁・・・

 「どうだい、新型の砲艦は?」

 「船というより戦車だな。居住性が微妙だ」

 「そう言うなって、小型だから狭い支流にも行けて、機関銃に堪えられる会心作だぞ」

 「これ使って奥地に行ってもいいぞ、か・・・」

 「なぁに、元反政府勢力が武器を持っていても、補給は断たれて山賊化してる」

 「無駄に撃ってきたりしないよ」

 「存在感を示して、山賊を大人しくさせればいいわけか」

 「そういうこと」

 「やれやれ、昔はもっと大きな軍艦で大海原だったのにな」

 「大型艦の歯車より、小型艦の艇長の方がいいだろう」

 「まぁ そう言えなくもないがね・・・」

 中国の小舟が装甲艇に近付き、もの売りが始まる、

 小舟に山賊が潜んでいたら装甲艇といえど大打撃、

 買った食物に毒が仕込まれていたら全滅ということにもなりかねない、

 「軍が軍として弱みや隙を作らないためには自己完結な自給体制を整えないとな」

 「まぁ そういうのは先のことになるよ。たぶん・・・」

 

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 日本の大陸支配は、和漢貴族の利害と一致、閨閥も増えてしまいそうです、

 さらに日本語教育を中心とした和漢族を作り出し、

 点と線の支配を網の目のように広げていくことに・・・

 

 

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第10話 1945年 『大和連邦と新世界秩序』

第11話 1946年 『崑崙・高天原計画』

第12話 1947年 『地球人なら中国語を話せ』