月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第12話 1947年 『地球人なら中国語を話せ』

 北京駅

 “地球人なら中国語を話せ”

 妙に説得力のある落書きが職員によって消されていく、

 「・・・まったく、油断すると、すぐこれだ」

 「それだけ焦ってるんじゃないか」

 「和漢学校のせいだろう」

 「中国語だって、方言があるし」

 「川を渡ったら言葉の節が微妙に違っていたりするし」

 「人口で最大は中国語でも、世界じゃ英語が強いよ」

 「ところで、中国人労働者を世界に輸出するのは、どこまで本当なんだ」

 「地方軍閥は本気らしいよ。日本政府は関わり合いになるのを避けてるけどな」

 「和漢貴族は子飼いで固めて権力基盤がますます安定してしまいそうだな」

 「殺戮よりマシだから片棒担いでる日本人もいるらしいよ」

 「はぁ・・・地方行政が人身売買染みたことしたら駄目だろう」

 「まぁ 俺たちも日本で仕事にあぶれて、こっちに流れてきたんだけどな」

 日本の鉄道省は、大陸鉄道、全長100000kmと目標を掲げ、

 和漢貴族は、口実さえあるなら旧反政府勢力を狩りだして酷死させ、

 主従関係で支配圏を強めていく、

 そして、特権階級の牙城をより強固にするため、

 人身売買染みた海外労役を領民に課し、

 特権階級を強め私腹を肥やしていく、

 

 大和連邦は、列島と半島・大陸の一部の地域を除き、民主主義ではなかった。

 大陸は、和漢貴族が世襲する前時代的な封建体制であり、

 和漢貴族は、日本の大陸権益を守る面従腹背な代理人といえた。

 この状況は、他に選択肢がなかったことで必然的に成り立ったものの、

 欧米諸国と交渉する日本の通商関係者は、欧米諸国の嫌悪感を肌で感じており、

 会合を開くたびに “和漢貴族の特権をいつ壊すか” という話しになっていく、

 もちろん、日本の利益代表たる和漢族の特権を外し、

 民主化すれば民族自決で連邦から分離独立になりかねなかった。

 もちろん誰も即時民主化などという世迷言は言わない、

 問題は、限界がいつか、という事に尽き、

 これを見誤ると、日本・和漢軍と中国民衆の内戦に発展する。

 各地の情報が集められ、些事具合が計算されていく、

 「大陸の犯罪が増えてるようだ」

 「犯罪というより統一後の虐殺が続いているだけと思うね」

 「恒例行事とは別に治安がまだ不安定なことに変わりはないな」

 「歴代王朝と比べて?」

 「いや、内地と比べて」

 「歴代王朝と比べたら平和そのものだよ」

 「それに犯罪は、和漢貴族の犠牲者たちが貧困のあまりに起こしたものだ。むしろ、同情するね」

 「しかし、現状では、差別貧民層を作るか、犯罪者を悪者にするか」

 「それとも仮想敵国を作らないと安定しない」

 「帝王学か。嫌な政治だな」

 「むかしからやってきたことだし、効果は確認されてるよ」

 「政治腐敗の時ほど、効果があるからな」

 「とはいえ、もう少し、民意が高まってもいいと思うがね」

 「和漢学校に期待したいね」

 「新和漢族か・・・」

 日本人は、日本に味方して貴族になった和漢族を旧和漢族と呼び、

 日本教育を受けた和漢学校卒業生を新和漢族と呼んでいた。

 「育ての親が日本でも、生まれは漢民族だ」

 「彼らが日本の味方になるとは限らないよ」

 「むしろ、味方の新和漢族に日本が乗っ取られかねないね」

 「あはははは・・・」

 「笑えねぇ」

 

 

 帝都東京

 アメリカの経済制裁が終わると石油と鉄材の輸入が再開され、

 大陸の資源が日本列島に流れ込み、

 日本の大陸行政関係者と食詰め層が大陸へ渡り、

 余剰商品が大陸の市場に並べられると不渡り率が低下し、

 企業投資が促進されていく、

 欧州戦争後の復興事業も全世界的な復興需要を喚起させ、

 貿易再開と同時に日本産業の追い風となった。

 日本は、生糸以外の産業が脆弱そのものだったため、

 巨大な需要に応えるため軍需産業の民需転換が必要となり、

 大陸支配後、政治権力は、軍部主導から内務省主導へ移行し、

 大規模開発を中心とした建設の時代へ向かう。

 

 大和連邦最大は、如何に大陸支配を続けるか、

 そして、大陸の悪癖に如何に染まらずに済むか、

 二律背反な命題が付きつけられていた。

 石井731機関は、シグマキャリアの支配力を利用し、

 大陸東岸の中国主要域を力で捻じ伏せようとし、

 反石井731勢力は、大陸西域に日本人コロニーを建設、

 列島と大陸西域の日本圏の挟撃で大陸支配を強める方針を打ち出していた。

 石井731機関の案は、直接的な大陸支配であり、

 日本の勢力圏に近く、容易で利権が大きいものの、

 大陸の悪癖が伝播しやすくなるというマイナスも大きかった。

 一方、反石井731勢力の案は、日本圏を守りやすい半面、

 文化差異が縮まらず、中国に抗日勢力が形成され易くなるなど、副作用が生じた。

 とはいえ、四川盆地は、山脈に囲まれた陸の孤島であり、

 さらに西域は山岳が連なって人海戦術を塞ぐ峰壁が作られ、

 日本が日本文化と伝統を堅持したまま大陸支配する適当な要衝ともいえた。

 もっとも、大陸西域への投資は膨大なものとなり、投資回収は長期となると予想され、

 日本の国力の限度も超えていた。

 有効性は、認められながらも敬遠されがちな政策だった。

 そして、案の定というべきか、両方案に中途半端な予算が分配され、

 成果が危ぶまれながらも大陸支配は少しずつ定着していた。

 

 

 中国人孤児が集められ、日本教育が施され、

 学校を中心に和漢村が作られていく、

 人道的な救済といいつつ、

 和漢族は日本基幹産業への就職の道も作られ、

 日本属民といえる存在となっていく、

 和漢学校

 日本人職員たち

 「言葉を奪い、文化を奪い、土地を奪う」

 「こういうのは、良くないと思うね」

 「逆に言うと日本語を教え、日本文化を与え、仕事を作ってるじゃないか」

 「あのなぁ 中国の漢民族だよ。朝鮮人なんて半端な民族じゃないし。どこかの小さな少数民族でもない」

 「世界最大多数の漢民族だよ。恐れ多いと思わないのかね」

 「どこの馬鹿か知らないけどさ。地位と金に目が眩んだんじゃないの」

 「まぁ 俺たちだって、それで、実入りが良くなってるし。将来設計も安泰だ」

 「おれは、教え子に墓を掘り返される悪夢を毎日見てるよ」

 「少なくとも彼らの将来も普通の中国人より悪くないだろう」

 「ある意味、和漢族は、特権階層だからね」

 「中国人でさえ、子供を和漢学校に入れたがるくらいさ」

 「それに中国王朝は、徳川幕府より長い事が多い」

 「和王朝も長くなると思う」

 「あれだけ、殺して封建社会を確立したら長くもなるよ」

 「「「「・・・・」」」」

 和漢族は、幼いほど抗日が弱く、

 日本語の吸収率が高くなっていた。

 

 

 アメリカ合衆国

 白い家

 「現在の国内情勢と国際情勢は?」

 「欧州戦争の特需は、アメリカの利権を拡大させ」

 「戦後、復興事業は、大規模なアメリカ発注需要を起こし・・・」

 「・・・というわけで、計算通りアメリカの失業者を減らしています」

 「また、大和連邦の需要もアメリカ産業を引き揚げています」

 「こちらは、最良の選択肢、日本を打倒し。アメリカが中国と直接取引するより有効なようです」

 「経済的にはな」

 「しかし、国際外交戦略でいうなら大和連邦はアメリカ合衆国を超える可能性を秘めている」

 「アメリカ国内情勢でいうなら、統一された東アジア需要と市場は、魅力的です」

 「今後、アメリカ合衆国の最重要取引国となり」

 「アメリカは遠からず1920年代の好景気に至るはずです」

 「今度は、大恐慌にならないだろうな」

 「最悪に至る前に操作可能だと思われます」

 「次に国際情勢ですが」

 「ドイツは、西方にフランス、オランダ。北方にデンマーク、ノルウェー」

 「東方にポーランド、バルト3国」

 「そして、ベラルーシ、ウクライナの3分の1ほどを領有しているものの」

 「多くの人材を失ったことで、ドイツ帝国の消耗は激しく」

 「支配地の拡大を果たせたものの、経済的に低迷してくと思われます」

 「また、バルカン域は、ドイツ同盟国軍に包囲されており」

 「今後、欧州情勢の焦点となるでしょう」

 「イギリスはインドを失いつつあり、弱体化は免れず」

 「今後、衰退期に向かうはずです」

 「アジア。大和連邦は?」

 「少数民族による多数民族支配は困難を極めます」

 「しかし、漢民族の個人主義、利己主義は、人脈を介してなされるため」

 「組織的な抗日運動の形成を阻害してるようです」

 「中国人の報告は受けておるよ」

 「外交戦略上、対日政策を強行したが中国人は失望させられる」

 「問題は大和連邦の国力がどうなるかだな」

 「大和連邦は、大陸支配に総力のほとんどを使いきる為」

 「対外的な攻勢力を喪失すると思われます」

 「現状ではそうかもしれない」

 「しかし、10年後、20年後はどうだね」

 「たとえ、わたしの任期が終わった後でも気になるよ」

 「大和連邦の支配を確立する和漢族は、学校建設に比例して累積加算されていきます」

 「報告書に最大と最小で分けた場合の推測値が描かれていますが」

 「年月とともに日本支配は強まっていくはずです」

 「大きな反日運動は?」

 「和漢貴族が押さえているので、当分は起こり得ないかと」

 「しかし、和漢族が増加するほど、漢民族との亀裂は広がります」

 「漢民族10、和漢族1の比率が限界となり、内戦に移行する確率が高いかと」

 「ふっ」

 「もう一つ、日本は、中国西域へのコロニー建設を行ってる模様です」

 「東西から大陸を挟撃するのか」

 「はい、悪くない計画ですが、日本の国力からすると困難かと・・・」

 「日本の軍事力は?」

 「内務省への人事異動が進んで軍縮中です、発言力が低下し」

 「兵力不足をドイツ兵器と武器弾薬を購入で凌いでいるようです」

 「軍国主義の行きつく先は、目的感の喪失と自我崩壊か・・・」

 「問題は、アメリカ軍のみ、大規模な近代戦の経験がないことです」

 「これは、国際外交戦略上、大きなマイナスといえるでしょう」

 「もし、戦争になったら将兵に初心者マークを付けさせないといかんな」

 「冗談言ってる場合じゃなかろう」

 「ドイツとイギリスから傭兵を雇用して、戦訓を得られるようにしておいてくれ」

 「日本でもいいぞ」

 「日本と言えば、シグマキャリアですが能力発揮に数か月の期限制限があるようです」

 「それは事実かね」

 「まだ、可能性の高い推測です」

 「推測か・・・」

 「引き続き諜報を頼むよ」

 「夜襲で師団の指揮系統が破壊されて総崩れさせられては、叶わんからな」

 「そういえば、ドイツのジーンリッチは?」

 「ジーンリッチは、遺伝子改良です」

 「人数制限も期限制限もなく、人口増加に比例して増えるはずです」

 「ですので、生長期間を考えるなら、20年は軍事的に問題にならないかと・・・」

 「大和のシグマキャリアとドイツのジーンリッチか、どっちが強いのだろうな」

 「それより、シグマキャリアとジーンリッチの情報収集と分析を急がせるべきです」

 「それはそうだ」

 「しかし、興味は押さえられんよ」

 

 

 大陸の膨大な資源と巨大市場は、日本産業の踏み台となり、

 同時に大和連邦をして欧米列強諸国の最恵国へと押し上げていた。

 大和連邦投資は、見返りのいい投資先であり、

 欧米諸国の資本は競って大和連邦に投資し、権益配当を手にしていた。

 日本企業も大陸利権を当て込んだ設備投資と雇用で生産力が増していく、

 資源を売却した代金が軍の予算に回され、

 航空機用DB603水冷エンジン。

 魚雷艇用MB501ガソリンエンジン。

 その他、兵器・武器弾薬がドイツから購入され、

 日本の設計で、艦船、機体、車両が組み立てられていく、

 見かけは日本製といえるものの、心臓部は紛れもなくドイツ製であり、

 兵器製造の完全国産化を進めようとしていた軍部は、大きく後退することになった。

 それどころか、政府、内務省、民間の圧力により、

 軍事技術の一部民間転用が進められようとしていた。

 赤レンガの住人たち

 「くっそぉ〜 売国奴どもが、あれもこれも持っていきやがって」

 「そんなに民間の国際競争力が大事か」

 「国際競争力に負けると高いモノ買わされ、資源を安く買いたたかれるし」

 「国民は低賃金でずっと働かされる運命だし」

 「国民生活を豊かにさせるなら、貿易黒字が得られる国際競争力が大事なんじゃないの」

 「なんで国防兵器が国産じゃないんだ」

 「生産ラインを民需に取られたからだろう」

 「それに戦後、ドイツで余った機械部品が大量にあってな」

 「大陸支配で、軍が弱体化してどうする」

 「だから、何度も説明されてるだろう」

 「説明されたって、納得したくないものは納得したくないだろう」

 「そりゃそうだ」

 「大陸支配するからだろう。馬鹿が」

 「その言葉は、巧妙に立ちまわって移籍した先達たちにいえ、あの卑劣漢が」

 「軍部が国のために犠牲にされるとは、本末転倒だな」

 「くっそぉ〜 日本人は危機感が足りねぇ」

 「大陸支配したからな、危機感が失せても仕方がないだろう」

 「誰か、アメリカに日本が占領される小説か」

 「ソビエトに大和連邦が支配される小説でも書かねぇかな」

 「そんなの書いたって小賢しいだけだし。内務省に握り潰されるだけだと思うね」

 「ちっ むかしの先輩後輩も省が変われば敵かよ」

 「日本は縦割りだからな」

 

 

 満洲

 石井731機関

 日本医学の要塞が建設され、

 中央にエウェンクの血族ための庭園が作られていた。

 その周辺は、高く厚い塀によって囲われ、

 丸太が生きて出ることの許されない人体実験場となっていた。

 医者たちは、この先、実験場で殺された1000倍の人間が救われたとしても、

 自分は地獄に行くと諦めた表情であり、

 海外の医療成功例が伝わると、

 これほど人体実験をしても負けてると自己嫌悪に晒されながらも焦燥感が募っていく、

 研究者たちが二日遅れの新聞に目を通していた。

 「また先を越されたか・・・」

 「いつになったら欧米医療に追い付けるのかね」

 「国益で偏った不自然な投資より」

 「社会資本を増やして自然な需要に応える方が発展するのでは?」

 「繁華街と酒場と娯楽モノが増えるだけな気がするね」

 「もっと予算だよ」

 「それとも人体実験を増やすか」

 「もう人体実験は勘弁してくれって感じだよ。予算にして欲しいね」

 「といってもな。ダム作ってる連中に金寄こせ、なんて言ったら簀巻きにされるだけだぜ」

 「大陸を支配できたというのにしょぼい話しだな」

 「大陸権益分の上がりは、治安維持と和漢学校に回されてるらしいよ」

 「ムカつく」

 「中国戦も大陸支配も半分は俺たちのおかげだろう」

 「もうちょっと回せばいいのに・・・」

 「エウェンクの件で進展がないからじゃないか」

 「そういえば、成果を出せないならエウェンクを内地に寄こせとも・・・」

 「くっそぉ〜 いまさら横取りされてたまるか」

 「とはいえ、進展がないのも事実だし」

 「どこでやっても行き詰まりだよ。まるで魔法みたいな血液なんだからな」

 「医学の世界に魔法は存在しない」

 「例え魔法のように見えたとしてもだ」

 「それは医学的な現象を理解できないからだ」

 「とはいえ、医学で人間の精神を説明するのは困難といえる」

 「この境界線を埋められるような物質は存在しなかった」

 「しかし、エウェンクの血は、ある種の精神感応、物理感応を察知するアンテナと受像器の役目をする」

 「これまでの人類の血液と違ってアクティブな血液といえるだろう」

 「血は骨髄から作られる」

 「しかし、大元に遡れば脳幹に至り、精神的な影響が血液に現れたとしても不思議ではない」

 「とはいえ、身体を生かす為だけの血液に特殊な力の発生は、意外過ぎる」

 「突然変異では?」

 「トーマス・ハント・モーガンのショウジョウバエの実験で遺伝子的な突然変異は、新種を生み出せないと」

 「進化論は、内外両面の影響があったと考えるべきだろう」

 「エウェンクの話しからツングースの爆発の影響を受けたとしてだ」

 「その被爆が人間に影響を与えるとしたら、どんな未知の影響が考えられる?」

 「んん・・・ウィルスや病原菌が遺伝子的に影響を与えたのならともかく」

 「進化の原因を隕石の爆発に求めるのは、突飛過ぎる気がしないでもない」

 「確かに爆発の衝撃とエネルギーは大きい」

 「しかし、持続性は考えられない・・・」

 「特殊なエネルギーだったのでは?」

 「それだと、エウェンクだけは変だ」

 「彼だけ適当な距離にいたからでは?」

 「その可能性はなくはないがね」

 「問題は、どうして、こういう血が作られるようになったか、だな」

 「血が脅威となる可能性は?」

 「いや、血の寿命は、通常の血液と変わらないし」

 「人の直感を高め、同じ血液同士で遠隔的な感応が認められるだけだ」

 「エウェンクが支配力を持つことはないと?」

 「輸血された血液は、その体を守る為だけに機能する」

 「輸血した血で他人を支配するまでの進化に至ってない」

 

 

 大和連邦警察は、15両編成の装甲列車を巡回させて地方行政を監視する。

 連邦警察の監視は、通常の犯罪ではなく、組織犯罪に向けられていた。

 一個中隊(200人)で軍隊に準ずる装備は、裏社会の組織を一夜で壊滅させ、

 存在するだけで地方行政と企業の不正腐敗を律し、匪賊の台頭を牽制した。

 中央の統制と地方の自主性の関係は、適度なバランスを求められ、

 統制が厳しいと地方の独自性と活力を殺し、

 放任だと統一性が損なわれ、離反の温床にもなった。

 大陸は日本政府と和漢貴族の歪な関係が加わり、行政は困難を極めた。

 食堂車両は手狭で、食事はバイキング方式で、和洋中が揃っていた。

 職員たちは、料理をトレイの皿に盛ると席についていく、

 「今度は、距離の計算を間違ってないだろうな」

 「ふっ 前回は、6時間の行軍が15時間だったからな」

 「航空警察には、抗議しておいたよ」

 「それに今度は、弁当持参でアヘン畑を確認しに行くから大丈夫だろう」

 「たまに違う味付けを食べたいものだ」

 「そういえば、第21軌道装甲警察から応援を求められてるらしい」

 「なんで? そんなに大きい組織なのか?」

 「いや、密輸アジトが俺たちの管轄に近いらしいから、逃げ道を塞ぐだけでいいんだと」

 「尻拭いかよ」

 「新しいルートらしいから万全を期したいんだと」

 「また、別ルートでアヘンか・・・」

 「段階的にアヘンの量を制限して禁止させようとしてるのに、どうして、逆らうかな」

 「人間はね。犬と同じだよ」

 「躾けないと自分が主人面して悪さをする」

 「特に地方行政は、目が届いていないと思うと好きなことをするもんだ」

 「しかし、やり過ぎて地方の活力を削がないか」

 「むしろ麻薬に地方の活力が奪われてるよ」

 「それに設備投資が進んで近代化で脚色されても中身は封建社会だからな」

 「封建社会に民間活力は期待できないね」

 「地方が活力を発揮するとしたら、分離独立運動か、私腹を肥やすときだろうな」

 「とはいえ、日本人も朱に交わればで結託するからな」

 「ほんと、文明の中心じゃないし、辺境生まれとはいえ」

 「日本人の染まりやすさは、どうにかならんもんかね」

 「麻薬禁止を遅らせて、漢民族を弱体化させたがってる勢力もあると思うよ」

 「ふっ 漢民族は金に目が眩んで、日本人は悪意でか・・・」

 「金に目が眩んでが救いがあると思うね」

 「しかし、政府も1人当たりの生産力を増やしたいから、麻薬禁止とはね」

 「政府も相当きてるな」

 「目先の利益ですかね」

 「欧米諸国の目を気にしてるんじゃないか。いつまでも麻薬管理統制じゃな」

 「島国が大陸を抱え込んで四苦八苦してるのに?」

 「日本は、列強の目を気にする余裕なんてないでしょう」

 「ふっ そうなんだけどな」

 「まぁ 漢民族も付き合ってみれば楽しいし、個人的に恨みはないけど」

 「個人はそうでしょうけど、社会的な利害が絡むと敵味方ですからね」

 「時々 特高のバッチが恨めしく思えると気があるよ」

 「道徳とか、個人の好き嫌いより、全体の利益を優先しなければならないときがありますからね」

 「そういう時、辞めたくなるがな・・・」

 路線沿いに保育施設が見え、

 日本人と中国人の子供たちが遊んでる光景が見えた。

 子供たちは、言葉の違い、民族の違い、風習の違いを超えて遊ぶ・・・

 は理想主義者の戯言、綺麗事のウソだ。

 そこには、力関係があり、力関係が定まるまで不安定で争いが続く、

 もっとも、争いの焦点は、なにをして遊ぶかであり、

 ルールをどうするかだった。

 それに比べ、大人たちのやっていることは弱者の淘汰だった。

 無論、自然界で弱った小鳥は、別の小鳥によって巣の外に投げ落とされるし、

 時には、母鳥が弱った小鳥を巣の外に投げ落とすこともする、

 “弱者を憎んで殺す” は、強者存続と繁栄の自然の摂理でもあり、

 その本能は、人間社会でも生きている、

 とはいえ、本能剥き出しは危険人物に過ぎず、

 人間の脳に占める本能の部位、大脳辺縁系の比率は大脳に比べ小さく、

 信頼、やさしさ、思いやりという人間らしさを追及する大脳によって社会が作られていた。

 つまるところ、社会が求めるのは融和的な人格であり、

 その水準が低いと忌み嫌われ社会から駆逐され淘汰される。

 無論、組織的な生存圏を賭けた戦いがあり、

 社会全般は適度に融和的で、適度に緊張を強いられる。

 しかし、日本人の漢民族の支配は、信頼、やさしさ、思いやり

 といったものを現すことが困難な非融和的な社会の構築だった。

 日本人の大陸支配は失敗する。

 そう思っている者は少なくなく、

 長期的には、大陸と島国の工業生産力の逆転は目に見えており、

 モンゴル人や満州族のような不利な立場に追い込まれる可能性もあった。

 

 

 

 歴代中国王朝とチベットの関係は、チベットが中国王朝に貢物を捧げ、

 皇帝側が恩賜を返すといった関係で、

 中国は直接、チベットを支配するというものではなかった。

 その動機は蛮族を抱え込みたくない、

 距離が遠く、山が高く、費用が嵩む、と物理的な理由で成り立っていた。

 大和連邦西域

 雲海が大地を滑るはるかな高み、

 日本人たちがいた。

 「空が近い・・・」

 「空気が薄い・・・」

 「頭いてぇ・・・」

 「酸素ボンベがないと高山病だな」

 「なんでこんな場所に・・・」

 「だから・・・なんだっけ・・・」

 「西域に日本人のコロニーを建設するんだろう」

 「そうそう。日本のコロニー。コロニー」

 「標高3000mくらいが限度だな」

 「エンジンがまともにかからねぇ」

 「もっと低くてもいいくらいだ」

 「しかし、開発は資源ないと辛いと思うな」

 「その心配はなさそうだ・・・」

 足元を黒ずんだ石が転がっていた。

 「石炭の鉱脈か」

 規模はわからないものの、期待できそうな土地に思えた。

 「宝の山だといいな」

 「問題は、ダライラマとの交渉か」

 「地代と配当だけで済めばいいけどな」

 「それでも、ダライダマは世界有数のお金持ちになるかも」

 「いいな、地主で左団扇の生活だ」

 「たぶん、人口の少ないチベット人もな」

 「問題は行政かな」

 「日本語教育に抵抗するかな」

 「抵抗するだろうけど、チベットは宗教以外、まともな教育機関はないし」

 「怖いものなし権威が聖徳太子の頃から続いているから、結構、腐敗してそうだし」

 「清浄な土地なんだがな」

 「土地は清浄でも、人間が清浄じゃないと思うよ」

 「安定した職に就くなら日本教育と諦めてくれると思うけど」

 「問題は、世代ギャップかな」

 「地域のギャップもあるよ。方言ばかりだと思うね」

 「というか、歴代王朝も何度も途切れて、支配の空白期間もあったみたいだし」

 「国家的な連続性がなさそうだし、部族社会じゃないの」

 「武器を使うのはまずいよね」

 「陛下は可能な限り平和裏に進めてくれとご立腹らしい」

 「やっぱり、中国併合と中国皇帝兼任でタガが外れたかな」

 「そりゃ 半分、騙したようなものだし」

 「怒って、総理と参謀総長、軍令部総長のクビを飛ばしたんだもの」

 「ふっ まぁ おかげで議会制民主主の移行もスムーズにいったし。悪くなかったと思うよ」

 「取り敢えず、チベットも大和連邦だし、ダライラマには、なんとか妥協してもらおう」

 「「「「・・・・」」」」

ポタラ宮

 とはいえ、日本政府とチベットの権力層は言葉の壁があり、

 山積みのモノが代表団の前に出され・・・

 「・・・これは、何でしょう?」

 「進貢です。入貢していただきたい」

 「「「「・・・・・」」」」

 いまだ、交渉以前の段階だった。

 

 

 

 

 大和連邦予算は大陸運営に傾倒し、

 太平洋諸島は政府機関の仕事を除くと、漁業、サトウキビ、観光・・・

 予算不足で日干しになっていた。

 大陸経営から外された、というより、

 旨みのない役職を押し付けられた将兵たちの溜まり場が太平洋の島々に作られていく、

 トラック諸島の島民は貧しく、

 日常は至ってのんびりで、

 休日は、食材の足しのためか磯釣りしていた。

 「だらけるね・・・」

 「アメリカは挑発してばっかりだったのに、大和連邦成立後は何もしてこないな」

 「大陸の資源と市場が開放されているなら文句はないんじゃないか」

 「ちっ 日本軍が頑張ったのに旨みだけ取りやがって・・・」

 「頑張ったの陸軍だがな」

 「海軍だって、武器弾薬と燃料と戦力と予算をくれてやったじゃないか」

 「まぁ 主力は陸軍だし」

 「ふん、それで日干しにされてどうする」

 「まさか治安維持で内務省に予算が流れると思わなかったんだよ」

 「そんなの欠片でも想像力があれば、誰でも見当がつくだろう」

 「いや、日本民族が、あそこまで金に目が眩むとは思わんかった」

 「はぁ 東京で道を歩いてる連中の顔に金金書いてない奴がいるか」

 「建前があるからね。愛国心で押し切れると思ったんだよね」

 「大陸の資源と市場を手に入れて、国民が目先の利益に走ったら軍部と同じ」

 「止まらないよ」

 「ふっ 建前と綺麗事言ってたやつが本性現して大陸支配か」

 「恥知らずというか厚顔厚かましいというか醜悪過ぎて何もいえんな」

 「自己正当化の口実なら何とでもつけられるからね」

 「それに民間は官僚と違って、あくせくして目聡いし」

 「投資に見合う回収が確実ならやるだろう」

 「まぁ 兵卒上がりの俺たちも大出世だし」

 「官僚も数千近いポストなら色めき立つだろうからね」

 「でも、味を占めて、また戦争したがらないかな」

 「もう戦争いいよ。数世代は安泰だし」

 「そのとき、日本人は高齢化で毒気も抜けてんじゃない」

 「ていうか、日本は大陸支配に総力注ぎ込まないと駄目だから」

 「余力がなくて、なにもできないかも・・・」

 

 

 

 中国侵略の主力がシグマキャリア部隊となったことで、

 中島案の4発爆撃機「連山」開発は頓挫、

 しかし、大和連邦成立後、

 広大な航続距離と戦場への即時投入可能な大型爆撃機の開発が求められた。

 これは、予算縮小が続く軍部の苦肉の策であり、

 大陸攻勢から大陸・列島防衛へ国防戦略が移行したことが上げられ、

 陸軍と海軍の綱引きで大陸と海洋の両用戦で戦える日本空軍が創設されてしまう、

 

 日本空軍 連山改

 自重20000kg/全備重40000kg

 全長22.93m×全幅32.54m×全高7.20m 翼面積112.00u

 ダイムラーベンツDB610A 2870馬力×4基

 最大速度650km/h  巡航速度413km/h

 航続距離4500〜9000km 乗員7人

 爆・雷 5000kg

 20mmマウザー機関砲6門、13mm機銃4門

 日本空軍将校が巨大な機体を見上げる、

 心臓部はドイツ製。外見はB17爆撃機のパクって改良したモノだった。

 「フリッツX3発か。海軍は悪くないな」

 「むしろ、対ソ侵攻と、対中暴動用だから、爆弾搭載の方がいいね」

 「心臓部がドイツ製なのが気に入らん」

 「民間にカネが流れてるし。まだ作れないらしいね」

 「4発爆撃機じゃ無駄に爆弾を落とすような気もするが・・・」

 「アメリカにノルデン爆撃照準器というのがあるそうだ」

 「使えるの?」

 「諜報の網にかかっただけだし、現物がないから、わからんね」

 「売ってくれないかな」

 「軍事機密だから知らぬ存ぜぬを通すに決まってる、無理だろう」

 「ま、それでもようやく、B17爆撃機といい勝負の爆撃機だからな・・・」

 「性能で勝ってるだろう」

 「数がモノをいう場合もあるし。なんとか、1000機配備と行きたいがね」

 「海軍縮小が先だそうだ」

 「大陸にポストがなければとても承服できない話しだな」

 

 

 ドイツ帝国

 首都ゲルマニア

 ドイツ帝国は、産業を支える主要な人材を失い、

 周辺国の軍事的恐怖からか、軍事支出も減らすことができないでいた。

 そのドイツの軍事政権を支えていたのが、資源と市場の大国、大和連邦だった。

 日本の主要産業は民需へと切り替えられつつあったものの、

 軍需産業は皺寄せを食って縮小され、

 必要な兵器・武器弾薬をドイツ帝国に求めたのだった。

 日本人たちは、V2ロケットを見上げる、

 「んん・・・いいような、悪いような」

 「怖いのは、中国民衆の暴動とソビエト軍の電撃戦だからな」

 「対アメリカ艦隊用で使えないか?」

 「いくらなんでも300km先まで誘導できるシグマキャリアはいないし」

 「フリッツBXの方がいいと思うよ」

 「フリッツXか・・・・海軍縮小で空軍拡大はどうかと思うよ」

 「誘導は、ECM・ECCMに対応できるシグマキャリアか?」

 「シグマキャリアは、ほとんど、内務省に取られてるし」

 「個人差があり過ぎて、統一指揮が採れなくなるし、軍隊と思えなくなるからオプションにしたいね」

 「だから予算を寄こせと、言い難いところもあるけどな」

 「戦争が始まったらシグマキャリアの半分は軍に戻してくれるんだろうな」

 「そういう約束だけど、省庁間の約束は破る為にあるからな」

 「戦争が始まってから小出しにされるのが一番困るんだがな」

 「まぁ 大陸の治安優先なのもわかるが・・・」

 「機甲師団くらい欲しいよな」

 「うん」

 パンター戦車の組み立ては始まっていたものの

 日本陸軍に機甲師団はなかった。

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 大和連邦は中華思想に染まり、朝貢外交するでしょうか。

 気分はいいかもしれませんが国際的に失笑モノ、

 ここは、和華思想で・・・

 

 そうそう、大和連邦の近代化は、日本+中国÷2で考えています。

 殺戮が大きいと近代化が早く、殺戮が小さいと近代化が鈍化するかも、

 また日本と大陸の地域格差も大き過ぎると摩擦が大きくなって離反が始まり、

 地域格差が小さ過ぎると日本の主導権が失われます。

 日本+中国÷2で均一融和社会は、怖過ぎますが百数十年先でしょうか (笑

 当分は、不均衡で歪な地域格差社会、階級社会が作られそうです。

 

 

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第11話 1946年 『崑崙・高天原計画』

第12話 1947年 『地球人なら中国語を話せ』

第13話 1948年 『中華の本性は 寇 ある』