仮想戦記 『DNA731』
第13話 1948年 『中華の本性は 寇 ある』
戦後世界、アメリカ合衆国、ドイツ帝国、ソビエト連邦、大和連邦の4極化が進んでいた。
体制で分けるならアメリカ自由資本主義国家、ドイツ民族社会主義国家、
ソビエト共産主義国家、大和封建(一部、自由資本)主義国家となり、
イデオロギー的な対立も4分割され、ある意味、緩和されていた。
アメリカは、欧州戦争特需と大和連邦需要で大恐慌から立ち直っていた。
とはいえ、不参戦のせいか、国家意識と実戦経験が乏しく、
政府財界の思惑とは裏腹に、国民の総意はモンロー主義といえた。
ドイツ帝国は、本土爆撃と人材の大量損失で産業が低迷していた。
占領支配下の戦利品で、痛手からの回復を図ろうとしていたものの、
破壊された建物の再建は年月を要した。
ソビエトも大量の人材と建造物を失ったものの、
スターリンは、不満分子を一掃し、挙国一致に成功していた。
なによりレンドリースで得られた数々の技術は、ソビエト産業を底上げする。
そして、大和連邦
官僚はポスト会得、財界は大陸権益の為、歯止めが付かず、
日本民族の5倍の人口を持つ漢民族を抱え込んで大陸を支配してしまう。
日漢民族の庶民は、不幸な境遇といえたものの、
列島は、資源と市場で潤って生活基盤が成長し、
大陸は、賄賂抜きで働く日本官僚の登用のためか、
混乱しつつも活気が生まれ、
大和連邦の国際的な地位は向上していた。
満洲北辺で極東ソビエト軍の増強があったものの、
幸運なことに4極化は軍事的脅威も分散され、
ソビエト国民もまた多くの人材を失ったせいか、和ソ国境は、深刻な軍拡競争に至らなかった。
大和連邦成立
その陰で失われた生命の数は知りようがなかった。
1936年から1947年の間で、推定7000万とも1億とも言われ、
その累計は、増える傾向を見せていた。
非合理的な銃殺は、全体の数パーセント未満に過ぎず、
食料徴発による飢餓死は十数パーセント、
大陸の死亡原因多くは、匪賊の襲撃と、敗者勢力の生き埋めだった。
暴虐と私腹の限りを尽くしてきた軍閥が倒された結果、
それまで、卑下されてきた匪賊が都市の長になることで起きた惨劇といえる。
歴代王朝の興亡期は人口が半減する事さえあったことから、
人口比14〜20パーセントの減少は、総数で大きいものの
比率的には少なめなといえた。
これを日本軍が行ったというなら、直接は違うとしか言いようがなく、
しかし、大陸を支配した日本軍が関係ないというなら、嘘としか言えない。
なにはともわれ、新王朝誕生の切っ掛けを作ったのは日本であり、
和漢貴族は、己が盤石な新封建体制を守るため躊躇しなかった。
その結果、和漢貴族に逆らう者、不興を買う者に未来はなく、
人権も自由もない抑圧された封建社会が大陸に作られていた。
そして、日本民族が大陸の巨大な憎しみの連鎖に組み込まれたことに変わりなく、
巨大な汚点が日本史に載ることになった。
「日本は、五族協和、王道楽土のために戦ったんだ」
「それは本当あるか?」
「本当だ」
「捕まえて処刑ある」
「えっ・・・・ちょ・・え・・・」
中国人たちによって、あっけに取られた日本人が処刑場へと送られていく、
「日本国のため戦うのは日本人。日本以外の為に戦う日本人は満洲人の間者ある」
「最近、日本人に成り済ました間者が多過ぎて不安ある」
小心な日本人は、侵略した事実から逃避したがり、
なにかと自己弁護と自己正当化し、
中国人は、侵略を歴史的な必然と認識し、意識を未来に向けていた。
そして、中国人に偽善と建前は通用しない・・・
四川盆地 成都
役所
配属された日本人が戸籍を確認すると、
名前、年齢、住所など嘘をつけるものは全て嘘ばかりだった。
「戸籍制度は中国発祥だよな」
「そうそう・・・」
連邦政府は信用されておらず、
和漢貴族はもっと信用されていなかった。
大陸では国と民の関係が敵という関係であり、
日本人に理解され難い事柄だったといえる。
和漢貴族たち
「今度こそ、中華は、世界の中心ある」
「日本人が邪魔しなかったら、大和連邦は、歴代王朝で最高の中華になったある」
「日本人は、いいところで邪魔する、良くないある」
「小便を途中で止められたような気分ある」
「日本人は小者で腹が据わってないある、ビビりある」
「公共工事の時、隠れてやるある」
「見つかるある」
「日本人は慰安旅行にでも行かせるある」
「それいいある」
「あと、日本人は麻薬と人身売買も邪魔しようとしてるある」
「殺戮が駄目なら麻薬か人身売買しないある。日本人はアホある」
「きっと、欧米諸国の感情を気にしてるある」
「中華は、世界の中心ある」
「欧米の目を気にするだけで中華は負けある」
「日本は、まだ中華をわかってないある」
「左手に短刀隠して、右手で握手するのが大陸ある “和” なんてぬるいある」
「中華の本性は “寇” ある」
大陸の市町村は固有名詞のほか、
日本に帰順した順番に年月日付と番号が振られていた。
そして、軍人の天下りのせいか、郵便局で通用してしまう。
事の是非はともかく、
封建社会で序列が決まると村の格付、ステータスになり、
ニワトリ突きに利用され、根拠もなく、和漢軍閥を支える序列村になってしまう。
序列の制定は混乱を避ける手段として優れている。
しかし、序列通り忠誠心があるのか、怪しく、
序列通り連邦に貢献しているかといえば、それも怪しく、
生産力があるかというと、そういうわけでもなかった。
しかし、帰順した順番で我が村を有利にしたがる勢力が存在する。
郵便局の日本人たち
陳情に来た村人たちが帰っていくと、
職員たちは、隠し持っていた100式短機関銃を引き出しの中にしまう。
大陸の公共機関は警備兵が付き、職員も武装していた。
公務員の武装は、強盗を十数度、撃退した後、大陸全土に知れ渡り、
公共機関への襲撃事件は鈍化の兆しにあった。
もっとも旧反政府勢力の敗残兵は、自動的に山賊、匪賊となっており、
危なくてしょうがない社会だった。
和漢貴族に言わせると襲撃犯の村ごと殲滅が一番効果的らしいものの
日本人特有の優柔不断さから先延ばしされ、
そのことが犯罪を誘発させてる現状といえた。
「・・・帰順した順番に郵便物を届けて欲しいんだと、馬鹿じゃないのか」
「ま、日本でも親藩、譜代、外様の格付けはあったけどな」
「じゃ 大陸では日本人が親藩。和漢貴族が譜代。外様は、旧反対勢力か・・・」
「だけど、江戸時代の飛脚でさえ、そんな無理が通ったかどうか・・・」
「だけど、中国は封建社会が馴染むね」
「下手に民主化を望まれるより、権威主義で固定させておく方がいいかもしれないが・・・」
「民主化と言っても右も左も権威主義者はいるだろう」
「犬系の人間は組織形成の上で重要だよ」
「むしろ、中国は拝金主義じゃないかな」
「北は権威主義で、南は拝金主義と聞くがな」
「どちらにしろ、社会生活が営めないほど人間不信、社会不信なのが問題だよ」
「1人で寺に行くな、二人で井戸を覗き込むな、だからな」
「やっぱり、親子、夫婦も敵なのかね」
「というより、道具みたいなものか」
「ヤバいところに来ちまったな」
「ヤバいといえば、家族で川辺を散策してたんだ。子供がなにを拾って来たと思う?」
「んん・・・」
「指を拾って来たんだよな。参ったよ」
「指って・・・3歳だろう」
「まったく、とんでもない大陸だよ」
「和漢学校に期待したいな」
「ああ・・・」
上海港は、半島の釜山港、遼東半島の大連港、山東半島の威海港と並ぶ大陸の足がかりだった。
特に上海港は、河川経済の大動脈たる揚子江の河口に面し、
上流に遡れば、日本がコロニーを建設している四川盆地、青海省に至るため、
日系資本と和漢貴族の利権は著しく拡大し、
上海の日本居留民は囲い込み運動で急速に増えていた。
上海の海抜は6mもなかった。
しかし、造反するかもしれない漢民族の人海戦術に対応するため造成工事が進み、
欧米諸国の外資系企業も巨大市場を求めて参入していた。
移民船から日本人たちが降りてくる、
「随分と暑いじゃないか」
「種子島くらいの緯度らしいよ」
「衣類が売れればいいけどな」
「欧米の衣服もかなり流れて来てるらしいよ」
「舶来物は高いだろう。売れるのか?」
「和漢貴族の搾取率高いから、欧米並みにお金持ちらしいよ」
「和漢貴族だけだろう」
「それだって、欧米諸国のお金持ちを全部合わせたくらいの数がいるらしい」
「じゃ 日本人も?」
「まぁ 大陸の権力層の半分は、日本人だからね」
「大陸に権力基盤を移してる日本人も多いらしいよ」
「なんか日本民族じゃなくなりそうだな」
「和漢民族ってやつじゃないの」
「和漢学校出は、そうかもしれないけど・・・」
帝都 東京
首相官邸
「列島警察は、大陸の現状を知らなさ過ぎる」
「大陸警察に殉職者の責を押し付けるというのなら、強硬手段を提案します」
「し、しかし、建前的には漢民族も・・・」
「わたしの部下は、その建前で殉職してるんですよ」
「「「「「・・・・・」」」」」
「しかし・・・もう少し、根回しとか、配慮とか、気配りのすすめとか・・・」
バンッ!!
「大陸には、そんなものはありません! 何度言ったらわかるんです!」
「「「「「・・・・」」」」」
建前重視の日本政府と本性丸出しの脅威に晒される大陸警察の間のギャップが高まる。
「と、とにかく、独断専行は、満洲事変の二の舞になるし」
「国際社会の目もある、穏便に頼むよ。予算は出すから・・・・」
「・・・・」 憮然
そう、旧日本軍は日本政府の建前と理想と優柔不断に反発して暴走し、
大陸警察も日本政府の建前と理想と優柔不断に反発し、
ごねることで予算を獲得、
次第に強硬派、穏健派、融和派などの支派を増やしていく、
大陸警察幹部たち
「同じ手は通用しないみたいですね」
「元同じ釜の飯を食った連中が他省庁にいるから、こっちの手口は見え見えなんだろうな」
「実際、不祥事や査定基準まで口出されるとな」
「しかし、こうも分権化されてしまうと・・・」
「ま、しょうがあるまいよ、みんな、一省集中の弊害に懲りてるからね」
「殉職者は?」
「取り敢えず、見舞い金と遺族年金は増やせるよ」
「お悔やみの文面もレパートリーを増やしておきますよ」
「冠婚葬祭か・・・平和になると、そういうしょうもないことに労力を費やさないといけないからな」
「長たるものの責務ですよ」
「戦争中は、簡単だったんだけどな」
「平和は高くつきますね」
「まったくだ」
大和連邦軍の主戦力は、装甲列車、河川砲艦、三式指揮機となり、
連山改4発爆撃機、パンター戦車、潜水艦・魚雷艇は、二次戦力へと格落ちしていた。
正面装備より治安維持、
それほど大陸の治安は悪かったといえる、
とはいえ、治安云々は相対的な観念に過ぎず、
漢民族に言わせると “大陸で、これほど山賊と匪賊が減ったことはない” だった。
上海港に欧州船が来航し、
積み荷の中からベレッタM1934が降ろされる、
「南部がいいよな。日本人なら国産の南部だよな」 南部の人
「・・・・・」
「ベレッタM1934なんて手動セフティレバーの位置が悪いし」
「・・・・・」
「9mm×17弾なんて威力ないし、駄目駄目のクズ拳銃だよな」
「駄目駄目のクズは、お前だろう・・・」 警察の人
「・・・・・」
どの拳銃が良いか、で、現場の意見が通り、ベレッタM1934が採用され、
南部はベレッタM1934の下請けライセンス会社にされ、
資源と交換でイタリアの拳銃が大量購入されてしまう。
「これで殉職者が減ればいいのですが」
「本音を言うと、もっと強力な武器が欲しいがな」
「特高と言っても、誘導するシグマキャリア部隊がいないと辛いですからね」
「まったく、中国人に憎まれながら、中国社会の安寧のために命がけなんだからな」
「そういえば、四川省で和漢軍が反政府狩りをやったそうです」
「またか、あいつら口実があるとすぐやるし、善人悪人の見境なしだからな」
「匪賊と山賊が散らばりますね」
「というより、一般人まで匪賊化、山賊化するよ」
「忙しくなりそうです」
「和漢軍が一度動くと十数個の村が廃墟にされて、数万の匪賊と山賊を作るからな」
「焼け石に水という気がするね」
旧反政府勢力の血によって作られた路線を機関車が走っていた。
一般客車・貨車と別に私用のトレインハウス車も連結されていた。
石油の豊富なアメリカ合衆国でトレーラーハウスが発達したように、
石炭火力発電と電化が進む大和連邦でトレインハウスが発達していく、
当初、トレインハウスは、政府機関の治安維持と移動のため開発された。
しかし、皮肉なことにトレインハウス需要に拍車をかけたのは、
生産と販売に力を注ぐ日本資本家ではなく、
大陸内部を移動しつつ己がシンジケートの拡大を目指す和漢貴族たちだった。
「日本人は、四川盆地と青海省にコロニーを建設しているある」
「日本人の大陸支配が強まるある」
「和漢貴族の我々は安泰ある」
「漢民族は巨大なだけで、バラバラの烏合の衆ある。消えるある」
「漢民族は消えないある」
「我々の子供たちは日本の政官財の子弟と縁組してるある」
「日本を逆に併呑ある」
「それは中華と言えないある」
「弁髪は中華でないある」
「しかし、我々の中にも弁髪いるある」
「・・・・」
「最終的に日本の城郭神社仏閣も中華に組み込まれるのなら中華文明ある」
「そうある。辺境蛮族が一時的に大陸を押さえてるに過ぎないある」
「中華は変わらないある」
「それより、日本の路線の先にある村。どうするあるか」
「最近、特高がうるさいある」
「近くの山に武器弾薬を埋めて、反政府勢力に祭り上げて、一網打尽ある」
「証拠さえ、見せれば事後承諾ある」
「昔は証拠なんていらなかったある。不便な世の中になったある」
「日本人に任せてたら50G/$"$k!W
「我々なら5年で平らげるある」
「日本の鉄道省も本音は我々に期待してるある」
「小心な偽善者は、目を瞑って耳を塞いで口を噤んでいたらいいある」
扶桑・伊勢型戦艦
排水量42000t 全長240m(飛行甲板124)×全幅33m×吃水9.03m
100000馬力 速度30kt 航続距離16kt/12500海里
45口径356mm連装砲2基 40口径127mm連装砲8基 25mm3連装機銃31基、
上部格納庫及び飛行甲板 水上機 or フレットナー Fl 282
下部ドック格納庫 Sボート10隻 or 甲標的40隻 or 双発水上機10機
伊勢、日向、扶桑、山城、
浮かぶ鋼の城は、日本の誇り象徴とされた時期もあった。
しかし、航空機の発達と潜水艦の脅威が高まるにつれ、
戦艦は魚雷攻撃に晒され易くなり、主力艦としての価値を暴落させていた。
日中戦争の頃には、費用対効果の怪しい時代遅れの金食い虫となり果て、
シグマキャリアの運用艦に改造されたものの、
日中戦争は働き場もなく、
日本経済の利権構造が大陸中心になると、
利害関係から疎まれるだけの存在と化してしまう。
その日、軍上層部のみならず、政府関係者が戦艦に乗艦し、
全将兵に緘口令が敷かれ、署名が求められた。
守秘義務の塊の軍艦で、この種の署名が求められる場合、
記録すら残したくない事が多く、
漏洩すると軍事裁判すら手抜きされ、闇から闇に葬られる、
将兵たちは、脅迫文としか受け取りようのない文書にサインし、
渋々と職務についていく、
標的は、水平線上を10ktで航行中の標的艦「摂津」だった。
艦尾飛行甲板からドイツから購入したフレットナー Fl 282が飛び立ち、
観測を開始し、
扶桑の砲塔が摂津に向けられ、砲身が上下し、調整されていく、
距離20000mは、外しようのない必中の距離だった。
主砲発射のブザーが鳴り響くと、
轟音とともに連装2基、4門から砲弾が撃ち出され、
放物線を描いて、先の摂津に落ちていく、
誰もが命中し、摂津は、爆沈して海上から消え・・・
摂津から連続した噴煙が立ち上がり、
砲弾が次々と摂津から外れた至近弾として水柱を上げる。
「人がいるぞ!」
「第2射、撃て!」
「艦長!」
「いいから撃て」
扶桑、山城、伊勢、日向から撃たれた砲弾は、機関砲のようなものが命中し、
弾道が狂わされ、摂津の周囲へと落ちるだけだった。
「ばかな・・・」
「「「「・・・・・」」」」
標的艦 摂津
ドイツ製83口径37mm連装砲4基が設置されていた。
初速1000m/秒 発射速度30〜40/分 有効射程8500m
水平線の戦艦から撃たれた砲弾(初速776m/秒、673kg)が迫り、
摂津に設置された機関砲が迎撃する、
黒い巨大な砲弾に向かって機関砲弾(初速1000m、743g)が集束し、
バチバチと火花を散らし、爆発させながら弾道を変えていく、
風魔部隊と関係者たち
「100分の1の質量の衝突で弾道を変えられるとはね」
「射程に入ってから3、4発は命中させられます」
「あとは単純な運動エネルギーの法則ですよ」
『『『・・・・・』』』 理系を絞めたいと思うときがある
「シグマキャリアの芸当か。まったく、生きた心地がしない」
「危機に比例して能力が発揮されるので、こうでもしないと・・・」
「実証されたのなら構わんよ」
「25mm機関砲じゃ考えたくもありませんがね」
「そりゃまぁ そうだろう」
「空襲でも大丈夫かね」
「狙うとしたら爆弾や魚雷より、的の大きな飛行機の方がいいです」
「それじゃ演習にならんな」
「何はともあれだ」
「シグマキャリアがいるなら戦艦並みの装甲を持ってるのと同じと仮定してもいいだろう」
「そのシグマキャリアがいないことが問題じゃないのか」
「内務省に風魔部隊を取られたからな」
「そんなに大陸権益が大切なんですかね」
「国防大綱を大修正したんだ」
「戦争になって、シグマキャリアを引き抜けなかったじゃ済まないのだが・・・」
「最近、目の色が変わってきてますからね」
「どいつもこいつも、拝金主義者になりやがって・・・」
「少しは、シグマキャリアの振り分けを考えてくれればいいのですが」
「だといいが、お偉いさんは引導を渡す為に来たような素振りだからな」
「「「・・・」」」
呉
戦前・戦中艦の代艦が検討され、設計図が引かれていた。
シグマキャリアの可能性が大きいのか戦艦は消え、
30000t級空母4隻、10000t級巡洋艦24隻、3000t級潜水艦60隻、
3艦種を主力に編成される予定になっていた。
そして、陸軍のゴリ押しで30000t級ドック型強襲母艦4隻の建造が検討されていた。
飛行甲板と艦尾側にドックを有する空母型の新艦種で、
上陸作戦では、上陸用舟艇を積載し、
洋上作戦では、Sボートと蛟竜を搭載した。
赤レンガの住人たち
「「「「・・・・・・・」」」」 ため息
「1万と以下の艦種がないのが辛い」
「100t級のSボートが代行するんじゃないのか」
「時化で転覆したらどうするんだよ」
「収納型の水中翼で転覆しない設計になってるよ」
「魚雷艇は、もっと大きくすべきだと思うね」
「大きいと強襲母艦のドックに入らなくなるだろう」
「戦艦がないのが寂しい」
「シグマキャリアの戦闘力なら戦艦はいらないよ」
「わかっちゃいてもな。日本海海戦よ、もう一度って気分になるからな」
南鳥島 (1.51ku)
本州から1800kmの洋上、
一辺2kmの三角形の小さな島の3辺に滑走路(2000m×60m)×3が建設され、
外周を堤防が囲い停泊地を作っていた。
創設したばかりの日本空軍機が次々と飛来し、
所定の駐機場へと並べられていく、
滑走路脇は、そのまま、停泊施設が併設され、
Sボートと蛟竜が配備されていた。
海軍予算は著しく縮小され、空軍予算に振り分けられていた。
国防の中心が海軍から空軍と陸軍に移行した証拠でもあり、
大型艦の建造が終焉する兆候でもあった。
「日本航空艦隊か」
「ドイツ製エンジンの国産化もまだだというのに・・・」
「ジェットエンジン開発の方は進んでるんですか?」
「基礎工業力で劣ってるから20年くらい遅れてるよ」
「シグマキャリア頼りですかね」
「風魔部隊は内務省に取られてるからな」
「そういえば、アメリカ海軍も軍縮だそうですよ」
「27000t級エセックス型空母11隻建造して軍縮じゃな。勝てんわ」
「ですが大和連邦は、戦後再建中のドイツといい取引できてると聞いてますし」
「いずれアメリカに追い付きますよ」
「大陸の裏事情を聞いてると、先の話しになりそうだがな」
「そんなに酷いんですか?」
「おまえの知ってる日本人で一番悪い奴が、大陸の平均的な人物像だそうだ」
「それ笑えませんよ」
ロンドン ダウニング街10番地
イギリスは、戦前の富の4分の1を失い、
外貨は半分以下に目減りしていた。
特許関連技術は、アメリカに叩き売られ、
財政再建の踏み台になるはずのインドは、独立運動を激化させており、
日の沈まないイギリスの国際的な優位性は、ほぼ失われていた。
イギリスが生き残る道は、カナダ、豪州との連合だったものの、
両地域とも人口気薄なためか、産業が育ちにくく工業化が遅れていた。
「ドイツ帝国は、日本から大量の地下資源を購入し」
「対価として、人工石油精製所、製鉄所、発電所施設などの技術移転と建設を進めています」
「また、兵器武器弾薬の輸出も増加しています」
「ドイツは、大和連邦の軍事的脅威が遠い。遠慮なしだな」
「日本人は、上海と釜山を起点に鉄道網を大陸全土に張り巡らせ」
「また、揚子江河川経済を押さえつつ大陸支配を強め」
「上流の四川盆地、青海省に日系コロニーを建設しつつあるようです」
「漢民族は?」
「和漢貴族は、日本を背景に権力の座についた匪賊上がりの新参者たちですし」
「日本の政財界と和漢貴族の閨閥化が進んで、反日・抗日は表面化していません」
「大和連邦が地主、大家意識に浸って、産業育成が遅れるのならよしだが・・・」
「和漢貴族は、その傾向があるようです」
「ですが、日本人は、産業の成長に力を注いでる模様です」
「例のシグマキャリアの情報は?」
「これまでの調査から、風魔部隊が共通しているのはB型血液です」
「また、風魔部隊が石井731防疫機関の隷下であることからして」
「一つの仮説として、B型血液の輸血による身体能力向上と考えられます」
「・・・日本に特殊な血脈を持つ人種がいる、ということかね」
「仮定しているのは、得意なウィルス保菌者の可能性大というところまでです」
「引き続き、調査してくれたまえ、できるなら、その血液を手に入れて、調べたい」
「はい」
「さて、我が大英帝国は、過去の栄光を失いつつある」
「可能なら、かっての栄光を取り戻し、世界の大国として返り咲きたいと考えている」
「インド支配強化以外の案はあるかね」
「「「「・・・・」」」」
日本の大陸支配は、優勢人種の劣勢人種支配を正当化させ、
イギリスのインド支配継続を決意させてしまう。
イギリス艦隊のインド洋回航と
イギリス陸軍の大規模なインド駐留は、世界中の注目を集めるところとなった。
ムンバイ港
23000t級空母イラストリアス 艦橋
飛行甲板に並べられていたのは、新鋭艦載機ではなかった。
デ・ハビランド DH82タイガーモス練習機
ウェストランド ライサンダー直接協同機
フェアリ ソードフィッシュ艦上雷撃機
どれも費用対効果の高い機体ばかりだった。
「政府は本気でインド支配を続けるつもりなのかね」
「日本の中国支配に誘発されたのでしょう」
「日本と中国大陸は距離が近い」
「大陸の反日勢力は一掃されてるし」
「匪賊上がりの和漢貴族は独自の権力基盤を構築しつつあるが、まだ、脆弱だ」
「日本軍に依存してるのが現状といえる」
「一方、イギリスとインドの間は距離が長く、地中海と中東は紛争地が多い」
「イギリスは戦後復興中で政治経済軍事で国際的地位を下げている」
「インド藩王は、イギリスによって既得権益が認められているだけに過ぎないし」
「インドの独立運動は勢いが付き過ぎている、どう考えても不利としか思えないがね」
「ですが、インドを踏み台にしないと、イギリスの再興は期待薄なのでは?」
「イギリスのインド支配は、産業革命の温床になり、近代化の踏み台になったがね」
「イギリスがインドに依存しきっていたことが貴族の既得権益を拡大させ、貧富の格差を広げ」
「イギリス人を捻じ曲げ。人間力を喪失させた可能性もあるな」
「インド税収でイギリスは楽できましたし、産業の発達にも役立ちましたよ」
「貴族社会を保たせることにもな」
「格調は高いですが生産性が低かったですからね」
「アメリカ人のように節操がなくなるのも困るが、栄誉と権威にしがみつき過ぎるのも考えものだからな」
「日本もそうなっていくのでは?」
「一度手にした大陸権益は、死ぬまで手放さないだろうな」
「それで墓穴を掘ってくれればいいが・・・」
「我々がそうならなければいいのですが」
「そうなりつつあるよ。醜悪過ぎる・・・」
「提督、発艦準備完了しました」
「出してくれ」
戦後、インド支配のため故郷にも帰れず、
インド任地に向かうイギリス航空部隊があった。
明治維新後、近代化は、税制、学制、軍制の確立によって加速された。
それは、日本の国情に合った政策といえた。
その後、大正、昭和と紆余曲折を経つつも基本政策は同じだった。
しかし、大和連邦成立後、日本の国情は大きく変貌する。
日本国は大陸の膨大な資源と巨大市場に依存し、
好むと好まざるとにかかわらず、統制と運営に総力を注ぎ込んでいく、
日本資本は、外資、華僑資本、漢民族資本と攻防を繰り返し、
水力発電所、火力発電所の建設を推し進め、鉄道網、通信網、道路網を拡充していく、
資源保有量と連動した換鉄紙幣の増刷は、円札の国際価値を安定させ、
日本の国際取引を拡大させてしまう。
製鉄所
「換鉄紙幣か・・・」
「こんな3割も満たない鉄鉱床ばかりじゃ 採算性が悪いな」
「もっと良い鉄鉱床ないのかよ」
「鉄分は4割から5割は欲しいからな」
「もっと金かけて製鉄所建設しないと国際競争力で負けちまうよ」
「内務省に予算取られてるのが痛いね」
「だいたい、資源と市場さえあればいいのに大陸を抱え込むから・・・」
「でも、官僚も財界筋も大陸で大出世らしいけど。まだ、ポストが余り余ってるんだと」
「中国語覚えないとな」
「でも日本人が中国人になりそうだな」
「和漢学校も増えてるから、いい勝負なんじゃないの」
「そのせいで、設備投資が遅れてりゃ世話ないよ」
「工事は進んでるみたいだけど」
「そりゃ 工事はな。和漢貴族の連中は反乱分子淘汰で喜んでやってるよ」
「もう、戦争は終わってるんだがな」
「いや、子飼いの子弟を要衝に付け終わるまで続ける気だろう」
「日本もそういうのやるけど、大陸みたいに徹底してないな」
「人口が多いから、それだけ大きくするんだろう」
崑崙・高天原
公称、重犯罪者たちが高山病で倒れていく、
列島で公称は、信頼されるべき情報筋として国民に認識されている、
しかし、大陸の公称は、唾棄すべき情報筋として国民に認識されていた。
和漢貴族たちの権力固めと保身により虚偽で重犯罪者が作りだされ、
受益者たちの詐称で囚人にされたにすぎなかった。
当初、連邦警察は、全ての判例に対し、疑問を挟み、再審を検討したものの、
あまりにも数が多過ぎた。
そして、あまりにも現地に精通しておらず、
摩擦だけを作って “時にあらず” と撤収したのだった。
標高3000mの原野、
命を対価に道路が作られ、鉄道が施設され、飛行場建設が始まる、
その作業は、工期優先ではなく、
殺意が込められていた。
受刑者の目も生き残る為なら何でもする意思しかなく、
国と民の間は殺意と憎しみの感情が強く、愛国心の欠片も生じようがなかった。
そして、大陸は、こんな世界なら滅んでしまえ、そう思う亡者の生産大国ともいえた。
日本人たち
「駄目だ。いつまでもこんなことを続けていたら、国が崩壊するぞ」
「元々 歴代王朝が国民を奴隷にしてきた御国柄なんだろう」
「和漢貴族たちは体制固めしてるし、下手に干渉すると干されるぞ」
「しかし、大和連邦がこれじゃ 不味いだろう」
「和漢学校卒業者が社会の中核になるまで待って欲しいらしいよ」
「いつになることやら・・・」
「100年先かな」
「長過ぎる・・・まさか、政府も漢民族を減らそうと思ってんじゃないだろうな」
「まさか、そんなこと、思っても口には出さないだろう」
「「「・・・」」」
零式輸送機が着陸すると、
日本人たちが酸素ボンベと気密型テントを降ろしていく、
和漢貴族が酷使担当、
日本人が建設機械と救済機器を準備する飴と鞭の分担が自然と作られていく、
和漢貴族たち
「また、酸素ボンベある」
「見栄と対面を守る為の誤魔化しある」
「正直、日本人の薄っぺらで嘘臭い偽善は虫唾が走るある」
「自分たちだけで使って、余ったら横流ある」
「当然ある」
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月夜裏 野々香です
寇 = 仇なす という意味だそうです (笑
和 と、対極です。
大陸は食うか食われるかの世界、
和漢友好は100万光年先という感じです (笑
いったい、どこの馬鹿が大陸支配なんて進めたんでしょう (笑
換鉄紙幣は、純鉄インゴットの引換券紙幣です。
鉄資源を背景にした国際金融政策でしょうか、
少なくとも日本紙幣は紙屑にならないので国際的に有効かと・・・
第12話 1947年 『地球人なら中国語を話せ』 |
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