月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第15話 1950年 『日本の本性は 倭 ある』

 大和連邦成立は、民族国家から多民族国家への移行であり、

 民主化は、最大多数派の漢民族への権力移譲であり、

 資本の自由化は、和漢資本と華僑資本の日本侵入を許すことだった。

 民族主義者は、保身と既得権維持のため漢民族の日本経済進出を拒み、

 国家主義者は、経済活動を活性化させるなら誰の金でもよく、

 既得権益を振りかざし、悪化良貨を駆逐するが如く、

 正常な経済活動を停滞させる民族主義勢力を悪とみなし敵対した。

 日本国民は、融和主義者と差別主義者、

 大和連邦派と日本民族主義勢力に二分して対立し、

 現状は、列島が自由資本主義体制、

 大陸は、日本と和漢貴族支配の封建社会の二重構造となっていた。

 帝国議会

 「これ以上、日本民族の特権を剥奪すべきではない」

 「既得権は十分守られている」

 「和漢貴族資本と華僑資本は、不利な制度なのに金払いがいい」

 「君らは、和漢資本、華僑資本、外国資本を排斥し」

 「己が聖域の中に日本国民を閉じ込め、搾取しようというのか」

 「そ、そんなわけがない」

 「彼らは、数に任せて日本列島の権力構造にまで食い込み」

 「いずれ、日本列島を乗っ取るだろう」

 「そうなった後、日本民族は後悔することになる」

 「詭弁だ」

 「詭弁を語ってるのはそっちだ」

 「競争を恐れて、発展があるか!」

 「い、いまは、その時ではないといってる!」

 「ではいつだ」

 「だ、段階的なものだ。現状は、これ以上、妥協できん」

 「「「「・・・・・」」」」 むっすぅうう〜

 大和連邦は、国内産業保護主義勢力、

 戦略物資の輸出拡大を望む勢力、

 優れた欧米製品の輸入を望む勢力の利益代表が対立し、

 議会は、党利党略と離合集散で荒れ、

 派閥同士の権力闘争と蹴落としも絡み、

 国の利益。あるいは、国民の利益を考える勢力は淘汰され縮小していく、

 

 

 

 大和大陸に派遣された日本の官僚・公務員は、その半分近い地位を占めていく、

 そして、日本資本は発電、交通、通信などの基幹産業を支配し、

 和漢貴族は、副次的な産業と隙間産業に手を伸ばしていく、

 和漢資本と華僑資本は、日本資本の圧力と外国資本の競争に晒され、

 したたかかに経営し、

 親方日の丸な日系資本は御役所化し傲慢になっていた。

 

 重慶

 大和連邦警察所

 「諸君。我々 連邦警察は、地元警察と協力し」

 「重慶市の治安維持に努めなければならない」

 「且つ、地元警察の監視も怠ってはならない」

 「非常に困難な仕事ではある」

 「が、しかし、我々の活躍により、日本人の移民が進み」

 「日中庶民が共に大和連邦の盤石な基盤となるよう関係を調子しなければならない」

 「そこで重要になるのが我々の公務に対する姿勢」

 「そして、犯罪防止の検挙率であり・・・・」

 『『『『早く終われよ・・・』』』』

 

 取調室に容疑者が運ばれてくる、

 初見で不正な取り調べが起きないか、

 日本の連邦警察官が立ち会い、

 顔と名前と罪状を確認し、地元警察へ移送される。

 「李宇宙だな」

 「そうある」

 「2年前、当時、赤松ギンガ17歳、女性を騙し。農村の劉天河38歳に売った」

 「それは表面的ある」

 「それが真実だろうが」

 「自分の仕事は、愛のキューピットある」

 「「「「・・・・」」」」

 「ば、馬鹿か! どこの世界にそんな言い訳が通るか!」

 「事実ある」

 「少女の人権は?」

 「売却先の男も村人もみんなやさしく接しているある」

 「ふざけるな。少女は親の保護下にある。それをお前は勝手に誘拐したんだぞ」

 「娘はいずれ親元から旅立つある」

 「そんな勝手が許されるか!」

 「自分の好きな男と結婚したからって、どうせ、飽きられ、捨てられるある」

 「そ、それは、本人の自業自得だ」

 「だから自分は、金持ちの男には売らないある」

 「足がつかないように田舎にしたんだろうが」

 「戦前は、日本のヤクザと組んでたから、本当に足がつかなかったある」

 「威張るな」

 「少女が不幸な結婚をしないように、いい相手の所に連れていったある」

 「金をもらってだろう」

 「買った男は、村公認の上に後ろめたいから少女にやさしく接するある」

 「そ、なんな。公序良俗に反するような犯罪が許されるか!」

 「日本だって、嫌がる中国人を無視して、大和連邦を作ったある」

 「それとこれとは違うだろう」

 「同じある」

 「中国人は身に起きた不幸な境遇を甘んじて受け入れようとしてるのに」

 「日本人は物分かりが悪いある」

 「お前のやったことは卑劣な誘拐と理不尽な人身売買だ」

 「大陸で起きたことは理不尽な侵略と、卑劣な売国だったある」

 「大和連邦は歴代王朝でもっとも繁栄するだろう」

 「しかし、そのことは関係ない」

 「少女は、大和連邦の農村発展のための尊い犠牲ある」

 「都合のいい時に大和連邦の名前を持ち出すな」

 「大陸の若い娘を列島の農村に嫁がせ」

 「列島の若い娘を大陸の農村に嫁がせる」

 「大和連邦が国策でできない和漢友好の立派な仕事ある」

 「誇りを持って刑につくある」

 「反省しろよ!」

 「表彰されてもいいある!」

 ・・・・

 「警部」

 『彼女は、もう、家に戻れないので、そのまま、あの家に嫁ぐと』 ひそひそ ひそひそ

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「よかったある和漢友好ある♪」

 ぼこっ!

 いだぁ!

 「もういい、地元警察に連れて行け」

 「そんな酷いある。正直に話したある」

 「地元警察は殺すの好きな警察ある。日本で裁いて欲しいある」

 「知るか!」

 「連邦警察はわかってないある」

 「少女は、日本の本質の 倭 のまま、立派な覚悟ある」

 「日本人は、大和連邦に尽くした愛国者を見殺しにしようとしてるある」

 「おまえ、ちっとも、反省してないだろう」

 「とおぉっても、反省したある」

 「嘘言うな」

 男は引き摺られ、

 アイヤ〜!

 「「「「・・・・・」」」」

 地元警察に引き渡されていく、

 

 

 

 上海公園

 漢民族の行商がリヤカーを曳いてやってくる。

 「点心食べるあるか?」

 日本人ビジネスマンたちは微笑み、

 「貰うよ」

 「若いな。幾つだ?」

 「10歳ある」

 「そうか、がんばれ」

 「ありがとうある」

 行商は、次の日本人たちを探していく、

 「和漢学校に行かせればいいのに」

 「嫌なんだろう」

 「というより、子供を使うのか・・・」

 よく見るとリヤカーを曳く子供は、公園の至る所にいた。

 「和漢貴族の方が商売に懸命だな」

 「日本企業は利権を盾にした放漫財政で衰退していきそうだ」

 「しかし、公平にすると日本が乗っ取られる」

 「不公平にすると傲慢になった日本人の劣化が始まる」

 「どっちにしても、日本が不利だろう」

 「なんで、軍上層部と軍属は大陸を支配しようと思ったんだかな」

 「外国の風下に立ちたくない」

 「それと、利権を手に入れて、楽をしたいからじゃないか」

 「その結果が日本人の総地主・家主化か・・・」

 「イギリス人みたいに嫌な国。傲慢な民族になりそうだな」

 「5倍の人口を抱えた漢民族のおかげで緊張感があるからな」

 「それで、身を律していける分にはいいけどな」

 「どうだろう。中国人は人間不信でバラバラだからな」

 「日本人の脅威が強まると漢民族は結束するんじゃないか」

 「それも嫌だな」

 「とはいっても、あれだけの規模で、子供を使って商売するのはな・・・」

 「日本だと捕まるよ」

 「こっちだと和漢貴族が後ろにいると難しくなるか・・・」

 「和漢貴族か。国家反逆罪が適応されない限り、治外法権的な強さがあるからな」

 「特高が和漢貴族に白色テロを依頼する時もあるんだろう」

 「もう昔と違う、悪事に手を染めるのを嫌がりだしたんじゃないか」

 「そういう汚い仕事を嫌がるの、早いような気がするけどね」

 「大和連邦がガタガタになっていくかもな」

 「あの連中も含めて大和連邦国民だもんな・・・」

 点心や雑貨を乗せたリヤカーを引く少女たちは、増えていた。

 

 

 

 日本は、日独伊三国同盟の一角を占め、

 戦時中、第三国経由でドイツ帝国に戦略物資を供給していた。

 とはいえ、日本の参戦がなかったことから同盟は政治的、経済上の必要性に過ぎず、

 感情論でいうなら疎遠といえた。

 ドイツ国民の日本人を見る目は、並んで比較した通り、

 人間というより、類人猿か “サル野郎” に過ぎなかった。

 とはいえ、日本は、大陸の莫大な資源と巨大市場を得とくし、

 ドイツ帝国は、工業を支える希少資源と市場を欲しており、

 大和連邦とドイツ帝国の絆は政治戦略上の理由から強まっていく、

 ドイツ帝国 世界首都ゲルマニア

 機能美優先に洗練されたドイツ建造物が連なっていた。

 そして、八頭身の男女が整列し行き交っていく、

 ベルリンにいる東洋人は、日本人と相場が決まっていた。

 カフェテラスの日本人たち

 「ドイツ帝国は、日本の工場になりたがってるようだ」

 「水力発電と工場を建設したら、日本の国内総生産も伸びるはず」

 「いずれ、工業製品でも独立できるだろう」

 「それは、どうかな」

 「漢民族の奴隷化で生産のほうが機械化より採算効率がいいらしい」

 「それはいくらなんでもまずいだろう」

 「日本は人材不足だよ」

 「大陸の管理部門が足りなくて、製造部門に人材を振り分けられなくなってるそうだ」

 「馬鹿が。大陸なんか支配するからだ」

 「日本から工員がいなくなったら事だな」

 「軍部と政財界も大陸を支配した後で気付いて慌てたんじゃないか」

 「そういうのは先に考えるもんだ」

 「そして、不利と思ったら大陸に手を出さないことだな」

 「資源が有り余ってるときはそう思えてもな」

 「当時は貧しすぎて、そこまで頭が回らなかったんだろう」

 「そういや、当時の世相は刹那的だったな」

 「今は、日本も変わってきたらしいけどな」

 「大陸支配で毒気が抜けたんだな」

 「ドイツ人も似てるな」

 「ドイツの場合、第一次大戦の復讐を果たしたからだろう」

 「しかし、ドイツも支配領域が増えて多民族国家だ。大変だろうな」

 「少なくとも最多民族はドイツ人で日本人より楽だよ」

 「どちらにしても同化は、戦争以上に最悪な手だと思うね」

 

 

 ドイツ帝国は個人主義に繋がる偽善が疎まれるほど全体主義が強く、

 国策産業を中心にした工業力は、世界でも最高峰の水準だった。

 そして、ジーンリッチ人種は、知識と体力で高い能力を発揮していた。

 とはいえ、基幹産業がいくら骨太であっても、

 大多数を占める庶民のニーズにこたえられなければ経済は停滞する、

 そして、文字通り、戦後復興中のドイツ帝国の市場は停滞気味だった。

 ウィルヘルムスハーフェン港

 35000t級客船 飛鳥丸

 客室の日本人たちは、重たそうな双眼鏡で夜の港を覗き込んだ。

 熱源のある場所は明るく、低い温度は黒ずんで見えた。

 「・・・これが赤外線照射探知機か。本当にあるんだな」

 「暗闇で20、30km先の熱源を見ることができるらしい」

 「シグマキャリアの優位性は崩れたんじゃないか?」

 「さぁ どうだろう。狙撃を間一髪で外したとも聞いた事があるからな」

 「よく売る気になったもんだ」

 「ドイツは日本が赤外線照射探知機を持ってると思ってるらしい」

 「日本がライセンス生産しなかったら、赤外線照射探知機を持ってる」

 「日本がライセンス量産すれば赤外線照射探知機を持っていなかった」

 「つまり、日本がライセンス生産したら、戦時中、持っていなかったということになるな」

 「どうだろう “別の何か” による戦果と思われると思うけど」

 「どっちもいやだな」

 「といっても、買わないと戦線を維持できそうにないのも事実」

 「国産開発できなかったのか」

 「民間にラインを取られた」

 「設備投資ばかりしてるからだ」

 

 

 北大西洋上

 42000t級戦艦ティルピッツ

 イギリスの執拗な攻撃に晒されても沈むことなく戦後も生き残っていた。

 その後、近代改装を受けた艦型は、日本のものと酷似してしまう。

 もっとも、日本海軍がシグマキャリア向けの水上攻撃機、

 小型の魚雷艇、潜水艦、上陸用舟艇を積載したのに比べ、

 ドイツ海軍は、科学技術の粋を結実させた対艦ミサイル、対空ミサイルを搭載していた。

  全長260m(艦尾飛行甲板90m)×全幅36.0m×喫水8.7m

  164000馬力 31kt 10000海里

  380mm連装砲2基 105mm連装砲8基 37mm連装砲12基

  V5対艦ミサイル8基 V6対空ミサイル12基

  ドルニエ Do30飛行艇 2機

 

 ティルピッツ 艦橋

 「久しぶりの遠洋航海か」

 「戦艦は燃料を食うから肩身が狭いな」

 「やはり、H型戦艦は・・・」

 「無期延期の方向らしい」

 「ミサイルの時代ですか」

 「だろうな」

 「日本がミサイル技術を欲しがってるのが気になります」

 「日本が欲しがってるのは持ってないからだろう」

 「ですがレーダー技術、赤外線技術はドイツ並みと伺ってますが」

 「んん・・・イギリスとアメリカの上層部もそう信じてるらしいが・・・」

 「艦長は信じられないので?」

 「前回の砲艦外交で、そんな国と思えなかったがな・・」

 「艦長」

 「U211号から電文です」

 「カナリア諸島の南100kmを南下中のイギリス空母イラストリアスを発見したそうです」

 副長が地図の一角を指差した。

 「付かず離れずか・・・」

 「ティルピッツは、目立ちますからね」

 「こっちは戦う意思がないというのに迷惑な国だ」

 「制海権が生命線の国ですからドイツ戦艦の移動は、神経をとがらせるのでしょう」

 「戦艦が海に出ただけで、何にもできんよ」

 「インド独立運動で焦ってるのでは?」

 「無理して未練がましくインドを抱え込むからだ」

 「日本も中国を抱え込んで正当化してますからね」

 「中国の和漢貴族は保身で大和連邦にとどまるだろう」

 「封建制はオーソドックスな統治手段だが、とりあえず権力構造を固められる」

 「日本の将軍イシハラは、日米独ソで世界最終戦論を唱えてるとか」

 「彼の軍事戦略的な予見は注目されています」

 「くだらんな」

 「国を一つにまとめるより、国を分かつ方が楽なのだ」

 「ドイツも日本も異民族を支配した状態で戦争などできるものか」

 「数百年後の未来のことでは?」

 「ふん、数百年したらポーランド人がドイツ人になるのか?」

 「数百年したら漢民族が日本人になるのか?」

 「数百年たってもインド人はインド人のままだ」

 「異民族を抱え込んで人口が増えてもごたごたが増えるだけだ」

 「日本人はわからんが、ドイツ人は御免こうむりたいね」

 「確かに将軍イシハラは、内輪のごたごたを考慮してる節がありませんね」

 「国民なんて私利私欲のご都合主義者ばかりだ」

 「いくら優秀でも軍人意識が抜け切れてないのでは国を代表できんよ」

 「というよりヒエラルキー(階層)と権力と利権を守るために戦争をしてるようなものだ」

 「日本は、対米で臥薪嘗胆できたようですが」

 「対中戦で見込みがあったからだろう」

 「もっとも、なぜ勝てたのか、治安維持に成功してるのか、いまだに不思議だがね」

 「ドイツ帝国は大丈夫のようですが」

 「それはどうかな」

 「全体主義は国の硬度ばかり高いだけで、個人の粘り強さで怪しいからな」

 「ソビエト軍の最後の攻勢で、ドイツ軍の戦線は崩壊寸前まで押し破られかけた」

 「戦力が逆転し、守勢に回った時の戦意喪失は、危機的だったそうだ」

 「そういえば、最近、政治的に混乱してますね」

 「ドイツ国民の政治的欲求が達成されたからだろう」

 「第一次世界大戦の復讐はなされたし」

 「生存圏が拡大しても経済は低迷してる」

 「どんな馬鹿でも、原因を突き詰めると軍事費の負担が大きすぎることぐらい気付く」

 「大和連邦に兵器と武器を輸出しなければ、国家財政は破綻してるよ・・・」

 「艦長。正面2000mに潜水艦を探知!」

 「ソナーは何していた?」

 「レイヤーデプス(変温深度)に隠れていたようです」

 「艦長」

 「回避して横っ腹を見せるわけにもいかない。速度そのまま」

 「探信を前方に打て」

 探信が海中に響き、何かにぶつかると音響が戻ってくる、

 その時間差が距離と深度して測定され、

 対潜兵器が調整される。

 「FwVTOLを出せ」

 ティルピッツ艦尾飛行甲板から円盤状の飛翔体が飛び立ち、

 戦艦の前方に向かう。

 FwVTOLは、師団配備の直営機として開発され、

 対ソ東部戦線で活用できると採用し生産されたものの、

 飛行性能が向上中の飛行機に及ばず、

 ヘリコプターの安定性と積載量に及ばないことから中途半端な扱いをされていた。

 

 

 1360t級イギリス潜水艦アラリック

 司令塔

 「艦長。発見されました」

 「深度25、速度そのまま」

 戦艦と潜水艦の探信が互いを確認し、

 音響が艦体を叩き、音を弾き返す、

 薄暗い艦内では、乗組員が発見された恐怖で汗を流し、

 死んだような表情を見せていた。

 頭上をスクリュー音が越えて後方へ去っていく

 「取り舵16度、深度86、速度最大」

 艦が傾くと乗組員は沈黙したまま取っ手に捕まり、聞き耳を立てる。

 互いのソナーが遠のき、静かになるにつれ、表情が和らぎ・・・

 「浮上」

 艦長の判断で安堵する。

 「艦長。計算では2本命中です」

 「2本命中だけじゃ 沈まないがな」

 「思ったより、練度が上がってるようです」

 「日本のキツツキ戦法も意外と使えるな」

 「上層部は、対日戦略の考察を対ドイツで確認ですか」

 「日本人に成り切って戦略を立てろだからな」

 「イギリス国防省は、日本戦術を注目してるらしい」

 

 

 

 大和連邦

 大和連邦国防省で日米戦のシミュレーションが進んでいた。

 巨大な東アジアの地図がテーブルの上に描かれ、

 大陸の物資が釜山港に向かって移動していく、

 国防省の国防の主針は、台湾海峡、沖縄・千島列島の封鎖、

 宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡、下関海峡の支配に集約され、

 大陸から列島の輸送航路は、釜山港と福岡港を挟む対馬海峡200kmに集中し、

 上海港は、使われなくなっていく、

 日米海軍の戦力差は歴然としており、

 アメリカ陸海空軍の攻勢に対し、

 大和連邦軍は、内線防衛線のみに集中していた。

 アメリカ潜水艦は、日本の島礁基地を封鎖し、

 上陸作戦を展開し、徐々に本土へと迫っていた。

 日米両軍の駒が少しずつ動かされ、

 サイコロが降られ、駒が取り去られていく、

 「なんとも、面白みのない戦争になりそうだな」

 「戦術機動な勝ち負けより、兵站とランチェスターの法則が支配する戦場だからね」

 「ストレスがたまるよ」

 「アメリカ軍将兵は、和漢軍将兵との交換を嫌がるだろうか」

 「まぁ 人種的な価値をどの程度に設定してるかにもよるよ」

 「新聞社に調査させたがね」

 「一般的なアメリカ人1000人の感覚を平均すると、白人と日本人は1対26で」

 「白人と中国人は1対32らしい」

 「つまり、白人部隊と日本人部隊の損失比を1対25以下」

 「白人部隊と和漢部隊の損失比を1対31以下にすればアメリカは厭戦機運が広がるわけだ」

 「日本人部隊は嫌だが、和漢部隊なら1対33以上でもいいぞ」

 「あははは・・・」

 「とはいっても損失比が酷過ぎると将校としての資質が疑われる」

 「アメリカだって使い潰したい黒人兵士がいるだろう」

 「遮二無二攻められたら、予想外に早く陥落する」

 サイコロが降られ、

 「げっ!」

 サイパンの日本軍駒が取り除かれる。

 「ふっ まるで身内の不良を殺すために戦争してるようなものだな」

 「そういうことは、統制が乱れるし、士気が低下するから・・・」

 「侵略された時は、統制は維持できるし、士気も落ちないよ」

 「というわけで、大和連邦は自ら開戦する選択肢を失いましたとさ」

 「日本も、つまらん国になったもんだな」

 「何も日本から攻撃する必要はないさ」

 「最初に殴りかかってきたほうが悪いのだから」

 「経済制裁で戦争してくるように追い込むことはできる」

 「まるでアメリカ見たいだ」

 「ふっ アメリカの手に乗らなくてよかったな」

 「むしろ、アメリカの手に乗って大陸を手放したかったよ」

 「それは言える」

 

 

 

 大和大陸 青海省

 日本人は、隠語で崑崙・高天原を使い、

 アメリカ人は、シャンバラ、あるいはシャングリラと形容する。

 天然の霊峰とした峰々に平安京を拡大したような都市が作られようとしていた。

 建設省関係者たち

 「この標高になると盆地でも過ごしやすそうだ」

 「富士山なら五合目の盆地だからな」

 「過ごし易いというより、底冷えで風邪引きそうだよ」

 「壁を厚くすればいいさ。後は予算次第かな」

 「国防省の連中が国防と電気・上下水道とどっちが大切だと喚いていたぞ」

 「そうはいっても崑崙高天原計画は大陸支配の要だからな」

 「日本国民の移民がうまくいかないとどうにもならんよ」

 「国策移民だけじゃ限度があるか」

 「仙台クラスの都市を8個分だろう、日本より住みやすいと思わせないとな」

 「これだけ、人海戦術で街を作れば過ごしやすくなるだろうよ」

 「というより、祟られそうだな」

 「あははは・・・大陸東部や日本より悪霊が少ないと思うよ」

 「いや、この分だと死霊の数で追い抜きそうだよ」

 「和漢貴族は邪魔者を消して本気で自分の子飼いで聖域を作るつもりなんだな」

 「封建社会なんてそんなものだよ」

 「匪賊が減らないわけだ」

 

 

 産業で10年遅れている。

 全て国産で機関を製造できるかで工業力の目安になった。

 戦前戦中のマザーマシンは全て外国製で借り物であり、

 国産工作機械で心臓部を製造すると組みたてられない、

 あるいは、量産品としての品質を保てないといった悲劇がおこった。

 それが日本の工業力であり惨状だった。

 結局、当たり前のように製造していた栄エンジン、金星エンジンでさえ、

 外国製工作機械の底上げで製造されていた産物に過ぎず、

 日本産業の基礎工業力の低さが露呈されてしまう。

 大和連邦成立後、

 経済の主軸は、軍需から民需へ移行し、

 国家財政は急速に持ち直し、社会資本も増大してしまう。

 その結果、産業の結実である兵器から、

 産業の基礎であるインフラと工作機械に予算の比重が移っていた。

 結果、国産マザーマシンだけでDB601A(1100馬力)を組みたてることに成功し、

 日本の基礎工業力は、1940年頃のドイツ並みと認識されてしまう。

 某工場の政府・軍関係者たち

 「こういうことをして何か意味があるのかね」

 「せめて、DB601N(1175馬力)か。DB601E(1350馬力)エンジンにして欲しいよ」

 「精鋭部隊を基準に戦略を構築するか」

 「それとも標準部隊を中心に戦略を構築するか、ですよ」

 「対米参戦が避けられたのは、対中戦に見込みがあっただけでなく」

 「栄エンジンすら背伸びして製造していたと理解されていたからです」

 「そうそう、精鋭部隊を中心に戦略を練ると破綻しやすくなり」

 「標準部隊を中心に戦略を練ると面白みに欠けるよ」

 「浪花節より、現実を知れというところです」

 「浪花節より、予算縮小という現実が痛いね」

 「それに和漢部隊を中核に戦略を練るのは、いささか気が引けるよ」

 「和漢部隊を中核しなければ満州防衛は不可能ではないのですか?」

 「まぁ それはそうだがね」

 「督戦部隊士官は、任務が決まると泣きそうな顔をするな」

 「ふっ 主戦派士官がいきなり厭戦士官だからな」

 「味方兵士の足に手錠を付けて機銃陣地にしたり」

 「背中に照準を向けてソビエト戦車部隊に突撃させるなんて、考えたくないしな」

 「もっと予算があれば、和漢軍に土木と農作業なんてさせずに済むのにな」

 「反乱が怖いから、むしろ、土木と農作業をさせておきたいね」

 「つまり戦争が始まれば、初期のメッサーシュミットレベルの機体は確実ということかね」

 「重要なのは、工業水準が大陸の産業にまで及んでること」

 「民需の軍需転換がなされれば、大陸でも1940年代のドイツ工業レベルで、兵器と武器量産が可能なことです」

 「むろん、生産量を落として品質を維持させるなら、現状維持も可能でしょうが・・・」

 「心強いね」

 「そして、外国製マザーマシンが摩耗するまで、現状の先端兵器は使えます」

 「いつまで?」

 「5年くらいは・・・それ以降は、国産マザーマシンレベルに落とすことになります」

 「1940年代のドイツ工業規格レベルじゃ 満州戦線も太平洋戦線も維持できそうにないし」

 「ソビエトとアメリカが5年以上戦争したがらないことを祈るばかりだ」

 「つまり、結論としては、基礎工業力の引き上げが急務ということです」

 「じゃ なにか」

 「大和連邦の工業レベルが列強の水準に近づくまで、おれたちは冷飯ぐらいということか」

 「まぁ 早い話し、そういうことになりそうです」

 「もうちょっと、何とかしろよ」

 「鉄道だけでも列島の25倍近い規模になりますし」

 「管理部門に人材を取られてますし、ラインは簡単に空きませんよ」

 「だから、和漢族を工員に採用しろってか」

 「総生産を増やしたいならそういうことに・・・」

 「頭いてぇ」

 「もう、国防自体成り立たんな」

 「結局、民需で高品質を保ち」

 「戦端が開かれると同時に産業の軍需転換が無理がなく行う方針が効率が良いようで・・・」

 「はぁ〜 最近の航空戦力の展開の早さから、戦争の形勢は半年以内に決まってしまう気がするね」

 「列強はドイツを真似して、大陸間弾道弾が研究されてるらしいからな」

 「大和連邦の産業が底上げされたら、弾薬の7割を消費したとしても、生産の1割の損失しかなりませんよ」

 「おれたちのクビが飛ばなきゃ 素晴らしい気休めだな」

 「まず国が負けないことを優先してもらいたいものです」

 「いいよな。お前はクビ切られなくて」

 「死ななければね」

 「俺らは9割の確率で戦死でもお前らは、9割の確率で生き残るってことじゃないか」

 「軍人の本懐ですね」

 「嬉しくて涙が出るよ」

 「軍人の栄誉と妄想と暴走に国民が殺されるよりましです」

 「「「・・・・」」」 むっすぅうう〜

 

 

 アメリカ合衆国

 白い家

 4つの勢力に分かれた世界地図にアメリカ上層部は、頭を悩ませる。

 4勢力とも政治、経済、軍事上の長所と短所を内在させ、

 項目別に整理されていた。

 彼らが見ているのは航空戦力、海軍戦力、陸軍戦力など表面的な戦力比ではなく、

 モラル、資源、人口、生産、識字率、雇用などより本質的な要因であり、

 そこから弾き出される未来像だった。

 「不安定要素はドイツ帝国のジーンリッチだな」

 「天才の出現率を思うと泣きたくなる」

 「しかし、不確定要素は、大和連邦のシグマキャリアじゃないのか?」

 「夜間戦闘に特化した能力を有してると考えられている、でいいのかな?」

 「夜間、数千メートル先の将校を20mm機関砲で狙撃する将兵」

 「夜間と濃霧で視界不良にもかかわらず、敵戦闘機、敵爆撃機を正確に追撃できるパイロット」

 「同じく、視界不良にもかかわらず、司令部に爆弾と砲撃と機銃掃射を直撃させる将兵」

 「天才の出現も怖いが、そういう超能力部隊も怖いね」

 「現在、調査中であります」

 「石井防疫機関の直属、風魔部隊は国防省から内務省にまで及び数千人規模と言うじゃないか」

 「それで、わからないは、怠慢ではないのかね」

 「それが戦果を上げたはずの将兵でさえ、口を閉ざしまして・・・忌み嫌ってるとしか」

 「忌み嫌われか・・・まるで、吸血鬼だな」

 「中国戦線で、風魔部隊に吸血された報告は?」

 「ありません。中国軍将兵の人食いは、報告に上がってますが・・・」

 「風魔部隊は規律正しい部隊としか・・・」

 「取り敢えず。そういった未知数の要素を排除したとしてもだ」

 「大和連邦の成長率は恐るべきものがあるな」

 「もっと軍事費に偏ってくれたら経済成長率が落ちるはずですが」

 「基礎工業力で体力をつけられると大和連邦の生産力はいずれアメリカ合衆国を上回る」

 「潰しの効く労働者がいると、特にそうだな」

 「日本人くらい品質のいい労働者なら、3倍の労働者と交換してもいいね」

 「うちは、4倍でも・・・」

 「そういえば、スト中だっけ?」

 「まったく、馬鹿どもが」

 「漢民族が日本人の足を引っ張ってくれたらいいが・・・」

 「漢民族のあの精神的なタフさが日本人に受け継がれると厄介だけどね」

 「どうして、そう厄介な方向で考えるかな」

 「可能性なんていうのはな最悪と最善の範囲の中で起こるものだ」

 「未知の結果に転がっていくことは稀だよ」

 「なんにしてもだ」

 「大和連邦で内戦が起きなければ30年から100年以内にアメリカ合衆国の生産量を抜く」

 「最悪だな」

 「もちろん、中級品から低級品にかけてであって、高級品はその限りではない」

 「慰めにならんね」

 「余剰資本が大きければ高級品の生産もいずれ可能になる」

 「権力構造が膠着して世襲化しなければね」

 「我々のように!)!W

 「もっと酷くさ」

 「日本はセクト分けの縦割りが強く。アメリカは貧富の階層分けが強い」

 「どこが主導権を執るかでも、おのずと未来像が変わってくる」

 「大和連邦の場合、和漢同化政策があるから、内務省主導が何年続くかにもよるね」

 「ずっと内輪揉めが続けばいいんだ」

 「武器と麻薬の密輸は?」

 「みんな、裏特高とか、闇特高を怖がっててね」

 「例の風魔部隊から移籍した連中か」

 「半吸血鬼レベルとしても、武器を持ってたら吸血鬼レベルの連中でしょう」

 「それは怖がるわ」

 「対抗するには携帯用レーダー・赤外線照準器が欲しいですな」

 「検討しよう」

 「ドイツ帝国の方も脅威では?」

 「ジーンリッチなら追随できるよ」

 「天才の出現率はドイツほどじゃないが、アメリカも天才が生まれやすいからね」

 「それにアメリカ社会はドイツ社会のように型にはめていないし」

 「天才を育てる度量もある」

 「そして、医学分野でもドイツを追随してる」

 「あれ? 人体実験をしてたかな」

 「まぁ 新薬は、黒人、インディアン・・・」

 「本当に追随してるのなら結構だ。ドイツの失敗待ちできる」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 和漢貴族

  当初、日本軍の大陸統合で日本軍側に組した軍閥・匪賊の総称、

  日本でいう譜代大名を指した。

  しかし、その後、大陸に派遣された日本人行政官と和漢学校卒業生を含み、

  大和連邦成立後の成功者(外様大名)も含まれ、

  さらに日本語圏を含む様になっていきます。

 

 シグマキャリアの出現は、重歩兵兵装と強襲揚陸艦型の可能性を高めてしまいそうです。

 

 

 “倭” は “委(ゆだねる)人” です。

 日本人の主体性のなさというか、虎の威を借るというか、

 権威に流れるまま事勿れというか、従順というか、

 竹のような、柳のような性格と言いましょうか。

 よくもまあ、昔の人は、一文字で日本人の資質を表したものです (笑

 

 

長編小説ランキング   NEWVELランキング

HONなびランキング

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

 
第14話 1949年 『無理なものは無理』

第15話 1950年 『日本の本性は 倭 ある』

第16話 1951年 『だってしょうがないじゃない』