月夜裏 野々香 小説の部屋

   

After Midway

  

 

第04話 1942/09 『日ソ領土交換とワスプ、ホーネット撃沈』

 モスクワ

 前年、クレムリンから25kmまで近付いたドイツ軍は冬将軍によって押し返され、

 いまでは、200kmほど離れていた。

 戦況は楽観できないものの、

 今年を乗り切れるなら見込みはあった。

 そして、敵国の同盟国である日本の全権代表団がクレムリンに来ていた。

 「大変な戦いですな」

 「お互いさまでしょう」

 「しかし、まさか、日本がアメリカ合衆国に仕掛けるとは・・・」

 日本の代表団とスターリンは、満州国境線の制定を調印し、領土交換を行なう。

   

 

 天皇は、ニューギニア、ビスマルク、ソロモンから後退させ、

 日本潜水艦12隻を通商破壊に投入させていた。

 ガナルカナル沖

 空母ホーネットが風上向けて波を蹴立てていく、

 艦尾方向からSBDドーントレス爆撃機が着艦フックを降ろし、進入する。

 誰もが、飛行甲板上を通過していく機体を一抹の不安を過ぎらせながら見守る。

 艦載機の着艦は、ワイヤーで衝撃を和らげながら制動させる。

 最後から二つ目のワイヤーに着艦フックが引っ掛かり、

 自重3トンと積載量に速度を加重した重圧でワイヤー引っ張られ、

 ドーントレスは、強制的に勢いを削がれ、飛行甲板に落とされ、軟着艦させられる。

 もし、パイロットが、へたっぴぃ〜 だと強行着陸となった。

 

 

 ホーネット 艦橋

 アメリカ軍将校らが顔を曇らせていた。

 「・・・ガダルカナルは、もぬけの殻。日本機動部隊も出て来そうにない」

 「日本機動部隊に備えて、予備機を残しているのに張り合いがないですね」

 「ミッドウェー海戦で空母4隻を撃沈されて怖気付いたのだろう」

 「素人の天皇が戦争に口出ししているのですから、この戦争、意外と、早く終わるかもしれませんね」

 「そうだなぁ 派閥で膠着し権謀術数で能力を削がれた軍隊と、素人の天皇に統制された軍隊」

 「どっちが強いと思う?」

 「・・・び、微妙ですね」

 「日本民族は、人心掌握と派閥維持で労力と才覚の9割を削がれる」

 「まともな意思決定や政策、戦略などない・・・」

 「足の引っ張り合いですか」

 「日本の軍部は、貧しい資本と少ないポストを奪い合う」

 「しかし、これからは違う、かもな」

 「天皇に権力が集中すると組織が膠着化してしまうのでは?」

 「数年間は刷新出来るだろう」

 「小賢しい将校連中の足の引っ張りあいより、手強いかもしれないな・・・」

 不意に2km離れた僚艦から爆音が響いた。

 「どうした?」

 「・・・ワスプ! 被弾です!」

 ワスプの艦腹が水柱に隠れるのが見えた。

 「対潜哨戒!」

 艦橋に緊張が走り、誰しもが海面に注目する、

 「・・・右舷3時!!! 雷跡4!!」

 「回避! 取舵一杯! 最大戦速!!」

 ガダルカナル上陸の支援中にアメリカ機動部隊2群は隙が生じ、

 伊19は、魚雷4本を空母ワスプに命中させて撃沈。

 その後、伊15が魚雷4本を空母ホーネットに命中させ撃沈した。

 アメリカは、この作戦で、ワスプとホーネットを撃沈され、

 日本は、潜水艦4隻を失った。

  

 

 アメリカ海軍にとって、空母ワスプとホーネットの損害は、痛手だった。

 しかし、海兵隊は、ガダルカナル島に上陸した後で、

 アメリカ太平洋艦隊は、日本軍の戦線縮小が確定するまで上陸作戦続行を躊躇し、

 アメリカは、政変で混乱する日本の情報を集めつつ、確保したガダルカナル島の基地建設を慎重に進めさせた。

  

  

 赤レンガの住人たち

 「ワスプとホーネットを撃沈してチャンスだろう。日本海軍は休業中なのか」

 「日本機動部隊は、再編成中と補給と整備。訓練中だ」

 「簡単に動かせないよ。まず、燃料がない」

 「ミッドウェー敗北の報いか」

 「主力艦隊を全部率いてミッドウェーまで行ったからだ」

 「あの燃料があれば、もう少し艦隊を動かせたのに」

 「北樺太の接収は終わったのか」

 「ああ、国境線の制定を終わらせて、ソビエト軍の警備隊と国境警備隊は引き揚げさせた」

 「北樺太の油田は、頼りになりそうだ」

 「開戦前に領土交換をしていれば、戦争せずに済んだろう」

 「全然足りんよ」

 「しかし、せっかく作った要塞は痛いな」

 「だが北樺太の油田を確実に確保できる」

 「スターリンは、狡猾な政治家だ」

 「国家存亡の危機でなければ慌てて交換したりしないだろう」

 「だけど燃料は、まだ足りない」

 「それでも油田が入った」

 「戦線は立て直されてるし、少しは、戦いやすくなるだろう」

 「立て直しか・・・ 陛下が指揮を取って、いきなりホーネットとワスプを撃沈とはね」

 「まぁ 陸軍を引き上げさせ」

 「ガナルカナル域に潜水艦部隊を追加出撃させたのは陛下だからな」

 「ますます発言力が強くなる」

 「名目から、実質か・・・・意外だな」

 「ミッドウェーの敗北で怒ったことか」

 「空母4隻も沈められたら怒るだろう。上層幹部を前線に更迭したのも頷ける」

 「派閥作って後方で偉そうにふんぞり返っていた連中だったから、いい気味だ」

 「ところで規格統合省は、機能しているのか」

 「陸海軍の重鎮と経済界の識者を集めて作った省だ」

 「利権は、あるが軍の指揮権はない」

 「しかし、将校も異動させたから指揮系統が混乱しそうだな」

 「人事異動は、指揮と戦力を低下させるけど、クーデターを防ぐ効果がある」

 「2・26のような事は、出来なくなるだろう」

 「どちらかと言うと陛下と直接面識のある将校が増えてるし」

 「本物の勅命で軍組織が腰砕けで弱体化しているな」

 「組織機能より人脈を重視している将校は、勢力を失うはずだ」

 「しかも、どさくさに紛れて陸軍仕様を廃止。海軍仕様で規格統合だと、どの程度、戦況に影響を与えるかな」

 「工作機械を効率よく使えるだろう」

 「しかし、優秀な工作機械、マザーマシーンは少ない」

 「陸海軍の規格統合はいいとしても、センチ、インチ、尺貫でゴタゴタしてる」

 「工作機械で工作機械を製造しているラインを除くとだ」

 「エンジンと電子部品に回すと優良工作機械は足りなくなる」

 「どこも予算と派閥とゴリ押しで優秀な工作機械を使いたがるから、もうじり貧だな」

 「それでも陸海軍の規格統合は全体でプラスになるよ」

 「後は、工員を可能な限り、ラインに戻すことだな」

 「しかし、陸軍と海軍は、優秀な整備を前線に送りたがってる」

 「部品が悪いから調整が必要なんだろう」

 「優秀な工員で精度の高い部品を作れるなら交換させるだけでいい」

 「作れないから工場から前線に工員を送っているんだよ」

 「ますます、できの悪い部品しか作れなくなるだろう」

 「前線に優秀な整備士を送っても、まともな治具を量産して送れなければ無意味だけどな」

 「取り敢えず、大陸と東南アジアは攻勢から守勢に切り替わった」

 「少しは余裕があるし、今後は、要塞化が問題になるだろうな」

 「97式戦車、95式戦車、装甲車の装甲を剥いでブルドーザーに改造するそうだ」

 「そんな無茶が良く通ったな」

 「前線の要塞化が遅れたら降格させて前線行きと。勅命を出されたそうだ」

 「引責は、軍令部と軍政部の上層部も含んでるらしい」

 「戦車や装甲車を土木建設機械に改造するのは、選択の余地がないのだろう」

 「それに陛下は、部品の品質が向上できるまで、人事異動と更迭を続けさせる方針を決めたらしい」

 「上層部も青くなってたな」

 「ふっ 派閥抗争で道連れ根性を出されたら日本軍官僚組織は、戦わずして崩壊だな」

 「ありそうで怖いな」

 「次は、1500馬力級金星装備のゼロ戦5型、飛燕2型、彗星2型、天山2型の統合機だっけ?」

 「ハードルが高そうだ」

 「次の次期主力機はもっとハードルが高いよ」

 「1800馬力級誉装備のゼロ戦6型、疾風、流星、銀河だ」

 「稼働率と耐久時間を考えると泣けてくるね」

 「それに機体はどうかな。ゼロ戦は、主翼が大き過ぎて、横転速度が遅い」

 「太平洋で戦うには航続力が必要だよ」

 「エンジンの重量に合わせてバランス良く機体を強化するらしい」

 「金星装備機は3000kg。誉装備機は3500kgになる予定だ」

 「ん・・・防弾を考えると、さらに重くなる可能性もある」

 「主翼面積と揚力か。どう考えても離艦と着艦が困難になるな。足りないくらいだ」

 「飛燕は、陸軍仕様だっただろう」

 「海軍側の仕様で突出型風防にするそうだ」

 「海軍の雷電も風防突出型じゃないだろう。言いがかりだな」

 「雷電は止めただろう」

 「それは、規格統合の煽りを食ったからだろう」

 「取捨選択の是非はともかく、取捨選択することが重要なのだろう」

 「ゼロ戦5型の性能は?」

 「金星発動機の直径が大きくなるし」

 「エンジンに合わせて機体をバランスよく肉付けすると重量が増す」

 「視界が落ちるから着艦で苦労するかもしれない」

 「重量増加を考えると性能の向上は、それほどでもないか」

 「機体は頑丈になって速度がソコソコ向上するから、即、撃墜じゃないのがいいと思うよ」

 「格闘性能は、開発中の自動空戦フラップ次第か」

 「精度を期待していいのか未知数だな」

 「速度は?」

 「飛燕2型が580km/h。ゼロ戦5型が590km/hを超える予定だ」

 「エンジンの改良が進めば、もう少しいけるだろう」

   

   

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 飛燕型は、金星1500馬力搭載型です。

 

 

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第05話 1942/10 『戦線構築と通商破壊作戦』