月夜裏 野々香 小説の部屋

   

After Midway

  

 

第05話 1942/10 『戦線構築と通商破壊作戦』

 日本の内政、軍内のゴタゴタは、沈静化されつつあった。

  

 シンガポール沖

 日本機動部隊は、再編成、整備、補給待ちで、艦載機パイロットの育成を続ける。

 

 

 

トラック環礁

 

 ニューギニアとソロモンから撤収した上陸部隊がトラック環礁の航空基地建設と進め

 海軍航空部隊が集結していた。�

 

 

 ニューイングランド島沖

 潜水艦の中は、薄暗く、機械の匂いと、90人近い乗員の体臭が籠もり、

 湿気が溜まりやすく、不快指数が高かった。

 「・・・輸送船団だ」

 潜望鏡を覗く艦長の声が僅かに上ずる、

 

 

 トラック航空基地

一式陸攻

 「大佐。攻撃目標は、輸送船団なのか! 空母は?」

 「空母は攻撃しない。目標は、輸送船団だけだ」

 「しかし、機動部隊は近くを遊弋していると聞いたぞ」

 「駄目だ。戦闘機は随伴できない。輸送船団を狙え」

 「し、しかし、一式陸攻80機以上なら、空母1隻。楽に撃沈してみせる」

 新任の中将が勅命と書かれた封書を見せる。

 「勅命書だ・・・輸送船団を狙えと書いてある」

 「機銃も弾薬も降ろしていけ、航続力が足りなくなるぞ」 大佐

 士官は、憮然としながらも勅命書と書かれた封筒を睨みつけ従う。

 トラック島から一式陸攻82機が出撃。

 1300kmを飛び、

 ニューイングランド島

 空一杯に爆音が轟き、

 アメリカ上陸作戦艦隊上空に点々と爆煙が広がる、

 護衛の戦闘機は存在せず、

 一式陸攻82機は、海上を逃げ回るアメリカ上陸作戦艦隊を追い掛け回し、次々と撃沈していた。

 艦船が沈んだ海面から十数条の黒煙が立ち昇る、

 「洋上は、混乱してるな」

 「チャンスですな」

 「来た・・・ 進路そのまま・・・」

 「ヨーソロー ヨーソロー・・・・てぇ!」

 射出音が連続で続き、

 そして、日本潜水艦もアメリカ輸送船団の襲撃を開始する。

 

 

 巡洋艦ビンセンス 艦橋

 艦長は、沈み行く上陸作戦艦隊を見ていた。

 駆逐艦が弾幕を張りながら戦場を駆け回っている。

 空襲が始まって、巡洋艦3隻と、輸送船6隻が雷撃され、転覆し、沈みつつあった。

 500m前方を進んでいた輸送船が爆音を轟かせて炎上し、黒煙を上げながら沈んでいく。

 駆逐艦が海面を漂う陸兵を救助していた。

 海岸まで10km。

 装備を捨てなければ浮いていられず、

 濡れた軍服は重く、救助しなければ力尽きて死ぬ。

 もう、何日も前から潜水艦かららしい発信が確認されていた。

 そして、ニューブリテン島からの電波も確認されていた。

 どうやら、日本軍に情報が筒抜けだったようだ。

 いまも、沈んだ船の報告をしているだろう。

 一部の輸送船は、上陸部隊をニューブリテン島に降ろしていた。

 島の占領はできそうだったものの、

 それは、ニューブリテン島の日本軍が小規模な監視部隊だからで、

 アメリカ軍上陸部隊が日本守備隊と戦って勝ち取った島とはいえない。

 泳いでいる兵士は、救助できるものの、軍需物資の多くが海の底だった。

 上陸しても物資がなければ本格的な作戦ができない。

 アメリカ上陸作戦部隊主力軍は、上陸する前に大きな損失を出しており、

 忌々しいことだが数ヵ月は、防衛線を構築するので精一杯だろう。

 

 隊長機

 「親分。大戦果です」

 「ちっ! 被弾機が多い、なんて、火力だ。無事に帰還できるか、心配だ」

 雷撃を終わらせた穴だらけの僚機がヨタヨタと帰還して行く、

 「新参の中将に言われた通り、機銃を置いてきて良かったですね」

 「燃料は、かなり消費しているが、お陰で帰還だけは、できそうだ」

 「しかし、この分だと、再出撃は、出来ませんね」

 「アメリカのB17爆撃機に乗って、雷撃したいものだな」

 「いいですね・・・」

 「頑丈そうだし、エンジンが4つあって安心だ」

 「親分、あの巡洋艦はどうです」

 「よし、あれを沈めるぞ、2番機、3番機に続けさせろ」

 「へい! がってん承知!」

  

 巡洋艦ビンセンス

 双発一式陸攻3機が正面に回り込むと、低空で向かってくる。

 艦長は、雷撃機と艦の相対速度と空間認識が問われる。

 いくつものベクトルを概算で計算し、変わっていく数値に迷う。

 転舵するより、まっすぐ、進んだ方が良いように思えた。

 それは、被害ゼロという事ではなく、

 最小限の被害で済ませる苦渋の選択・・・

 「双発機で、ここまで来るとはな」

 「軍用機と思えんよ」 艦長

 「あれは、魚雷を落とせる輸送機なのでしょう」 副艦長

 「ふっ アメリカの輸送機よりヤワにできてそうだな」

 海面スレスレを迫ってくる3機の双発機に曳光弾が吸い込まれていく。

 機銃弾の掃射が海面を叩き、小さな水柱を無数に作っていく、

 雷撃機の周囲で対空信管が爆発し、赤黒い雲の塊を点々と残した。

 右翼と左翼の一式陸攻が左右に開き、両脇から狙いを済ませたように迫ってくる。

 左右どちらかの機体を撃墜しなければ避けようがなかった。

 「面舵5!」

 正面から来る陸攻の軸線を徐々に外し。

 投下タイミングのズレを判断し、どちらかに切るしかなかった。

 艦長が艦橋から外に乗り出し、ギリギリまで推し量る。

 3機の相対距離と相対速度は違っていたものの、

 魚雷は、ほぼ同時に投下され、

 あとは、スローモーションのように感じられた。

 「取り舵。35!!」 艦長が叫ぶ。

 雷跡は憎らしいほど速く迫り、

 舵の利きは、泣きたくなるほど緩慢だった。

 右に切っても、左に切っても、速度を上げても、確実に2本は命中する、

 次の瞬間、右の一式陸攻の左主翼がもがれ、海面に激突。

 ちっ!

 艦長は舌打ちする。

 魚雷投下前に撃墜していれば、残りの2本を外せただろう。

 しかし、手遅れだ。

 3本の魚雷は、避けようの無いほど接近し・・・・・

 「艦長!」 副艦長

 「機関員を甲板に上げさせろ」 艦長

 「はっ! 機関員を甲板に上げさせろ」

 日本軍機は、引き揚げつつあった。

 機関員の人的損害だけでも最小限にすべきだ。

 沈む兆候がなければ、もう一度、戻せばいい。

 正面から来た魚雷が右舷側を逸れていく、

 次の瞬間、巡洋艦ビンセンスは、左舷と右舷に魚雷が命中、

 大きな衝撃と爆音がビンセンスを襲った。

 アメリカ海軍は、重巡キャンベラ、アストリア、クインシー、ビンセンス。駆逐艦オブライエン。

 そして、輸送船22隻が撃沈され、

 日本軍は、一式陸攻15機を失い。

 潜水艦4隻が撃沈される。

 

 

 

 アメリカ軍は、ニューブリテン島に上陸と相当する損失を払って良港ラバウルを占領する。

 そして、占領したラバウルからトラックまで1300km。

 アメリカ軍は、4発爆撃機だけの爆撃を不利と判断し、

 トラックに攻勢をかけるべく前線基地を移動させようとしていた。

 偵察部隊がビスマルク諸島のカビエン、アドミラル島に上陸したものの、

 そこからでもトラックまで1100km以上の距離があった。

 アメリカ軍は、一番、近いムッサウ島への基地建設も検討した。

 しかし、そこからでもトラックまで1000kmの距離があった。

 そして、日本軍が早期警戒用に水上機基地を建設しているサタワン環礁と

 アメリカが基地を前進させようとしているムッサウ島は、850kmの距離だった。

 アメリカ軍は、基地の前進がラバウル海軍基地の防衛につながると考え、

 占領したラバウルへの輸送作戦を継続する。

 天皇は、脆弱な輸送船を狙うように勅命を発しており、

 日本海軍は、航空機と潜水艦による通商破壊作戦を続行していた。

    

   

 赤レンガの住人

 「海軍は、出て行かないのか?」

 「駄目だ。陛下が止めている」

 「まあ、一定の線を越えてきた場合は、出撃しても良い事になっているがね」

 「じゃ 当面は、航空部隊と潜水艦にがんばって、もらうのか?」

 「命令が陛下待ちだと組織が硬直化しそうだな・・・」

 「一人に権限が集中して硬直化ね」

 「派閥で硬直化するのとどっちがいいやら・・・」

 「軍組織は、年功序列が台風並みに狂って面白みがある」

 「しかし、1000km以内への迎撃は、自由裁量が認められているだろう」

 「その点は、柔軟性がある」

 「トラックの南の島にも索敵用の航空基地を建設しているのか」

 「ああ、サタワン環礁だ。なるべく早く、敵の動きを知りたい」

 「まともな電探がないから、そうしないと対処不能か」

 「しばらくは、水上機母艦を置いて水上機基地だな」

 「ところで扶桑、山城の解体と伊勢、日向の改装は本決まりなのか」

 「鉄が欲しいそうだ」

 「伊勢と日向は、第3、第4砲塔を剥がして高速戦艦に改造するのは本当らしい」

 「空母という話しもあったが、扶桑と山城を解体した資材を使ってやってしまうそうだ」

 「陛下は、大敗したミッドウェーに遊覧航海してきた主力艦隊は屑と同じ」

 「ミッドウェーで先行させるべきは、戦艦部隊で機動部隊でないそうだ」

 「空母沈められるくらいなら、大和を沈めろだと」

 「陛下の言われる通りで、どうにもならんよ」

 「山本長官は、人望があったんだがな」

 「戦争に勝てる人間なら人望などいらんそうだ」

 「軍部が間抜けだから民間にシワ寄せを強いてると、はっきりと言われたし」

 「もう、どうにもならんな」

 「役に立たない戦艦4隻より、少し役に立つ高速戦艦2隻か」

 「寂しくなるな」

 「護衛空母4隻、練習巡洋艦3隻、駆逐艦30隻」

 「それと、対潜哨戒用機50機が護衛艦隊に振り分けられた」

 「商船隊が喜んでいるよ」

 「艦隊派は、憮然としていたがね」

 「規格外砲の割り振りもはっきりさせたから、輸送の面では楽だ」

 「戦略の云々より、決断が早いことが評価できるよ」

   

  

 寂れた料亭

 陸軍将校と海軍将校が会席料理を挟んで向かい合い、杯をチビチビと傾けていた。

 不倶戴天の陸海軍で酒を酌み交わす気にもなれず、かといって、帰るわけでもない。

 ほとんどの時間が無言だった。

 『『『『『『・・・傀儡のはずだった』』』』』』

 しかし、今は違った。

 陛下の会っている軍人、政治家は、100を超え、勅命書を貰っている人間が多すぎた。

 ここにいる十数名は、勅命で好き勝手にやっていた権限が失われ、

 現天皇の封じ込めも不可能となっていた。

 それまで、私兵に近い下士官以下の実行部隊でさえ、

 天皇の覚えがあるとなれば、こちらに銃を向ける。

 天皇に権力を集中させて神格化。

 軍部。いや、日本の支配体制を正当化させていた権力構造が逆手に取られてしまう。

 『『『『『いつの間に人心掌握の術を覚えたんだ』』』』』

 「どうにかならんのか」 陸軍将校

 ・・・・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・・

 沈黙が返事。

 下手なことを言えば逆賊。

 「総理。現状をどう思われる?」 海軍将校

 「統帥権に対してかね?」 総理

 「・・・・・・・・・・・・・」 沈黙

 「・・・勅命に反すれば逆賊だ」

 「臣民と下士官以下に常に言っていることだ」 総理

 模範的な答弁といえる。

 「勅命は、便利だったのだがな・・・・」 陸軍将校

 「不謹慎な言いようをするな」 海軍将校

 「今後の作戦に不手際があった時・・・・陛下に一言、苦言を申し上げる。それでよかろう」 総理

 「天皇への権限集中・・・総理。どうされるつもりか?」 海軍将校

 「それも不手際があった時、歩み寄りしていただけるように申し上げる」 総理

 「少なくとも航空部隊と燃料の件は助かったがね」 海軍将校

 陸軍系がムッとする。

 その後、沈黙と出るのは、ため息ばかりだった。

  

 

 艦隊編成

 第1機動部隊、(瑞鶴、翔鶴、瑞鳳)、174機

  利根、妙高、那智、足柄、羽黒

   駆逐艦、陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、初風、雪風、天津風、時津風、

   駆逐艦、夕雲、巻雲、長風、秋雲、風雲、

   駆逐艦、秋月、照月

 

 

 第2機動部隊、(飛鷹、準鷹、龍嬢)、145機  

  筑摩、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、

   駆逐艦、浦風、磯風、浜風、谷風、野分、嵐、萩風、舞風

   駆逐艦、巻波、高波、

 

 

 高速戦艦部隊、金剛、榛名、比叡、霧島

 古鷹、加古、衣笠、青葉、

  駆逐艦、朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞。

 

 

 

 戦艦部隊

 大和、武蔵、長門、陸奥、伊勢、日向、扶桑、山城

  最上、鈴谷、熊野、

   駆逐艦、朝霧、夕霧、天霧、朧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電

 

 

 巡洋艦部隊

 那珂、川内、神通、夕張

 北上、大井、木曾、長良、五十鈴、名取、由良、阿武隈

 球磨、多摩、

 天龍、龍田、

  駆逐艦、吹雪、白雪、初雪、むら雲、薄雲、白雲、磯波、浦波、綾波、敷波、

  駆逐艦、初春、子ノ日、若葉、初霜、有明、夕暮

   駆逐艦、白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、江風、涼風

 

 

 

 対潜部隊

 (大鷹、雲鷹、冲鷹、鳳翔)、香取、鹿島、香椎

 峯風、澤風、沖風、灘風、羽風、汐風、秋風、夕風、太刀風、帆風、野風、沼風、波風

 神風、朝風、春風、松風、旗風、朝凪、夕凪、

 睦月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、長月、三日月、望月、夕月

 

 

 未完成艦

 (神鷹、海鷹)

 (龍鳳、千歳、千代田、大鳳、雲龍、天城、葛城)

 (阿賀野、能代、矢矧、酒匂、大淀)

 (大波、清波、玉波、涼波、藤波、早波、浜波、沖波、岸波、朝霜、早霜、秋霜、清霜)

 (島風)

 (涼月、初月、新月、若月、霜月、冬月、春月、宵月、花月、夏月)

   

  

 スターリングラード戦

 満州の一部と北樺太の交換は、東部戦線に影を落としていた。

 ドイツ軍がスターリングラードを占領すれば、ソ連の油田を押さえ、生存権を得られた。

 ドイツ軍将校たち

 「くっそぉ〜 日本め。一体、何をやっているんだ」

 「自国のことしか考えていないだろう」

 「極東ソ連軍が回って来るんじゃないか」

 「極東の地図を見たが、今回の領土交換でソ連がイマン迂回鉄橋を守れる」

 「極東から増援が来るかもしれないな」

 「聞いた話しだと、新たに接収した領土の防衛で、来る、来ないは、半々だそうだ」

 「極東ソビエト軍の援軍が来るとしても遅れる?」

 「そうだなぁ〜 10月からだと、シベリア鉄道で横断するのも時間が掛かりそうだろうな」

 「あと、スターリンは領土交換しているから、すぐに極東ソビエト軍を動かせないはず」

 「だと良いが・・・・」

 「・・・なんか、寒くなったな」

 「ああ、冬が近いかもしれないな」

 

 

 

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第04話 1942/09 『日ソ領土交換とホーネット、ワスプ撃沈』
第05話 1942/10 『戦線構築と通商破壊作戦』
第06話 1942/11 『ベンガル湾海戦とインド洋作戦』