第06話 1942/11 『ベンガル湾海戦とインド洋作戦』
米英軍が北アフリカ戦線のモロッコ・アルジェリアに上陸。
連合国軍の反撃が始まる。
北アフリカ戦線で苦戦していた独伊軍は、チュニジアまで撤退。
東部戦線は、ドイツ主力軍である第6軍がスターリングラードに包囲されてしまう。
日本海軍のミッドウェー海戦の敗退。
ドイツ陸軍の北アフリカ戦線と東部戦線の敗退。
余力のない枢軸国の命運は尽きたかに見えた。
日本の第1・第2機動部隊と戦艦部隊、巡洋艦部隊がインド洋に入り込んだ。
空母 瑞鶴
第1機動部隊、(瑞鶴、翔鶴、瑞鳳)、174機
利根、妙高、那智、足柄、羽黒
駆逐艦、陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、初風、雪風、天津風、時津風
駆逐艦、夕雲、巻雲、長風、秋雲、風雲
駆逐艦、秋月、照月
戦艦部隊
長門、陸奥、最上、鈴谷、熊野
駆逐艦、朝霧、夕霧、天霧、朧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電
巡洋艦部隊
天龍、龍田
球磨、多摩
北上、大井、木曾、長良、五十鈴、名取、由良、阿武隈
那珂、川内、神通、夕張
駆逐艦、吹雪、白雪、初雪、むら雲、薄雲、白雲、磯波、浦波、綾波、敷波
駆逐艦、初春、子ノ日、若葉、初霜、有明、夕暮
駆逐艦、白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、江風、涼風
輸送船12隻、タンカー18隻
インド洋 ベンガル湾
空母インドミタブル、フォーミタブル 2隻
戦艦ウォースパイト、ラミリーズ、R・ソベリン、レベンジ、レゾリューション 5隻
軽巡ドラゴン、エメラルド、ダナエ 3隻
駆逐艦アロー、ネピア、パンサー、ネスター、グリフィン、
駆逐艦ノルマン、デコイ、パラディン、フォーチェン、9隻
輸送船40隻。
イギリス艦隊は、輸送船団を護衛しつつ、ベンガル湾を北上し、
チャッタゴンに向かっていた。
瑞鶴 艦橋
「潜水艦の報告通り、ベンガル湾を北上中か・・・・」 小沢長官
「では、予定通り攻撃ですね」 副官
「こうも戦果が与えられる機会があるのは気持ち悪いが・・・」
「勅命書で出撃ですからね。暗号も、へったくれもありませんよ」
「それでいて、勅命書さえ見せれば、燃料は思いのまま・・・・」
「ふっ あの陸軍中佐の顔は忘れられんな」
「くっ くっ くっ まったくです」
「だが、しばらく、本土に帰れんぞ」
「・・・この勅命書、本気なんですかね」
「すべては・・・ この作戦を成功させてからだ・・・」
イギリス艦隊は、輸送船40隻を護衛してベンガル湾を北上していた。
太平洋戦線が停滞しており、
ビルマ戦線は、日本を消耗させる有効な戦線だった。
その日、イギリス輸送船団の上空は、どんよりと曇っていた。
航海は、順調で警戒するとすれば、伊号潜水艦。
輸送船団がビルマ戦線に物資を送り込めば、しばらく戦える。
戦艦ウォースパイト 艦橋
艦長は、どんよりとした雲と海を見ていた。
この海域で脅威になるのは、日本の潜水艦と日本機機動部隊のみ。
そして、そのどちらも出てくる兆候はなかった。
日本潜水艦は、Uボートより騒音対策で劣っており、
1隻や2隻の潜水艦なら、自殺するようなものだ。
そして、日本は、ミッドウェー海戦のあと、政変が起きて大混乱という情報が入っていた。
日本機動部隊は、身動きが取れず。
パイロット養成の為、動いていなかった。
情報部の調査では、日本のエンペラーは、軍部の傀儡で表に出ることはない、と思われていた。
しかし、ミッドウェー海戦の大敗は、天皇を怒らせ、発言権を増してしまう。
だからといって、脅威とはいえない。
“温室育ちの天皇に大戦を戦い切るだけの能力は無い” と情報も入っている。
日本軍は、戦線を縮小させていた。
それは、無能という証明ではない。
仮に自分が日本の総司令官でも、同じように戦線を縮小させる。
だからといって、日本の天皇が、ほかの将軍より優れていると限らない。
ただし、北樺太と満州の交換は、優れた政治的判断だと思われた。
それが臣下の意見によるものか、天皇自身のものによるのか、まだ掴んでいない。
ドイツに不利で、日本に有利。
総合的で、どちらが有利になるか微妙であり、
連合軍全体とすれば、良くもなく、悪くもない。
空母インドミタブルが左舷側を航行し、
後方のフォーミタブルは、ソードフィッシュを発着艦させていた。
イギリス空母艦上機は、日本とアメリカと比べると、心もとなかった。
しかし、巡洋艦隊と潜水艦が相手ならソードフィッシュは有効で、、
輸送船団の上空と海上は、鉄壁と言ってもよかった。
「艦長。やはり、日本の潜水艦に発見されていたようです」 副艦長
「どうした?」 艦長
「日本の航空機と思われる電波輻射が確認されています」
「輸送船団は、インド大陸沿いを北上している」
「この海域は、アンダマンから900kmは離れている。間違いでは?」
「いえ、対空レーダーに感知。航空機だと思われます」
「飛行艇かもしれないな・・・ 日本の巡洋艦隊でもいいがな」
「戦艦は、活躍できる機会が減っていますからね」
「しかし、政局が混乱している日本で、それだけの作戦ができるかな」
「この時期、政変で荒れるようでは、意外と早く降伏するかもしれませんね」
「イギリス東洋艦隊がベンガル湾まで戻ってきたのだから、そうかもしれないな」
「・・・・艦長。敵機です。単発機。フロート無し!」 士官
「ば、ばかな。単発機だと。4発の飛行艇ではないのか?」
艦長が双眼鏡で外を覗き込む。
雲間から見え隠れする機体は、まさしく、日本機。
フロート無しの単発機だった。
「艦長!」
「タンカーを守れ」
「日本機動部隊だ」
「迎撃機は?」
「レーダーは、なにをしていた。気がつかなかったのか!」
「これから発艦のようです。味方の艦載機と誤認したのでしょう」
「それに、この雲で発見されないと思っていたのでは」
「ちっ! 索敵だ。空母に連絡しろ、水上機を出して日本機動部隊を捜索する」
「それと、ヴィシャーカパトナム空軍基地に支援を要請しろ」
「艦長、インドミタブルが増速します」
「迎撃機を上げるのだろう、放っておけ。どうせ、一緒に航行できん」
「タンカーを守りながらインド沿岸に近づくぞ」
「はっ!」
「輸送船団にインド大陸側へ行くように通達。輸送船団と合流する」
「艦長。インドミタブルからです!」
「タンカーを率いて、輸送船団と合流。目的地に向かえとのことです」 士官
「わかりきったことを・・・・」 艦長
「それと、索敵方向は、アンダマン方向へとのことです」 士官
「準備ができ次第、射出させろ」
「艦長。レーダに反応!」
「・・・敵航空部隊。100機を越えます」 士官
「副長・・・ 留学していた日本の士官に、こういうとき、日本語で “是非もない” というらしい」
艦長が、悟りきったように呟く
「・・・どういう意味です?」
「良いも、悪いも、無い。ということらしい」
「投げやりですな」
「ジョンブル魂をみせてやるか・・・ 対空戦闘用意」
日本攻撃部隊は、艦隊周囲を旋回しながら集結し、
艦隊は空襲から逃れようと回頭し、対空砲火が火を噴き始めた。
インドミタブルとフォーミタブルを発艦したシーファイアが上昇しつつ突進し、
零戦21型が降下しつつ迎え撃つ、
高空高速から急降下する零戦と、空母から発艦して上昇中の低空低速のシーファイアだと分が悪く、
さらに多勢に無勢。
ゼロ戦2機〜3機がシーファイア1機を追い掛け回して撃墜していく、
99艦爆、97式艦攻がイギリス機動部隊上空を旋回しつつ獲物を定めていた。
「・・・どうやら戦艦は、狙われていないらしい」
「狙いは空母でしょうね」
「対空砲の準備を急げ!!」
「敵機を輸送船に近付けさせるな」
「インドミタブルが!」
急降下爆撃機が投下した爆弾が空母インドミタブルに向かっていく。
腹がよじれるほど外すことを望む。
しかし、あっさり飛行甲板に命中し、爆炎を轟かせる。
後方の輸送船団を護衛している駆逐艦も爆撃が命中したのか、爆発。
日本の攻撃部隊がイギリス艦隊上空を旋回し、
機関砲から撃ち出された数条の弾道が99艦爆に向かって吸い込まれていく。
しかし、容易に命中しない。
上空を警戒していたソードフィッシュがハチの巣にされ、
海上に墜落し、水柱を吹き上げる。
ゼロ戦が勝ち誇ったように旋回し、別の獲物を探していた。
空母を護衛していた駆逐艦に爆弾が命中して爆炎を上げ、
舵が効かないのか、戦列を離れていく。
爆炎に包まれた駆逐艦の鋼が、けたたましい悲鳴を上げて捻じ割れ、
あるいは大音響とともに折れて沈んでいく。
「・・・何をやっている、撃て!!」 艦長
「まだ、射程外です」 副長
「くそっ! 急いで輸送船を集結させろ、脱出するぞ」
「艦長、ゼロが救命ボートを銃撃してます」
沈む駆逐艦から脱出した救命ボートが銃撃された瞬間だった。
水兵がゼロ戦の接近に気付いて海に飛び込み、
機銃弾が小さな水柱を上げ、ボートをズタズタに引き裂いていた。
イギリス空母は、飛行甲板に装甲が張られ爆撃に強かったものの、
雷撃されれば浸水し、
艦体構造が破壊されるか、浮力を失えば沈没する。
インドミタブルとフォーミタブルは、満足に迎撃機を出撃させることもできず、
魚雷数本に串刺しにされ、浸水。
装甲化されて重みのある飛行甲板は、傾きに堪えられなくなると転覆しやすく。
インドミタブルが沈み。
後を追うようにフォーミタブルも沈んでいく。
さらに波状攻撃により、軽巡3隻、駆逐艦9隻が撃沈。
そして、無視されていた戦艦部隊の攻撃も始まる。
戦艦R・ソベリン撃沈。
そして・・・・
戦艦ウォースパイトも魚雷を受けて傾いていた。
絶望的な空気が艦橋に漂う。
「基地の空軍は?」 艦長
「出撃させたそうです」 副長
「・・・遅すぎる」
「スピットファイアは航続力が足りません」
「まともな防空は、期待できません」
「知っている・・ 攻撃が停止している」
艦長は、旋回している日本機を見つめた。
副長が被害報告のメモを受け取り、読み上げて行く。
「艦長・・・」
「浸水は食い止めました」
「ですが機関室とスクリューが破壊され、航行不能です」
「周りに浮いている水兵は、すべて引き揚げろ。サメに食われるぞ」 艦長
「日本海軍は、本艦の拿捕を狙っていると思われますが」
「急いで助けなければ、全員、サメの餌だ。すでに何人も食われている」
「イギリス海軍は、このような作戦を日本人に教えた覚えは無いと思いますが・・・」
「出来損ないのサルが・・・ 重要書類は全て燃やしてしまえ!」
士官が日本に知られると不味いと思われるものを破壊し、燃やし始めた。
「主砲が撃てればな・・・」
艦長は、苦々しく呟く。
「主砲塔も電気系統が破壊され、使い物になりません」
輸送船を追撃する日本艦艇を見送るしかなかった。
主砲を撃った瞬間、甲板上の水兵の多くが衝撃で死ぬ。
そして、主砲を撃った衝撃で艦が沈む可能性もあった。
戦艦ウォースパイト、リベンジは、魚雷3本、
ラミリーズ、レゾリューションは、魚雷4本が命中。
戦艦4隻は、沈んだ空母、巡洋艦、駆逐艦の乗組員を救助し、
甲板に満載して戦場に漂うだけ。
日本艦隊から逃げ回る輸送船団からも孤立していた。
そして、最後に沈んでいったR・ソベリンの水兵が戦艦4隻の周りに集まっていく。
救命ボートは銃撃で沈められ、
海面に浮かぶ水兵は、サメに襲われる前に4隻の戦艦まで泳ぎ着かねばならなかった。
4隻の戦艦は、見かけと裏腹に機関が破壊され、ボロボロの状態で浮いている。
直衛機を持たず。
低速で満足な対空火器を持たない戦艦は、雷撃機や爆撃機の的に過ぎない。
日本の巡洋艦隊は、輸送船団を包囲し、次々と拿捕していく。
イギリス戦艦部隊は、主砲を撃つこともできず、見守るしかなかった。
そして、イギリス戦艦部隊は、日本海軍に降伏する。
戦艦ウォースパイト
「あれが、長門と陸奥か・・・」
艦長は、戦艦と撃ち合うことも無く降伏した我が身の不幸と、
栄光のロイヤルネービーの不運を哀れむ、
「艦隊決戦をしたかった。残念です」 副艦長
「戦艦で5対2なら、たとえ、ナガト、ムツの40cm砲搭載艦でも勝てただろうが・・・・」 艦長
1隻の軽巡がウォースパイトに横付けし、
水兵が乗り移ってくる。
「夕張型です」
イギリス軍将兵は、日本兵によって、甲板に整列させられ、
ロープに繋がれていく。
「手際がいいのは、最初から拿捕が目的だったようですね」
「大英帝国海軍も舐められたものです」 副艦長
「もはや自沈すら、ままならんか」 艦長
甲板上は、救助されたイギリス海軍の水兵が溢れ。
日本艦隊が周囲にボートを出して水兵を救出していく。
日本軍は接収が慣れているのか、イギリス軍の士官と交渉し、作業を進めていく。
自沈すれば、甲板で数珠繋ぎにされている500人の水兵は確実に死ぬ、
大砲を撃とうにも主砲発射の衝撃で水兵が障害者になるだけだった。
そして、4隻の戦艦すべてが同じ状況だった。
「・・・ウォースパイトは、機関室が大破、水浸しています」
「例え日本に回航させても再就役は、不可能だと思いますが」 副艦長
「そうだろうが、それは、日本が考えることだろう」 艦長
しばらくすると後ろがざわつく。
「・・・ウォースパイトの艦長と副艦長と、お見受けしますが」
日本の士官が英語で詰問する、
二人は、ゆっくりと振り返ると、
日本の士官1人、日本兵2人が拳銃を構え立っていた。
「そうだ」 艦長
「お気持ち、察しますが、この艦は、日本海軍が接収しました」
「・・・・・」
「お二方には、艦の保存のため、指揮をしていただきたい」 日本人士官
日本の士官は、何度も練習していたらしい英語を伝える。
「すでに処置はしている。この艦は、沈まんよ」
「乗員の安全は、守られるのであろうな」 艦長
「・・・・では、この状態のまま、曳航します」
日本人士官が敬礼する
「まるで海賊だな」 艦長
「先任将校は、海賊海軍に学んだと聞いています」 日本人士官
「・・・そうか “ゼヒモナシ”か」
艦長は、むかし、聞いた日本語を呟く。
そして、日本の巡洋艦隊に包囲された輸送船40隻は、逃げることもままならず。
日本艦隊に拿捕されていく。
急報を聞いたイギリス航空部隊が三々五々の少数編隊で飛んできた。
しかし、イギリス軍機は陸上機であり。
方向感覚を失うのが怖いのか、航空機動も遠慮がち。
滞空時間も短く、
例え、高性能でも日本機動部隊から出撃したゼロ戦が切り込んでいくと攻撃は失敗し、
撤退していく。
瑞鶴は、どんよりとした海と雲の間を駆逐艦に守られ、航行していた。
瑞鶴の艦橋
「長官、拿捕した戦艦は、ウォースパイト、ラミリーズ、リベンジ、レゾリューションの4隻です」 副官
「人でなしの作戦だな」
「空母を撃沈した後は、拿捕狙いで弱い順番に沈める」 長官
「いまさら海水に浸かった戦艦を拿捕しても役に立つかどうか」
「明日は、わが身かも知れんな」
「栄光あるイギリス海軍に対する処遇は、残念でならんよ」
「武士の情けも無い。ということでしょうか」
「勝てる将校なら人望は要らないそうだ。この作戦は、まさにそれだ」
長官は、勅命書を見る
「こちらの損失は、艦載機33機。作戦続行で、いいですね」
「勅命書は、そうなっているな」
「艦載機の半数、または、4万トン相当が沈まなければ、作戦は、継続だ」
「今回は・・・ 徹底的にですか?」
「戦艦は、与える影響が強いですからね。イギリスも、ショックのはずです」
「戦艦は、ともかく。輸送船40隻分の物資が手に入った」
「これは、大きいだろうな」
「日本の政変で気を良くしてベンガル湾まで出てきたのが運の尽きだ」
「これで陛下の発言力。強くなりますね」
「ああ、政変を起こしてからワスプとホーネットを撃沈して、戦況も好転している。当然だ」
「このままでも良いと?」
「負けない限りは、何も言えん。作戦が失敗しない限りはな」
「そして、作戦が失敗した時は、我々もお終いだ」
「しかし、戦争の勝ち負けより、誰の発言力が大きくなるかの問題が大きいのだから腐ってるな」
その後、日本機動部隊と巡洋艦隊は、クリスマス島を占領、
さらにチャゴス諸島、モルジプ、ディエゴガルシア島を占領していく、
そして、インド洋全域で暴れ回る。
シンガポール
拿捕された輸送船の大半とイギリス戦艦4隻がシンガポールの港に係留され、
日本陸海軍将兵は、輸送船から降ろされた物資を検分していた。
ドック。
「必要な機材は確保だ」
「それ以外は、バラバラにしてして製鉄所行きだ」
鉄屑として処分することが最初から決まっていたかのように戦艦レゾリューションの解体が始まる。
長門、陸奥の艦隊がケープタウンに入港。
港で連合軍の護衛艦14隻、輸送船23隻撃沈。護衛艦3隻、輸送船42隻を拿捕。
インド洋全域で、さらに輸送船20隻を拿捕。
日本戦艦部隊は、ケープタウンの南アフリカ軍に対し艦砲射撃を開始。
日本軍が上陸後、
ベンガル湾で捕獲したばかりの小銃10万丁と1000万発の弾薬と、
ほか手榴弾、曲射砲など黒人独立勢力に渡し始めた。
南アフリカの白人社会は、武装した黒人独立勢力によって、崩壊していく、
ハワイ
アメリカ太平洋艦隊司令部は、日本機動部隊のインド洋作戦に驚愕していた。
南太平洋戦線のアメリカ軍は、ニューブリテン向けの輸送を急いでおり、
アメリカ輸送船団は、ラバウル近海で、一式陸攻と潜水艦の襲撃され、大打撃を受け、
さらに追加されるであろう、大打撃を受けることを恐れ、
アメリカ機動部隊は、身動きが取れないでいた。
エンタープライズ
エンタープライズ 艦橋
「どうした! これだけトラックに近づいているのに攻撃を受けないのか」 提督
「・・・・攻撃されているのは、輸送船団です」 副官
「こっちが戦闘機中心で、艦隊上空を守っていることが知られているのか」
「輸送船団を直接攻撃する方が楽だと思ったのでは?」
「トラックを空襲する!」
「それでは、艦隊が守れません」
「くそっ! こんなことなら、輸送船団の直衛で周りにいれば良かった」
「それなら、もっと有利に戦えたかもしれません」
「トラックの攻撃隊は出払っている」
「それなら攻撃部隊を出しても問題ないだろう」
「トラックは、ゼロが待ち構えているはずです」
「それに99艦爆、97艦攻が配備されているかもしれません」
「くそっ! 日本人らしくない」
「機動部隊から無電を発したのに偵察だけで、無視ですからね」
「日本軍なら機動部隊を空襲するはずだ」
「・・・完全に無視されたようです」
一式陸攻
一式陸攻143機は、前衛のアメリカ機動部隊を迂回。
ニューブリテンに向かうアメリカ輸送船団を空襲していた。
駆逐艦タッカー、カッシング、プレストン、ウォーク、ポーター、
ブルー、ジャービス、ベンハム、ラッフェイ、バートン、
メレデイス、モンセン、ダンカンの駆逐艦13隻が、一式陸攻の空襲で撃沈。
その後、日本潜水艦30隻が輸送船団を襲撃し、
軽巡3隻、アトランタ、ジュノー、ヘレナ、輸送船40隻を襲撃して撃沈した。
日本は、一式陸攻46機、潜水艦4隻を失う。
アメリカが機動部隊(エンタープライズ、サラトガ)をインド洋に出撃させれば、南太平洋が、がら空きになった。
アメリカ太平洋艦隊は、輸送の進まないビスマルク諸島の基地と、輸送船団を守らなければならず。
日本の第2機動部隊と高速戦艦部隊が出撃すれば、
ビスマルク基地どころか、ラバウルからソロモンまでの基地、全て失いかねなかった。
機動部隊(エンタープライズ、サラトガ)を動かせない。
天皇は、作戦成功により、発言力が増したことを確認する。
そして “連合国軍の陸軍兵士のみ返還” する勅命を出してしまう。
艦船、航空、整備など特殊能力を持たない兵力は “監視する価値もない” という結論。
中立国スペインで交渉が済むとダーウィンに日本捕虜返還事務局の設置が決められる。
このことで、日本は、連合国との非公式な窓口を確保してしまう。
捕虜は人質で、敵国の戦争遂行意欲を低下させるはず。
しかし、勅命は絶対だった。
赤レンガの住人たち。
世界地図を眺めながら、戦略談義。
「重油タンクを占領できたから維持が決まったよ」
「輸送は出来るのか、南アフリカに油田はないから消費すれば、それまでだろう」
「作戦は、しばらく、かかるがね」
「燃料さえ確保できれば帰還できるだろう」
「インド洋に出した機動部隊と戦艦部隊と巡洋艦部隊は、帰還できるんだろうな」
「南アフリカにも、陸戦部隊と航空部隊を置くつもりなのか」
「たいした数じゃない。3000人とゼロ戦50機、99爆撃機100機程度だ」
「空母を空にして戻ってくるだけだ」
「ケープタウンを日独連絡用の潜水艦基地にするそうだ」
「南アフリカの白人は、内陸から他の国の植民地に逃げ出すようだ」
「陛下の勅命でね。南アフリカ独立は見込んでいた」
「というより、そこまでしなければ画竜点を欠く、だろうな」
「インド洋作戦の成功は認めるよ」
「イギリス東洋艦隊は全滅。インド洋全域で輸送船102隻を拿捕」
「7200t級リバティー型が多いが73万トン分の船舶だ」
「中身もな」
「ビルマ、中国、豪州向けの戦略物資でアメリカ製、イギリス製の工作機械、部品、治具、燃料」
「医療品も多い」
「しかし、南アフリカを独立させれば、インド洋からイギリスの勢力圏を奪える」
「それに奪った300両の戦車も使えそうだ」
バレンタイン戦車、クルセーダ戦車、マチルダ戦車、M3中戦車、M4中戦車、M3軽戦車。
火砲も多数が確認されていた。
「インドと中国は、輸送ルートを失って、防衛が困難になるだろう」
「しかし、アメリカ機動部隊は、なぜインド洋に来ない」
「このままだと、天皇の勅命は絶対になってしまうぞ」
「一応、絶対じゃないの」
「一応、名目だったじゃないか」
「前任者たちが、陛下をすだれの向こうにやって、名目にしたんだと思うよ」
「それ、昔からだろう」
「後鳥羽上皇の時は出てきた」
「島に流されたな」
「縁起悪」
「縁起で戦争するなよ。勝ってる気がするぞ」
「機動部隊が無事、日本に帰還できればね」
「欧米の艦船と違って、遠洋航海向きじゃないし、か弱いんだからな」
「アメリカ海軍は、インド洋作戦艦隊が燃料が少なくて、身動きが取れないと知っているはずだが」
「第2機動部隊をトラックに前進させたからだろう」
「アメリカ海軍は、ビスマルク諸島に上陸した部隊を守るため、動かせない」
「そういえば、連合軍は、基地建設を急ぎたくても輸送船を撃沈されて進撃してなかったか・・・」
「もっとも、日本も溜め込んだ燃料のほとんどを使っての作戦だ」
「成功しなかったらミッドウェーより悲惨だったよ」
「陛下が勅命書を渡している内容に従って、損失が許容範囲以内なら罰せられることはない」
「指揮官にとっては、やりやすいだろうな」
「4万トンが沈没しても構わないか・・・ 全滅したイギリス艦隊も、慌てただろうな」
「アメリカ海軍は、ビスマルク上陸作戦。イギリス海軍は北アフリカ上陸作戦で動けないだろう」
「動けるようになる頃には、日本も作戦可能な程度、石油事情が良くなっている」
「仮にインド洋に派遣するとすれば、イギリスの機動部隊だろうな」
「どうだろう。ドイツの戦艦部隊を監視しないと、動けないだろう」
「だと、いいけどね」
「しかし、庶民はドンちゃん騒ぎか」
「そうでもなかろう」
「陛下がミッドウェーの敗戦を公表させて、海軍将校を一新したと、新聞に載っている」
「日米の国力差も公開したよな。冷水を被せられて、それどころじゃないと思うが・・・」
「空母4隻分の損害は取り戻したよ。輸送船100隻以上を拿捕だからね」
「日本人は、近視眼だから空母4隻の損失は、大きく見えるだろうな。たとえ、小さく書かれていたとしても」
「まあ、日本軍自体がそうだけどね」
「金星の生産は?」
「規格は統合されている」
「多少、ごたごたしているがゼロ戦5型、飛燕2型の生産は何とかなるだろう」
「規格違いで武器があっても弾薬がない」
「弾薬があっても武器がない」
「規格が合わずに部品の食い合いもできず壊れたらそれまで」
「これを防げればいいさ」
「兵器があっても補修部品がないと、補修部品があっても兵器がないも防ぎたいね」
「とはいえ、インド洋作戦の成功は、ほっとするよ」
「といっても戦線は、ビルマ戦線とトラックだ」
「しばらくは、アメリカ軍の侵攻はないだろうし、大丈夫だろう」
東部戦線
冬が訪れつつあるスターリングラードで市街戦が繰り広げられていた。
ソビエトの独裁者の名を冠にした大都市でソビエト軍は、激しい抵抗を見せ、
市全体が瓦礫となり、
火薬と死臭の匂いに包まれ、
地獄のような惨状で砲声と爆煙に覆われていた。
ドイツ軍は、戦略上の要衝スターリングラードに固執。
周辺の部隊を引き抜き、
さらに機甲部隊を投入して、スターリングラードを陥落させようとし。
戦力を都市に集中する余り、全体の防衛線で深刻な戦力不足に陥ってしまう。
対するソ連軍は、督戦隊が囚人部隊を磨り潰して都市を守ろうとしていた。
冬将軍の到来で、ドイツ軍最強の第6軍は凍え、補給が滞る。
ソビエト軍の総反撃は、スターリングラードの南北に伸び切った薄皮の防衛線に対して行われ、
温存していた100万の将兵と980両の戦車がドイツの防衛線に押し寄せた。
督戦隊・囚人隊の最狂部隊とT34戦車の大群によって、ドイツ・ルーマニア軍の戦線は崩壊し、
冬将軍の悪天候によりウラヌス(天王星)作戦は、ドイツ側に漏れることなく成功する。
ソビエト軍は、スターリングラードを包み込むように包囲。
ドイツ軍24万は、スターリングラードの瓦礫の中に閉じ込められてしまう。
ドイツ最強部隊への正面攻撃は損失が大きく、包囲攻撃は戦略的に適切だった。
ヒットラーは、退却命令を出さず。
貧弱な航空輸送によって第6軍の補給物資を維持しようとして破綻し、
ドイツ第6軍の命運は尽きていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
よろしくです。
第05話 1942/10 『戦線構築と通商破壊作戦』 |
第06話 1942/11 『ベンガル湾海戦とインド洋作戦』 |
第07話 1942/12 『ダーウィン捕虜返還事務局と拿捕商船102隻』 |