月夜裏 野々香 小説の部屋

   

After Midway

 

 

第07話 1942/12 『ダーウィン捕虜返還事務局と捕獲船102隻』

 1942/12/31 空母エセックス完成。

 

 天皇は “連合国軍の陸軍兵士のみを返還する” 勅命を出してしまう。

 艦船、航空、整備など特殊能力を持たない兵力は、監視する価値もないという結論であり。

 中立国スペインで交渉が済むと、ダーウィンに日本捕虜返還事務局の設置が定められた。

 日本は、捕虜返還で連合国との交渉窓口を確保してしまう。

    

 日本海軍は、インド洋作戦の成功でミッドウェー海戦の敗戦を取り戻していた。

 捕獲した102隻分の戦略物資を南アフリカ作戦と、ビルマ戦線に投入。

 ダーウィン捕虜返還事務局。

 日本代表は、米英代表に対し、インド・東アフリカ・中東全域に兵器・武器弾薬を供給すると宣言。

 ガンジーを首席としてインドの独立を要求する。

  

  

  

 日本の飛行場。

 ハリケーン、スピットファイア、

 ウォーホーク、エアコブラ、サンダーボルト、ワイルドキャット、コルセア、ドーントレス・・・

コルセア                     ワイルドキャット

 捕獲された機体の一部が並べられていた。

 まだ、日の丸に描き換えられていない。

 双発機は、組み立てに時間がかかっていた。

 赤レンガの住人たち。

 「いいねぇ 重厚な機体も悪くない」

 「んん・・・戦争するなら、これくらい頑丈に作るのも、ありだろうな」

 「簡単に撃墜されないのは強みだよ。安心して突撃できる」

 「機銃掃射している間は無防備だ」

 「追いかけ回している時間が長いほど、隙が生まれやすく、撃墜されやすくなるな」

 「日本機は、一撃で戦闘不能か撃墜だろう」

 「アメリカ軍機は、一撃受けて戦闘不能でも帰還できるかもしれない」

 「それは、それで、強みか・・・」

 「・・・捕獲した機体は、使えそうなのか」

 「組み立てに時間が、かかりそうだな」

 「訓練用に使うか、水冷エンジンを剥がして飛燕に装備する手もある」

 「んん・・・一度でも、敵戦闘機や爆撃機を操縦させれば、戦力強化につながるだろう」

 「・・・米軍機は、高々度を飛べて頑丈に出来ている」

 「B17爆撃機を撃墜するのにいい機体だな」

 「まぁ そういう割り振りもあるね」

 「しかし、輸送船102隻か。随分、使い応えがあるな」

 「たぶん、半分は、太平洋側の損害が多くて、インド洋周りで豪州に送ろうとしていたようだ」

 「たまたま、それを拿捕できた、ということか、運が良いな」

 「陛下は、陸軍装備をビルマ戦線、中国戦線、満州戦線と北上させ」

 「捕獲した武器弾薬を使い潰していく方針のようだ」

 「分かりやすくていいな」

 「規格外砲の処分と配備も分かりやすかったが・・・」

 「担当者は統廃合で泣いてたな」

 「いいよ、もう・・・」

 「慣熟訓練も必要だが。あとは、脅迫でインドを独立させられるかどうか」

 「圧力が大きければ、それだけイギリスが折れやすいだろう」

 「それにインドと中東、東アフリカの権益を失えば、イギリスは終わりだな」

 「そうなったら、イギリスは、日本と対決する意味すらない」

 「イギリスが、日本と講和を結べば終わりだよ」

 「では、イギリスは、全力を上げ、インド洋を攻撃してくる可能性があるな」

 「日本は南アフリカで戦えるか。アメリカ海軍はインド洋でイギリスを支援できるか、だよ」

 「ドイツも、Uボートをケープタウンに配備するそうだ」

 「枢軸国側がケープタウンを維持出来て、イギリスをダウンさせれば、アメリカとソ連を分断できる」

 「ドイツ製の工作機械が大量に入るかもしれないな」

 「南大西洋でイギリス海軍が使えそうな港は、フォークランド・・・」

 「フォークランドは、補給の面で難しいだろう」

 「じゃ 西アフリカの・・・フリータウンか」

 「アメリカとイギリスは、上陸したばかりのアルジェリアの防衛線から艦隊を外せないだろう」

 「イタリア海軍がいるはずだ」

 「イタリア海軍なら、米海軍は、旧式艦艇で間に合わせるだろうよ」

 「ダーウィンのイギリス代表は強気のようだ」

 「アメリカの資源が頼りなのだろうか」

 「頼りになると思うよ。しかし、日本と講和を結ばなければ大英帝国は崩壊する」

 「捕獲したアメリカ製とイギリス製の兵器と武器弾薬は慣熟期間が必要だよな」

 「全部、シンガポールに集めているよ」

 「工作機械や土木建設機械も、十分にあるから工業力も、一気に向上するだろうな」

 「策源地が工業地帯になるのか・・・」

 「陸軍で腕に覚えのある者を大量に送っている。移民も進むだろう」

 「それも、陛下の強権か」

 「能力のある方で良かったな。意に沿わない将校を更迭」

 「そして、シンガポールで生産して戦線に輸送する方が楽だ」

 「ゼロ戦6型と疾風は、エリコン20mm丁とブローニング12.7mm2丁を装備するのか」

 「ああ、誉装備なら馬力もあるからね」

 「陸軍の12.7mm機関砲は初速と破壊力が少ない代わりに軽くて発射速度が速い」

 「捕獲したブローニングも多いから使ってみるそうだ」

 「重くて発射速度が遅い、強装だから命数も少ないのが弱点だがね。初速と破壊力はある」

 「エリコンも、弾数を増やして長砲身にするんだろう」

 「それは、ゼロ戦5型、飛燕2型の金星装備機からだ」

 「本当は、ドイツ製のマウザー20mmを装備したいがね」

 「一部を飛燕2型に装備しているそうじゃないか」

 「飛燕2型の方が頑丈に出来ている」

 「ゼロ戦5型も21型より丈夫だが、それでもマウザークラスだと、撃つ度に主翼が歪む」

 「検討中の誉装備の6型は?」

 「さらに肉付けしている6型なら、マウザーでも大丈夫かもしれない」

 「しかし、大量に捕獲できたブローニングと違って数がないから難しいな」

 「潜水艦で運ぶか」

 「まさか、捕虜返還で中立国船のスペイン入港は容易になっている・・・・」

 「ドイツ製の工作機械が入って、マウザーの生産が出来ればいいのだが・・・・」

 「試してみるがね」

 「捕獲できたアメリカ製やイギリス製の工作機械もある」

 「実を言うと部品と金工具だけでも十分な戦力向上だな」

 「しかし、新型機でなく、ゼロ戦の肉付けだけで済ませようなんて安易過ぎないか」

 「空母艦載機だからな」

 「本当は、重量あたりの翼面積が、もっと欲しかったらしい・・・・」

 「陛下がゼロ戦を肉付けさせて発動機を向上させる方を選択したよ」

 「もう勅命で変えられないね」

 「性能が向上しても機体が大きくなれば、搭載機が少なくなって、空母に乗せるのに不利だ」

 「6型は、主翼を折り畳み機構で搭載機は増えるらしい」

 「選択の成否より・・・物事が早いのは、いいな」

 「だが、パイロットの話しだと5型はともかく。6型は、離着艦できるか怪しいらしい」

 「翼面積は、問題あるかもしれないが」

 「21型が栄940馬力で2450kg。5型が金星1500馬力で3000kgか」

 「そして、6型が誉2000馬力で4000kgになる予定だ」

 「質量比で言うと1馬力あたり、2.6kg。2kg。2kgで有利になってくな」

 「航続力は、低下していくよ」

 「単純に肉付けしただけだが急降下速度は、向上している」

 「単純に性能より、数で勝負は良いね」

 「陸上基地を拡張して、航空機の数で圧倒するのか?」

 「生産力で負けても機動部隊を丸ごと建造配備するより、航空基地を拡大して待ち構える方が良いよ」

 「5型の木製版は?」

 「接着剤と木の材質で折り合いがつかないそうだ」

 「空中分解が怖いから練習機だな」

 「やはり、飛燕2型の方が機体が安定している」

 「発動機の重量は、ほとんど変わらないし。海軍仕様の突出型風防で評判も良い」

 「自動空戦フラップは、ゼロ戦5型と飛燕2型から装備するよな。生産が遅れている」

 「品質管理でゲージシステムを採用してから統合規格でも生産が増えていない」

 「単純に足しただけだな」

 「戦場で融通がきく方がいい」

 「工作機械の割り振りを変えるしかないと思うが」

 「捕獲した工作機械が回せればいいが・・・」

 「あっちもこっちも引く手数多だからな」

 「Aクラスの工作機械は、マザーマシンで取られるから・・・・・・」

 敷地内に黒い車が数台入ってくる。

 捕獲した機体を見に来たらしい。

 「・・・陛下だ」

 「事前通達無しの奇襲か」

 「前回は、赤レンガに夜中の1時に来られたそうだ・・・わざとだな、あれは」

 「弁当持参で泊り込みの将校も増えるはずだ」

 「・・・お迎えは、しないんだよな」

 「最初、全員で出迎えしょうとした将校が飛ばされた」

 「仕事をしていないところを見せると不機嫌になるとはね」

 「先任将校は手弁当持参泊りがけで “日露戦争を思い出す” とか呟いていたな」

 「陸海軍で、内輪揉めする暇も無いか・・・・」

  

  

 ダーウィンの港湾

 倉庫に背広を着た日本人と欧米人が集まっていた。

 周りは、オーストラリア将兵が警備している。

 「日本は、本当に連合軍将兵を無償で、返還してくれるのですか?」 アメリカ代表

 「ええ、連合国所属の陸兵は、返還しますよ」

 「しかし、整備士、パイロット、水兵、戦車兵、特殊能力を持つ将兵は収容所ですがね」 日本代表

 「かまいません。大多数は、命令されて小銃を撃つだけの歩兵ですから」 アメリカ代表。

 「しかし、帰りに空船というのも寂しいですがね」 日本代表

 「その点は、わかっています」

 「連合軍捕虜への補給品を満載しますよ」 アメリカ代表

 選挙で大多数を占めるのは、歩兵の親族だった。

 「捕虜を食べさせるのも、監視するのも面倒でしてね」 日本代表

 「日本側の意図は、わかっていますよ」

 「ただ、その決断ができた “天皇” に感謝するのみです」 イギリス代表

 「陛下には伝えておきましょう」 日本代表

 「ところで、ミッドウェー以降、日本軍の作戦指揮は大変なものですが・・・」

 「本当に陛下が指揮を執っておられるので?」 イギリス代表

 「なにぶん、機密が多いもので・・・」

 「私自身、上層部がどうなっているのか、完全には、知りえてないのですよ」 日本代表

 「天皇が海軍将校と直接面談して人事しているとか?」 アメリカ代表

 「・・・噂は聞いていますよ」 日本代表

 「日本の有力経営者に生産部門を全て任せて、反発した将校を更迭したとか」 イギリス代表

 「そういう、噂はあるようですね。確認したことはありません・・・」

 「できれば、和平について話し合う方が、お互いに有益ではありませんか?」 日本代表

 「まだそういう時期ではないと思いますが」 アメリカ代表

 「条件次第ですが・・・・国民の意思もありますからな」 イギリス代表

 「イギリス国民が日本と戦争したがっているとは、知りませんでしたな」 日本代表

 「宣戦布告したのは、日本では?」

 「わが国は、正当に防衛しているだけです」 イギリス代表

 「日本を宣戦布告するように追い込んだのではありませんか?」

 「イギリス国民に弁明させていただければ理解していただけると思いますが」 日本代表

 「お互いに相手の内政の失態を宣伝し合うようなことは、したくありませんな」 アメリカ代表

 「確かに・・・」

 「ところでアメリカは、何人死ねば講和を結ぶつもりですか?」 日本代表

 「今のところ、その気は無いと思いますが」 アメリカ代表

 「100万人?」 日本代表

 アメリカ代表の顔色が変わる

 「日本は、100万人が殺されれば、どうしますか?」 アメリカ代表

 「お互いに許容できなくなる死傷者の数があるはずです」

 「これ以上の国民を殺されたくない。数が」 日本代表

 「それが、わかっていながら、捕虜返還。わかりませんな」 アメリカ代表

 「降伏した人間を殺したりはしませんよ」

 「人質を殺害するのも後味が悪いですからね」 日本代表

 「日本がアメリカ機動部隊を無視して、上陸作戦艦隊と輸送船団を攻撃した理由がわかりましたよ」

 「天皇は、良い参謀を見つけたようですな」 アメリカ代表

  

  

 東部戦線

 スターリングラードは、完全に包囲されていた。

 冬の嵐作戦が発動され。

 マンシュタイン元帥率いられた3個師団が救出に向かう。

 しかし、ソ連第2親衛軍の戦線にぶつかって、作戦が停滞する。

 天候のいい時間を見計らって、偵察に向かったシュトルヒが戻ってくる。

 まともな飛行場がなくても、適当な広さの広場があれば運用できる機体は便利だった。

 ソ連空軍が撃墜しようと出撃しても、はるか、後方の飛行場からでは、間に合わない。

 対空砲火さえ当たらなければ、簡単に敵の戦線を越えて、帰還する。

 「・・・どうだったね?」

 雰囲気だけで期待できないことがわかる。

 「ソ連軍が、びっしりです」

 「この季節は、電撃戦ができそうな場所なんてありませんよ」

 偵察してきた将校がライカを兵士に渡す。

 「思ったより、T34戦車が多いな。正面を見ただけでも圧力を感じる」

 「・・・兵士を磨り潰している間に戦車を生産したと思いますね」

 「後方にも予備兵力がいましたよ」

 シュトルヒが、森の中へ隠されていく。

 そしてしばらくすると。

   

 ソ連の戦闘機が来襲し、

 対空砲火を受けながら、陣地を機銃掃射。

 シュトリヒ狩りに失敗したと思ったのか。

 天候が悪くなりそうだと思ったのか。

 ソ連戦闘機は引き揚げていく。

 「また吹雪いてきそうだな」

 「ええ、冬季装備・・・・辛いですね」

 「ああ、冬季装備があれば今頃、モスクワを落としていたな」

 「北アフリカに送ったトラックの内4000台もあれば・・・・」

 「ふっ そうだな」

 冬の嵐作戦は、失敗し、第6軍の救出は、不可能となっていく。

  

 

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第06話 1942/11 『ベンガル湾海戦とインド洋作戦』
第07話 1942/12 『ダーウィン捕虜返還事務局と拿捕商船102隻』
第08話 1943/01 『カサブランカ会談とスターリングラード第6軍降降伏』