第13話 1943/06 『第2次アッツ沖海戦』
1943/06/17軽空母モントレー、
アッツ島は、アメリカ軍が上陸したことで陸上戦闘が行われ、
太平洋戦争の焦点となっていく、
日本の捕虜返還船がドサクサにまぎれ、負傷兵と増援部隊を入れ替え。
アッツ島で米軍捕虜を乗船させるとダーウィンに向かう。
アッツ島沖海戦最大の戦果は、アメリカ上陸部隊が橋頭堡に残した10個師団分の軍事物資を捕獲できたことだった。
大和、武蔵は、アッツ島の海岸に野ざらし状態だった。
艦首の底は、破壊され、
応急修理こそされていたが水漏れしていた。
提督、副官、艦長は、艦橋からアッツ島の凍った山脈を望む。
大和、武蔵とも、それぞれに山を背に半減上陸し、
山向こうへの砲撃は、仰角が限られ、
空中観測に頼らなければ撃てなかった。
そして、北海岸の大和と、南海岸の武蔵は相互支援できるかたちで海岸に乗り上げていた。
それも、計算通りで、沖合いに向けられる主砲に死角はない。
大和 艦橋
「・・・提督、次のアメリカ軍捕虜返還の選出は終わりました」 副官
「そうか、純粋な歩兵だろうな」 提督
「はい、確認しました」
「旅団長が良しとすれば、それで良いさ」
「アメリカ上陸部隊の捕虜返還は、基本的に陸軍の仕事だ・・・・」
「しかし、停戦中とはいえ、敵中ど真ん中。静かだな・・・」
「ですが、攻撃されていないとはいえ、大和、武蔵の再浮上は、困難かと」
「艦底の穴だけは塞いだのだろう。艦長」
「はい、ようやく」
「あとは、艦体が錆びないようにするだけだ」
「もっとも、アメリカ軍が本気で爆撃してきたら、ズタズタにされるだろうが・・・」
「停戦中は、砲撃できないのが、辛いですね」
「・・・アッツ島から半径40km圏内は、お互い様だ。こっちも、爆撃されない」
「しかし、捕虜返還が終われば、停戦も終わって、射的の的」
「今のうちに地下施設を拡充すべきす」
「12万人分の装備ですから格納し甲斐もあるのでは?」
「捕虜に聞くと、あれで、8個師団分ぐらいの物資が丸々だそうだ」
「日本軍なら50個師団分に相当しそうだな」
「キスカや本土も、欲しがるようなものばかりです」
「隣のアガッツ島に大型飛行場が建設されたら万事休すです」
「爆撃されるな」
「ええ」
「そういえば、旅団長も怒っていたな」
「味方の砲撃で部下が戦闘不能にされたら気持ちは、わかるが・・・・」
「重油が少ない上に座礁で重心が上に上がった為、命中率が低く、余計に撃ちましたからね」
「ふっ 満タンだった燃料が、あっという間に底を突くとは、大変な作戦だったな」
「たかだか、2600kmを走るのに重油5400トンを消費し切ってしまう」
「それだけでも、この作戦に従事した甲斐がありました」
「平時でやったらクビが飛ぶな」
「艦隊全体では、さらに倍以上だ・・・」
「・・・艦長。次の便で君は、帰還だ。ティルピッツに乗ることになりそうだな」
「提督は?」
「俺は、この地で果てたいと思っている・・・」
「停戦が終われば、この艦を棺おけにするつもりだ」
「どの道、浮上させて、給油することができても、この海域からの脱出は困難だ」
「ですが・・・」
「床の間の飾りなど、北の果てで朽ち果てても良いだろう」
「その方が日本海軍のためになる」
アメリカ海軍は、橋頭堡を捨て逃走したアメリカ上陸部隊に補給するため、
輸送艦隊を出さなければならなかった。
アメリカ機動部隊が給油のため、不在になると、
日本潜水艦の動きが活発になり、輸送船団を襲撃する。
そして、深夜のベーリング海は、僅かに霞、時化ていた。
霞は、座礁の危険性を増し、
時化は、砲撃と雷撃の射線を狂わせた。
プラットフォームの小さい軽巡、駆逐艦は、どちらも命取りだった。
しかし、アッツ島からの誘導無線は、的確にアメリカ艦隊を通報しており、
航空部隊に出された勅命を無駄にしないため、行かなければならなかった。
那珂、川内、神通、夕張
北上、大井、木曾、長良、五十鈴、名取、由良、阿武隈
天龍、龍田、
駆逐艦、吹雪、白雪、初雪、むら雲、薄雲、白雲、磯波、浦波、綾波、敷波、
駆逐艦、初春、子ノ日、若葉、初霜、有明、夕暮
駆逐艦、白露、時雨、村雨、夕立
日本の軽巡14隻、駆逐艦20隻は、出撃準備を整えており、
アッツ島に向かうアメリカ輸送船団を襲撃しようとしていた。
駆逐艦 綾波の艦橋から、軽巡の隊列が見えた。
「戦闘は、停戦海域の外だ」 艦長が念を押す
「了解しています」
「護送船団の進行速度からして、アッツから60km先で補足出来るはずです」 副長
「南の果ての次は、北の果てか」
「やっぱりベーリング海は6月でも寒いですね。波も荒い」
「その代り、アメリカの偵察機に見つかっていないはずだ」
「天候が怪しいから、出撃を見合わせているのでは」
「いや、発見されてなくても待ち伏せされていると思った方がいいだろう・・・」
「少し、霧がかってきている。先頭艦と各艦の計測を誤るな衝突するぞ」
「はい、軽巡の装備している電探は、かなり怪しいですからね」
「ふっ あの花魁は、確かに、よくわからんな。目でも見えないものが見えるとは・・・・」
艦隊上空を一式陸攻のエンジン音が東に向かっていた。
曇っていて編隊は見えないが、それでも20機以上。
帰りに天候の荒れや霧に巻き込まれたら、不時着だった。
深夜のベーリング海は、
アッツ島補給作戦でアメリカ機動部隊と高速戦艦部隊が警戒していた。
アメリカ艦隊、戦艦2隻、重巡5隻、駆逐艦14隻
戦艦ワシントン、ノースカロライナ
重巡ポートランド、インディアナポリス、ニューオーリンズ、ミネアポリス、サンフランシスコ、
駆逐艦14隻。
戦艦ワシントン 艦橋
「提督、やはり、日本側の無電です」
「内容は?」
「・・・これまでの暗号と少し違いますね」
「この作戦のため即席で作ったものかと、もう少し、無線量が増えないと・・・」
「提督。護衛艦18隻、輸送船40隻と合流します」
「そうか、まだ停戦域には入るな」
「はい、日本艦隊は来ますかね」
「日本主力艦隊は、南方に集まっている」
「日本本土は、寄せ集めの水雷戦隊しかないはずだ」
アメリカ戦艦部隊は、日本艦隊を攻撃できるように停戦域の外を周回しており。
通信量から日本艦隊接近の兆候を掴み、警戒体制を取っていた。
「・・・提督。上空に機影をレーダーで確認」
「バカな夜間だぞ。それも、ベーリング海だ」
「20機編隊です」
「天候の荒れか、霧一つで全滅だ」
「航空機を、それも編隊で飛ばせられるわけがない」
「アッツ島からの無線は誘導だったのでは?」
「じゃ まさか・・・」
占守島から出撃した1式陸攻20機がアッツ基地の誘導に従って吊光弾を投下。
吊光弾は、パラシュート降下しながらアメリカ戦艦部隊を上空を真昼のように照らす。
それは、死を宣告するような光だった。
「提督、レーダーが北西に艦影を捕らえました」
「距離12000m、数・・40・・・」
「輸送船団か?」
念のために確認する、
味方を攻撃すれば軍法会議で進退に関わる。
「速い、日本艦隊です」
綾波 艦橋
艦橋に漂っていたのは、アメリカ輸送船団への強襲だった。
アッツ島への輸送を妨害できれば、楽観論でアメリカ政府が折れる可能性も示唆されており、
一式陸攻20機編隊を犠牲にしても良い作戦には、希望を持てた。
不意に闇が強い光で照らされる。
「吊光弾です」
「距離・・・25000・・・」
「旗艦より、最大戦速」
「良し、旧式軽巡に負けるな、突撃!」
「・・・艦長。最近の思いっきりのいい作戦は楽ですね」
「大和と武蔵を捨てたのだから、一式陸攻の編隊くらい捨てるだろうな・・・」
「とはいえ、霧が深くなると苦しいか・・・」
「アメリカは、電探で方向と大体の位置がわかって、射撃ができるそうですよ」
「そういえば、アッツで捕獲した装備に電探があって、そいつの性能が良かったそうだ」
「アッツ島で捕獲したLSTとかいう船も、面白いですね」
「あれにも電探が装備していたそうです」
「捕虜返還船で、本土に持ってきたやつか」
「はい、同期の仲間に聞きました」
「模倣できれば良いが・・・・」
「国産の航空無線機は、聞こえるようになって評判いいようです」
「まったく、艦隊無線は支障なく使えるのだ」
「航空無線が聞こえないなど、米英の機材を理屈も分からず、間違って模倣していたか」
「模倣するだけの工業力がなかったか」
「縦割で艦隊と航空の相互協力体制が確立していないか、どれかだな」
「機密主義は好きですからね」
「しかし、陛下の作戦と捕獲品のおかげでなんとかなりそうだ」
「アッツ守備隊の装備充足率も日本一とか、おかげで装備も一新できるそうですよ」
「キスカ守備隊が羨ましがっていたほどだからな」
「返還船を利用して、少しは送れるだろう。まぁ 日米の馴れ合いだな」
「馴れ合いですか・・・戦う気が失せ・・・艦長。敵艦隊、視認。突撃です!!」
先行する巡洋艦那珂に戦闘旗が上がり。
アッツ島を背にしたアメリカ戦艦部隊を上空を真昼のように浮かび上がらせていた。
計算よりアッツ島よりだった。
それでも停戦海域の外・・・
各艦の艦橋
「全速だ。先頭艦に続け!!」
「全艦、戦闘態勢に入れ!!」
「砲雷長!!」
「砲雷撃戦用意!!」
日本の巡洋艦隊が速度を上げながら、アメリカ戦艦部隊に突入していく。
たちまち、砲声と砲弾が飛び交い水柱が周囲に立ち昇って、艦を揺らした。
恐怖は、軍の統制を乱し、最悪の場合、崩してしまう。
数秒後、大口径砲の直撃で吹き飛んでしまう想像を押し殺し、
敵戦艦に突進していく。
強い将兵の想像力否定は、戦場で生き残る秘訣でもあった。
戦艦 ノースカロライナ
吊光弾に照らされたアメリカ戦艦部隊は、慌てて位置を変え、
接近する反応に向かってレーダー射撃を開始する。
日本巡洋艦隊は、砲撃を受けながら接近、300本近い魚雷を発射していた。
そして、魚雷の射線に乗ったアメリカ戦艦部隊は、次々に魚雷が命中し、沈んでいく。
第2次アッツ島沖海戦
アッツ島は、輸送船団と勘違いして一式陸攻隊を誘導、
日本水雷戦隊は、投下された大量の吊光弾に誘導され、
日本の水雷戦隊は、回避不能な戦況でアメリカ戦艦部隊に突入してしまう。
結果としては、大戦果。
アメリカは、戦艦ワシントン、ノースカロライナが沈没。
そして、重巡ポートランド、インディアナポリスが撃沈され、
さらにニューオーリンズ、ミネアポリス、サンフランシスコが被雷し、
日本水雷戦隊は、アメリカ戦艦部隊と交差しつつ、
アメリカ駆逐艦8隻と撃ち合い、
さらにアメリカ輸送船団にも飛び込み、
護衛艦4隻、タンカー2隻、輸送船2隻を撃沈。
そして、損害も大きかった。
日本の巡洋艦隊も軽巡、北上、大井、木曾、長良。駆逐艦、初霜、有明、夕暮が沈没。
さらにベーリング海に遊弋していたアメリカ機動部隊が補給を終えて、日本艦隊を追撃し、
占守島近海で捕捉。
突入部隊を空襲し、軽巡、天龍、龍田。駆逐艦、初春、子ノ日、若葉を撃沈。
結局。日本は、第二次アッツ沖海戦で、軽巡6隻、駆逐艦6隻を失ってしまう。
日米とも大量の艦艇を失ってベーリング海から後退し、
赤レンガの住人
「海軍は、勘違いといえ、大戦果じゃないか」
「勘違いしたのは、航空隊だろう」
「いや、航空隊を誘導したアッツ島の守備隊だろう」
「米軍の電波輻射を頼りに誘導したのが間違いなんだ」
「東側にいたから多分、護送船団だと思ったんじゃないのか」
「それより、アメリカ機動部隊艦載機が海上を逃げ回る駆逐艦に爆弾を命中させた」
「日本艦隊が損傷していたとしても、アメリカ機動部隊は、完全に再建したようだな」
「高速戦艦部隊は?」
「簡単には、沈まないから、出撃させては?」
「陛下しだいだろうが。電探で負けているから、ベーリング海で使いたくないな」
「燃料の問題があるから、まだシンガポールを動いてないだろう」
「空母を戻せばよかろう」
「翔鶴が修理改装中だろう」
「それだと、第2機動部隊と第1機動部隊を合わせても荷が重いか」
「それにインド洋をがら空きにはしたくないようだ」
「戦力差が開いてくるな。アッツは次に狙われると、やばくないか」
「アッツ島守備隊は、凍土を削って、基地を増設中だ」
「越冬用の補給は停戦を利用して追加で送ったばかり。簡単に落ちないよ」
「アッツ島は、アメリカ軍4万が越冬できるか怪しいな」
「年内は、持つと考えていいのか」
「アメリカ軍次第だろう」
「大和と武蔵の間にあった集積地の物資はアッツ守備隊と大和、武蔵で山分けしている」
「それなりに有利だと思うがね」
「ふ 日本が越冬用に輸送した物資より多い」
「1万人分と12万人分の差だろう。5分の3を奪っても6倍以上の物資じゃないか」
「いや、アメリカ師団の装備は、日本の5倍から6倍以上だ」
「げっ!」
「1万の将兵の内、半分の工兵は、冬季に入る前に帰還させるつもりだったがね」
「そのまま越冬だな」
「内地より物資が豊富だから、彼らも十分な物資のある場所にいたいだろうね」
「寒いところだから食料や水が腐り難い。何とか戦えるだろう」
「しかし、大和、武蔵が橋頭堡に乗り上げて、アメリカ海軍が逃げ出したというのに」
「アメリカ軍将兵4万が戦い続けられるとは・・・・・」
「アメリカ軍の士気が、それだけ高いという事だろう。普通なら降伏だ」
「いや、アメリカ軍の橋頭堡が内陸にまで食い込んでいたからだろう」
「アメリカ軍の物資上陸が早かったのと、大和、武蔵の突入が遅すぎたというべきだな」
「あと4日間早ければ、本当に全面降伏だっただろう」
「そうなっていたら、戦争は、終わっていたかもしれないのにな」
「4万のアメリカ青年のために講和することはないだろう」
「それに4万人の捕虜となると4万ガロンと交換になる。悪くはない」
「なんにしても、アメリカ海軍は、補給難に陥っている」
「アメリカ兵4万人に越冬用の物資を送り届けなければならないが、まともな湾すらない」
「越冬地に選択も南北に分かれている部隊を北西部の平野部に移動させている」
「それに、急がなければ、越冬に失敗して全滅だ」
「今回の作戦で輸送船20隻をほど、撃沈したのだろう」
「だが、半分の20隻は、アメリカ軍に補給することができたらしい」
「ベーリング海は、航空戦に不利な場所だよ」
「霧で敵と味方が分からなくなるし、霧の合間に航空戦をやっても戦果は低い」
「艦隊戦も、地上戦も、霧や時化。天候に左右される」
「まさか出撃させるたびに一式陸攻を捨てるわけにもいかんだろう」
「だいたい、寒すぎてエンジンが動かないそうじゃないか」
「だが、戦果は、はっきりしていないが戦艦を撃沈しているかもしれないのだろう」
「戦果も、まともに確認できない海域で戦いたいと思うか?」
「ははは、できれば避けたいね」
「ところで、アメリカ軍の暗号で、新しい発見があったそうだが?」
「まだ、確かじゃないが、どうも、ナバホ族の言語で暗号を作っているようだ」
「アメリカの暗号M209。M325。SIGABAか?」
「捕虜の尋問というより、発見した書類の分析で、そうらしい」
「まぁ 捕虜にする時、ナバホ族兵士が味方の士官に殺されていたから、たぶん・・・」
「じゃ・・・」
「とりあえず、生き残ったナバホ族の将兵は、捕虜に決まったよ」
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第13話 1943/06 『第2次アッツ沖海戦』 |
第14話 1943/07 『シチリア上陸とクルスク戦』 |