月夜裏 野々香 小説の部屋

    

After Midway

    

第15話 1943/08 『日英ダーウィン協議』

 1943/08/16 空母イントレビット、建造

 1943/08/31 軽空母ラングレーU 建造

 

 ダーウィン日本捕虜返還事務局

 日本が東アフリカや中東へ武器弾薬を供給することを恐れたイギリスは遂に妥協する。

 協議の結果、条件付でイギリス主導で、東アフリカ及び中東の独立を行なう取り決めがなされた。

 イギリスは、完全に利権を失うより、

 宗主国としての対面を保ちながらイギリス側主導で独立させることを選択。

 日本の監視団が中東と東アフリカへ派遣され、

 同地でイギリス・日本と自治政府の交渉が行なわれることになっていた。

 日米英とも、共通していたのは、ソ連の中東侵出を許すつもりがなかったこと。

 イギリスと日本は外交戦略で親密になりながらも、

 日本は、ドイツとの関係からイギリスとの講和に歩み寄れず。

 イギリスは、アメリカとの関係から日本と講和を結ぶことに躊躇する。

 戦争当事国同士が外交戦略上の都合で結託。

 一方の同盟国であるソ連の野心を防ぐという、奇妙な状況も起こった。

  

  

 日本は、中国との講和が進む中で、戦力を満州へと移動させつつあった。

 捕獲した米英製土木建設機械は、本土や各地、戦線で活躍。

 それに注目した軍部、政府、産業界も土木建設機械の量産を進める。

  

 アメリカ機動部隊

 第1群  空母エセックス、ヨークタウンU、プリンストン、

 第2群  空母レキシントンU、バンカーヒル、インディペンデント、ベローウッド、

 機動部隊2群が編成されていた。

 2群とも輸送船団の護衛をしながら慣熟訓練を行い、戦闘能力を除々に向上させていく。

 新型戦闘機ヘルキャットは、ゼロ戦21型より速度と防弾で勝っており、

 機動部隊の航空戦で、優位に戦えると考えられていた。

 対する日本機動部隊も、翔鶴を修理改装。

 第1、第2機動部隊を配備したものの、燃料不足で攻勢に出られないでいた。

 艦載機は、ゼロ戦21型から陸海軍統合機であるゼロ戦5型に切り替えられていく。

 日本は、規格統合で産業機械を効率よく配分しており、

 工業製品の品質は、次第に安定していく。

 金星エンジン装備のゼロ戦5型は、米英から捕獲した治具、部品、無線機、燃料、オイルを使用。

 ドイツからの技術も導入して、稼働率と性能も向上していた。

  HP 重量 速度 航続距離 武装  
ゼロ戦5型 1500 3000kg 620km/h 2000km 20mm×2 12.7mm×2  
飛燕2型 1500 3500kg 600km/h 1800km 20mm×2 12.7mm×2  

 ゼロ戦5型は、ゼロ戦21型の機体をバランス良く強化し、

 飛燕2型と同じ金星1500馬力エンジンを装備していた。

 両機とも自動空戦フラップを装備し、

 陸軍航空隊も、海軍航空隊も、飛燕2型、ゼロ戦6型を配備して基地防空を行なった。

 問題は、ゼロ戦5型、飛燕2型とも捕獲した米英の物資を流用して、

 この性能が維持されていたことにある。

 如何に陸海軍統合規格で工作機械を効率良く再構築。

 生産性が向上しても基礎工業力で劣っていた。

 戦前、輸入した優良オイルなどなく。

 鹵獲した戦略物資は、基幹産業と軍部に集中し、

 民生品の工作機械は、すぐに精度を低下させてしまう。

 南アフリカの工業用ダイヤが入ったのが救いだったものの、安定供給といえない。

 捕獲戦略物資がなければ、品質を維持するだけで精一杯が現状だった。

  

  

 ビスマルク諸島から出撃したライトニング戦闘機、B17、B24爆撃機がトラックに向かう。

 トラック基地は、漁船の通報を受け、

 曲がりなりにも運用に耐える電探を利用し、飛燕2型、ゼロ戦5型を高空に待機させていた。

 レーダーによる誘導と無線による巧みな戦術で爆撃部隊の迎撃に成功。

 アメリカ爆撃部隊に大打撃を与えて撃退する。

 日本航空部隊は、ミッドウェーの敗北後、

 勅命により、アメリカ・イギリス軍基地への攻撃が禁じられていた。

 基地同士が離れていたら、航続力の短いサンダーボルト、コルセア戦闘機を配備しても無駄だった。

 かろうじて、戦線の近いビルマ戦線で対地攻撃で、ごく一部が使用できた。

 しかし、インド独立後、ビルマ戦線の連合国軍は、武器弾薬装備をインドに売却。

 イギリス軍がインド・中東から撤収し、

 地中海戦線に入るとビルマ戦線は消滅してしまう。

  

  

 赤レンガの住人

 「ダーウィン協定は、ほっとしたな」

 「そりゃ 最近、潜水艦による損害も増えてるからな」

 「捕獲した武器弾薬も運び込むのも一苦労だよ」

 「・・・陛下がインド洋から機動部隊を戻していないそうだ」

 「本当に? まさか、大西洋に出そうと・・・」

 「燃料の関係から難しいだろう」

 「アッツが気にならないと思えないが帰還できるだけの燃料は、送っているはずだが・・・」

 「はぁ〜 米英が戦略の意図が読めないのが戦果につながっているのだろうな」

 「戦線を縮小していたかと思えば、突然、インド洋で、南アフリカだからな」

 「北樺太の燃料も、ぶっ飛ぶよ」

 「・・・そういうな。戦果は大きい」

 「パースの米英潜水艦部隊は、面白くないが、本土に回航できるだけの燃料は送れている」

 「ところで、アッツの捕獲品」

 「人質のおかげで持ってこれたがアメリカの部品は素晴らしいな」

 「特に品質が安定している」

 「ああ、アメリカは、戦争相手で最悪の国だよ」

 「アッツは、年内、大丈夫だろうな」

 「軽装で逃げ出したアメリカ兵にとって、停戦は必要だよ」

 「野ざらしの戦略物資を回収する日本守備隊もだ」

 「キスカが爆撃されていることを思えば、そうもいえないがね」

 「総攻撃は?」

 「無理だろう。アメリカ軍最強の海兵隊だ。返還も後回しにしている」

 「もう最強ではないさ」

 「ほかの部隊にも伝染させて、臆病風に吹かれて欲しいな」

 「一度、負ければ、癖になる」

 「特に日本軍が相手だと、降伏してもオーストラリアでバカンスなら降伏しやすくなるからね」

 「それでも上陸作戦部隊の3分の1が戦意を保ったという方が奇跡だ」

 「状況的には全面降伏もあった」

 「アッツ守備隊にあと、一個旅団いればそうなっていたそうだ」

 「元々一個旅団に、工兵旅団が5000では、話しにならないだろう」

 「確かに」

 「今は、2個旅団で10000を越えた。何とか戦える規模だ」

 「もっとも、捕獲した武器と食料のおかげだがね」

 「そういえば、捕獲品にアイスクリーム製造機があったのを聞いたか?」

 「ああ、あれは、大笑いしたそうだ」

 「場所が場所だからな。もっとも、ありがたく使わせてもらっているそうだがね」

 「それを聞いた。内地の兵士が “アッツに行きたい” だと」

 「本当は、日本人を軟弱にしようと思って、持って運んできたんじゃないのか」

 「ありえるな。俺らも食べるか。アイス」

 「カキ氷だろう」

 「そうだな、ちょっと、休憩がてら、外に出るか」

 「物資統制で、砂糖は、少ないそうだがね」

 「アメリカ軍は、前線でアイスクリーム。日本は、内地でも、砂糖少なめのカキ氷か」

 「赤ちゃんは粉ミルクの配給が不足して、成長が危ぶまれてるそうだ」

 「「「はぁ・・・」」」

  

  

 北大西洋上

 アメリカ巡洋艦タスカルーサ

 護衛艦3隻とインド船籍ムルワラを包囲、臨検していた。

 「艦長。日本人は、1514名です」 士官がメモを渡す。

 「他にドイツ向け、イギリス向けの物資も満載か・・・・・」 艦長がメモを見ながら呟く。

 「このまま行かせるんですか?」 副長

 「・・・命令は、そうなっている。捕虜は連合国側の方が多い」

 「そして、日本は、捕虜を返還している」

 「ここで、彼らを抑えれば、インドとの関係も悪化」

 「さらに、こちらの捕虜も、どうなるかわからないだろう」

 「戦争しているのに馴れ合いですか?」

 「馴れ合いにさせられたんだ。捕虜返還でな。まるで詐欺だ」

 「面白くありませんね」

 「Uボートが沈めてくれないかな」

 「まさか、自国向けの戦略物資も満載しているのに、沈めないでしょう」

  

  

 インド船籍ムルワラ

 船橋

 アメリカ海軍トンプソン中尉は、ムカムカと行き来し、

 船旅を楽しんでいる日本人を見ていた。

 包囲するアメリカ艦艇も彼らに話題を提供しているだけで刺激の一つでしかない。

 武装していないが紛れも無く日本将兵であり、

 もちろん、船に日本の軍装備品が積まれて、イギリス軍向けになっていた。

 全てが欺瞞だった。

 スペインに着けば現地の企業が購入し、

 ドイツを経由しサルジニア島とコルシカ島の日本軍に引き渡される。

 船橋

 民間の私服を着た一人の日本人が入ってくる。

 「君が指揮官かね」 トンプソン中尉

 「代表ですよ」 日本人

 「渡航目的は?」 トンプソン中尉

 「・・・観光」 日本人

 二人とも苦笑いする。

 聞く方もくだらないが、答える方もくだらない。

 最初から互いに渡航目的がわかっている。

 儀礼的な会話でしかなかった。

 本来なら臨検して、そのまま、アメリカ本土で捕虜収容所行きのはず・・・

 インド人船員が興味深そうに見ていた。

 「・・・良い旅を・・・」

 トンプソン中尉は、名簿を日本人に渡すと、

 そのまま、船橋を降りて行く、

  

 

 クルスク戦

 ドイツ軍は、兵員90万人、

 パンター、フェルディナント、フンメルを含めた戦車及び自走砲2700両。

 航空機1800機。

 東部戦線の総力のうち6割から7割を投入していた。

 一方、ソ連軍は、情報の信憑性に疑惑を感じながらも、

 クルスク周辺一帯にパック・フロント(対戦車縦深陣地)を構築。

 将兵133万人。戦車及び自走砲3300両、火砲2万門、航空機2650機に及ぶ兵力を配置。

 さらに後方で補給できるだけの兵員130万、

 戦車及び自走砲6000両、火砲2万5000門、

 航空機4000機の予備兵力を前線後方に待機させる。

 

 史上最大の激戦は、7月から始まり、

 強襲に成功したドイツ軍が終始主導権を握る。

 そして、息切れしつつもドイツ軍は、クルスクを包囲。終局を迎えつつあった。

 ここで、決定的な役割を果たしたのは、ドイツ軍お得意の機動戦術ではなかった。

 北アフリカ戦線からドイツ軍30万を引き抜く事ができたこと。

 そして、イタリア軍も合わせて、予備兵力60万もの将兵を投入する事ができたことだった。

 これは、米英海軍の輸送不足が祟った事であり、

 攻勢能力が低下していたことが上げられる。

 弱兵と思えるイタリア軍も、ドイツ製の武器弾薬を持たせると、

 クルスクを包囲したドイツ軍の後方と側面を何とか守りきる。

 そして、100万ものソ連軍がクルスクに取り残された。

  

 

 クルスク包囲に成功すると攻守変わって、ドイツ軍が、防衛線を構築する。

 独伊軍の包囲を破ろうとT34戦車とKV1戦車が迫ってきてくる。

 既に多くの戦車が破壊され、打ち捨てられていたが、躊躇せずに突っ込んでくる。

 タイガー戦車

 「・・・・距離1200m。撃て!!」

 88mm砲弾が、目標のT34中戦車の砲塔を撃ち抜いた。

 数に任せて押し寄せるソ連軍戦車の大半は、無線機が装備されておらず、

 連携が上手くいかず撃破されていく。

 タイガー戦車の運用でいうと鈍重なだけあって防御で発揮しやすかった。

 「次ぎ3時だ。砲塔を回せ!」

 機動力と連携の優れた。ドイツ戦車隊がソ連戦車部隊を翻弄し。

 タイガー戦車は、射的の的の様にT34戦車を撃ち抜いていく。

 包囲線に沿って、タイガー戦車が点々と要塞という形で配置され。

 3号戦車、4号戦車、5号戦車(パンター)が機動防御を受け持った。

 ソ連軍で一線級のベテラン兵士は、クルスクで包囲されており。

 実戦経験に乏しい2線級の部隊が独伊包囲部隊に対し、攻撃を掛けてくる。

 年内、もてば、冬季戦に移行して停滞する。

 ドイツ軍の損害は、大きく攻勢を掛けることは出来なかった。

 それでも、包囲を維持する程度のことは出来そうだった。

 ドイツ本国への爆撃も、少しばかり減っていると聞く。

 イギリス海軍が著しく減少した事が輸送を滞らせ。戦略爆撃の間隔を広げている。

 その事が、ドイツの軍需生産を増やす結果につながり、イタリア軍へも武器弾薬を供給。

 ドイツ軍は弱体化していても、空陸一体の機動防御と、

 それなりに使えるイタリア軍兵士がいるのか、ソ連軍の攻撃を挫かせていた。

 

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第16話 1943/09 『イタリア降伏』