月夜裏 野々香 小説の部屋

    

After Midway

    

第17話 1943/10 『トラック防空戦』

 アッツ島

 濃霧が視界を遮り、寒風が吹き荒れ、海は時化、

 通常、強風が吹けば濃霧も掠れて行くはずが、中々晴れない。

 「ベーリング海は出鱈目な天候だな・・・」

 小石大の雹が大和と大地を叩きつけていた。

 一際大きな音が響くと、こぶし大より大きな雹だったりする。

 悪化していく天候は、歩哨すらも、命懸けにさせてしまう。

 ベーリング海は、少しずつ、冬季戦に移行していた。

 アメリカ軍将兵4万は、極寒に震えながら越冬しなければならず。

 日本軍1万は、洞穴の比較的、寒い中で越冬する。

 アッツ島は、交戦不可能な戦線となり、

 戦場という呪縛から解き離たれてしまう。

 そして、焦点は、インド・太平洋戦線全域へと広がっていた。

  

  

 トラック上空は、飛燕2型とゼロ戦5型がライトニング戦闘機と空中戦を繰り広げていた。

 そして、B24爆撃機の大編隊が迫ってくる。

 高々度は、ライトニング戦闘機が機動力と速度で勝っていた。

 しかし、ゼロ戦5型と飛燕2型が数に任せて乱戦に持ち込む。

 空中戦を繰り返すうちに次第に高度が低下し、

 大混戦になると、日本側が優勢になっていく。

 ゼロ戦5型と飛燕2型は、中高度以下になっていくと格闘戦の強みがまし、

 ライトニング戦闘機の内側へと回り込み撃墜していく。

 飛燕2型

 「ライトニングは、だいたい、片付けた。B24をやるぞ」 隊長

 「了解です」 パイロットA

 「サッチウィーブというのをやってみるか、続け!」

 「はい」

  

 トラック防空戦は、日本の飛燕2型、ゼロ戦5型が活躍し、

 アメリカ戦略爆撃部隊が大損害を出すという結果が何度も繰り返される。

 大統領は、あまりにも不甲斐ない太平洋の戦局に怒り、

 太平洋艦隊司令長官に積極的な攻勢を命じていた。

 

 

 赤レンガの住人

 「誉エンジンの方は?」

 「かなり、際どい設計だ」

 「無理しているのが良く分かるが耐久時間が短そうだな」

 「というより。飛んでる途中でエンジンブローで爆発しそうだ」

 「「「「・・・・」」」」

 「稼働率を維持するのは大変だよ」

 「性能は悪くないだろう」

 「米英の治具や部品が大量に振り分けているから何とかなる」

 「アメリカ製の部品が使えるの時点でレッドコピーというのが分かるね」

 「しかし、トルク圧が小さいから加速性に欠けるな」

 「ゼロ戦6型に誉エンジンを装備できそうか」

 「そのつもりでゼロ戦6型の機体を再設計している」

 「まあ、バランスよく肉厚を増しただけだが、主翼折り畳み機構のお陰で気持ち性能が落ちる」

 「折り畳み機構無しのゼロ戦6型は、予測通りの性能になるだろう」

 「問題は、生産体制だな」

 「これまで通り、ゼロ戦21型からゼロ戦5型。ゼロ戦5型からゼロ戦6型で良いと思うがね」

 「陸上機は、飛燕2型から疾風だろうな」

 「疾風は、元々、誉装備で機体設計しているから問題ないだろう」

 「むしろ、問題はエンジンだと思うね」

 「「「「・・・・」」」」

 「ゼロ戦は、空けていた穴が塞がってしまったな。生産性も少しは考慮されている」

 「どちらにしろ、主力は、生産性に勝る飛燕2型、疾風になるよ」

 「銀河の誉装備は良いとして、3式輸送機は使えそうなのか」

 「大型4発輸送機だろう。爆撃機じゃないのなら話しは早い」

 「陛下の英断のお陰だな。火星4発で10tの物資を安全に輸送できる」

 「前線への輸送は、これで、なんとかなる」

 「金星4発の方が良かったんじゃないのか」

 「飛行場が小さいと降りられないだろう。アルミも余計に使う」

 「マーシャルも、ギルバートも、飛行場が小さいし、要塞化も遅れている」

 「金星の方が輸送機を小さく作れる」

 「その分、積載量と稼働率に響くだろう」

 「エンジンの大きさは、稼働率と関わってくるからコンパクトが必ずしも、いいわけでもないよ」

 「飛行場は大きくしているだろう」

 「まぁ 金星より、火星の方が大きくて整備しやすいがね」

 「アメリカ海軍がマーシャル・ギルバートに攻めてくる可能性が高いそうだ」

 「高速戦艦部隊と第2機動部隊をトラックに配備している」

 「飛行場を拡張するまで、がんばってくれればいいが」

 「第1機動部隊は・・・」

 「まだ、インド洋か。大丈夫だろうか、分散するのは危険では?」

 「ディエゴガルシア島の防備次第だな。あそこを失うとインド洋の制海権を失う」

 「大型飛行場を建設して要塞砲台も配備しているから。何とか戦えるだろう」

 「マーシャルとディエゴガルシアの戦略的比重の問題だろう」

 「ディエゴガルシアを失えばインド洋を失う」

 「しかし、マーシャル・ギルバートを失ってもミクロネシア防衛は難しくない」

 「ポナペの要塞化は、終わったんだろう」

 「まあ、なんとかな。火山を刳り貫いて飛行場を建設したから爆撃を受けても何とか戦える」

 「山を要塞化しているから、トラックより防衛力がありそうだ」

 「火山島の山を刳り貫くのは危ないが、それでも戦えるのなら悪くない」

 「パナペの要塞化が進めば、マーシャルへ要塞化を進める」

 「アメリカ軍の進攻とどちらが早いかな」

 「もう一度上陸作戦を失敗させれば、アメリカ軍の士気も低下するだろう」

 「その点は、参謀本部も期待しているようだ」

  

  

 イギリス本土

 ドイツ本土爆撃に使える護衛戦闘機は、P38ライトニング戦闘機だけだった。

 初期のアリソンエンジン装備のムスタングは、航続力が申し分なくても出力が足りず、

 高高度戦闘で劣る。

 しかし、イギリス空軍でマリーンエンジンに換装したムスタングは生まれ変わり、

 高高度戦闘も、長距離侵攻でも十分に応え、ドイツ本土爆撃に投入される。

 

 アメリカ戦略爆撃部隊は、B17爆撃機による昼間の戦略爆撃。

 イギリス戦略爆撃部隊は、ランカスター爆撃機による夜間の戦略爆撃が多かった。

 戦略爆撃を昼夜に分ける利益はあった。

 ドイツ空軍は不足しがちの資源を通常の戦闘機だけでなく、

 夜間戦闘機にも振り分けなければならず。

 また、レーダーの重要性も増し、少ない予算が分散させられ、振り分けられ、

 ドイツ帝国の予算と資源の振り分けは、さらに苦しくなっていた。

 

 イギリス本土の飛行場に居並ぶ、爆撃機の数は、多く。

 いくつもの飛行場から飛び立つと、1000機爆撃の飽和攻撃となり、

 ドイツ空軍の戦闘機群を圧倒する。

B17爆撃機

 

 戦闘機同士の戦いは昼だけでなく、夜間も行われていた。

 ドイツ空軍は性能の良いハインケル社製の夜間戦闘機He219ウーフが欲しいものの、

 ナチスとハインケル社は、仲が悪かった。

 いくつかの経緯があって、ハインケル社と系列企業と共に日本へと移籍することになった。

 メッサーシュミット社がハインケル社の工場を運営し、

 ウーフーは、ハインケル社の最後の置き土産ともいえた。

 ハインケル社の日本移籍。

 ナチの陰謀とも、メッサーシュミット社の謀略とも、日本が黒幕ともいわれる。

 しかし、真実は闇の中であり、

 国家産業の生き残り戦略上、都合が良かった、ともとれた。

 三者とも、いくつかの取り決めと調整を行い、

 真相は、日独政財界の圧力の流れのまま、ハインケル社の日本移籍が決まった、

 が、実情に近い。

  

  

 ドイツの飛行場

 フォッケウルフが滑走路に進入。

 

 パイロットが降りてきて、技術者の前に立つ。

 「どうだい?」

 「融通がきかない気もするがスイッチのオン・オフはパイロットが決めることだ。悪くない」

 「そうか、悪くないか・・・」

 「なあ・・・本当に自動空戦フラップは日本の技術なのか?」

 「日本の技術というのがなければ、安心だがね」

 「それは、心配ない。部品は、ドイツの工作機械で作る」

 「それならいい」

 「ところで、ウーフは、どうなるんだ」

 「ああ・・・メッサーシュミットで製造権を買って生産するそうだ」

 「ナチも、メッサーシュミットなら文句は無いそうだ」

 「ハインケル社の日本への移籍は、構わないのか」

 「全てにおいて、メリット・デメリットはあるよ」

 「独り善がりにメリットばかり追い求めるのは不自然だ」

 「日本でウーフを作るというのは?」

 「作るかもしれない。だろうな」

 「日本の工業力は足りないだろう」

 「そうでもないだろうよ。資源の代わりに工作機械を送っている」

 「日本か・・・ジメジメしているそうだが」

 「らしいな」

 「お偉いさんは、どうするつもりかな?」

 「ドイツ軍は、クルスク戦で戦線を立て直しても酷い状況だよ」

 「日本に国家資源を避難させるのはありだろう」

 「物量で負けているからな」

 「それでも、米英戦略爆撃部隊の空襲の間が、少しばかり開いている」

 「まだ、危ないのか?」

 「第一次世界大戦のときと同じ。ドイツ工業は守る必要がある」

 「当たり前の行動はするよ。今回は、日本が増えたがね」

 「避難場所か、敗北主義だな」

 「弾が飛んできたら逃げる。これは、自然だよ」

 「ふ 確かにイタリア軍並みに自然だな」

 「空も厳しそうだな」

 「イギリス本土爆撃とスターリングラードの空輸で多くのパイロットが失われた」

 「素人パイロットでは、どんなに高性能機でも勝てんよ」

 「だろうな・・・」

 「・・・あの、緑の機体。あれは、なんだ?」

 「インド船で、持ってきたらしい」

 「日本の零戦5型と飛燕2型だ。どっちも、空冷1500馬力を装備している」

 「ふっ バカな連中だ。燃料を持って、くればいいのに・・・」

 「そういうな。ドイツ人パイロットの評価を知りたいのさ」

 「褒めて、もらいたいのか」

 「褒めてやれよ。せっかく持ってきたんだ」

 「ははは、じゃ “よく持ってきた” と褒めれば良いんだな」

 「ああ、代わりにドイツの技術の結晶を持っていくだろうよ」

 「やれやれ」

 「そういうな。日本が強くなれば、それだけ、アメリカ、ソ連の戦力を削ぐ事ができる」

 その後、中高度以下では、零戦5型と飛燕2型が有力な戦闘機であると証明される

  

  

 

 

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第17話 1943/10 『トラック防空戦』
第18話 1943/11 『日中講和条約』