月夜裏 野々香 小説の部屋

   

After Midway

    

第20話 1944/01 『ゼロ戦6型と疾風』

 1944/01/31 空母フランクリン 建造

 

 第2次ディエゴガルシア島沖海戦後

 日米両海軍は、作戦能力と戦意を大幅に喪失させ、

 イギリス海軍に至っては、戦艦を全て失い海軍国の面目もない状態といえた。

 そして、インド・太平洋戦線は停滞する。

 しかし、この頃、ムスタングが登場し、

 トラック防空戦は、新たな局面を迎えようとしていた。

 十分な航続力を持ったムスタングとライトニングに護衛されたアメリカ爆撃部隊は防御力を増し、

 疾風、ゼロ戦6型と互角以上に戦うことが出来た。

 ムスタングの強力ぶりは地の利のない遠征で、損失比1対1となったことから明らかだった。

 

 

 

 赤レンガの住人

 数枚の写真が机の上に載っていた。

 「・・・ムスタングがついに太平洋に来たか」

 「かっこいいなぁ〜」

 「ムスタングが時速700kmか・・・」

 「中高度ならゼロ戦6型も700km、疾風も680kmで良い勝負だ」

 「しかし、中高度以下で優勢でも、高高度になれば一気に機動性を失う」

 「やはり同じ2段過給器でも、水冷エンジン装備のムスタングは優勢だよ」

 「欧州では、知られていたが高高度だとゼロ戦6型も疾風も勝ち目がないな」

 「だけど、外国製水冷エンジン装備の飛燕は、ムスタングより強力だそうだ」

 「捕獲したマリーンエンジンやグリフォンエンジン。ドイツから貰ったダイムラーベンツのエンジンか?」

 「ふ、水冷エンジンを国産できないのが辛いな」

 「陛下が止めたからだろう」

 「工作機械を金星、誉、火星のエンジンに集中するのは悪くないよ」

 「排気タービンは、研究しているが見込み薄だな。とても熱に耐えられない」

 「2段過給器の方は、まだ、何とかなりそうだ」

 「サンダーボルトは、捕獲したものを知っているから良く分かっているよ。重すぎる」

 「同じような機体は感心しないな」

 「どちらにしろ、前線の連中は、性能不足を俺らのせいにするぞ」

 「数で負けないようにしているのだから、そういわれてもな」

 「といってもな、教官不足と燃料不足でパイロットを量産できないのだ」

 「誰のせいだろう」

 「「「ふっ・・・」」」

 「アメリカの大馬力エンジンとブローニング12.7mmの組み合わせが優れているんだろうな」

 「弾道性に優れ破壊力も初速も、良い。発射速度が遅いから数を載せてバラバラと撃ってくる」

 「それでいて重量が重いから、大馬力エンジンを前提にした航空開発だな」

 「それにたいする日本の回答が、雷風だろう」

 「ゼロ戦6型、疾風の防弾も以前の機体に比べて強くなっているが雷風の防弾はヘルキャット並みだ」

 「12.7mm弾で簡単に落ちなければ、アメリカ軍の航空作戦計画は破綻する」

 「雷風がムスタングに勝てるかだな」

 「25mm機関砲は、威力が大きい代わりに弾数が少ない」

 「武装が寂しいが、火星2200馬力は2段過給器を装備するから高高度性能でも何とか戦えるだろう」

 「どちらかというと、対爆撃機用に使いたい機銃だな。対戦闘機用は、もったいないような気もする」

 「雷風は、開発途上。ムスタングは、まだ数が少ない。ドイツ空軍にがんばってもらうしかないだろう」

 「ドイツ空軍の反撃は始まっている。自動空戦フラップを教えたのが良かったのだろう」

 「一部のパイロットでは、速度低下で使いにくいらしいが?」

 「慣れていないだけじゃないか。調整が必要かもしれない」

 「フラップが下がれば速度も下がって旋回力が増す。調整の問題と言えないよ」

 「ドイツ空軍の迎撃で米英戦略部隊とソ連空軍は大きな損害を出していると思うが」

 「問題は、ドイツ製の自動空戦フラップの方がスムーズで性能が良い事だな」

 「ドイツに送った。飛燕2型と疾風は?」

 「飛燕2型に水冷エンジン装備」

 「疾風にBMWを装備したがメッサーシュミットやフォッケウルフより総合力で勝っていたぞ」

 「航続距離が長くて、総合力が増したと言われてもね」

 「どちらにしろ、外国製エンジンに機体を割り振るそうだ」

 「はあ、何でもかんでも外国製か。オクタン価が違うから問題ありなんだがな」

 「そういえば、ドイツのオクタン価は110か」

 「日本もオクタン価100から110にして、さらに120にするつもりだ」

 「アメリカはオクタン価140だそうだ。捕虜交換が楽しみだな」

 「アメリカ製のガソリンがなかったら第2次ディエゴガルシア島沖海戦。負けていただろうな」

 「そうだな。速度も、航続力も、稼働率も、まったく違ってくる」

 「ていうか、ゼロ戦6型の700kmと疾風680kmは、捕獲した部品と燃料を前提した性能だろう?」

 「うん、純国産だと、50km近く速度が落ちる」

 「規格統合したんだから、もう少し何とかならないの?」

 「規格統合したから、全部隊の平均値でそうなんだよ」

 「規格統合できなければ、まともに飛べるのは、精鋭部隊で100機もないよ」

 「誉って、ギリギリだから・・・」

 

 

 ダーウィン港の堤防

 「「「・・・・・・・」」」 ため息

 第2次ディエゴガルシア海戦の報告は受けていた。

 日本代表、イギリス代表、アメリカ代表が堤防で釣りをしていたが沈黙が支配する、

 周囲のオーストラリア兵も戦況を知っているのか、沈痛な表情だった。

 損害の大きさは、確認されているだけでも甚大すぎて言葉が見つからない。

 それでも3人が揃って堤防で魚を釣っている。

 それが日課になっていたからであり、虚勢を張りながら喪に服しているといえた。

 遠くから捕虜返還船が汽笛を鳴らしながら接近してくる。

 日本の大型艦の建造は、大鳳型2隻、雲龍型4隻が検討されていた。

 それ以外は、ゼロ。

 このまま戦えば、日本海軍から大型艦が消えてしまう。

 日本代表は、そう思うと先行きが不安になる。

 「「「・・・・・・・」」」 ため息

 アメリカは、大型空母を大量に生産していた。

 日本政府は、アメリカが許容できる人的損失を200万から300万と推測していた。

 アメリカ戦艦1隻で2500人とすれば、4隻で10000人。割が合わない。

 上陸作戦中の輸送船団を襲った方がマシ。

 戦艦撃沈で与える衝撃は大きかった。

 しかし、造れば済むという発想もある。

 そして、アメリカ政府は、そう考えることができる世界で唯一の国だった。

 なんとなしにアメリカ代表を見ると、魚が釣れたのかリールを巻いていた。

 顔色は、良くない、

 それでも魚が釣れると嬉しいものだ。

 「「・・・・・・・」」 ため息

 イギリス代表を見ると、まるで死んだように釣竿を垂らしている。

 もはや、日本と戦争する意味すらないのに新鋭戦艦4隻とレナウンを沈められている。

 大陸反抗作戦を考えれば、泣きたくなる心境だろうか。

 もっとも、泣きたいのは、日本代表も同様だった。

 捕虜返還船は、次第に大きくなってくる。

 日本とアメリカ、イギリス、オーストラリアの職員が堤防にテーブルといすを並べ、

 受け入れ準備をしていた。

 いつものように軽口を話す者はいないようだ。

 ただ事務的に処理をしているだけだった。

 「「「・・・・・・・」」」 ため息

 

  

  

  

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 月夜裏 野々香です。

 『ミッドウェー海戦のあと』の戦局は、史実より良いようです。

 天皇の即断、即決で随分、開発時間を短縮することが出来て、戦況に大きな利益をもたらしました。

 しかし、天皇の決断が本当に正しかったのか?

 という問題を少しばかり書くことにします。

 実は、とんでもない傍若無人な英断もあったわけです。

  

 ゼロ戦シリーズが、それ。

 天皇の勅命で、単純に栄、金星、誉とエンジンの重量増加に合わせて、

 機体の肉厚を増やしていきましたが、これが大問題。

 ゼロ戦が艦載機という観点から “とんでも” な勅命になってるようです。

 エンジンの直径。

 そして、機体重量と主翼面積面積の関係は、離着艦で重要です。

 ここで注目すべきは、航空力学上。

 艦載機として重要な、揚力と密接している翼面荷重と馬力荷重でしょうか。

 翼面過重で言うと、ゼロ戦6型が、169(kg/u) ヘルキャットが167(kg/u) となって、

 離着艦は、ヘルキャットより困難。

 烈風の機体が、どうして大きくなったのか、揚力を増やして、離着艦を容易にしたかっただけ。

 
 

エンジン

馬力

エンジン径

(mm)

全備重量

(kg)

翼面積

(u)

翼面荷重

(kg/u)

馬力荷重

(kg/馬力)

ゼロ戦21型

栄12型

950

 

2389

22.44

106

2.51

ゼロ戦52型甲

栄21型

1100

1150

2743

21.30

129

2.8

ゼロ戦54型丙

金星62型

1350

1218

3300

21.30

155

2.6

ゼロ戦5型

金星2型

1500

1218

3500

22.44

156

2.3

ゼロ戦6型

誉2型

1800

1180

3800

22.44

169

2.1

烈風

誉22型

1700

1180

4410

30.80

143

2.6

隼2型

ハ115型

1130

 

2590

21.40

121

2.3

飛燕2型(5式)

金星2型

1500

 

3495

20.00

175

2.3

疾風

誉2型

1800

 

3890

21.00

185

2.16

               

ワイルドキャット

 

1200

1224

3617

24.15

150

3.0

ヘルキャット

 

2000

1342

5190

31.00

167

2.6

コルセア

 

2200

 

5466

29.17

187

2.5

               

メッサーシュミットG型

 

1800

 

3150

16.05

196

1.75

ムスタング

 

1695

 

5490

21.65

253

3.2

  ※この色の機体は、『ミッドウェー海戦のあと』では、開発量産されませんでした。

 因みに火星23型甲(1340mm)でエンジン径/馬力でもダブルワスプに劣る。

 エンジン直径が大きくなると、空気抵抗が大きくなり、視界も悪くなります。

 翼面荷重、低速での安定に直結、機体重量を翼面積で支えているので、

 翼面荷重が小さいと離着艦で有利です。

 馬力荷重は、小さい方が上昇力、機動力で有利。優先事項でしょうか。

 ヘルキャット、コルセアは、エセックスに離着艦できたことから、

 ゼロ戦6型でも、瑞鶴クラスなら何とかという感じです。

 しかし、相当な熟練パイロットでなければ無理だと思われます。

 カタパルト使用と飛行甲板の長さが違うので単純には比較できませんが・・・・

 コルセアが大戦末期になって艦載機として運用できるようになったのは、少しばかりの小改良と

 艦載機パイロットの質の向上が認められただけでした。

 

 そして、『ミッドウェー海戦のあと』で、ゼロ戦6型が艦載機として運用できたのも、

 ガナルカナル攻撃をせずに前線を後退。

 防空に徹し、損失を最小限に出来たこと。

 本土での品質管理向上で、不時着水せずに無事に前線まで到達できたこと。

 ベテランパイロットが数多く生き残ったことです。

 さらに捕獲した無線機、整備消耗品、治具、燃料が大量にあったことも大きな戦力になりました。

 当然、源田実など格闘戦派は更迭され相手にされず。

 というより、勅命で勢いが落ち込んだようです。

 発言は、自動空戦フラップで少しばかり目立ちましたが、ほとんど考慮されなくなりました。

   

 そして、インド船でドイツの優秀な工作機械を輸入できたことです。

 史実では、大戦後期になるとマザーマシン(工作機械を製造する工作機械)で、

 工作機械を製造できず戦闘機を製造した時点でジリ貧。

 稼働率は目を覆うばかり、絶望的でした。

 戦争後期、まともに飛べる航空機が激減したのは、女工だけが原因で、なかったわけです。

 アメリカでも女工が、がんばっていましたから・・・・

 これも、中立国インド船舶でドイツの工作機械の輸入し、

 捕獲部品と燃料と合わせて、品質を維持することが出来ました。

 これも連合軍捕虜返還という裏技がなければ不可能だったわけです。

 

 ゼロ戦6型は、主翼折り畳み機構を採用し、重量が増加しました。

 烈風より機体が小さく、艦載機として、揚力不足を抱えつつも軽量ですみました。

 当然、艦載機数に反映され、

 無事に空母に帰還できれば乗機交換で反復攻撃も可能になります。

 また、ゼロ戦6型後期は、大量に捕獲した初速の早いブローニング12.7mm機銃4丁装備。

 数で負けなかったもありますが、

 高速の米軍機に命中弾を与えられたことも大きいでしょうか。

 また、品質向上と工数削減で大量生産でも、ある程度、改善されました。

 もっとも、ゼロ戦シリーズは、芸術品という面が強く残され、

 生産性を追及したのは、飛燕2型(金星)、疾風(誉)の方で。間違いなく主力機です。

 

    『ミッドウェー海戦のあと』 生産機数

機体

エンジン

生産機数

 

ゼロ戦21型

3000

 

ゼロ戦5型

金星

3000

 

飛燕2型

金星

8000

 

疾風

8000

 

ゼロ戦6型

3000

 

雷風

火星orダブルワスプ

2000

 
       
       

 というところです。

 かなり少なめ、という点が痛いところですが規格統合で品質が向上しています。

 ともかく、飛べる。戦える点で史実より良く。

 製品番号が合えば、何とか使えるのが前線で希望です。

 戦闘機だけで戦っているわけでありませんが、戦闘機が最重要航空機です。

 それとは、別に捕獲機体やエンジン換装機体も、それなりに活躍しています。

 飛燕2型にマリーン。パッカード。アリソン。ダイムラーベンツ。ユモを装備した機体。

 ムスタング、ライトニング、ヘルキャット、コルセア、ワイルドキャット、ウォーホークなどの外国機。

 性能は悪くないのですがエンジン音の関係から味方の対空火器に誤射される場合も多く。

 離着陸が目的で滑走路に進入するため当たりやすく、

 パイロットから思いっきり恨まれそうです。

 機体を緑色に塗りたくっても性能が良くても、人間関係がこじれるので前線で使い難い機体でした。

 雷風は、ダブルワスプ装備機の性能が良すぎて、思わず出来心で作った機体が・・・・数百機

  

 

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第19話 1943/12 『第2ディエゴガルシア島沖海戦とカイロ会談』
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第21話 1944/02 『バトル・オブ・ドイッチュランド』