月夜裏 野々香 小説の部屋

     

After Midway

第24話 1944/05 『スペインとインド』

 1944/05/08 空母サラトガU(タイコンデロガ)

 

 ベーリング海で天候の回復しつつあった。

 僅かな合間を縫って、アッツ攻防戦が始まる。

 アメリカ軍の攻勢と日本軍の守勢。

 日本のアッツ島守備隊は、その装備で標準的な日本軍の20倍近い規模。

 それこそ、腐るほどある食料と兵器・武器弾薬。

 日米両軍とも同じアメリカ製の兵器と弾薬を景気良く使う。

 おかげで銃声で敵味方が分からず、

 霧になるたびに両軍とも混乱する。

 そして、アメリカ軍は、アッツ島南東47kmにある小島アガッツに上陸。

 航空基地の拡張と建設を始める。

 なぜ、日本軍がアッツのアメリカ軍に総攻撃をかけないのか、

 天皇がアッツ島を日米戦の焦点にしておきたかっただけであり、守備表示を望んでいただけだった。

 

 

 

 

  

 この時期、ハインケル系として日本に移籍したドイツ人は秋田に住みはじめ、

 その影響なのか、

 日本は、ドイツ同様に大量生産、品質管理という概念を掴み始めた。

 より機能化した生産体制へ移行していた。

 職人気質の人間は、より名人芸を必要とする部署へ移動していく。

 日本が規格統合化した2000t級龍号型潜水艦は、涙滴型で

 戦艦と同じVC鋼鉄を使用しながら量産型になっていく。

 潜航深度。静粛性と居住性に優れた潜水艦として列強で最高の性能になった。

 製鉄の段階で最大直径8mのドーナツ状のVC鋼鉄を加工。

 それを結合させることで耐圧性能を向上させていく。

 4200馬力と機関が小さい割に艦体構造が流線型に近く、

 水中速度の速い潜水艦だった。

 日本が戦艦、空母、重巡の建造を諦めたことによって起きた逆説的な出来事ともいえる。

 大型艦艇の建造を止めたことで龍号型の量産化は進み、

 それとは別に3600t級伊400型潜水空母の建造も行われていた。

 

 

 赤レンガの住人たち

 「ドイツは、いよいよ、危ないらしい」

 「東部戦線か」

 「戦力比で割り振りが利かなくなって、大西洋岸と地中海岸は、戦力を配備できないらしい」

 「二年前は、モスクワが陥落寸前だったのにソ連の強靭さは本物だな」

 「米英戦略爆撃部隊がドイツの基幹産業を破壊しようとしているからだろう」

 「ベアリングの工場を完全に潰せば、兵器は作れない」

 「人工石油の工場を破壊すれば、飛行機、戦車、工場は動かない」

 「アメリカ人の戦争のやり方は合理的だな」

 「しかし、ドイツが負けるとソ連が日本に攻めてくる」

 「たしか、陸軍は極地用建物を建設する準備をしているだろう」

 「エンジン付きの木製装甲車だったよな」

 「木製合板だから鉄はほとんど使わない」

 「しかし、越冬用で居住性だけは良い。工場で作って現地で組み立てるだけだ」

 「それでソ連と戦争するのか」

 「北東シベリアは、それで、十分だ」

 「一度制圧してしまえば、ソビエト軍でも回復不能だよ」

 「そういえば、砕氷船も建造されている。ここに来て、北方重視か」

 「いい加減。戦争は止めたいね」

 「まったくだ」

 「だけど、お互いに戦意を無くすまで戦うだろうな」

 「満州防衛は大丈夫だろうか」

 「大興安嶺、小興安嶺とも防衛線は、かなり強力だ」

 「配備しているのは、捕獲した兵器で性能が良い」

 「そうだろうな。トラック防空戦で十分に確認したよ」

 「まだ、トラックの制空権は奪われていないだろう」

 「ああ、疾風もゼロ戦6型も十分に強力だ」

 「ムスタングに負けているのは、高高度性能だけだな」

 「既にドイツで確認されている」

 「水冷エンジン装備の飛燕2型、BMW装備の疾風は十分に強力だよ」

 「ムスタングと十分に戦えたからね」

 「しかし、自動空戦フラップの秘密が知られるのは不味いな」

 「日本は島礁防空ばかりだし」

 「ドイツも本土防空戦でしか使われていない」

 「先に技術が知られるとしたら地上戦で押してるソ連だろう」

 「Ta152戦闘機は?」

 「現物を手に入れたよ」

 「パンター戦車、V2ロケット、Me262戦闘機も設計図込み」

 「あとT34戦車とスターリング戦車の原物もインド船経由でね」

 「インドの取り分も多いだろう」

 「戦争が終わる頃は、インドの工業化も進むだろうな」

 「国際社会で、ちょっとした顔役になる」

 「アメリカ海軍とイギリス海軍は、弱体化してインド船を取り締まることが出来ないほどだ」

 「インドは、ヒンズー教徒とイスラム教徒で抗争が起きていると聞いたが」

 「どうやら、イギリスの置き土産らしい」

 「植民地を対立する勢力を利用して支配する方法だ」

 「イスラム圏が分離独立する可能性は高いな」

 「ガンジーは?」

 「反対している」

 「そうだろうな」

  

  

 

  

 スペイン

 ポルトガルのリスボンから荷揚げされた物資が集まり、

 日本からドイツ向けとドイツから日本向けの戦略物資が交差する国。

 そして、米英ソ・日独の諜報戦、外交戦の舞台でもあった。

  

 マドリッドの公館。

 「杉原大使。収容所から、つまらない理由でユダヤ人を引き抜くのを止めていただきたい」

 「しかし、輸送路の確保と積荷の移動で人手は必要ですし」

 「荷物運びでユダヤ人を使うのは納得いきませんね」 ドイツ高官

 「ユダヤ人は十分に役に立つと思いますが」 杉原

 「利敵行為だ」

 「軍需物資の輸送を遅らせる方が利敵行為では?」

 「・・・」

 「日独双方で有益で必要なモノがあれば運ばなければ・・・」

 「要請があれば、こちらから貨車と人手を用意します」

 「ですがドイツ軍は多忙だと思いますし、手を煩わせるのは忍びませんが」

 「日本は、我がドイツにとって最重要同盟国。気にすることはありませんよ」

 「しかし、収容所の維持は、負担では?」

 「とにかく、ドイツ本国の決定です」

 「要求があるなら、こちらで処理でいますので、ユダヤ人は、放置していただきたい」

 この頃、日本は、ユダヤ人を通じて対米工作を行っていた。

 収容所から連れ出したユダヤ人をスペイン経由でアメリカに送り込むのもその一つだった。

 そして、その効果は、あったらしく、

 ユダヤ系新聞の多くは、対日印象を好転させていく。

 

 

 インド

 ムンバイは、インド最大の港で良港だった。

 日独・米英の物資を載せた船舶が行き来する。

 返還された米英軍捕虜も、このインド船を使って欧州戦線に参戦することが出来た。

 そして、港湾都市ムンバイは、日独・米英の諜報・外交戦の舞台になっていく、

 インド船に載せる積荷と運び屋を日独・米英の代理人が確認していた。

 本当に戦争しているのだろうかと疑いたくなるものの、

 無事に届く点で馴れ合いは都合が良く。

 インドは、ほとんどの場合、載り合い輸送を意図的に作り出していた。

 単純に振り分ける物資や人間の割合だけが問題になった。

  

 日独・米英の代理人は、ぼんやりと積荷が運び込まれる船を見詰める。

 「どうやらドイツは、燃料が多いようだ。何か大きな作戦でも?」 イギリスの代理人。にやり。

 「・・・さあ、西と東。どちらに振り向けるか、興味深いですな」 ドイツの代理人。他人事。

 「日本は、工作機械ばかりですね」  アメリカの代理人

 「・・・後進国ですから」  日本の代理

 

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