第27話 1944/08 『第3次ディエゴガルシア島沖海戦』
1944/08/06 空母ベニトン建造
雲龍、天城、葛城を建造
シンガポール沖
第1・第4機動部隊は、給油していた。
大鳳 艦橋
日本軍将校たち
「・・・急げ。太平洋のアメリカ機動部隊が動き始めている」
「アメリカ人を怒らせてしまいましたかね」
「真珠湾ほどじゃないと思うがパナマだからな・・・」
「そりゃ カリブ海に入り込まれて、パナマ運河を破壊されて」
「メキシコ湾の訓練艦隊まで壊滅させられ」
「さらに北大西洋の輸送船団を捕獲されたら・・・怒るでしょう」
「それに切っ掛けはともかく、アメリカ太平洋艦隊は、質量ともに十分なはず」
「矛先は、どこかな」
「ディエゴガルシアか。そう見せかけて、マーシャル。虚をついて、トラック」
「パナマの報復なら、トラックでしょうか」
「ディエゴガルシアなら、第2機動部隊の帰還は不可能になるな」
「アメリカ側が上陸作戦部隊の準備が整っているかどうかですね」
「整っているだろう。それぐらいの国力はある」
「ええ」
「とにかく、アメリカ機動部隊の動きを掴んでくれ」
「はい」
第1機動部隊、(大鳳、瑞鶴、翔鶴)、220機
利根、妙高、那智、足柄、羽黒
駆逐艦、夕雲、巻雲、長風、秋雲、風雲、巻波、高波、大波、清波、玉波
第4機動部隊、(千歳、千代田、日進、瑞鳳)、120機
能代、矢矧
駆逐艦、陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、雪風、天津風、時津風
滑走路に居並ぶ、2種類の似て非なるゼロ戦。
金星1500馬力装備のゼロ戦5型と、
誉2000馬力エンジン装備のゼロ戦6型は、同じゼロ戦でありながら、その性質が違う。
|
馬力 |
エンジン径(mm) |
全備重量 (kg) |
速度 (km/h) |
翼面積 (u) |
翼面荷重(kg/u) |
馬力荷重 (kg/馬力) |
ゼロ戦5型 | 1500 | 1218 | 3500 | 650 | 22.44 | 156 | 2.3 |
ゼロ戦6型 | 1800 | 1180 | 3800 | 680 | 22.44 | 169 | 2.1 |
金星と誉れの発動機は、エンジン径が違っており、
より、すっきり収まるのは、6型だった。
しかし、無理な設計で、さらにエンジンが重く。
エンジンを支える機体重量と足脚も、さらに重くなる。
そして、翼面積は同じで機体重量を支えるため、
荷重が重くなる分、格闘戦能力が低下する。
6型が5型より優れているとすれば重量当たりの馬力が大きく。
時速680kmで、5型の650kmより速いことだった。
もっとも、この速度も外国製の燃料と部品によって、支えられているのであり、
日本産業の賜物というより借り物。
外国製の部品と消耗品の比率で日本機の性能が変わり、
性能が安定しないという問題も生じる。
翼面荷重と馬力荷重で機体の性質が想像ついてしまう。
6型は、揚力が足りない分をエンジンの推力で補って、ヘルキャットの編隊を切り崩し。
5型は、格闘戦が優れている為、さらに掻き乱して混乱させていく。
日本機は、改良が進むにつれ、機体構造が強化されていくものの、
元々の防弾で劣っていた。
それでも日本基地にレーダーが設置され、
全体で見ると 奇襲を受け難くなっていた。
さらに日本同士は無線機で連絡を取り合うことで、
個々のパイロットの視界が有機的に配分され、不意打ちを受け難くしていた。
そして、可能な限りの機体を揃えることで目を増やし、
ファーストルック・ファーストキルを目指した。
日本軍将校たちが整備中のゼロ戦6型、ゼロ戦5型を検分する。
「・・・6型の空母搭載は、かなり厳しい」
「6型を着艦させられるパイロットなら教官だよ。空母に乗せられるものか」
「確かに、そうすべきでしょう。基地配備なら問題ないでしょうがね」
「基地配備なら、飛燕U型か、疾風にすべきだな」
「質はともかく。疾風は割安ですからね。数を揃えようと思えば、そうすべきでしょう」
「ここじゃ 艦載機になってしまうだろうがね」
南北に22km弱。その細長い陸地部分の幅は、1km弱から300mしかない。
環礁を全周しても50kmに満たない。
日本軍は、このインド洋の要衝に軍事施設を建設し、港湾施設、空軍基地を建設する。
もっとも、日本の土木建設能力は、列強最弱であり、
拿捕した連合国商船の建設機械を利用しなければ、手作業であり、
車に乗ったことがない将兵が多く、上手く使えたものではなかった。
それでも試行錯誤を繰り返し、飛行場を建設し、港湾を整備していく。
ディエゴガルシア島に全長2000m級滑走路3本を整備し、
拿捕した戦艦の砲塔を配置し、いまでは、見栄えする要塞を構築していた。
しかし、ドイツの命運が尽きれば、ディエゴガルシア島の役割も消えてしまう。
要塞が完成する頃、その役割を終えるような空気が漂っていた。
日本軍将兵たち、
「ドイツが苦戦しているというのに、こんな、地の果ての小島を要塞化して、どうするんだ?」
「ケープタウンと、ここを中継地点にして、Uボートが日本へ来るんだよ」
「大切な、技術を持ってね」
「それなりの価値があるということか」
「捕獲した連合国商船に積んでいた工作機械や治具は、優秀だよ」
「今でも、日本産業の根幹を支えている」
「おかげで、この基地は、それなりか」
「インド船を使えば、ドイツの工作機械と技術は、それなりに手に入る」
「ディエゴガルシア島を失えば、インド政治は連合国側付くかもしれない。大きいだろう」
「大きいね」
ディエゴガルシア沖
第3機動部隊、(飛鷹、準鷹、龍鳳)145機
最上、鈴谷
駆逐艦、早波、浜波、沖波、岸波、朝霜、早霜、秋霜、清霜、藤波、涼波
飛鷹 艦橋
「・・・提督、やはり、こっちに向かっているそうです」
「不味いな。第一機動部隊も、第二機動部隊も、まだか?」
「急行中だそうですが・・・」
「ちっ! こんなに早く、来るなんて」
「パナマ運河の復讐でしょう」
「ディエゴガルシアを落とせば、第二機動部隊の退路を断つことができる」
「不味いですね」
「第三機動部隊の総力を挙げて、アメリカ機動部隊の航空戦力を磨り減らす」
「はい」
「ディエゴガルシアの港湾設備は乏しい」
「まだ、大艦隊を配備できないのが、辛いな」
「どうします。提督」
「・・・北上して、第一、第二機動部隊の到着を待とう」
日本の第1、第4機動部隊は、アッツ島にいたアメリカ機動部隊の動きを警戒し、
シンガポールでの修理補修と艦載機パイロットの訓練をやめ、
急ぎこちらに向かおうとしていた。
そして、この時、ディエゴガルシア海域に配備されていたのは、日本の第3機動部隊だけだった。
アメリカ機動部隊
エセックス型空母9隻、インディペンデンス型空母9隻の機動部隊5群。
空母艦載機総数1290機。
空母エセックス、ヨークタウンU。プリンストン、カウペンス、 290機
戦艦ウィスコンシン
軽巡サンディアゴ、クリーブランド、デンバー、コロンビア。
駆逐艦15隻
空母バンカーヒル、レキシントンU。インディペンデント、ベローウッド 290機
軽巡サンジュアン、モントピーア、バーミンガム、
駆逐艦15隻
空母イントレビット、ホーネットU。キャボット、ラングレーU 290機
重巡バルチモア、ボストン、キャンベラU、
軽巡オークランド、
駆逐艦15隻。
空母フランクリン、ワスプU。モントレー、バターン、 290機
軽巡リノ、ビンセンス、マイアミ、ヒューストン、
駆逐艦15隻
空母ハンコック、サンジェント 145機
軽巡サンタフェ、モービル、ビロクシー、
駆逐艦15隻
アメリカ機動部隊は風上に向けて全速航行していた。
エセックス型9隻、インディペンデンス型9隻からカタパルト射出で艦載機が射出されていく。
カタパルト射出は、滑走距離が少なくて済み、広い飛行甲板に艦載機を並べることができた。
第一波で、艦載機の7割以上を相手に突入させ、
敵戦力を根こそぎ削ぎ落としてしまう、
一撃必殺も可能だった。
「提督」
「ヘルキャット603機、ヘルダイバー270機、アベンジャー122機」
「総数995機の発艦が終わりました」
「ディエゴガルシア島の迎撃力は、どの程度かな」
「日本機動部隊が数回にわたって、艦載機を配備していると思いますが300機から400機ほどかと」
「いくら機体を製造しても日本の航空戦力は、推測しやすい」
「戦前からの陸海軍パイロットから教官を割り出し」
「6ヶ月の累計で掛ければ最大上限は簡単に割り出せる」
「それ以上はありません」
「もっとも消耗している日本でパイロット養成の最大上限は、なさそうだが・・・」
「あとは、各基地へのパイロットと整備士の割り振りだけ」
「ええ、事故機は多いと聞いてますし、前線パイロットの消耗は激しいはずです」
「あとは、日本の機動部隊だな」
「潜水艦から、日本の第1、第4機動部隊が向かっているとの通報です」
「間に合いそうかね」
「いえ、こちらの方が二日ほど早いかと・・・」
「では、この海域にいるとしたら第三機動部隊か・・・」
「ふっ 全滅させてやる」
ディエゴガルシア島
空襲警報が鳴り響き。
「ペラ回せ!」
パイロットが慌てふためき、滑走路に配備された機体へと乗り込んでいく。
既に整備士によって出撃準備が整えられている。
ゼロ戦6型とゼロ戦5型が滑走しながら飛び立っていく。
「30分で来るぞ」
「高度を取れ!」
「電探か。便利な世になったものだ」
「アメリカ製だよ」
「やっぱり・・・」
「日本じゃ まだ作れないそうだ」
「やっぱり」 涙
ディエゴガルシア基地は、索敵機と電探でアメリカ機動部隊の空襲を察知。
基地航空部隊を出撃。
ディエゴガルシア上空、
ゼロ戦6型152機、ゼロ戦5型153機は、アメリカ艦載機と空中戦を繰り広げていく。
日本の迎撃に遭ったアメリカ艦載機群は切り崩され、追い散らされ、
ヘルキャット452機、ヘルダイバー139機、アベンジャー59機が撃墜されていた。
エセックス 艦橋
「ヘルキャットが苦戦している?」
「ゼロ戦5型とゼロ戦6型。予想より強力な戦闘機のようです」
「ディエゴガルシアの航空基地を叩いただけでも良しとすべきでは?」
「第3機動部隊が近くにいるはずだ」
「日本の第1・第4機動部隊と合流する前に叩くぞ」
「基地攻撃は?」
「飛行場は潰した」
「あとは、上陸作戦部隊にやらせよう」
「護衛空母でも、それくらいできるだろう」
「はっ!」
アメリカ機動部隊は、その後、日本機動部隊に対する警戒に回り。
護衛空母部隊
護衛空母15隻 (艦載機428機)
護衛艦40隻、輸送船10隻、タンカー21隻から
ワイルドキャット199機、ドントーレス229機を振り絞るように出撃させ、
ディエゴガルシア島の爆撃を継続した。
そして、ディエゴガルシア基地航空部隊を壊滅させてしまう、
第2機動部隊の一連の大西洋遠征作戦、
パナマ運河爆撃、メキシコ湾海戦、
そして、大西洋での通商破壊作戦は、アメリカ太平洋艦隊を怒らせていた。
アメリカ太平洋作戦司令部は、アメリカ機動部隊をパースに移動させる、
アメリカ機動部隊の移動は、日本の予想を超えて早く。
日本の索敵は後手に回ってしまう。
その結果、第1・第4機動部隊の出撃が遅れ、
第3機動部隊は、単独で戦えずディエゴガルシア島沖から退避。
第1、第4機動部隊との合流を待って、反撃するしかなかった。
そして、アメリカ機動部隊は、幸運であり。
第3機動部隊は運が悪かった。
イギリス潜水艦は、第3機動部隊を発見し、
アメリカ機動部隊に通報。
アメリカ機動部隊は、北上し、
ヘルキャット160機、ヘルダイバー137機、アベンジャー43機を出撃させる。
アメリカ空母攻撃部隊。
「・・・日本の第3機動部隊だ!!」
『上方、二時方向に日本の戦闘機です』
「ちっ! 被られた。迎撃する」
「ヘルダイバーとアベンジャーは、このまま、日本機動部隊に突撃しろ!」
『了解だ』
アメリカの攻撃部隊は、第3機動部隊を強襲する。
第3機動部隊は、アメリカ機動部隊の接近を知るとゼロ戦5型100機を出撃させる。
ゼロ戦5型の編隊
「ちっ! 気付かれた」
『じゃ ヘルキャットを押し潰して、そのまま』
「空母の防空より。可能な限り、敵機を撃破しろとの事だ」
『了解です』
そして、懸命な海上防空戦にもかかわらず。
ヘルダイバーとアベンジャーがゼロ戦隊の追撃を振り切り、艦隊の弾幕を掻い潜って攻撃。
飛鷹に魚雷1本、爆弾3発、
準鷹に魚雷1本、爆弾2発、
龍鳳に爆弾4発が命中した。
3隻とも大破して停止。
傾斜して沈みかけていたものの、
搭載していた武器弾薬が少なめであり、誘爆しなかったことが救いする。
空母の乗員の多くは、沈没する前に脱出していく、
そして、猛威を奮ったアメリカ機動部隊も、これまでだった。
総艦載機1300機だった機動部隊も、この攻撃で戦力が尽きていた。
ヘルキャット68機、ヘルダイバー64機、アベンジャー12機が帰還できた全てだった。
アメリカ機動部隊と護衛空母部隊は、他の日本機動部隊がまだ近くにいると思ったらしく、
パースへ後退。
第1・第4機動部隊は、海戦が終わった二日後にディエゴガルシア島に到着する。
アメリカ軍がディエゴガルシア島攻略を諦めたのは、航空戦力の多くを失ったからだった。
それだけでも第3機動部隊の犠牲は尊いと考えられた。
赤レンガの住人たち
「第3次ディエゴガルシア島沖海戦か。第3機動部隊がやられたよ」
「ディエゴガルシア基地の壊滅と、飛鷹、準鷹、龍鳳の3隻が沈没・・・」
「第二機動部隊の北大西洋の勝利に比べれば小さい敗北だろう」
「雲龍型3隻が完成した後で良かったな」
「第3機動部隊は、すぐに再建できる」
「悪くないがアメリカ機動部隊は、そのまま残っている」
「もう一度、こられたら、もっと、状況が悪いぞ」
「いや、それほど悪くない」
「パナマ運河を破壊したんだぞ」
「アメリカ海軍の増援は、喜望峰周りか、マゼラン海峡周りになる」
「そうだったな」
「第2機動部隊と輸送船138隻が帰還すれば、日本経済は、一時的に立ち直れる」
「途中で潜水艦に雷撃されないだろうか」
「止められても無視すれば良い」
「アメリカ軍将兵が分散して乗っているのに魚雷を撃てるものか」
「しかし、アメリカ軍も引き揚げるのが早くて助かった」
「アメリカ軍機を多数撃墜したと報告を受けている」
「アメリカ機動部隊もパイロット不足じゃないのか」
「引き揚げたのは、予備パイロットの不足が原因かもしれないな」
「ディエゴガルシア島を占領してもだ」
「支援する機動部隊のパイロットが足りないといいようにやられる」
「戦略的撤退だと思うよ」
「それならいいがディエゴガルシアは、大艦隊を配備できるような島ではない」
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よろしくです。
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第27話 1944/08 『第3次ディエゴガルシア島沖海戦』 |
第28話 1944/09 『ダーウィン捕虜返還事務局』 |