月夜裏 野々香 小説の部屋

   

After Midway

    

第28話 1944/09 『ダーウィン捕虜返還事務局』

 1944/09/15 空母エンタープライズU(シャングリラ) 建造

 大巡グアム 建造

 

 日本第二機動部隊の活躍で米英軍の増援部隊と戦略物資が一時的に枯渇する。

 西部戦線と南部戦線で戦闘不能な状況になって進撃が停滞。

 米英軍が計画していたマーケット・ガーデン作戦も不可能になってしまう。

 ドイツは、この機会を生かして、戦力を東側にシフト。

 ドイツ軍は、東部戦線でソ連軍の大攻勢を撃退しようと試みていた。

 しかし、戦力差は大きく。

 東プロシア、ポーランド、ルーマニアの戦線は、じりじりと押されていく。

 ベルリンの某公館

 「ドイツ軍は連合軍に対し、失血作戦で戦っていただきたい」 日本大使

 「総統は、要塞都市防衛を計画されている」 ドイツ高官

 「それでは、時間稼ぎにしかなりません」

 「後退して、陣営を整備、防衛線を構築すべきです」 日本大使

 「・・・検討すべき内容として総統に報告しよう」 ドイツ高官

 「こちらは、自国向けの資源を一部ドイツに供給していることをお忘れなく」 日本大使

 「日本側の誠意も総統に伝えます・・・」

 「お願いしたい」

 「日本機動部隊の遠征によって、戦線の立て直しが一時的に可能になったことは感謝しています」

 「・・・・」

 「ですが、もう一度、同様の作戦を要請したい」

 「残念ながら我が国の艦船は、通商破壊に向いていません」

 「元、我々の艦艇があるではありませんか?」

 「ええ、もちろん、日独同盟のための北大西洋派遣です」

 「しかし、そう何度も、出来る作戦ではない」

 「今後、共同作戦は、ケープタウンでのUボートの展開のため、ケープタウンの基地強化が必要です」

 「もちろん、一定の上限を超えない限り、支援できます」

 「しかし、ユダヤ人の件は、妥協していただきたい」

 「その件につきましても、総統に報告していますが、もうしばらく、時間が必要です」

 「ご理解いただければ、助かります」

 「しかし、時折、日本人武官が収容所からユダヤ人を引き出している、遺憾ですな」

 「ある種の土産物を運ぶのに使っています」

 「もちろん、ドイツ留学生の日用品も含んでのことです」

 「その件につきましては非公式ながら承認しています」

 「・・・・・」

 「ですが、あまり煩雑にやられると旋毛を曲げられる方がいますので、今しばらく自重して頂きたいものです」

 「了解しています」

 「ところで、個人的に日本への留学のことで、ご相談があるのですが・・・」

 「もちろん、留学の枠は、ありますよ」

 「」

 「」

 ・・・・・・・・・・・・・・・

  

  

 北大西洋で拿捕した商船隊は、ケープタウンとディエゴガルシアに一部が入港。

 そして、多くがシンガポールに入港しつつあった。

 アメリカ軍25万は、武装解除されたまま、ダーウィンへと返還される。

 日本が拿捕したアメリカ製戦略物資は、日本軍の装備を一新させてしまうほどだった。

 赤レンガの住人たち

 「・・・・M4中戦車1500両、M5軽戦車500両と陸軍装備は、満州に配備するのか」

 「そのはずだ」

 「ヒットラーからドイツの日本大使に感謝状がでたそうだ」

 「アメリカ軍の攻勢は一時的に挫かれるからね」

 「アメリカ軍兵士を帰さない方が良いような気もするがね」

 「その方が講和を結びやすい」

 「いや、捕虜を返還する方が講和を結びやすいというのが陛下の勅命だ」

 「だといいが・・・」

 「もう、政府と軍は、陛下に何も言えなくなっているようだ」

 「ふっ 捕虜返還の効果だろうな」

 「輸送船を簡単に拿捕できるのは、それだよ」

 「捕虜になっても、オーストラリアでバカンスなら悪くないからね」

 「将校、艦船、航空機関連、通信・技術関係者だけは、捕虜で日本に滞在することになるがね」

 「だいたい、普通の状態で25万も、一度に捕虜に出来るものか」

 「日本軍将兵の食事すら事欠いているというのに」

 「国が貧しいからな」

 「そうだな・・・」

 「ケープタウンとディエゴガルシアの再建は?」

 「全部アメリカ軍の装備だが、十分に足りるだけの物を置いてきたらしい。再建は出来るだろう」

 「航空部隊が捕獲したばかりのムスタングとサンダーボルトというのは・・・」

 「不足は、ないよ」

 「ライトニングとコルセアもある」

 「かなりあるから、ダブルワスプを外して開発中の雷風に使うか」

 「重量バランスが狂うだろう」

 「だが、同じ2200馬力の火星より径は小さく、性能も良い」

 「捕獲したダブルワスプの数も多いから、気持ちは、わかるがね」

 「何より、エンジンの事故で落ちる心配がない」

 「「「・・・・」」」 ぶすぅう〜

  

  

 ダーウィン港に向かう捕虜返還船

 十数人の小柄な日本船員が船を動かし、

 数千人の体格の良いアメリカ兵が、ぼんやり、くつろいでいた。

 アメリカ軍兵士は、その気になれば少数の武装した日本兵士を打ち据え、

 船を乗っ取ることも出来た。

 しかし、アメリカ兵士は、そうしない。

 しばらく我慢すれば、ダーウィン港に到着して降ろされる。

 降りるときに日本とオーストラリア側で人数と名前、年齢、所属、認識番号を確認して自由放免。

 イライラと日本人兵士を睨む、血気あるアメリカ青年もいた、

 しかし、上官から大人しくするように命じられる。

 船を奪う?

 自沈させられなければ難しくなかった。

 いや簡単だろう。圧倒的に数が多い。

 しかし、問題を起こせば犠牲は乗員の日本軍兵士よりはるかに大きくなり、

 捕虜返還そのものがなくなる。

 後から来るであろうアメリカ兵士の帰還が出来なくなる可能性もあった。

 それに噂では、船底に爆弾が仕掛けられているらしい・・・

 いや、事実、あるだろう。

 よほどの間抜けな指揮官でなければそうする。

 素手で無理に戦うこともない。

 生きてダーウィンに降りることが出来れば、今度は、再武装して日本軍と戦うことも出来る。

 アメリカの兵士も、そのことを知っており、

 ある種、和やかな空気も流れていた。

 日本兵士が時折、片言の英語でアメリカ兵語りかけ、話そうとする。

 ダーウィン返還船は、定められており、

 日本の監視兵の多くは、片言英語が分かる。

 そして、2度目というアメリカ兵もいた。

 フィリピンで捕虜になり、捕虜返還で本国に帰還。

 対日戦で戦うのは、士気に関わるという事で欧州へ送られた。

 ところが、今回の第2機動部隊の北大西洋作戦で捕虜となった者達だ。

 ダーウィンに捕虜を降ろすと同時に

 連合国側から捕虜への生活物資、食料が返還船に載せられていく、

 帰還できる捕虜もいるが帰還できない捕虜への手紙も載せられる。

 そして、パイロット、整備士、機関士、艦船乗員でも帰還できる者がいた。

 捕虜収容所には、斧が置かれており、腕を切り落とせば帰還できた。

 彼らのうち、どうしても帰還したいものは自分で腕を切り落とした。

  

  

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