月夜裏 野々香 小説の部屋

   

After Midway

    

第33話 1945/02 『ムスタング対ムスタング』

 ドイツ軍は、ソ連軍の侵攻に対し戦力を注ぎ込み

 決死の抵抗で戦果を上げたが代償として、西部戦線で大きく後退する。

  

 

 

 ディエゴガルシア

 海岸付近に乗り上げた金剛と霧島は見るも無残な巨艦を晒していた。

 「こりゃ 駄目だな」

 「使えるやつは降ろして解体するか、埋め立てて要塞代わりに使うかだな」

 「使える砲塔がひとつずつだと的にしかならんな」

 「しかし、配備されているのって、ほとんど米軍の物じゃないか」

 滑走路に並べられていたのは、ムスタングとサンダーボルトばかりだった。

 滑走路を整地しているのもアメリカ製のブルドーザーで、

 格納庫もアメリカ製。

 対空火器とレーダーもアメリカ製・・・

 緑色に塗るのは、敵と間違えられないためで、それだけの事。

 組み立てに技術と時間を要するものの、何とか軌道に乗せていた。

 大西洋で100隻以上拿捕できても、

 軍艦と味方への給油で砂漠に水を撒くが如く目減りしていく、

 人員不足と燃料不足でケープタウンで留まっている船が4分の1を占めていた。

 ディエゴガルシアに留まるしかないディバティ船も5隻。

 「ドイツも終わりだろう。この島も守る価値ないだろう?」

 「どうなんだろうな」

 「パナマを落としたからって、いくつか島を占領したし」

 「輸送できるのか?」

 「随分拿捕したみたいだし」

 「アメリカも陸兵を帰還させるため燃料と交換で輸送の邪魔しないみたいだし」

 「ドイツのUボートも来てるし」

 「アメリカも捕虜返還に弱いな」

 「そりゃ 民主主義だから戦争中も選挙を考えるよね」

 「人権と権利を考えたら、親方日の丸より国民主権も悪くないって気がしてくるけどな」

 「あははは・・・」

 「捕虜って、講和の材料にはならないの?」

 「さぁ〜 貧乏過ぎて食べさせられないんじゃないか」

 日本は、ディエゴガルシアに漁船団を送り込んでいた。

 食料を送る余裕がなければ、そうなりやすい。

 他にも魚の養殖とヤシの畑など研究され、

 アメリカ軍と違い、

 日本軍の自給自足は、生存と直結していた。

  

 

 赤レンガの住人たち

 「アメリカ軍の動きは?」

 「通商破壊とトラックに対する空襲だけだ」

 「丙型海防艦を建造していて良かったな」

 「パナマ運河が破壊されてから攻勢が低迷したという事か」

 「今のうちに前線の要塞化を進めるべきだろうな」

 「それもそうだが国内整備もな」

 「現実問題として、近代化に必要な資源。鉄鉱石、原油、石炭が足りない」

 「東南アジア、中国、インド、中東から入手できる分があればいいが」

 「アメリカは、日本と戦争を続けても何も得るものがない、という事がわからないのだろうか」

 「満足を得ることが人間の最大の喜びでね」

 「真珠湾を忘れるまで戦争するしかないのだろう」

 「そうだろうな・・・」 ため息

 

  

 トラック諸島 冬島

 緑色の機体に日の丸を付けたムスタング戦闘機が飛行場に並んでいた。

 いずれも第2機動部隊のパナマ運河爆撃と、

 それに続く大西洋の通商破壊で手に入れた機体だった。

 組み立てと訓練飛行が終わり、試験的にトラックに配備される。

 「太平洋をがら空きにし、日本海軍がシンガポール沖にいるのは問題ありじゃないか」 陸軍少尉

 「油が無いそうだ」 海軍少尉

 二人の士官は、新しい緑色の機体に惚れ込み、

 整備の最終チェックを見ていた。

 「ふんっ トラックが爆撃されたらどうするんだ」

 「このムスタングで、500kg徹甲爆弾をお見舞いできるだろう」

 「爆撃は、苦手なんだがな」

 「俺もだ」

 「だが、これ本当に戦闘機なのか?」

 「900kg爆弾を装備できる高高度戦闘機なんて聞いたこと無いぜ」

 「しかし、戦闘機としてみても最高級だな」

 「メッサーシュミットが好きだったんじゃないのか?」

 「メッサーシュミットは、良いぞ」

 「単純に空中戦をするならメッサーシュミットだよ」

 「特にK型は最高だよ」

 「燃えるね、あの機体は、10000m上空で宙返りできる」

 「まあ。空中戦に限定するならね」

 「着陸が怖いのと航続力が無いのを克服できればな」

 「あと後ろが見えないのと防弾が弱いのが少し辛いだけだ」

 「ほかはともかく、着陸が怖いのは決定的な要素だね。若いのに進められない」

 「ダイムラーベンツか、パッカードを載せた飛燕でも悪くないさ。敵味方の判別がつけばな」

 「味方識別でエンジンを調整して特殊な波長音を出す案は、どうなったんだ」

 「さあ、敵に利用されたくないとか、調整も難しいとか言ってたな」

 「・・・整備も不安だからな」

 「トラックの整備士はベテランさ。治具も揃っている。奪った物も集まってくるし」

 「ふっ 海軍がでかい顔できるのは、陛下のおかげだろう」

 「・・・まあな」

  

  

 アッツ島

 戦艦大和艦橋

 「不味いな。晴れるぞ」 司令

 「爆撃されますね。日本側のエンジンは、温まるのが遅いですから」 副官

 「このアッツ島から、南東のアガッツ島の飛行場まで60kmだからな」

 二人は、チョコレートを食べながら雲行きを見ていた。

 アメリカ製チョコレートは腐るほどあって、感銘さえ受けなくなっていた。

 地下施設には、アメリカ製アイスクリーム製造機もあった。

 お陰で、真冬であるにも、かかわらず。守備隊は、アイスクリームを食べている。

 アイスクリームを糖分、乳飲料、卵と栄養価で考え、長期保存できると思えば悪くない。

 無論冷蔵庫を維持する燃料は必要だったものの冬のアッツなら容易だった。

 そして、荒れ模様だった天候が収まり、濃霧がゆっくりと退けて、

 隣の島から機影が飛び立ってくる。

 日本の航空基地も格納庫から機体を引っ張り出し、

 電熱器を包んだ布団を剥がして、エンジンを始動させる。

 エンジンが回る機体もあれば、回らない機体もある。

 出撃していく日本機と向かってくる米軍機が低空ですれ違いざまに撃ち合い。

 互いに数機が落ちていく。

 距離が近いせいか、燃料は、ほとんど積んでおらず。

 火を噴くことも煙を上げて落ちることも少ない。

 エンジンかパイロットがやられたはず。

 アッツ島から対空砲火が撃ち上がり、数機のアメリカ軍機が落ちていく。

 そして、大和と武蔵に向かって900kg爆弾が投下される。

 艦橋を直撃すれば即死する可能性が高く、

 提督と副官は思わず。チョコレートを頬張る。

 十数発の爆弾が大和と武蔵に向かって落ち、

 いたるところで、爆発と爆音が起こり艦体が振動する。

 直撃は無かった。

 引き揚げていくアメリカ軍機と、

 追撃する日本軍機が程度の低い機動をしながら空中戦を行った。

 敵は逃げるだけ。

 味方はエンジンが完全に温まっていない。

 「被害状況を知らせろ!!」

 副官が伝声管に向かって叫んでいた。

 被害は無いと直感する。

 いまさら、座礁した軍艦にいる必要はあるだろうか。

 大破した戦艦を離床させ、敵勢力圏を突破、本土に戻すのも困難だ。

 大和と武蔵は、アメリカの戦艦7隻

 戦艦マサチューセッツ、アラバマ。

 戦艦コロラド、メリーランド、ウェストバージニア、テネシー、カリフォルニア。

 ほか数隻の補助艦艇を撃沈している。

 損失比で言うと悪くない。

 その事実とともに大和と武蔵を葬らせても良いと思っていた。

 いつの間にか手に持ってたチョコレートが潰れている。

 日本本土にいたら簡単に食べられない。

 それが捕獲した物資の中に大量にある。

 「アメリカと戦争するもんじゃないな・・・」

 司令の呟きは思ったより大きく、

 艦橋にいた全員に聞こえていた。

 

 

 トラック諸島沖

 トラックの南海上を日の丸をつけた緑色のムスタング4機が周回パトロールしていた。

 時折、偵察に来るアメリカ戦略爆撃機を監視。撃墜するためだった。

 !?

 機影を見つけると位置を取るため上昇する。

 アメリカ軍機4機も気付いて旋回しながら向かってくる。

 「「「「ムスタングだ!!」」」」

 緑色のムスタング4機と白銀のムスタング4機の空中戦。

 色違いのムスタングが互いに相手の後ろを取るために機動する。

 数度の会敵と戦術の錯誤。

 互いにロッテウルフ戦法が維持できず、

 連携を切り離され、バラバラにさせられる。

 8機は、互いに自分の相手を見定め、死の乱舞を繰り返した。

 些細な判断ミスも死に直結し、疲れて機動をやめれば死ぬ。

 その日の午後、お互いの基地に帰還できたのは、2機のムスタングだけだった。

 

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第33話 1945/02 『ムスタング対ムスタング』
第34話 1945/03 『植民地と独立条約』