月夜裏 野々香 小説の部屋

   

After Midway

    

第34話 1945/03 『植民地と独立条約』

 日本の選挙管理の元、東南アジアで自治政府が成立しつつあった。

 フィリピン、インドネシア、マレー、ブルネイ、インドシナ、ビルマ・・・

 これらの自治政府は、日本と独立条約を調印すれば独立できる状況になっていた。

 独立条約は、戦争終結後、日本が鉱物・油田資源の10分の1の権利を持つこと、

 日本は、昭南諸島(シンガポール、バタム、ビンタン、リンガ諸島、ナトウナ、アナンバス)、

 南沙・西沙、ドベライ半島(ニューギニア島の一部)の領有。

 戦争中は、輸出規制で日本としか輸出入できないことが決められていた。

 99パーセントを搾取するイギリス、フランス、オランダ、アメリカの植民地経営とは、まったく違う条件。

 植民地の有力者は、破格の条件に色めき立つ。

 日本は、戦後、武器弾薬や工業製品を自治政府に輸出することで資源を得ようとしていた。

 問題になりそうなのは、戦線のあるニューギニア島で、

 日本が占領していたのは、ビアク諸島とドベライ半島だけだった。

 

 アメリカ軍は、北ニューギニア島のラエから西に向かって鉄道を敷き、

 そして、ジャヤプラを越えてサルミにまで達していた。

 ジャヤプラ航空基地に配備されたB29爆撃機は、マラリア諸島だけでなく、

 フィリピン島、ボルネオ島、ジャワ島まで爆撃圏に入れ、

 日本の戦闘機配分を苦境に陥れてしまう。

  

 

 この頃、米英両国は、一つの結論に達しつつあった。

 日本は、アジア太平洋で強力な国家であり続ける可能性が強く、

 民族そのものを滅ぼせないのであれば意図的に弱点を作る、というものだった。

 そして、イギリスは植民地を失う、という経験から学んだことがあった。

 遠距離に植民地を持つと政治、外交、軍事で不自由になり、

 脆弱になってしまうということ。

 その植民地に資源がなければなおさら・・・・

 イギリスの提案は、アメリカ合衆国政府をして納得させる。

 そして、戦争の推移によっては、決断すべき事柄になりつつあった。

  

  

 赤レンガの住人たち

 Uボートが撮影したらしい艦隊の写真を検討していた。

 「イタリア艦隊とフランス艦隊が太平洋に回航されているらしいな」

 「アメリカとイギリスがフランスとイタリアを締め付けている節がある」

 「フランスは、一度降伏してドイツに戦争協力している」

 「イタリアも枢軸国だから損害賠償の対象にはなるが・・・らしくないな」

 「戦争のドサクサは、何でもありだろう」

 「イタリアとフランス戦艦を使うとすれば、ディエゴガルシア島か」

 「また、アッツ攻防戦だな」

 「んん・・・マーシャルという可能性もあるがトラックに来る可能性も捨てがたい」

 「どちらにせよ。まっすぐ飛んで爆弾を落とすことはできても」

 「追撃機を振り切りながら弾幕に躊躇なく突撃できるパイロットは、少ないよ」

 「アメリカ機動部隊主力は、ミッドウェー海域に集結してるらしい」

 「ディエゴガルシアはないだろう」

 「どうかな。日本のアッツ島の輸送を妨害しているだけじゃないのか」

 「年内もアッツ島の輸送は必要ないというのに・・・」

 「いや、アメリカのアッツ輸送を防衛しているのだろう」

 「しかし、北太平洋にアメリカの艦船が集まっているような気もするが・・・」

 「確かに腑に落ちないな。多すぎる」

 「ドイツは、もうすぐ降伏する」

 「ドイツ敗北後も対日戦線を政治的に維持できるか分からない」

 「今の内に対日封鎖を強化するつもりなのだろう」

 「ウェークに上陸する可能性もある」

 「主力艦隊は、シンガポール域で良いのか」

 「燃料の問題でな、シンガポール域が一番、良い」

 「北樺太があるだろう」

 「量が少ない。北海道の人工石油が、もう少し取れれば良いが・・・」

 「石炭は、石炭として発電で使うのが割がいいな」

 「ところで、雷風は?」

 「やはり性能が良い。夜間戦闘機型、爆撃型も量産に入るだろう。訓練が進めば実戦配備できる」

 「パイロットは、エンテ・カナードに慣れそうか」

 「引っ張られるのと押されるのとで違和感があるようだ」

 「癖があるから転換訓練に時間がかかるが慣れれば、ゼロ戦6型より強い」

 「高高度性能は、ムスタングの方が良いが一撃離脱を許さないだけの機動性がある」

 「雷風を高高度に待機させれば鍔迫り合いで負けてもムスタングを牽制できるだろう」

 「ドイツが負けたら欧州戦線のベテランパイロットがインド・太平洋戦線へ向けられるはずだ」

 「世界中が日本に宣戦布告してくるかもしれないな」

 「風船爆弾が頼りという事はないだろうな」

 「農閑期の気晴らしというか、女子中学生のアルバイトみたいなものだ」

 「弾薬を作らせるほうが有意義な気もするが・・・ドイツは?」

 「もうすぐ、負ける、気がする」

 「もう、Uボートによる脱出は無理だな。脱出してきても、スパイの可能性もある」

 「それは、ドイツ人街に入れてしまえば、彼らが捕まえてくれるのではないか?」

 「何人か捕まえている」

 「しかし、ドイツ人50万か、1人いくらで計算するとインドもスペインもポルトガルも大儲けだろうな」

 「これから逃げ出してくるとしてもUボートを使うしかないが難しそうだな・・・」

 「中立国船も命がけだ。当然の対価だろう」

 「今後の作戦計画は?」

 「第2機動部隊はディエゴガルシア島に配備している」

 「大西洋の機動部隊は動かせないはずだ」

 「第1、第3、第4機動部隊は、シンガポールか」

 「戦艦部隊と巡洋艦隊は本土」

 「大丈夫か?」

 「戦力差でいうと、大丈夫ではないよ」

 「だよな・・・」

 「すぐ、というわけではないがね」

  

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第33話 1945/02 『ムスタング対ムスタング』
第34話 1945/03 『植民地と独立条約』
第35話 1945/04 『帝都侵攻』