月夜裏 野々香 小説の部屋

    

After Midway

    

第37話 1935/06 『ソビエト参戦』

 日本は、満州の北東・北西部の平野部を北樺太と交換していた。

 大興安嶺と小興安嶺は要衝で欧米から捕獲した地上兵器・武器弾薬の最終到達地。

 そこに向かって、ソ連軍がシュトルモビクとT34戦車を先頭に押し寄せる。

 極東ソ連軍は、準備万端の攻撃ではなく。少しばかり勢いが小さかった。

 日本軍将兵の多くは、ビルマ戦線から中国戦線を北上し、

 満洲に到達した部隊で疲労していた。

 アメリカ製で捕獲した90mm高射砲と対戦車砲。

 105mm榴弾砲M2。155mmのカノン砲・榴弾砲を配備し、

 イギリス製の114mm砲も大戦車戦で有用だった。

 もっともアメリカ製とイギリス製の武器は、各地を転戦し、

 弾薬が少なく訓練もままならない。

 それでも日本の兵器・武器弾薬よりマシな地上戦力だった。

 シュトルモビクの爆撃が止むと、

 T34戦車が突っ込んでくる。

 日本軍は、地の利を生かし、十分に引き付け、出たとこ勝負で撃っていく。

 侵攻してくる戦車群の周りに砲弾が炸裂し、爆煙が地上を覆う。

 T34戦車といえど、重砲が命中すれば吹き飛んだ。

 督戦隊に背後から狙撃ちされた囚人兵部隊は、運を天に任せて突撃し、

 砲撃に晒され、機銃掃射と狙撃で次々と倒れていく。

 そして、日本戦車兵は足が届かず下駄を履いてM4戦車を操作し、

 半没させた稜線に砲塔だけを出して狙いを定めた。

 接近するT34戦車に向け、M4戦車が砲撃し、

 T34の砲塔で炸裂した・・・

 「ちっ! M4シャーマン戦車では、T34戦車を撃ち抜けないぞ!」

 「キャタピラを狙え!」

 日本軍が捕獲した米英軍戦車の多くは初期型であり、

 40口径75mm砲装備のM4戦車ばかりだった。

 そして、58口径76.2mm装備のM4戦車は、少数派。

 どちらにせよ、初期型T34戦車の30.5口径〜42.5口径76.2mm砲は強化され、

 後期型は53口径85mm砲となって、M4戦車の分が悪くなる。

 T34戦車は、さらに装甲を傾斜させて避弾に優れ、

 車高も低いことからT34戦車は圧倒的に優勢だった。

 とはいえ、広陵とした大興安嶺・小興安嶺の防衛網は地の利で優れ、

 ソ連軍が予想していたより強靭な防衛線だった。

 というより、アメリカ関東上陸作戦に誘発されたスターリンの性急過ぎた参戦であり、

 極東ソ連軍は、準備もしてない状況で無計画に突撃しているだけだった。

 日本軍の満州防衛線は、維持され、

 アメリカ軍の関東制圧で漁夫の利を得ようとしたスターリンの野望は、思わぬ抵抗を受け、

 極東ソ連軍の攻勢は、あっさりと頓挫してしまう、

  

  

 ソ連艦隊は、ペトロパブロフスクカムチャッキー港を出航し、

 占守島を覆っていた霧が薄れ、晴れ間が見えたと報告を受けた。

 上陸の頃合と考えたのか、占守、幌筵に上陸作戦を開始した。

 ソ連軍輸送船団、

 ロシア輸送船 船橋

 「船長。日本機です」

 「なに?」

 突入してきたのは、練習機に格下げされていた旧式99艦爆だった。

 爆撃の命中率だけなら彗星より、はるかに有利であり、

 それで、十分に用が足りた。

 襲い掛かる日本航空部隊の爆撃で、ソ連艦隊は全滅してしまう。

 ウラジオストック港のソ連艦隊も日本軍機の爆撃を受けて全滅。

 ソ連空軍が迎撃するものの、翻弄されてしまう。

 99艦爆隊

 「・・・ソ連空軍の動きは、どういうことだ。無駄が多く、動きが悪い」

 「気候が悪いのだろうな、飛行訓練の時間が足りないのだろう」

 「日本のパイロットの方が消耗していると思ったのに・・・・」

 「ドイツ空軍が、がんばってくれたのかな」

 「欧州で戦争が終わったばかりだから、欧州から主力空軍が来ていないのだろうな」

 「・・・それは、厳しいな」

 

 

 

 アメリカ海軍は、焦り始めていた。

 長大な輸送路を防衛する航路帯防衛のローテーションが困難になりつつあった。

 日本機動部隊は、まったく動こうとせず。

 アメリカ機動部隊は、連日の対地作戦行動で疲労し、

 大西洋からの増援は、マゼラン海峡を越えるため予想以上に遅れていた。

 もっとも、太平洋を越えて上陸したアメリカ軍は、日本本土より軍需物資を持っていた。

 アメリカは、それほど、豊かな国であり、

 日本は、前線を維持するため、生産した軍需物資を国内に留めておくことができず、

 多くを前線へと送り、内地は搾りかすしか残されていなかった。

 アメリカ機動部隊は、日本機動部隊のいるパラオに向けて南進、

 天皇は、アメリカ機動部隊の南下の上奏を受けると、

 日本機動部隊に逃亡するように勅命を下した。

 アメリカ機動部隊は、グアム、ヤップ、パラオを爆撃しながら日本機動部隊を捜索。

 「キル・ジャップ!! キル・ジャップ!!」

 「キル・ジャップ!! キル・ジャップ!!」

 「日本機動部隊は、どこだ!!!」

 「八方に索敵機を飛ばしていますが、まだ・・・」

 「んん・・・平文で無線を打て!」

 “日本機動部隊はどこか。全世界は知らんと欲す〜!”

 

 

 日本機動部隊は、ブルネイに入港していた。

 大鳳 艦橋

 「・・・提督・・アメリカ機動部隊が我々宛に無電を発しているようですが?」

 通信兵が電報を提督に渡す。

 「誘われても困るなぁ 逃げろと勅命されているし。艦載機は、本土に送っているし」

 「翼無き艦隊ですからね」

 「日本の戦力が底を尽いているの、知らないんですかね」

 「金持ちは、貧乏人の気持ちなど理解できないのだろうな。困ったものだ」

 「本当に・・・」

 「アメリカ機動部隊が来れば、インド洋にまで避難することになっている」

 「はっ!」

 ため息混じりに勅命書を見つめる。

 そして、アメリカ機動部隊は、フィリピン近海までくると日本機動部隊捜索を諦めて、北上。

 日本本土を空にすることが出来ず。

 燃料を浪費して、空しく帰還するしかなかった。

  

 

 日本本土

 アメリカ軍は、飛行場の準備を整えると爆撃部隊を出撃させ、

 日本主要都市の爆撃を開始した。

 B17爆撃機、B24爆撃機、B25爆撃機、B26爆撃機、

 ライトニング、ムスタング、コルセア、サンダーボルト。

 日本の各都市は、焦土と化していく。

 名古屋上空をアメリカ爆撃部隊が襲い、

 雷風、疾風、ゼロ戦6型が迎撃で上昇する。

 「4発機あり、双発機あり、単発機あり、どういう編成だ?」

 『とりあえず。何でも良いから、飛ばせる機体を出撃させたのでは?』

 「じゃ こっちと同じか・・・」

 『敵も味方も苦しいということでしょうね』

 「とりあえず。雷風は、高度を取れ」

 「ムスタングとライトニングにサッチウィーブをやらせるな」

 『はっ!』

 名古屋上空は、雑多な戦闘機と爆撃機が入り乱れて航空戦が展開される。

 双方とも、部隊編成が滅茶苦茶でチームワークもいい加減。

 大雑把な作戦しかできなかった。

 そこに捕獲した米軍機が乱入して撹乱する、

 捕獲した重防弾のアメリカ軍機が、

 もっとも戦略爆撃隊のコンバット・ボックスに切り込みやすかった。

 特にヒスパノM2、20mm機関砲1丁。12.7mm4丁を装備するライトニング戦闘機。

 そして、ひたすら頑丈なサンダーボルトは、高高度でも高速であり、

 コンバットボックスの弾幕を突破するため、対重爆で使いやすい。

 「・・・ん・・・日の丸? ちっ! 味方か、邪魔だな」

 急降下して、サンダーボルトを撃墜しようとした雷風が機首を上げる。

 日米とも、互いに両航空戦力を関東と関東の周辺に集結させていく。

 南方からの帰還する日本航空部隊と、

 アメリカ本土から関東に送られてくるアメリカ航空部隊の競争だった。

 日米とも互いにまともな部隊編成もできず、機体数で満足できない戦況となっていた。

 アメリカ軍は地の利がなく、日本の増援部隊が増加すると、

 時間と共に悪化していくため対地攻撃で橋頭堡を拡大しなければならず。

 航空攻撃をやめられず。

 さらにアメリカ上陸作戦部隊の支援攻撃もしなければならなかった。

 日本軍も、とにかく数を出して制空権を守ろうとする。

 そして、日本パイロットの帰還率が増えていくと。

 アメリカ爆撃部隊は、一度の出撃で損失が2割に達し、

 地の利と兵站が弱い状況下で消耗が激しくなると、

 次第に苦戦するようになっていく。

 この時期、ドイツを脱出したUボートは200隻にのぼり、

 日本海軍へと移籍するために移動していた。

  

  

 呉の臨時作戦室

 官僚将校たちの宴

 「・・・海軍は、まだ、アメリカ機動部隊と上陸作戦艦隊を攻撃しないのか」

 「損害が大きいから駄目だと、勅命を受けているそうだ」

 「そりゃ 上陸部隊への攻撃でさえ、結構な損害だ」

 「アメリカ艦隊への攻撃ともなれば、さらに損害が大きくなるが・・・」

 「陸軍が、ごねていたぞ。戦車を生産していたら良かったってな」

 「制空権を失うのと戦車を持っているのと、どっちが良いんだ」

 「関東包囲が抜けられると危ないぞ」

 「しかし、大阪、名古屋もかなり爆撃されている」

 「このままだと、日本の産業そのものが破壊されるぞ」

 「それ以前に東海道を含め名古屋は地震から回復していないよ」

 「なにやっているんだ。半年もたつのに」

 「半年たっても再建できないのは、建材じゃなくて、武器を作っているからだろう」

 「んん・・・満州は、戦線は支えているが武器弾薬の消耗が大きい」

 「武器弾薬がなくなれば戦線は崩壊するぞ」

 「海軍は艦隊特攻をかけるべきだろう」

 「戦艦部隊だけなら勝っている長門、ティルピッツ、伊勢、日向。相手は、ウィスコンシン1隻だけだ」

 「相手がウィスコンシンだけなら、4対1で何とか勝てる気がする」

 「陛下は、アメリカ機動部隊をギリギリまで消耗させたいのだろう」

 「パナマ運河を破壊してから空母の増援は南半球を大きく迂回しなければならない」

 「持久戦なら悪くないぞ」

 「こっちが命脈絶たれるか。息切れしなければね」

 「4月22日に上陸が始まり、アメリカ機動部隊の連続作戦は、2ヶ月間を越えて港にも入っていない」

 「陛下が海軍の出撃要請を拒み続けているのは合理的だよ」

 「意志の強さには敬服するがね」

 「アメリカ機動部隊が南下しても機動部隊をブルネイにまで逃亡させたのは確かに陛下の強い意志だな」

 「しかし、攻撃しないと本土の損害が増加する」

 「いや、攻撃する方が消耗する」

 「日本機動部隊が残っているだけで、アメリカ機動部隊は身動きがとれずに消耗し続けている」

 「燃料が無くて東京湾に停泊している連合軍商船は、500隻に達しているそうだ」

 「輸送のローテーションが上手く行っていないのだろう」

 「だが、日本国民は、キレかけているぞ」

 「逸をもって労を討つ。バルチック艦隊も、そうだっただろう」

 「帝都を占領されてもか? 講和したいものだ」

 「ダーウィン捕虜返還事務局で交渉中だよ」

 「はあ〜 どう転んでも、どっちも戦力が残っている間は、終わらんよ」

 「アメリカ陸軍の捕虜を皆殺しにも出来るんだ」

 「最悪の場合の選択だな」

 「ところで、第2機動部隊が見当違いの方向に向かっているのは、どういうことだ」

 「陽動だろう」

 「この期に及んで陽動もないだろう」

 「イギリス機動部隊も太平洋側に来ているそうじゃないか」

  

  

 最初のB29爆撃機30機がムスタング50機に護衛されて飛び立った。

 目的地は、名古屋。

  

 名古屋上空

 迎撃に上がった雷風40機がムスタング50機と空中戦を開始。

 ムスタングの隊長が忌々しげに命令を下す。

 「・・ちっ! ペラが後ろについた奴だ。上昇しろ! 被られるな!」 隊長

 「隊長、爆撃部隊は?」 部下A

 「えぇぇい! 放っとけ。上をとられたら。負けるぞ」

 雷風とムスタングの編隊が、相手の編隊より上に出ようと上昇する。

 高高度からムスタング編隊がサッチウィーブで、

 日本機を撃墜するという目論見は、予測どおり崩れる。

 緑色のライトニング戦闘機20機と、

 サンダーボルト戦闘機20機が正面からB29爆撃機30機に向かって突進。

 ムスタング部隊は、爆撃隊の援護が間に合わず。

 B29爆撃部隊は、相互に支援する位置を確保しながら掃射を始める。

 互いの銃弾が機体を擦れ、金属音を立てていく、

 命中しやすいのは、鈍重で大きなB29爆撃機の方だった。

 ほとんどの場合、相撃ちに近い損失を出し、

 それぞれ、10機が落ちていく、

 戦闘機と大型爆撃機の損失比が1対1は、戦果で日本で勝ちでも、

 日米の国力比だと天秤が逆に傾きアメリカの勝ちになった。

 さらに互いに鍔迫り合いをしていた雷風とムスタングが高度12000kmで弓なりに交差。

 正面から撃ち合った。

 こちらは、雷風が4機とムスタングが7機が撃墜され、

 その後、緩やかに高度を下げながら、

 緩慢な横旋回を繰り返し、空中戦を展開した。

  

  

 ベルリン日本大使館

 大使館は、ソ連軍によって包囲されていた。

 そして、スウェーデン、スイス、インド、スペインの赤十字が、公然と入り込み、ソ連軍と揉めていた。

 「杉原大使。我がソビエト連邦と貴国日本は、交戦国となりましたので」

 「この大使館は、没収させていただく」 コーニェフ将軍

 杉原大使は、大使館のユダヤ人、ドイツ人の避難民を見て呻いた。

 「もう少し、お待ちいただけませんかなコーニェフ将軍」

 「現在、傷病者が多く、すぐには動けない状態ですので」 杉原大使

 「あなた方、大使館職員に対しては、中立国まで無事に送り届けます」

 「・・・・・」

 「難民に関してはスパイ容疑さえなければ、身の安全は責任を持って保障しますよ」 コーニェフ将軍

 「本当でしょうな?」 杉原大使

 「・・・嘘を付けという命令は受けていませんな」

 「そして、この大使館は、中立国の赤十字の管轄になります」 コーニェフ将軍

 杉原大使とコーニェフ将軍は見詰め合う。

 ベルリンの日本大使館のことは、ユダヤ人の報道機関を通じ、世界中が知っていた。

 そして、米英ソ間で政治的判断が下されており、

 日本大使館内のユダヤ人とドイツ人の身は呉越同舟のまま保障される。

 「それは、失礼をした。コーニェフ将軍。そういうことでしたら従いましょう」 杉原大使

 既にベルリン市内では、悲鳴も聞こえておらず、銃声も聞こえていない。

 ベルリンは、瓦礫の世界が広がっているだけの世界だった。

 「どうです。杉原大使。一緒にウォッカでも我々を中に招待していただけませんか」

 コーニェフ将軍が微笑むとウォッカを振る。

 政治将校と数人の将校がウォッカとつまみの入った箱を持っていた。

 杉原大使は、微笑むとコーニェフ将軍と握手を交わした。

  

 

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第36話 1945/05 『ドイツ降伏と関東戦線』
第37話 1935/06 『ソビエト参戦』
第38話 1945/07 『本土決戦とリオデジャネイロ上陸作戦』