月夜裏 野々香 小説の部屋

    

After Midway

    

第38話 1945/07 『本土決戦とリオデジャネイロ上陸作戦』

 冬のマゼラン海峡

 大艦隊が氷河と氷山を避けながら大西洋から太平洋へ航行していく、

 天候は、極寒で少しばかり、時化気味。

 それでも、この時期では、良い方だという。

 アメリカ油送船タルムード

 「冬のマゼラン海峡とはね。パナマがやられて、偉い迷惑だ」 船長

 「まったくです」

 「聞いた話しでは、燃料消費量が増えすぎて、戦争遂行も困難だとか」 副長

 「日本の潜水艦の襲撃も怖い。機雷も怖い。こんなところで沈められたら確実に凍死だな」

 「喜んでいるのは補給基地になったチリとアルゼンチンでしょうね」

 「Uボートが本格的に日本と合流する前に太平洋側に回りたいものだ」

 「やはり、ドイツのUボートは日本に?」

 「ドイツ本土でUボートは、ほとんど捕獲できなかった」

 「700t級潜水艦でさえ、乗員3分の1、魚雷の代わりに燃料と食料を詰め込めば楽にケープタウンに辿り着けるよ」

 「今頃、ケープタウンで日本回航の準備中に決まっている」

 「ケープタウンを攻撃しないので?」

 「噂だと、どうも捕獲した戦車部隊や艦隊が配備されているらしい」

 「・・・天皇が忘れているとか」

 「日本人もバカな連中だ」

 「日本の首都が陥落しているというのに、ケープタウンに陸軍部隊を配備しているのだからな」

 「敵兵の遊兵化は、戦略の初歩ですからね」

 「どうせ、日本まで持っていく燃料が無いのだろう」

 「そういえば、南アフリカは、油田がありませんでしたね」

 「天皇が指揮を取って巻き返したらしいが所詮は、素人考え」

 「こちらが高度すぎて、負けていたのだろう」

 「そういうのは、ありますね。昨日のチェスがそうでした」

 「ふっ 今日は気分が良い」

 「昨日だけですよ」

    

    

 満州

 日本軍の防衛線は、強固だった。

 極東ソ連軍は、欧州から増援されて来る部隊を待たなければ攻撃不能になるほど被害を受ける。

 大興安嶺の山を刳り貫いた防衛線は、シュトルモビク爆撃機の爆撃にも耐えた。

 ソ連軍地上部隊に対して、十字砲火を浴びせる地の利もあった。

 そして、強行突破しようとするT34戦車とスターリング戦車は少数。

 M4シャーマン戦車の群れがスターリン戦車側面に向かって突進する、

 走りながら撃っても当たらない。

 M4戦車2両がペアを組み、交互に止まって近距離射撃で撃った。

 M4戦車が数に任せて、スターリン戦車やT34戦車に迫った。

 75mm砲弾がスターリン戦車に命中するがビクともしない、

 スターリン戦車が撃ち返す。

 接近する間にシャーマン戦車4両破壊され。

 残ったシャーマン戦車が、ぶつかるほど近付いて砲撃。

 スターリン戦車を撃破し、同時に衝突して斜面へと引っくり返してしまう。

 「・・・あのスターリン戦車は、すごいな」

 「あれだけ近距離で撃っているのにM4シャーマンを4両も破壊した」 大尉

 「ええ、たいしたものです、平原で迎え撃たなくて良かった」

 「命拾いしましたね。T34戦車もM4シャーマンより強い」 軍曹

 「ああ、ノモンハンでは生き残ったが絶望的だった」

 「ええ」

 「しかし、ここでは、戦える」

 「軍上層部に思うところが多かったが陛下が指揮を取ってくれて助かったよ」 大尉

 砲声は絶えず轟き、砲弾が着弾する爆音も絶えず、辺りを吹き飛ばした。

 機銃掃射がソビエト軍将兵を釘付けにし、擲弾筒が降り注ぐ、

 「大尉。命数切れの大砲が増えています」

 「それに武器弾薬の補給が間に合いそうにないとの事ですが」

 「わかっている」

 「しかし、敵が迫っているうちは、撃たねばならんだろう」

 「狙撃兵は、士官を狙っているのか?」

 「攻撃が一向に収まらん」

 「もちろん、狙わせていますが向こう側の狙撃手も相当な腕です」

 「士官狙い・・・考えることは同じか・・」

 次の瞬間、大尉の体が仰け反って倒れる。

 ソ連の狙撃兵に肩を撃ち抜かれていた。

  

  

 日本本土決戦は、続いていた。

 アメリカ戦略爆撃部隊は、九十九里の仮設飛行場を本格的な飛行場にまで拡張。

 日本の主要都市を爆撃。

 しかし、作戦は予想以上に犠牲を伴うものだった。

 日本の新型エンテカナード型戦闘機(雷風)は、高々度でムスタングと同じレベルで競り合った。

 そして、いつの間にか、空戦空域が降下するとゼロ戦6型、疾風が殴り込む。

 あっという間に乱戦状態に持ち込んで格闘戦に勝る日本機がアメリカ軍機を撃墜していく。

  

  

 ゼロ戦6型2機

 「・・・中高度ならムスタングを被れるぞ」

 隊長機がムスタングを1機撃墜して叫ぶ。

 「隊長。4時、上方です」部下

 ムスタング2機がゆっくりと機首をこちらに向けようとしていた。

 「降下!! 雲に入って体勢を立て直すぞ」

 隊長機が相対高度、距離、速度差で瞬時に不利を悟って決断する。

 「了解。空母戦でなくて良かったですね」  部下

 「本音を言うとそうだな。ゼロ戦6型で離着艦は、怖すぎる」 隊長

 「アメリカ軍パイロットもコルセアで離着艦は怖いとか」  部下

 「ふっ・・・確かにな」

 ゼロ戦6型2機が雲の中に突っ込むと体勢を立て直す。

 そして、追撃してくるムスタング2機をかわして回り込む。

 逃げようとするムスタングにブローニング12.7mm2丁の銃弾を浴びせかける。

 損傷させて弱ったところを20mmで止めを刺した。

 結局、重量と命数、発射速度など目を瞑り、初速の速い捕獲した12.7mm機銃を載せてしまう。

 格闘戦に入ると自動空戦フラップの効果があり、

 ゼロ戦6型、疾風は、速度差を補って戦うことが出来た。

  

  

 アメリカは、欧州戦線から、

 そして、日本は、南方戦線からパイロットを呼び寄せ。

 それでも足りずに双方とも空母艦載機を陸上配備する。

 日本航空部隊は、雷風の数が増えるに従い、関東の制空権を回復。

 日米航空戦は、日本の各都市防空から関東の制空権を握る戦いに移行していた。

 アメリカ戦略爆撃部隊は、関東に押し返していく、

 B29爆撃機も中距離爆撃のため、高度を取る前に日本戦闘機に被られ、

 雷風の25mm機関砲の餌食にされていく、

  

 日本陸軍は、関東包囲に成功しつつあった。

 雷風の投入を切っ掛けに航空戦の天秤は日本側に傾き、

 アメリカ戦略爆撃部隊の日本本土爆撃は、関東上空へと押し戻され、

 この戦局にあって、

 アメリカ陸軍は、遅ればせながら関東平野を抜け、本州全域を制圧しようとした。

 しかし、関東を抜ける山道は、日本軍が封鎖しており、

 日米陸軍最大の激戦地となっていた。

 アメリカ軍の攻勢は、日本軍の頑強な抵抗にあって挫かれ、

 日本軍が捕獲した初期型M4戦車と

 アメリカ軍の後期型M4戦車が撃ち合う光景が時折、起きた。

 日本側の初期型M4シャーマン戦車は、性能で劣り、

 後期型M4シャーマン戦車より不利だった。

 しかし、地の利は、性能差を埋めて互角以上にしてしまう。

 「97式戦車じゃなくて良かったな」

 「地の利に関係なく撃破されそうですからね」

 ブルドーザーに改造された97式戦車や95式軽戦車が防衛線を増強していた。

 

 

 

 その頃、南大西洋を横断する日本第2機動部隊と上陸作戦艦隊があった。

 巡洋艦 摩耶 艦橋

 「・・・・本当に帰還命令は出ていないのか?」 艦長

 「出ていないようですね」 副長

 「信じられん。日本本土が。帝都がアメリカ軍に踏み躙られているというのに、どういうことだ?」

 「通信兵。本土から帰還命令は、出ていないのか?」

 「いえ、作戦続行です」 通信兵

 「間違いではないのか。帝都が蹂躙されているのに。上陸作戦とは・・・・旗艦は?」 艦長

 「作戦続行の旗です」 副長

 艦長は、艦橋を落ち着かないように歩く

 「艦長。作戦内容はともかく、もっと落ち着いていただけませんか」

 「兵が動揺します。勅命ですし」

 「わかっとるわ!」

 「艦隊は、ともかく。輸送船は、大変でしょうね」

 「血気盛んな陸軍将兵ばかりですから」

 「そうだろうな」

  

  

 輸送船

 ばいかる丸

 「船倉の兵士が騒いでいるそうじゃないか」 船長

 「帝都にアメリカ軍が上陸したのが知られたのでしょう」 副長

 「・・・ふう。旗艦は?」

 「作戦続行です」

 「本土からの通信は?」

 「作戦続行です」

 「まあ、いまさら、戻っても間に合わんさ」

 「船長は、この作戦を続行すべきだと?」

 「副長は、南米に降りたことがあるだろう」

 「・・・・ええ、あります」

 「ブラジルを占領することは、目的ではない」

 「南米を大混乱に陥れて、アメリカの目を南米に向けさせるのが目的だ・・・・」

 「・・・・・・・・」 副師団長

 「副師団長。もし、将兵が抑えられそうに、なければ、わたしが説明しますが」 船長

 「帝国陸軍が徴用船の一船長に助けてもらうようなことはない」

 副団長は、そわそわしていた。

 「まるで心身症だ」

 「何だと!!! 貴様、帝都が占領されてるのだぞ!!」

 「わたしなら、説得力の有る説明を将兵に対し、できると思いますがね」 船長

 「んん・・・勅命は絶対だ」

 「帝国陸軍に説明などという、軟弱なものはいらん!」

 副師団長は、落ち着かない

 「副師団長。もし、助力が必要であれば、おっしゃってください」

 「わたしは、南米に降りたことがあるので、陛下の意図がわかりますよ」

 「・・・・・・」

 「作戦は続行されるでしょう。ここで待っても、帰還命令は出ませんよ」 船長

 「通信兵。暗号は確かであろうな」 副師団長

 「副師団長殿。作戦続行も作戦中止も簡単な平文です。暗号ではありません」 通信兵

 「それぐらい。わかっとうわ!」

 そこに参謀が船橋に上がってくる

 「副師団長、少し替わってくれ。師団長がお呼びだ。どうにも収拾が付かんよ」 参謀

 「わかった」

 副師団長が船橋を降りていく

 「通信兵。命令は?」 参謀

 「作戦続行です」 通信兵

 「ま、間違いなかろうな」 参謀

 「間違いありません」 通信兵

 「くそ。いったい。どういうことだ。旗艦は、そのままか」

 参謀は、進み続ける進路にイライラとしていた。

 「上陸作戦が成功すれば、南米諸国は、混乱」

 「アメリカは、南米の権益を得るために日本から手を引きますよ」 船長

 船長を睨みつける参謀

 「そんな保障がどこにある!」 参謀

 「南米に降りたことがあります」

 「作戦が成功したらブラジルは無政府化してバラバラになるでしょう」

 「・・・・・」

 「そうなったらアメリカは、日本を打倒するより、手近な南米諸国に触手が伸びますよ」

 「そのほうが利益が大きいですからね」

 参謀は船長を睨み続ける、

 「・・・作戦が成功すると思うか?」 参謀

 「ゆっくり休んだらどうです。上陸作戦中に眠くなったら大変だ」

 「作戦中止の通信を待つより、よほど帝国陸軍らしいと思いますが」

 「・・・おまえ、南米に降りたといったな。上陸作戦で参考になるだろう。付いて来い」

  

  

 7月10日、リオデジャネイロ上陸作戦

 第2機動部隊、(シャルンホルスト、グナイゼナウ)140機

 筑摩、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、大淀、

  駆逐艦、秋月、照月、涼月、初月、新月、若月、霜月、冬月、春月、宵月、花月、夏月

 輸送船・LST・タンカー60隻。

 

 日本の輸送船とLSTがリオデジャネイロの海岸取り付いた。

 そして、上陸した日本軍(M4戦車160両、日本軍15万)がリオデジャネイロを制圧。

 ブラジルは、日本本土が上陸された4月に宣戦布告していた。

 しかし、まったく戦争をする可能性について考えておらず。

 あっという間に崩壊していく。

 そして・・・・

  

 7月18日

 バルガス大統領が日本軍によって逮捕されてしまう失態を演じ。

 ブラジルは、大混乱のまま、サンパウロが日本軍によって占領される。

  

 大西洋とフリータウンの米英機動部隊は、ディエゴガルシア島に第二機動部隊がいると思い込み。

 わからないように喜望峰を大きく南下して豪州から真珠湾へと回航していた。

 大西洋で日本第二機動部隊と戦える艦隊は皆無だった。

 その後、人質に取られたバルガス大統領が日本に降伏のサインをして調印。

 ブラジル社会の崩壊が始まっていく。

 この日本のリオデジャネイロ制圧は、アメリカとイギリスに影響を与えてしまう。

 リオデジャネイロに上陸した日本軍が恒久的にブラジルを支配し続けるのは不可能。

 しかし、ブラジルの混乱は南米全体に広がる。

 そして、長引けば、アルゼンチンやウルグアイがブラジルに侵攻する可能性もあった。

 そうなれば、南米諸国の勢力そのものが大きく変動してしまう。

 アメリカ合衆国にとって混乱する南米は、日本より、はるかに魅力ある地域になっていた。

 アメリカ政府は南米諸国の国境線が変動することを望まないと表明し、

 南米諸国に対し、行動を起こしつつあった。

  

  

 ダーウィン港湾の堤防

 日米英の代表は釣りをしていた。

 日本代表、アメリカ代表、イギリス代表は、落ち着かず。

 3者とも、ことごとく吊り上げるタイミングを外している。

 そして、3者とも時折、電報が届くのか、

 煩雑に電報に目を通すことになった。

 「・・・日本代表。どう、いたしました?」 

 「連合国領海でのささやかな抵抗は、タイミングを外されているようですが?」

 「遠慮はいりませんから好きなだけ釣り上げてください」 イギリス代表

 「どうです、新しい練り餌が届きましてね」 アメリカ代表

 「・・・ありがたい。使わせていただきます」

 「そうだ、日本から清酒が届きましてね」

 「あとで、そちらの事務所に贈らせていただきますよ」

 練り餌の箱は、震える手で渡され、

 震える手で受け取られる。

 「・・・日本酒は、上品ですな」 アメリカ代表

 「しかし、スコッチ、ワイン、ブランディー、ビール、日本酒」

 「一緒に楽しむと、酷い目にあいますな」 イギリス代表

 「結局、量でしょう。上級品は、なかなか止められませんから・・・」 日本代表

 三者とも、まったくの虚勢で、心ここにあらず。

 こうしている間も互いの兵士が血を流している。

 特に本土決戦の日本は、民間人の血も流される。

 ドイツは瓦礫が残る。

 日本は、焼け野原。

 3者とも酒に溺れる気分ではなく。

 それらしく話して、心理的な優位性を確保しようとする。

 知らない人間が利けば、不謹慎さにあきれ返るが外交戦術上の張ったり、

 しかし、そういった心理戦も長くは続かない。

 日本本土決戦戦は、日本の産業を根底から破壊し、

 アメリカ軍も、攻勢の限界に達していた。

  

 そして、日本のブラジル首都占領と南米諸国の混乱。

 ソ連軍の攻勢も足踏みしていた。

 この状況で、落ち着けは、無理な話しだった。

  

  

 

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第37話 1945/06 『ソビエト参戦』
第38話 1945/07 『本土決戦とリオデジャネイロ上陸作戦』
第39話 1945/08 『終 戦』