月夜裏 野々香 小説の部屋

    

After Midway

  

 

第59話 1949年 『大陸赤化』

 朝鮮半島 江華島 アメリカ極東戦略作戦司令部

 中国大陸の地図が広げられていた。

 悲観的な空気の中、地図上の赤マークが増えていく。

 黄色マークを増やすための要素があまりにも少なすぎた。

 「・・・第二の封印を解くと赤い馬に乗った者が現れ」

 「人々が殺し合う赤い剣を与えられる、か」

 「聖書、黙示録ですか。大陸全体が絶望的ですね」

 「社会・経済から受ける人間の刺激は、群集心理という形でパターン化しやすい」

 「黙示録の流れは人間の欲望の作用・反作用のパターンを書いたものだ」

 「いつの時代でも近似値が出せて、当てはめやすい」

 「ファシズムや共産主義の台頭も偶然でなく。必然の産物だよ」

 「・・・無神論者のソ連と中国人が聖書の予言を守っているわけですか?」

 「第一の封印、弓を持った者が乗る白馬は、何をしているんでしょうか?」

 「待っているのさ。全ての封印が解かれるのを・・・」

 「それより、この分だと揚子江防衛線すら維持できそうにありませんね」

 「原爆を落とせばいいんだ」

 司令官が指差したのは占領されたばかりの北京だった。

 「これで、赤い馬の進軍は、止まる」

 「本国は、気が向かないようですが?」

 「だろうな。既に中国南部でも農民が共産化で搾取から解放されると喜んでいる」

 「このままだと。大陸は、ドミノ倒しの様に赤くなりますよ」

 「・・・どうやら戦争する国を間違えたな」

 「群集心理の必然では? 作用・反作用の・・・」

 「そうだったな。人間が欲望に正直だから予言も進むのだろうな」

 中国民衆が共産化を支持していた。

 そして、国民政府の海南島への避難が日米で出された結論だった。

 海南島と雷州半島は、アメリカ陸海空軍の支援がしやすかった。  

 

 

 アメリカとソビエトの対立は、同盟戦略の過程で東西対立を作り、

 欧州側では、北大西洋役機構(NATO)を成立させ、

 極東では、米韓安全保障条約。日米相互保障条約が結ばれていく、

 特に日本は、地中海で出雲州が北大西洋条約機構(NATO)と重なり、

 特殊な参戦条項が検討される。

 また、NATOが一枚岩でないこともわかる。

 特にフランスとイタリアは共産主義勢力の浸透で混乱していた。

  

 ソ連がベルリン封鎖を解く。

 

 西ドイツと東ドイツが誕生。

  

 人民解放軍が上海を占領。

  

 

 マッカーサーは、アメリカ議会で、

 “韓半島はアメリカ極東アジア戦略の要。共産主義東進阻止の防壁”

 と言明。

 アメリカは、韓半島。海南島。インドシナ、フィリピンを反共・反日の拠点とし、

 影響下に組み込んでいた。

 しかし、大陸が赤化されると反共が強くなり、反日包囲網は薄められていく、

 

 東南アジア諸国は、一度、日本によって占領され、独立した国だった。

 しかし、独立条約以外の条項は、主権のある国であり、

 アメリカは、金に任せて味方に引き入れていた。

 韓半島は、日本軍と交替したアメリカ軍によって軍政を敷かれ、

 日本敗北で朝鮮人が喜んで揚げた大極旗は、米軍によって降ろされ、

 朝鮮総督府にしか上げられていない。

 

  

 

 国民軍は、中国民衆の支持を失い、

 海南島と雷州半島へと落ち延びていく。

 そして、追撃してくる共産軍に向かって砲弾が降り注ぐ。

 砲撃は、戦艦モンタナ、オハイオ。ウィスコンシン、イリノイ、ケンタッキー。

 地上からは、アメリカ軍砲兵部隊の砲撃

 空からは、アメリカ航空部隊の空爆支援。

 減価償却処分なのか、十数万tの砲弾と爆弾が叩き込まれ、

 人海戦術で迫る中国共産軍は、粉砕され、

 血の海の中で磨り潰されていく。

  

 モンタナ艦橋

 「いや〜 提督・・・・実に恐ろしい光景ですな」

 爆音と土煙で地表が変わっていく戦場を某国政府高官が双眼鏡で覗き込んでいた。

 「国民軍のため船を出してくださったお礼ですよ」

 「日本は近いですからね。都合が付けば、いくらでも用立てられますよ・・・・・」

 白人武官は憮然とする、

 太平洋を挟んでアメリカ軍と死闘を繰り返した国の政府高官が

 ビジネスマンのように腑抜けになってしまうとは・・・・

 大陸が赤化しているのに。日本は、あまりにも無用心だった。

 それとも日本は、国民の不満を解消し、共産化しない性質が、あるのだろうか。

 「この作戦が成功すれば、共産主義勢力を大陸に押し止められるはずです」

 「さすがはアメリカです」

 「武器弾薬の総トン数だけで戦艦のトン数を越えてしまうなんて」

 「日本人には、想像も出来ません」

 「モンタナは、60000トン級。50口径406mm3連装4基」

 「現在、世界最強の戦艦です」

 「実に素晴らしい戦艦です」

 「大和型と雌雄を決したかったのに残念です」

 「たぶん。大和が負けますよ。提督」

 「・・・ですが、アッツ沖海戦では、モンタナでも大和に勝てないでしょうな」

 「戦場に左右されない技術差と性能差があれば、戦争になりませんよ」

 「確かに・・・ところで、秋田のドイツ人は、日本に貢献しているようですな」

 「西ドイツへの帰国は止めていませんが日本に馴染んでいるドイツ人も多いようです」

 「一部は、出雲に移民しているようですが?」

 「西ドイツの自由と人権が確保されれば帰還するでしょう」

 「ナチスドイツは、人権も自由も、ありませんでしたよ」

 「欧州の政治ごとに関わりたくないのです」

 「しかし、連合国の西ドイツの干渉は強過ぎますね」

 「道理が通用しないのが政治では?」

 「たしかに理屈がどうあれ、国民感情で、そうするしかない場合もありますがね」

 「国民に偏見をやめろと言える政治家は、見かけませんな・・・」

 「落選しますからね」

 「日本も民主化が進んでいるようで安心です」

 「まぁ 軍官僚と富裕層で固まっていた癒着をひっくり返せたので、一息ですがね」

 「なるほど・・・」

 「むかしは、軍属で民意を捻じ伏せていました」

 「しかし、もう駄目です」

 「今後は、自由と権利を得た国民感情を優先していくことになるでしょう」

 「それは、自由民主主義への批判ですか?」

 「どこの国の政治家も、国民感情で国益が捻じ曲げられたら批判したくなりますよ」

 「官僚政治に対する抑制になるのでは?」

 「アメリカと違って政府が人事権を持つ官僚でなく、試験で選出される官僚ですから・・・」

 「良し悪しありですかな?」

 「そりゃ あるでしょうね」

 士官が電文を持ってくる。

 「・・・提督。偵察機からの報告で、しばらく様子を見た方がいいのではないかと・・・・」

 「そうか、砲撃中止だ。順番に補給してくれ」

 「台湾・・・いや、敷島の港湾設備は助かるね」

 「それに南沙群礁の設備も・・・日本は計算付くかね」

 「偶然ですよ。戦後再建の一環です」

 「・・・・都合がいいな」

 「どうしても日本に金が流れ込むように世界情勢が動いているようにしか思えんよ」

 「あはは・・・・」

  

 この時期、世界の戦艦は、アメリカ戦艦5隻。イギリス戦艦バンガード。

 日本戦艦(長門、ティルピッツ、伊勢、日向)の10隻のみだった。

 そして、日本戦艦の退役は、早く。

 数年後は、順次モスボール化され、記念艦として生涯を終えるという。

 代艦の建造がされないため、日本海軍は実質、縮小に向かっている。

 米ソ対決を利用して、日本は、軍事費を手抜き。

 というより戦後再建と米ソ対決が重なって運が良かっただけといえた。

  

  

 蒋介石率いる海南政府は、五指山(1867m)の高原域に行政府を整備。

 大陸反攻の機会をうかがう事になった。

 雷州半島の要塞建設も費用対効果で日本に発注。

 ということで、海南・雷州も日本の建設会社が入っていく。

  

 経済は、国家戦略や国民感情の思惑を外してしまいやすい、

 というより、国家戦略も経済抜きで成り立たない、

 アメリカは、日本の経済再建を望んでいない。

 とはいえ、パナマ運河再建もこれからであり、

 経済効率の関係から日本産業基盤を利用しなければならなかった。

 そして、日本も同じだった。

 半島のインフラ整備などしたくもない。

 しかし、これもアメリカの発注する金額に頷くしかなく、

 全部、ソ連と共産主義が悪いといえば、そういえなくもなく、

 極東でまともな工業力があるのは日本だけなのだから、しょうがないのだろうか。

 アメリカ人がもっと人種に寛容であれば、半島と海南島の近代化も進む。

 しかし、人種に対する偏見は存在し、

 大陸の共産化に勢いつく朝鮮人は、各地でデモ、ストライキを起こし、

 韓国軍に鎮圧されていた。

 朝鮮総督府

 数人の日本行政官が朝鮮人のデモを見ていた。

 韓国軍が放水、催涙弾を投げ。

 時々、石が総督府まで届く。

 韓国軍の威嚇で銃を撃ち始めると、民衆が散っていく。

 「朝鮮民族がキリスト教徒と共産主義者になりやすいのは、事大主義の延長でもあるよ」

 「主義主張なのでは?」

 「彼らには、そんなものはないよ」

 「強い者の側につく。そして、周りを蹴落として、NO.2の位置を占める」

 「キリスト教徒と共産主義者は、世界市民だからね」

 「そして、白人と同じ世界市民になれば虚栄心を満たせ、自尊心も満足できるわけだ」

 「自主独立より、権力に組み込まれることを望む民族だ」

 「なるほど。トラの威を借るということですか」

 「以前は、清国と儒教だった。そして、次が日本と神道」

 「しかし、日本では小中華思想にドップリ浸かった虚栄心と自尊心を満足させることが出来ない」

 「思いついたのが日本より強大なロシア、アメリカ、西洋列強がキリスト教国家であったこと」

 「キリスト教徒になれば、自分たちも白人と並ぶことが出来る」

 「しかし、そうではなかった」

 「キリスト教は、人と人の善悪を共感共有させコミュニティを形成する方便に過ぎず」

 「人種差別を抑制できるほど強いものじゃない」

 「だから、朝鮮人は、共産主義を選択する道もあるかもしれないと考え始める」

 「北側の朝鮮人は、ソ連軍の満州侵攻で日本が大打撃を受けたのを見ている」

 「そして、アメリカに支援された国民軍を蹴散らしたのも見ている」

 「それで、半島で共産主義勢力が拡大している、ですか?」

 「少なくとも世界最強のソビエトの傘下に入り」

 「白人のロシア人に同志と呼ばれるなら、朝鮮人も満足しやすい」

 「もちろん、キリスト教側もいる」

 「神に対する事大主義は、事大主義の究極だ」

 「そして、虚栄心と自尊心も保てる」

 「弱いから宗教に走るのでは?」

 「まさか、宗教に走るのは、己を結果的な存在として認めたがらず」

 「偶然の産物と思いたくない自尊心の強い人間だよ」

 「・・・・」

 「自分を尊いと思いたい者が、それを裏付けるために神を信じる」

 「キリスト教なら人間は神の子なのだから、自尊心は保ちやすいわけだ」

 「それに目に見えない神を虎の威にできて、好き勝手できる」

 「よくよく考えれば、思い上がりもはなはなしいですね」

 「神と人間が親子の関係というのは?」

 「だから、キリストは殺された」

 「それ以前のユダヤ教は、主人としもべの関係だったからな」

 「なんにしても教義や進化論が正しいかなんて、唯心論者も無心論者も的外れなことをしている」

 「結局、自分自身を神に繋げて安心したい者と」

 「神の権威に人生を左右されたがらず」

 「自主独立なら猿からの進化でもいい者の争いなのだから、神の都合でなく、人間の都合だよ」

 「神が出てきませんね」

 「神も嘆いているだろう」

 「自分をダシに自己満足に浸る者」

 「権威の傘を被り肝心の神の存在を否定する者」

 「そして、信じた振りの宗教で生活している者が多いのだから」

 「日本人は、信じてない者が多いですが」

 「八百万の神を信じているだろう」

 「それに一応、神道系で仏教の檀家にもなっている」

 「ほとんどの場合、冠婚葬祭の形式になってしまったがね・・・・」

 民衆がさらに集まり投石が始まる。

 韓国軍の威嚇射撃は、次第に銃口を民衆へと向けていく、

 銃撃が始まると、血だらけの民衆が逃げ惑う。

 「局長。これは、やりすぎでは?」

 「ああ、アメリカ軍に止めさせないと」

 そして、銃撃が激しくなり、民衆の殺戮になっていく。

 「酷いな・・・・」

 「ええ・・・」

 「」

 「」

  

  

 

 

 昭南(シンガポール)州

 シンガポール領有は、独立条約で認められており、

 イギリスの置き土産で近代化に必要な設備が揃っていた。

 策源地の東南アジアとインドに近く、さらに出雲、秋津への航路も通る、

 独立条約が守らせられるように日本軍守備隊が置かれ、

 独立した東南アジア諸国からの資源購入は順調だった。

 しかし、アメリカが軍が朝鮮半島、海南島、フィリピン、インドシナに駐屯すると、

 シンガポールの日本軍は相対的に脆弱になり、

 太平洋戦争時より軍事的な情勢が悪化する、

 日本の生命線が断たれるかというとき、

 大陸赤化と冷戦のおかげか、

 国際情勢は、日本に好都合な形に流れ

 仕方なく、南沙群礁を埋め立て、飛行場と港湾を建設し、

 日本本土との航路帯を保とうとする。

 シンガポールに発展の要素があると、

 ここに移住した日本人は、詰め込み型の勤勉さと、

 過労死するほどの勤労で無理やり近代化させていく、

 軍国主義的な権威主義が崩壊し、民主主義が強くなると、

 NO.1に擦り寄り、周りを蹴落としてしまうマイナス要因が減少し、

 協力しやすくなり設備投資が繰り返され、インフラ整備が充実していく。

 程度の低い製品も生産力が大きくなると、

 東南アジア諸国だけでなく、インド、豪州まで顧客が増えて市場が広がる、

 東南アジアでは、日本のおかげで独立できたと思う人間が多く、

 独立記念碑は、日本人らしきメガネ男が描かれていた。

 そして、民族、文化、宗教対立があっても経済は正直であり、

 軍事的な背景がない日本人はペコペコし、

 白人と違って尊大でなく売り込みやすいのか、

 現地の華僑、イスラム商人と組んで市場を広げていく。

 日本と東南アジア諸国の独立条約は、日米英講和条約で保障され、

 アメリカとイギリスも独立国との自由貿易を確保していた。

 旧宗主国フランス、オランダが独立を覆そうとするなら、

 国際的な反発を覚悟しなければならない。

 というわけで、独立後の東南アジア諸国は、平和であり、

 東南アジア各地に日本人町が建設されていく、

 そして、日本の某総理大臣は、何を思ったか、

 日本の市民権を東南アジアの有力者(協力者)に売却することを決めてしまう。

 議会も市民権の数を制限すればいいか、と法案を通してしまう。

 日本の市民権は、東南アジア諸国で人気があった。

 1代限りの市民権でも日本人と同等の権利と義務が保障されている。

 日本の市民権は、東南アジアでステータスがあるのか、購入者が増えていく。

 そして、インドと南アフリカ公国でも求めに応じて売られ、

 世界中から日本外務省に問い合わせが来るようになった。

 日本人の市民権を持った有力者は、両方の国に資産を置き、

 自分の利益の次に二国間の利益を考える。

 当然、スパイもいる。

 プラス・マイナスで総合でプラスなのだろうか、

 日本諜報機関、特務機関は、白色テロが出来る程度、健全だった。

   

 

 シンガポール港

 窓から港湾が見え、商船が増えているのがわかる。

 この時代、まだコンテナ輸送は確立されておらず。

 大勢の荷受業者が積荷を出し入れしている。

 数隻の丙型海防艦が海賊警備のために出航していた。

 シンガポールの政務庁

 「やれやれ、総理も何を考えているんだか」

 「東南アジアの大同団結で八紘一宇じゃないの」

 「まさか、軍事費は稀に見る最低な比率だぞ」

 「しかし、東南アジア全域。インドでさえ、日本人町が作られそうですよ」

 「日本人町を結んで和橋ネットワークかな」

 「どうなんですかね。白人も欲しがっているみたいですよ。日本の市民権」

 「数を制限して、良かったよ」

 「今度、3世代市民権も検討しているようですよ」

 「そりゃ 永久市民権と変わらないだろう」

 「あはは」

 「しかし、日本の市民権を持っても日本の代弁者になるとは限らないがな」

 「ですが、日本人優遇は、制度以上に民間レベルでも強くなっています」

 「欧米と同じ条件なら日本人と契約するそうですから」

 「賃金比率で計算すると、同じ条件なら、かなり有利になるな」

  

  

  

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 月夜裏 野々香です

 1947年から月一ページを年一ページにしてしまいました。

 日本市民権の売買。

 これは、一種の賭けですね。

 東南アジア諸国独立が日本によるところが大きいと判断した場合。

 総理が決断する可能性が、あるかもしれないという感じです。

 どうかな・・・・

 アンチ・ヒーロー風小説ですが、

 そういう総理も出てくるかも、ということで・・・・

 条件的には、整えているので官僚の反発も少なく。

 あとは、某民族の方々に売られないようにしないと・・・・・

 外交下手な日本人ですが、市民権売却で補えるかもです。

 いまのところ、市民権の枚数は、決めていませんが・・・・・

 独立国の政官財の有力者には、配ってしまいました。 

 アジア独立で血を流すと、こういう裏技ができます。

 日本人の世界市民化でしょうか、

 世界の日本市民化でしょうか、

 受け取り方次第ですね。

 『日清不戦』では、無理でしょう。

 アメリカの市民権と日本の市民権。

 どっちが人気が出るやら・・・・

  

  

 

 

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第58話 1948年 『新3国同盟?』

第59話 1949年 『大陸赤化』

第60話 1950年 『迷走半島』