月夜裏 野々香 小説の部屋

    

After Midway

 

 

第61話 1951年 『豊かさを求めて人は争う』

 朝鮮半島は、共産主義運動が拡大。

 潜入していた満州朝鮮族が武器を取り、

 アメリカ人とアメリカ人に使われていた通訳者に襲い掛かっていく、

 韓国人民衆は、たちまち暴徒と化して武装蜂起。

 対応に追われたアメリカ駐留軍は、後手に回り、

 満州朝鮮族軍の侵攻を許してしまう。

 韓国第3師団の裏切りによって、半島は朝鮮動乱と化していく。

 満州朝鮮族軍の実体が知られていくにつれ、

 韓国軍の本格的な反撃が始まり、内戦へと移行していく。

 

 

 日本では、ゼネコンが失われた受注と代金回収で大騒ぎになっていた。

 当然、わずかしかいない在日朝鮮人は白い目で見られたりもする。

 東京 皇居近く。

 小雪がちらつく中、2人の男が歩いている。

 「・・・・」

 「わたしは、朝鮮人の洪・シヨクです」

 「・・いや、わかっているから」

 「わたしは、朝鮮人の洪・シヨクです」

 「いや、それは、いいから。洪・シヨク大将」

 「もう、予備役です」

 「・・・軍を率いて、半島に行ってみたいとは思わないかね」

 「・・・・」

 「在日朝鮮人と避難民の韓国人で軍編成をする」

 「スターリング重戦車とT34戦車になるな。機甲師団を一つくらいは作れるだろう」

 「よろしいので?」

 「朝鮮人には、いろいろ思うところがあるがね。君は、優秀でもあるが、なにより誠実だ」

 「前橋の防衛線で君の部隊は、主力でなかったがパットン将軍を相手に良く働いてくれた」

 「まぁ 同時に日本連邦の在日朝鮮人を減らしたい勢力もある」

 「・・・正直ですな」

 「君が誠実な人間だから、正直に話すつもりだ」

 「日本連邦は、朝鮮民族の性質を良く思っていない」

 「もちろん、日本人ということで自らを偽善ぶるつもりもない」

 「しかし、国同士は近く、少なからず半島とは縁もある」

 「君が朝鮮民族の性質を変える可能性があるのなら。信じたい」

 「できうるなら半島の共産主義勢力を押し返し、民主主義的な国家を取り戻して欲しい」

 「日本国内には、半島を共産主義世界のまま朽ち果てさせようという意見も強かったがね・・・」

 「代金の回収もしたいと? ついでに親日国家にしたいと?」

 「ふっ 君は、優秀で誠実だから中将になったのだな」

 「だから我々も投資する気になったのだろう」

 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」

 「訓練も満足にされていない。補給なしの一個師団で半島の戦局をひっくり返せると?」

 「訓練と補給はしよう。決算済みだ。アメリカ軍と連合するはずだ」

 「朝鮮人の洪・シヨクを信じ戦力を任せてくださるのであれば、全力で信頼に応える所存です」

 「洪・シヨク大将。もし半島が回復してもだ」

 「たぶん、アメリカの工業植民地に戻る」

 「いや、以前より酷くなると思うが、大丈夫かね?」

 「裏切り者として朝鮮人に殺されるかもしれません。しかし、望むところです」

 「・・・同情すべきなのかな」

 「いえ、自分の一身を半島の種にするつもりです」

 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」

 「・・・・現段階では、まだ命令できる立場にあるな」

 「・・・・・・」

 「洪・シヨク大将。死ぬな。君には生きていて欲しい」

 洪・シヨク大将は、敬礼で応える

  

   

 半島の戦線

 半島全域は、ドミノ倒しの様に共産勢力によって覆われていく、

 満州朝鮮族軍は、実力も、能力も、問わない。

 権威に服すだけで地位が与えられると朝鮮人の気持ちをくすぐり、

 兵役を膨らせながら進軍する、

 ソウルを占領するとそのまま、南下。

 この頃のアメリカは、能力本位、実力本位で地位を与えるため、

 朝鮮人の気質に合わず、信望も得られなかった。

 アメリカ・韓国軍は、孤立しつつある江華島と半島の釜山に追い詰められていく、

 共産主義に希望を持った韓国人は、満州朝鮮族軍に合流しようと北に向かい。

 満州朝鮮族軍の被害に遭った韓国人が避難民となって南に逃げて交錯し、混乱していく。

  

 T34戦車が路地から出てくると正面にM4戦車。

 同時に互いを視認する。

 T34戦車とM4戦車。

 性能差でもT34戦車が上だった。

 起伏の激しい半島の戦場。

 同じ条件で撃ち合うとM4戦車の砲弾がT34戦車の頭上を飛び越えてしまう場合があった。

 T34戦車の砲弾は、丁度良い高さのM4戦車を直撃し破壊してしまう。

 

  

  

 洋上

 国連旗を掲げたアメリカ機動部隊が補給のために後退していく。

  

  

 江華島

 アメリカ極東方面 総司令部

 司令官と参謀が双眼鏡で戦場を覗き込む。

 「・・・日本艦隊は、どうした? もう、弾薬がなくなるぞ」

 「・・・あと5時間で到着するそうです」

 「んん。M4戦車が、こうも、脆いとは・・・・・」

 「車高の差もあるようですがT34戦車は強いですね」

 「スターリン戦車は、まるで動く要塞だとか」

 「日本経由で空軍の江華島への移動は?」

 「なんとか、調整できそうです」

 「増援部隊が遅れているな」

 「パーシングとパットンを持ってこないと戦線を維持できないぞ」

 「日本がスターリング戦車とT34戦車。そして、雷風を売却しても良いと」

 「敵の戦車に乗れだと? プライドがないのか。プライドが」

 「プライドで数万人が殺されるより良いのでは?」

 「訓練が出来ていないだろう。簡単には乗れんぞ」

 「ライセンス生産の件も水面下で進んでいるとか・・・」

 「んん・・・・政府は?」

 「M47戦車のライセンス生産を無制限に認める動きがあるようです」

 「F86セイバーは、考慮中ですが、もう少し、戦況の様子を見てからと」

 「そ、そこまで話しがいっているのか、ライセンス生産など、間に合わないだろう」

 「ええ、ですから日本は、雷風、T34、スターリング戦車を売却しても良いと」

 「それに消耗品の生産は日本でやった方が良いかと・・・」

 「ジェットエンジンの技術と交換にか?」

 「そんなところでしょう」

 「・・・わたしは、誓って、白人至上主義者ではないがね。日本人を絞め殺してやりたいよ」

 「同感です」

 「・・・くそぉ〜 韓国人め」

 「我々の資産を奪ったつもりだろうが、このままでは済まさん。代償を払わせてやる」

 「やはり、我々の資産目当てだと」

 「そうに決まっている。巨大な産業構造だ」

 「共産革命は、ただの口実だよ」

 「韓国人が、我々の産業を奪って、自分たちの物にしようと思ったに決まっている」

 「・・・彼らに使いこなせますかね」

 「ふっ 無理だな。設計も、建設も、運用も、販売も、メンテナンスもアメリカと日本がやってきた」

 「下層労働者と農民に使えるものか、すぐに無茶苦茶にされてしまうだけだ」

 「20年も我慢していたら中間管理層の半分を韓国人で占められたでしょうに」

 「・・・忍耐心のない連中だ」

 「というより。元の根性から問題があるのでは?」

 「んん、大陸といい。半島といい。黄色人種は泥棒だ・・・・・」

 「・・・島は、例外ですか?」

 「この前、日本人に言ったら」

 「おまえらこそインディアンを殺して北アメリカを奪った簒奪者だろう、と言い返された」

 「ふっ ふふふ」

 「平和を求めると苦しくなり。豊かさを求めると争いになる」

 「平和と豊かさを同時に求めると、軋轢が生じて成り立ち難いものだ」

 「そうやって、哲学風に誤魔化したのですか?」

 「まあな」

 「それで、日本は軋轢の結果に、どう対処すると?」

 「基本的に半島南岸の領土を要塞化。西日本の防衛線を強化するそうだ」

 「半島が共産化しても構わないと?」

 「困るが半島に関わりたくないらしい」

 「それに防衛線構築で対処できるそうだ」

 「日本のゼネコンも西日本で防衛線構築なら悪く無いと考えているらしいな」

 「日米関係からすれば、元々、そのつもりでしょうね」

 「日米関係だって、悪くはないだろう」

 「ええ、司令が日本人を絞め殺さなければですね・・・・」

 「・・・・・」

  

  

  

 日ソ国境

 日本は、間宮海峡の対岸の一部を対ソビエト国境線とし、

 カムチャッカ半島・シベリア北東部を国境線としてソビエトと講和していた。

 小雪の降り積もる原野、

 日本とソビエト国境を鉄条網で挟み、数人が立っていた。

 双方の兵士が松明を灯して僅かな暖気を作り、

 簡単なテーブルと席を用意していく、

 寒い地域では、どうしても似たような、いでたちになりやすく、

 両陣営ともミンクの毛皮帽子と色違いのコートを着ていた。

 「寒いですな」

 「ええ」

 双方の代表たちが席に着く。

 「・・・手早く済ませたい」

 「同感です」

 「我がソビエト連邦は、半島に参戦する気持ちはない」

 「我が日本国も、そうしたいと考えています。日本軍が半島を北上することは無いでしょう」

 「それは、良かった。日本との戦争は懲りていますからな」

 「同感です。日本もソ連との戦争は好ましくない」

 「半島の決着点については、どのようにお考えか?」

 「金銭問題を別にすると。朝鮮民族に任せるしかないですな」

 「・・・線引きとしては?」

 「線引き?」

 「線引きですよ」

 「・・・線引き・・・ドイツ方式ということですか。随分と早計で具体的ですな」

 「残念ながら満州朝鮮族軍のモラルは低かったようです」

 「占領地の朝鮮人は失望している」

 「つまり、資本主義にも、共産主義にも希望が持てない状態なら」

 「国を二つに分け、朝鮮民族に選択させるしかないと?」

 「朝鮮人の暴走の結果です。朝鮮民族自ら選択させるべきかと・・・」

 「アメリカが納得しないのでは?」

 「彼らは、投資の回収を終えるまで戦うでしょう」

 「・・・我がソビエト連邦は米帝資本家の炭鉱になりつつある」

 「穀倉地帯も同様に帝国主義の資本家に言いように買われている」

 「我が国の純朴な労働者と農民は、狡猾な米帝と資本家どもの餌食だ」

 「線引きしたとしても搾取され、奪われる立場に変わりない」

 「つまり、手打ちにしたいと?」

 「ソビエト連邦は、戦争を望んでいない、ということです」

 「・・・確かに現状をかんがみて線引きは、考えられますな」

 「いえ、むしろ、ソビエトにとって好ましい状態である」

 「では、戦局を見ながら、もう一度」

 「現状は、国境線が変動するということで・・・」

 「ええ・・・あ・・・そうだ・・・ツングース族で日本側の人間が紛れ込んでいましてね」

 「道に迷ったのでしょう。本来なら射殺でした」

 「しかし、こういう席上ですし、誠意の現われとしてお返ししますよ」

 「・・・そうですか。こちらもナナイ族で道に迷った者を見つけたのでお返しいたしますよ」

 国境線をまたいで行われた交渉が終わり、

 二つのグループが離れていく。

  

  

 北ベトナム民主共和国

 日本大使館

 太平洋戦争末期。

 ベトナム北部でホーチミンが台頭していた。

 その頃、日本は、首都を含めて関東が占領され、本土は、焼け野原のボロボロとなっていた。

 日本政府は、ベトナムのことなど、どうでも良くなっており、

 権益さえ守られれば、手を引きたかったといえる。

 戦後処理で、ベトナム民衆から支持されていたホーチミンと妥協し、

 日本との独立条約を継承すること。

 ホーチミン王の地位と併用すること。

 共産主義者のホーチミンにとって屈辱だったものの、

 日本の撤収と王権が名目上であることを条件に受け入れる。

 王権であるなら体制が赤でも構わないのかというと双方とも問題ありなのだが・・・・

  

 そして、南ベトナムは、グエン朝バオダイ帝のままアメリカと同盟関係。

 アメリカ海軍の基地まであった。

 当然、アメリカ政府は、共産主義の北ベトナム政府を認めない、

 南ベトナムでアメリカ軍の地歩が固まれば北進もありえた。

  

 テラスに60代の髭を生やた痩せた男が数人のお供と入ってくる。

 日本人数人が立ち上がると挨拶する。

 日本大使館のテラスから中国大使館とソ連大使館が見え、会談の様子も丸見え、

 日本大使館は、ソ連と中国の大使館より大きく広かった。

 それは、ベトナムでの日本の影響力の高さであり・・・

 「これは、ホーチミン王」

 この言葉で憮然とし、

 ため息交じりに勧められた上座の席に座る。

 「・・・大使。アメリカ軍が北進を画策しているようだ」

 「王国に対し、そのような不埒な態度を取る国があるなど。由々しきことです」

 ホーおじさんは “日本人の方がよっぽど不埒だ” と言い返したいのを我慢する。

 「我が国は、日本との独立条約を守っている」

 「資源の10分の1は、日本のものだ」

 「それでありながらアメリカ政府は、我が北ベトナム民主共和国政府を認めようともしない」

 「ですから建国の折、北ベトナム王国と改称すべきと申し上げたのです」

 「そんなことが出来るか。我が国は人民のものだ」

 「・・・困りましたな」

 「日本政府は、アメリカ政府と交渉できるのではないかね」

 「ホーチミン王・・・残念ながら」

 「アメリカは、カンボジアのシアヌーク王」

 「そして、南ベトナム王国のグエン朝バオダイ帝も倒そうと画策しているようです」

 「・・・そういう動きは感じますな」

 「アメリカ合衆国が望むのは、自由資本主義。民主主義体制です」

 「日本は、アメリカの北進を押さえられぬと?」

 「アメリカは、共産主義を憎み破壊しようとしています」

 「同時に民主主義革命を起こし」

 「日本とベトナムの独立条約を反故させる動きもあるようです」

 「日本は、それに対し反発しないのかね」

 「確固とした証拠があれば良いのですが・・・」

 「それでも力関係が、ありますから押し切られる可能性もあります」

 「我が北ベトナム民主共和国は、共産主義の理想を実現し守りたいのだ」

 「日本連邦としては、ホーチミン王を頂く、北ベトナム政府を承認し、尊重しています」

 「しかしながら、北ベトナムが中国、ソ連との関係を深めるとアメリカを刺激するでしょう」

 「日本も望んでいないのです」

 「日本には、インドシナ民族独立の恩義がある」

 「北ベトナムは、ソ連や中国より日本との関係を上として付き合って行きたい」

 「しかし、アメリカ帝国主義が我が国に対し」

 「侵略を考えるのであれば、ソ連と中国の協力も必要になってくる」

 「ご理解していただきたい」

 「むろん。そうでしょうがどうでしょう。市場経済を一部、取り入れては?」

 「北ベトナム人民は、食料で困ることはないのです」

 「毒された資本主義を取り入れる必要は、ないのです」

 「いえ、形だけです」

 「それだけでもアメリカが北進を思いとどませる口実になりますし」

 「我が国としてもアメリカに対し、ホーチミン王を支援しやすいのです」

 ホーチミンは、ため息混じりに思い悩む。

 ソ連大使館と中国大使館に人影が見え、

 会談の様子を伺っているのがわかる。

 見え見えのセッティングなのだ、

 どこでやろうと、隠そうと、わかってしまうのだから見せても構わないのだろう。

 北ベトナム外交。

 ベトナム民族独立で恩義のある日本は、ベトナム民族の支持を集めて優位だった。

 日本の市民権を購入しているベトナム有力者も少なくない。

 ソ連、中国の代表はホーチミンを同志と呼び。

 日本代表はホーチミンを王と呼ぶ。

 滑稽なことに王も、同志も嬉しくない。

 一番気に入っているのは、ベトナム人が呼ぶ “ホーおじさん” だった。

 「・・・大使。我がベトナムは、戦争を望んでいません」

 「このことだけは、アメリカ政府にお伝え、いただきたい」

 「わかりました。ホーチミン王。必ず、本国に伝えます」

 ホーチミンは苦笑し、日本の大使と握手する。

  

  

 インド

 日本は、対ソ、対中政策において、インドとの関係を重視していた。

 インドの諜報戦、工作も本格的になり、

 ここでも日本は、インド独立で発言力があり、

 インド・パキスタン両民衆の支持を受けて有利だった。

 マハラジャの多くは、日本の市民権を購入し、保有していた。

 「・・・ネール首相。パキスタンとの関係は、いかがでしょうか」

 「悪いな。カシミールの帰属問題で、一触即発だ」

 「日本連邦は、故ガンジー氏と同じ見解ですな」

 居心地が悪そうにするネール。

 開戦前、日本に故人であるガンジーの遺言を言われてはかなわない。

 パキスタン側も日本が両国の対決を望んでいないと強くいうと足並みが乱れるらしい。

 カシミールを巡っての紛争は、一度行われ、

 その後、行われていなかった。

 日本の戦後再建が進み、外交に余裕が出来ると、

 日本は、南アジアの大同団結を伝えるようになっていた。

 日本が市民権を発行するようになると発言力が増していく。

 日本は、対ソ・対中政策で印パに争われると困る、という単純な見解だった。

 ソビエト、中国、イギリスは、この地域の離反と紛争が都合がいいのか、

 そういった工作が行われている。

 日本は、いくつかの離反工作、紛争工作の証拠を抑えて証明していた。

 おかげで、イギリス、中国、ソ連の勢力が著しく後退。

 日本代表に

 “印パ両国首脳は、列強の思惑通りに戦争するのか”

 と言われると説得力がある。

 しかし、戦争を止めろで収まらないないのがカシミール帰属問題だった。

 日本が調停に入るのならともかく。

 両国で解決しろでは・・・・

 「ああ・・・・日本の諜報力は、高いですな」

 と、誤魔化した。

 中国とインドの間で食用米とジュートのバーター協定が結ばれた折、

 日本の諜報機関は、中国側の藩主間の離反工作を発覚させていた。

 バーター協定は、そのまま結ばれたものの、

 インドの中国色は、一気に退かされている。

 「諜報というものではありませんよ」

 「日本人に協力していただける方がいるようでしてね」

 そう、たんに日本人がインド・パキスタン民衆に好かれているだけだった。

 諜報機関を置く上で、これほど楽なことはない。

 いろんな情報が飛び込んでくる。

 いくつかの情報を足し合わせると結論が見えてくる。

 イギリス、アメリカ、ソ連諜報機関から羨望の眼差しで見られるのが日本の諜報機関だった。

 “あいつら楽して、情報を集めやがって” なのである。

 日本の諜報機関の能力は低い。

 日本と独立を関連付けられない地域では、まったく振るわない。

 しかし、日本と独立と関連付けられる地域は違った。

 どこかの借家に日本諜報機関と看板を掲げると、

 現地民が日本の市民権欲しさに情報を持ってきそうなほどであり、

 実にばかげた話しなのだが、

 それで市民権を貰った現地民がいるという噂は、広がって・・・事実だった。

 少なくとも日本が民族独立に関わっていた国家の日本の影響力は、民衆レベルで強かった。

 「テーブルは、日本側で用意しますよ」

 「・・・わかりました。大使。パキスタン側と交渉してみましょう」

 欧ソ中諸国は、武器弾薬を売って印パ戦争を煽ろうとし、

 日本は、印パ連合でソビエトと中国を牽制してくれるのならいいと、和平工作で一貫しており、

 カシミール問題など些細なことだった。

 “趣味でノーベル平和賞を集めているのか”

 と嫌味を言われる日本だったものの、

 インド・パキスタンは、対ソ、対中で重要拠点なだけだった。

 そして、同じような意図を持ったアメリカが便乗し入り込んでくる。

 もっとも、アメリカの方は、武器売却という利益目的が大きかった。

  

  

 半島南岸

 大極旗を掲げたスターリン重戦車50両、T34戦車250両ほか、トラック、火砲を率いた兵団。

 洪・シヨク大将率いる1個師団が半島南岸から北上。

 釜山から上陸したアメリカ増援部隊(M26パーシング戦車、M47パットン戦車)と連合し、

 満州朝鮮族軍に反撃していく。

 スターリン重戦車に乗った洪・シヨク軍の偉容は、朝鮮民衆から支持され、

 急速に勢力が大きくなっていく。

 洪・シヨク機甲師団は、士気が高く。

 わずか半年ほどの訓練ながら満州朝鮮族軍を圧倒していく、

 釜山を包囲していた満州朝鮮族軍は、占領地での行為で韓国民衆の支持を失っていた。

 共産主義に酔いしれていた韓国民衆が目を覚ました時、

 洪・シヨク大将は、機甲師団を率いて彗星の様に現れて神の如くだった。

 また、魚潭、金應善、王瑜植、李熙斗など日本軍で実戦を経験していた将校が補佐し、

 まだ、指揮系統が不足気味だったものの韓国最強師団として最前線に立っていた。

 半島の韓国民衆の気持ちは、共産主義から洪・シヨクへと移って行く、

  

 補給中の洪・シヨク軍

 日本からの補給物資が送られてくる。

 装備は日本の兵装で、なぜか、アメリカ軍補給部隊。

 日本から供給されたスターリング重戦車、T34戦車を配備したアメリカ軍部隊も増えていた。

 日本は、参戦していないと言い張れる。

 むろん、ソ連も参戦していないと言い張っていた。

 しかし、朝鮮軍への補給は、中国とソ連からであり。

 空軍パイロットは、ロシア人が増えていた。

 両軍とも、見つかると困るのか、

 撃墜されてもいいように味方上空しか飛ばない。

  

 60代の男がひとり、木陰で塞ぎ込んでいた。

 「どうしました? 洪・シヨク大将」

 「・・・韓国民衆は、どうして、こうも移り気なのだ」

 「わたしは、韓国人に殺されるだろう」

 「そ、そのようなことは・・・・」

 「この半島は、日本人の悪口を言わなければ生きていけないのか?」

 「い、いえ」

 「この半島では、嘘を付かないと生きていけないのか?」

 「そのようなことは・・・・」

 「・・・我が民族も本当は、わかっているはずだ」

 「第一師団長の白・ソンヨプが来ています」

 「若き次世代のヒーローか」

 「よき理解者になると思います」

 「我が民族を変えるには何十人も裏切り者の殉教者を必要とする」

 「それは、敵を倒すなどという次元ではないよ」

   

 

 アフリカ大陸

 南アフリカ製の小火器がアフリカ全土へと流れつつあった。

 武装した黒人が考えることは、わかりやすかった。

 イギリス、フランス、ポルトガル、ベルギーは、植民地軍を強化するも財政負担に喘ぐ、

 ベルギー領コンゴ キンシャサ

 「・・・ここにも南アフリカ製のワルサーが流れ込んできていますよ」

 ベルギー人は、非難がましく忌々しげにワルサーPPKを日本の外交官に見せた。

 「あ・・・日本としては現段階の黒人が国家運営を出来ると思っていません」

 「日本政府も南アフリカ公国に対して遺憾の意を表明しているはずです」

 「残念ながら外務次官。ベルギーは植民地を固持しうるだけの国力を有していない」

 「このコンゴは、バラバラにされ、共産主義勢力の巣になってしまいますぞ」

 「ご、誤解のないように、もう一度、言わせていただきますと」

 「こういった紛争拡大は、日本政府も望んでいないのです」

 ベルギー人が少し錆びた古い百式短機関銃と南部自動拳銃を見せる

 「・・・いまは、もう・・・・」

 と付け加える。

  

  

 北アメリカ

 アメリカ合衆国は、世界でもっとも裕福で人権が保障された社会だった。

 しかしながら日本人に殺されたアメリカ人は多く、

 日本企業のアメリカ進出は微妙だった。

 ドイツ人に殺されても、それほど大きなしこりにならない、

 しかし、日本人に殺されては憎しみも増す。

 それとも家族と地域を無視した会社主義が不気味がられているのか、

 欧米での労働は生きるための手段でしかなく、

 日本での労働は生きるための目的になっていた。

 そして、寄らば大樹の陰でと人間性の喪失。

 セクト主義が進み、日本民族の没個性と自己主張の弱さが作られていく、

 もちろん、不思議な国、日本であり、

 破天荒な日本人が現れ、アメリカ人の認識を変えさせたりもする、

 しかし、圧倒的多数は会社人間で遮二無二、アメリカ市場を突き崩していた。

 資源の少ない日本で劣ったマンパワーを効率よく使うなら、

 悲しかろうと不愉快であろうと低賃金で組織化するしかない、

 故障の対処など姿勢がいいのか、まじめなのがいいのか。

 メンテナンスに力を入れた成果が徐々に現れたのか、

 創造性と合理的思考を重視するアメリカ人にバカにされつつも、

 日本製品は、ダイヤ市場と絡んでおり、

 アメリカ社会で認められ浸透し、着実に市場を作り上げていた。

 ダイヤ市場というプラスは、反日感情というマイナス面を相殺し、

 アメリカの市場を会得したといえる。

 アメリカの某所

 「確かに、いくつかの部品の精度で日本製の品質が良いと確認されました」

 「品質管理の観点と安定供給が可能か、確認する必要があります」

 「一度、日本の工場を確認させていただきたい」

 「ありがとうございます。Mr.○○。○ル社と取引できれば、これほど幸せなことはありません」

 「本当に日本の工作機械なのですか?」

 「ええ、もちろんです」

 「あ・・・いえ、工作機械がどこのものであれ構いませんよ」

 「この品質で、この価格ですから」

 「貴社の工員のひたむきな姿勢が感じられます。今後ともよろしく。Mr.○○」

 朝鮮戦争で協力関係になった情勢が加味され日米間の取引が増えていく。

  

  

 日本の某市

 日本の市民権を持った人材が集まる場所だった。

 留学制度と雇用条件も、それぞれの国の文化事情が分かるように事前に通達されている。

 市民権を持つ彼らは、祖国の代表であると同時にチャンスも与えられていた。

 もちろん、スパイもいる。

 日本政府主導で官庁・法人の警備セキュリティー関連業種が成長するのも、この頃だった。

 外国人の日本滞在は、いろんな摩擦を起こした。

 特にスパイは、最大の問題なのだが・・・

 基本的に工作員は、気質が良く人懐っこい上に人間的に好かれやすい人格者が多く、

 人に嫌われやすい人間は、まず、スパイになれない。

 もちろん、スパイといっても平和裏に情報を持っていく場合が多く。

 それで十分だったりする。

 急速に拡大する日本の交通網、産業、ノウハウをデットコピーするだけで、

 後進国は、発展のベクトルになってしまう。

 まして、日本での経験と学んだ理論で裏打ちされた人間は強く、

 すぐにでも欲しい人材となる。

 とはいえ、風土が違っていたり、

 日本での経験を生かせるだけの意識と社会基盤がなかったり、

 階級抗争や人種差別など、ギャップがあると困難だったりする。

 それでも、日本の情報は、後進国の近代化の指標となった。

  

 一人の黄色人が白人から荷物を預かり、空港に向かう。

 手荷物検査を終えて、飛行機に搭乗する。

 日本の旅客機は、濡れタオルのサービスがあって気持ちが良く、

 2日後、祖国について白人と出会う。

 荷物と金を交換する。

 荷物の中身は、わからず、知りたくもなかった。

 知れば、祖国独立で助けてくれた恩人の国を裏切った事で後悔する。

 見なければ、それをただの土産物だと思い込むこともできる。

 タバコであれば良いと貰ったお金は、祖国で一年、生きて行ける大金だった。

 今後も彼らと接触する可能性はある。

 いうことを聞かなければ脅されるだろう。

 日本の市民権を失うと・・・

 もう引き戻せないところまできていると気付いて、

 ぼんやりと路上のアイス屋を見詰める。

  

  

 

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 月夜裏 野々香です。

 『ミッドウェー海戦のあと』と『日清不戦』の違い、

 白人と有色人の間に立たされている日本の位置でしょうか。

 少しばかり有色人種よりの日本です。

 国益から、望んでいない。

 望まない状態なのですが。

 第2次世界大戦からの経緯で、そっちへと追い込まれてしまっている感じです。

 経済的にも東南アジア・インド・南アフリカ公国に依存している比率が大きく。

 白人世界から白い目で見られています。

  

 

HONなびランキング

Wandering Networkランキング

NEWVEL ランキング

よろしくです。

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第60話 1950年 『迷走半島』
第61話 1951年 『豊かさを求めて人は争う』
第62話 1952年 『修羅半島』