第77話 1967年 『平和を作り出す者は・・・・』
鎌と金槌の国
世界最大の領土、十分な人口と穀倉地帯。
凍土の底に眠る莫大な鉱物資源。
人民を搾取する皇帝と貴族は存在せず、
富は人民に分配され、ともに生産するモノを分け合う貧富のない社会、
醜悪な金の亡者を憎み、私利私欲な欲望と私有財産を否定した超大国、
しかし、吹き荒ぶ極寒に凍えるロシア人民を救えない、
ロシア人を支配する共産党は、労働者と農民から勤労意欲を奪い、
庶民の経済活力を減退させていた。
人間は他者と公平・平等である事より、
他者より優越であること、支配することを望み、
不公平不平等であることを求める生物だった。
では、なぜ、公平と平等を求めて革命を起こしたのか、
人間は、矛盾する生き物であり、
やじろべいの様に右にも行けず左にも行けず、ふらふらと立っていた。
クレムリン カザコフ館
ソビエトで一番偉い男は、気難しげに世界地図を見つめイライラとしている。
国内のロシア正教がイスラム・ヒンズー過激派と手を組み始めている。
国内の銃撃戦に関わって入られない、
敵の本丸は、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、西ドイツ、日本、海南国など西側諸国。
南アジア相手に国力を消耗してどうする。
「戦況は?」
「1億人分のトカレフ、AK47、手榴弾をインドに送ればダリットがインド革命を起こせますよ」
「チベットは補給線を失って維持できなくなるでしょう」
「最新の兵器は、何のためにあるのかな」
「西側に備えてでしょうか?」
「皮肉な話しだ。チベットに最新の兵器・武器弾薬を送って戦線を突破するより」
「敵国内の貧民層に武器弾薬を供給する方が効果的とは」
「お互い様でしょうか」
「どうやら、イスラムとの紳士協定は守られそうに無いな」
「インドの武器弾薬がカザフスタン」
「パキスタンの武器弾薬が中国貧民層と少数民族」
「供給がクロスしているのかもしれません」
「アラブにイスラエルを攻撃をさせろ。イスラムをバラバラにしてやる」
「パキスタン、イラン、トルコとエジプト、シリア、パレスチナ、イラクは犬猿の仲です」
「戦争させられないのか? イランとイラク」
「不和に乗じて懐柔策ですか?」
「そうだ」
「例えテロゲリラ戦争に勝ってもソビエト連邦を瓦解させる要素を内包したままでは・・・」
「チベット独立はインドを共産化させる事ができれば自然消滅だ」
「そして、インド洋からソ連海軍が世界へと浸透させる事ができる」
「カザフスタンを抑えられるか?」
「はい」
「そうか、チベット反戦デモは?」
「キリスト教、ヒンズー教、イスラム教は、宗教の自由、信教の自由を掲げ」
「ラマ教の支援で結束しています」
「けっ! イスラムが他宗教の信教の自由を助けるとは嘘つきが」
「イスラムの場合、敵国勢力内のイスラム教支援が目的です」
「理由など、何でもいいのだ」
「我々を敵にして、宗教間を結束させているに過ぎない」
「では、どんな理由でも宗教間をバラバラにすれば良いかと」
「そうだ・・・・」
東シナ海 “飛鳥” 基地
天然ガスと石油がタンカー・LNGタンカーに積み込まれていく、
一方で日本の天然資源と誇らしく思い。
一方で、こいつのせいで、原子力発電の予算が削られと、ムッとしなくもない。
ヒロシマ・ナガサキの市民運動も、
研究用以外に原子力は必要ないと強硬していた。
油田の輸入国だった日本の海洋油田開発は、国際的な値崩れ引き起こした。
大型タンカーが安くなった石油を買いに中東へ行く、
そして、この安い燃料を使い、
朱雀、昭南、瑞穂、秋津の産業は、大きくなっていく、
中国は、世界最多の人口、
世界第3位の広大な領土と豊かな資源を有し、
ソビエトの力を借りて近代化しつつあった。
5年後にイギリスを抜き、
10年後にアメリカを追い抜こうとしていた。
しかし、現実は、中国共産党を失望させる。
西側諸国は、民間活力を生かし、需要と供給に合わせて競争させ、
新陳代謝させつつ産業を切磋琢磨させられる社会だった。
チベット独立戦争は、列強との工業力の差を思い知らされ、
南蛮と見下していたはずの東南アジア諸国の産業が伸び、
中国より成長する勢いを見せていた。
共産主義の構造的な愚かさは、中国の近代化の障害でしかなかった。
共産党上層部は、焦燥感と保身の狭間で追い詰められ、
遂に共産主義の原点回帰へと舵を切った。
文化大革命は、中国民衆の不満の矛先を共産党以外に向けさせ、
同時に共産主義の欠陥のわかる知識階級が邪魔になり、
事業家、資本家、学者、医者などブルジョワ・知識階級を弾圧、
共産党内部の権力闘争も原点回帰を利用し、
狂乱は歯止めが利かず、
逃れる術は、馬鹿になりきるか、
チベット独立戦争参戦だけだった。
李・紅采(リィ・ホンツァイ)。もちろん偽名は、文化大革命の只中にあった。
チベット人だが立て札を持って潜入している。
知識階層を次々に槍玉に挙げられながら反省させ自己批判させていく、
医者を引き摺りだして、周囲を囲み、
民衆から搾取していることをあげつらう.
それだけでなく、
西側の品物が見つかるだけで
“人民から搾取した金を外国に売り渡した” と言い掛かり。
たいした罪でもないが本当に殺される、
誰も冷静に病気になったら、怪我したら、とか考えないのだろうか。
反対すれば、逆に命取りになるため、明日の事は考えず、殺す側についてしまう。
まったく集団恐慌、狂気の沙汰としか言えない。
裕福なもので生き残るには、全てを捨ててチベット出征しかなく、
その光景は、魔女狩り以外の何ものでもなかった。
ここまで同族に対し、残虐、冷酷になれるのは恐ろしいばかり。
彼女の役目は、中国の状況を肌で感じ、状況を西側に伝えること。
他にも武器弾薬(印パ製AK47・トカレフ)を隠し、
反政府勢力に隠し場所を教える仕事もある。
武器による反ソ対立。
中国の社会不安を煽る小技。
時折、追い詰められた知識人が “それ” を持ち出し、銃撃しながら逃亡する。
そうすると、本当にスパイとして処刑され、
中国民衆は、潜んでいたスパイを狩りだしたと歓声を上げ、
ブルジョワ狩りの火に油を注ぎ、
資本主義、反帝国主義、反宗教で燃え上がる。
やはり、血を見ると逆上してしまうのだろう。
形相も怖い。
「李・紅采(リィ・ホンツァイ)か?」
「ええ」
それらしい男がそばに来て囁く、
「武器はどこにある?」
「×××の×××よ」
「わかった」
戦っているはずの中国上層部と宗教国家連合が、ほくそえむ奇怪な状況が作られていた。
中国上層部は、宗教国家連合軍のスパイが潜入していた方が、
共産主義の失政を宗教連合のせいにできて都合が良かった。
スパイは、本物でも、冤罪でもよく、
見つかるだけで、民衆の憎しみの対象を宗教国家連合に向けさせ、
さらに強めさせ、挙国一致を高めて、チベット戦争の動員にも利用できた。
宗教連合も、中国国内の社会不安を拡大させ、
知識階層を減らせるのなら、都合が良いと考える。
結局、踏みにじられるのは、弱者、正直者・・・
しかし、土地、資産に対する人口の比率が減るなら、再分配もできた。
そして、中国民衆の多くも、その事を理解してやっている。
兄弟が減れば、分けられるおやつの量は少しばかり増える。
それが富裕層なら、なおさら。
実に単純な理屈といえた。
醜悪な保身と権力闘争と利己主義が中国の近代化を遅らせようとしていた。
そのおかげか、チベット戦線に向かう中国兵の行列は増え、
暗躍する者、支配する者、狩りだす者、
三者納得の文化大革命だったりする。
そして、インド。
カースト制のこの国も、かなり、やっかいな事が起きている。
貧民階級へ本家本物のソ連製AK47やトカレフや中国製のコピーが流れ込む。
階級格差社会に対する恨みを引き金を引くことで、打破する勢力も増えていた。
それまで人間扱いされなかったアチュート(不可触民)は、引き金を引くことで、
自己の存在を証明し、凶弾によって、同等の権利を主張する。
階級社会を破壊する衝動は抑えがたく、
こうなるとチベット独立戦争どころでなく、
文字通り共産軍と宗教軍のテロ・ゲリラ報復戦争の様相となっていく、
そのテロ・ゲリラ戦争は、南アジアから中央アジア、中国大陸へも広がっている。
その日
インド人たちが警察を先頭にダリット女を襲いに行こうとする。
北の方では、ダリットの銃撃事件が起こっていた。
しかし、南に位置する、この辺りは聞いた事がない、
いつものことを、いつもの様にするだけ、
相手がダリットなら何をしても許される。
不可触民に触るのは駄目だろう、なのだが、
これは、例外的に行われている日常だった。
ダリット女たちの沐浴が終わった頃を見計らい、
男たちが始める。
すると女たち・・・
いつもと違う。
銃を向け、
慌てる警官・・・
もはや、間に合わず。
銃声が何発も響き渡り、男たちが川へ流される。
ダリットの反乱。
カースト側の報復は、逆らったダリット村の絶滅。
しかし、銃撃戦の末の絶滅は、これまでと、まったく違う。
ダリッドがカースト制に対して立ち上がる、
もはや、インドは以前のインドでなくなろうとしていた。
カザフスタン
イスラム勢力を密かに助けていたのはロシア正教徒だった。
ここでも使われるAK47かと思いきや。
微妙に違って、56式自動歩槍(AKモドキ)。63式自動歩槍(SKSモドキ)
これも印パの工場で作られていた。
見え見えの中ソ離反工作で、
印パの武器工場は、中ソ共に知られており、
何をいまさら、なのだが。
このことで印パを追求しても知らぬ存ぜぬを言い通すに決まっている。
そして、蜂の巣にされたソ連秘密警察(KGB)の工作員が草原に横たわる。
全長30mを越す月影がホバーリング。
それなりの風速でも両翼を風上と風下側に向ければ、ほとんど動かない。
少しぐらいの重心が機首、機尾に傾いていたとしてもバランスが取れていた。
基本設計で優れ、飛行機としてのバランスが取れていたとしても、
この時代の電子技術で、ヘリとしてのバランスが取れるわけがない。
バランスを取らせていたのは電子技術ではなく、
純粋なジャイロコンパスの力と機体の軽量化にあった。
目玉が飛び出すほどのチタンの量。
“バカが戦闘機に使えよ”
と言いたくなるほどのチタンが使われて高い。
おかげで、前線に投入するのが勿体無いほど高く、
性能は、すこぶるいい。
各国が “高すぎる” と文句を言いながら政府要人用で買い求める。
安全性が電子的な保障でなく、物理的な保障で信頼されやすく、
しかし “前線で、使いたくない、兵器は、欠陥品だろう”
という声と、裏を返すと、平時であれば使える。ということになった。
「・・突然、風向きが変わっても大丈夫なのかね?」
「少しくらいの風向きの変化なら縦方向でも横方向でも」
「ジャイロコンパスの傾きを変えれば静止させられますよ」
「・・・設備投資で大金をかけただけはあるか。元が採れるかどうか」
「少なくとも飛行機として飛ぶ間は、燃費が良いですよ」
「素材が良いだけあって耐久年数も長そうだ」
「軍事用として、どうだね」
「悪くないですよ。飛行機も、ヘリも、完璧にこなせますね」
「落としてくれるなよ。高いからな」
「了解です。よく、こんな高価な機体を製造しましたね」
「副産物だよ」
「副産物? この高価な機体が、ですか?」
「キューバ危機で核戦争の脅威に晒された。っで、何とかしろ、って、なってな」
「弾道ミサイル迎撃用のレーザー砲を開発することになった」
「それが月影に繋がるんですか?」
「レーザー砲には、大出力の発電所が必要だろう」
「しかし、レーザーは収束率の関係で大気の薄い山頂が良いに決まっている」
「・・・・・」
「ど田舎の山頂に発電所を作ってもレーザーを常に使うわけではない」
「そこで、工業用ダイヤだけでなく」
「レーザーでもチタン加工することになって、部品工場も併設」
「月影の部品が出来上がり」
「レーザー防衛ですか・・・カッコいいですね」
「射程が短くてな、まだ研究段階だ」
「え、田舎の山頂を守ってどうするんですか?」
「核戦争後の再建のため、射程内の田舎に避難所を移すことになってな」
「それが国防に繋がるんですか?」
「核攻撃しても生き残る場所があり、反撃される可能性が大だろう」
「だから、核攻撃される可能性は減る」
奇天烈で独善的な三段論法が展開される。
「・・・・なるほど」
「東シナ海のガス油田を採掘できなければ、レーザー用発電所は無理な話しだったがな」
政府高官は、ため息交じり、
月影VTOL機。
高いか、安いか、といえば副産物の月影VTOL機は戦術的価値でしかない。
この機体で設備投資の元を取ろうと思えば、やはり高い。
レーザー収束率を高め射程を延ばせるなら、
主役は、弾道ミサイル迎撃レーザーに変わる。
迎撃レーザー砲の戦略的価値が高まれば、
付加価値の月影VTOL機は安いかもしれない、
そして、たまたま入手した最優秀のルビーが皮肉なことにチベット産だった。
思わず、チベットに触手が伸びそうになる。
どの道、チタン部品の戦略的価値は、今後、高まっていく。
それに主役の迎撃レーザーは近距離なら使える。
低地にある大都市を守るレーザーは夢のまた夢。
気圧が低くなる山頂にコロニーを作り、
人を住まわせれば、直撃だけは防ぐ事ができた。
地下シェルターも付ければ核戦争になってもソコソコに生き残れるかもしれない。
日本は、欧米諸国の様に積極的にチベット独立戦争に加担していない、
直接、ソ連と国境を接している怖さがあり、
日本は、矢面に出ず、印パ両国を支援し、
宗教国家連合の主役にすることで、ソビエトと中国を牽制させる外交戦略といえた。
印パ両国に動機と体力があるなら、勝手に戦ってくれる。
何のことはない、自分の手を汚さず。
ヒンズー・イスラム・ラマ教と中ソ両国を戦わせて高みの見物。
かなり、えげつないといえる。
中国人に卑劣な日本人と言われ、
孫子に教えてもらったアル、と応える日本人が増えたとか・・・・
6000トン級巡洋艦 “あじさい” “あすなろ”
牙鳳(対空ミサイル)、牙龍(対艦ミサイル)の性能が向上すると。
155mm砲は艦首の2基2門となり、艦尾から155mm砲が消える。
艦体中央は、牙鳳、牙龍、対潜魚雷が格納されていた。
問題は、これまで、海上航空戦力を集中運用してきた空母の退役だった。
ダラダラしているうちに空母退役では、対潜哨戒で苦戦してしまう。
日本海軍は、ソビエト潜水艦の動きをSOSUS網で制約していたものの、
中国潜水艦が数に任せて増えてくるようになると事情が変わる。
質より量となり、56式水上哨戒機では積載量が不足した。
民間レジャー機改造。56式水上哨戒機 |
|||||||
自重(kg) | 全長×全幅×全高(m) | 翼面積(u) | 最大重量(kg) | 最大速度(km) | 航続力 | 馬力 | 人員 |
1400 | 10×14×4 | 30 | 2000 | 300 | 1800 | 600 | 1〜6 |
もっと積載量のある対潜哨戒ヘリが欲しい、
彩風(月影)VTOLと交換なら対潜ヘリのシコルスキーSH3HやSH2Gが大量に入る、
しかし、いかんせん、56式水上哨戒機と違って、整備が複雑だった。
巡洋艦で個々に整備するより、
対潜ヘリ空母を建造し、集中管理が良いことになった。
「・・・空母は?」
「まだ、予算が降りないようです」
「どうせ、潜水艦部隊が俺たちがやるからSOSUS網を広げろとか、言ったのだろう」
「そんなところでしょう。潜水艦隊も予算不足で、ぶつぶつ言ってますからね」
「いまのところ、戦略バランスは悪くないよ」
「シーレーン防衛も飛鳥と本土のラインだけなら守れるかもしれない」
「問題は、中国海軍の潜水艦の数ですかね」
「ああ、ソビエトが軍艦を中国に売り始めている」
「手抜きができなくなるな」
「ええ」
「空母の無い期間が開いてしまうと。練度の問題も、組織の問題も出てくる」
「まったくです」
「偉い連中は、そんなこともわからんのだ」
「上は、まず、予算ありきですからね」
「まったく」
日本という国は、注目されていた。
どういう国?
と言われても、賃金格差を見ると社会主義的でもある。
かといって、税率加重票制度を見ると。
税金をたくさん納めている人間は、投票できる票も多い。
そういう点で見ると民主主義とは、とても言えず。
反民主主義。
資本主義の最たるものと言える。
直接税と間接税の税率は、ほぼ、半々。
その時々の票稼ぎで余計に納税する資本家もいるほどで、
脱税する個人や法人は少ない、
政治権力による誘導(我田引水)に関心が無いか。
税率加重制度でも、一院制、
首相公選。
税率・参議員(130人)。
普通・衆議員(390人)。
人気投票の首相と、
税率で有利な資本主義の権化である参議員130人と
民主派を気取りの普通選挙の衆議員390人は、三者とも支持基盤が違った。
政策誘導は複雑で、勝ち馬に乗れるかも投機に近い。
それでも、納税で資本家が不公平感を感じないで済み、
納税差で政策を誘導できるのだから闇経済は育ちにくい。
連邦の縮小体の州も制度的は似ていた。
日本の政治制度を模倣しようという国もあるが、
後進国だと官僚が弱く、税体系が複雑で真似できない。
税率で票差を分けられるのも、
コンピューターの導入で、ようやく楽になったと言う。
ライトニングF Mk.6
F4ファントム、雷燕2型、ミラージュV。
B52爆撃機。グラマンE2ホークアイの編隊がウィグルに向かって突入する。
Mig21 MiG19が迎撃に上がり、
少数ながら、スホーイSu15フラゴン、
ミコヤン・グレビッチMiG23フロッガー、
ヤコブレフYak28ファイアバーも参戦していた。
宗教連合航空部隊の強力な通信妨害がソ連軍機の連携を邪魔をし、
SA6 (だけどSA3にしておいて)
地対空ミサイルをECMとECCMで辺りの電波を妨害して避けながら、
ソビエト・中国空軍機と空中戦を展開する。
作戦はウィグル地区の反政府軍への武器弾薬の投下。
実と見せて虚、
虚と見せて実、
陽動作戦のためにラサ東方へ向け、大量のチャフがばら撒かれ、
ソビエト空軍機の一部が陽動に引っ掛かり、航空機が移動していた。
その隙を突いてのウィグル突入だった。
ウィグル地区の反政府軍は低地であることから苦戦していた。
B52爆撃機でウィグル駐屯軍を爆撃し、
更に反政府軍へ武器弾薬を投下する。
成功すれば、ウィグルの反政府軍は盛り返す事ができた。
雷燕2型がMiG21を撃墜する。
もう1機、雷燕2型が接近する。
「ジン。どうやら敵のエースはいないようだな」
「それは、長生きできそうだ」
「戦いたいとは思わないのか。ジン。敵のエースと」
「いや。スレッガー、思わないね」
「相変わらずだな。賞金クビは3倍だぞ」
「割に合わないな」
「ふ それは、あるかもな・・・」
「ジン、3時からミグ21が2機。俺たちも曲芸を見せてやろうぜ」
「スモークがない」
「構うもんか」
その日、B52爆撃機がウィグル中国軍駐屯地を爆撃。
反政府軍に武器弾薬を投下することに成功する。
チベット
輸送機が着陸しシェリダン戦車が降ろされる。
そして、62式自走無反動砲。M113A2 デザートワゴン。
だいたい、この3車両が多くなる。
ラマ教の総本山だったが今では諸宗派が集まっていた。
キリスト教の教会。ヒンズー教、イスラム教、仏教の寺院が建設、整備され。
それぞれの代表が常駐していた。
イスラムに政策誘導されることを恐れるユダヤ教も投資している。
各宗派が集まり宗教連合軍を組織しつつ、宗教論争を避ける。
チベットは、宗教色が弱くなっているのか、強くなっているのか、
よくわからない国になっていく、
そして、反体制派の中国人やロシア人、ウィグル人も集まっていた。
彼らは、武器弾薬を祖国の反体制グループに送り込み、
社会不安を煽り、共産主義体制そのものを転覆させようとしていた。
祖国の真の解放を望む、彼らをどう呼ぶべきか。
少なくとも彼らの前で彼らの祖国を悪く言う者はいない。
そして、双方にスパイがいて諜報戦も激しい、
内部に入り込まれると無手である方が疑われずに済み、
武器より、格闘術の比重が大きくなった。
地方のラマ寺院。
数人の護衛が倒されていた。
二人の男が立っている。
南拳系 “日本人に教えてはならない”
とされる詠春拳(えいしゅんけん)ブルースリー系の拳法者と
内家拳・八極拳系 心意六合拳(しんいろくごうけん)
イスラム系の拳法者の戦い。
どうして、こうなったかというと、
上級ラマ僧を陥れようとした中国の工作が発覚したからといえる。
「もう少しで、金を受け取らせる事ができたのにな」
「油断も隙もないな。センハン」
「おまえは、中国の民主化を望んでいると思ったが」
「セイリュウ。そう言えと送り込まれただけだ」
「・・・・・」
「・・・・・」
拳法の優劣が大きいのか、
個体の優劣が大きいのか。
体格は、ほぼ同じ、互いに向かい合って構える。
武術も宗派が違うと無知は命取りだった。
相手の得意不得意を知っている方が有利になっていく、
とはいえ、虚虚実実の駆け引きが瞬時に繰り出されるため、
本当に苦手か怪しい、
足技が得意でも最後まで出さない場合もある。
そして、本当に力を出し切っているかも怪しい、
緩急混ぜた複雑な組手・打撃戦になっていく、
有利に押しているようでも、
隠している技が一つ二つあってもおかしくない。
集中力と機転を持続できるか。
体力の配分も絡む、
そして、隙を作ったのか、隙を見せたのか、
互いの決め技を繰り出す、
これまでとは、まったく違うレベルで互いの一撃が交差する。
・・・・・・・・・・・
一人が倒れ、一人も膝を付く。
「隠していたのは八極拳か・・・」 がくっ!
生き残ったのは南拳系に見せ、
最後の一撃で八極拳を繰り出した中国のスパイだった。
「ふっ 作戦は、失敗だ」
「逃げるしかなさそうだな」
疲れと疲労から克服したはずの高山病が不意に襲ってきそうになる、
男は、よろよろと立ち上がり、ラマ寺院を抜け出していく、
北ベトナム
ホーチミン(77)とバオダイ帝(54)
仲良くというわけでもないが将棋をしている。
暇でもなく、忙しくもなく。
ただの宣伝。
ソ連と中国は、面白くなかった、
もちろん、アメリカも面白いはずも無い
南ベトナムは、それ以上に面白くない。
北ベトナムは、世界でもっとも奇怪な国となってしまった。
自由主義か、共産主義か、
世界中で殺し合っているさなか。
この国の非常識は各国とも呆れる。
とはいえ “殺し合え!” と、面と向かって言える雰囲気でもない、
そして、日本とソ連が、この国、いや、ホーチミンの味方をしている。
むろん、好きで味方をしているというより、
日本は、対中政策もあるが、これまでの行き掛かりの惰性、
ソビエトは、対中戦略と地政学上の理由が大きく、
どちらも、ホーチミンの代わりが見つからないことが最大の理由といえた。
テラスの片隅
エコノミックアニマルと呼ばれ易い黄色人と、
クマ野郎と呼ばれ易い白人の代理人は、将棋の行く末を見ていた。
「南ベトナムは政治的混乱で滅茶苦茶になっている。どうするつもりだ?」
「我が国のせいではない」
「南ベトナムが北ベトナムに攻めてきたら厄介だぞ」
「それより、中国が動いたら中ソ関係にヒビが入る」
“ざまあ見ろ”
と言いたいが日本もアメリカとの関係がこじれると困る。
ソ連と日本の北ベトナム投資は少なくない。
通常、共産主義国家の労働意欲は減退していくはず、
なのだがホーチミンは、よほど国民に好かれているらしく、
程度の低い工業化に成功し、順調に国力を伸ばしていた。
食料自給率の高い国は違う。
そして、瑞穂から熱帯果実のプランテーションを模倣したのか、
年々 市場が大きくなって。食生活も豊かになっていく、
南国向きの瑞穂風庭園も作られている。
治安の安定している北ベトナムに日本人とロシア人の観光客も集まりやすく、
それならと投資が促進される。
そして、共産主義の元祖であるはずのソビエトもベトナム共産主義に注目する。
たんにトップの差だろうと思ってしまうのだが
権力闘争は、ほとんど行われておらず粛清も無い。
「・・・・・・」 ロシア人。
「平和だねぇ〜」 黄色人
「・・・・・・」 憮然とする。
イスラエルとイスラム世界
普通、イスラエルに入国した人間はイスラム圏に行けなくなる。
そして、イスラム圏からイスラエルにも行けない。
不倶戴天の敵。
しかし、イスラム圏でイスラエルと関係を結んでいる国も存在する。
パキスタンは、チベット独立戦争と共産テロ・ゲリラ戦で反共戦争の真っ只中であり、
西側、非アラブ・イスラム圏の最たる国。
当然、アラブ・イスラム圏がソ連側に付くのが面白くない、
下手に拗れてしまうと非アラブ・イスラムと、アラブ・イスラムで戦争にもなりかねない。
イラン・イラクの関係は、次第に悪化しつつある。
「わかっていると思うがイスラエルは、アラブ・イスラムと事を構えて欲しくない」
「イスラエルは生存権を確保したいだけだ」
「我々 イスラム教は、反宗教国家連合のソビエト・中国と戦争状態にある」
「ユダヤ教宗教国家である貴国がイスラム教を攻撃するとは反宗教国家ではないか」
「貴国の立場は良くわかっている。理解もしている。例外的に相応の支援もしよう」
「しかし、我がイスラエルは約束の地であるアブラハムから相続したこの国と領土を守る権利がある」
「アブラハムの子ら同士で殺し合うこともなかろう」
「・・・・・・・」
「混血優遇政策。考えても良いのではないかな?」
「断固として、断る。ありえないぞ!!」
そして、アラブ・イスラムと非アラブイスラム
「宗教国家同士で戦争して、どうするつもりだ?」
「この世界を反宗教国家群に引き渡すつもりなのか」
「パレスチナは、同胞の国なのだ。同じイスラムの国だ」
「同胞の国なら、チベットにも、ウィグルにも、カザフスタンにもいる」
「彼らの困窮をどうするつもりか?」
「・・・それは、そちらに任せるがパレスチナは、我々の問題だ」
「そんな中東の小さな地域にイスラムの力を結集させてどうするつもりだ」
「もう少し、広い世界を見たらどうか」
「共産主義世界から、イスラム圏を解放しようとしているのに」
「アラーの意思を妨害しようとしているのか」
「い、異教徒と徒党を組んで何がアラーだ」
「そんなことにアラーが加担するものか」
「それは、貴国の公式な見解なのか」
「それとも、あなた個人の見解か」
「全世界のイスラム教徒が、どう思うか。気にしてはどうかな?」
「い、いや、公式と言うわけではない・・・・」
「こ、個人的に共産圏の我が同胞に同情している」
「しかし、目の前の同胞を助けたいと思うのが人間というものだろう」
「イスラム圏は反共で結束すべきだ」
「ああ・・・しかし、だ」
「わがイスラム圏は、ユダヤ・キリスト教から迫害を受けてきた経緯がある」
「貴国もイギリスから受けてきた苦しみを覚えているはず」
「いまは、戦友として肩を並べている」
「中東などと言う狭い地域でなく、広い戦略で物事を考えるべきだ」
「中央アジアには、パレスチナよりたくさんのイスラムの同胞がいる」
「彼らを解放するのが先決だろう」
「アメリカとイギリスは、チベットの資源が欲しいだけだ」
「そうだな。そして、君らは武器を欲している」
「少なくとも資源を欲しがっている方が良心的に思えるが・・・・」
「なあ、頼むよ。そっとしておいてくれないかな」
「我々も、そちらの戦いを邪魔しない」
「本当に邪魔をしないのかな」
「ソ連と中国の武器供給の代わりに共産圏のイスラム教徒を売り渡してないと、どうして保障できる」
「・・・・・・」
キリスト教諸国に言われると反発することでも、
同じイスラム教国家に言われると、少しばかり対応が変わったりもする。
何しろ、世界的な視野でソ連と中国と事を構えているイスラム国家はパキスタンだけであり、
他のイスラム諸国も一目置かざるを得ない、
反欧米、反白なら、ソビエト・中国側でなくても日本という選択もある。
そして、イスラム世界でパレスチナを問題にしているのは周囲のイスラム諸国ばかり。
他のイスラム諸国は、パキスタンへとなびいていた。
中国が初の水爆実験に成功、と発表する。
パキスタンがイスラエルとアラブを調停し、エルサレム協定が調印される。
スファラディ(東洋)系ユダヤ人に係争地を管理させるというものだった。
治安維持で南アフリカ公国軍・インド軍が係争地に駐留し・・・
アシュケナジー(白人)系ユダヤ人は、憮然とするがハザール人であることに違いなく。
アブラハムの血統ということなら、
スファラディ(東洋)系ユダヤ人が本筋だった。
そして、パキスタンがスファラディ(東洋)系ユダヤ人を支援すると。
アラブ・イスラム圏もスファラディ(東洋)系ユダヤ人なら、
むかし仲良くしていたことから、妥協できると緩衝地帯代わりに任せてしまう。
こうなると、アシュケナジー(白人)系ユダヤ人は、窮してしまう。
生存権を拡大しようと思えば、スファラディ(東洋)系ユダヤ人と戦争。
チベット独立戦争に勢力を結集したいアメリカが最後通牒を突きつけると、
イスラエルが計画していたレッド・シート作戦は中止される。
南アフリカ公国軍駐留軍がパレスチナの路地を行軍する。
ユダヤ人(東洋系)とパレスチナ人は、なぜかニヤニヤしている、
「なんか、カッコいい、軍服だな」
「南アフリカ公国軍のだろう。なんか、軍服という気がしないな」
「襟とか必要なのか。軍服」
「「「「あははは・・・」」」」
「まあ、駐留軍がハザール人のテロを抑えてくれればいいがね」
「やめてくれよ。本家ユダヤ人の自治区を爆破したら問題だよ」
「スファラディ(東洋)系ユダヤ人も軍隊を作るんだろう」
「自治軍だろう。アラブ諸国から武器が送られてきたよ」
「俺たちとハザール人を戦争させようと思っているんじゃないか」
「たぶんな」
秋津州
ブラジルの軍事独裁。
アルゼンチンもクーデターで軍事独裁。
ウルグアイも政治的混乱にあった。
そして、南米全体が経済不信から左派が強まり、治安も悪化していく、
そのおかげか、秋津州に日本の市民権を持った外国人の別荘が連なり、
秋津州銀行は、南米のスイス銀行の如く資金が集まってくる。
貧富の格差が多いため、イザと言う時の亡命先でもある。
ブラジルの主要な利権を持っているアメリカ資本も、
とりあえずのお金は、秋津州のアメリカ系銀行に入れる。
世界中の主要銀行が秋津州に南米の本店を置き、
ここで、南米全体を一括管理。
南米金融市場も秋津州で調べると早かった。
日本連邦の中で秋津州は、かなり毛並みが違って見える。
何しろ、南米の富裕層が秋津州の銀行を利用していた。
そして、南米諸国の工場でもある。
人質で、あるはずの秋津州が儲けていた。
本当なら現地生産した方が楽なのだが・・・・・
某○○銀行
「・・・ったく。毎度、毎度・・・」
「働く事が、それだけ嫌いということだろう」
「常に監視していないと、ろくなこと、しないな」
「部署、丸ごと一つ、サボって、どうするんだよ」
「やっぱり、監視役は、日本人にやらせろよ」
「あんま、やり過ぎると反発があるんだよ」
「反日になったらどうするんだよ。そっち(ドイツ系)でやってくれよ」
「しかし、南米では信じる者が裏切られるんだよな〜」
「ブラジル人はブラジル人にやらせるのが、一番、無理がないはずなんだがな」
「ていうか、無理しなくなる」
「あはは・・・・」
「アルゼンチンも似たようなものだし」
「あっちは、白人至上主義も混じっているからな」
「日本人は人間扱いしてくれない時がある」
「白人も金には負けるよ」
「しかし、労働に対する認識がな・・・投機しにくいよ。南米は・・・」
「おかげで秋津州が発展している」
「儲かりすぎて怖いくらいだ」
「アメリカ合衆国が選ばれた国と勘違いするのも頷けるな」
「あはは・・・」
パキスタン・アフガニスタン・イラン・トルコが
共産テロ・ゲリラに対する協定を結ぶ。
ソビエトは、対抗し、クルド民族解放戦線を全面支援を表明する。
ハバロフスク
日本の漁船が魚を下ろしていく、
扶桑(オホーツク)海漁業協定で、毎年決まった量が降ろされてた。
そして、意外と日本人好みの街になりつつあった。
新鮮なチョウザメ(皇帝魚)の刺身を食べられるのもここで、
ロシア人が日本人と一緒に寿司を握る。
ラーメンのダシとしても使われたりもする。
おかげで、観光客のルートも間宮のキリスト像から川を上り、
ハバロフスクまで来る。
ブレジネフの時代になっても状況は、変わらない。
日本と手を切ると、ハバロフスクの市民生活の痛手は大きく、
ウスリー流域の発展も望めなくなる。
キリスト像ホテルの観光収入は、忌々しいことにソ連側にも相乗効果として現れている。
外国人用コテージは満杯でマトリョーシカも、琥珀も、ウォッカも良く売れる。
何が面白いのか、越冬。
凍った川で釣り客、スキー客がいたりする。
ロシア人の収入が安定すると。
日本人が魚の切り身をパック入りで加工して売り出し、
夏は、魚を冷凍して売り出した。
日本は、チョウザメと皮革の輸出でもお得意さまだった。
そして、極東方面で攻勢をかけると、いろんな意味で都合が悪くなっていく、
経済の怖さなのか、
極東は、疎遠な欧州や紛争中の南アジアと、違った世界が作られていた。
極東で軍を動かし、得られるものより、失うものが大きいくなれば、それは論外だった。
東洋工業、コスモスポーツ(ロータリーエンジン搭載)
アメリカ、デトロイトで史上最大の黒人暴動。38人が死亡。
南ベトナム大統領グエン・バン・チューが選出。
12/08
国連総会が核兵器使用禁止決議案可決。
ジェネラル・エレクトリック社
「・・・歩兵の強化は、必要かもしれないが・・・・」
「チベットは酸素不足でな。運動能力で優位性を確立したい」
「ま、あ・・・寒いところだからな、保温も兼ねて作りやすいかもしれないが・・・」
「どうだろう」
「立っている状態でも、座っているのと変わらない程度には、できるかもしれないが・・・」
「動力の問題もある」
「エンジン付き?」
「んん・・・風が強くて日差しも強ければ携帯で、風力、太陽光熱で発電という手も・・・・」
「風力、太陽光熱で動かすには、電力が足りないだろう」
「いや、保温だよ」
「保温ね。動かす方は?」
「んん・・・・いろいろ、試作するしかないな」
「熱帯と違ってチベットだ」
「機動をアシストしてくれるのであれば、少しくらい重くても構わないだろう」
「兵士一人当たりの価格が跳ね上がるな」
「傭兵だよ。高いに決まっているが生き残りたいのなら、自分たちで買うだろうさ」
「まあ、な」
パワード・スーツの研究が少し進む。
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月夜裏 野々香です。
『ミッドウェー海戦のあと』のパキスタンは、史実と違って、カッコいいです。
反共でいうと、国際社会でアメリカを押し退けて発言力があるのか動きも派手。
欧米諸国もパキスタンの政策誘導を試みようと、投資や企業誘致。
おかげで、パキスタンの国力は、イスラム諸国随一にまでなりそうです。
レーザーについて。
1958年 C・T・タウンズ と A・L・ショウロウが理論上の可能性を指摘。
1960年 T・H・メイマンが、ルビー結晶レーザー発振を初めて実現。
パワードスーツについて、
1968年 強化服的な物としてジェネラル・エレクトリック社の
“Hardyman”が外骨格(Exoskeleton)型が発表される。
この時期、現実世界が、アニメや特撮を追いかけてきた頃でしょうか。
この頃のテレビものです。
よろしくです。
第76話 1966年 『宗教国家連合 VS 反宗教国家連合』 |
第77話 1967年 『平和を作り出す者は・・・・』 |
第78話 1968年 『徒然に流れて』 |