月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

  

第02話 1942/07 『国力の差が身に沁みる』

 ターナー少将が撫すくれていた。

 「ガダルカナル上陸作戦が中止? どういう了見だ」

 「ミッドウェーでアメリカ機動部隊が壊滅している」

 「ガダルカナル反攻作戦は無理だよ」

 「バカな、ガダルカナルの日本軍は1000人もいないのだぞ」

 「空母機動部隊の護衛はない」

 「例え、どれだけ陸兵がいても海で負けては孤立してしまう」

 「日本の空母部隊は本土に引っ込んでいるだろう」

 「サラトガとワスプでやれるはずだ」

 「日本潜水艦が通商破壊を始めたからね」

 「2隻とも輸送任務に取られたよ」

 「・・・・・・・・・」

 7月2日 ウォッチタワー作戦が中止される。

 

 

 太平洋を挟んで日米海軍が睨み合う。

 互いに通商破壊と戦いながら前線に輸送するだけで精一杯になってた。

 戦っている。というには、あまりにも静か。

 日本は、人事で混乱し、戦果の拡大を狙うにも燃料がなく、艦載機パイロットもなかった。

 そして、アメリカは攻勢に必要な戦力がなく、将兵の戦意が低下していた。

 

 ガダルカナル島の日本軍は飛行場を建設し、

 設備を充実させ基地を拡大させていた。

 滑走路に隼、鐘軌、飛燕が並んでいく、

 航空機は陸軍主導の規格共有化で同じ機体を使うことになっていた。

 機体全体は深緑色に塗られ、

 機首から機尾に向かって、陸軍機は白帯1本、海軍機は白帯2本が描かれていた。

 ゼロ戦、99艦爆、97式艦攻は艦載機用に引っ込み、

 99式双発軽爆撃機がガダルカナル基地に配備されていく、

 「この金魚のくびれ、みたいなのはなんだ?」

 「色っぽいのか?」 海軍パイロット いやそう〜

 「・・・・・・・」 陸軍パイロット ぶすぅ〜

 「ふっ・・・」 海軍パイロット そっぽ

 「あ、あのなぁ 性能なんだよ。性能」

 「美観なんてものはな。戦果を挙げれば良く見えるんだ」

 「緩降下でか? 急降下爆撃できないと命中率は辛いな」

 「だいたい、右と左のエンジン。降下中に同調できるのか」

 「そ、それは、長年の勘だよ」

 「はぁ〜 マジかよ」

 「500kg徹甲爆弾は当たれば大きい、空母の飛行甲板くらい貫ける」

 「徹甲爆弾は、改装が終わってからだ」

 99式双発軽爆撃機は99艦爆より速度速く、航続力も長く、搭載量も大きかった。

 また一式陸攻の乗員7人より少なく、乗員4人も撃墜されたときの痛手が小さかった。

 

 

 呉

 長門、陸奥、伊勢、日向、扶桑、山城。

 鋼の城は航空機の攻撃と潜水艦の雷撃でドック入りしていた。

 タダでさえ、オーバーホールが必要な日本艦隊だった。

 港で補修を待たされる軍艦も少なくなく、

 魚雷の命中した戦艦の修理は時間がかかる。

 小沢提督が撫すくれていた。

 「備砲を外してどうするつもりだ。艦隊の基地救援が間に合わなくても知らんぞ」

 「基地航空部隊が400機くらい運用できるようになれば助けに来なくてもいいよ」

 「ちっ!」

 陸軍主導で軍艦から中小口径の大砲が剥がされていく、

 無駄な物を必要とされる場所に運ぶ、

 25mm機関砲一つでも余計に前線に持っていけるなら基地の抗担性は増す、

 この減少は、大和の将官が大量に失われた事に遠因しており、

 備砲を前線に転用しても構わないと、

 階級が繰り上がった将官の意見も取り入れられる。

 現場の意見が強く出るようになったのも軒並み階級が上がったためと言えた。

 基地航空部隊が400機なら、1個機動部隊以上の戦力になった。

 敵の先制攻撃を凌ぐ事ができれば戦えた。

 陸軍の発想だがあながち的外れでもない。

 基地航空戦力が強力であれば、機動部隊も基地強襲を躊躇する。

 ガダルカナルがハワイ並みに強靭になれば済む事でもあった。

 そこまで行かなくても数百機を配備できるなら、

 今のアメリカ機動部隊は手を出せない航空戦力になった。

 もっとも、航空機を輸送するのは骨が折れる仕事で、

 運が悪ければ途中で落ちて鮫の餌、

 前線が広がると現場で有能な整備兵を欲しがり徴兵されていく。

 結果、後方の生産は品質が低下し、目も当てられない状態になっていく、

 日本は、そういう状態だった。

 艦隊の整備兵さえ、外地に出向させなければ、戦線を維持できそうになかった。

 中継基地の整備士も質が低下し、前線にたどり着く事さえ命がけ、

 そういう状況を作り出したのも前線に工員を送ったためで、

 本土の生産性と品質が低下したからといえる。

 欧米諸国は、組織や機能に合わせて能力に応じた人材を配置し、

 生産と整備をマニュアル化していた。

 能力が無駄になり持て余しやすい代わりに生産は安定していた。

 日本は、人材に合わせてコンパクトで有機的に組織と機能を作っていく、

 栄達、保身、出世、徴兵逃れのため仕事がマニュアル化されず、

 神業が秘伝化されてしまう。

 戦争で大変なのはマンパワーに頼り、

 人材に合わせて組織と機能を作っていた日本だった。

 徴兵されたとき代わりがいなくなる。

 戦争中に何をしているんだか、といえなくもない。

 しかし、貧しい国で自分自身を守る手段で自分の代わりがいない、は効果があった。

 自分自身に社会的な価値がなければ生きていけない国であり、

 逆にそういった事に無頓着な人間が日本を近代化させたともいえた。

 

 

 山口提督は頭を抱えていた。

 アメリカで生産される航空機とパイロットが、一桁どころか、二桁も違っている。

 だからといって、真似できるものではない。

 一人のパイロットを使いモノにするのにドラム缶数百本分の燃料を消費し、

 エンジンの耐久時間を300時間とするなら軽く2基を潰した。

 日本がパイロットの大量養成ができないのはエンジンの生産力と燃料配分に過ぎない、

 またベテラン教官を前線に抜くとパイロット養成ができず、

 ジリ貧で作戦不能となる。

 できたばかりの隼鷹、飛鷹、龍鳳で艦載機パイロットを育てなければ、とても間に合わず、

 前線に育てたばかりの艦載機パイロットが引き抜かれていく、

 少数精鋭では済まない表事情も裏事情もあった。

 飛行訓練で使われる機体、燃料、消耗品も国力を擦り減らされる。

 今のところ、緒戦の戦果が効をそうし、キルレートは悪くなかった。

 さらにランチェスターの法則を無視し、

 ご都合主義でキルレートを1対1で同じ隻数、同じ機数ずつ盤上から消していけば・・・・

 残るのはアメリカ軍だけになった。

 「ありえねぇ・・・」

 が、山口提督が頭を抱えている理由だった。

 

第一機動部隊 (山口多聞) 第二機動部隊 (小沢治三郎)
空母 瑞鶴 翔鶴 飛龍 蒼龍 空母 赤城 加賀 瑞鳳 龍驤
戦艦 比叡 霧島 戦艦 金剛 榛名
重巡 利根 重巡 筑摩
重巡 高雄 愛宕 摩耶 鳥海 重巡 最上 三隈 鈴谷 熊野
第10水雷戦隊 長良 第02水雷戦隊 神通
第04駆逐隊 萩風 野分 舞風 第15駆逐隊 早潮 黒潮 親潮 夕風
第10駆逐隊 風雲 夕雲 巻雲 秋雲 第18駆逐隊 陽炎 不知火
第16駆逐隊 初風 雪風 天津風 時津風 第24駆逐隊 海風 山風 江風 涼風
第17駆逐隊 浦風 磯風 谷風 浜風 第06駆逐隊

 

戦闘機 爆撃機 雷撃機     戦闘機 爆撃機 雷撃機  
  84 84 105     82 42 98  

  

第三機動部隊 (角田覚治) 第四艦隊 
空母 飛鷹 隼鷹 龍鳳 空母
戦艦 戦艦
重巡 妙高 那智 足柄 羽黒 重巡 衣笠 青葉 加古 古鷹
第03水雷戦隊 川内 第04水雷戦隊 由良
第11駆逐隊 吹雪 白雪 初雪 叢雲 第02駆逐隊 村雨 五月雨 春雨 夕立
第19駆逐隊 磯波 浦波 敷波 綾波 第09駆逐隊 朝雲 山雲 夏雲 峰雲
第20駆逐隊 天霧 朝霧 夕霧 白雲 第27駆逐隊 有明 夕暮 時雨 白露
          第01水雷戦隊 阿武隈 北上 大井  
  戦闘機 爆撃機 雷撃機   第21駆逐隊 初春 子の日 初霜 若葉
  50 50 34            

  

  建造・予備・修理・改装・解体
空母 空母 千歳 千代田 日進
戦艦 戦艦 長門 陸奥 武蔵
戦艦 伊勢 日向 扶桑 山城
重巡 重巡
第21水雷戦隊 第水雷戦隊 多摩 木曽 名取 鬼怒
五十鈴 球磨 天竜 龍田
第駆逐隊 第駆逐隊
第駆逐隊 第駆逐隊
第駆逐隊 第駆逐隊
第水雷戦隊
鹿島 香椎 香取 第駆逐隊
神川丸 粟田丸 赤城丸 浅香丸 君川丸

 

 

 某工場

 工作機械が止まって工員が工作機械の調整をしていた。

 「・・・なんで止まっているんだ」

 「工作機械の不具合で調整ですかね。熟練工員を徴兵されたんで・・・・」

 「あと、電力が足りないんですよ」

 「・・・何とかならんのか」

 「それは、電力会社に言って貰わないと・・・・」

 「・・・んん・・・」

 「あと、もう少し、いい潤滑油は、手に入らないんですかね」

 「ひまし油はいいんですけど腐りやすいですし」

 「うっかりすると工作機械が壊れてしまいますよ」

 「この工作機械は? 頼まれているんだが」

 「駄目ですよ。こいつは出来が良いので武器弾薬製造に回せません」

 「はっきり言うなよ」

 「こいつを使って、次の工作機械の部品を製造しないと・・・」

 「工作機械も精度を保てない上に寿命が短いんですよ」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

   

  

 某炭鉱

 鉱山労働者が思い思いに働いていた。

 ほとんどは、朝鮮人、台湾人だった。

 そこに中央から役人が来る。

 「どうして、炭鉱の生産が落ちているのだ」

 「そう・・・ですな・・・軍手とツルハシの不足。でしょうか」

 「ったく・・・」

 「あと、朝鮮人のボイコットですかね」

 「ったく・・・」

 輸送船の荷揚げ、荷降ろしで朝鮮人労働者は少なくない。

 非協力的ではあった。

 しかし、いやな仕事を押し付けられる点で有用だった。

 日本人と朝鮮人の権威主義、非合理的な感覚は、50歩100歩の違いでしかなく。

 日本人であれ、朝鮮人であれ、いやな仕事は避けたがって当たり前。

 単に立場的に我慢できるか、我慢できないかの違いでしかない。

 一方、欧米諸国は効率の良い生産環境を構築していくだけの余力と余裕、合理性があった。

 

 

 

 大和(ミッドウェー)島

 大和 艦尾艦橋

 滑走路から一式陸攻が離陸していく、

 アメリカ海軍にサラトガとワスプが存在し、

 奇襲と強襲を受ける可能性は常にあり、

 敵が近付いてこないか、定期・不定期に哨戒機を飛ばさなければならない、

 そして、一回の哨戒任務で消費する燃料は少なくなかった。

 「・・・こんな小島を大和と名前を付けるとは・・・・・・」

 「この戦艦が大和ですから」

 「・・・・」 ため息しかでこない。

 国家予算の3パーセントの1億4000万で建造された戦艦を小島に座礁させ、

 最前線でありがちな事で補給も滞り気味になっていた。

 「・・・輸送船が撃沈されたな」

 「ええ、こちらも輸送船を撃沈しているので良い勝負かと」

 「敵の輸送船を沈めるのに魚雷を使うなど勿体無くて惜しい」

 「しかし、こっちの輸送船が魚雷で撃沈されると無念だな」

 「日本が困ることなら、アメリカも同様に困るのでは?」

 「・・単純な理屈だな」

 「しかし、輸送船の数が違い過ぎる、痛手の大きさは100分の1くらいだろう」

 「ですが開戦前は、このような戦いになるとは思っていませんでした」

 「互いの戦艦群が航空攻撃で無力化か・・・・・」

 「大和や武蔵でなく、貨客船を建造していたら良かったのでしょうが」

 「・・・そうだな」

 


 月夜裏 野々香です。

 航空機は、陸軍主導になってしまいました。

 『ミッドウェー海戦のあと』の逆です。

 海軍パイロットは、陸軍機に乗って戦うことに・・・・

 作者的には、海軍も、陸軍も、どっちの味方でもないです。

 国防の為、主役であろうと、脇役であろうと、陸軍も、海軍も、磨り潰します。

 お気に入りの軍艦も、将校も、皆殺し。潔く、お国の為に殉じて頂くつもりです。

 

 大和の建造費が1億4000万。

 同じ頃建造された民間貨客船。

 三池丸(11738t)。安芸丸(11400t)。阿波丸(11250t)が、803万〜833万。

 (全長153m×全幅20m×乾水12.6m) ディーゼル2基2軸14000BHP 20.6kt。

 17隻くらい建造できそう。武蔵の分を足すと34隻。信濃の分を足すと51隻。

 大和、武蔵と、どっちが太平洋戦争の戦局に良い影響を与えただろうか。

 というか、せめて、大和を沈めても勝つくらいの根性が欲しいものです。

 

史実 爆撃機 99双発爆撃機 99艦爆 1式陸攻11型 100式 呑龍
全長×全幅×全高 (m)

12.88×17.47×3.8

10.20×14.40×3.90

19.94×24.88×4.90

16.80×20.42×4.25

翼面積 (u)

40.00

35.00

78.12

67.50

自重 / 最大重量 (kg)

4550 / 6750

2570 / 3800

7000 / 9500

6070 / 10150

発動機 (hp)

1100×2

1200

1410×2

1260×2

最高速度 (km/h)

505

430

426

490

航続力 (km)

2400

1350

2852〜4288

2000〜3400

乗員

4

2

7

8

武装

7.7mm×4

7.7×3

20×1 20×1
      7.7×4 7.7×5
爆弾/魚雷 (kg)

500

250

800 (魚雷)

1000

史実 生産

1977

1492

2416

 

796

戦記 もっと多い 少ない 少ない もっと多い
         

 

 

 

 ちなみに戦前の日本の工業力に関して、疑問を感じられた方は、こちら

   

   

   

   

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第01話 1942/06 『げっ! 大和が・・・』

第02話 1942/07 『国力の差が身に沁みる』

第03話 1942/08 『陸軍主導』