月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

1949年、武昌(ウーチャン)、漢水(ハンショイ) 漢口(ハンコウ)、漢陽(ハンヤン)が統合。

武漢になりました。

  

第04話 1942/09 『逃げるが・・・』

 漢口は、日本軍の占領地であり要衝であり戦場だった。

 北南西の三方から中国軍に包囲され、

 反日運動が起きていたが治安はソコソコ、

 経済活動も行われていた。

 日本軍御用達の中国店に行けば定価格販売で値札通り物が売られる。

 日本軍将兵だけでなく、駆け引き下手な中国人も買っていく、

 時間と暇があり、

 中国語を話せて値引きと駆け引きを楽しみたいのなら中国人の店に行く事も出来た。

 日本製“元”の偽札が日本軍の財源だった。

 中国経済を破壊しインフレを起こさせる戦略だったが偽札の出来が良過ぎた。

 そして、中国は紙幣を作れないほど弱体化していた。

 紙幣が少なく物が多いデフレ気味の中国経済を日本製偽札が助けてしまう。

 結果的に持ちつ持たれつ、

 日本の偽札は、中国にとって本物の価値があった。

 

 その漢口から日本軍が撤収していく。

 “敵前から軍を後退させる”

 これほど困難なことはないが相手は中国軍だった。

 負傷者と装備を引き上げ、無線の不備で孤立した部隊を作らないようにする。

 少しぐらいの隙や穴があっても付込まれる事なく、後退する事ができた。

 損害もなかった。

 純軍事学上。オー・グレート、ミラクルアーミと賞賛されてもおかしくない。

 しかし、当の日本軍は意外に無頓着だった。

 というより、日中軍双方の脳内で条件反射的にシミュレーションされる。

 後退中に日本部隊が孤立する。

 中国軍が襲う。

 日本軍が逆襲。

 中国軍が蹴散らされる。

 日本軍も、中国軍も、そうなると確信していた。

 

 「ガー♪ ガ (お兄ちゃん) もう行くの?」 少女

 「うん。ミンメイちゃんも。元気でね」 日本兵

 中国人の女の子は畑でとれた農作物を売りに来る。

 日本軍が駐屯していた地域は、日本軍のばら撒いたお金で経済が回り、

 比較的豊かだった。

 握手。

 「・・・どこに行くの? ガー♪ ガ (お兄ちゃん)」

 「・・・上海だよ」

 これは、お約束。

 もちろん、聞く方もそうで答える方も同じ、

 ここに中国軍が進軍してくればどうなるか・・・・・

 日本兵は、女の子に向かって手を振る。

 女の子も、この先の不安を抱えながら手を振っている。

 あの子は、日本軍が上海に向かったと言うだろう。

 そして、日本軍を悪く言わないと殺されることを知っている。

 日本兵も、そのことを知っている。

 それでも少女に手を振るのは、望郷の彼方にいる妹と重ね合わせたのかもしれない。

 同じ黄色人、日本の女の子とあまり違わない様にも思えた。

 日本軍は規律を失って統制できなくなることを嫌う。

 食料を作って売りに来る農民を虐殺して田畑を枯らすことも嫌う。

 略奪や虐殺といった行為も嫌い、民衆を殺せるだけの無駄弾はない。

 偽札でも金さえ出せば、中国人は作った食料を持ってくる。

 大勢の日本軍が中国大陸で生きていた。

 兵隊が小銃を手放し、自分で田畑を耕し、植え、刈るわけにはいかない。

 略奪するより偽札をばら撒いて食料を買う。

 一部でゲリラ狩りの虐殺があったとしても、ごく一部。

 中国人の死は、虐殺でなく戦闘によって失われることが多く、

 むしろ、中国軍の略奪と虐殺によって失われた命の方が多かった。

 

 平原

 日本の中隊が停止している。

 後方からトラックが来て合流する。

 「お、来た来た」

 「・・・すまん、すまん。シャフトとプラグだ」

 使いまわされた箱にそれらしいものが入っている。

 「あらら・・またかよ」

 何度も合いそうなシャフトを試し、一番近い部品を選ぶ。

 そして、シャフトの接合部を批判気味に睨んでヤスリを取り出す。

 芸術家の様な仕草でヤスリがけ・・・・

 ムラな部品が多いと余計な荷物も増える。

 無理して運び、無駄な労力と時間が費やされていく。

 「ったく。ろくな部品がないときている」

 「・・・おい・・・あれ、中国軍だろう。なにやっているんだ?」

 中国師団は地平線ほどの距離で止まっていた。

 「煙が上がっているから昼飯だろう」

 「攻めてこないのか」

 「いや、食事が終わるまで待って、それから、点呼して、休憩を取って、会議をして、食事の準備」

 「そして、点呼。俺たちがいなくなるのを待つんだよ」

 「牧歌的だな・・・・」

 「戦意を低下させて、無駄弾を撃たせるのには良い戦略だよ」

 「気が引けて撃ちたくなくなる」

 中国軍の前進も遅く、孤立した日本軍がいても包囲することなく待っていたりする。

 中国大陸。

 そこは、日本人の人智の及ばない地平が広がっている。

 日本軍は、広大な空間と、ゆっくり流れる時間を満喫しながら後退していく、

 

 

 

 ガダルカナル

 スコールが止むと一式陸攻が離陸していく、

 敵潜水艦を撃沈する爆弾も搭載し、

 接近するかもしれない敵艦隊を索敵する。

 港湾が整備され物資を運び込みやすくなっていた。

 ガダルカナル守備隊は、5000人を超えていた。

 兵士一人が一日1kg消費するなら将兵5000は一日5000kg。

 一日5t。10日50t。1ヶ月150t。1年1800tになった。

 これは米と穀物だけ、

 他にも消費しなければならないモノがあった。

 誰でも体を洗い石鹸ぐらい使いたい。新しい服に着替えたい。

 そういった日常品が決定的に欠いていたのが日本であり日本軍だった。

 輸送船のクレーンが大型の積み荷を降ろし、

 陸軍将兵たちが集められる。

 「あれは?」

 「海軍の140mm艦砲ですよ。命数分の砲弾も持ってきたようです」

 「命数分撃てるだけ生き延びられるならいいけどな」

 「兵隊代わり大砲だよ」

 「米を消費しないからね」

 「どうやら、日本軍の最前線は、この島になるようだな」

 「豪州へは行かないので?」

 「豪州とだけ戦争していたなら、それも可能だっただろうが、もう船もない・・・・」

 「補給が途絶えると?」

 「日本海軍は、ミッドウェー海戦で戦艦7隻が大破してるからな」

 「もう無理だろう」

 「しかし、海軍さんは、アメリカ空母3隻を撃沈したと」

 「あの大砲は戦艦から剥がして来たそうだ」

 「日本がどういう状況か、わかるだろう」

 「・・・この島が限界のようです」

 「水田は?」

 「拡張しています」

 「アメリカ軍が上陸してくるまで使えるだろう」

 「上陸してきますか?」

 「ここが最前線ならアメリカ軍は上陸してくるよ」

 

 

 

 日米両軍の戦線は、

 ラバウル ← 780km → ポートモレスビー

 ガダルカナル ← 980km → ニューヘブリディーズ(バヌアツ)諸島

 に作られていた。

 ラバウル航空司令部

 隼3機編隊が滑走路に着陸する。

 「第125小隊。着任しました」

 「御苦労。3人ともゼロ戦320時間と隼70時間か・・・」

 「隼は慣れたかね」

 「はい」

 「取り立ててすることはない、上空待機と防空が任務になるだろう」

 「整備と休養を取ってくれ」

 「ゼロ戦ならポートモレスビーを爆撃できるのに・・・」

 「陸軍の隼、鐘軌、飛燕は航続力が短いからな。せいぜい、島を守るだけだ」

 「あ、夜になったら機体を退避壕に隠しとけ」

 「B24爆撃機の夜襲が怖いができることはない」

 「対空火器は?」

 「25mm機銃がとどかない高度で」

 「120mm砲と127mm砲が間に合わない速度で横切っていく」

 「爆弾が滅多に当たらないのが救いだが嫌がらせで爆弾を落とせる国だ」

 「こっちは嫌がらせで落とせる爆弾がないから貧乏な国は勝てんな」

 「「「・・・・」」」

 

 深夜

 B24爆撃機は、星と計器で目標を計算して、飛ばなければならなかった。

 「ロバート曹長」

 コーヒーカップが手渡される。

 「あっ 済まない」

 「あと、20分くらいだ」

 「ヘンリー、計算通りだろうな」

 「航法は任せてください」

 「僚機が飛んでるなら安心だ」

 「おいおい」

 速度、高度、風速をノルデン照準器にインプットするだけで、

 投下予測位置がアイスコープに映し出された。

 暗い海で、さらに暗い陸地と海岸線が見える。

 日本軍の対空陣地から撃ち上げられ、

 火線が夜空を焦がし、砲弾が爆発する度に機体が揺れ、

 時に被弾し、破片が機内を跳ね回る、

 十数機のB24爆撃機がガダルカナル上空を横切り爆弾を投下していく、

 爆弾倉が開き、パラパラと爆弾が落ちていく、

 爆弾は、物理的な法則に従って弧を描き

 ジャングルの中に落ち爆発と振動を轟かせていく、

 

 将兵は、空襲警報と爆音で目を覚ますと、

 理不尽な死から逃れるため、蛸壺と呼ばれる小さな穴に飛び込む、

 平時では見聞きすることもない閃光、爆音、振動が続き、

 木切れの混ざった土砂が降ってくる。

 B24爆撃機は悠々と飛び去り、

 死傷した将兵がいないか、点呼が始まる。

 命中率の低い夜間爆撃の被害は運しだい、

 100発装弾の銃でロシアンルーレットをするようなもので

 確率でいうなら100分の1以下、

 しかし、これを毎夜やられたら震撼冷めやらずで神経がおかしくなる。

 点呼が取られ、被害報告が集計されていく、

 

 

 ガダルカナル泊地に入る水道付近で騒ぎが起きていた。

 防潜網に引っ掛かったガトー級潜水艦アルバコアの捕獲作業が行われていた。

 アルバコアの周りを囲むように追加の捕獲網が張られていく、

 720トン級敷設艇「白神」

 「・・・これは大金星でしょうな」

 「ガダルカナルが日本の潜水艦基地になると、わかっているんだろうな」

 「アメリカは真珠湾で戦艦を撃沈され」

 「ミッドウェーで空母が撃沈されている」

 「動かせるのは潜水艦だけだ」

 「日本の潜水艦もしばらくは通商破壊投入だから様子を見に来たのだろう」

 「アメリカ製潜水艦か。少しは日本海軍に役立てれば、いいのだが」

 「潜水艦はUボートが上だろう」

 「ドイツ製を模倣できないのならガトー級が有用では?」

 「工員の受け売りですがね」

 「そうなんだよな・・・・」

 捕り物は、潜水艦の酸素が尽きるまで続き、

 アルバコアは浮上して脱出しようとし、

 捕獲網を乗り越えて停止し捕獲されてしまう。

 

 

 大和(ミッドウェー)島

 日本軍は、ミッドウェー島を占領後、潜水艦基地として運用していた。

 小さな湾に伊号が並び、整備と補給がされ、

 出撃する伊号と帰還する伊号が擦れ違う、

 滑走路には、ゼロ戦、99艦爆、97艦攻が並び、

 湾には2式大艇と零式水上戦闘機が配備され、

 基地の防空は万全に思われていた。

 そして、基地の将兵たちは毎日の様に座礁した大和を見て

 「こんな小島と大和を・・・」 と、ため息をつき、

 同時に心強くも思っていた。

 満潮時、25ノットの速度で乗り上げたため、離岸もできず、

 しかたなく、大和の周りに土嚢を敷き詰め要塞として運用していた。

 アメリカは、真珠湾の機能を回復させており、

 太平洋に高速戦艦サウスダコタ、ノースカロライナを配備していたが、

 要塞化した大和が砲撃戦といった酔狂な作戦は考えられず。

 真珠湾にサウスダコタ。

 南太平洋ノースカロライナと分かれて待機させていた。

 アメリカ海軍にハワイ防衛の航空・艦隊戦力を強要させたこと、

 それは、ミッドウェー占領の戦略的な勝利だった。

 ミッドウェー基地の黒板に前月の戦果と損失が書かれていた。

 日本戦果      潜水艦 13隻   商船 撃沈20隻

 アメリカ戦果    潜水艦 5隻    商船 撃沈4隻

 数値は悪くなかったが国力比で言うなら良くもなかった。

 そして、損失は、確実でも、

 戦果は、聴音機の爆発音で沈没を確認したものが多く、

 誤認や重複している可能性があった。

 日本海軍将兵たち

 「サラトガとワスプの空襲が怖いな」

 「まだ、輸送船団の護衛に従事しているようですが」

 「だが、戦闘機の迎撃準備。怠らないでくれ」

 「はい」

 その深夜。

 大和(ミッドウェー)島に大口径砲弾が降り注いだ。

 水柱が吹き上がり、日本軍将兵が慌てふためく、

 「・・・どうした!!」

 「砲撃です」

 「どこからだ!」

 「正面、3時方向と思われます」

 「・・・・み、見えないではないか」

 「水平線の向こう側かと・・・」

 「め、めくら撃ちだと」

 「そのようです」

 「な、なんと言うデタラメな・・・」

 夜間、水平線の向こう側からの艦砲射撃。

 

 ノースカロライナ 艦橋

 最大射程38kmは水平線の彼方だった。

 ミッドウェー島の座標は知られている。

 ノースカロライナの座標を固定させれば、計算上、命中する可能性があった。

 ノースカロライナは洋上で停止した状態。

 目標とする座標に向け最大射程で砲撃を加えていた。

 2分ごとに9発ずつ撃ち込んでいく、

 ミッドウェー島に日本の水雷戦隊が配備されていたとしたら、

 30ノット (1ノット=1.852) 時速55.56kmで向かってくる。

 37kmの距離なら30分以内で射程内に入る、

 刻々と時間が流れていく、

 ノースカロライナの周りには、重巡3隻、駆逐艦8隻が固めていた。

 「リー提督。日本水雷戦隊は不在のようです」

 「戦艦の砲台に頼っているのだろう」

 「例え日本の水雷戦隊が向かってきたとしても、戦艦がいなければ思う壺ですがね」

 その通りだった。

 戦艦部隊が待ち構えているところに水雷戦隊を突っ込ませても勝ち目が薄い。

 「・・・リー提督・・・540発の砲弾を撃ち込みました」

 9砲門で計算すると、

 1門当たり60発を発射したことになる。所要時間120分。3時間。

 「・・・そうか・・・引き上げよう」

 「戦果は、どうでしょう?」

 「さぁな。水平線の向こうであれば、あの化け物も撃ち返せまい」

 リー提督は、不敵な表情を浮かべる。

 物量作戦とは、こういうの言うのだろう。

 大和が世界最大最強の戦艦で、今は、陸上要塞となっていたとしても

 共通して言えることがある。

 深夜、水平線の向こうにいる軍艦の座標を知る術は限られ、

 航空機の観測無しでは最大射程で撃てなかった。

 砲弾が命中しないのであれば、長射程と破壊力も無意味であり、

 そもそも国力で劣る日本が無駄弾の多い最大射程で撃てるはずはなく、

 日本の水上機が出撃し、索敵したものの、

 暗夜の洋上を引き上げるアメリカ艦隊は簡単に発見できなかった。

 燃料の少ない日本軍の哨戒網は狭く、

 アメリカ艦隊は昼間の間、可能な限り日本の基地に迫り、

 夜に基地に近付き長距離から艦砲射撃したのだ。

 無駄弾はともかく、

 アメリカ海軍の戦法は、心理的に効果があった。

 大和(ミッドウェー)島の着弾は12発。

 撃ち込んだ砲弾の数の割りに命中率がいいのか、悪いのか。

 大和の艦首に一発が命中し、

 滑走路と航空戦力の半分を破壊。

 伊号2隻を撃沈。死傷者多数。

 大和の艦首部と

 滑走路のゼロ戦3機と99艦爆2機が紅蓮と黒煙を上げて燃え上がり、

 夜空を焦がした。

 日本軍将兵が右往左往しながら消火作業し、

 負傷者の救助に当たった。

 「司令。この状態で航空機の出撃は無理かと」

 「復旧を急がせろ」

 「アメリカ機動部隊の奇襲があるはずだ」

 「夜明け前に戦闘機だけでも離陸させろ」

 「はっ!」

 「ふ 機雷源の外側どころか、大和の正面」

 「それも水平線の向こう側から撃ち込んで来るとは・・・」

 「水雷戦隊の派遣を打診するしかないかと」

 「大和の大砲に怖気づいて来ないと思っていたら。こんな手を使われるとはな・・・」

 「ミッドウェー。維持費が高くつきそうです」

 「だが相手が高速戦艦だと水雷戦隊だけでは足りんな・・・・」

 「ええ、何か考えないと金剛型ではアメリカの新型戦艦に勝てませんよ」

 「・・・・・・・」

 夜明けとともにアメリカ機動部隊の空襲が始まる。

 F4Fワイルドキャット56機、ドーントレス43機)がミッドウェー島を襲う、

 雲間から見えるミッドウェー島は、噴煙を上げ、

 昨夜の艦砲射撃の被害で大騒ぎのように見えた。

 「よ〜し。全機、突撃!!」

 「!? た、隊長!! 3時、上方」

 ゼロ戦31機がミッドウェー上空で待ち構え、

 爆撃に入ろうとするアメリカ爆撃部隊に襲い掛かる。

 アメリカ爆撃部隊は散を乱して逃げ出そうとするが上空を取られ、

 空襲のため降下に入った状態では手遅れだった。

 低空のゼロ戦は、この上もなく凶暴で

 機銃掃射を受けたアメリカ軍機は次々と撃ち落とされていく、

 昨夜の復讐に燃えるゼロ戦隊の迎撃は苛烈で、

 アメリカ爆撃部隊はワイルドキャット43機、ドーントレス34機が撃墜されてしまう。

  

 ミッドウェー沖

 サラトガ、ワスプ

 アメリカ機動部隊は、日本潜水艦に発見され、雷撃を受けていた。

 ワスプは、ギリギリのところで魚雷をかわし、

 穴だらけのワイルドキャットが飛行甲板を滑って、海上に落ちて水柱を上げる。

 「待ち伏せされたのか・・・」 ハルゼー提督

 「戦艦の夜襲で艦砲射撃を受け、夜明けと同時に空襲を受けると判断したのでしょう」

 「・・・無線の状況から、そう判断するしかないな。良い判断だ」

 「フェイントをかけるべきでしたね」

 「増槽を装備したゼロ戦を滞空させていたのだ」

 「フェイントをかけようとすれば、こっちが見つかる」

 「サウスダコタも夜襲に参加させられたら、良かったのですが・・・・」

 「南太平洋をがら空きにはできん。ワスプも返さねばな」

 「ワスプ。艦載機無しだと怒りますね」

 「そうだな」

 「引き上げるしかありません」

 「ああ・・・長居は無用だ」

 アメリカ機動部隊は、艦載機に対潜哨戒させ、真珠湾に逃げ込む。

  

  

 南シナ海

 空母隼鷹が洋上を風上に向かって全速航行していた。

 一機の戦闘機が着艦しようと向かってくる。

 多くの水兵が見守る中、

 フックを降ろした状態で、わずかに機首を持ち上げて進入し、

 フックを制動索に引っ掛けて強制的に着艦する。

 ゼロ戦に似ているがどこか違う形状の隼だった。

 ほっと肩を撫で下ろす。

 隼鷹に着艦できるのなら、それ以上の大型空母は、大丈夫ということになる。

 空母艦載機で重要なのは、翼面積で支える質量だった。

 翼面荷重で数値が小さいほど着艦もしやすい。

 ゼロ戦106kg/u。隼121kg/u。

 ゼロ戦より困難ではある。

 しかし、ワイルドキャット150kg/u。

 ヘルキャット167kg/u。コルセア187kg/u、より楽だった。

 飛燕丙型が158kg/uなのだから、ひょっとしたら、と思うほどだった。

 武装の12.7mm2丁は少しばかり寂しい。

 というより空母を爆撃機から守る観点だと危険といえた。

 開発中の3型は、12.7mm4丁か、7.7mm6丁を選択できた。

 それでも20mmではなかった。

 「・・・なぁ 飛燕は艦載機にしないのか?」

 「駄目だろう。機首が長すぎて前が見えない」

 「だろうな・・・」

 「イギリスではスピットファイアが艦載機化していなかったか?」

 「どうだろう。難しいと思うが・・・・」

 パイロットが降りてくる。

 「・・・どうだね。隼の着艦は?」

 「ゼロ戦より難しいですが練度が高ければ着艦できそうですよ」

 「・・・・」

 広範囲に広がった戦線を支えるには、ベテランパイロットの分散しかなかった。

 分散すれば各個撃破されやすく、

 教官が引き抜かれるとパイロット養成も遅れる。

 真珠湾攻撃時のベテランパイロットを揃える事は、もはや不可能であり、

 ミッドウェー海戦は、多くのパイロットを磨り潰していた。

 仮にベテランが飛燕を着艦できたとしても艦載機として採用できるわけもなく、

 パイロットがいての空母であり、

 熟練パイロット限定で規定機数の半数では戦果を望めなかった。

 とはいえ、陸軍主導の航空機開発は決まっており、

 今のところ、統合前のゼロ戦を使うか、

 艦載型の隼を使うよりなかった。

 「・・・問題は、艦爆と艦攻か」

 「艦爆と艦攻は、エンジンと電装品の規格さえ、合わせてもらえれば、機体で妥協するそうです」

 「ふん! 陸軍も海軍もロクなエンジンがないわ」

 「規格を合わせたおかげで品質だけは向上しているようです」

 「選択枝が陸軍規格が癪に障りますがね」

 「ハ109(鐘軌)。ハ104(飛龍)。ハ115(隼3型)。ハ112(5式)。ハ45(疾風)・・・」

 「工作機械で融通が利けば稼働率は良くなるだろうが・・・・」

 「まぁ 飛べばいいか」

 「ですが、せっかく育てた艦載機パイロットを陸上基地に取られると、面白くありませんね」

 「陸軍の横暴にも腹が立つが」

 「アメリカ軍もミッドウェーで空母がやられてから、姑息なことしかせん」

 「ビルマでも夜襲が多いようです」

 「それも気になるが・・・」

 「中国大陸で陸軍が後退しているようだが中国軍が強くなったのか?」

 「漢口は、3方から包囲されていたので、退くのはありかもしれませんが・・・」

 「戦力を持って行ってからのことですから」

 「陸軍の考えていることはわかりませんね」

 「んん・・・」

  

  

  


 月夜裏 野々香です。

 部品を作れない中国。

 ヘボな部品を少ししか作れない日本。

 上等な部品をたくさん作れるアメリカ。

 見ザル・言わザル・聞かザルが良いでしょうか。

 書かザルも、入れないと・・・・

 相手が中国軍でなく、アメリカ軍だったら、

 日本の中隊は全滅な気がします。

  

 某戦略PCゲームで、水平爆撃の対艦命中率は基本値6%

 夜間、さらに灯火管制したガダルカナル基地。

 高高度爆撃での命中率は、どの程度だろうか。

 

 ワスプは、厄日を切り抜けたようです。

 陸軍機主導で艦載機開発は、見通しが暗そうです。

 

戦記系で集めました。

         

 

         

  

 

   

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第03話 1942/08 『陸軍主導』

第04話 1942/09 『逃げるが・・・』

第05話 1942/10 『中国大返し』