月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

1949年、武昌(ウーチャン)、漢水(ハンショイ) 漢口(ハンコウ)、漢陽(ハンヤン)が統合。

武漢になりました。

  

第06話 『真空管ぐらい、まともに作れ』

 日本軍に重慶が占領された蒋介石は、成都に逃亡し孤立してしまう。

 国民党軍の主力は、中央から切り離され、揚子江の北と南で分断され、

 中国民衆によって中国軍は、バラバラに解体され消失していく。

 中国大陸は漢民族の数分の1の人口、

 百数十分の1に満たない異邦人によって統合、支配された歴史があった。

 これは、漢民族同士の内輪もめが原因でなければ起こりえない現象だった。

 異邦人に国が支配されても民族と国家の敵と戦うより、

 漢民族同士、中国人同士で財産を奪い合う。

 漢民族は、圧倒的な人口を誇り、

 民族存亡の心配の無い世界で唯一の民族と言えた。

 漢民族のみ許された利己主義ともいえる。

 そして、中国大陸を一時的に支配したモンゴル人は辺境に押しやられ、

 満州族は淘汰されていた。

 したたかで、交渉術に長けた中国商人は、日本軍高官と接触し、

 取引上の権限を拡大していく、

 日本軍も有力な中国人を間に置いた方が便利と・・・

 というより、それ以外の方法がなかった。

 

 フライングタイガーのパイロットが暴行を受けたあと捕虜として日本軍に引き渡される。

 「P40Cカーチスホーク78機か。これだけ敵機が並ぶと、壮観だな」

 「重慶から漢口に展開させたと思ったら中国大返しで、反撃を受けたというところですか」

 「整備中に中国人に裏切られて捕らわれるとはね」

 そこまでして権力側に付きたいか、で、日本軍をして呆れ果てさせる。

 アメリカ軍義勇パイロットは、中国の独立と主権を守るため派遣されていた。

 末路は、中国人の保身と立身出世のため使われ、かなり哀れといえる。

 「この国は危険ですよ。師団長」 びびる、参謀

 「ね、寝首をかかれそうだな・・・」 頷く、師団長

 大勢が決まってしまうと、あっさりとひっくり返ってしまう恐ろしさがあった。

 他者を平気で裏切れる者を信じるのは、危険、この上ない。

 

 

 

 11/8 米英軍のフランス領カサブランカ、オラン、アルジェへ上陸作戦

 

 

 朝鮮半島

 重慶制圧で朝鮮人が、はしゃぎ踊る。

 こちらも中国人に負けておらず日本人化が進んでいく。

 なぜかというと世界の一等民族として、中国大陸を支配できるからといえる。

 中国大陸の治安部隊を募集すると、

 募集人口を超えて急速に朝鮮人部隊が増えていく、

 どちらかというと治安を破壊しそうで怖い。

 台湾人が良いのだが中国側に付く可能性もある。

 朝鮮人の場合。味方は日本人だけで、日本贔屓で融通が利いた。

 「最低と最悪の組み合わせなのだから。それは、それで、いいような気もするが」

 傍若無人な陸軍の考えることは、それだった。

 『最愚だ。おまえ・・・』

 「・・・朝鮮人も漢民族も、腹の底では日本人を憎んでいる」

 「有利な状況で条約を結んで退き上げるべきでしょう」

 行け行けドンドンの軍国日本にあって、まだ正気を保っている日本人もいる。

 「条約を守らない国だからな・・・」

 「んん・・・でも大陸鉄道でシンガポールから釜山まで物資を運ぶし・・・」

 いつ完成するだろうか。

 「ていうか、日本で戦略物資が採掘できるなら、こんな馬鹿なことをするものか」

 ご都合主義的に鉄道を持ち出しても工期は進まない。

 中国も、そうなのだが、

 日本も、それなりの腐り具合を見せていた。

 中国に侵攻した軍隊が帰国すると、

 数十万将兵が昇級して上官に立ち。

 内線部隊の階級は下になる。

 帰還兵に昇給した給料を支払おうとするだけで国が傾きかねない状態でもあった。

 支払った給与を回収するために物価をげなければならず、

 物価を上げれば、賃金格差で生きていけない者が急増する。

 そのまま、中国大陸に居てもらおうか、と腹黒くなったりもする。

 日本は最大セクト組織に歪められ、

 国家予算は、浪費されていく運命にあった。

 どういった体制、制度であれ、下の者は、犠牲を強いられやすく、

 人生を踏み躙られやすい、

 そして、国と国の行く末すらも歪めて行く、

  

  

 ワシントン ホワイトハウス

 日本軍の重慶占領は、アメリカの戦争遂行に危機的な影響を与える。

 新聞にフライングタイガーのパイロットが中国人に虐待され、

 日本軍に引き渡された時の写真の載っていた。

 「日本軍の漢口への移動が早過ぎたのでしょう」

 「フライングタイガー部隊は、退避が間に合わなかったようです」

 「フライングタイガースが中国人に裏切られたのか」

 「ミッドウェー海戦の敗北を埋めようと大統領が国民軍に進軍を求めたのでは?」

 「ミッドウェー海戦では、日本の新型戦艦1隻を座礁させ、6隻を大破させている」

 「負けとは言えんよ」

 「どちらにしろ、フライングタイガーを裏切った中国人は信用できません」

 「アメリカ国民は、中国支援を渋るのでは?」

 「中国人による裏切りではく、日本軍の姦計という事にしておこう」

 「そういう事もあるでしょう・・・」

 「・・・先に日本を圧倒すべきだろうか」

 「日本が大陸資源で目処が付くと、ドイツより危険かもしれませんが・・・・」

 「いや、あと20年もすれば日本から工作機械が消えてしまうだろう。後回しで良くないかね」

 「ドイツ製工作機械は、50年持つそうですよ」

 「ドイツ製工作機械だけでは戦争にならないだろう。潤滑油とか、削り油とか」

 「ドイツは、資源の面で劣るようですが科学技術で補えるレベルです」

 「被害が増えると厭戦気運が強くなって、戦争遂行できなくなります」

 「対日作戦は空母を建造しないと」

 「現在、使える空母はサラトガ、ワスプのみ。これでは作戦になりません」

 「日本の空母は?」

 「大型空母4隻。中型空母4隻。ほか、小型空母3隻程度でしょうか」

 「侵攻が止まっているのが幸いだな」

 「燃料不足。人的枯渇で息切れしているのでしょう」

 「さらに疲弊させるべきだろうな」

 「損失比で分が悪くてもベテランが育つ前に消耗させれば、最終的に圧倒できる」

 「スターリングラードの戦況で判断してもいいのでは?」

 「確かに。それはいえるな」

 「しかし、日独揃って背後の敵を屈服させられたら、正面攻撃と側面攻撃しかなくなる」

 「それに日独がシベリア鉄道で連合した場合、さらに酷い状況になると思われます」

 「確かに・・・」

 

 

 

 

 日本の土木建設能力は低い。

 一度、破壊されると修復するのに日数を要する。

 B17爆撃機とB24爆撃機の夜間高高度爆撃は命中率の関係で非効率この上ない、

 とてもではないが無駄弾のない日本軍は真似ができない、

 そして、夜間の高高度で迎撃となると、隼、鍾馗、飛燕とも能力不足だった。

 鍾馗で夜間着陸などしたくないは正常なパイロットといえる。

 

 目を付けられたのは、100式司偵だった。

 機首に20mm2丁装備。

 しかし、100式司偵は、レーダーを持たず、

 夜間高高度から飛来するB17爆撃機やB24爆撃機を迎撃するのは困難だった。

 「・・・いいんだけどさぁ」

 「だよね」

 気休めにしかならなかった。

 

 整備員が落ちたライトニングの機体から部品を集める。

 エンジンの好不調は生死を分けた。

 パイロットたちは、配給されたタバコを整備士に渡し、

 優先的に自分の愛機に交換するように頼んだりする。

 エンジンがまともに動けば生き残る可能性も高くなる。

 国産部品でエンジンの不調。

 それで戦うこともなく墜落では、死んでも死に切れない。

 タバコで部品が優遇されるなら安かったりする。

 「・・・海軍の月光だったらどうだろう」

 「月光は生産停止」

 「双発機は、99式双発爆撃機、100式司偵、呑龍、1式陸攻に集中しているよ」

 「次期主力機は?」

 「さぁ 4式戦闘機の疾風。それと4式爆撃機の飛龍じゃないか」

 「高高度戦闘機も欲しいな。爆撃機を落とせるやつ」

 「開発中のキ74は、与圧も排気タービンも見込み立たずだよ」

 「海軍の工作機械を回しても足りないか」

 「中国で押し切って、資源の見込みが付きそうでも肝心の工業がヘボだとな」

 「ライトニングは10000m上空を楽に飛んでいるんだぞ」

 「工業力の遅れが酷すぎるよ」

 「それどころか、内地は品質が低下しているそうだ」

 「やれやれ、墜落した米軍機の部品が、一番、良いんだからな・・・・」

 「B17に突っ込むならP47サンダーボルトだね」

 「そりゃ・・・弾幕に突っ込んでも、大丈夫という感じの戦闘機だからな・・・」

 

 

 呉 海軍工廠

 海軍工廠の騒音が辺り一帯に響いていた。

 魚雷が命中した数は、

 長門2本、陸奥3本、伊勢5本、日向4本、扶桑3本、山城3本・・・

 しかし、爆発した魚雷は半分以下。

 伊勢や日向が帰還できたのも不発弾に救われたからといえる。

 大破した戦艦6隻は、損傷の小さい戦艦を優先的に修理改装することが決まっていた。

 修理改装を急がせるため同型艦の部品を使い、

 日向、山城とも装甲板が剥ぎ取られていく、

 戦艦派は空母と潜水艦の時代と骨身で叩き込まれ、

 躊躇しつつ戦艦の装甲板を減らして空母に改造していた。

 また、赤城と加賀も余計な兵装を減らし、空母としての機能を強化していた。

 赤レンガの住人たち

 「改装が立て込んでいるようだ」

 「はぁ 中小口径の大砲を取られてるし」

 「陸軍との取引だと、もう、しばらく我慢だな」

 「使い回しでは持たないよ。もうジリ貧だ」

 「重慶占領で大陸鉄道が軌道に乗れば大丈夫だろう」

 「資源を大陸鉄道で日本まで輸送できるのは、さらに先だよ」

 「それでも見込みはあるよ」

 「扶桑、山城、伊勢、日向を空母に改造したら残る戦艦は、武蔵と長門、陸奥の3隻だけになる」

 「どの道、扶桑・伊勢型では、アメリカの新型戦艦に勝てないか」

 「空母なら勝てるかもしれないと?」

 「艦載機パイロットもいないのに、なに考えているんだか」

 「戦艦では勝てない」

 「しかし、海軍だから軍艦で戦いたい」

 「その結果、空母へ改造だろう」

 「んん・・・・我が侭ばっかり言いやがって・・・・」

 「装甲板を減らしているから、速度を出せて戦ってくれるだろう」

 「簡単に沈められても困るがね」

 「防弾を省くだけだから、そんなに酷くないよ」

 「機動部隊より、基地を拡張して基地航空隊を配備する方が安上がりじゃないか」

 「少なくともパイロットはベテランでなくてもいいし、性格にこだわらなくても良い」

 「軍艦に乗っている将校は離着艦訓練を省いて、余計にパイロットを育てるとか考えもしないよ」

 「軍艦に乗っていると給与がいいからね」

 「しかし、航空戦は数を揃えないと」

 「艦隊の我が侭で航空戦力を削減される方は、たまらないよ」

 「それでも戦艦で戦う将校が減っただけでも御の字じゃないか」

 「問題は、アメリカ機動部隊が再建されたとき、どこから攻めてくるかだよ」

 「ミッドウェーは放って置かない、と思うがね」

 「あそこは駄目だよ。小さ過ぎて守れない」

 「ミクロネシアから、そのまま、西に向かって来るんじゃないか」

 「だけど、陸軍を休息させるだけの陸地がないよ」

 「じゃ ソロモンからニューギニアに抜けてフィリピンか」

 「大陸鉄道が完成すれば、何とか戦えそうだけど」

 「じゃ 途中からマリアナ諸島に北上して日本本土爆撃」

 「んん・・・木造家屋を燃やされるのは困るよ」

 「家から焼け出されそうだな」

 「どこで迎撃すべきか」

 「そりゃ 輸送力を考えるとマリアナからフィリピンのラインだろう」

 「大型飛行場でアメリカ機動部隊の航空戦力を圧倒できるかもしれないし」

 「フィリピンは、そうでもマリアナは島が小さくないか」

 「飛行場を広げて航空機をたくさん配備すれば何とかならないかな」

 「問題は海軍か、艦隊決戦好きで退かないから・・・・」

 「陸軍に学んで退けよな。戦略的後退は戦略の常識だぞ」

 「大陸利権のある陸軍と違うよ。海軍は余裕がないから退けないだろう」

 「退くと無能だと思われて怖いのさ」

 「貧しき者は、さらに貧しくなる。突撃して花と散る方がマシか」

 「そんなところだよ」

 「やれやれ」

 「そういう国民性だから・・・」

 「だけど、ガダルカナルで決戦なんて、やったら破産だぞ」

 「んん・・・あまり予算を注ぎ込めないし・・・どうしたものか・・・」

 

 

 陸軍工廠

 海軍の技術を流用してVH装甲の戦車を製造することはできた。

 海軍の高射砲 98式60口径76.2mm砲(初速900m)の装備も可能になった。

 開発中のディーゼルエンジンが240hpでは、大砲が大きいばかりの鈍重な戦車になってしまう。

 その後に開発するディーゼルエンジンは400hpだった。

 そして、最大の問題は、道路事情と輸送で17トン以下制限があった。

 なにより中国の治安維持に必要なのは95式軽戦車だった。

 「・・・駄目だね」

 「んん・・・ディーゼルエンジンを2基装備しないと話しにならない」

 「やはり、陸軍でも重くなると運用で駄目だろう」

 「装甲無しで自走砲だな。速くなる。後方からの火力支援で生き残りやすい」

 「76mm砲で火力支援は、寂しいな」

 「だよな・・・」

 「口径を減らすか。アメリカのM4。ソ連のT34。ドイツの4号の傾向から、最低50口径くらい?」

 「んん・・・それでもエンジンの出力で厳しい・・」

 「40口径では・・・駄目だな・・・」

 「陸軍の技術は、駄目駄目だよ」

 「戦車を造る意味があるかどうか」

 「だけど97式戦車で戦えなんて、死ねと言ってるのと同じだよ」

 「砲と装甲は何とかなっても。まともなエンジンを開発できないと戦車は無理だな」

 「だけど、アメリカ軍が戦車を先頭に攻め込んできたら、お手上げらしいよ」

 「海軍の76mm砲は?」

 「このままだとトーチカに固定させることになるよ」

 「戦車がないと一点突破で戦線が無力化される」

 「やはり、機動防御がいるな」

 「もっと安く上がる戦線で防衛線を構築しないと」

 「ビルマ戦線では堀を作っているよ」

 「堀?」

 「戦車が堀を降りるときに上面を見せるから、そこを撃つんだ」

 「中国に戦力を持っていかれて頭を使い始めたな」

 「良い傾向だね」

 「貧乏国がスペックで虚勢を張るとろくなことがない」

 「事実であれば救いもあるがね」

 「負けているのを勝っていると言って、それに頼るようでは軍人とはいえん。救いようがないよ」

 「だけど、国民の高揚にはいいよ」

 「安直な国民高揚で国を滅ぼされてはかなわないよ」

 「デタラメな基礎情報を捏造して国民を騙すのも考え物だよ」

 「正確な数値は知らなくても、国民はだいたい知っていると思うよ」

 「騙された振りをしているんだよ。処世術でね」

 「じゃ 大衆が権勢に迎合してか・・・」

 「日本が滅んだとしても、それは、自業自得だな」

 

 

 スターリングラードでソ連軍が反撃、包囲作戦が成功していく。

 

 

 呉

 第一機動部隊 (山口多聞)

 瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍

 利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海

 長良、駆逐艦16隻

 この時期、世界最強の機動部隊は、整備と改装で身動きとれずの状態だった。

 何しろ、艦載機パイロット不在では機動部隊とはいえない。

 「・・・中国戦線は、終わったのだろう」

 「まだ、混乱していて、収束していないようです」

 「教官パイロットを引き揚げられただけでも良いか」

 「ですが引き続き、パイロットの養成です」

 「戦艦派が後退して海軍も少しはマシになったようだ」

 「ミッドウェー海戦最大の功績だな」

 「陸軍主導の航空戦力は、機体整備も調整が必要になりそうで問題ありですがね」

 「規格と仕様さえ合わせれば融通は利く、結局、規格を合わせても海軍は必要だからね」

 「隼への転換訓練は?」

 「進んでいますが、12.7mm2丁では・・・」

 「3型は12.7mm4丁か、7.7mm6丁か・・・空母を守ろうと思えば12.7mm4丁だな」

 「重量が増すと着艦で不利ですが」

 「仕方がないよ。できるだけゼロ戦を集めて運用しながら隼に切り替えるしかないね」

 「・・・・・・」

 「少なくとも数だけは揃えられるし、陸軍からパイロットを借用しやすい」

 「航法を知らなくても艦隊防空くらいならできるよ」

 「マイナスではないと?」

 「マイナス4。プラス6くらいだろう。損益収支でプラス2なら損はないよ」

 戦果の拡大よりパイロットの養成が急務だった。

 アメリカ機動部隊も輸送業務で戦線に投入されていない。

 日米とも主戦力を投入できないのは、

 第一次世界大戦で航空機、潜水艦、戦車の戦闘力の高さは注目されも、

 陸海軍の既得権と利権構造が障害となって、産業規模を大きくできなかったことにあった。

 真珠湾で戦艦が撃破され、

 マレー沖でイギリス戦艦2隻が撃沈され、

 戦艦最強という神話が崩れ、

 戦艦を抱えても運用が制限され、

 運用が制限された時点で最強でなく、主力艦ともいえないのであるが、

 戦艦を中心とした産業と人的圧力は巨大であり、

 戦艦最強の思い込みは、航空機によって戦艦大和が撃破され、

 潜水艦の雷撃で戦艦6隻が大破させられ、

 主要な戦艦と将兵が失われるまで続く、

 そして、航空産業の比率は、簡単に変わらなかった。

 

 

 日本海軍は中国戦線へ参戦し、

 旧式艦、砲艦、商船を投入し、多くを喪失した。

 対価は重慶陥落、

 蒋介石は落ち延びた成都で孤立し、

 国民党主力軍は揚子江で南北に分断されていた。

 平野部の国民軍は中国民衆の反乱と日本軍の大攻勢を受けて壊滅し、

 中国戦線は崩壊してしまう。

 中国民衆は、競って日本軍に寝返り、

 中国権力体制を再構築していく、

 

 汪兆銘(おうちょうめい)政権の南京政府は、面従腹背政権であり、

 蒋介石政権と内通してさえいた。

 汪兆銘の中国軍は日本軍に協力することもなく中立的でさえあった。

 もちろん、日本側も知っている。

 3者とも利敵行為を知っても敵対勢力を利用、利権を確保していく、

 大陸権益は、それだけ複雑で歪だった。

 大陸鉄道の管理運営を日本が行う。

 しかし、支線。

 それ以外の副収入を南京政府に分配しなければ中国利権は維持できなかった。

 軍事力で日本が強くても、民衆は圧倒的に漢民族が多い。

 彼らの協力無しで中国は安定させられない。

 そこに台湾人と朝鮮人が中間管理職で入り込み、さらに複雑な様相をみせていた。

 日本は、苦労して血を流した割りに利権が目減りし、

 汪兆銘も、蒋介石の国民党軍を取引材料にできなくなり妥協させられていた。

 そして、中国民衆が納得できなくても、日本軍上層部が、むくれても、

 妥協しながら妥当な権益線が作られていく。

 

 南京の迎賓館

 「・・・取り合えず。大陸搾取鉄道は確保できたね」

 「搾取鉄道は、やめようよ」

 「事実だし」

 「そうだけど」

 「人間って、被害者の方が顔を上げて生きられるんだよ。きっと」

 「とりあえず。予算を確保すれば釜山まで陸路で戦略物資を輸送できる」

 「国民党軍の職の斡旋は?」

 「上層部だけはね。汪兆銘に予算を分けたから向こうでやるだろう」

 「中核になる人間を崩せば何とかなる」

 「それで妥協して欲しいね。血を流すのは、もうたくさんだ」

 「中国人は日本人の善意に付け込んで来る」

 「やさしいと日本の利権が目減りするよ」

 「わかっているよ」

 「戦略物資の件がなければ大陸に関わりあいたくないな」

 「いえてる」

 「問答無用で全てを搾取しているイギリスやフランスが羨ましい」

 「白人は神。黄色人種と黒人に人権はないから」

 「というより、有色人種は人権さえ認められていない。サルと同じに思われているよ」

 「むかぁ〜 その常識。それだけは、ひっくり返してやる」

 「真珠湾攻撃をやりたがった動機も、それかな・・・・」

 「目の前にバナナをぶら下げて」

 「こっちの心理を読まれている時点でサル扱いされて当然だよ」

 「・・・・やろう。こっちも、引っ掛けてやる」

 「サル知恵で勝てるかな」

 「むきぃ〜!」

   

  

   

 陸軍主導で微妙にプラスになったのはレーダーだった。

 海軍のレーダ技術は、そのまま陸軍に移されて規格が統合される。

 さらに開発調整が進んで陸海軍に配備され、

 二歩後退、三歩前進で良い所取りで開発が進んでいく、

 それでも捕獲したレーダーが一番優れていた。

 大和(ミッドウェー)島

 数人の将校が批判がましく真空管を日に当てて不良個所を探す。

 「んん・・真空管ぐらい。まともな物を作れ」

 「規格調整中の出来損ないが回ってきたか」

 「スカスカの手工業国家が大量生産できるアメリカと戦争するなよな・・・・」

 「んん・・・総特注部品で装置を組み立てなければならんとは・・・」

 「パズルやってんじゃねぇぞ〜」

 「こんな無駄な時間を使わせやがって」

 「内地から熟練工を引き抜き過ぎたんだよ」

 「中国戦線が目処が付いたから、少しは熟練工が戻ってくるだろう」

 「鉄道を建設するんじゃないか。一駅に何人配置するか、にもよるな」

 「・・・駄目じゃん」

 真空管が箱に捨てられる

 

 

 


 月夜裏 野々香です。

 何を書いているかというと

 “情けは人の為ならず。欲深いのも、醜いのも、程々にしなさいよ”

 というところでしょうか。

 

 史実

 07/01 関門鉄道トンネル開業。貨物列車に限り運転。

 11/15 関門鉄道トンネルの旅客営業開始。ダイヤ改正も同時実施。

 太平洋戦争中に関門海峡トンネル開通。

 仮想戦記 『青白き炎のままに』 でも同じです。

 本土の物資が九州へ行くのは、利便性が良く。戦略的に効果が高いようです。

 因みに朝鮮半島からシンガポール・ビルマまで鉄道をつなぐと、どうなるか・・・・

 某ゲームで、これをやると、あら不思議。

 いや、不思議じゃないけど。

 潜水艦による損失は、大きく減っていきます。

 鉄道輸送をどういう計算にしているのでしょうか。

 鉄道は、まだ連結されていませんが、いずれは、という感じです。

 とりあえず。少ない輸送船を島礁維持に流用できるかもです。

 

 

  さようなら、月光。君のことは忘れないよ〜

 

 

 日本とアメリカのレーダー

 

対水上/対空

範囲

出力

周波数

波長

備考

二号一型 対空 100km 5kW 200MHz 150cm  
二号二型 対水上・射撃 35.1km 2kW 2.5GHz 10cm  
一号三型 対空 100km 10kW 150MHz 200cm  
SK 対水上・対空 277.8km 330kW 200MHz   大・中型艦
SC 対水上・対空 277.8km 330kW 200MHz   小型艦
SD 対水上・対空 37km 140kW 114MHz   潜水艦
SG 対水上・射撃 37km 50kW   3cm  
Mk3 対水上・射撃 37km 20kW   40cm  
Mk8 対水上・射撃 37km 20kW   10cm  
Mk13 対水上・射撃 37km 50kW   3cm  

 水上は、水平線までですが、対空用レーダーは、出力の違いが、索敵範囲の差でしょうか。

 単純な計算

 日本艦隊が100km先の敵機をレーダーで発見。

 アメリカ爆撃隊が時速300kmで向かって来るとしたら、20分程度で捕捉される。

 アメリカ艦隊が277km先の敵機をレーダーで発見。

 日本爆撃隊が時速300kmで向かって来るとしたら、55分程度で捕捉される。

 アメリカの方が多数の迎撃機を出撃させ。迎撃機は高度も確保。

 状況しだいですが、有利に防空準備ができると思われます。

 メクラで戦うのは危険です。

 

 

 史実は、陸軍と海軍が我を張りながら、

 後ろめたく頬を青白くしながら “さらば、統べる” だったようです

 この仮想戦記では、一時的にですが、陸軍側へと大きく天秤が傾いてしまいました。

 ひがんだ海軍が怒って天秤を陸軍側にひっくり返します。

 中国戦線は、混乱しながら陸軍の手を離れていくか、どうか・・・・

 まだ、終わらせるもんかと、ダダをコネながら引き伸ばすか・・・・

 

 

 

   

   

ランキングです ↓ よろしくです。

NEWVEL     HONなび

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第05話 1942/10 『中国大返し』

第06話 1942/11 『真空管ぐらい、まともに作れ』

第07話 1942/12 『気持ちだけ、入れたある』