月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

第12話 1943/05 『キスカ沖海戦』

 とある航空基地

 機体を一週間で製造できても

 それだけでは航空戦力となり得なかった。

 パイロットは最低でも訓練期間6ヶ月が必要だった。

 パイロットと整備士を教育し、

 輸送部隊と設営隊が飛行場を建設し、機体を運搬、

 各戦線に振り分ける計画性、管理能力、運営能力のスキル、

 人間同士の組織力を含めた総合力が問われる。

 パイロットは経験を積んで初めてモノになり、

 その上、実戦経験も積まなければならない。

 基地運営部隊を前進させ燃料や消耗品と合わせて初めて航空戦力となった。

 基地航空戦を行えるのは、列強である証拠と言えた。

 エスピリットサント航空基地

 アメリカ航空部隊

 「補給は?」

 「アンカレッジに回された」

 「おいおい」

 

 

 ベーリング海 キスカ沖

 リー艦隊

 戦艦サウスダコタ、ワシントン。

 重巡ソルト・レーク・シティ。

 軽巡ローリー。デトロイト。リッチモンド。コンコード。トレントン。メンフィス。

 駆逐艦プレストン。ブルー。ヘンリー。グウィン。メレディス。ド・ヘイヴン。

 アメリカ戦艦部隊は、防潜網、捕獲網に囲まれた状態で漂っていた。

 当初、スクリューが動いた駆逐艦が退避、脱出しようと、

 さらにスクリューに防潜網が絡まる。

 アメリカの水兵が比較的自由に動ける手漕ぎボートを出し、

 防潜網を切っていく、

 濃霧か、時化が来ると撤収、身動きが取れなくなる。

 日本漁船は、ちょこまかと動き回って、リー艦隊の周囲に防潜網を張っていく。

 5月になると晴れ間が増えた。

 時折、日本の水上機が爆弾を落とし、防潜網切断を妨害する。

 駆逐艦ブルー 艦橋

 交代要員の少ない駆逐艦の防潜網切断は進まない。

 「ウナラスカ島の航空基地が日本艦隊の艦砲射撃で破壊されたそうだ」

 「この艦隊は無視か」

 「これでアダックに続いてウナラスカ島からの空輸も駄目になったわけだ」

 「艦隊の水と食料が尽きるな」

 「日本海軍め、いったい、どのくらいの防潜網を張っているんだ」

 「誘導されたとはいえ。信じられない量だ」

 「日本の工作機械で作れるとしたら」

 「精度を気にしなくていい防潜網くらいなのかもしれないな」

 「だからといって水上艦に防潜網を使うなど、非常識過ぎる」

 「日本海軍が攻撃をかけて来ないのも妙です」

 「いや、妙ではない。我々は、餌だよ」

 「この艦隊を救いにきた味方の艦隊を攻撃しようと考えているだけだ」

 「・・・・なんて、いやな野郎だ」

 「アメリカは、お金持ちだ」

 「貧乏国の考えるような戦術は理解できんよ」

 「くっそぉ〜 忌々しい。防潜網は?」

 「まだ、スクリューに完全に絡まっています」

 「仮に切断したとしてもギアがいかれて、シャフトも折れています」

 「帰還は騙し騙しになるかと」

 「問題は水と食料だな」

 「厳しいですね」

 「空輸しようにもアダック基地とウナラスカ島は戦艦の砲撃で破壊されている」

 「コジャック島からキスカまでの空輸では、遠過ぎて天候が悪化すれば機体を失う」

 「天候が良くなろうとしているときに・・・」

 「だからウナラスカ島の航空基地も砲撃したのだろうな」

 「エセックスとインディペンデンスは、ハワイでサラトガと合流したのだろう」

 「ノースカロライナとインディアナ、マサチューセッツもだ」

 「それだけあれば救援に来れるのではないか」

 「来れるさ」

 「掃海艇が防潜網を片付けて、我々の艦隊を曳航するまで日数がかかる」

 「日本の第一機動部隊は横須賀で休息しながら待機中か」

 「アメリカ機動部隊がベーリング海で疲れるのを待って出かけるのはいい手だよ」

 「味方機動部隊が先にミッドウェーを攻撃すればいいのでは?」

 「キスカと同じようにミッドウェーに防潜網が張られていても不思議じゃないね」

 「そんな、この広い海、防潜網を仕掛けたとしても当たるとは限りませんよ」

 「だが我がリー艦隊は誘導されたとはいえ、こうして、捕らえられている」

 「ミッドウェー海域に防潜網が仕掛けられている可能性だけで十分、抑止になりますね」

 「防戦網は機雷と違って致命傷は与えられない」

 「しかし、機雷源より広い海域で艦隊の動きを牽制できる」

 「このまま、リー艦隊は日本に降伏ということに・・・・」

 「その時は、世界一、間抜けな艦隊として自沈させるだろうな」

 「問題は捕獲にしようにも日本艦隊も近付けないほど防潜網が張られている事でしょうか」

 「しかし、ボートで逃げ出そうとしても、この海だ」

 「少しでも時化る転覆を覚悟せねばならんし、落ちたら助からないな」

 「べ、別の意味で、き、厳しいですね」

 「これだけの防潜網を掃海するだけでも一苦労だよ」

 「日本の漁船に自沈させられるなんて・・・・」

 「日本海軍に軍艦に対する尊厳とデリカシーがないのは確かだね」

 

 

 ハワイ沖

 空母(サラトガ、エセックス、ワスプ、インディペンデンス)

 戦艦(ノースカロライナ、インディアナ、マサチューセッツ)

 重巡4隻、軽巡6隻、駆逐艦15隻

 堂々とした機動部隊が編成されていた。

 戦力的に日本第一機動部隊と十分に戦える。

 惜しむらくは艦隊運動など完熟訓練が遅れていること、

 空母に合わせて護衛艦が動くという単純な規則で誤魔化していた。

 リー艦隊救出の遅れは、エセックス、インディペンデンスとの合流待ちだけではなかった。

 F4FワイルドキャットからF6Fヘルキャットへの転換時期と重なってしまった事も挙げられる。

 一方、日本第一機動部隊は隼Vへの転換訓練こそ終わらせていたものの、

 艦載機パイロットの質で苦しんでいた。

 訓練したそばからパイロットを引き抜かれては話しにならない、

 かといって、基地航空戦で日本航空部隊が米英航空部隊と互角なのも数だった。

 そして、アメリカ海軍は日本の苦しい台所事情を疑いリー艦隊救出に躊躇する。

 空母サラトガ 艦橋

 「おのれ〜 日本海軍め。リー艦隊を餌にしやがって・・・」

 「アメリカ機動部隊をハワイの制空圏の外に誘き出して攻撃するつもりなのでしょう」

 「ハワイの制空圏を守っているのもアメリカ機動部隊では?」

 「ガダルカナル、ラバウル、ビルマ戦線とも航空戦で苦戦している」

 「ホワイトハウスは、これ以上、パイロットと機体をハワイ防衛に振り分けられないと」

 「確かに日本機動部隊の強襲を受けると、ハワイは対応できないかもしれない・・・」

 「パイロットの練度は、これからですからね」

 「素人ばかりのパイロットでハワイが守れるか」

 「・・・噂では、日本機動部隊も、パイロットと機体の調整が付かないとか」

 「どこの情報だ」

 「中国側です」

 「日中同盟を結んでいる敵だ。信用できん」

 「しかし、日本機動部隊の動きがないのも事実。信憑性があります」

 「確かに日本海軍は、戦艦と防潜網。潜水艦の通商破壊だけで戦っているようにも見える」

 「しかし、戦力を温存しているのかもしれない」

 「こっちは、各戦線に振り分けられてハワイの兵站も減らされている」

 「・・・・もう少しハワイの民間人を減らして兵站を確保した方が良いかもしれません」

 「そうだな」

 「・・・ハルゼー提督。ハワイ司令部から出撃命令です」

 「そうか」

 

 

 房総沖

 艦載機が北東へ向かう第一機動部隊に追い付き、空母に着艦していく、

 「山口提督。新しい編成表です」

 「・・・即席の航空部隊の編成か。組織的に問題ありだな」

 「陸に上がって久しいので船に酔わなければ良いのですが」

 「とにかく、教官と一番できの良いパイロットを呼び寄せて、艦隊航空隊を編成しなければならない」

 「赤城と加賀は、艤装が間に合いませんでしたね」

 「あそこまで徹底した改装など必要ないのだ」

 「陸軍は、航空部隊の陸上配置に前向きでしたからね」

 「・・・タイミングからすると情報が漏れているのだろうか」

 「リー艦隊救出というタイミングではギリギリかと」

 「陸軍は約束を守ってくれるのかな」

 「陸軍は約束どおり派遣するとのことです」

 「着艦はできるのか」

 「開戦前からのベテランですから、艦隊防空だけなら」

 「海軍仕様が違うことは知っているのだろうな」

 「搭乗したことがあるそうです」

 「そうか・・・・たぶん、4対4になるだろう」

 「瑞鳳、龍驤も、出られるはずです」

 「数を揃えて防空くらいにしか役に立ちそうにないな」

 「足しにはなるかと」

 「小沢さんに小型空母で無理をさせたくない」

 「問題は天候だな」

 「機動部隊を出したわ、時化で艦載機が飛べないわ、では無駄だからな」

 「その時は、武蔵で・・・」

 「それも、燃料しだいだがね。頼りになればいいが・・・」

 「武蔵は頼りになると思いますよ」

 「ミッドウェーが攻撃されたのは一度きり」

 「それも水平線の向こう側から座標計測による、めくら撃ちですから」

 「だが、空母4隻が揃えばミッドウェーが航空攻撃を受けるかもしれないな」

 「ミッドウェー島は、海燕を優先的に配備していますし防空は強力です」

 「レーダーも捕獲した舶来物で、一番良いやつですから」

 「大和のおかげでミッドウェー防衛は悪くないということか」

 「時間稼ぎにはなりました」

 「では、もっと時間を稼いでもらいたいな」

 「第三機動部隊も動かせればいいのですが」

 「シンガポールで艦載機パイロット養成中か」

 「間に合わないし、陽動作戦もできないだろうな」

 「基地にパイロットを取られ過ぎです」

 「陸軍主導だからな」

 「連中はパイロットと艦載機があれば空母パイロットで運用できると思っている」

 「航法も知らない陸軍は呆れますがね」

 「最近は訓練に航法も組み込み始めたようだが戦闘機乗りは怪しいな」

 「空母とパイロットを固定させないのは、融通が利くのでしょうが・・・」

 「人材が足りているときには融通が利くが、人材が足りないときは教官から引き抜くんだぞ」

 「とりあえず。定数だけは揃えられそうです」

 「昔と違って精鋭でもないし、阿吽の呼吸もない」

 「無線は、それなりに使えるそうです」

 「・・・提督。全機着艦しました」

 「まぁ 何とかなるだろう」

 

 

 成都からDC3輸送機が離陸する。

 乗っているのは中国人でアメリカ留学生だった。

 中国の技術を強化することで、相対的に日中の力関係を崩す気の長い戦略だった。

 彼らは、惜しくない素性で、中国大陸のキリスト教伝道所のお墨付き。

 そして、比較的優秀な者が選ばれる。

 アメリカで学んだ彼らが中国に帰還するかは不明だった。

 中国に失望し、愛想を着かしてアメリカに居ついてしまう可能性も高い。

 例え中国に帰国しても古い体質では、成功するか怪しい、

 これは、確率論でもある。

 優秀な人間が実地で成功するかは、確率が高いだけで保障ではない、

 ライト兄弟が熱情で飛行機を飛ばした後、航空力学が発達したのであり、

 航空力学が発達したからライト兄弟が飛行機を飛ばしたわけではない、

 とはいえ、航空力学を学んでいない人間が

 近代的な飛行機を設計できるわけがなかった。

 留学生の多くは香港出身と租界地出身が多く、

 英語がある程度わかる青年たちだった。

 蒋介石の国民党、毛沢東の共産党は中国奥地に追い込まれた状態にあった。

 汪兆銘政権は正式に中国正統政府となり、

 地方軍閥を取り込むと立場が強くなっていく、

 そして、日本の傀儡から完全に独立する為に相応の力が必要であり、

 目的を達成するまで人的資源を育てるため留学生を送り続ける。

 中国南京政府は、日本に対し隠し弾を持たなければと切実であり、

 中華思想でふんぞり返るような余裕はなかった。

 汪兆銘自身、狙撃され、

 健康不良な状態で対日交渉は苦戦している。

 後任の陳公博も指導力が弱く、

 梁鴻志と王克敏も結束力が弱く、立場が強いわけではない。

 それでも、中国は5億の民を抑えるため強い政府が必要だった。

 日本も中国統一後、中国人の協力を得る為、手綱を緩めていく、

 DC3が離陸した後、馬に乗った少女が空港にやってくる。

 「・・・間に合わなかったの?」

 「どうした?」

 飛行場の国民軍将校が近付いてくる。

 「日本機動部隊が出撃したわ。場所はキスカよ」

 「そうか・・・残念だったな」

 DC3は、ヒマラヤ越えのため、高度を上げていく。

 「無線で伝えられる?」

 「この基地は、まだ信用されていない」

 「暗号通信は無理だ」

 「そう・・・」

 

 

 サウスダコタ 艦橋

 「来たぞ」 リー提督

 知らず知らずのうちに笑いが込み上げてくる。

 水平線の向こうから、サウスダコタの同型艦とわかるマストが現れ。

 次第に近付いて来る。

 艦橋で起こった歓声は次第に艦橋から下に伝わっていく、

 最下層の機関室まで伝わるのに5分もかからない、

 水兵らは思い思いに持ち場で背伸びをし、

 来航する救援艦隊を見守った。

 食料と水を切り詰め、生鮮食品は釣った魚ばかり、

 これだけ寒い場所だと洗濯物も乾きが悪く、日用品も底を付く。

 リー艦隊に向けてドーゼイ級高速掃海艇が突き進んでいく、

 1190トン級掃海艇は第一次世界大戦で量産した4本煙突型駆逐艦を

 掃海艇に改造したものだった。

 1000トンを越えた時点で艇というより艦で、

 掃海専用機材を積んでいることから掃海作業は速かった。

 アメリカ海軍は潰しの利く艦艇を多く保有し、羨ましがられる。

 アメリカ戦艦部隊(ノースカロライナ、インディアナ、マサチューセッツ)がいる為。

 日本漁船は逃げ去っていた。

 “このままで済むはずがない”

 “絶対に攻撃してくるはずだ”

 誰もが思いながら作業は進む。

 

 

 空母サラトガ 艦橋

 「天候は?」

 「いまのところは、大丈夫です」

 「そうか、日本機動部隊は来るだろうな」

 「来るでしょう。まさか武士の情けなど、かけないと思いますが」

 「潜水艦の配置は?」

 「日本機動部隊が来れば哨戒線で引っ掛かるはずです」

 「・・・・それも天候しだいだ」

 霧、雨にでもなれば、潜水艦による発見率は下がる。

 艦橋の低い潜水艦が船を発見するのは条件が厳しかった。

 

 

 キスカ

 キスカの火山で標高1221mの山があった。

 登っていくと天候さえ良ければアメリカ艦隊が見えたりする。

 もっとも、この時期は霧が多くて無駄骨の方が多い。

 それでも運が良いと晴れ間に当たって100kmくらい先が見える。

 陸軍の偵察隊は竪穴から布団を被り寝転がった状態で双眼鏡で覗き込む。

 ふもとの基地まで有線が繋がって通信が行われる。

 ミッドウェー海戦以降、日本軍は有線が増え、

 アメリカ軍の受信情報が減少していた。

 「ぅぅ・・・さむぃ」

 「火山なんだから、もう少し、暖かくても良いのに」

 「噴火、起こしたりしないよな」

 「それは、運しだい。賭けるなら、まだ噴火しない方に賭けるけど」

 「輸送船が来て、ようやく、飛行場が建設されるけど、スコップとツルハシじゃな・・・・」

 コマツのブルドーザーG40小松一型均土機が一両だけあった。

 しかし、1週間で凍土に負けて壊れる。

 「漁船の漁獲も当てにならないからな」

 「防潜網だけでなく、魚網まで使ったそうだぞ、漁民も商売上がったりだろう」

 「魚網は作るとか言ってたが、どこまで本当やら」

 「でも魚網じゃ役に立たないだろう」

 「防潜網も一緒にスクリューに巻き込んだら別だろう」

 「・・・・確かに止まっているからな」

 「アメリカ艦隊が助けてきているのに、この島には攻撃しないのかな」

 「さぁ この島を砲撃したら艦隊が攻撃されると思って、怖がっているんだよ」

 「だけど、良いよな。助けに来るなんて」

 「日本軍だったら見捨てられそうだな」

 「うんうん。お国の為にとか言って」

 「ありうるね」

 「・・・・でも、海軍は攻撃しないのかな」

 「あの辺、防潜網が張ってるから、危なくて近付けないらしいよ」

 「目印付けているだろう」

 「そりゃ、目印付けているだろうけどね」

 「あれだけ切られたら浮遊して流れていくだろうね」

 「どっちに」

 「海流だとアメリカ大陸側かな」

 「そりゃ 良い気味だけど、戦艦で砲撃したらいいのに・・・」

 「霧だとレーダーがあるアメリカ戦艦が有利」

 「魚雷も防潜網があるから期待できない」

 「空襲は天候不良で無駄骨」

 「やれやれ」

 「・・・げっ! また、霧だよ」

 「最大の敵は荒海と一寸先も見えない霧かな」

 濃霧になると、掃海作業も不可能になっていく。

 

 

 海戦に運不運は付き物で、

 ちょっとしたことで一方的な攻撃か守勢になってしまう。

 リー艦隊を曳航するアメリカ戦艦部隊と護衛するアメリカ機動部隊は不利だった。

 戦略的な劣勢は最初からなのだから、戦力で互角でも不利に違いない。

 そして、天候は、一方に味方し、一方を見限ってしまう。

 アメリカ戦艦部隊は曳航するリー艦隊を日本と反対のアメリカ大陸。

 シアトルに向ける。

 本当は、サンティアゴが良いのだが直ぐに休養をとらせるべき、が人情だった。

 少なくともハワイに向かうより安全だった。

 そして、アメリカ機動部隊も、近付かず離れずの距離を航行する。

 とはいえ、これが難しい。

 近過ぎると見つかりやすく、遠すぎると護衛にならない。

 そして、曳航する側・曳航される側も霧の中を低速航行で移動する事を望み、

 機動部隊は艦隊戦に向かず、

 日本巡洋艦隊と出会い頭にぶつかる事を恐れ、

 霧の中にいる事を望まない。

 両者の最大公約数的な位置は、日本潜水艦が哨戒についていた。

 伊号がアメリカ機動部隊を発見して無線を打ち、

 そして、霧を逃れようと南下した日本機動部隊に通信が届いた。

 アメリカ軍の偵察機は、日本機動部隊の上空を通過したものの、

 運の悪い事に霧で発見できず。

 そして、アメリカ機動部隊上空に日本の水上偵察機が到達したとき。

 アメリカ機動部隊の上空は快晴で、少しばかり時化気味だった。

 瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍から隼V型80機、99艦爆80機が発艦し、

 瑞鳳、龍驤から隼V型18機、97艦攻18機が発艦する。

 アメリカ機動部隊は、迎撃機を出撃させようとするが、

 軽空母のインディペンデンスは時化で発艦できず。

 サラトガ、エセックス、ワスプから

 F6Fヘルキャット35機、F4Fワイルドキャット64機が出撃する。

 運が悪いことに転換訓練の途上でヘルキャットは少数派だった。

 日本機動部隊は、第一波で敵戦闘機掃討と

 飛行甲板を叩くべく編成されたものだった。

 戦闘機同士は、ほぼ同数。

 機体性能は隼V型に軍配が上がる。

 航空無線の通じる隼V型は、連携して空中戦を展開した。

 12.7mm機銃と7.7mm機銃は破壊力が弱く、

 対するはグラマン鉄工所と呼ばれるワイルドキャットとヘルキャットで、

 落とすのは困難だった。

 それでも隼V型の決死の援護で、

 99艦爆部隊の侵入路を確保することができた。

 99艦爆は、時化で遅れ気味のワスプとインディペンデンスに狙いを定めて襲い掛かった。

 元々、250kg爆弾で大型艦を撃沈するには無理があると、

 標的をワスプとインディペンデンスに絞っていた。

 そして、回避運動を取るワスプに250kg爆弾10発、

 インディペンデンスに250kg爆弾12発を命中させ、

 さらに魚雷を1本ずつ命中させ、大破炎上させる。

 

 

 第一機動部隊

 瑞鶴 艦橋

 「ワスプとインディペンデンス撃沈か・・・」

 「おめでとうございます。山口提督」

 「残る敵空母はサラトガとエセックス空母です」

 「第二派を出そう」

 瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍から発艦する隼V型28機、97艦攻52機。

 第一波で敵戦闘機に損害を与えているはずなので隼V型は、少なめ。

 問題は、52機の艦攻といえる。

 大型空母2隻を撃沈するには少ない。

 確実に仕留めるのであれば、1隻に目標を絞るべきだった。

 そして、サラトガ撃沈を命じ、

 瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍から

 第二波、隼V型28機、97艦攻52機が出撃していく、

 「・・・小沢提督にも敵空母を残すべきだろうな」

 「龍驤と瑞鳳の戦果だけでは納得いかないでしょうね」

 「そうだろうな」

 飛行甲板から最後の隼V型と97式艦攻が飛び立っていく、

 そして、アメリカ機動部隊からもサラトガとエセックスの攻撃部隊が出撃していた。

 F6Fヘルキャット35機、ヘルダイバー40機、アベンジャー20機が

 日本機動部隊上空に到達。

 迎撃の戦闘機は隼V型50機で、陸軍パイロットだった。

 船酔い明けながらも防空で縦横無尽の大活躍して見せた。

 隼Vの12.7mmと7.7mmの機銃弾がヘルダイバーとアベンジャーを穴だらけにしていく、

 爆撃機ヘルダイバーと雷撃機アベンジャーが隼V型を振り切り、

 日本機動部隊の弾幕に突入した。

 そして、爆撃コースと雷撃コースに進入してくる。

 しかし、そこまでだった。

 隼V型の機銃掃射の破損が激しく、

 煙を吐き、速度は落ちていた。

 対空砲の炸裂弾と25mm機関砲でズタズタにされていく、

 狙われた瑞鶴と翔鶴は、面舵と取舵で爆弾と魚雷を回避し、

 最後の魚雷が瑞鶴の右舷を通過していく、

 損害は、機銃掃射を受けた程度であり、ほとんどなかった。

 

 日本機動部隊は、アメリカ軍機の空襲を凌ぐと、

 第一波の艦載機群が艦尾方向から大きく回り込み、着艦してくる。

 「山口提督、思ったより、損傷機が多いようです」

 「予備機の組み立ては?」

 「進んでいます」

 予備機を修復機の補修部品で使うのも、

 新機で組み立てて出すのも戦況次第だった。

 「それを合わせても、第三波は、第一波、第二波合同になりそうだな」

 「直衛戦闘機の補給も交替で行わねば・・・」

 第二波の戦果報告が次々と届き、艦橋の将兵を沸かせる。

 「山口提督」

 「サラトガは撃沈するだろう」

 日本機動部隊の第二派は、魚雷6本をサラトガに命中させて撃沈してしまう。

 『サラトガ炎上して停止。アメリカ空母は、エセックスのみ、逃走中』

 と無線が入る。

 「・・・山口提督。第三波は、隼V型20機、99艦爆30機、97艦攻26機です」

 「・・・・第一波、第二波、予備機を合わせた再出撃が、その程度か。随分と損傷したな」

 「アメリカ海軍の対空砲火は、ミッドウェーの頃より増しているようです」

 「では、多少の損失は覚悟しても、攻撃すべきだろうな」

 「はい」

 出撃した第三波は、空母エセックスを捕らえた。

 隼V型は、迎撃にあがったF6Fヘルキャット6機、ワイルドキャット5機を牽制し、

 雷爆同時攻撃は、エセックスの回避運動を迷走させ、

 避けきれなかった爆弾4発と魚雷4発が命中して大破炎上していく、

 しかし、エセックスは火災を消し止めるとヨロヨロと帰還していく、

 その空母エセックスに魚雷2本を命中させ、

 止めを刺したのは、伊19号だった。

 

 

 第一機動部隊

 瑞鶴

 血だらけのパイロットが病室に担ぎ込まれる。

 これは瑞鶴だけでなく、全ての空母で共通していた。

 生きているだけでもマシ。

 中には一生不遇な生活を送らなければならないパイロットもいる。

 アメリカ空母機動部隊壊滅の代償だった。

 艦橋

 「・・・アメリカ空母4隻撃沈は大きな戦果だ」

 「しかし、艦載機が反復攻撃できる利点は消えたな」

 「大変な消耗です」

 「それに隼V型の性能は確かに良いかもしれない」

 「しかし、12.7mm機銃と7.7mm機銃では心もとないな」

 「アメリカ軍機は小回りが利かないので」

 「迎撃機と弾幕で敵機を損傷させ、回避運動を行えば、脅威といえないのでは?」

 「逆にこちらの攻撃機が脆弱すぎる気もする」

 「あれでは反復攻撃は1度だけで戦力は半減以下。第4波は出せそうにない」

 「航空機で防弾と軽快さは相反する性質です」

 「馬力を上げない限り解決しようがないのでは?」

 「1500馬力級の艦載機は、まだだろうか?」

 「海燕の翼面積を増やした機体を検討しています」

 「しかし、規格の問題で陸軍とぶつかっているようです」

 「陸軍は航空基地を盾にして迎撃。空母機動部隊を剣にする戦法で行くらしい」

 「今回の作戦も随分と消極的だったよ」

 「山本長官の殉職と大和の座礁」

 「そして、戦艦6隻の修理改造で随分と陸軍に妥協させられましたからね」

 「東條首相も海軍の価値を理解しているようだがね」

 「どうしてもアレも欲しい、これも欲しいの陸軍の我田引水になってしまうようだ」

 「作戦としては悪くないのですが攻守の柔軟性も必要だと思います」

 「言い分は、わかるよ」

 「しかし、基地航空部隊なら油送船も余計に使わなくていいし」

 「陸軍の言い分だと、わざわざ遠くまで行く事はない、だからな」

 「今回の作戦後は、当分、燃料が回ってきませんね」

 「ふっ」

 結局、武蔵以下、戦艦部隊の出撃は無理解な陸軍のおかげで、

 油送船の都合が付かず出撃中止。

 サラトガ、エセックス、ワスプ、インディペンデンスという尊い犠牲によって、

 リー艦隊は、窮地を脱し、シアトルに入港する。

 合理的な判断をすれば、リー艦隊を自沈させた方がマシだった。

 しかし、感情は合理的に割り切れず、合理的でもなかった。

 友軍が助けに来るという信頼を背景にしたモラルの高さ、

 粘り強さとしてアメリカ軍全体の戦意を引き上げてしまう。

 そして、皇軍は、その信頼がなかった。

 

 

 キスカ沖海戦と呼ばれた空母対空母の海戦は、珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦に続く、

 史上3度目の機動部隊同士の海戦として記録される。

 日本海軍は、結果的に空母対空母の戦いで勝利といえる戦績を収める。

 無論、少なからず損害を受けていた。

 珊瑚海海戦で、祥鳳を失い。

 ミッドウェー海戦で、大和と長官以下中核になる参謀と大量のパイロットを失う。

 そして、キスカ沖海戦では、艦載機パイロットの半数を死傷させていた。

 

 

 近藤司令 自棄酒中、

 「ぅぅ・・なんで、リー艦隊を攻撃しなかったんだろう」

 「拿捕できると思ったんじゃないですか」

 「こんなことなら主砲弾を撃ち込めば良かった」

 「敵の基地にほとんどの砲弾を落としたですからね」

 「霧が多かったですし、アメリカ戦艦は40cmです」

 「霧を利用して、艦尾側から撃てば、砲数で勝ってたのに」

 「向こうが先に命中しますよ40cm砲弾を受けたら沈没です」

 「それに、どうせ、基地砲撃が決まっていたんですから命令違反は駄目でしょう」

 「ぅぅ・・・くそぉ・・・陸軍め・・zzzz」

 酔い潰れ。

 

 

 サンチアゴ

 軽空母プリンストン 艦橋

 「キスカ沖でハルゼー提督の空母4隻が撃沈だと」

 「艦長。太平洋のアメリカ空母はプリンストンだけです」

 「日本の空母は?」

 艦長は、日本海軍の編成表を見つめる。

 中国経由の情報を基にしていたが、それなりに信憑性があった。

 というのは他の編成も可能だが、

 それなりに合理性があって正しいといえたからだ。

 「まずいな」

 「日本機動部隊に通商破壊をされたら、ハワイ防衛は不可能です」

 日本の台所事情を知らないのだろう。

 東太平洋側に機動部隊を出せるほど燃料はなかった。

 また、教官クラスのパイロットを消耗し、

 それどころではなかった。

 

 日本では、陸軍と海軍とも、

 パイロットの一覧表を見ながら誰を本国に戻して教官をさせるか、

 前線に分散するか、頭を抱えることになる。

 パイロットの基礎になる員数が少ないと、回復にも時間がかかった。

 

 


 月夜裏 野々香です。

 日本海軍>>>>>>>>>日本漁船>>アメリカ戦艦 でしょうか。

 戦艦は逃がしましたが、大型空母2隻、中型空母1隻、軽空母1隻を撃沈です。

 

 日本海軍は、戦艦大和の高級将校が失われ、現場の意見が通りやすくなった。

 中国からの資源でアッツ・キスカへの補給は、史実より多そうです。

 まだ気持ちという感じです。

 大陸での戦争が収束して行く中で、97式中戦車、95式軽戦車は、見限られ。

 より強力な対戦車砲を持つ3式対戦車自走砲が製造されていきます。

 

 

   

ランキングです ↓ よろしくです。

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第11話 1943/04 『ベーリング海の罠』
第12話 1943/05 『キスカ沖海戦』
第13話 1943/06 『まぁ 砲兵ということで・・・』