月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

第13話 1943/06 『まぁ 砲兵ということで・・・』

 キスカ沖海戦後、

 日米海軍戦力は日本海軍に優勢に傾いていく、

 赤レンガの住人たち

 「一時的には優位なんだが油送船の都合は付かないのか?」

 「つかないねぇ どこも、かしこも、カツカツでやっているよ」

 「だいたい、本土にない物をどうやって前線にまで持って行くんだ」

 「輸送力だけじゃなかったのね」

 「戦線を広げ過ぎたんじゃないのか」

 「最近、アメリカの魚雷で不発が減ってきているからな」

 「中国からの物資は増えているんじゃないのか?」

 「生産まで年月がかかるよ。設備更新もね」

 「設備投資やっている場合かな。千載一遇のチャンスなのに」

 「ハワイを占領するには戦艦が足りないよ」

 「山本長官なら、陸軍も押し切りなんだけどな」

 「南雲長官じゃ・・・」

 「元々、石橋を叩いて渡る人だからな」

 「ていうか、艦載機パイロットは・・・」

 「そうだった」

 「せっかく養成したパイロットが磨り潰されたら、洒落にならないよ・・・・」

 「教官とベテランも消耗させられたな」

 「赤城と加賀の修理改装は?」

 「ボチボチ終わるよ。扶桑と伊勢もね」

 「改造空母で、どこまで戦えるかだな」

 「赤城と加賀、扶桑、伊勢が就役したら、瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍をオーバーホールだ」

 「また金がかかるな」

 「空母があっても、肝心の艦載機パイロットを都合付かないからな」

 「基地にパイロットを取られすぎ」

 「基地航空部隊で優勢なら機動部隊を犠牲にする根性が気に入らない」

 「陸さんに引っ張られるからな」

 「大陸鉄道が稼動すれば、陸軍はおとなしくなるかな」

 「ならないよ。欲深だから」

 「いやだねぇ 際限のない欲望って倫理観なし。国家的強盗だよ」

 「満州で、やめれば良かったんだよ。それを陸軍が暴走しやがって」

 「それより、また満州に投資するんだっけ?」

 「結局、日本という国は生きていけないだけの人口を抱えているからね」

 「でもアメリカ、イギリスと戦争したら物資も入ってこない」

 「醜いねぇ のた打ち回って・・・・」

 「奇麗事で自滅するより、いいのかも知れないが」

 「いまの工作機械と工員を倍にして生産を倍増してもアメリカに勝てないって」

 「船を倍建造しても、まだ足りないね・・・・・」

 「広大な太平洋が最大の味方かもね」

  

  

 中国

 キスカ沖海戦の戦果は、いろんな形で国際情勢に波紋を広げる。

 日本は大陸の点と線しか支配できないものの

 弱者が強者に媚びへつらうのも世の常で、立場を好転させる。

 とはいえ、いくら人海戦術だけでは、ままならない。

 日本が大陸で欲するのは資源と市場だが

 資源を確実に得ようとするなら、相応の投資が必要になった。

 中国軍閥と妥協しなければ治安維持ができない、

 中国人も、日本軍が当然行うと予測していた虐殺が回避されると

 安寧を求め、日本軍に恭順する者が増える。

 結局、日本が中国大陸で求めているのは資源と市場であって、

 支配でもなければ虐殺でもない。

 結果として、治安維持を求めたのだが、

 それが、中国民衆の支持に繋がっていく、

 鉄道建設

 人海戦術で線路が作られていく中、機械が一台だけ動いていた。

 「ブルドーザーが、もっと欲しいな」

 「壊れないやつが特にね」

 「戦車なんか要らないよ。ブルドーザーが欲しい」

 「農家もトラクターを欲しがっているからな」

 「豪農の弊害で土地なし農民を人馬のように働かせるから、トラクターが広まるかどうか」

 「いや、結局、人間の差だよ。世襲じゃ 良し悪しありすぎ」

 「資源が確保されればトラクターくらい増えるんじゃないか」

 「結局、アメリカ、イギリスが資源を握っていたからね」

 「ところで、最近の装甲列車は仰々しくないか」

 「中国人は契約が通用しないからね」

 「先に代金を全部受け取らないと・・・」

 「代金を受け取れないときは、受け取るまで実効支配あるのみだよ」

 「戦車なんか渡すからだ」

 「燃料や消耗品のない戦車なんて、すぐに止まって、役に立たないよ」

 「なんか危ない、橋渡っているな」

 「結局、日本が支配しているのは、点と線だけ、大部分は中国そのものだよ」

 「支配基盤が細いねぇ・・・あ・・・・・土砂崩れだ・・・」

 崖崩れで数千人が押し潰されていく、

 「酷いねぇ」

 「うん。工期が延びるよ」

 「でも、崖が崩れたから安全になったんじゃないか」

 「少しね」

 戦争中は、人格が麻痺してしまいやすい、

  

  

 虚栄心だけの無知蒙昧な民族主義者は、どこの国にもいる。

 もちろん、日本にもいれば中国にもいる。

 共通しているのは正確な数値を嫌う傾向にあった。

 同じ民族主義者でも数値を肯定する者もいる。

 彼らは共通して敗北主義者とか、非国民扱いされやすいが、

 熱情だけでは足りないと必要な要素を求めているだけだった。

 しかし、民族感情で理解されにくい、

 汪兆銘政府の漢民族は、そういった人種といえる。

 民族主義と結びつく思想によって方法論も変わってくる。

 成都の蒋介石・国民党が資本・民主主義系であり、

 蘭州(ランチョウ)の毛沢東・共産党が共産主義系だった。

 これら思想は、王朝を否定した代案で

 中国民衆を集約させる政治手法だった。

 思想は、大陸を支配する権力闘争の手段に過ぎない、

 彼らは、時折、熱情で民衆を糾合しようとするものの

 頭の中は、打算ばかりで冷徹だった。

 

 

 汪兆銘政府軍の秘密の場所

 日本に知られていない工場があった。

 白人技術者が日本の95式軽戦車を改造する。

 そして、日本に対して面従腹背な中国系技術者と工員が集まっていた。

 亜酸化窒素(笑気ガス)は、鎮痛剤として医療で使う。

 しかし、別の使い道もあった。

 酸素を通常より燃焼室に送り込み。馬力を一時的に上げる。

 亜酸化窒素タンクを取り付けるだけで緊急時の加速で優位になる。

 この改造で完全独立できる、わけではないが南京政府軍の保険になった。

 欧米の進んだ技術者なら、ちょっとした改造で性能を向上させることができた。

 他にも日本から購入した97式戦闘機と96式戦闘機が改良され、性能を向上させている。

 アメリカ製の治具を使うだけで油漏れがなくなり、

 エンジンの拭き上がりが上がり、加速力も変わってくる。

 これらの兵器は、資源と、幾つかの利権を交換したものだった。

 他に重慶制圧で磨り潰した日本戦車、航空機、船の資材が集積されて改造されている。

 そう、国民軍は、フライングタイガーを日本軍に引き渡してアメリカの信頼を失い、

 連合軍は、南京政府軍の反日離反に賭け始めていた。

 中国人将校が白人を案内する。

 「我が中国は、日本の傀儡の関係に甘んじてるある」

 「しかし、決して屈していないある」

 「日本の影響圏は点と線に過ぎないある」

 「面では、地方軍閥が制しているある」

 「そこでの日中取引は悪くないある」

 「現在、中国の内外情勢で中国民衆の不満は避けられないある」

 「中国民衆の恨みを日本に押し付けることができるある」

 「例え、傀儡でなくとも、やることは、同じある」

 「そして、憎まれ役を日本に押し付けさせる方が上手く行くある」

 「いずれは、我々の物ある」

 「中国が得られる利権で大きいのは東南アジアの華僑権益ある」

 「日本も華僑と組んだ方が利益も大きいある。華僑拡大を許すある」

 「いずれは、東南アジアへ中国の影響を拡大できるある」

 「中国民衆をいくら搾取してもかまわないある」

 「中国の近代化を急がせるある」

 「日本を盾にして欧米諸国を消耗させるある」

 「日本が負けても、勝っても中国は再起の機会ある」

 「必要なのは国を近代化させるための人材ある」

 搾取の仕方もいろいろあった。

 自国+5  植民地   0  というイギリス、フランスの狩猟型もあれば、

 投資で基礎になる市場を大きくして回収を増やしていく、

 自国+4  植民地 +1  という日本の農耕型もあった。

 アメリカは、前者をフィリピンで、後者を南米で使っていた。

 後者は、植民地も力をつけるので、

 統制に高度なテクニックを必要とする。

 どちらにせよ。通常の商取引より搾取率が大きく、利益は莫大だった。

 とはいえ、契約書が紙切れと同じで商取引ができない地域があり、

 そういう人種もいる。

 植民地化を一概に責められなかった。

 そして、いまを甘んじて受け入れ力を付けて独立できる可能性も大きくなった。

 弱小工業国の日本は、資源市場大国から切り離せば、萎れていくだけ、

 アメリカ、イギリス、ソビエトは、日中の力関係を崩し、

 離反対立させる計略を練っていた。

 

   

  

 日本 首相官邸

 閣僚たちが報告書を見つめる、

 「日本を近代化させるには着の身着のまま、その日暮しの人間を減らし教育すること・・・」

 「科学技術全般で人材を育てて開発していく必要がある・・・」

 「設備投資を増進して工業を促進させ、流通を容易にし産業活動を増大せしめ・・・」

 「分野も多いしハードルも高いな」

 「中国・東南アジアを搾取して高度な生活ができる日本人を増やす必要がある」

 「もっと投資を取捨選択して資本を集中すべきだろう」

 「質の向上を求めるより、量の増大では不良品が多すぎる」

 「しかし、産業を拡大すれば貧富の格差が増し、貧民層も増えるのではないかね」

 「いまは目を瞑るべきでは?」

 「・・・・」

 当時、最大多数の日本人が実感している最大公約数的な内容が述べられていた。

 多くは、好きで、やるわけではなく、仕方なくといえる。

 「・・・日本も権威主義的な要素を減らして」

 「規制をもう少し緩和し、個人の能力を最大限に引き出すべきでは?」

 「デモクラシーの効果は知っているよ」

 「しかし、個人の自由は、問題もある」

 「わが国は、家族主義で、個より和を重んじる」

 「それは法で制約しなくても、自然と日本人のあるべき姿になっていくのでは?」

 「性善論かね」

 「むしろ、人間は、性悪論だと思うね」

 「人間は利己的なんだよ」

 「この日本で利己主義を蔓延させたら中国のようになるよ」

 「それに共産主義も危険だよ」

 「日本人の気質から、そこまでは酷くならないと思うが・・・」

 「デモクラシーは、全体と個人の力関係で釣り合いが取れるし、良い側面もある」

 「しかし、共産主義の蔓延と中国的な気質の浸透もある」

 「朝鮮人の気質も問題ありでは?」

 「年よりは問題だな。若者は迷っている節がある」

 「民族感情で理屈が通じないことは多い」

 「皇民化は賛否あるね」

 「国内に不満分子を内包するのは、問題では?」

 「日本の急速な近代化は、底辺で働いてくれる者が必要だった」

 「プラスもあれば、マイナスもあるよ」

 「プラスがマイナスより大きければ目を瞑るべきではないだろうか」

 「マイナスが自分に降りかからないだけでは?」

 「中国人と朝鮮人から、連合国側に情報が漏れている節がある」

 「基本的に朝鮮人や中国人への接触は注意すべきだよ」

 「情報が漏れてもおかしくない」

 「そうだろうか?」

 「それとも暗号がまた、解読されているのかな」

 「まさか、作ったばかりで・・・」

 「アメリカならやりかねないよ」

 「もっと無線を減らすべきだね」

 「工業化で資源と市場が欲しいのが基本だ」

 「それが確保されれば支配的な側面を現地に委任するのも悪くないよ」

 「反発を押さえ込む為に軍事費を捻出すると国力が殺がれてしまうからね」

 「軍縮は命がけなんだけどね」

 「問題は対米戦だよ」

 「イギリス機動部隊が北太平洋に回航されるそうじゃないか」

 「アメリカの軽空母のプリンストンと」

 「イギリスのイラストリアス、ヴィクトリアス、フォーミダブル、インドミタブルの4隻が合流する」

 「インド洋と南太平洋にいたイギリス海軍が、今度は北太平洋か。大変だな」

 「地中海のシシリー上陸作戦を中止して、こっちに回って来たらしい」

 「ということは、それだけ、本気ということでは?」

 「いや、アメリカが護衛空母と爆撃機を余計に大西洋に配備する代償と聞いたぞ」

 「そんなのアメリカの都合で割り振るから真に受けてもね」

 「確かに欧州は爆撃機で代用できても太平洋は軍艦でないと駄目というのはあるね」

 「日本は、太平洋で攻勢をかけやすい状況ではある」

 「燃料がないと駄目じゃないかな」

 「パイロットも消耗し切っている」

 「だいたい、攻撃して占領しても輸送できないのが駄目だよ」

 「というより輸送したくても内地にない物を送れるわけがない」

 「もう、空母から艦載機パイロットを降ろしたし」

 「戦艦は?」

 「武蔵と金剛型4隻だけ」

 「長門、陸奥が修理改装中。どっちにしろ燃料がないよ」

 「設備投資に資源を使うからだ」

 「どうせ、ハワイ占領なんてできないよ」

 「B17爆撃機に体当たりされたら・・・」

 「隼V型の武装が弱すぎるからだろう」

 「そんなに酷いか」

 「ガダルカナルとラバウルの基地航空隊は、隼でB17爆撃機を落とせないと言ってるぞ」

 「飛燕と海燕は、20mm機銃で落とせるらしいけど。まだ、数がね」

 「それにベテランパイロットを前線から引き抜かれたし」

 「だから、キスカに機動部隊を行かせたくなかったんだ」

 「そんな終わってしまったことを・・・」

 「だいたい、陸軍は大陸に篭もりがちなのがいかんよ」

 「じゃ イギリス空母を撃沈するのに艦載機パイロットを何人、失えばいいんだ?」

 「あの空母は飛行甲板が装甲化されているぞ」

 「たぶん、アメリカ機動部隊が再建するまで攻勢はないと思うけど」

 「とにかく、パイロットをいまの10倍にしないと決戦なんてできないよ」

 「10倍か・・・・」

 ジリ貧状態で10倍は厳しかった。

 日本の航空部隊は数を揃え、

 練度の低いパイロットを囮にしていた。

  

  

 中国大陸

 山師

 日本では、怪訝な目で見られたり詐欺師扱いに見られたりする職業。

 中国大陸では安く潰しの利く労働力があって堀りまくる。

 「・・・・あの平野にジャガイモ畑を作るって?」

 「ああ、食料を確保しないと労働力も確保できないだろう」

 「食べさせれば働くんだから」

 「そりゃ わかるけどさ。あの辺は、石炭が採れそうなんだけどな」

 「こっちが先にやっているんだから、ほかを探せよ」

 「水利の良い平地が少ないんだからさ」

 「鉄道は、石炭がないと動かないんだよ」

 「鉄道を作っているのは、工夫。工夫を動かしているのは食糧だよ」

 「偽札じゃ・・・」

 「ジャガイモを買えるんだから本物と思って使えよ」

 「とにかく、工夫を食べさせる食料がいないと鉄道は作れないんだ」

 「んん・・・・」

  

  

 北アフリカから撤退したロンメル軍団に与えられた任務はイタリアの半島防衛(監視)。

 ロンメルはイタリアの首根っこを押さえていた。

 そして、王党派・反ムッソリーニ勢力のムッソリーニの失墜を躊躇させてしまう。

 さらにイタリアはドイツ軍の支援で東部戦線に派兵させられ、

 米英軍に降伏できず窮する。

 そして、イタリア海軍はツーロン港へ艦隊を派遣させられ、

 イタリア本土は、修理・建造中の艦艇ばかり残される。

 29100トン級戦艦コンテ・デ・カブール。43.8口径32cm(3連装2基 + 2連装2基)

 重巡洋艦ゴリツィア、

 重巡洋艦ボルツァーノ、

 軽巡洋艦カイオ・マリオ、ジュリオ・ジェルマニコ、

 軽巡洋艦オッタヴィアーノ・アウグスト、パオロ・エミリオ、

 

 

 ツーロン港

 独伊連合艦隊の共同作戦でイタリア艦隊がツーロン港に集結していた。

 イタリア海軍は地中海のドイツ海軍をはるかに凌ぐ、

 戦艦3隻、旧戦艦3隻、軽巡9隻、駆逐艦28隻。

 35000トン級3隻リットリオ、ヴィットリオ・ヴェネト、ローマ。50口径38cm3連装3基

 29300トン級2隻カイオ・デュイリオ、アンドレア・ドリア。43.8口径32cm(3連装2基 + 2連装2基)

 29100トン級ジュリオ・チェザーレ。43.8口径32cm(3連装2基 + 2連装2基)

 軽巡洋艦カドルナ、モンテクッコリ、ポンペオ・マーノ、ダオスタ、サヴォイア、ガリバルディ。

 軽巡洋艦アブルッチ、シピオーネ・アフリカーノ、アッティリオ・レゴロ

 駆逐艦カミチア・ネラ、カラビニエーレ、コラッツィエーレ、

 駆逐艦フチリエーレ、ジェニエーレ、グラナティエーレ。

 駆逐艦レジオナリオ、ミトラリエーレ、スクアドリスタ、ヴェリーテ

 駆逐艦アルフレド・オリアーニ、ヴィンセンツォ・ジョベルティ、

 駆逐艦マエストラーレ、グレカーレ、フレッチア、ダルド、アントニオ・ダ・ノリ、ニコロソ・ダ・レッコ。

 駆逐艦アントニオ・ピガフェッタ、ウゴリーノ・ヴィヴァルディ、ニコロ・ツェーノ。

 駆逐艦トゥルビーネ、エウロ、フランチェスコ・クリスピ、

 駆逐艦ジョヴァンニ・ニコテラ、ベティーノ・リカーソリ。

 駆逐艦アウグスト・リボティ、クインティノ・セラ

 

 

 戦艦ストラスブール

 以前と変わらない器と性能の戦艦が浮いている

 艦首甲板に赤と黒でハーケンクロイツの模様が描かれただけ、

 それだけで獰猛な鋼の意思と野望を秘めた戦艦に豹変し、

 脅威と凶暴さが数段増す。

 地中海ドイツ艦隊の整備と訓練が進んでいた。

 地中海の海軍戦力の天秤が不透明にドイツ側に傾いていく、

 ドイツ海軍軍人が乗艦すると元フランス艦隊は凄みが増し、

 地中海最強のイタリア海軍も色褪せていた。

 ツーロン港 ドイツ艦隊

 戦艦1隻、重巡2隻、軽巡2隻、水上機母艦1隻、駆逐艦16隻、

 潜水艦06隻、小艦艇10隻、計38隻、

 戦艦ストラスブール、

 重巡洋艦コルベール、フォッシュ、

 軽巡洋艦ラ・ガリソニエール、ジャン・ド・ヴィエンヌ、

 水上機母艦コマンダン・テスト、

 駆逐艦パンテール、ランクス、ゲパール、ヴォーバン、ヴェルデュン、

 駆逐艦ヴァルミ、ジェルフォー、ヴォークラン、ケルサン、ランドンターブル、

 駆逐艦モガドル、ヴォルタ、ラ・パルム、ボルドレー、マムリュク

 駆逐艦カスク

 水雷艇ラ・バヨネーズ、ラ・プールシュイヴァーント

 潜水艦ルドゥタブル3隻、ヴァンジュール、ガラテ、

 潜水艦ウーリディス

 駆潜艇CH1

 掃海通報艦エラン級

 設網艦ル・グラディヤトゥール

 補給艦ゴロ

 他にも材料にできそうな艦艇は、浮上させていた。

 

 ストラスブール 艦橋

 「ストラスブールは、対巡洋艦用の艦艇だな」

 「ええ、相手が戦艦だと勝ち目がありません」

 「しかし、巡洋艦以下の艦艇でしたら、十分に撃退できそうです」

 「やはり、ポケット戦艦と同様の通商破壊艦か」

 「ダンケルク型は、表向きドイッチュラント型に対抗して建造されたそうです」

 「しかし、フランス海軍の敵がドイツ海軍と決まっていなかった時代に建造された戦艦だ」

 「いくらなんでも対イギリス海軍戦略も兼ねていると言えないか」

 52口径33cm4連装2基。16400海里/17ノット。最大速度31ノット。

 通商破壊艦向きの性能だった。

 いや、通商破壊艦。

 「フランス海軍がアメリカ海軍やイギリス海軍と戦う可能性を想定するのは常識だよ」

 「むしろ、フランスと組んで対英米戦なら面白かっただろうがね」

 「ストラスブールであれば、より高度な通商破壊ができそうですね」

 「しかし、残念だな。このストラスブールは、大西洋へ出られる機会を逸している」

 「ジブラルタル海峡は抜けられそうにありませんね」

 「わずか、6.5kuの半島が忌々しい。暴風雨が続けばいいのだがな」

 「それでも幅20km、深さ200から400mの海峡です」

 「レーダーに連動した要塞砲は怖いですよ」

 「そうだな」

 「ですが地中海でしたら・・・」

 「それも連合軍の航空戦力が強い。戦果は望み難いな」

 「アメリカ航空部隊の対艦攻撃力は脅威です」

 「ドイツ空軍の制空権下でないと厳しいか」

 「ドイツ空軍は足の長い航空機を配備しても海上航空戦に慣れていない」

 「ふ 地中海なら北へ飛べばドイツ領だよ」

 「それは、そうでしょうが」

 「できるだけ飛行場に向かって飛ばないと燃料が足りなくなる事もあるので」

 「なるほど・・・」

 「しかし、資源をたくさん持つ日本が羨ましいですな」

 「猿真似の弱小工業国が国内産業を拡大」

 「外地資源を占領・維持・開拓・生産して輸送で往復」

 「新規開発しながらアメリカと消耗戦か・・・地獄だな」

 「日本は、負けると?」

 「日本人は負けないようにやっていても、相手が、それ以上に強ければ負けるだろう」

 「羨ましいとすれば、太平洋が大西洋より広いことだよ」

 「枢軸国は苦しい戦いになりそうです」

 「だが、陸軍主導で日本海軍が通商破壊戦を始めてから状況は、マシだろうな」

 「米英の高速戦艦は全て太平洋だ」

 「大西洋の高速戦艦は、ティルピッツ。シャルンホルスト」

 「それと、ドイッチュランド。アドミラル・シェーアの4隻で追撃できる艦艇は、存在しない」

 「好機では?」

 「護衛空母の艦載機に追いかけられるだろうよ」

 「まさか」

 「ありうるな」

 「イタリア海軍も、もう少し動きがあればいいのですが」

 「・・・どうせ、降伏するタイミングでも図ってるのだろう」

 「それは、困りますね」

 「ロンメル軍団が半島に駐留しているから大丈夫だろう」

 「ツーロンのイタリア艦隊も接収ですかね」

 「イタリアが降伏すればな」

 「いまのところ、どうされます?」

 「本国の命令どおり。ツーロン艦隊を囮に米英爆撃部隊を殲滅する」

 「被害は少なくありませんが」

 「米英航空部隊の損害が多ければ良い」

 「米英軍の航空戦力が消耗したときに反撃する」

 「問題は、消耗する前に補充されてしまうところでしょうね」

 「それでも隙ができるよ」

 「ではドイツ海軍の訓練を待って・・・」

 「ああ・・・」

  

  

 ベルリン

 日本の将校が工場内を物色していた。

 潜水艦で運べる量は決まっている。

 日本から戦略物資がドイツへ運び込まれ、ドイツの技術が日本へ向かう。

 連携作戦ができなくても互いが強ければ、連合国軍の攻勢を削ぐ事が出来た。

 「日本の通商破壊で連合国側の損失は増大していると思われます」

 「日本は熟練した技術者と工員の不足と機能的なシステム構築が遅れているのが問題です」

 「ですが、戦地での自給自足が進んでいるとか」

 「元々、農民が多かったので持久戦と決めれば必然的に自給自足し始めますよ」

 「・・・これなんか、お勧めですよ」

 「11.5トン。220馬力。60口径50mm砲装備」

 「最高速80km。行動距離900km」

 「重装甲偵察車 SdKfz234プーマ」

 「すごいですな」

 「最大装甲30mmの装甲車ですから。小銃くらいなら防げますがね」

 「ディーゼルエンジンなので日本でも馴染みやすいでしょう」

 「もう少し重くできますが」

 「馬力とトン数の関係もあるので注意が必要です」

 「トン数を足すときは馬力の強化も忘れずに」

 「ですが、日本が必要とするのは兵器より工作機械と精密機械、電気溶接など技術のようです」

 「なにしろ潜水艦で運ぶのですから」

 「技術移入しますよ。日本軍の戦果は欧州戦線にも波及しますから」

 「助かります」

 「しかし、現状の日本技術でアメリカ機動部隊と渡り合えるのは素晴らしい」

 「アメリカに機動部隊を作らせれば、ドイツは、それだけ有利になるでしょう」

 「確かにドイツが脅威とするのは連合軍の護送船団と戦略爆撃部隊です」

 「アメリカの国力が機動部隊建造に割かれるのなら」

 「ドイツは、それだけ有利になるでしょう」

 「大陸の鉄鉱石と石炭を安価に大量に確保できれば日本も鉄鋼王国になれそうです」

 「技術的には、これからですがね」

 「日本にアメリカとソ連の戦力をひきつけて貰えばドイツも有利に戦える」

 「可能な限り、支援しますよ」

 「日本機動部隊は大西洋に来れませんかな」

 「航続力が不足しているので無理かと」

 「そうですか」

   

  

  

 満州国 満州里

 ソビエト国境の町

 日本軍駐屯地の近くに慰安所がある。

 民間の業者が女性を雇って売春宿を開いていた。

 他の国の軍隊であれば自己責任。

 問答無用で婦女暴行なのだが日本軍は秩序正しく並んでいたりする。

 日本軍は中国経済など考えず偽札元を払う。

 民間業者も漢民族、朝鮮人、日本人、ロシア人と揃えてサービスする。

 日本兵

 「・・・今日は、何人がいいかな」

 「むふっ♪ 白人のロシア人がいいな」

 「でも、なんか、もう少し雰囲気が欲しいよ。民族衣装を着たりして」

 「着たままやるの?」

 「いや、雰囲気」

 「時間制限があるんだから」

 「・・・もう、強姦」

 「・・・でも、憲兵が煩いから」

 「あいつら・・・」

 「まぁ 売春も、婦女暴行も犯罪なんだけどね・・・」

 「日本軍って法律知らないベテラン軍曹が現場を仕切るからね」

 「あはは・・・」

 そして、駐屯地。

 本土から3式対戦車自走砲が3両送られてきた。

 車高の低い菱形の車体から60口径76.2mm砲が突き出ていた。

 “これは、凄い”

 なのだが砲身は少しばかり仰角が取れるだけだった。

 「基本的に車体を敵車両の正面に向けないと砲弾が命中しないよ」

 「はあ!」

 「時速45km。ディーゼルエンジンは音が煩いから待ち伏せで使ってくれ」

 「それは、ないだろう」

 話しにならないといえる。

 直接射撃であれば砲塔がある方が精密射撃で都合が良く。

 間接射撃であれば仰角を増やし、最大射程から数を揃えて狙うものだ。

 だいいち、3両では足りない。

 “何で、こんなものを造ったの?”

 と聞かれると

 “トン数制限が17トンで、240馬力しかないから”

 と応えるよりない。

 「待ち伏せしか、ありえない。数を揃えろよ」

 「まだ、無理」

 「国境の向こう側の極東ソ連軍の戦車を知っているか?」

 「T34は知っているよ。弾が当たれば、たぶん撃破できるよ」

 「固定砲じゃ 当たらんわい」

 「まあ、砲兵ということで」

 「・・・砲兵ということなら、ありかな」

 結局、3式対戦車自走砲の概念は所属で決まったりする。

 元々の正式名称が自走砲なのだから砲兵だった。

 仰角を大きくしたいのなら、

 ひっくり返らない程度、斜面に上げて傾けて撃つしかなかった。

 100両揃えて並べて撃てば壮観だろうが、そういう機会は永遠に訪れそうにない。

 砲弾どころか、小銃弾さえ不足していて、貴重だった。

 一発必中の精神は、物理的な背景から来ているため、決して精神論ではない。

 貧乏国の日本はアメリカのようにはいかない。

 敵の陣地1kuに榴弾を何千トン投射したとか。

 対空砲を空間に対し弾幕を張ったりとかできず。

 もちろん、絨毯爆撃も不可能だった。

 無駄弾を惜しみ、

 ひたすら、必殺の一発を命中させるため、狙いを定める。

 中国戦線が収束したのなら戦力を縮小できるかと思いきやそうもいかない。

 日本軍は数年来蓄えた武器弾薬、戦車、トラックを重慶占領のため磨り潰し、

 余剰戦力の多くを中国支配のため割かれていた。

 さらに旧式兵器が中国に売られ、戦力が目減りしていく、

 「・・・次の入荷は?」

 「ら、来週かな」

 「中国戦線が終わったのに何で、満州に武器弾薬が回ってこないんだ」

 「中国大陸の治安維持と南方戦線で・・・・」

 「満州は、どうするんだ。満州は」

 「いや、他の戦線は、もっと酷いから、これも、試作車両だし」

 「・・・・」

 日本を列強だと思っている者は盲信家だった。

 現実は、お国の為と国民生活を犠牲にし、

 背伸びしているだけに過ぎない、

 基礎工業力の低い資源を持たない帝国だった。

 権威主義を弱めないとバカな上層部といつまでも付き合わなければならない。

 とはいえ勅命であるとか、不敬罪であるとか、

 逆らうと村八分で生殺与奪権が奪われていく、

 そういう国だった。

  

  


 月夜裏 野々香です。

 キスカ沖海戦で一息の日本ですが台所事情は厳しいようです。

 また、この時代、日本の権威主義と封建的な要素は強く、

 個人の人権は押さえられ気味です。

 基本的人権といった個人の権利や自由は制限されています。

 たぶん、現代人の大多数は左翼系とか、自由主義者とか、不敬罪級でしょうか。

 官吏の手を借りる事もなく四面楚歌で淘汰されそうです。

 並みの右翼でも目を付けられて監視される、でしょうか。

 現代と違って憲兵と警官の暴力は遠慮なしという感じです。

 かなり住みにくいですが、どうしたものかです。

 中国の労力と資源を運用するのと、

 中国側の成長と情報漏れなど足し算と引き算が必要になります。

 収支としてプラスになればいいのですが

 アメリカの大攻勢に押し切られる可能性は高く、

 依然として予断を許さずです。

 また、対米英に対し、交渉する場がないので外交戦略は苦しいかもです。

  

  

 『ミッドウェー海戦のあと』は、天皇が勅命書を出しているせいか。

 天皇と違う勅命を勅命と言ってたら・・・ご想像にお任せいたします。

  

 『青白き炎のままに』は、それがない。

 軍上層部は、自分の戦績の為、都合の良い勅命を出して兵士を死地へ送ったりします。

 史実と同じですかね。

A26インベーダー

 

  

4式重爆撃機 飛龍

1942/末〜

銀河 (日本海軍 陸上爆撃機)

A26インベーダー攻撃機

1942/07〜

自重 / 最大重量 (kg)

8649 / 13765 7265 / 10500 10365 / 15876

全長×全幅×全高 (m)

18.70×22.50×5.70 15×20×4.30 15.24×21.34×5.64

翼面積 (u)

65.85 55 50.17

馬力 (hp)

1810×2 1670×2 2000×2

最高速度 (km/h)

537 546 571

航続力 (km)

3800

2000〜5370

2250
武装

12.7mm×4

20mm×1

12.7mm×2

20mm×1

12.7mm×10

魚雷 / 爆弾 (kg)

800 1000 1800
乗員 6〜8 3 3

  

 飛龍は機体設計に優れ、陸海軍とも評価が高い。

 性能的には、同時期のA26インベーダーが近いだろうか。

 飛龍は、魚雷を装備できて航続力が長い。

 それでもインベーダーと比較すると見劣りする。

 インベーダーの速度だとゼロ戦、隼V型も追撃できず、撃墜不能だろうか。

 1800kgも爆装できれば魚雷でなくとも、

 飛び石 (スキップボミング)爆撃で戦艦を撃沈できそうだったりする。

  

 飛龍は、A26インベーダーの性能に負けても、当時の日本の技術力で評価できた。

 “アメリカの技術に追い付こう” という、心意気だけは買いたい。

 惜しいのは航続力を落として、もっと速度と防弾を・・・

 という気がしないでもない。

 飛龍も、A26も、現在、試作生産中で生産・配備は、どちらも44年になってからです。

 性能的には不利ですが守りに入った日本軍が、どう凌ぐかという感じです。

 因みにこの戦記は、陸軍主導。銀河は採用されませんでした。

 ( ^ ・ ^ )/~~   さよなら、銀河さん〜  ( ^ ・ ^ )/~~ 

 その代わり飛龍は増産されます。

 

 

 

 

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第12話 1943/05 『キスカ沖海戦』
第13話 1943/06 『まぁ 砲兵ということで・・・』
第14話 1943/07 『腐敗病』