月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

第15話 1943/08 『ジブラルタルの嵐』

 東洋の模造国家の戦果が第二次世界大戦全体に影響を与えていた。

 連合軍全体で欧州戦線を優先するか。後回しにするかで戦略的な判断が問われる。

 対日攻勢は空母戦力と揚陸艦に左右され、

 今だ、守勢に足る戦力しか配備されてない。

 余剰戦力のほとんどが欧州向けとなり、ドイツ軍は苦戦していた。

 ワシントン 白い家

 数人の男たちが地図と書類を見つめる。

 「太平洋が芳しくないな」

 「キスカ沖海戦の敗北が大きいようです」

 「空母は?」

 「書類にあるとおりです」

 「現在、エセックス型が3隻、インディペンデンス型2隻をハワイに配備」

 「イギリス空母4隻はインド洋と南太平洋に配備されています」

 「日本は?」

 「現在、大型空母8隻、中型空母4隻、小型空母4隻が確認されています」

   大型空母2隻 (瑞鶴、翔鶴)

   戦艦改造型空母6隻 (赤城、加賀、扶桑、山城、伊勢、日向)

   中型空母2隻 (蒼龍、飛龍)

   商船改造型中型空母2隻 (飛鷹、隼鷹)

   小型空母4隻 (瑞鳳、龍鳳、千代田、龍驤)

 「まだ日本海軍が強いな」

 「中国からの情報ですと日本機動部隊の艦載機パイロットは定数に達しておらず」

 「艦隊航空戦力は半分以下とのことです」

 「では、攻勢に出られると?」

 「いえ、こちらの艦隊運動訓練も、これからですし」

 「前線への輸送も十分ではありません」

 「依然として前線への輸送が主任務になるか」

 「基地航空戦は、日本航空戦力の5倍から6倍」

 「可能なら10倍の戦力を集め」

 「波状攻撃を繰り返せば損失比で勝り基地も無力化できます」

 「反攻作戦は、その後に行うのが良いかと」

 「10倍か、欧州戦線からクレームが来そうだな」

 「日本の国力は層が薄いです」

 「最前線の基地で消耗させ、最終的に無力化するなら」

 「日本本国までの抵抗は小さくなると考えられます」

 「だが、日本は、中国と東南アジアの資源で力をつけているのではないか」

 「中国への投資と回収率を逆算した結果」

 「日本の国力回復、産業の増強が見込めるのは、45年以降かと」

 「また外国製工作機械の消耗するので」

 「高品質の兵器は、製造が不可能になると思われます」

 「日本が工作機械で自立する可能性は?」

 「ドイツからの技術供与しだいです」

 「現状では製造不能になる部品も出てくるかと」

 「時間の問題か・・・」

 「しかし、思ったより梃子摺ったな。長引きそうだ・・・」

 「少なくとも日本軍の前線は、食料自給率が進んでいるとのことです」

 「前線で自給自足?」

 「日本が工業国というのは自画自賛の大嘘ですよ」

 「元々 農業と生糸産業の国です」

 「兵士の8割以上は農業と漁業経験者の次男坊や三男坊ばかり」

 「日本陸軍が主導権を握って自給自足体制が進み」

 「前線の島では主食だけでなく、調味料も作っているとか」

 「原住民も傘下においてプランテーションです」

 「原住民の様子は?」

 「伝道所の報告では虐待、差別は少ないようです」

 「離反工作をしても良好未満だと」

 「使えないな」

 「武器弾薬は?」

 「日本本土からの輸送が大きいです」

 「ですが大陸大攻勢で持久作戦を決定し」

 「小さなレベルで水力発電、火力発電が行われいるようです」

 「火薬は、程度が低いのですが現地に工作機械を運び込んで製造されている節があります」

 「北部ニューギニア、ラバウル、ガダルカナルなど、ちょっとした。独立国の様相で・・・・」

 「近代兵器は無理だろう」

 「それは無理ですが手工業程度の工場くらいはあるとか」

 「・・・・」

 「重慶侵攻のため南太平洋で持久作戦を行った結果と推測されます」

 「このまま推移しますと、第2、第3の日本が南太平洋に構築される可能性もあります」

 「それは危険だぞ」

 「ガダルカナルに上陸すれば、よかったのだ」

 「機会は、あった」

 「日本を消耗戦に追い込める機会はあったのだ」

 「空母戦力に負けていたら上陸しても、制海権も、制空権も、維持できない」

 「こっちが消耗戦に引き摺り落とされる。無理だよ」

 「いまさら言っても始まらん」

 「今後の反攻作戦で案はないのか」

 「「「・・・・・・・・」」」

 「日本軍の10倍の戦力を集めるのは難しくはない」

 「しかし、時間がかかり過ぎる上に芸がない」

 「「「・・・・・・・」」」

  

  

 赤レンガの住人たち

 資源の会得、採掘、輸送、備蓄、加工、生産、工程、修復、改修。

 開発、工場拡張、工員、訓練、ガソリン、ディーゼル、弾薬、工具、食料などなど・・・・・

 前線を維持することに知力、労力の多くが使われる。

 それが必需品である場合、

 一つでも足りなければ、戦線が崩壊してしまう物がある。

 戦線に投入できる戦力など二の次、三の次の後回し、

 今日は何度目のため息だろうか。

 「・・・前線で自給自足が進んでいるのは助かるね」

 「食料自給率は高いけど、もう少しという感じかな」

 「それでも輸送が助かる」

 「しかし、大陸依存はいただけないね」

 「人材も、資材も、大陸に投資されて国内開発が後回しで遅れるよ」

 「日本に資源がないのだから大陸開発は選択の余地ないよ」

 「東南アジアにもあるがね」

 「しかし、どちらにしろ、まだ、足りない」

 「ダミー船は?」

 「3隻ほど都合つけている」

 「漁船4隻に偽の大砲を載せて護衛艦に似せている。騙せるよ」

 「浅い環礁に座礁させた偽の船団か。引っ掛かるかな」

 「引っ掛からなくても撹乱させるだけでもいいよ」

 「どうせ、おんぼろ船の片道輸送だ」

 「やはり基地周辺に配置した方が誘き寄せて撃沈しやすいけどね」

 「最近は、あまり引っ掛からないから、どうかな」

 「ないない。ばかりだな・・・」

 「ないものはないよ」

 「自転車操業の回転資金の食い潰しじゃないか。丸投げしてぇ〜」

 基礎工業力で自立さえしていない国。日本。

 戦域拡大と投資。度重なる損失で人材、資材、収支・採算とも限界だった。

 軍民ともに大陸依存が増大していた。

 それでもタイムラグが大きく、

 近代戦を維持できなくなりつつあった。

  

  

 

 中国の資源は、海軍工廠の資材に跳ね返り、

 早期の改修がなされてしまう。

 呉

 改装を終えた空母赤城、加賀が再就役し、

 戦艦から空母へ改造した伊勢、日向、扶桑、山城と並ぶ、

 素晴らしい光景に見えたが実態は厳しい、

 「機関員の返還は?」

 「陸軍が大陸鉄道の維持で必要で戻せないと、ごねているようで・・・・」

 「ふざけるな!」

 「機関士がいないのに軍艦が動かせるか。嫌がらせしているのか」

 「まさか。みてきましたが代わりがいないほどでして」

 「引き抜いたら最後、国内の鉄道輸送は、止まりますよ」

 「くっそぉ 改修中だから乗員を入れ替えて、休息で故郷に返したのがまずかった」

 「陸軍もえげつないですよ」

 「本土の機関士を大陸に送っておいて、ちょっと貸してくれ、ですから・・・・」

 「・・・・もう、信用できん。抗議してやる」

 「抗議しても現状は変わらないかと・・・・」

 「民間の商船から引き抜く」

 「駄目でしょう。それこそ陸軍が嫌がりますから」

 「どうせぇ〜 ちゅうんか!!」

 「当分は、修理改装中の艦から機関士を振り分けて新兵と組ませるしか・・・」

 「日本海軍は軍艦と乗員は固定されているんじゃ」

 「艦載機パイロットのようにいかん。練度が落ちる」

 「陸軍は、海軍が技能集団だと知らないようで・・・・・」

 「技能者を引き抜いているくせに何を言ってる!」

 「とりあえず。鉄道では新規に鉄道員の教育」

 「こっちも新兵訓練で練度を上げるしかないのでは・・・」

 「どの道、どこも、かしこも不足気味ですから」

 「ふざけるな。そんなに簡単に海の男が作れるか」

 「新兵の練度を上げるのにいくら燃料を使うと思っている!」

 「頭にきた〜 砲の照準を陸軍省に合わせとけ」

 「・・・もう、合わせてます」

 「ぎょ 魚雷発射管も向けとけ!」

 故意か、他意か。陸軍は海軍戦力の消耗を狙っている節があった。

 海軍戦力は、拡充されつつも決戦に至る前段階で苦しい台所事情を抱える。

 

 

 スペインの酒場

 敵国同士の人間が出会うのは中立国、

 そして、会い易いのは開戦以前からの知人・友人になる。

 それが非公式な出会いでも双方の陣営で注目される。

 偶然、日英同盟の頃の友人関係が会ったりする。

 「日本は日中同盟で一息のようだね」

 「イギリスもスターリングラードでドイツ軍主力壊滅。一息でしょう」

 「しかし、日本に将来的な展望はあるのかな」

 「オーストラリアに中国南京軍300万を上陸させてみましょうか」

 「・・・・・・」 (≧∵≦) !!!

 「・・・・・・」 にや〜

 「じ、実に素晴らしい作戦だね」

 「オーストラリアの人口は800万でしたかな」

 「・・・・・・」 ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 「ハングリーな南京軍将兵300万が何をするか、わかりませんが・・・」

 「そ、それほどの船舶が日本にありましたかな」

 「軍艦と違って商船ですから難しくありませんよ」

 「・・・・・・」

 「それにインド洋側だと比較的安全ですし、策源地の近くで燃料もありますし・・・」

 「・・・・・・」

 「戦略的価値のない、小さな港町なら防衛も知れている」

 「・・・・・・」

 「中国軍が羨ましい。日本軍将兵は、そこまで潰しが利きませんからね」

 「本気で言ってるのでしょうか?」

 「そちら、しだいですよ」

 「・・・・・・・」

 「中国軍の数の多さときたらキチガイ沙汰ですよ。呆れますね」  ┐(-_- )┌

 「・・・・・・・」

 「それに・・・中国人は残忍だとか・・・」

 「・・・・・・・」

 情報戦略上のフェイク(偽物)、ブラフ(はったり)は、虚々実々。

 口先一つで相手の戦意を挫かせ、戦力を分散させる。

 しかし、可能性が高いと用心しなければならない。

 「「・・・・」」 にや〜

 顔色を伺っても所詮、代理人の外交戦術に過ぎなかった。

 対日戦で日本の西オーストラリア上陸の可能性は検討されていた。

 西豪州上陸作戦の戦略的価値は低い。

 しかし、それ以上に戦略的価値の低い使い捨てな兵力があれば真実味が増す。

 物量に勝る連合軍も無類無数に戦力があり輸送力があるわけではない、

 無駄な戦域に戦力を配備できるわけもない、

 そして、同じ情報が中国側からも、もたらされる。

 当然、南京政府も国威高揚と不良人口を減らしたいが為、前向き。

 白人世界が日中同盟で考える脅威は、モンゴル帝国、チンギス・ハーン再来、黄禍論。

 中国側からウィグル方面に向けて鉄道が伸ばされようとしているのは知られていた。

 中国全体が国民を結束させる為、反欧米政策を推し進めていることも知られていた。

 米英も中国の反日組織と裏でコソコソ結びついても、信用できないのが中国情勢だった。

 白人世界優位が、ひっくり返るとすれば日中同盟以外に、ありえなかった。

 そして、日中同盟軍で西オーストラリア上陸がなされた場合、

 黄禍の波は熱病のように東南アジア全域に広がり、インドに波及する。

 欧米諸国にとって悪夢の戦略だった。

 それとも米英の外交戦略が効を奏して日中離反を進められるか・・・

  

  

 インドネシア

 オランダからの解放と日本軍の支配、

 そして、取り沙汰される独立、

 インドネシア人は、雑多な多民族国家であり、

 独立の中心はジャワ島のジャワ人だった。

 総人口に占める割合は小さく、ジャワ人もまた一枚岩ではなかった。

 どこの民族が主導権を握っても、ほかの民族は不幸になった。

 また同じジャワ民族でも主導権争いが起こり、

 民族独立の夢を薄れさせ、熱情を冷まさせる。

 押し付けられる現実に希望は打ち砕かれる。

 オランダはインドネシアを物理的に搾取していた。

 日本の軍政・占領政策は、神社仏閣参拝を強要し、

 民族性と伝統文化を精神的にも踏み躙る。

 それでも、オランダの植民地支配より搾取率が小さく少しだけマシだった。

 現地民は日本軍を永遠に続く植民地支配からの解放者と信じた。

 しかし、理不尽を目の辺りにすると我を通したり、

 利害に即した対応が迫られる。

 占領地で日本文化を強要すると現地民が反発し、腹を立て離反する。

 日本軍上層部が無知・無策・無能だと悲惨な状況になってしまう。

 そして、司令官の人柄にもよる。

 日本の本音は、地位と市場支配と資源会得であり、

 建前の大東亜共栄圏の自己矛盾の間で揺れ動く、

 中国戦線への増強で太平洋域の兵力は縮小し、自給自足体制が進んでいた。

 インドネシアの米拠出はインドネシア駐留軍の兵量を支えるだけにとどまる。

 しかし、食糧不足という困窮を免れても強制労働は行使され、

 飛行場、道路、鉄道建設。採掘が進む、

 日本人並みの労働意欲を現地民に求めると殺人に近く、

 労働者は過労死で死んでいく、

 「ちょっと、独立は待ってくれよ」

 「何で?」

 「悟れよ」

 「いや」

 阿吽の呼吸が通用するのは日本くらいだった。

 日本の本音が資源を求めてきたことを知らないのか。

 知ってて知らない振りをしているのか。

 建前の大東亜共栄圏を信じているのか。利用しているのか。

 相手の事情が、わかる民族なら近代化しやすく、植民地にされたりはしない。

 資源と市場がないと近代国家を維持できない現実が大きく重く圧しかかる、

 経済的な困窮、国際外交で味方を作れず敵を増やし、

 自由貿易立国の道が閉ざされ、

 軍事国家として侵略しなければならず孤立し、

 戦争に向かった日本であり、

 最悪、中国に次ぐ資源国、市場を有するインドネシア独立は避けたいが本音だった。

 インドネシアは資源の宝庫であることが災いし、独立が見送られていく、

 日本の唱える大東亜共栄圏は、動員用スローガンで国民高揚に過ぎず、

 これは、善悪の問題ではなく、日本国の生存権の問題といえた。

 大義名分の欧米諸国からの植民地解放は薄れ、

 相反する占領政策で独立運動を押さえていく、

  

  

 

 自給体制の進む南の島、

 その中核は、ラバウルとガダルカナルだった。

 中継基地のブーゲンビル島にも飛行場が建設されてた。

 完成しても整備士とパイロットが自動的に配置されるわけがなく、

 別の場所から引き抜くか、新規の部隊が必要最小限送り込まれる。

 南太平洋は欧州戦線から引き抜かれたイギリス艦隊が配備され、

 地中海・大西洋全域に皺寄せが押し付けられ損害が増えていた。

 とはいえ、日本海軍、イギリス海軍とも台所事情が厳しく動けない、

 仮に日本が機動部隊を動かし敵地を占領したとしても維持する事もできない。

 戦地から工員と整備士を引き戻さなければ

 2000馬力級エンジンの開発・生産は不可能だった。

 仮に引き戻しても優良工作機械は磨耗しており、

 工場は、ベテランの工員すら投げ出したくなるほど生産性が悪化していた。

 生産しても歩留まりが悪く、採算がとれず、

 製造された航空機は騙し騙し使っても稼働率が落ちていく、

 人材、資材、資本とも割り振りが利かずジリ貧だった。

  

 

 南の島

 日本兵が銛を持って海中を覗き込む。

 敵が上陸してくるまで陣地構築と強化で忙しい。

 とはいえ、日本軍将兵が刺身を食べたいと思っても誰が責められよう。

 慰安所もあるが下半身だけで生きていない、

 そして、日本軍将兵全部が好き者というわけでもない。

 まじめな人間が羽目を外す事があっても基本的にまじめだった。

 「少しは、養殖も進んだかな」

 日本人は、防潜網と魚網を利用し、養殖魚を試していた。

 現地のイモ類が苦手らしく、煮込んだタピオカ、タロ芋を魚に与える。

 ミミズの養殖は、まだ進んでいない。

 「・・・んん・・・ボチボチじゃないかな」

 「養鶏場と養豚場は、まだなんだろう」

 「穀物は、日本のが良いな」

 「タロ芋は、ちょっとな」

 「米、豆が育てば、味噌と醤油で日本食だぁ♪」

 「とうもろこしも、いけるらしいけど。麦がな・・・・」

 「ウドンとか、ソバも食べたいよ」

 日本軍将兵も人間、

 海外に出ると日本恋しいが募る。

 日本の輸送力のなさと農業国が幸いした。

 持久戦が決まると最前線でも自給自足が進む。

 地域によっては内地より、白米を食っていた。

 夜になると、B24爆撃機が嫌がらせで高高度から爆弾を落としていく、

 100式司偵を改造した夜間戦闘機が迎撃に飛び立っていく、

 爆撃の命中率も低いが迎撃の成功率も低い。

 しかし、たまには当たるときもある。

 「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」

 「水田に落とすなよ」

 「食い物の恨み〜」

 「何で撃墜したの?」 涙々

 「す、水田に落ちるとは思わないだろう」 汗

 「せっかく植えたのに?」

 「泣くなよ〜!」

 百姓なら泣くのが当たり前。

 B17爆撃機の残骸が水田を破壊して広がっていた。

 大和と同じだった。

 おとなしく爆撃されるより撃墜したばかりに被害が大きくなる、こともある、

 食い物の恨みは怖い、

 敵機を撃墜しても褒められるどころか、

 「「「「・・・・」」」」 じーーーー

 「「・・・・」」

 白い目で見られたりする事もある。

  

  

 フランス本国が降伏し、

 ヴィシー政府フランスはドイツに恭順を示していた。

 世界中のフランス領がヴィシーに従って中立を維持するか。

 自由フランスで米英の軍門にくだるか。

 勢力圏の違いで分かれていく、

 フランス領ニューカレドニア

 イギリス海軍の空母と戦艦が並んでいた。

 ニューカレドニアは自由フランス軍だった。

 空母イラストリアス 艦橋

 「・・・いつまでも南太平洋に張り付いていられませんよ。インド洋もです」

 「わかっている」

 「東部戦線でドイツ軍は、防衛線を構築し、余力も残している」

 「その上、ドイツ軍が接収したフランス艦隊も動かせる時期だ」

 「イタリアは、連合国に降伏するのでしょうか」

 「わからんな。ムッソリーニの権威は失墜している」

 「しかし、ロンメル軍団がイタリアに駐留していると、イタリアの戦線離脱は難しいだろう」

 「イタリアとの話しは、ついていないので?」

 「いや、話しは伝わっているがイタリア人が信用できん」

 「確かに、まだ、ゲルマンの方が戦力比で信用できます」

 「それに日本軍もだな」

 「日本が空母戦力で優勢なのに攻めてこないのは、不思議です」

 「兵站がガタガタで維持できないのだろう」

 「ニューカレドニアを占領しても戦力を維持できまい」

 「燃料が尽きていて補給もできんよ」

 「攻勢の限界ということでしょうか?」

 「日本は、工業力が脆弱すぎて、中国や東南アジアの資源を運用しきれていない」

 「戦艦大和は巨大戦艦だそうですが」

 「巨大な戦艦を建造できても、まともな水冷エンジンを造れない国だ」

 「不時着した日本製エンジンを本国に運んだ」

 「評価はイタリアを除いて、列強中最低だそうだ」

 「その割に我が国のプリンスオブウェールズとレパルスを撃沈したのですから手強いです」

 「ふ まともに戦えば、このイギリス機動部隊も全滅だな」

 「・・・・・」

 「まぁ 心配は要らないだろう。日本の国力は把握している」

 「戦前と違って航空戦力の評価は適切だし、間合いは見切っている」

 「日本海軍は、ここまで来ても爆撃が精一杯だし」

 「日本陸軍は、ニューカレドニアに届かんよ」

 「こっちが逃げれば日本海軍は燃料を浪費して負けだ」

 「ですが、もう少しマシな艦載機が欲しいものです」

 「・・・・まったくだ」

 「シーファイアとバラキューダは性能が駄目駄目」

 「F6Fヘルキャット、ヘルダイバー、アベンジャーは大きく重過ぎる」

 「F4Fワイルドキャットで辛うじて使えますがね」

 「イギリス機動部隊は、意外と日本の艦載機が合うかもしれないな」

 「やわ過ぎませんか」

 「隼V型は悪くないそうだ。キスカ沖海戦で確認されているがね」

 「確かワイルドキャットを翻弄し、ヘルキャットと互角にせめぎ合ったとか」

 「悪くないな」

 「確かに」

  

  

 海軍航空技術の研究・開発に重点が置かれたエリート航空技術集団があった。

 海軍航空技術廠、略して空技廠と呼ばれる。

 基本的に生産に携わらない。

 しかし、対欧米諸国との技術差に追いつこうと予算が組まれる。

 予算が動くと利権が生まれ、誰かの懐が膨らみ、

 横須賀海軍工廠造兵部飛行機工場で生産に口を出すまでになった。

 しかし、陸軍が主導権を握って、規格を押し付けると状況が変わる。

 陸軍が彗星の水冷エンジン製造ラインを飛燕の水冷エンジン製造ラインに持って行き、

 海軍航空技術廠は手足をもぎ取られてしまう。

 もっとも、海軍側にも言い分と気概があるらしい。

 陸軍航空工廠に規格を押し付けられ、銀河を破棄させられても。

 泣きたくなるような状況で品質と材質まで押し付けられまいと頑強に抵抗する。

 数え切れない口論、数十回の激論、数回の取っ組み合い。

 さらに前線の陸軍指揮官の推薦状を取り付け、

 一部の規格品を勝ち取る。

 彼らが陸軍仕様の規格品を組み合わせ、

 飛燕を海燕に改造した原動力であり。

 空冷エンジンを使って彗星を作り直している原動力となった。

 

彗星 (空冷)

馬力

(hp)

自重 / 最大重量

(kg)

速度

(km/h)

航続力

(km)

全長×全幅×全高

(m)

翼面積

(u)

武装

爆弾

(kg)

乗員

1340 2500 / 3750 560 1500〜2800 10.22×11.50×3.30 23.60 7.7mm×3 500 2

 空冷の彗星爆撃機が離陸していく、

 水冷エンジンの彗星より性能で劣る、代わりに稼働率が向上し安定する。

 「・・・・規格の割に悪くない」

 「量しか考えない陸軍と、いい加減に戦争したくなりましたよ」

 「陸軍に言わせれば海軍は質ばかりで非現実的だそうだ」

 「もう耳にタコができるほど聞きましたよ」

 「思い出しただけでも徹甲爆弾を陸軍省に落としたくなる」

 「91式36cm徹甲弾をですか。気が晴れますね。きっと」

 「あいつら、高飛車に自分の言い分ばかり。利己中で押し付けやがって・・・」 怨恨

 「伊勢・扶桑型を空母に改造して、砲弾が余ったのが幸いしましたね」

 二人の頭に浮かぶ爆発の光景は、アメリカ空母でなく、陸軍省の建物だった。

 陸海軍の確執は利権の確執、利害の確執だった。

 前線と違って内地は近親憎悪が大きく、

 敵は毛利でなく、本能寺にあるらしい、

  

 

 

 独伊軍は、北アフリカ戦線から敗退し、

 イタリア半島は厭戦気運が広がっていた。

 アメリカ・イギリス軍は北アフリカ上陸後、イタリア海軍を舐めきっていた。

 本来ならば、首相ドゥーチェ(統帥)の立場を追われ、

 幽閉されてもおかしくない状態だった。

 元々、鋼鉄協定(独伊軍事同盟)が結ばれて

 “ドイツ第3帝国イタリア大管区長” と陰口を叩かれていた。

 いまのイタリア軍は見る影もなく戦意が低下し、

 アメリカ・イギリス海軍は計算する。

 大西洋・地中海戦線は、一時的なら旧式艦艇と航空戦力で十分足りると。

 新型艦艇の多くはインド・太平洋へと回航されていく、

 米英戦略爆撃部隊は爆撃目標を地中海側に変え、

 ドイツ・イタリア空軍の防空に揺さぶりをかけた。

 ツーロン港空襲、

 イタリア半島の海軍工廠空襲、

 非戦略拠点への空襲などなど・・・・

 

 ツーロン港上空

 ライトニング戦闘機とメッサーシュミット、フォッケウルフが航空戦を繰り広げていた。

 「双胴の悪魔だ。エンジンを2基も使って、なんで、あんなに造れるんだ」

 『正面からぶつかるな』

 『メッサーシュミット隊は回り込め。フォッケウルフ隊はB17を狙え!』

 「了解!」

 メッサーシュミットとフォッケウルフは質で勝っていた。

 しかし、数が少なく空中戦の主導権を握れない、

 ライトニング戦闘機とメッサーシュミットが時速600km以上で擦れ違いざまにロール(横転)し、

 有利な高度とベクトルに向かって主翼舵を精一杯引いて旋回していく、

 主翼舵による急旋回は、垂直翼舵を使った旋回より速く小回りが利く、

 機体の横転速度が速いほど、主翼舵で急旋回が出来た。

 当然、機体を右に左に傾け、

 ロール(横転)させ主翼で旋回する方が空中戦で有利になる。

 そして、ドイツ戦闘機はロール(横転)速度の速い機体が多い、

 太平洋では、お目にかかれない高速機動で航空戦が展開される。 

 フォッケウルフがB17爆撃機に追いすがって機銃掃射を加え、

 ツーロン港から対空砲がB17爆撃機を包み込む。

 「あっ あぶねぇ!」

 フォッケウルフが離脱していく、

 爆音と機銃掃射、

 いくつもの爆弾が風を切って落ち、

 連続した爆発音が港に響いた。

 ツーロンの港に何十もの水柱が立ち、海水が霧となって湾内に篭もった。

 イタリア戦艦リットリオの甲板にドイツ将校が二人立っていた。

 「・・・・今日来るとはね」

 「ある意味、好都合だね・・・」

 バチッ! バチッ! 何かが、甲板にはじける。

 「・・・流れ弾か、危ないな・・・」

 黒い塊が放物線を描き、爆弾が空を切って落ちてくる。

 身の竦む音で、砲撃恐怖症や、爆撃恐怖症になる者もいる。

 戦場慣れすると自分に向かっているのか、

 別に向かっているのか、おおよその見当が付く、

 「・・・作戦は、上手くいくだろうか?」

 「この空襲で成功率があがると良いな」

 近くにいたイタリア海軍の680トン級コルベットに爆弾が直撃した。

 爆音と爆炎。

 火薬の臭いが混ざった爆風が海水の飛沫に混ざって漂う。

 コルベットは、燃え崩れ、

 艦底まで破壊されたのか、兵士と一緒に葬られ、沈んでいく、

 明日は、我が身。

 同情より、非情で正気を保たなければならず、

 感情や表情を乏しくさせる。

 「・・・・被害もあるな」

 「その方が良い。それなりの被害で敵も安心する」

 「そうだな・・・・」

 

 ツーロン港

 ドイツ艦隊

  戦艦1隻、重巡2隻、軽巡2隻、水上機母艦1隻、駆逐艦16隻、

  潜水艦06隻、小艦艇10隻、計38隻、

   戦艦ストラスブール、

   重巡洋艦コルベール、フォッシュ、

   軽巡洋艦ラ・ガリソニエール、ジャン・ド・ヴィエンヌ、

   水上機母艦コマンダン・テスト、

   駆逐艦パンテール、ランクス、ゲパール、ヴォーバン、ヴェルデュン、

   駆逐艦ヴァルミ、ジェルフォー、ヴォークラン、ケルサン、ランドンターブル、

   駆逐艦モガドル、ヴォルタ、ラ・パルム、ボルドレー、マムリュク

   駆逐艦カスク

   水雷艇ラ・バヨネーズ、ラ・プールシュイヴァーント

   潜水艦ルドゥタブル3隻、ヴァンジュール、ガラテ、

   潜水艦ウーリディス

   駆潜艇CH1

   掃海通報艦エラン級

   設網艦ル・グラディヤトゥール

   補給艦ゴロ

 

 イタリア艦隊

   戦艦3隻、旧戦艦3隻、軽巡9隻、水上機母艦1、駆逐艦28隻。

   コルベット20隻、水雷艇30隻、

    戦艦リットリオ、ヴィットリオ・ヴェネト、ローマ

    旧戦艦カイオ・デュイリオ、アンドレア・ドリア、ジュリオ・チェザーレ

    軽巡洋艦カドルナ、モンテクッコリ、ポンペオ・マーノ、ダオスタ、サヴォイア

    軽巡洋艦ガリバルディ、アブルッチ、シピオーネ、アッティリオ・レゴロ

    駆逐艦カミチア・ネラ、カラビニエーレ、コラッツィエーレ、フチリエーレ、ジェニエーレ、

    駆逐艦グラナティエーレ、レジオナリオ、ミトラリエーレ、スクアドリスタ、ヴェリーテ、

    駆逐艦アルフレド・オリアーニ、ジョベルティ、マエストラーレ、グレカーレ、フレッチア、

    駆逐艦ダルド、アントニオ・ダ・ノリ、ニコロソ・ダ・レッコ、ピガフェッタ、ヴィヴァルディ、

    駆逐艦ニコロ・ツェーノ、トゥルビーネ、エウロ、クリスピ、ジョヴァンニ・ニコテラ、

    駆逐艦リカーソリ、リボティ、クインティノ・セラ

   

 アメリカ空軍は、ツーロンを空襲した自己満足と、

 失った損失の大きさに身を震わせ、引きあげていく、

 その夜、独伊連合艦隊が出撃した。

 

 連合軍が、独伊連合艦隊に気付いたとき、

  

 ジブラルタル沖海戦が始まる。

 ジブラルタルの岩山(標高426m)から、ドイツ・イタリア艦隊を見下ろすことができた。

 旧戦艦に乗せられていた中間砲の45口径234mm砲10門と45口径152mm砲8門が火を噴き、

 砲撃の爆炎と噴煙が岩山全体を包む。

 岩山の中腹にある要塞砲18門は、強靭な防御壁に守られていた。

 高台にある分だけ射程も長く命中率もいい、

 しかし、艦隊の統制射撃のようなシステマチックな砲撃ではなく。

 1門、1門、バラバラ。1発撃っては着弾を確認し、

 砲身の仰角、俯角、方位を再計算し、

 30ノットで蛇行しつつ迫るイタリア戦艦を計測し、

 砲身を未来予想位置に動かして発射する。

 高速で、しかも蛇行するため、水柱に包まれても、なかなか当たらない。

 この時期のジブラルタルは、ほとんどの戦力が北アフリカに転用され、

 要塞守備隊は少なめで、

 旧式の航空機100機が配備されていた。

 艦隊は、戦艦ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤ、

 巡洋艦4隻、駆逐艦8隻。小型艦10隻、魚雷艇10隻で、

 地中海最強の独伊連合海軍と最悪の状態で立ち向かう。

 ウォースパイト 艦橋

 「アルジェの戦略爆撃隊はどうした! 何をやっている?」

 「整備補給が終わり次第、救援に向かうそうです」

 「基地航空部隊を出撃させて、独伊連合艦隊を攻撃しろ!」

 「ツーロン爆撃の痛手から立ち直っていないようです」

 出撃していく航空部隊は対艦攻撃力の劣るパイロットばかり、

 頼りは要塞砲だった。

 1870年に製造された100トン砲(22口径450mm砲)は論外。

 45口径234mm砲10門と45口径152mm砲8門が頼りだった。

 戦艦は要塞砲と撃ち合ってはならない、

 これは、損失比で戦艦が不利なため、軍事常識、基本といえる。

 しかし、潰しの利く、捨てても惜しくない海軍戦力があった場合は別だった。

 そして、イタリア人が自棄になったとき・・・・

イタリア海軍 VS イギリス海軍
リットリオ ウォースパイト
ヴィットリオ・ヴェネト ヴァリアント
ローマ マラヤ
30ノット 20ノット
(50口径380mm3連装3基9門)×3隻 (42口径380mm連装砲4基8門)×3隻
     
     

 

 50口径と42口径の口径差は、貫通力の差、

 27門と24門の砲数差は攻撃力の差だった。

 ヘタレなイタリア艦隊と規律に満ちたドイツ艦隊は強襲の勢いがあった。

 この海戦で、兵法家自慢の計算式と、

 考察力から抜け落ちてきたイタリア艦隊は、何故か底意地を見せた。

 これまでランチェスターの法則を無視してきたイタリア艦隊が何故か法則に准じる。

 イタリア海軍は奇跡的に兵器の性能通り、スペック通りに戦い、

 戦意と戦闘力で長じるイギリス艦隊を圧倒していく、

 やけくそな回避運動で突っ込んでくるイタリア戦艦の砲弾がイギリス戦艦に命中する。

 リットリオの主砲弾がウォースパイトの艦体を貫いて炸裂した、

 弾薬庫の誘爆が艦全体に火災を起こしていく。

 そして、イタリア旧戦艦カイオ・デュイリオ、アンドレア・ドリア、

 ジュリオ・チェザーレ3隻が支援砲撃を開始、

 ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤの艦橋施設を破壊し、ボロボロに押し崩していく。

 イギリス戦艦部隊は、統制射撃が不可能となり、

 散発的な砲撃が撃ち出されていく、

 イギリス巡洋艦4隻、駆逐艦8隻。小型艦10隻、魚雷艇10隻は勇戦するも、

 圧倒的な戦力差の前に次々と沈められていく、

 イギリス空軍の空襲も始まっていた。

 戦艦の主砲は大きな衝撃波を出すため、

 砲撃中に遮蔽板のない対空砲は使えない。

 それでも中型艦、小型艦の対空火器で防空が行われ、

 航空機から爆弾と魚雷が落とされるが弾幕と回避運動で当たらず。

 イギリス戦艦ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤは戦闘能力を失い沈んでいく、

 独伊艦隊の砲撃目標がジブラルタル要塞へ移っていく、

 艦砲射撃がジブラルタル要塞に命中し、

 岸壁に爆発が起こり、抉り取られ崩されていく、

 戦艦を沈める徹甲弾を陣地に使うとどうなるかの見本だった。

 ジブラルタルの要塞砲は、45口径234mm砲10門と45口径152mm砲8門だけではない。

 解体した戦艦から外した旧式320mm砲や140mm砲も配備されていた。

 しかし、遮二無二迫ってくるイタリア艦隊の砲撃に圧倒される。

 イタリア艦隊は、ジブラルタル要塞の西(平地)側へ回り込んでいく、

 防潜網が幾重にも仕掛けられていた。

 それを刃を持った中型艦と小型艦が切り裂いていく、

 中には、スクリューに絡みついて止まった艦艇もあった。

 ジブラルタル要塞は地中海側、東側に切り立った要害を見せていた。

 しかし、西側は、緩やかに傾斜していた。

 砲撃は、そこからも受けるが脅威となる234mm要塞砲は俯角が取り難くなっていた。

 高速で動くイタリア艦隊は防潜網を切りながら通過してるのか速度が低下し、

 中口径の砲撃を受けやすくなっていた。

 米英海軍とも通過しやすいように防潜網の張っていない海面もあった。

 たまたま、通過するイタリア艦艇は、すんなりジブラルタルの海岸に到達する。

 アメリカ戦略爆撃部隊が北アフリカのアルジェ基地から飛び立ち、

 独伊連合艦隊を爆撃する、

 しかし、水平爆撃の命中率は低かった。

 イタリア旧戦艦カイオ・デュイリオ、アンドレア・ドリア、

 ジュリオ・チェザーレが西側の緩やかな斜面側の海岸線へと突入し、

 ドイツ上陸部隊を乗せた軽巡6隻、駆逐艦18隻。

 コルベット20隻、水雷艇30隻も次々と海岸に乗り上げた。

 ジブラルタル要塞攻略はイタリア海軍を半ば磨り潰して成功し、

 イタリア艦隊に搭乗していたドイツ軍兵士が艦艇の火力支援を受けて上陸していく、

 ドイツ軍は陸戦になると強く、

 ジブラルタルの西海岸を制圧していく、

 乗り上げたイタリア艦艇から飛び出したイタリア水兵も自棄になっていたのか。

 ドイツ製の武器弾薬を供給されていたのか、珍しく勇敢だった。

 ジブラルタル守備隊は、徐々に制圧されていく、

 戦艦リットリオ、ヴィットリオ・ヴェネト、ローマは囮となってイギリス戦艦と要塞砲の砲撃を受け、

 ボロボロになりながら砂浜に乗り上げた。

 独伊駆逐艦は浮かぶだけのウォースパイト、ヴァリアント、マラヤに魚雷を命中させて撃沈し、

 ジブラルタル要塞はイタリア海軍の後先考えない戦いぶりに末期的な状態へと陥る。

   

 ドイツ・イタリア艦艇のほとんどがジブラルタルに乗り上げていた。

 海上に浮かぶ独伊連合艦隊は最初から乗り上げを計画していなかった艦艇ばかりだった。

 ドイツ艦隊、

  重巡コルベール、フォッシュ。2隻

  軽巡ラ・ガリソニエール、ジャン・ド・ヴィエンヌ。2隻

  駆逐艦6隻

 イタリア艦隊

  軽巡アッティリオ、ポンペオ、シピオーネ、アブルッチ、

  軽巡ガリバルディ、ダオスタ、サヴォイア、7隻

  駆逐艦14隻、

 

 ドイツ地中海艦隊

 軽巡ラ・ガリソニエール 艦橋

 「・・・・終わったな」

 「ジブラルタル占領ですね」

 「ストラスブールは海峡を抜けたようだ。引き揚げよう」

 「はっ!」

 ドイツ・イタリア軍のジブラルタル占領が決定的になったとき、

 イギリス守備隊は要塞砲を自爆させ、

 ジブラルタル要塞の断末魔が海峡に轟く。

  

  

 北大西洋

 ストラスブール 艦橋

 ゲルハウス艦長は、ジブラルタルに向かっていた護衛艦4隻、輸送船12隻を撃沈、

 微笑んでいた。

 「ヘラクレスの柱を抜けたか」

 「ゲルハウス艦長。おめでとうございます」

 「帰りはジブラルタルを制圧したあとになります」

 「北アフリカの米英連合軍は、補給に窮するはずです」

 「たぶん、スエズ経由で北アフリカ戦線に輸送されることになるな」

 「ストラスブールとイタリア潜水艦100隻で北大西洋を荒らせば戦局を巻き返せると思います」

 「どうかな、戦艦ビスマルクが撃沈されたのだ」

 「アメリカのエセックス空母とインディペンデンス軽空母も追撃してくるだろう」

 「それに護衛空母の艦載機を撃退できるかどうか・・・」

 「やはり、イタリア潜水艦を主力で逃げ回りますか」

 「そうなるだろうな」

 「本国のドイツ海軍が動きやすいようにアメリカとイギリスの旧式戦艦を出し抜こう」

 「ジブラルタルを食い破って出てきたのですから、イギリスの本国艦隊も対応に苦慮するかと」

 「イタリア海軍も少しは役に立ったか」

 「ほとんど脅迫に近い作戦でしたから、どうなる事かと思いましたよ」

 「どの道、降伏したとしても軍艦は全て米英に奪われる」

 「どうせ奪われるのなら軍人として戦うべきだよ」

 「同時にスエズに戦艦を沈める作戦も、あったのですが」

 「損害の大きさからジブラルタルに集中して正解でした」

 「戦力は集中が原則だからな」

 「しかし、スエズを何とかしても、大西洋側のモロッコからアルジェに輸送ルートを造るだろう」

 「アメリカの物量は、度を越えていますからね」

 「まったく・・・・」

 「ですがジブラルタル沖海戦。イタリアに軍人がいるとは思いませんでした」

 「イタリア軍も自棄になると怖いな」

 「イギリス軍とアメリカ軍も、そう思ったでしょう」

  

   

 ローマ 迎賓館

 ジブラルタル沖海戦でイタリア海軍は磨り潰されていた。

 ジブラルタルを占領してもジブラルタルは要塞としての機能を失っている。

 それでもストラスブールとドイツ(フランス)潜水艦3隻、イタリア潜水艦50隻が海峡を突破。

 北大西洋で通商破壊を開始していた。

 白人と日本人。

 「・・・どうでした。シベリア鉄道の旅は?」

 「広過ぎますね」

 日本人が日本とソビエトのお土産を白人に渡す。

 「東部戦線の報告と同じですな」

 「・・・戦局は、一時的なものでジブラルタル要塞は脆弱。良いとはいえないね」

 「ジブラルタル要塞をイタリア海軍と交換ですからね」

 「随分と思い切った作戦です」

 「イタリアの大型潜水艦が最新技術と工作機械を日本に輸送するでしょう」

 「助かります」

 「どうだろうか。日本海軍にインド洋を制圧してもらえないだろうか」

 「北アフリカのアメリカ、イギリス軍を日干しにできる」

 「いま、作戦は、一時的なものと」

 「一時的だが、もう少し延ばしたい」

 「日本機動部隊がインド洋に繰り出せばイギリス海軍の帰還は遅れる」

 「そうすれば、ティルピッツ、シャルンホルスト、ポケット戦艦も通商破壊に繰り出せるだろう」

 「随分と大掛かりな飽和攻勢になりそうですな」

 「日本海軍は、何隻ほどインド洋に繰り出せる?」

 「そうですね。一個機動部隊は確約できますよ。戦況が許せば、さらに・・・」

 「噂の西オーストラリア上陸作戦かね」

 「あそこに連合軍の航空部隊と陸上部隊を配備させただけ、他の戦線が有利になりますから」

 「確かにそうだな」

 「ジブラルタルは、孤立しているので?」

 「微妙だな」

 「スペインと10年の租借条約を結んで参戦を誘うというのもあるが、今は難しいかもしれない」

 「しかし、陸続きだといろいろと、やりようがあってね」

 「必要なものは、スペインから購入できるだろう」

 「ジブラルタルがイギリス・アメリカ戦艦部隊に砲撃された場合は、どうされるのですか?」

 「イタリアの沿岸潜水艦を50隻ほど配備する」

 「大西洋側でもUボートをジブラルタルに向かう航路に集めている」

 「それと、機雷網、防潜網は、いま、やっている」

 「航空機の進出は、これからだ」

 「要塞砲は、まだ見込みが立たない」

 「アルジェのアメリカ戦略爆撃部隊の空襲は?」

 「対空砲だけは、たくさん持って行ったよ」

 「大型爆撃機は、ああいう、狭い半島を通過して空襲すると損失が大きくなる」

 「それに小回りの利かない大型爆撃機は、中立国のスペインの領空を通過しやすい」

 「国際問題になるだろうね」

 「・・・怖いのは、エセックス空母になりますね」

 「潜水艦の哨戒線の向こう側から空襲できるからな」

 「イタリアとドイツから対空砲を運んでいるが、小型機を落とすのは大変だろうな」

 「ジブラルタルは直ぐ奪回されそうですか?」

 「敵前上陸作戦ができる部隊は軍隊の中でも少数派でね」

 「敵が特に待ち構えている場合は、それこそ戦艦や軍艦ごと突入しなければ難しい」

 「並みの兵士だと怖くて、すくみ上がるだろう」

 「確かに」

 「アメリカとイギリスに戦艦をジブラルタルに使わせれば大陸反攻が遅れる」

 「その分、有利になりそうですね」

 「ああ」

   

  

  


 月夜裏 野々香です。

 『日清不戦』 で白人側。

 『ミッドウェー海戦のあと』 で、有色人種側。

 そして、この『青白き炎のままに』 で、中国側です。

 なぜ、中国側なのか。正直、可能な限り避けたい。

 しかし、当時の日本がどうして中国大陸に、のめり込んで行ったのか。

 こういうことも、書かないと片手落ちでしょうか。

 そして、日中友好の可能性が本当にあるのか。

 暗中模索。

 いや、地獄の釜に・・・・

 いや、死中に活で・・・・・

  

 インドネシア

 組織に依存する、イヌ科の人間と、

 利益に依存する、ネコ科の人間に分けやすい。

 

 イヌ科は、体制や権威に対し忠誠を尽くし。

 自己満足的なエゴや日本を現地に押し付けていく。

 全体の利益を考えての行動ならマシで、上位者に褒めてもらいたい一心もあったり。

 出世しやすいのだが、皺寄せは、弱者に押し付けられる。

  

 ネコ科は、住んでいる国土や文化を好んでいるだけ。

 犠牲を強いられやすい権威より、己の利を求めやすい。

 権威に対して、それほど敬意を払わず、上位者の不評を買いやすかったり。

 反発するように拝金主義になってしまう。

 本国無視で、現地と癒着してしまう場合もある。

 こちらも、利己主義的に弱者を利用しやすい。

  

 封建社会、自由・資本主義社会、共産主義社会に限らず、

 イヌ科も、ネコ科も存在する。

 一方は、維持・拡大を志向。

 一方は、改革・調和を求めやすい。

 どちらも、国を支える上で必要なのだろうが行き過ぎると、外地で通用しない。 

 どちらが良いと、いえないのだが程々の昼行灯である方が、マシな結果になったりする。

  

  

 工作機械

 日本はね・・・

 あちらを立てれば、こちらが立たず。

 資源も人材も割り振り利かない貧乏国。

 悲哀が聞こえます。

 陸軍も、海軍も、怨恨が入って、さあ大変。

 何を考えているんでしょう。

 そういえば、いまの永田町も・・・・・・

 いや、よくある話しで・・・・・

  

  

 南の島

 ヤシ。果樹で、マンゴー、グアヴァ、タヴァ、ポリネシアン・プラム、柑橘類。

 バナナ、タロ。

 パパイヤ、ヤウテア、キャッサバ、ブレッド・フルーツ。

 ポリネシアン・アロールート、タイヘイヨウイヌビワ。

 ココヤシ。パンダナスなど、作物があるようです。

 しかし、餓島(ガダルカナル)と表現されているように楽園ではないです。

 史実と違うのは、アメリカ軍が上陸しておらず。

 少しばかり、自給自足体制が進んだガダルカナルです。

   

 欧州戦線。

 ジブラルタル要塞。

 要塞砲が、どの程度か、資料がないので、

 シンガポールが5門なので18門くらいだろうと、適当に・・・

 正確な情報があれば、変えます。

 イタリア戦艦は、要塞に接近するまで回避運動しながら高速で接近するので、

 それほど、命中しないかと・・・・

 とりあえず。イタリア海軍を磨り潰して、ジブラルタル要塞を制圧。

 海峡を突破して、ストラスブールと潜水艦を北大西洋に出撃させました。

 ジブラルタル要塞は、裸の状態で取り残されました。

 アルジェ基地の米英戦略爆撃部隊はジブラルタルの対岸に移動するか、検討中。

 イギリスのネルソンとロドニー。

 R級戦艦リヴェンジ、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・ソヴァレン4隻の反撃を受けるかもです。

 因みにラミリーズは、輸送任務で地中海側に取り残されてしまいました。

 それとも、アメリカの旧式戦艦。

 ストラスブール追撃戦は、エセックス型、インディペンデンス型でしょうか。

 護衛空母に撃沈される可能性もありますが、ストラスブールにがんばってもらいます。

  

 

 

   

 

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第14話 1943/07 『腐敗病』

第15話 1943/08 『ジブラルタルの嵐』

第16話 1943/09 『大海のストラスブール』