月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

第18話 1943/11 『もう、開き直り』

 西オーストラリア沖海戦でアメリカ機動部隊は壊滅する。

 そして、日本第二・第三機動部隊も、艦載機パイロットが大量損失、

 艦隊の多くも大損害を受け戦場から後退していた。

 

 西オーストラリア海岸線、

 オーストラリア軍は、ダーウィンとパースから陸路で進み、

 上陸した中国軍を狩りだしてく、

 白人が黄色人種をサル以下と考えているのか、

 降伏しても、わずかに命を長らえるだけ、

 もっとも、それだけの事をしたのだから、とも、言えなくもない、

 しかし、例え、事をしていなかったとしても結果は変わらない、

 上陸した中国軍は内陸へと後退していく、

 オーストラリア軍将兵が捕虜にした中国兵を尋問していく、

 「・・・中尉。上陸部隊は、旧国民軍、共産軍の捕虜」

 「そして、山賊やアヘンの密売人など罪人ばかりのようです」

 「そいつらがなぜ、我が国を攻撃してくる」

 「持っているのは武器弾薬だけで食料も水も無しですから・・・・村を襲うしか・・・」

 「食料を得る為に村を襲ったというのか」

 「そのようです」

 「くそっ! 日本人の船頭や機関士は、どうした!」

 「船を操縦して乗り上げた者もいたはずだ」

 「洋上で大型船に乗り移って逃亡した模様です」

 「なんて、やつらだ」

  

  

 シンガポール

 現地民の多くは下働きが多く、華僑は商売に励む。

 日本が頭脳と骨なら華僑は視神経、現地民が肉体だった。

 大東亜共栄圏と言っても実態は独立から遠い、

 これは日本のせいばかりとはいえない。

 元々、そういった国家意識に欠けていた地域だった。

 数人の陸軍兵士が現地の娘に絡み始める。

 「かわいいなぁ」

 「本当にかわいい」

 「NO!」

 「ノー だって。どうしよう〜」

 「英語だけど、それくらいなら、わかるよ」

 「やっぱり、ここは日本との友好を・・・・」

 ・・・舌なめずり・・・・不意に人影が現れる。

 「・・・・やめろ! それが大東亜共栄圏か!!」 海軍将校

 「「「「・・・・・・」」」」

 ちっ!

 舌打ちしながら陸軍兵士たちが引き揚げる。

 人間、高ぶると腐りやすい。

  

 ヤシの日陰に入ると、強い日差しが和らぎ、南国の心地よい風が流れていく、

 南国の果実をいくつか、ミックスする。

 いろんな味が混ざり合って舌や喉越しを楽しませたりする。

 現地民との関係を見れば明らかであり、

 建前の大東亜共栄圏は、薄汚れたスローガンへと変わっていく。

 無論、大東亜共栄圏のスローガン通りにやる日本人もいる。

 そうすると案の定。日本軍上層部は煙たがる。

 陸軍は、日ごろ使っている建前を言われて窮し、

 邪魔しないけど、ご勝手にという。

 まだ、邪魔しないだけ良心的なのだろうか。

 戦果を上げた日本機動部隊の艦隊乗員は休息していた。

 「・・・ひどいことになったね」

 「第二機動部隊・第三機動部隊ともに修理改装だよ」

 「せっかく編成した艦載機パイロットをまた失った」

 「敵機動部隊を攻撃するたびに艦載機パイロットのことで小言じゃ・・・」

 「・・・おまえ、艦載機パイロットの養育、代わりにやるか」

 「いや、いい・・・できそうにない」

 「飛鷹、隼鷹、龍鳳でパイロットを養成するがインド洋方面の配備は厳しくなるな」

 「武蔵の第五機動部隊を回せば・・・」

 「瑞鳳、龍驤もパイロット養成に回されるよ」

 「第二・第三機動部隊をとりあえず、使える艦隊で再編成して待機だな」

 「また、待機か」

 「燃料がないんだから動くなよ」

 「艦載機パイロットもか・・・武蔵を投入できたら良かったのに・・・」

 「燃料がないんだから武蔵は迎撃防御にしか使えんよ」

 「西オーストラリアは近かったのに・・・」

 「陸軍の出し渋りだよ」

 「武蔵出撃なら、あんな大損害はなかったよ」

 「大陸鉄道が完成すればシンガポールから釜山まで繋がる」

 「そうなれば、輸送で余裕ができるよ」

 「ごもっともで・・・それで、ドイツは、満足したって?」

 「それはイギリス機動部隊しだいだな」

 「ストラスブールはノルウェーに追い込まれている」

 「ジブラルタルは対岸のアメリカ軍と撃ち合って、潜水艦以外は通過できず」

 「イギリス機動部隊は、来るの?」

 「いや、しばらく、北大西洋だろうな」

 「ジブラルタルを攻撃しないんだ」

 「旧戦艦と空母艦載機で爆撃する計画は、あるかもしれない」

 「ドイツ側もジブラルタルに潜水艦を配備しているからな」

 「ジブラルタルを回復しようとしたら大変な戦いになるだろうね」

 「だが、護衛空母がいたらUボートも苦戦するだろう」

 「ジブラルタルから潜水艦へ空気と電力を送り込んでいるそうだ」

 「有線でつなげているから戦えるだろう」

 「独伊海軍は、ジブラルタルが使えなくても封鎖できれば負けないだろう」

 「なるほど」

 南の国は、どこまでも青く広がっていた。

 西オーストラリアの海岸線では、中国軍が駆逐されていた。

 連合国軍、枢軸国軍は互いの航路を脅かす通商破壊作戦を継続し、

 前線への輸送を確保する為、熾烈な海上護衛戦が展開される。

 インド洋で日米機動部隊が磨り潰された後、

 残存戦力を有する日本海軍は攻勢力を消失して身動きとれず。

 大きな動きは取れなくなっていく、

  

  

  

 

 ピンのあるところがクルスク

 東部戦線

 互いに戦力を拡充させて独ソ両軍は睨み合う。

 ソ連軍側の増強のがわずかに早く、

 ドイツ軍は、イタリア軍40万の援軍を受けて防衛線を構築していく、

 突出部のクルスクは独伊同盟軍によって包囲されていた。

 イタリアは、ジブラルタル海峡の封鎖で余裕ができ、

 イタリアからバルカンを抜けてオデッサに達する鉄道に野心を燃やし、

 北アフリカの失地を回復するため兵力を東欧に向けた。

 結局、東部戦線への輸送は鉄道輸送が主であり、

 イタリアがオデッサまで鉄道を敷けるとすれば、それが、国益の延長になった。

 利己主義的なイタリア人は、己の欲望に正直なのか、

 利権を守ろうと必死に鉄道を延ばしていく、

 北アフリカでの損を、どこかで帳尻を合わせなければ納得できない。という動機。

 ドイツとイタリアは、ソ連の脅威をチラつかせ、東欧諸国を妥協させてしまう。

 ヒットラーはジブラルタルの件でイタリアに妥協したといえる。

 イタリアの利権と東部戦線防衛を被せると、イタリア人も張り切る。

 キエフ ドイツ軍司令部 

 「・・・・イタリア軍は大丈夫でしょうか」

 「気質がアレですから難しいね」

 「マカロニが凍ったら戦意を失いそうだな」

 「ドニエプル防衛線を構築させている」

 「最悪でもあそこで東部戦線を止めて見せますよ」

 「南側は、それでも良いが北側は平野部で厳しい」

 「それでも河川はありますから」

 「夏はともかく、冬は凍るだろう」

 「シュトルモビク爆撃機とT34戦車の大群が押し寄せてくる」

 「電撃作戦を仕掛けてくるはずだ」

 「計画では、機動防御ですので空襲と同時に反撃しつつ後退」

 「ソ連軍の脆弱な側面に打撃を与えながら攻勢の限界を待ってスツーカ爆撃機を投入」

 「火力を集中して機甲師団による一点突破」

 「電撃戦でソ連軍の補給線を断って逆包囲してやりますよ」

 副官が自分本位で図上演習用の駒を動かしていく、

 T34戦車が、どんなに優秀でも行動距離は300km。

 単純に燃料と弾薬が切れる前に補給しなければ戦車は止まる。

 常識的な理屈が応用できた。

 また、歩兵の前進速度もあった。

 航空機の前進は前線を確保してからで、さらに遅れる。

 「計画通り、いけばな・・・」

 しかし、ソ連軍の戦車が多ければ一点に対し、

 車掛り的に五月雨式な突進もある。

 縦深陣地を何層敷いても不安がよぎった。

  

  

 ビルマ戦線

 膠着した戦線の少し後方で、鼻歌が聞こえる。

 何をやっているかというと

 図面を持った男が木材を寸法どおり組み合わせて金槌を打つ、

 車輪が付いて移動させやすくしているのか、骨組みは細い。

 そして、油紙を被せると出来上がり。

 「・・・・・できた」

 「「「「おおおおお〜!」」」」

 パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ

 「ドイツの4号戦車だ」

 「かっこいい〜」

 「でかぁ〜」

 にんまり笑う兵隊たちは大工の息子たち、

 色を塗り、何重にも油を上塗りした絵心のある兵隊たち、

 前線を中国軍に任せて暇なのか、後方支援が行われる。

 “いっぱい偽物を作ってイギリス軍を撹乱させる作戦”

 遠くから見れば、わからないので多少問題ありの木工機械でも何とかなった。

 他にも大砲が作られて並べられたり、

 砦らしき物が作られたり、

 効果があるのか、ないのか。

 イギリス軍機が見つけると機銃掃射してくる。

 横合いから25mm機関砲を撃つと当たりやすかった。

 当然、日本側がダミー戦車と大砲を造っていることは、イギリス側にも漏れている。

 しかし、本物と偽物の区別で迷う。

 ビルマ戦線

 むくれるチャンドラ・ボースとインド独立解放軍45000人。

 「・・・いつになったらインド侵攻を行うのです?」

 「大陸鉄道が完成すれば、船舶に余裕ができるので、もう少し待っていただけないかと」

 「いつになったら大陸鉄道が完成するのです」

 「来年でしょうか」

 「それまでインドを前に指を加えていろ、と?」

 「中国大陸の治安維持に手間取っているようなので、こっちは動くなと」

 「それほど、のめり込む価値が中国にあるのですか?」

 「現在、陸軍上層部のほとんどが中国大陸の利権に集中しています」

 「東南アジア方面の思惑など見向きもされません」

 「・・・・・・・・・」

 「下手に動けば、わたしの進退にも関わりますし」

 「もうしばらく自重していただきたい」

 「来年になれば、ということですね」

 「大陸鉄道が完成すれば、利権も東南アジアまで延びてきます」

 「武器弾薬の供給もスムーズかと」

 「・・・わかりました」

  

  

 揚子江

 日本陸軍は、中国大陸へと、のめり込む。

 揚子江流域に朝鮮人の採掘労働者を送り込んでいた。

 しかし、数が増えるに従い、漢民族の反発が大きくなる。

 仕方なく朝鮮人は、中州に降ろされる。

 反政府分子と不穏分子が多く。

 彼らを尖兵に揚子江の中洲に居留地を作らせていく、

 そして、朝鮮人を揚子江の中州へと移民させていく、

 朝鮮人は、両岸を漢民族に挟まれて民族存亡の危機、

 揚子江は、中国大陸の大動脈で大きな可能性を持ち。

 ここで日本と朝鮮人の協力関係が構築できれば相乗効果が見込めた。

 とはいえ、朝鮮民族は中国を長兄、朝鮮を次男、日本を三男と言い切るため、

 漢民族に取り込まれる可能性もあった。

 それでも取り込まれずに民族のエゴを保とうとするなら

 日本と朝鮮民族の関係は深まる。

 区画ごとに家が建ち、堤防が築かれていく、

 「朝鮮人が、随分、増えたな」

 「洪水に備えて堤防は、もっと高くした方が良いでしょう」

 「朝鮮民族の防備にもなりますし」

 「朝鮮風の建築は、中国のモノとあまり変わらないな」

 「中国の真似をしないと滅ぼされるかもしれませんから」

 「漢民族と朝鮮人の、いざこざが増えてる」

 「それでも大陸の採掘現場より少ないですよ」

 「朝鮮人が日本の利権を守ってくれればいいがね」

 「朝鮮人がアイデンティティを維持するなら、日本の支援を当てにするはずです」

 「そうだと良いがね」

 「しかし、朝鮮民族も、漢民族も、日本の身勝手な犠牲だな」

 「悪党になる事を恐れて、戦争に負けるのも考え物です」

 「朝鮮人と中国人も日米戦争で日米共倒れ」

 「それとも日本の滅亡を望んでいるからな。お互い様だろう」

  

  

 ロンドン

 テムズ川の見える館。

 各国の戦力比、生産予測など、いくつもの書類が検討される。

 「・・・ジブラルタルの潜水艦が何隻か、というのが問題になるよ」

 「イタリア、フランス、ドイツの沿岸型潜水艦がジブラルタルに配備されている」

 「100隻以上だろうな」

 「さらにジブラルタル海峡は機雷源と防潜網だ」

 「日本と同じように縦だけでなく横に広げているかもしれないな」

 「ジブラルタルの防空は?」

 「Me262戦闘機が配備されてから爆撃は危険が増した」

 「しかもスペインの領空を壁に戦っているのでドイツ有利だ」

 「ジェット機は、まずいな。」

 「Me262を爆撃機にする噂は?」

 「ジブラルタル防空を優先して。戦闘機として開発されたよ」

 「まずいな」

 「ジェットエンジンの寿命は短いから、大量に配備することはできないと思う」

 「だがジブラルタルは拠点防空で効率が良い」

 「どうやって輸送したんだ」

 「スペインを経由したんじゃないか」

 「イギリス領ジブラルタルは面白くないだろうからね」

 「嫌われたものだ」

 「スペインがドイツ側に付くというのは?」

 「迷っているらしい」

 「迷っている振りして儲けているんだろう」

 「ジブラルタルの租借協定は?」

 「ジブラルタル海峡は、スペインにとって戦争未満だ」

 「しかし、ドイツの支援をするだろう」

 「だが、このままだと独伊共同統治じゃないか」

 「現実問題としてだ」

 「スペインが参戦したからといって、ドイツ有利とはいえないな」

 「ドイツは、スペインまで守ることになる」

 「確かに」

 「イタリアの状況は?」

 「空母アキーラ、スパルビエロは脅威になるかもしれない」

 「戦艦インペロの工事が再開された」

 「ちっ!」

 「あと少しでイタリアは降伏だったのに、一転してドイツの下僕か」

 「黒海まで鉄道を延ばせるからだろう」

 「イタリアにすれば失地回復に繋がる」

 「誰か、イタリア人に、ウクライナはピザが凍り付くことを教えてやれよ。撤退するから」

 「自分で試すまで想像できないだろう。そういう国民性だ」

 「しかし、戦艦をジブラルタルに突入させないと、ジブラルタルの再占領は難しいぞ」

 「それは、まずい」

 「ジブラルタルで戦艦を失うと大陸反攻ができなくなる」

 「それに日本の真似をして、防潜網を横に広げているかもしれない」

 「戦艦は、海岸に乗り上げる前に途中で止められるぞ」

 「海軍が北アフリカの対岸に380mm艦砲を配置する」

 「それにアメリカも203mm砲を配備している」

 「砲撃で無力化すれば、良いだろう」

 「だがドイツも、ジブラルタルに280mm砲を持ち込んでいる話しもある」

 「大砲の撃ち合いで決着をつければ、戦艦は、使わずに済むが」

 「どうだろうな」

 「ジブラルタルの地下基地を陥落させるには、どうしても上陸作戦が必要だよ」

 「地上の砲台を全て破壊すれば海峡を掃海して通過できるようになるよ」

 「ジェット戦闘機があっても砲弾で吹き飛ばせる」

 「まあ、そうだろうが」

 「しかし、テイルピッツとストラスブールの攻撃が遅れるな」

 「ジブラルタルの方が問題だよ」

 「アメリカは、なんと?」

 「アメリカは、力技で、ねじ伏せるのが好きだから」

 「そのまま、ドイツ爆撃とフランス上陸作戦で捻じ伏せるつもりなんじゃないか」

 「豪儀だね」

 「ジブラルタルの利権は、イギリスだけだからね」

 「アメリカは、どうでも良いんだ」

 「西オーストラリアは、どうするんだ?」

 「どうやら補給無しの上陸作戦だったようだ」

 「装備は、小銃と手榴弾。あっても軽機関砲と迫撃砲だけらしい」

 「民家を占領している海賊だよ」

 「ダーウィンとパースの部隊で殲滅できる」

 「やれやれ、日本人め、ろくな事しない」

 「中国兵もだ。恩を仇で返しやがって」

 「上陸したのは南京政府軍だよ。それにアヘンの仕返しだと」

 「けっ! 蒋介石の援助は打ち切りたいよ」

 「だが情報は確かだったぞ」

 「そう、こっちが信じなかっただけ」

 「・・・・・・・」

 「時間が、かかるほど不利になるのでは?」

 「ソソビエトの進攻待ちだろう」

 「北アフリカは待ち状態?」

 「大西洋側からアルジェまで鉄道を敷いている」

 「それで、北アフリカの米英軍は持ち堪えられるよ」

 「反撃は?」

 「鉄道輸送だけだと防衛だけだね」

 「インド洋周りも日本の潜水艦に邪魔されている」

 「まずいな」

  

  

 インド洋

 仮装巡洋艦 愛国丸

 西オーストラリア沖海戦でインド洋に軍事的な真空地帯が作られる。

 日本陸軍は渋る日本海軍を急き立て、日独連絡作戦を強行する。

 軽装備の大型船を潜水艦の中継補給基地として喜望峰の南、暴風圏に遠征させてしまう。

 ここで、洋上補給すると潜水艦の速度も上げやすくなる。

 また比較的、新鮮な食材は、潜水艦乗りにとって嬉しいことだった。

 ドイツ心棒者の多い日本陸軍は、潜水艦による日独連絡を重視する。

 いくつかのポイントがあって、

 そこを回遊する愛国丸が伊号、イタリア潜水艦、Uボートと合流して補給する。

 襲撃を受ければ暴風圏に逃げ込む、

 愛国丸 船橋

 「寒いな」

 「ええ、割に合わない作戦のような気もしますが」

 「だが水上艦が欧州にいける可能性は小さいよ」

 「神鷹なら、ひょっとすれば」

 「無理だろう」

 「エセックス型空母、インディペンス型空母が配備されてるし」

 「それとイギリス空母もいるから、途中で撃沈されるよ」

 「潜水艦だけでは、期待できる戦果が乏しいですがね」

 「ここで洋上補給すれば少しマシになるだろう」

 「船上で休養も少し取れるし」

 「やはり、欲しいのはドイツの技術ですか」

 「ドイツ製工作機械は喉から手が出るほど欲しい」

 「日本の技術者も気合を入れて逆転勝ちとかしないんでしょうかね」

 「小集団の熱血イベントに国勢を頼っているようじゃ すぐに息切れだよ」

 「欧米には勝てないね。底上げした総量の蓄積だよ」

 「その総量で負けているのが辛いですね」

 「中国を踏み台にできれば日本の国民生活も豊かになって総量を上げられる」

 「中国も、自分で石炭と鉄鉱石を採掘して輸出すれば良かったのに」

 「そうすれば日本経済は、もっと豊かになった」

 「石炭と鉄鉱石は、それを必要とするだけの技術が集積されない限り、宝の持ち腐れだよ」

 「そうだろうけど・・・・・」

  

  

 

 ジブラルタル

 ジブラルタル海峡砲撃戦、

 互いの砲弾が海峡越しで飛び交っていた。

 海岸に座礁した戦艦リットリオから資材を引っ張り出し

 ジブラルタル要塞へと運び込む。

 資材を運び込めば要塞は強化できた。

 もっとも、遺体が浮いていたりするので嫌がる者は多い、

 半島の付け根側に座礁した艦艇は被害が少なく、

 半島の先端側に座礁した艦艇は対岸の砲弾が当たりやすかった。

 長距離砲の当てずっぽうで外れることが多いものの、当たる事もある。

 北アフリカ側から撃ち出された155mm砲弾が

 座礁したイタリア巡洋艦の上部艦橋施設に命中し、爆発し破壊される。

 そして、座礁した艦艇が次の上陸作戦の障害になっていた。

 戦艦を突っ込ませる場所も限られる。

 そして、上陸用舟艇も座礁艦艇を縫うように抜けなければならない。

 それだけ多くのイタリア艦船が沈んでいる。

 大陸間砲撃戦は、配置場所が広い北アフリカ側が比較的有利だった。

 ジブラルタル要塞は、鉄筋とコンクリートによって守られていた。

 海峡を望む断崖の穴が空けられ、ドイツ軍兵士が対岸を望遠鏡で覗き込む、

 「どこから撃っているのか分かれば、確実に破壊できるのに」

 「あいつら砲弾をどれほど持っているんだ。信じられんよ」

 「命数切れしないのかな」

 「まさか、それだけたくさんの大砲と砲弾を持っているんだよ」

 「さすがアメリカ」

  

  

 若い陸軍兵士の手紙

 「お母さん、大日本帝国陸軍に失望しました。

  この地で行われていることは搾取以外の何者でもありません。

  オランダ人より少しマシかも知れません。

  それでも我が帝国陸軍の利己主義は醜いと言わざるを得ません。

  愛すべき帝国陸軍は、ここまで醜かったのかと衝撃を受けました。

  帝国陸軍の大東亜共栄圏は全て虚栄虚像です。 息子より」

  

 母から陸軍兵士への手紙

 「人間は、醜いゆえに美しさを求めます。

  あなたも、そうであり、私もそうであり、誰しもがそうです。

  己を尊び、他者を卑しめるもの。

  日本が卑しく醜かったとしても、それは他の民も同じです。

  多くの国が己を尊び、他者を卑しめ、力ある者が、力なき者から奪っていきます。

  己の醜さを気付かない者は、醜く、さらに醜くなるでしょう。

  己の醜さを知る者は美しくあろうとします。

  それは少しだけ、マシな人間ということです。 母より」

  

 公の機関を通さないで人伝に手紙のやり取りをすると検閲されずに済んだりする。

 

 

 スペイン

 ジブラルタル半島から8km離れた港町アルヘシラスは、

 ジブラルタルが砲撃される爆音が届いていた。

 レストラン

 二人の白人が砲撃戦を見ながらスペイン料理を楽しんでいた。

 「ジブラルタルは、どうだね」

 「最近は爆撃より砲撃が多いね」

 「もっとも届くのは半島の先の方だけか」

 「地下施設は?」

 「十分に堅固だよ」

 「米英軍の上陸作戦は?」

 「たぶん、防げるよ。艦船の海峡通過もね」

 「イギリス領ジブラルタルは、頭にきていたから、気分的に悪くない」

 「例の資材は?」

 「もちろん売りますよ」

 「儲けますな」

 「好きなだけ通過してくださいよ。連合軍側に見つからないように」

 「わかっていますよ」

 「連合軍側の通過も知っているので向こうも言いようがないと思いますがね」

 「それは気付きませんでした」

 「そうでしょうよ」

  

  

 南の島

 日本の電探は精度が低く、

 夜間爆撃は、命中率が低くても被害が少なかった。

 時折、ライトニングが強襲をかけてくるが監視所の通報で迎撃が間に合う。

 大陸進攻が優先され、

 南方は、持久戦となり、自給自足が進んでいた。

 一定レベルの教育機関があれば多才な人間と専修な人間が増え、

 近代化すれば人間も部品と同じで機能化されていく、

 日本は人材を上手く利用し工業化を可能にさせていた。

 農産物と海産物が加工され、長期保存、貯蔵が進む。

 日本人は白人より、現地民に近く、

 日本人は近代化に足る資質があって、現地人に尊敬され、

 現地人は、広がっていく日本の農地を物珍しげに見つめる。

 生活力のある人間は、人種に関係なく女性も惹かれる事もあり、

 そういうことも起こったりする。

  

 そして、ビルマから始まった偽造兵器の大量生産が南の島でも暇潰しで始まり、

 標的を軽く作り、時折、移動させれば本物と勘違いして撃ってくる、

 機銃掃射してくる敵戦闘機を横合いから撃てば当たりやすかった。

 日本軍も兵站不足で攻勢できなくなると欺瞞工作をはじめる。

 イギリス軍兵士たちが原住民に成り済まし、

 日本軍の様子を監視していた。

 「どうだ?」

 「偽の95式軽戦車ですね」

 「暇人が・・・」

 「ですが自給自足も進んでいますね」

 「日本兵は農民兵か、未開人め」

 「西オーストラリア沖では、未開人に機動部隊を全滅させられたそうですよ」

 「くっそぉ〜 刈り入れ前に爆撃してやる」

 「夜間爆撃は命中率が低いですから・・・・」

 「昼間の爆撃は、損害が大きいが、やれないわけじゃない」

 「最近、増えた海燕は手強いらしいですよ」

 「最初に山頂にある対空監視塔を潰すべきだろうな」

 「ええ、最近は、電探を配置していますし」

 「あそこから航空基地へ警報が送られて迎撃機が離陸するので」

 「監視塔を先に潰すのは、いいかもしれませんね」

 「あと監視所の数が多いのが難点ですが」

 「燃料貯蔵庫を爆撃すれば飛べなくなるよ」

 「燃料は山を刳り貫いて、さらに地下だそうです」

 「この前、油送船が来たのは?」

 「3ヶ月前でした」

 「ボチボチ、次のヤツが来る頃かな」

 「どうでしょう」

 「日本機は迎撃が主ですから燃料消費は、それほど多くないので」

 「腹が立つな」

 「戦艦で艦砲射撃するのが良いかと」

 「そう思ったよ。その戦艦がないがな」

 「真珠湾で大破した戦艦は、そろそろ修理改装が終わるのでは?」

 「こんな南の島で戦艦を潰していたら日本に着くまでに戦艦は全部消えてしまうよ」

 「それに防潜網を張っているはずだ。スクリューを止められたらことだ」

 「艦首に刃をつけたのでは?」

 「刃で防潜網を切ったとしても通過するときにスクリューに絡みつく可能性はあるよ」

 「割安な防衛法だな」

 「原始的だな。土民め」

 「味方の損失が多すぎる。もっと称えた方が良いのでは?」

 「それは、いえるが、腹も立つ」

 「確かに」

  

  


 月夜裏 野々香です。

 日本は、潔く、花と散って、美しく滅ぶか。

 それとも、毒を食らわば皿まで。エゴのゴリ押しで非道、外道。

 他者に犠牲を強いて、醜く、生存権を確保するか。二律背反です。

 ファイナルアンサー!?

   

  

 

   

ランキングです ↓ よろしくです。

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