月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

第21話 1944/02 『面従腹背ある』

 日本経済は、良しに付け、悪しきに付け、大陸の利権の為、民需に傾倒する。

 戦車と航空機より、鉄道とトラック。

 それを運用する為の人員も求められる。

 日本の国是は “生めよ増えよ” で、若者が多かった。

 そして、教育は必要な教育課程を省くことはできず、年月も必要だった。

 仕方なく、一部を学徒動員し、学生が鉄道を運行する。

 無論、事故も起こりやすかった。

 それでも総動員体制で、やり繰りしつつ切り抜けていく、

    

 大陸を機関車が進む

 「・・・この辺も随分と静かになったものだ」

 「華寇を豪州に上陸させてしまったからね」

 「だが山賊、盗賊、密売人は消えないだろうな。代わりは尽きない」

 「富裕層が増えても山賊は中国の名物だからね」

 「最近は、朝鮮人もグルになっているとか」

 「朝鮮語は日本語と語順が似ているし」

 「日本語教育もしているから日本語が堪能な朝鮮人も多い」

 「中国の賊と組むと厄介だな」

 「基本的に日本人を怨んでいるからな」

 「日本人になりきる者もいるから愛憎だな」

 「中には日本人より日本語を早く話す者もいる」

 「早く話すより、話術より。話しの内容が重要だがね」

 「まず、ヤッカミ、僻みで日本を追い詰める発想が消えないと・・・・・」

 「動機が見え見えだから内容より表面的な話術に騙される方が悪い」

 「朝鮮人は口調が強い」

 「一定水準の知識があっても浪花節や熱意で乗せられてしまうよ」

 「今後、朝鮮民族が日本民族に付くか、漢民族に付くか」

 「どっちに付くかで揚子江経済圏も変わっていくだろうな」

 「いまの人口は?」

 「移動しているのは、500万くらいじゃないかな」

 「大陸鉄道ができてから早いな」

 「封建的なんだろうな」

 「日本の権威を漢民族に振りかざしたいのだろう」

 「こっちが、そういう場を用意すれば、熱に浮かされたようにやってくる」

 「漢民族の方が多いのに・・・」

 「いずれわかるよ」

 「日中の力関係が変わった時、どうするか、だろう」

 「漢民族の犬になるか。日本民族の犬になるか」

 「アイデンティティを維持したいと思えば日本の味方をするんじゃないか」

 「だけど魔術だな、満州の土地を斡旋し、揚子江域の土地を空けさせ」

 「朝鮮民族を移す、やれやれ」

 「満州国は本物だよ。1908年頃、満州の人口は1583万人」

 「それが今では5000万人を越えている」

 「だけど、人口のほとんどは漢民族だ。満州国も中国と変わらないな」

 「漢民族が多すぎるよ」

 「だけど、揚子江域の朝鮮人、台湾人、少数民族を優遇している」

 「自治も認めさせているし。武装もさせている。自衛すれば日本にとって有利だよ」

 「もっと人口を移動させるべきだね」

 「わかっているが戦争中だし」

 「戦争している暇もないよ」

 「戦争より金に走るというのもな・・・」

 「対外的な敵に目を向けさせて、利用してる人間は多いからな」

 「地域格差もあれば貧富の階層もある」

 「格差と階層は壁が厚いし」

 「お金持ちはお金持ちとグループを作って自分の層を守ろうとするからね」

 「戦争は、地域格差で縦割りの軋轢を是正する為に生じる」

 「貧富の階層は軋轢が大きくなると革命、クーデター、内戦に発展する」

 「日本は、もう少し豊かにしないと共産化の脅威に対抗できないよ」

 「だけど、お金持ちの層が、えげつないと庶民が白けて離反するよ」

 「だから大陸に入って利益を上げて国内に還元するんだろう」

 「少しだけね。表面的に繁栄しても、貧富の格差は逆に広がる」

 「しかし、鉄と石炭のない国なんて惨めなもんだよ」

 「日本は、無い割りに少しマシなんだ」

 「それをアメリカに戦争しかけるなんてキチガイか」

 「あはは」

 「もう、なりふり構っていられないね」

 「華寇なんて、歴史の教科書を改竄したくなるよ。きっとね」

 「それでもやる」

  

  

 東部戦線

 ソ連軍が冬季明けで攻める場所は、3ヵ所。

 レーニングラード解放、

 モスクワまで365kmのスモレンスク、

 南部方面の要衝キエフ、

 当然、ドニエプル川を利用した従深対戦車陣地の構築も進んでいく、

 「・・・やはり、ドニエプル川防衛線が本命になりそうだな」

 「ここでソ連軍に対し、大損害を与えて反撃する」

 「クルスクを攻撃しなかったことが、吉と出るか、凶と出るか・・・」

 「前衛部隊がどの程度、ソ連軍を磨り減らしてくれるかだ」

 「もっとタイガー戦車が欲しいな」

 「タイガー戦車は、拠点防衛で優れているよ」

 「タイガー戦車を軸に3号、4号で遊撃作戦ができる」

 「それは、ソ連空軍をどれだけ、防げるかにもよるよ」

 「ウクライナをイタリアにくれてやってもいい」

 「冬季明けの攻勢を防ぎ切って反撃してみせるよ」

 「成功すれば、ムッソリーニも返り咲きだな」

 「ドイツ製兵器と武器弾薬をイタリア軍に渡している。成功すればね」

 負けるよりマシなことがあった。

 たとえ、ウクライナの利権の一部をイタリアに渡しても、

 この戦いで負けないことがドイツの至上命題となっていた。

  

ドイツ軍 IV号戦車H型 後期生産型 (1943年4月〜1944年2月)

  

 

 朝鮮半島

 土地が売られていく、

 「おまえたちは、ひどいニダ!」

 「ひどいのは、薬代を払わない、おまえニダ」

 「日本の薬は、高過ぎるニダ」

 「違うニダ。日本でも薬は高いニダ。日本人でも薬を買えずに死んでいくニダ」

 「ち、違うニダ。高い薬を売ったニダ」

 「・・・おじいさんは残念だったニダ」

 「だけど、借金は、借金ニダ。土地から出て行くニダ」

 「ひどいニダ」

 「日本人も薬を買えずに死んでいくニダ。これは、本当ニダ」

 「・・・・・・・」

 買主は日本人で売主は朝鮮人。

 売買斡旋業者も朝鮮人。

 日本人より家族に対する情に厚く、物を失いやすい民族。

 どういう経緯があったにせよ、朝鮮人は日本人に土地を売却。

 揚子江や満州国へと向かっていく。

 仕事は、揚子江に・・・・

 武装した朝鮮人、台湾人、少数民族が露天掘りで掘られていく鉱山と炭鉱を守る。

 崇明島には、火力発電所や製鉄所が建設されていく。

 理由は、経済効率以外に何もなかった。

 “戦争なんかしている暇はない”

 これが閉塞状態から抜け出そうと

 太平洋戦争に至った日本が最終的に到達した結論、

 南京政府が中国統一を果たしたあと、

 日本の目的は戦争に勝つことでなくなる。

 大陸鉄道と揚子江経済圏の構築と権益維持が最大の目的となり、

 これに成功すれば、日本の経済再建も近代化への弾みも進む。

 財政再建も容易になっていく、

 この戦争に間に合わなくても未来への理想は、希望となり生きる意欲に繋がる。

 

  

 釜山港

 東南アジア、中国からの戦略物資が積み上げられていく。

 日本からは機関車や貨車が次々に到着する。

 「複線では足りないな」

 「ええ、長・中・短距離で線路を敷かないと支線では足りませんね」

 「船の方が経済的なんだがな」

 「利便性と安全性では鉄道ですよ」

 「しかし、この状態だと半島で発電と製鉄もしないとな」

 「軍艦の建造もすべきだろうな」

 「半島の朝鮮人は、全部、揚子江へ移民させていきますから」

 「日本人が半島に入っても大丈夫ですよ」

 「元札を積まれて、みんな、揚子江に行くんだろうな」

 「羨ましいといえば羨ましいです」

 「だが、揚子江で民族を守るのは大変だぞ」

 「大動脈と資源を握るのだから羽振りは良くなると思いますよ」

 「だろうな」

 人口密度の大きな日本は、人口を支える為、大陸の土地と権益を欲する。

 戦争状態となって自由交易を失った日本に残された道は少ない。

 大陸の権益で収支を増大させ、

 高い人口密度でも豊かに生きていく方法が試みられる。

 そのため、後ろめたくても、理不尽でも、強引な手口、乱暴な手法を選択する。

 帝国主義国家が良くやっていることであり。

 朝鮮人が朝鮮人を大陸へと駆り立てていく。

 間に同族を入れても、土地を買うのは日本人であることに変わりない。

 とはいえ、金が欲しくて同族を売る朝鮮人がいたことも事実で、

 こういったことは珍しいことではなく、

 古今東西、世界のどこでも起きていた。

  

  

  

 イギリス戦艦部隊は情け容赦なく、ジブラルタル要塞を砲撃する。

 噴煙がジブラルタル半島を覆い、標高264mまで低くなっていた。

 そこに向かって、さらに40cm砲弾、38cm砲弾が撃ち込まれていく、

 新しい爆発が起こる度に断崖が吹き飛び、崩れていく、

 掃海艇が海峡の防潜網と捕獲網を切り裂いていく、

 ネルソン 艦橋

 「おのれぇ ドイツ軍め、梃子摺らせやがって、大陸反攻が遅れる」

 「大陸反攻は、東部戦線しだい、かもしれませんね」

 「確かに陸軍は、ドイツ軍が強い」

 「それに、日本の大陸鉄道でインドの利権も危うくなっているとか」

 「インド兵は、頼りにできそうにありません」

 「日本軍も兵器に頼らず戦略に頼るとは余裕ができたのかもしれないな」

 「華寇が戦略ですか?」

 「ほかにいい手がないというくらい、いい手だと思うね」

 「外道過ぎますね」

 「それは言える」

 「本当は、インド洋も機動部隊が必要なのですが」

 「インドか・・・」

 「無理だな」

 「ストラスブールは大破している」

 「しかし、ティルピッツ、シャルンホルストは、まだ、脅威だ」

 「冬季明けに機動部隊でフィヨルドのティルピッツを爆撃できるのですが残念です」

 「忌々しいな」

 「ドイツは資源。日本は工業機械で限界になるはずです」

 「日独両国が離れていて良かったよ」

  

   

 赤レンガの住人たち

 “竹槍では勝てない、飛行機だ”

 将校たちは、新聞を見て苦笑する。

 新聞が事実を伝えている。

 問題は、近代兵器の最たる飛行機が工業力の結晶であり、

 飛行機を製造するだけの産業構造を維持できなければ、

 飛行機を製造できないのである。

 さらにパイロットを養成し、

 飛行機を整備する員数を揃えるだけでも大きな負担で、

 これらの産業は、日本民族の衣食住を生産していないにもかかわらず、

 獏大な予算を消費してしまう。

 1機製造するだけでも国民に大きな負担を強いらなければならない、

 「ったく、工作機械がボロボロ壊れているのを知らんのか」

 「防潜網や捕獲網、風船爆弾を作っているのは遊びじゃないのに・・・」

 「言えまいよ。本当のことを言えるわけがない・・・」

 「軍の戦争責任が追及される」

 「だからって、腹いせに戦地へ送るなんて、東條も小心者だな」

 「とりあえず、海軍で先に手をつけたから良いとしてもだ」

 「痛し痒しなんだな、これが・・・・」

 「戦争責任は、海軍にもあるしね」

 「だけど、日本製工作機械が3ヶ月も精度を保てないんじゃ 話しにならないよ」

 「だんだん、精密機械が作れなくなるな」

 「ドイツ製の部品は?」

 「ジリ貧だけど。あれが頼りかな」

 「工作機械が大陸鉄道と揚子江権益の維持に使われるのは問題だぞ」

 「兵器と武器弾薬が作れないじゃないか」

 「だが、見返りは多い」

 「鉄鉱石と石炭も釜山に山積み」

 「東南アジアから中国までの資源が集積されている」

 「陸軍は、本気で朝鮮半島を取る勢いだな」

 「鉄鉱石と石炭が十分なら、なんとか巻き返せるよ」

 「そういえば、大陸鉄道で朝鮮人の揚子江移民も急増しているな」

 「海を渡る必要がないからな」

 「朝鮮半島側を工業地にしてしまうのが有利なんだろう」

 「もう、日本は、侵略国家以外の何者でもないな」

 「売るように仕向けたけどね。建前では買ったことになっているよ」

 「元札で?」

 「使えるのなら本物だろう」

 「中国経済も伸びさかりで、中国政府発券の新札は、間に合わない」

 「偽札も目を瞑っているだけだよ」

 「しかし、揚子江に行くと朝鮮人は見事に日本人になりきるな」

 「身の安全を確保するには、ばれても日本人と言い張るしかないよ。当然」

 「そのうち、本当に日本人になってしまうかも」

 「いいよ、もう、油断できないし、仕方ないけど揚子江を確保してもらわないと」

 「だけど、朝鮮人は、教育したから一定水準の科学知識もある」

 「そのうち揚子江の資源を使って有力な民族になっていかないか」

 「中国人は、反発するだろうな」

 「中国人は、民族や国家でなく、権力と金の味方だよ」

 「いやだね。大陸は毒されているよ」

 「中国人の目から見るとな」

 「己の利益より国家の権威のために死ぬ日本人が異常なんだよ」

 「「「・・・・」」」 はぁ〜

 「資源が出なければ、あまり関わりたくないよ。日本の信頼社会が崩れる」

 「それは “資源がある限り大陸に関わる” ということだろう」

 「太平洋は、それどころじゃないけどね」

 「そういえば、アメリカと戦争してたっけ」

 「エセックス型空母が、イントレピッド、フランクリン、ホーネットU、バンカー・ヒル、ワスプUの5隻」

 「インディペンデンス型が、プリンストン、ラングレーU、カボット、サン・ジャシントの4隻・・・・」

 「機動部隊3群だろう。攻勢をかけるには足りなくないか」

 「艦載機総数600機以上だ。どこに攻勢をかけるかにもよるよ」

 「日本は、第二機動部隊、赤城、加賀」

 「第三機動部隊、伊勢、日向、扶桑、山城」

 「第四機動部隊、飛鷹、隼鷹、龍鳳」

 「第五機動部隊、瑞鳳、龍驤、千代田、千歳が動かせるがね」

 「13対9で勝ちかな」

 「一概には言えないね」

 「艦載機パイロットがいないから負けだよ」

 「でも空母に関してだけなら滑走路の数で有利なのは作戦能力ありだよ」

 「パイロットがいないんだから作戦不能だよ」

 「第一機動部隊の改装は、まだ?」

 「まだだろう」

 「問題は、艦載機パイロットだな。700機以上も揃えられないよ」

 「また教官を引き抜くの?」

 「んん・・・・厳しい」

 「前線からも引き抜かないと」

 「あはは・・・」

 「素人を空母に乗せられないし」

 「アメリカが攻めて来ないことを祈るばかりだね」

 「あと空母は大鳳の建造で打ち止めか」

 「厳しい」

 「厳しいのは、空母より、艦載機パイロット」

 「どうしよう・・・・」

 「来るとしたら、ミクロネシアか、ガダルカナルかな」

 「大陸鉄道があるから、直接、策源地を押さえるスマトラ島の可能性もあるよ」

 「あそこに上陸されると油田が・・・・」

 「事実上の決戦だね」

 「ビルマ戦線から攻勢をかけるか」

 「コロンボ港を基地にスマトラ島か。パースを基地にジャワ島か」

 「でも、それだと、ハワイが無防備にならないか?」

 「ハワイは、ハワイだけの航空部隊で十分に守れるよ」

 「1000機以上配備されているんじゃないか」

 「金持ちは違うな」

 「だけど、スマトラに来るなら。もっと、戦車とか、欲しいけど」

 「駄目じゃないかな。予算ないし」

 「インド独立解放軍も大陸鉄道の完成を待って侵攻するつもりだったらしいよ」

 「そりゃ無理だろう。戦車がない」

 「3式対戦車自走砲は?」

 「あれは照準を合わせる前にやられるから待ち伏せ用だ。侵攻作戦に向かない」

 「だけど、陸軍同士で仲間割れって、いい気味」

 「大陸に利権を持つ連中は、戦車より。装甲車、機関車、トラックだよ」

 「当然だろうけどね」

 「それじゃ 戦争に勝てないよ」

 「ふっ」

  

  

 アメリカ軍の上陸作戦部隊は、アメリカの生産力の2パーセントを投入する推定で算出される。

 対する日本側の防衛軍は、4パーセントと見込まれる。

 生産力が100対1なら戦力比はアメリカが50で、日本が1となる。

 天王山なのだが戦力を集中させることができないのが実情だった。

 アメリカ軍の動きが事前に予兆があればいいのだが、

 ほかに転戦する可能性があり、反撃が間に合わない場合もある。

 赤レンガの住人たち

 図上演習 ジャワ島チラチャップ上陸作戦

 「・・・仮に第一次でアメリカ軍10万がチラチャップに上陸してきた場合」

 「ジャワ島守備隊は、2万程度だ」

 「艦隊の投入時期で、戦果も大きく変わってくるように思う」

 「戦力比で言うとアメリカ海軍が疲弊した頃合を狙うのが上策だよ」

 「どうかな」

 「アメリカ上陸作戦部隊は、輸送は伸びきっても物量が大きいい」

 「展開能力と建設能力も高い。基地を建設されてしまう」

 「中国南京軍は?」

 「食料と兵器・武器弾薬を供給してくれるのであれば、いくらでも、良いそうだ」

 「実に素晴らしい国だね」

 「凄いね。使い捨てされるのに・・・」

 「正規軍の場合は、きちんと補給して欲しいらしい」

 「それにジャワの権益狙いだよ」

 「現地の華僑とも連絡を取り合っている」

 「やっぱり、えげつないか」

 「しかし、きちんと補給というのは無理だね」

 「日本軍でさえ弾薬欠乏症だよ」

 「それにクリスマス島は守りきれないと思うな」

 「んん・・ここに飛行場を建設されたら・・・」

 「バレンバンまで830km。シンガポールまで1300km。ブルネイまで1950kmか・・・」

 「一気にやられそうだよ」

 「海燕と新型の飛龍で勝てるかな」

 「んん・・・」

 「せっかく大陸鉄道を建設しても、ここがやられると、おしまいだな」

 「だけど、ハワイから遠い。アメリカもリスクが大きいはず」

 「肉を切って骨を断つも、ありかもね」

 「ミッドウェーを足場に骨まで届くかどうか」

 「無理したんだから元が取りたいよ」

 「あ、最近、噂に聞くP51ムスタングは?」

 「ドイツの情報だとメッサーシュミットやフォッケウルフが撃墜されている」

 「どの程度、なんだろう」

 「海燕が2対1で勝てるかな」

 「そのくらいで、考えた方が安全だね」

 「防潜網と・・・機雷と・・・・弾薬がもっと欲しいな」

 「現地民の軍隊は?」

 「あまり強力にすると独立されてしまう。中国南京軍を使いたい」

 「中国軍もアメリカと組みそうで、怪しい」

 「だけど、華寇作戦でアメリカも本気になっているみたいだし、どうかな・・・」

 「やっぱり、主力は日本軍じゃないと」

 「そうだけど、戦車がショボ過ぎない?」

 「3式自走砲は、戦車じゃなく大砲だよ」

 「あ・・・そう」

 「救いがあるとすれば、97式中戦車と違ってシャーマンも撃破できる」

 「それは、キルレートしだいだね」

 「製造の関係で、もっと装甲を軟に作らないと数を作れないそうだけど」

 「そりゃ まずいだろう」

 「いくら、自走砲だからって陸軍もいい加減だな」

 「でも、リベットの穴を開けるたびにドリルが壊れたら話しにならないだろう」

 「泣きたくなるな・・・」

 「海軍の工作機械を貸しただろう」

 「もっと、自走砲が欲しいみたいだ」

 「軟鉄の戦車に乗せられて死ぬ兵士は、かわいそうだろう」

 「怪しくても電気溶接がマシ」

 「溶接工が少な過ぎだよ」

 「雨降ったら、割れ目から漏れてるじゃないか」 泣き

 「酷いのはね」

 「だけど装甲の厚みを稼げるよ。衝撃で割れなければだけど」

 「海軍と違って割れても沈まないから良いような気もする」

 「んん・・・・もう、良い工作機械が減っているから」

 「何で、まともな潤滑油や切削油が精製できないんだ」

 「さぁ〜」

   

    

 

 座礁戦艦 大和 艦橋

 「アメリカ機動部隊は?」

 「現在、北太平洋、南太平洋、インド洋の3群に分かれて展開しているかと思われます」

 「3つに分割しているのなら怖くはないが合流していたら、こっちへ来るぞ」

 「およそ、600機。迎撃は、厳しいですね」

 「潜水艦隊を戻して欲しいが・・・」

 「南太平洋側へ取られてしまいましたからね」

 「華寇作戦か・・・」

 「戦後のことを考えて戦争すればいいのに陸軍のバカが欲に目が眩みやがって」

 「白人の反中感情を煽って、中国の親日を増やすという手では?」

 「白人世界の方が科学技術で進んでいる。勝てんよ」

 「ミッドウェーの防衛にどれだけの艦船を回せるかですね」

 「もっと、軍艦の建造を増やすべきだな」

 「このままでは、大和が守れないぞ」

 「大陸鉄道と揚子江経済圏で機関車がたくさん必要とか」

 「見捨てられたかな」

 「まさか、機動部隊が助けに来ると思います」

 「シュノーケル付きの輸送潜水艦が欲しいな」

 「そうですね。護衛いらずの輸送だと割が良くなりますからね」

 「・・・提督・・・電探が妨害されています」

 「チャフだな・・・・・哨戒機を上げろ。迎撃機の準備だ」

 「来ましたね」

 「どうかな、燃料を使わせたいだけかもしれん」

  

 大和(ミッドウェー)島上空。

 ヘルキャット296機、ヘルダイバー195機

 ミッドウェー上空に弾幕が作られ、

 日本機動部隊の対空火器をはるかに超えるミッドウェーの対空砲火が火を噴いた。

 大和 艦橋

 「・・・すごい数じゃないか」

 「どうやらアメリカ太平洋艦隊の総力を挙げて来たと思われます」

 「本領を発揮できればいいが」

 そして、爆弾の雨が大和を狙って落ちてくる。

 機銃掃射が地上施設をズタズタに破壊していく、

 大和(ミッドウェー)は、数十分に渡って五月雨式に爆撃され、

 惨憺たる有様となっていた。

 二式大艇が電探を頼りにアメリカ機動部隊の艦載機を追尾していく、

 そして、上空に退避、待機していた海燕154機と彗星75機が、

 引き揚げていくアメリカ爆撃隊を追い掛ける。

 最初から戦闘機による防空を諦め、反撃に全戦力を投入した作戦だった。

 日本の爆撃部隊がアメリカ機動部隊上空にまで到達したとき

 (イントレピッド、ワスプU、サン・ジャシント)

 (フランクリン、バンカー・ヒル、カボット)

 (ホーネットU、プリンストン、ラングレーU)

 ヘルキャット103機が海燕154機に襲い掛かる。

  

 空母イントレピット 艦橋

 アメリカ機動部隊は、日本気の来襲が発艦と着艦が重なって大混乱だった。

 航空戦の無線は、悲観的なものが多かった。

 日本機のパイロットは、ベテランでなかった。

 しかし、数がモノをいう。

 空中戦で戦っている間に彗星爆撃隊が機動部隊へと向かっていく、

 「ミッドウェーは防空をまったく考えず」

 「航空戦力を空中退避させ、送りオオカミで反撃か」

 「まさか、捨て身で来るとは・・・」

 「敵の戦力で決めたのだろう。同程度であれば、普通に防空」

 「こっちが多ければ、捨て身の反撃」

 「どの道、滑走路が潰されるのであれば反撃するのが良いのだろうな」

 「爆撃隊の報告だと滑走路に大穴が開いたようです」

 「飛行場に装甲板を張っているのは嘘のようでしたね」

 「騙されたな」

 彗星75機が二手に分かれて、イントレピットとワスプUに襲い掛かる。

 「・・・VT信管が間に合えば、良かったのですが」

 「日本海軍を北太平洋側に吊り上げたかったのだ」

 「早過ぎましたね」

 「日本機動部隊の不在は、わかっていた」

 「大陸鉄道が完成して輸送船で余裕がでる前にミッドウェーをやりたかったのだろう」

 彗星爆撃機が弾幕に切り込んで来る。

 空母イントレピットは必死に回避運動を取った。

 周囲に爆弾が投下され水柱を上げていく、

 そして、飛行甲板に500kg徹甲爆弾が命中した。

 徹甲爆弾は戦艦の360mm徹甲弾を改造したもので、

 飛行甲板と格納庫の床も撃ち抜いて爆発し、空母イントレピットを揺さぶる。

 さらに立て続けに徹甲爆弾が命中して

 弾薬庫の爆弾と魚雷が誘爆し、

 火焔が平甲板全体に広がって手の施しようがなくなる。

 二つの黒い煙が洋上から天高く昇っていく、

 「・・・総員退避!!」

 「提督。ワスプUが・・・・・」

 大型空母ワスプUは、飛行甲板が炎で覆われ、

 空を赤黒く焦がしながら海上を、のた打ち回る。

 この日、大和(ミッドウェー)島は、徹底的に爆撃され、

 アメリカ機動部隊は、空母2隻を撃沈された。

   

  

 大和と滑走路は900kg爆弾が命中し、ボロボロになっていた。

 帰還してきた海燕、彗星が大穴を避けるように着陸、

 しかし、直ぐに駐機できなくなり、ほとんどが環礁内に不時着水する。

 「・・・ひどいな」

 「敵エセックス級空母2隻を撃沈だそうです」

 「大和と差し違えなら損はないだろう」

 「どっちが、です?」

 「240機の機体を基地と一緒に失ったよ」

 「パイロットの損失は、60人ほどです。悪くはありません」

 「パイロットがいれば、戦力は維持できるか」

 「日本は、飛行機を製造するのも一苦労ですからね」

 「その上、パイロット養成は最低でも半年以上ですから」

 「最初からパイロットを育てるなんて、泣きたくなりますよ」

 大和(ミッドウェー)島は、紅蓮の炎に包まれ、

 大和の主砲塔も破壊されていた。

 対艦迎撃能力がミッドウェーから消え・・・・

 「・・・手間が省けたな」

 「残りの爆弾と燃料で全て処分します」

 「部隊は潜水艦と飛行艇で分乗、撤収を開始します」

 「ああ、そうだな」

 「陸軍が喜びそうだな」

 「海軍の一部も、山本長官の呪縛から逃れたがっていましたから・・・・」

 「だが、アメリカ大陸への華寇作戦は難しくなる」

 「山本長官が生きておられたら、そのような作戦はできなかったでしょう」

 「厚顔無恥な陸軍の作戦で片棒を担がされるのは、たまったものじゃないな」

 「陸軍といっても大陸に利権を持っている者たちが強引に・・・・らしいですよ」

 「そいつらが本物の陸軍だよ」

 「利権に吸い寄せられた魑魅魍魎だ。気をつけろよ」

 「怖いですね」

 「ったく。戦争中になにやっているんだか。例の爆弾は?」

 「地下に埋めたものは、セットしました」

 「そうか、アメリカ軍は、時限爆弾に気付くかな」

 「普通なら爆弾で破壊したさらに地下に爆弾が埋められていると思わないはずです」

 「そうだな」

 航空戦力を失った大和(ミッドウェー)島を維持するだけの戦力は日本になかった。

 日本にとって負担ばかりの大和(ミッドウェー)島からの撤収が始まる。

 大和の内部に仕掛けられた爆弾が爆発。

 海燕、彗星が燃やされ、破壊される。

 最後の日本兵が伊号に乗り込むと廃墟のミッドウェーが残され、

 日本は、北太平洋の潜水艦作戦基地をミッドウェーからエニウェトックに後退させる。

   

   

 病室

 世界最大の人口を有する中国大陸の大統領は、

 銃撃された傷でベットに横たわっていた。

 見舞いに来た男は、島国の代表で自らの手で花を花瓶に活ける。

 人にやらせず、国家の代表が行えば、国が行ったことにもなる。

 これは、人心掌握の常套手段でもあった。

 「大統領。お加減は、いかがですかな。」

 「見舞いを受けるとは、ありがたいある」

 「ついでにアヘンについて、いくつか、ご相談があるのですが」

 「アヘンは、苦慮しているある」

 「もっとも日本も、その責任の一端がないといえないある」

 「一端は、ありますよ」

 「我が日本も中国大陸にアヘン輸出していた」

 「比率が小さい事が救いですかね」

 「ええ、9割以上は、我が国の豪富・軍閥が欧米諸国から買っていたある」

 「日本はアヘンから手を退きたい。現に退きつつある」

 「アメリカ、イギリスの勢力が消失して」

 「いま大陸鉄道を使ってアヘンを大陸に流しているのは、我が漢民族と華僑ある」

 「日中同盟がなったいま、アヘンの蔓延は百害あって一利なしですよ」

 「漢民族は、5億の民ある。私を責めても無駄ある」

 「・・・・・」

 「日本がアヘンから手を退けるのは偽札経済が軌道に乗ったからある」

 「そして、人口が少ないからある」

 「・・・・・」

 「中国軍閥と豪富がアヘンから偽札に切り替えても」

 「すぐに代わりの者がアヘンを輸入して売るある」

 「それでもアヘンを減らしたい」

 「わかっているある」

 「東南アジアの華僑にも圧力をかけているある」

 「9割はアヘンに困っていて反対ある」

 「それなら・・・・・」

 「しかし、1割は、アヘンの利益を受けているある」

 「人間の欲望がなくならない限り闇経済は消えないある」

 「それでも減らしたい」

 「しかし、日本も、揚子江に朝鮮人を移民させ」

 「アヘン常習者を連合国に上陸させているので利益ある」

 「アヘンが多過ぎるのだ・・・」

 「できれば租界の外も漢民族の逮捕をもっと緩いものにしていただきたい」

 「わかったある」

 「対アヘン撲滅に力を入れるある」

 「私も、アヘンは反対ある。ただし期限付きある」

 「助かります」

 「元々、欧米諸国が我が中国にアヘンを輸出したある」

 「全て欧米諸国のせいにして、利息として常習者を連合国に上陸させたある」

 「今度は、元金を返してもらうある」

 「その方が良いでしょう」

 「欧米諸国のアヘン輸出によって、我が中国合衆国が受けた損失を全て欧米諸国に因果応報を教えて、賠償させるある」

 「専門の潜水艦も建造しています」

 「もっと上陸させるある。そして、連合国と蒋介石を離反させるある」

 「それで、南京政府が、直接、欧米と連絡を取ろうとしているのですかな」

 「面従腹背ある」

 二人とも、おかしそうに笑う。

 結局、誰が国の代表になっても国益を考える。

 そして、相互に主権を容認し、

 適当な線で妥協しなければ、正常な国交は、ありえない。

    

   

 

 崇明島(1083ku)の砂州の島は、人海戦術で穴が掘られていた。

 この手の治水工事は、江戸時代でも行われたらしい、

 東京湾の海堡も、それに類する。

 違うのは、基盤工事の深度だった。

 基礎工事に使われる鉄筋コンクリートの規模だろうか。

 釜石系を中心とした製鉄屋が集まっていた。

 「・・・生き残りをかけた崇明島への移転は、仕方がないだろうな」

 「陸地への橋が欲しいところですが当面は船でもいいでしょう」

 「地理的には悪くないと思います」

 「そりゃ 大陸鉄道と揚子江の大動脈が、ここだからね」

 「材料にも人手にも困らないよ。呆れるほどだ」

 「日本製鉄の鼻を明かせます」

 「いい加減、軍派閥の独占には飽き飽きしていたから」

 「しばらくは自己増殖させながら大きくしていこう」

 「ええ」

 「しかし、何で、こんなに人間がいるんだ」

 「さぁ」

 「アヘンの流入だけは、させないでくれ」

 「了解です」

 人海戦術の本質は、質より量だった。

 日本人が例え漢民族の5倍働いても些細なことに思える。

 日本で集められる工夫の百倍の人間を集められた。

 瞬く間に砂州が掘り下げられ、湧水が川へと移される。

 南京、通州側で準備した鉄筋やコンクリートなど、

 資材が運び込まれて埋め立てられていく。

    

   

 1月

 極寒の北アメリカ海岸、

 近くに小さな村があるだけの僻地、

 伊号が浮上する。

 「・・・眠っている者たちをボートへ」

 「はっ!」

 眠らされているのは、元共産軍兵士、または、アヘンの売人。

 武器とわずかな食料と地図が一緒に降ろされる。

 命令する必要はない。

 極寒の北アメリカで武器を持った50人もの中国兵が生き残る方法は限られていた。

 「・・・これで、不安材料もなくなるな」

 「潜水艦は、余分な兵士を乗せられるような艦艇ではありませんからね」

 「魚雷と水上機がないのも寂しいが、こういう作戦は気が進まないな」

 「まったくです」

 「・・・引き揚げよう」

 伊号が岸を離れていく、

 艦長は、睨み付ける中国人に対し、心を込めた敬礼をする。 

   

   

   

   

綾波

   

    


 月夜裏 野々香です。

 ミッドウェーから撤収です。

 重荷が取れたような。寂しいような。

 エセックス型2隻撃沈で時間稼ぎができたかもです。

  

  

 朝鮮半島

 土地を失う朝鮮人は、増えそうです。

 

 

 少しアヘンの状況を書きました。

 中国大陸の病巣は、日本と比較にならないほど根強く、洒落になりません。

 良いとか、悪いとかでなく、人口に比べ、

 耕作地の少ない中国大陸で生きる術というやつでしょうか。

 そして、これを書かないと、

 なぜ自殺的な上陸作戦が可能になったかも不自然になるからでしょうか。

 哀悼の意 です。

  

 

   

 

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第20話 1944/01 『もう、心で、泣いているよ』

第21話 1944/02 『面従腹背ある』

第22話 1944/03 『ツルハシとクワ』