月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

第25話 1944/06 『さだめに、はむかうニダ♪』

 第二次世界大戦、最大の激戦が、東部戦線で始まっていた。

 ソ連の大攻勢は、戦術爆撃と砲兵支援で戦線を崩壊させ、

 戦車で侵攻する力押しの電撃戦だった。

 圧倒的な戦力で縦深陣地を突き破り、防衛線をズタズタに寸断していく、

 独・伊・東欧軍は頑強に抵抗しつつも、

 ソビエト軍の戦力を殺ぎながら戦線を後退させるしかなかった。

 トーチカを守っていた土嚢は、完全に崩され、

 分厚いコンクリートも半分ほど崩れ落ちていた。

 スターリン重戦車の122mm砲弾に狙われては、トーチカも長く持たない、

 塹壕の対戦車砲が火を噴いてT34戦車の砲塔が吹き飛ぶ、

 機関砲弾が迫るソビエト軍将兵を掃討していく、

 戦場に孤立したイタリア・東欧軍は限界に達していた。

 使い捨てられたパンツァーファウストが転がり、

 ロケット弾のないパンツァーシュレックが壁に立て掛けられていく、

 トーチカは、小銃、手榴弾しか残されていない。

 正面から向かってくるT34戦車数両がトーチカに砲身を向ける。

 「・・・も、もう、駄目だ」

 「ああ・・・降伏するか」

 「降伏しても地雷原を歩かされるか弾除けで殺される」

 「弾を・・全部使うか・・・」

 「ああ・・・死ぬ前にピザとナポリタンと・・・・女・・・」

 「ワインもだ・・・・・あの娘・・・良かったな・・・」

 「ああ」

 「・・まずい・・」

 「・・・・・・・・」 ごくん!

 次の瞬間、懐かしいサイレンと爆音。

 そして、爆弾が空気を切り裂くような音がすると。

 今にも、砲撃しようとしていたT34中戦車群が爆炎に包まれ、

 車両が吹き飛んだ。

 上空にユンカース Ju87爆撃機部隊が現れ、

 孤立し疲弊しきったソ連軍を爆撃していく、

 ソビエト軍も航空戦力の前進と戦車部隊の整備補給で足並みが乱れ、

 ドニエプル川を前に攻勢の限界を迎える。

 4号戦車と3号戦車が地雷原を避けるように突入し、

 ソビエト軍は、まだ地雷原を仕掛けておらず、

 ドイツ軍の縦深防衛線の内側は、塹壕の配置も機雷源も記録され独伊軍の庭だった。

 「相手は、T34戦車だ。近接射撃で破壊する! 続け!!」

 『了解』

 急接近するドイツ戦車部隊に向け、T34戦車群が慌てて砲撃する。

 3号戦車と4号戦車は、まともに戦ってもT34戦車には勝てない、

 しかし、至近距離に近付けば条件は変わる。

 速度だけが3号戦車と4号戦車の味方だった。

 連携し、相互支援しながら戦場を駆け抜けていく、

 周囲を至近弾が掠め、炸裂片が車体を叩いた。

 3号戦車と4号戦車がT34戦車の至近距離まで回り込み、

 次々とT34戦車を撃ち抜いていく、

 そして、スターリン重戦車は、いくら強靭でも122mm砲弾は28発しかなかった。

 戦線突破で弾薬を消費し、

 さらに整備中に襲われては後手に回り、

 破壊されるか。降伏していく。

   

3号戦車                         4号戦車

 破壊されたトーチカ。

 「た、助かった・・・」

 「死ぬかと思った〜」

 要衝を守りきったイタリア軍・東欧軍の脇をドイツ戦車が颯爽と駆け抜けていく、

 性能的に優位だったT34戦車は縦深陣地突破で疲労困ぱいし、

 ソ連軍は足並みが乱れ、

 弾薬不足、補給、整備待ちで消耗し孤立していく、

 塹壕とトーチカで可能な限り防衛線を守り、

 戦車を温存していたドイツ軍の反撃は、スターリングラード戦の裏返し、

 T34戦車は、次々に捕獲され、

 ドイツ機甲師団は、爆撃で混乱したソ連軍の戦線を押し破っていく、

 ドイツ機甲師団の連携は巧みで、相互支援しながら戦線を突破し、

 迂回、包囲を繰り返し、巻き返していく、

 

 

 ソビエト軍は戦線を立て直そうと予備戦力を掻き集め、攻勢をかけようとする。

 「・・・・予備戦力を全て掻き集めろ! 最優先で、あの丘を落とすぞ!!」

 「し、将軍・・・・」

 「・・・ん?」

 砲撃で、T34戦車が破壊されていく、

 丘の稜線に大型砲塔が見え隠れしていた。

 「タイガーだ・・・・」

 「まずい・・・」

 ソ連軍が戦線を押し返そうとしたとき、

 パンターとタイガー戦車が地の利を生かして立ちはだかる。

 「・・・し、将軍。砲塔だけ出して、こっちを狙っていますよ」

 「ぬぬぅう・・・・」

 「タダでさえ、防弾の優れた戦車をあんなところに・・・卑怯者・・・」

    

パンター戦車                      タイガー戦車

 タイガー戦車は、圧倒的な火力と防御力を誇り、

 側面を3号戦車・4号戦車によってガードされていた。

 そして、タイガー戦車の側面を付けないT34戦車の反撃は挫かれていく、

 ドイツ軍の高速戦闘車両が弱りきったソ連軍の側面を切り崩し、

 ソビエト戦線を崩壊させていく、

 北方でも状況は似ていた。

 ソ連軍は、圧倒的な戦力で車掛な総攻撃をかけ、

 レーニングラードのドイツ軍前衛部隊を文字通り磨り潰した。

 ソ連軍は縦深陣地を突き進むうちに戦力が殺がれ、

 航空部隊の前進が遅れていく、

 そして、攻勢の限界に達したときドイツ軍が反撃した。

 地上部隊の侵攻は、足並みの乱れと整備補給待ちが、どうしても起こる。

 あとは、戦力比で圧倒できる火力と兵力を注ぎ込めば戦線は崩壊してしまう。

  

 

 ドイツ軍は、前進したばかりのソ連航空基地を制圧する。

 そして、ドイツ軍兵士が捕獲したシュトルモビク爆撃機、ヤク戦闘機を調べていた。

 「・・・どうだ。ソ連機?」

 「そうだな〜 いいんだけどね〜」

 「ソ連機は、簡単に撃墜できると言ってたが?」

 「それは・・・練度が低いからじゃないか。ドイツ人パイロットなら、もっと、いけそうだがな」

 「どうするんだ。これ?」

 「予備のパイロットが後方から来るから、そいつらに後方の航空基地まで、もって行ってもらうよ」

 「使うのか?」

 「東部戦線だと紛らわしいから西部戦線で使うんじゃないか。対地攻撃なら使えるだろう」

 「そういえば、迎撃機ばかり生産しているから、戦術爆撃機は、それなりに使えるかもね」

 「シュトルモビクは頑丈で良さそうだな」

 「しかし、やっぱり、使えるのは、T34戦車、スターリン重戦車だな・・・・」

 捕獲されたT34戦車、スターリン重戦車が後方に運ばれていく、

 「・・・紛らわしいが東部戦線で使いたいな」

 「どうかな、西部戦線で使って対ソ感情を悪化させるのもありかもね」

 「東部戦線は、タイガーとパンターを集められる」

 「T34戦車は、治具がないから整備不良で泣かされそうだな」

 「・・・それで、参謀本部は、なんと?」

 「いまの包囲を維持して、ソ連軍が降伏したら、ドニエプル防衛線まで後退するそうだ」

 「へぇ〜 総統らしくないけど助かるね」

 「イギリスが反攻作戦を意図しているらしくて備えたいらしい」

 「それに北方に大きな川がないから、戦力比で、バランスを取るだろうな」

 「イタリア軍と東欧軍は?」

 「半分くらいやられているから壊滅だね。再編成しないと・・・」

 「粘った方だな」

 「多分ね」

  

  

 

 

 アラスカ針葉樹林

 華寇軍の上陸と、その後の戦闘で

 住人たちは敗北が決定的となり、村を捨てて逃げ出していた。

 「女子供は、中に入っていろ!」

 洞窟を隠れ家にして寒さを逃れ、身を守る。

 「くっそぉ〜 中国人め」

 「1000人以上もいる」

 「・・・軍は、何をやっているんだ」

 「無線で、SOSを出した。きっと、救援に向かっているさ」

 「・・・騎兵隊待ちだな」

 カサッ

 !?

 「ぅ・・・・」

 背後に気配を感じたときには、意識を失っている。

 同時に何人ものアメリカ人が倒れる。

 「・・・これで、全部ある」

 「手間取らせたある」

 「でも沖にアメリカの軍艦が来たある」

 「もうすぐ、アメリカ軍が来るある」

 中国大陸で徒手での戦いが発達したのは理由がある。

 高価な医療さえ信頼できず、

 唯一の資産である健康が求められたこと、

 そして、日常生活で命の危険を感じられることにあった。

 華寇軍は、ガーランド、カービンを拾う。

 「・・・どうやって使うある?」

 「引き金を引くしかないある・・・・」

 拳法が強くても、やはり小銃が強い。

 そうでなければ華寇軍など、なりはしない。

 日本の38式小銃を何とか扱える程度。

 ガーランドやカービンの自動小銃を手に入れても簡単に使えるものでもない。

 「だけど酷いある、俺たち中国共産軍ある」

 「言葉、わからないある」

 「食料が欲しいといっても通用しないある」

 「みんな日本人悪いある」

 「俺たち被害者ある」

 「でも、白人の女は、とても良いある・・・」

 にゃああ〜 × 多数

 洞窟の中には、怯える白人女性と子供たちが残されていた。

 

 

 アラスカ全域に片道上陸した華寇軍は、戦略もなく、戦術もなく、

 生存本能のままに行動する。

 アメリカ軍は、潜水艦か、大型飛行艇で華寇軍が上陸してくると想定し、

 小隊を配備しているだけだった。

 しかし、軽巡から降りたのは1000人を越える。

 小隊規模では、住民と協力して迎撃しても数で圧倒される、

 アラスカの要衝は、守られていた。

 しかし、それ以外の場所が全て占領されるとアメリカ軍は窮する。

 放置すればルーズベルト大統領の威信と、アメリカ軍の信頼にかかわる。

 また、黄色人種にアメリカの国土を蹂躙された初めての大統領として

 後世に名を残すことにもなった。

 白人が黄色人種の領土を蹂躙し支配したことがあっても、

 黄色人種に白人の領土を蹂躙し支配させたことなどない、

 白人は、神に選ばれた選民であり、

 このような事が遭ってはならない、

 白い家、

 「おのれ〜 日本人、中国人、朝鮮人を根絶やしにしてやる」

 「大統領・・・」

 中国人や朝鮮人は、生存本能に従うより選択の道が無く、

 情状酌量の余地もある。

 しかし、アメリカ人は温情をかけるほど甘くない。

 日本軍は、旧式化した軽巡を失った代償にアメリカ国民に呪われる。

 軍艦を失っても惜しくないと思えるのは艦隊乗員が潜水艦に乗って脱出できた事にある。

 アメリカ機動部隊とアメリカ戦艦部隊は、対日戦どころか、

 上陸した華寇軍の掃討に駆り出されて動きがとれず。

 この時期のベーリング海は、霧と時化が多く、

 潜水艦は、まんまと逃げ切ってしまう。

  

  

 

 中国・朝鮮は、華寇の嵐作戦の号外が出されていた。

 漢民族、朝鮮民族が沸き返る。

 “私は、中国、漢民族だけでなく”

 “アジア人種の誇りと独立を求めて華寇作戦にこの身を投じたある・・・・・・”

 “朝鮮民族の誇りと自尊心を守る為、白人世界の圧制に立ち向かったニダ・・・・”

 “華寇軍は、アジアの誇り。アジア救世の希望ある・・・・扶黄滅洋・・・・扶華滅洋・・・”

 数多くの美辞麗句が載せられた号外が配られていく、

 白人世界の支配と圧力に屈し、

 搾取されていた漢民族・朝鮮民族がオーストラリア・アメリカ領土を制圧し、

 捨てられ、蔑められていた厄介者、鼻摘まみ者がアジア救世の英雄となり、

 祖国の英雄として、羨望の的になってしまう。

 そして、もっとマシな人間が華寇軍に参戦しようと押し寄せてくる。

 そして・・・・・・・・

 そして・・・・・・・・

 “大東亜共栄圏” “八紘一宇” “五族協和” “王道楽土”

 日本が捨てたはずの文字が漢民族と朝鮮民族の手で復活し、

 印刷されてしまう。

 「マジ?」

 「誰が書いたの?」

 「さぁ〜」

 「内地じゃ 死語だよ」

 「あはは・・・・」 orz

 金に目が眩んで捨てた標語、建前が復活し、

 もう一度、日本帝国陸軍に突き付けられる。

 

 

 赤レンガの住人たち

 「くっそぉ〜 陸軍め、海軍の軍艦を何だと思っているんだ」

 「旧式とはいえ軽巡をアラスカに突っ込ませるなど、言語道断」

 「使い道としては良いんじゃないか」

 「アメリカの新型艦艇と撃ち合っても勝てそうにないし、乗員は新型艦に乗せられる」

 「菊の紋章も削りやがって・・・・」

 「いくら、軽巡を突っ込ませる戦法がアメリカ側に気付かれ難くても・・・・」

 「問題は、次の手がないということだよ」

 「建造したばかりの輸送艦とか?」

 「まだ、4隻しか、完成してないよ。それに新型艦は、惜しい」

 「そりゃそうだ」

 「しかし、ずいぶん、軍艦が減ったな・・・」

 海軍編成表に視線が集まる。

 第一機動部隊

 空母 瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍

 軽巡 大淀

 重巡 利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海

 駆逐艦 (秋月、照月、涼月、初月) (嵐、萩風、野分、舞風)

 駆逐艦 (風雲、夕雲、巻雲、秋雲) (初風、雪風、天津風、時津風)

  

  

 第二機動部隊

 空母 大鳳、赤城、加賀

 戦艦 金剛、榛名

 重巡 筑摩、最上、三隈

 軽巡 能代

 駆逐艦 (新月、若月、霜月、冬月) (長波、巻波、高波、大波)

 駆逐艦 (早潮、黒潮、親潮、夕風) (霞、霰、陽炎、不知火)

 

 

 第三機動部隊

 空母 伊勢、日向、扶桑、山城

 重巡 妙高、那智、足柄、羽黒

 軽巡 矢矧

 駆逐艦 (清波、玉波、涼波、藤波) (朝霜、早霜、秋霜、清霜)

 駆逐艦 (磯波、浦波、敷波、綾波) (天霧、朝霧、夕霧、白雲)

  

  

 第四機動部隊

 空母 飛鷹、隼鷹、龍鳳

 戦艦 長門、陸奥

 重巡 衣笠、青葉、加古、古鷹

 軽巡 酒匂

 駆逐艦 (浦風、磯風、谷風、浜風) (村雨、五月雨、春雨、夕立)

 駆逐艦 (朝雲、山雲、夏雲、峰雲) (有明、夕暮、時雨、白露)

 

 

 第五機動部隊

 戦艦 武蔵

 空母 龍驤、瑞鳳、千代田、千歳、日進

 軽巡 阿賀野、北上、大井

 駆逐艦 島風

 駆逐艦 (雷、電、響、曙) (初春、子の日、初霜、若葉)

 駆逐艦 (早波、浜波、沖波、岸波) (初雪、叢雲、江風、涼風)

 

 空母19隻、戦艦5隻、重巡16隻、軽巡7隻、駆逐艦81隻。

 日本海軍は、アメリカ海軍を除けば、世界最強の海軍だった。

 「稼働率は?」

 「7割くらいかな、あまり使っていないし」

 「旧式軽巡の乗員を新型駆逐艦に振り分けられるし。何とかなりそうだけど・・・・」

 「華寇作戦は時間稼ぎになりそうだけど。アメリカを完全に怒らせたと思うよ」

 「どうせ、真珠湾攻撃を口実に日本人を根絶やしにするつもりなんだから、いまさらって感じだな」

 「そこまで、やるかな」

 「やるんじゃないの鬼畜米英だし、運が良くても半永久に属国だよ」

 「どっちかっていうと無分別に戦争し掛けて、華寇作戦なんてやってるから日本の方がね・・・」

 「鬼畜日本?」

 「まぁな しかし、何で戦争したんだ?」

 「陸軍の中国利権を守るためじゃないの」

 「はぁ〜」

 「そりゃ 石炭も、鉄鉱石も欲しいけどさ」

 「もうちょっと、やりようがあったんじゃないか」

 「欧米諸国は、日本の生殺与奪権を握っていたかった」

 「日本は、それに反発して戦争。自然だよ」

 「欧米の意図もわかるけどね」

 「もう少し、外交戦略で、やりようがな・・・・・」

 「いまさら言ってもね」

 「日本人が短絡過ぎたんだよ」

 「しかし、建艦計画が立たないって酷すぎない?」

 「建造するのは、潜水艦と、護衛艦、輸送船ばかり、か・・・」

 「そんなに製鉄所や鉄道や発電所が重要か? 軍艦を造れよ」

 「陸軍は、基地航空部隊を盾。機動部隊を槍という考え方のようだ」

 「もう、そういう風にしないと、戦えないだろうな」

  

  

  

 

 崇明島には、釜石製鉄所が、そのまま、引越してくる。

 建設中のものは、高炉2基だった。

 新日鐵からあぶれたグループは、ここで統合され、

 さらに増える計画だった。

 これまで日本の工場で邪魔者だった監督軍人が揚子江域に集められていく、

 中国大陸の石炭、鉄鉱石、希少金属の量を試算すれば世界有数の製鉄所になった。

 大陸鉄道で揚子江に向かう朝鮮人も、揚子江を遡る朝鮮人も、

 華寇の嵐作戦以降急速に増えていく、

 戦友という意識が日本民族、漢民族、朝鮮民族の一体感を深めてしまう。

 日中同盟は、欧米諸国が、もっとも懸念するアンゴルモアを予兆させる。

 「戦争している暇はないな・・・・」

 「ああ、まったくだ」

 「これだけの石炭、鉄鉱石、希少金属が集積されて来るなんて・・・」

 「恵まれた場所だな」

 「上海側にも橋が欲しい」

 「潰しの利く、人海戦術でやるよ。穴を掘って」

 「だ、大丈夫かな〜」

 「・・・潰しが利く」

 「アメリカは、日本人を黄色い悪魔。トロール扱いしているよ」

 「ふっ そのままじゃないか」

 「黄色いサルから、トロールに進化したかな」

 「だけど、黙示録に白い馬、赤い馬、黒い馬、青い馬は、出てくるけど、黄色はない」

 「ないんだから、いなくなっても平気だったりして」

 「ひぇええ〜」

 「順番だな、列強が支配を確保する為、富を吸い上げていく白い馬」

 「そして、貧富の格差が限界に達して、共産主義の赤い馬が発生」

 「思想の狭間で多国籍企業が私利私欲。暴利を追求して黒い馬」

 「全世界的な貧困飢餓で青白い馬が生まれる。良くできている」

 「予言って、人間性なのか?」

 「人種も、宗教にも、関係なくて、人間性だから、俺たちも、やばいかも」

 「華寇作戦なんて、もう・・・地獄行きだね」

 「黄泉に落とされる? 硫黄に苦しめられる?」

 「あ・・・黄色があったな」

 「じゃ 華寇は天罰ということで・・・」

 「神の業なら華寇軍は使徒だね」

  

 

 日本某所

 数十個の気球が上っていく、

 風船爆弾には、ドイツ製の赤外線探知機の複製を装備した爆弾が装備されていた。

 比較的大きな町や熱源に反応して投下する仕掛けだった。

 女学生は、黄色い声援を上げいた。

 自分たちが作ったもので人が死ぬと思っていないのかもしれない。

 それとも銃殺隊と同じで

 自分の撃った銃弾が致命傷になっていないと思っているのだろうか。

 「上手くいくかな」

 「さぁ〜 自己満足は、かないそうだけど」

 「自己満足で戦争されてもねぇ〜」

 「反応がな・・・・」

 「赤外線探知機のラインは良い工作機械を使っているんだぞ」

 「赤外線探知機か・・・でも町を狙うより森林火災を狙った方が良くないか」

 「和紙じゃなくてナイロンを使いたいね」

 「ナイロンか・・・まず、銅線に巻くフィルムとか、ガラスの厚みを均一にしないとな」

 「だいたい、工作機械の割り振りがなっていないよ」

 「それでも優良工作機械は、兵器じゃなくて工作機械の生産に使われている」

 「ジリ貧だけど後が無いわけじゃない」

 「ジリ貧なのが問題だよ」

 「だけど工場を見ると泣けてくるよ」

 「ドイツにがんばってもらいたいね」

 「ドイツも、日本に対して、そう思っているんじゃないか」

 「日本は、精神力と気力だけだから無理」

 「ドイツの想像力と機能性に期待したいね」

 

 

 

 霧に包まれた針葉樹林。

 僅かに温かみを増していくが日が長くなっていく、

 白夜になれば体内時計も変わってくる。

 どちらにとって、プラスになるのか、かわからないが村を臨むと、

 それらしい人影が動いている。

 そして、死体も転がっていた。

 霧が掠れたとき白人より黄色人種の死体が多い事に気付く、

 「・・・状況は?」

 「右翼のB小隊、異常なし。左翼小中隊も異常なし」

 「・・・視界が悪いな」

 「くっそぉ〜 トロールめ、村を占領しているな」

 「白人の女は、人質なんだろうな・・・」

 「黄色いサルの血で、この美しい大地を汚したくない」

 「どうする。沖のバルチモアに艦砲射撃してもらうか?」

 「なるべく、人質の救出を優先するそうだ」

 女性を救出しても、無念も、痛みも、消えない。

 しかし、救出しなければ、アメリカ政府とアメリカ軍の責任が追求される。

 「じゃ・・・」

 「向こうが多い。そして、視界は、悪い」

 「不利だな」

 「ああ」

 不意に右翼で銃声音が轟く。

 「ちっ!」

 「敵だ!!」

 寒冷地特有の響き渡るような銃声が続く、

 「・・・少尉。B小隊がグリズリーと遭遇です」

 「くっぅう〜 紛らわしい」

 村が騒ぎ出す、

 明らかに華寇軍の方が多い、

 「こんな僻地に・・・なんて、数を上陸させているんだ」

 「ちっ! 体勢を立て直すぞ。バルチモアに砲撃要請を出せ!」

 「・・・少尉! C小隊が、敵と遭遇!」

 「は、反撃しろ!」

 そして、霧は火力重視のアメリカ軍を迷わせ、

 同士撃ちを誘発させる。

 

 

 深夜のカリフォルニア海岸で人影がうごめく。

 銃声が轟くと人影が倒れた。

 ガサッ!

 「やったか?」

 「ああ・・・黒髪の白人だったよ」

 倒れているのは釣竿を持った少年。

 「なんという・・・・」

 バケツが倒れ、魚が地面を跳ねている。

 「「・・・・・・・・・・」」

 過剰に反応する自警団が組織されたりする。

 日本軍は、華寇軍を捨て駒で過疎地に上陸させ、アメリカ合衆国に苦痛を与える。

 “幽霊見たり、何とか” で、

 数百の華寇が上陸したと新聞で騒がれ、

 アメリカ西海岸を恐慌に陥れてしまう。

 怯えた白人は、僅かな気配でも銃を撃った。

 特にインディアン系と黒人に対して遠慮が無かった。

 風船爆弾による被害が伝わると、

 相互不信が増大し、有色人種の女子供にまで被害が及ぶ、

 華寇による直接被害より、

 同国人同士の誤射、過失損失が大きく社会問題化し、

 インディアン、黒人の誤解、不信、圧力、差別が大きくなると暴動が起こる。

 町の酒場

 次第に減っていく客足、

 テーブルで男たちがポーカーを遊んでいるが酒は進まず。

 表情は硬く暗かった。

 そして、みな銃を身に着けていた。

 「随分、客が減ったな、この辺は、軍の駐屯地も近いのに」

 「銃を持ち歩いて外出するのは良いが」

 「バーで遊んでいる間に母親、妻、娘がやられたら泣くぜ」

 「そういえば、隣町に行く街道沿いの家が、やられたんだよな」

 「はぁ〜 家一軒に50人も押しかけられたら銃のあるなしに関わらず。お手上げだよ」

 「中国人め」

 「朝鮮人もだ」

 「ここは大きな町だから上陸してこないと思うが、みんな怖がっている」

 「潜水艦とか、飛行艇で降ろしてしまうらしいな」

 「華寇も降伏しなくなっているらしい」

 「アラスカのことが伝わっているから、こっちも問答無用で撃つよ」

 「降伏すれば、命の保障をするのも利かないからな」

 「向こうも覚悟を決めているって感じだ」

 「もう人間扱いできないか」

 「元々、人間扱いしていなかっただろう」

 「そうだけどな。食い物がなくて襲撃して来るんだろう」

 「敵を養う義務はないよ」

 「「「・・・・」」」 ため息

 「・・・そういえば、爆弾も降ってきているんだよな」

 「どうやっているんだ」

 「さぁ〜な」

 ひゅるるるるるるぅ〜!

 という音と、爆発で何かが破壊され、

 振動が伝わってくる。

 十字路の真ん中に巨大な穴が空いて、火薬の匂いが交差点に漂う。

 海岸付近の住民は、銃を手放せず。

 特に夜間は、危険で外出が減っていく。

  

  

 華寇の嵐作戦

 日本民族が良心の呵責を覚え。

 漢民族と朝鮮民族は、好意的。

 元々 鼻つまみ者、厄介者払いで山賊やアヘンが減り、

 社会資本は増え、私財も増えていた。

 そして、大陸鉄道の経済波及効果に便乗した成金が結託して華寇作戦を煽る。

 無論、海千山千の漢民族は、そんな手に乗らない、

 しかし、稀に乗る者もいて、それだけで定員オーバーしてしまう。

 意欲の無い犯罪者や敵兵を敵地に下ろす。

 動機と意欲のある義勇兵にお金を払って雇う、とでは成果が違ってくる。

 中国の富裕層と官僚は、大義名分と美辞麗句の限りを尽くし、

 義勇兵を持ち上げて日本軍に売り渡してしまう。

 元々、男手が欲しくて女児を殺すような国であり、

 あぶれた男に白人女性とくれば見果てぬ夢だった。

 死ぬ前に一度は・・・・と、思ったりもする。

 ミットウェー島が占領地であれば楽だったが今では、かなり苦しい。

 大型飛行艇に華寇軍を載せて潜水艦で洋上補給し、

 大型飛行艇で上陸が比較的、無理がない。

 こうなるとアメリカ海軍も船団護衛に護衛艦を貼り付けておくわけに行かない、

 護衛空母を含めた対潜哨戒部隊を海岸線に巡回させ、

 日本潜水艦を索敵する。

 大洋を逃げ回る潜水艦を探し回って撃沈するのは至難の技で、

 護送船団を襲う潜水艦を撃沈するより難しい、

 騒音対策が万全でない伊号には適任の作戦だった。

 伊号

 「艦長・・・水音・・・・3・・・・・・7時の方向・・・・・左舷を11時方向に向かっているようです」

 「やれやれ、こっちが探し回らなくても、向こうから探しに来るとは・・・・」

 「面白いですね」

 「こっちが通商破壊をしようとすると逃げ回って」

 「こっちが、給油作戦をやろうとすると寄ってくるんですから」

 「・・・二式大艇との合流は、明日だが・・・どうしたものか・・・」

 「この海域に来るというのは、ばれているんですかね」

 「まさか、作戦部隊で事前に計画を練っている」

 「その時々で作っている暗号は、簡単なものだが部隊専用。計画変更以外に無電を使うことも無い」

 「やりますか?」

 「そうだな・・・」

 「僚艦もいることだし、この艦が、やられても作戦はできるだろう」

 「久しぶりです」

 「・・・艦長・・・爆発音2つ、敵艦です」

 「な、なんだぁ」

 「・・・・僚艦に先を越されたようです」

 「くそ! こっちも雷撃戦用意! 面舵70! 深度20」

 この日、アメリカの護衛艦2隻が撃沈、1隻が逃亡。

 日本の潜水艦は、その後、護衛空母の空襲を一度受けたものの生き残り、

 作戦を成功させて帰還する。

 

 

 アメリカ大陸西海岸

 いくつもの人影が荒野を徘徊していた。

 「・・・上手く撒いたある」

 「これから、どうするニダ?」

 「他の家を探して良い思いするある」

 「どうせ捕まれば殺されるある」

 「だけど広いニダ。水も、食料も少ないニダ」

 「日本人が、内陸の方が見つかりにくいと言ってたある」

 「そういえば、東海岸まで行ったら報奨金ニダ」

 「がんばって横断するある。利息生活ある」

 ・・・・・・・・・そして・・・・・・・・・・・

 「小屋を見つけたある〜♪」

 「牛と・・・アヒルも、いるニダ〜♪」

 「北京ダックある〜」

 「焼肉ニダ♪」

 アメリカ軍は、華寇軍が内陸で犯罪を起こす度に兵員を割かれ、

 対日参戦国の海岸にも華寇軍が上陸していた。

 

 


 月夜裏 野々香です。

 史実の東部戦線は、済し崩しに戦線が崩壊でした。

 『青白き炎のままに』では、耐えているようです。

 さらにソ連軍の大攻勢に対し、ドイツ軍は、そこはかとなく反撃。

 

 ノルマンディー上陸作戦は、行われませんでした。

 

 日本海軍は、華寇の嵐作戦で旧式軽巡12隻を使い捨て。

 史実のガダルカナル攻防戦で、

 小型空母2隻、戦艦2隻、重巡3隻、軽巡2隻、駆逐艦15隻、潜水艦8隻を失った代わりでしょうか。

 この戦記のガダルカナル攻防戦の損失は、小型空母1隻、軽巡1隻、駆逐艦3隻です。

 ため息が出そうな戦況です。

 

 

 華寇作戦

 「がんばって、横断しろよ〜」

 なんとなく、中国人や朝鮮人の味方をしてしまう戦記になってしまいました。

 

 

   

 

ランキングです ↓ よろしくです。

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第24話 1944/05 『華寇の嵐』

第25話 1944/06 『さだめに、はむかうニダ♪』

第26話 1944/07 『ファインダーを覗くと、他人事・・・』